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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21K |
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管理番号 | 1287058 |
審判番号 | 不服2011-10743 |
総通号数 | 174 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-06-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-05-23 |
確定日 | 2014-04-23 |
事件の表示 | 特願2004-526172「X線を方向付けるための光学デバイス及びその方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月12日国際公開、WO2004/013867、平成17年11月17日国内公表、特表2005-534921〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2003年7月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年8月2日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年1月20日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、同年5月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。 その後、当審において、平成25年4月17日付けで拒絶理由が通知され、同年10月23日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出された。 第2 本願発明について 1.本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年10月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「複数の二重湾曲光学結晶であって、その各々が少なくとも1つの格子面を有し、半径Rの少なくとも1つのローランド円及びX線源とX線標的とを結ぶX線源/標的線を形成するように前記X線源と前記X線標的とに従って位置決めされる、前記複数の二重湾曲光学結晶、を備えたX線を方向付けるための光学デバイスにおいて、 前記X線を前記X線源から前記X線標的に点対点集束させ、 前記複数の二重湾曲光学結晶の各々が、前記ローランド円の円周上を中間列とする2列以上のマトリックス状又はモザイク状に配置され、前記ローランド円の平面において2Rの半径の表面を有し、 さらに前記複数の二重湾曲光学結晶の第1二重湾曲結晶の表面に対して該第1二重湾曲結晶の前記少なくとも1つの格子面が成す角度は、前記複数の二重湾曲光学結晶の少なくとも1個の第2二重湾曲結晶の表面に対して該第2二重湾曲結晶の前記少なくとも1つの格子面が成す角度と異なり、 前記複数の二重湾曲光学結晶は、前記X線が指し向けられる表面を備え、前記複数の二重湾曲光学結晶の少なくとも1個は、ブラッグ角θ_(B)を有し、かつ前記複数の二重湾曲光学結晶の前記少なくとも1個の二重湾曲光学結晶の前記表面と角γを成して配向された格子面を備え、 前記中間列に対する上段列又は下段列に配置された前記複数の二重湾曲光学結晶は、前記二重湾曲光学結晶の中間列から前記ローランド円の平面に対して直交する方向に偏位されていることを特徴とする光学デバイス。」 2.引用刊行物 当審で通知した拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平6-102399号公報(以下「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付した。) (a)「【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、X線分析装置において、集中光学系に用いるX線モノクロメータに関するものである。 【0002】 【従来の技術】一般にX線分析装置において、X線源からのX線を試料に集中させたり、あるいは電子ビーム等を試料に照射し、該試料から放出されるX線を検出器に集中させる等の集中光学系の装置としてX線モノクロメータが知られている。このX線モノクロメータは、X線放射の中から選択したごく一部分のみを試料あるいは検出器に到達させることによって、シグナル/バックグラウンド比を向上させたり、通常は分離できない二重線の主線を分離する等のいわゆるX線の単色化を行う装置である。 【0003】この単色化を行う方法は、一般に分光結晶の回折を用いるX線エネルギーの分散を用いるものであり、ブラッグの式として知られる nλ=2dsinθ …(1) ただし、n=回折次数、λ=X線の波長、d=格子面間隔、θ=ブラッグ角によって表される関係を利用するものである。 【0004】X線束を絞ったり、あるいは集中させる目的の前記X線モノクロメータとして、使用される分光結晶の形状から、ヨハンソン式モノクロメータとヨハン式モノクロメータが知られている。始めに、ヨハンソン式モノクロメータについて説明する。図4は、ヨハンソン式モノクロメータにおける従来のヨハンソン式集中光学系の構成図である。 【0005】図4において、10はヨハンソン結晶、rはローランド円、Oは湾曲結晶面中心、O´はローランド円中心、Rはローランド円半径、2θは回折角、a、cは分光点、bは分光中心点である。ヨハンソン結晶10は、ローランド円rの直径2Rを半径とする曲面で結晶表面を削り出し、さらにローランド円rに接するように湾曲させることによって分光結晶を構成する。 【0006】このヨハンソン式モノクロメータにおいては、分光結晶の湾曲面すべてが完全にローランド円r上にあるので、分光結晶の中心部である分光中心点b、及び分光結晶の両端部である分光点a、cのそれぞれで分光されたX線は試料上あるいは検出器のスリット面上に完全集中する。図4において、点A及び点BはX線源、あるいは試料または検出器のスリット面の位置に対応し、全てローランド円r上に存在する。 【0007】例えば、点AをX線源とし、点Bを試料または検出器のスリット面とすると、点Aから放出されたX線はヨハンソン結晶10の分光中心点bにおいて回折角2θで入射し、ローランド円r上の点Bに到達する。また、ローランド円r上の点Aから放出されたX線でヨハンソン結晶10の端部の分光点aにおいて回折角2θで入射したものも、同じくローランド円r上の点Bに到達する。同様に、ローランド円r上の点Aから放出されたX線でヨハンソン結晶10の前記の端部の分光点aと反対側の分光点cにおいて回折角2θで入射したものも、同じくローランド円r上の点Bに到達する。 【0008】したがって、ローランド円r上の点Aから放出されたX線はヨハンソン結晶10によって分光され、すべてローランド円r上の点Bに到達して完全集中することになる。次に、ヨハン式モノクロメータについて説明する。図5は、ヨハン式モノクロメータにおける従来のヨハンソン式集中光学系の構成図である。 【0009】図5において、11はヨハン結晶、rはローランド円、Oは湾曲結晶面中心、O´はローランド円中心、Rはローランド円半径、2θは回折角、Wはヨハン収差である。ヨハン結晶11は、結晶面と平行に切り出した平板をローランド円の半径Rの2倍の2Rで湾曲させることによって構成される。このとき分光結晶の湾曲面のすべてが完全にローランド円r上に存在しない構成となっている。このヨハン式モノクロメータにおいては、分光されたX線は試料あるいは検出器のスリット面上に完全集中することなく近似集中する。」 (b)「【0017】 【実施例】以下、本発明の実施例を図を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明のX線モノクロメータの集中光学系の構成図であり、図2は本発明のX線モノクロメータの集中光学系を説明するための構成図である。図1及び図2において、1は非対称カット分光結晶、2は対称カット分光結晶、3は平板分光結晶、Oは湾曲結晶面中心及び対称カット分光結晶2の湾曲中心、O´はローランド円中心、P、P_(1)、P_(2)は分光中心点、Rはローランド円半径、C、C_(1)、C_(2)は円、A、Bは円Cに対する分光中心点Pからの接点、A_(1)、B_(1)は円C_(1)に対する分光中心点P_(1)からの接点、A_(2)、B_(2)は円C_(2)に対する分光中心点P_(2)からの接点、Yは非対称カット分光結晶1の湾曲中心、rはローランド円、lは平板分光結晶3に対する結晶格子面法線、l_(1)は非対称カット分光結晶1に対する結晶格子面法線、l_(2)は対称カット分光結晶2に対する結晶格子面法線、mは平板分光結晶3の結晶表面の法線、tは結晶格子面、uは結晶表面、αは切出し角度、2θは回折角である。 【0018】本発明のX線モノクロメータの集中光学系に用いる分光結晶は、前記従来のヨハン式モノクロメータにおいては1枚の結晶で構成されるのに対して、ヨハン式モノクロメータの分光結晶を結晶の切り出し角度を異ならせた複数枚の分光結晶によって構成し、さらにその複数枚の分光結晶の内、非対称カット分光結晶1は、湾曲中心Yを中心とする半径2Rで湾曲させ、また、対称カット分光結晶2は湾曲結晶面中心Oを中心とする半径2Rで湾曲させるものである。 【0019】始めに本発明の構成上の特徴点の説明上、図2の本発明のX線モノクロメータの集中光学系によって説明する。図2に示される平板分光結晶3は、分光結晶を湾曲させる以前の状態を示すものである。本発明のX線モノクロメータの集中光学系の構成では、図1に示すように平板分光結晶3は、湾曲中心Yを中心とする半径2Rで湾曲させた非対称カット分光結晶1と、湾曲結晶面中心Oを中心とする半径2Rで湾曲させた対称カット分光結晶2の構成によってなる。 【0020】平板分光結晶3は、その結晶格子の方向を示す結晶格子面tと結晶の切削方向を示す結晶表面uを有している。ここで、結晶表面uは湾曲される以前のため直線状の形状に形成されている。平板分光結晶3における結晶表面u上の任意の位置に分光中心点Pを設定し、その分光中心点Pをローランド円r上に接して配置する。この平板分光結晶3の配置によって、結晶表面u上の分光中心点Pにおける結晶表面の法線mは、ローランド円rの中心O´を通過してローランド円rの分光中心点Pと対称の位置の点Yに到達する。ここで結晶表面の法線mは、図2において破線で示されている。 【0021】また、分光中心点Pから結晶格子面tに対して垂直に延びる結晶格子面法線l_(1)は図2において二点鎖線で示されており、ローランド円rの湾曲結晶面中心Oを通過している。この構成において、結晶の切出し角度αは、結晶格子面tと結晶表面uの成す角度であり、図2において前記結晶表面の法線mと結晶格子面法線lの成す角度となる。 【0022】前記構成によって、回折角2θで前記ブラッグの式(1)nλ=2dsinθを満足しながら分光するX線は、結晶格子面法線lを反射の中心線とすると、中心が湾曲結晶面中心Oで半径が2R cosαcos θである円Cの接線となる。つまり、図1において、X線は前記円Cの接点Aあるいは接点Bから平板分光結晶3のローランド円r上の分光中心点Pに向けて放出され、さらに前記分光中心点Pから前記円Cの接点Bあるいは接点Aに向けて分光される。 【0023】したがって、結晶の切出し角度αを変えることによって、回折角2θで前記ブラッグの式(1)nλ=2dsinθを満足しながら分光するX線の通過する軌跡、つまり、分光X線のローランド円r上を通過する位置を変更することができる。次に、図2によって非対称カット分光結晶1及び対称カット分光結晶2を用いた本発明のX線モノクロメータの集中光学系の構成について説明する。 【0024】図1の非対称カット分光結晶2及び対称カット分光結晶1は、図2の直線状の平板分光結晶3を非対称カット分光結晶1については湾曲中心Yを中心とする半径2Rで湾曲させ、また、対称カット分光結晶2については湾曲結晶面中心Oを中心とする半径2Rで湾曲させて形成されるものである。対称カット分光結晶2は、ローランド円rに対してその分光中心P_(2)を湾曲結晶面中心Oとローランド円の中心O´に対して対称の位置に配置し、さらに結晶格子面法線l_(2)に対して対称に削り出されて形成される。 【0025】一方、非対称カット分光結晶1は、前記図2で示したようにその分光中心P_(1)をローランド円の中心O´と湾曲結晶面中心Oを結ぶローランド円rの中心線に対してずらした位置に配置し、さらに非対称カット分光結晶1の結晶表面の法線m_(1)に対して非対称に削り出されて形成される。なお、図1においては分光中心P_(1)をローランド円の中心O´と湾曲結晶面中心Oを結ぶローランド円rの中心線、あるいは非対称カット分光結晶1を結晶格子面法線l_(2)に対して一方の側のみ示しているが、その反対側においても設けて非対称カット分光結晶と対称カット分光結晶の複数枚の分光結晶によって一つの集中光学系が構成される。 【0026】次に、図1において対称カット分光結晶2によるX線の焦点と非対称カット分光結晶1によるX線の焦点のローランド円r上における位置関係を説明する。始めに、対称カット分光結晶2によるX線の焦点位置を説明する。X線を回折角2θでブラッグの式(1)nλ=2dsinθを満足させながら対称カット分光結晶2によって分光するには、X線は結晶格子面法線l_(2)を反射の中心線とし、中心が湾曲結晶面中心Oで半径が2Rcosθである円C_(2)の接線とならなければならない。このX線の前記円C_(2)における接点は点A_(2)及び点B_(2)あり、この接点はローランド円r上にある。 【0027】次に、非対称カット分光結晶1によるX線の焦点位置を説明する。一方、X線を回折角2θでブラッグの式(1)nλ=2dsinθを満足させながら非対称カット分光結晶1によって分光するには、X線は結晶格子面法線l_(1)反射の中心線とし、中心が湾曲結晶面中心Oで半径が2R cosαcosθである円C_(1)の接線とならなければならない。これは、分光結晶の切出し角度αによって前記結晶表面の法線m_(1)と結晶格子面法線l_(1)の間に角度差αが生じるからである。このX線の前記円C_(1)における接点は図1において点A_(1)及び点B_(1)で示され、この接点はローランド円r上にない。 【0028】前記円C_(1)の半径は2Rcosαcosθであるのに対して、前記円C_(2)の半径は2Rcosθであるため、円C_(1)と円C_(2)の半径の間には円C_(1)の半径≦円C_(2)の半径の関係がある。前記対称カット分光結晶2は、分光中心点P_(2)を同じにする従来のヨハン結晶の一部分と見ることができる。したがって、非対称カット分光結晶1によって分光されるX線がローランド円rと交差する位置は、従来のヨハン結晶によって分光されるX線がローランド円rと交差する位置よりも、ヨハンソン結晶による完全な集中光学系による位置に近づけることができ、ヨハン収差を減少させることができる。 【0029】次に、前記の非対称カット分光結晶によってヨハン収差が減少する状態を、図3の従来のヨハン結晶を用いた分光による焦点位置と本発明の非対称カット分光結晶を用いた分光による焦点位置の比較図によって説明する。図3において、Oは湾曲結晶面中心、O´はローランド円中心、aは非対称結晶の分光結晶面上の分光点、a´はヨハン結晶面上の分光点、P_(1)は非対称結晶の分光中心点、P_(2)は対称結晶の分光中心点、Rはローランド円半径、C_(1)、C_(2)は円、A、Bは円C_(1)に対する分光点aからの接点、A´、B´は円C_(2)に対する分光中心点a´からの接点、A_(2)、B_(2)は円C_(2)に対する分光中心点P_(2)からの接点、rはローランド円、l_(1)は結晶格子面法線、Dは分光点aと接点Bを結ぶ接線の延長線とローランド円rとの交点、D´は分光点a´と接点B´を結ぶ接線の延長線とローランド円rとの交点である。 【0030】図3において、分光中心点P_(1)は本発明の非対称カット分光結晶上における分光中心点であり、また分光中心点P_(2)は従来のヨハン結晶(図示していない)の分光中心点であるとともに本発明の対称カット分光結晶上における分光中心点である。また、分光点aは本発明の非対称カット分光結晶上の端部における分光点であり、分光点a´は従来のヨハン結晶(図示していない)の端部における分光点である。 【0031】従来のヨハン結晶を用いた分光X線の軌跡は、半径2Rcosθで表される円C_(2)上の接点A´と、従来のヨハン結晶(図示していない)の端部における分光点a´と、円C_(2)上の接点B´とを結ぶものである。そして、X線は前記したように接点B´の延長上でローランド円rと交差する点D´において焦点を形成し、点D´と分光中心点P_(2)に対するローランド円r上の焦点B_(2)の間でヨハン収差Wが生じることとなる。 【0032】これに対して、本発明の非対称カット分光結晶を用いた分光によるX線の軌跡は、半径2Rcosαcosθの円C_(1)上の接点Aと、分光点aと円C_(2)上の接点Bを結ぶものである。そして、分光点aと円C_(2)上の接点Bを結ぶ線分の延長上でローランド円rと交差する焦点Dは、対称カット分光結晶による分光の焦点B_(2)に一致し、ヨハン収差Wを減少させることができる。また、前記分光点aがローランド円r上の分光中心点P_(1)の場合には、焦点Dは対称カット分光結晶による分光の焦点B_(2)に完全に一致する。 【0033】したがって、本発明の切出し角度αを異ならせた複数枚の分光結晶を用いることによって、従来のヨハン結晶を用いた場合よりもヨハン収差Wを減少させることができる。前記実施例においては、分光結晶の湾曲をローランド円に沿って円筒状に湾曲させるいわゆるシングルベントによるもので説明したが、分光結晶の湾曲をローランド球に沿って球状に湾曲させるダブルベントによって実現することも可能である。」 (c)「【図1】 ![]() 【図2】 ![]() 【図3】 ![]() 【図4】 ![]() 【図5】 ![]() 」 すると、上記引用文献の記載事項から、引用文献には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「ヨハン式モノクロメータの分光結晶を結晶の切出し角度を異ならせた複数枚の分光結晶によって構成した分光結晶を用いたX線モノクロメータの集中光学系であって、 その複数枚の分光結晶の内、非対称カット分光結晶1は湾曲中心Yを中心とする半径2R(Rはローランド円半径)で湾曲させ、また、対称カット分光結晶2は湾曲結晶面中心Oを中心とする半径2Rで湾曲させるものであり、さらに、ローランド球に沿って球状に湾曲させるダブルベントであり、 非対称カット分光結晶1と対称カット分光結晶2はその結晶格子の方向を示す結晶格子面tと結晶の切削方向を示す結晶表面uを有しており、結晶の切出し角度αは結晶格子面tと結晶表面uの成す角度であって、 非対称カット分光結晶1と対称カット分光結晶2の分光中心点P_(1)、P_(2)はローランド円r上に接して配置され、 非対称カット分光結晶1と非対称カット分光結晶2は、X線を回折角2θでブラッグの式(1)nλ=2dsinθ(θ=ブラッグ角)を満足させながら分光し、 X線は円Cの接点Aから分光結晶の分光中心点Pに向けて放出され、分光中心点Pから円Cの接点Bに向けて分光される、接点AをX線源とし、接点Bを試料または検出器のスリット面とするX線モノクロメータの集中光学系。」 3.対比 (1)本願発明と引用発明との対比 (a)引用発明の「分光結晶」が、少なくとも1つの格子面を有することは技術常識であり、引用発明の「接点A」と「接点B」とを結ぶ線が、本願発明の「X線源/標的線」に相当し、また、引用発明の「分光結晶」は、「ローランド球に沿って球状に湾曲させるダブルベントであ」り、本願発明の「二重湾曲光学結晶」に相当することは明らかであるから、引用発明の「ヨハン式モノクロメータの分光結晶」の「複数枚の分光結晶によって構成した分光結晶を用いたX線モノクロメータの集中光学系であって、」「さらに、ローランド球に沿って球状に湾曲させるダブルベントであり、」「非対称カット分光結晶1と対称カット分光結晶2の分光中心点P_(1)、P_(2)はローランド円r上に接して配置され、」「X線は円Cの接点Aから分光結晶の分光中心点Pに向けて放出され、分光中心点Pから円Cの接点Bに向けて分光される、接点AをX線源とし、接点Bを試料または検出器のスリット面とするX線モノクロメータの集中光学系」が、本願発明の「複数の二重湾曲光学結晶であって、その各々が少なくとも1つの格子面を有し、半径Rの少なくとも1つのローランド円及びX線源とX線標的とを結ぶX線源/標的線を形成するように前記X線源と前記X線標的とに従って位置決めされる、前記複数の二重湾曲光学結晶、を備えたX線を方向付けるための光学デバイスにおいて、前記X線を前記X線源から前記X線標的に点対点集束させ」る構成に相当する。 (b)引用発明の「その複数枚の分光結晶の内、非対称カット分光結晶1は湾曲中心Yを中心とする半径2R(Rはローランド円半径)で湾曲させ、また、対称カット分光結晶2は湾曲結晶面中心Oを中心とする半径2Rで湾曲させるものであ」る構成は、本願発明の「前記複数の二重湾曲光学結晶の各々が、」「前記ローランド円の平面において2Rの半径の表面を有」する構成に相当する。 (c)引用発明の「対称カット分光結晶2」、「非対称カット分光結晶1」は、それぞれ、本願発明の「第1二重湾曲光学結晶」、「第2二重湾曲光学結晶」に相当し、また、引用発明の「結晶格子面tと結晶表面uの成す角度であ」る「結晶の切出し角度α」は、本願発明の「前記複数の二重湾曲光学結晶の第1二重湾曲結晶の表面に対して該第1二重湾曲結晶の前記少なくとも1つの格子面が成す角度」及び「前記複数の二重湾曲光学結晶の少なくとも1個の第2二重湾曲結晶の表面に対して該第2二重湾曲結晶の前記少なくとも1つの格子面が成す角度」に相当するから、引用発明の「ヨハン式モノクロメータの分光結晶を結晶の切出し角度を異ならせた複数枚の分光結晶」は、本願発明の「さらに前記複数の二重湾曲光学結晶の第1二重湾曲結晶の表面に対して該第1二重湾曲結晶の前記少なくとも1つの格子面が成す角度は、前記複数の二重湾曲光学結晶の少なくとも1個の第2二重湾曲結晶の表面に対して該第2二重湾曲結晶の前記少なくとも1つの格子面が成す角度と異な」る構成に相当する。 (d)引用発明の「結晶表面u」、「結晶の切出し角度α」が、それぞれ、本願発明の「前記X線が差し向けられる表面」、「角γ」に相当するから、引用発明の「非対称カット分光結晶1と対称カット分光結晶2はその結晶格子の方向を示す結晶格子面tと結晶の切削方向を示す結晶表面uを有しており、結晶の切出し角度αは結晶格子面tと結晶表面uの成す角度であって、」「非対称カット分光結晶1と非対称カット分光結晶2は、X線を回折角2θでブラッグの式(1)nλ=2dsinθ(θ=ブラッグ角)を満足させながら分光」する構成は、本願発明の「前記複数の二重湾曲光学結晶は、前記X線が指し向けられる表面を備え、前記複数の二重湾曲光学結晶の少なくとも1個は、ブラッグ角θ_(B)を有し、かつ前記複数の二重湾曲光学結晶の前記少なくとも1個の二重湾曲光学結晶の前記表面と角γを成して配向された格子面を備え」る構成に相当する。 (2)一致点 してみると、両者は、 「複数の二重湾曲光学結晶であって、その各々が少なくとも1つの格子面を有し、半径Rの少なくとも1つのローランド円及びX線源とX線標的とを結ぶX線源/標的線を形成するように前記X線源と前記X線標的とに従って位置決めされる、前記複数の二重湾曲光学結晶、を備えたX線を方向付けるための光学デバイスにおいて、 前記X線を前記X線源から前記X線標的に点対点集束させ、 前記複数の二重湾曲光学結晶の各々が、前記ローランド円の平面において2Rの半径の表面を有し、 さらに前記複数の二重湾曲光学結晶の第1二重湾曲結晶の表面に対して該第1二重湾曲結晶の前記少なくとも1つの格子面が成す角度は、前記複数の二重湾曲光学結晶の少なくとも1個の第2二重湾曲結晶の表面に対して該第2二重湾曲結晶の前記少なくとも1つの格子面が成す角度と異なり、 前記複数の二重湾曲光学結晶は、前記X線が指し向けられる表面を備え、前記複数の二重湾曲光学結晶の少なくとも1個は、ブラッグ角θ_(B)を有し、かつ前記複数の二重湾曲光学結晶の前記少なくとも1個の二重湾曲光学結晶の前記表面と角γを成して配向された格子面を備える光学デバイス。」で一致し、次の点で相違する。 (3)相違点 二重湾曲光学結晶の配置について、本願発明では、「前記複数の二重湾曲光学結晶の各々が、前記ローランド円の円周上を中間列とする2列以上のマトリックス状又はモザイク状に配置され、」「前記中間列に対する上段列又は下段列に配置された前記複数の二重湾曲光学結晶は、前記二重湾曲光学結晶の中間列から前記ローランド円の平面に対して直交する方向に偏位されている」構成であるのに対して、引用発明では、「非対称カット分光結晶1と対称カット分光結晶2の分光中心点P_(1)、P_(2)はローランド円r上に接して配置され」るのみである、すなわち、引用発明は、本願発明の「中間列」を有するのみで、上段列又は下段列を有さない点で相違する。 4.判断 (1)相違点について X線源からX線標的に点対点集束させる光学デバイスにおいて、X線標的において、できるだけ多くのX線を集束させるために、複数の湾曲光学結晶をX線源/標的線を中心として円環状に配置すること、すなわち、任意のローランド円上の湾曲光学結晶を基準にして、そのローランド円の平面に対して直交する方向の上又は下に湾曲光学結晶を配置することは、特開昭55-90847号公報(特に、第3頁左上欄第3行?左下欄第8行、第1?4図参照)、HASTINGS J B ET AL: "Local-Structure Determination at High Dilution: Internal Oxidation of 75-ppm Fe in Cu" PHYSICAL REVIEW LETTERS, 10 DEC. 1979, USA, vol. 43, no. 24, pages 1807-1810, XP-002276867(特に、第1807頁右欄第25行?第1808頁右欄第11行、FIG.1参照)、特開平6-18700号公報(特に、段落【0005】、【0010】、図1、4参照)に示されるように周知技術であるから、検出強度の向上を目的とする(引用文献の段落【0014】等参照)引用発明において、さらに検出強度を向上させるために、上記周知技術を採用して、「非対称カット分光結晶1」と「対称カット分光結晶2」の「ローランド円r」の平面に対して直交する方向の上又は下に、さらに、「非対称カット分光結晶1」と「対称カット分光結晶2」を配置し、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得ることである。 (2)効果について 本願発明が奏し得る効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。 (3)結論 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第3 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-11-20 |
結審通知日 | 2013-11-26 |
審決日 | 2013-12-09 |
出願番号 | 特願2004-526172(P2004-526172) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G21K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 村川 雄一 |
特許庁審判長 |
伊藤 昌哉 |
特許庁審判官 |
北川 清伸 神 悦彦 |
発明の名称 | X線を方向付けるための光学デバイス及びその方法 |
代理人 | 特許業務法人 谷・阿部特許事務所 |
復代理人 | 濱中 淳宏 |