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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1287067
審判番号 不服2013-8300  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-07 
確定日 2014-04-23 
事件の表示 特願2005-364333「チューブ型電気化学リアクターセル及びそれらから構成される電気化学反応システム」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月 5日出願公開、特開2007-172846〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成17年12月19日の出願であって、原審にて、平成25年2月5日付けの拒絶査定がされ、この査定を不服として、同年5月7日付けの手続補正をするとともに本件審判の請求がされている。
その後、当審にて、同年11月7日付けの拒絶理由が通知され、これに対し同年12月27日付けの意見補正がされている。

2.本願発明の認定

本願の請求項1?3に係る発明は、平成25年12月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。

【請求項1】
アノード(燃料極)材料からなるチューブ構造体に、緻密なイオン伝導体(電解質)層が形成され、その外側にカソード(空気極)が配置されていて、該チューブ構造体の端には、電解質層が形成されることなくチューブの一部がむき出し状態のアノード露出部が形成されているチューブ型セルであって、
そのチューブ構造体のチューブ外径が2mm以下であり、チューブの管厚みが0.1から0.5mmであり、1.6mm径アノードチューブの管厚み0.4mm・管長さ1cmの電気抵抗が0.1Ω以下の低抵抗値(但し、直流4端子法による還元雰囲気600℃における電気抵抗の測定値)であり、チューブ構造体の空孔率が10%以上で、かつ安定した構造を維持できる空孔率の範囲であることを特徴とするチューブ型電気化学リアクターセル。
【請求項2】
電解質材料が、Zr,Ce,Mg,Sc,Ti,Al,Y,Ca,Gd,Sm,Ba,La,Sr,Ga,Bi,Nb,Wから選ばれる2種類以上の元素の酸化物化合物である、請求項1記載のチューブ型電気化学リアクターセル。
【請求項3】
チューブ構造体を構成するアノード(燃料極)材料が、Ni,Cu,Pt,Pd,Au,Ru,Co,La,Sr,Tiから選ばれる元素の単体、酸化物、複合物(合金、酸化物)、あるいは、当該材料と請求項2記載の電解質材料の混合材料から構成される、請求項1記載のチューブ型電気化学リアクターセル。

3.当審拒絶の理由

当審にて通知した拒絶理由の一つは、
「実施例2,3には、本発明が所要の特性を有することが記載されているが、これらの実施例で使用されたチューブ構造体の製造について記載した実施例1において、アノード材料と電解質材料の混合割合も結合剤の配合割合も、また焼成後の空孔率も開示していない。
したがって、本願実施例は、実際には、当業者が追試できないものである。
よって、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」
(以下、「実施可能要件違反」という。)
というものであり、
他の一つは、
「請求項1に発明特定事項として記載された特性値は、アノード材料が限定された一実施例において測定されたものにすぎず、該特性値が、本願出願時の任意の従来材料(段落0009、請求項2?3)において得られるものとは認めらない。さらに、上記理由に示したように、該実施例には、そもそも発明特定事項である空孔率の開示がない。
したがって、請求項1及びこれを引用する請求項2?3に係る発明は、実施例以外の材料にまで拡張可能なものではないし、そもそも実施例により裏付けられたものでもない。
よって、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」
(以下、「サポート要件違反」という。)
というものである。

4.発明の詳細な説明

【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上述の従来部材の問題点を確実に解決していくことが可能で、しかも安価な従来材料でも高効率及び高性能を有するSOFC及びその新しい利用形態を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、チューブ状セルの高効率及び高性能に必要な空孔率を保持したまま、チューブサイズ及び電極構造を特定化することで、高効率及び高性能なチューブ型SOFCを提供できること、該セルを利用して、作動温度の低温化を実現できる電気化学反応システムを提供できること、等の新規知見を見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、従来材料を用いたセルにおいても、特定のサイズ及び電極構造を付加することで、作動温度の低温化を実現できるセル構造を有するチューブ型電気化学リアクターセルを提供することを目的とするものである。更に、本発明は、上記チューブ型電気化学リアクターセルを用いて作動温度の低温化(650℃以下)を実現可能にした固体酸化物燃料電池等の電気化学反応システムを提供することを目的とするものである。

【0021】
電解質材料としては、高いイオン伝導が実現される材料を使用することが必要であり、これらに用いられる材料としては、Zr,Ce,Mg,Sc,Ti,Al,Y,Ca,Gd,Sm,Ba,La,Sr,Ga,Bi,Nb,Wから選ばれる2種類以上の元素を含む酸化物化合物が望ましいものとして例示される。
【0022】
その中でも、イットリア(Y_(2)O_(3))、カルシア(CaO)、スカンジア(Sc_(2)O_(3))、マグネシア(MgO)、イッテルビア(Yb_(2)O_(3))、エルビア(Er_(2)O_(3))等の安定化剤で安定化された安定化ジルコニアやイットリア(Y_(2)O_(3))やガドリニア(Gd_(2)O_(3))、サマリア(Sm_(2)O_(3))などをドープしたセリア(CeO_(2))などが好適な例として挙げられる。なお、安定化ジルコニアは、1種又は2種以上の安定化剤により安定化されていることが好ましい。
【0023】
具体的には、安定化剤として5?10mol%のイットリアを添加したイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ドープ剤として5?10mol%のガドリニアを添加したガドリニアドープセリア(GDC)等が好適な一例として挙げられる。また、例えば、YSZの場合、イットリア含有量が5mol%未満であると、アノードの酸素イオン導電率が低下するので好ましくない。また、イットリア含有量が10mol%を超えると、同様にアノードの酸素イオン導電率が低下するので好ましくない。GDCの場合も同様である。
【0024】
チューブ構造体は、アノード材料と電解質材料の混合体から構成される複合物である必要がある。アノード材料は、Ni,Cu,Pt,Pd,Au,Ru,Co,La,Sr,Tiから選ばれる金属及び/又はこれらの元素1種類以上から構成される酸化物であって、また、触媒として機能するもので、具体的には、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)等が好適な一例として挙げられる。このうち、ニッケル(Ni)は、他の金属に比べて安価であり、かつ、水素等の燃料ガスとの反応性が十分に大きいことから、好適に用いることができる。また、これらの元素や酸化物を混合した複合物を用いることも可能である。
【0025】
ここで、アノード材料と電解質との複合物において、前者と後者の混合比率は、90:10重量%?40:60重量%の範囲が好ましい。これは、電極活性や熱膨張係数の整合性等のバランスに優れるからであり、より好ましくは、80:20重量%?45:55重量%である。一方、カソードの材料としては、酸素のイオン化に活性の高い材料が好ましく、特に、Ag,La,Sr,Mn,Co,Fe,Sm,Ca,Ba,Ni,Mgから選ばれる元素及びこれらの酸化物化合物の1種類以上から構成される材料が好適である。

【0035】
次に、上記本発明に係るチューブ型電気化学リアクターセルの作用について説明する。本発明に係るチューブ型電気化学リアクターセルは、アノード(燃料極)材料からなる中空チューブ状のアノード構造体に、緻密なイオン伝導体(電解質)層が積層されており、そして、カソード(空気極)が電解質層の外側に形成されているチューブ型セル構造を有しており、そのチューブ外径が2mm以下であり、チューブ肉厚が0.5mm以下であり、かつチューブ構造体の空孔率が10%以上である特定のセルサイズ及び電極構造を有している。
【0036】
これまで、チューブ径が2mm以下の高性能なセルをその強度を保持して実現することは極めて困難であった。しかしながら、上記チューブ型電気化学リアクターセルの構成によれば、好適な燃料ガス拡散を促す多孔質チューブが得られ、燃料ガス流量性能を特定化することで高性能チューブ型SOFCが得られる。また、チューブ型SOFCをスタック化することで、体積当たりの出力電力を高めた電気化学リアクターシステムを構築することができる。
【0037】
次に、本発明に係るチューブ型電気化学リアクターセルの好適な製造方法について説明する。本発明の方法では、図3に示されるように、アノード材料前駆体14をチューブ状に成形し、電解スラリー15を積層し、焼成し、その外側にカソードスラリー16を積層し、焼成することで、チューブ型セルが作製される。そして、本発明に係るチューブ型電気化学リアクターセルの製造方法は、基本的には、次のような工程を含んでいる。

【0039】
以下、上記各工程について詳細に説明する。初めに、アノードチューブをアノード材料と電解質材料の混合物を用いて作製する。具体的には、Zr,Ce,Mg,Sc,Ti,Al,Y,Ca,Gd,Sm,Ba,La,Sr,Ga,Bi,Nb,Wから選ばれる2種類以上の元素を含む酸化物化合物の粉末と、Ni,Cu,Pt,Pd,Au,Ru,Co,La,Sr,Tiから選ばれる金属元素あるいは酸化物の粉末に、バインダーを加えて、水で練り、得られた塑性混合物を押し出し成形法等を用いて、所定の管径、管長さ、管厚みの管状成形体を成形する。
【0040】
ここでは、セルロース系有機高分子を使用することが必要である。バインダー添加量は、アノード材料100gに対して5?50gのセルロース系有機高分子の使用が好ましく、好適には10?30gである。なお、必要に応じて、炭素粉末等の気孔生成剤を加えることが適宜可能である。得られたチューブは常温で乾燥するが、必要に応じて、?1000℃まで仮焼することも適宜可能である。これらによって、焼成後10%以上の空孔率を持つアノードチューブを得ることができる。次いで、得られたチューブ成形体に、電解質材料粉体を含むスラリーを付着させた後、乾燥させる。電解質スラリーは、例えば、電解質材料粉体、有機高分子、溶媒等を混合して作製する。

【発明の効果】
【0050】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)チューブサイズ及び電極構造を特定化することで、高効率及び高性能化の実現に必要な電極構造を有するチューブ型電気化学リアクターセルの提供ができるようになり、従来材料を用いても、650℃以下の低温域においても高い電力出力を有するセラミックリアクターを提供することができる。
(2)上記チューブ型電気化学セラミックリアクターセルを利用した、650℃以下の低温域で運転可能な、固体酸化物燃料電池等の電気化学反応システムを提供することができる。
(3)本発明の電気化学反応システムは、例えば、クリーンエネルギー源や環境浄化装置として好適に使用することができる。
(4)電解質の薄膜化及びチューブサイズの低減化をすることで、単位体積当たりの表面積を大幅に増加させることが可能であり、それによって、従来部材では困難であった運転温度の低温化を容易に実現することができる。
(5)燃料極を構成するチューブ径を2mm以下、チューブ肉厚を0.5mm以下にすることで、空孔率が10%以上のアノード構造体であっても安定した構造を維持したままの使用が可能になり、それによって、650℃以下の低温域でも高効率で高性能な運転が可能な固体酸化物燃料電池等の電気化学反応システムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
本発明では、以下の手順に従い、チューブ型電気化学リアクターセルを作製した。先ず、NiO(和光製)とCeO_(2)-10mol%Gd_(2)O_(3)(GDC)組成を有する粉末(阿南化成株式会社製)に、結合剤としてニトロセルロースを加えて、水で練り、粘土状にした後、押し出し成形法により、チューブ状成形体を成形した。得られたチューブ状成形体の管径、管厚みは、それぞれ、2mm、0.5mmであった(管外径2mm、管内径1mm)。
【0053】
次いで、得られたチューブ状成形体の一端の開口を酢酸ビニルにより封止した後、この管を、GDC組成の固体電解質を含むスラリー中に浸漬して電解質層形成層をディップコーティングし、電解質付きチューブ状成形体とした。この際、多孔質アノード管の他端を5mmむき出し状態とし、露出部とした。
【0054】
次いで、このチューブ状成形体を、乾燥後、1450℃で6時間焼成し、電解質付きアノードチューブコイルとした。次いで、容器内にカソード材料としてLaSrCoFeO_(3)(日本セラミックス株式会社製)と電解質材料であるGDCを含むペーストを電解質層面に塗布し、100℃で乾燥させた後、1000℃で1時間焼成した。これにより、チューブ型電気化学リアクターセルを得た。図4に、電子顕微鏡写真を示した。図4から分かるように、アノードチューブは、好適な多孔質を有する構造体となっている。また、セル完成後のチューブ径は1.6mm、管厚みは0.4mmであった。
【実施例2】
【0055】
実施例1で得られたチューブアノードについて、電解質をコートせずに、1450℃で6時間焼成し、直流4端子法を用いて、還元雰囲気での電気抵抗を測定した。この測定結果を用いて、アノードチューブの最適サイズを決定することができる。還元雰囲気でのアノードチューブ1cmの電気抵抗と管厚みの関係を図5に示す。1.6mm径チューブの管厚みは0.4mm付近において、アノード側の集電において問題のない十分な低抵抗値(0.1Ω以下)を示している。一方で、管厚みを薄くしていくと、抵抗値が増大していくため、使用運転温度も考慮して管厚みを決める必要がある。図に示すように、600℃運転であれば、管厚み0.4mmが好適であり、更に、低温側ではアノード管厚みを薄くすることで集電効率を損なうことなく、更なる性能向上が期待できることが示された。
【実施例3】
【0056】
実施例1で得られたチューブ型電気化学リアクターセルを、図6のように、サンプルホルダーに配置した。Lはカソードの長さであり、セルの有効長さである。アノード側の集電には、アノード露出部よりPt集電ワイヤー10によってなされ、カソード側はPt集電ワイヤー10をカソードに巻き付けて銀ペーストによって固定した。ここで、チューブ径は1.6mmであった。この試験においては、燃料ガスとして室温で水蒸気飽和させた水素5cc/minと、窒素20cc/minを混合した燃料ガス5をアルミナチューブ13に導入し、また、空気極側は開放とした。
【0057】
まず、セルの始動特性を見るために、450℃において初期セルを始動させ、開電圧を測定した。図7に示したように、約2分という短時間でアノードが還元され、セリア系材料にもかかわらず、1V以上の発電性能を示した。また、電圧電流特性評価は、反応炉温度450、500、550℃で行い、それぞれの温度において、V-I特性評価試験を行った。図8に、V-I特性結果を示す。
【0058】
図8に示すように、550℃において0.8W/cm^(2)を超える結果となった。これは、同じ材料系としてはこれまでの世界最高レベル0.5W/cm^(2)を超えており、本発明に係るチューブ型電気化学リアクターセルの高い性能を示した結果といえる。また、この結果は、新材料によって達成された性能と同等のものであり、材料を変えることで、更なる性能向上が期待できることが示された。

【図5】


5.実施可能要件違反について

(1)発明の詳細な説明には、本発明の具体例として、実施例1?3が記載されているが、これらの実施例は、実施例1で、チューブ型電気化学リアクターセルを製造し、実施例2で、当該チューブ型電気化学リアクターセルのチューブアノードの特性を測定し、実施例3で、当該チューブ型電気化学リアクターセルの性能を測定したものであるから、実質的に一つの実施例である。
そして、請求項1に係る発明の発明特定事項である「1.6mm径アノードチューブの管厚み0.4mm・管長さ1cmの電気抵抗が0.1Ω以下の低抵抗値(但し、直流4端子法による還元雰囲気600℃における電気抵抗の測定値)」は、この実施例2の測定結果(段落0055,図5)により裏付けられたものであり、また、本発明の効果である「650℃以下の低温域においても高い電力出力」(段落0050)も、この実施例3の測定結果により裏付けられたものであるから、発明の詳細な説明の記載が、当業者にとって、請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるというためには、実施例1の記載が、当業者にとって、チューブ型電気化学リアクターセルを製造することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、実施例2,3の追試が可能である必要がある。

(2)そこで検討するに、実施例1には、チューブ型電気化学リアクターセルの基体となるアノードチューブについて、アノード材料であるNiOと電解質材料であるGDCの各粉末に結合剤としてのニトロセルロースを加えて混錬成形し乾燥し焼成したものであることが記載されているが、アノード材料と電解質材料の混合割合や、請求項1に係る発明の発明特定事項でもある焼成後の空孔率が記載されていない。
この混合割合と空孔率は、アノードチューブの電気抵抗を決定する因子であるばかりでなく、同様に実施例1に記載されていない電解質層厚、カソード厚及びカソード空孔率と共に、チューブ型電気化学リアクターセルの電力出力を決定する因子でもあるから、実施例2に記載された電気抵抗と実施例3に記載された電力出力から、逆にそれらを決定する因子であるこの混合割合と空孔率を決めるには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を要する。
したがって、実施例1の記載が、当業者にとって、チューブ型電気化学リアクターセルを製造することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者にとって、請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。

(3)請求人は、意見書で、発明の詳細な説明の「アノード材料と電解質との複合物において、前者と後者の混合比率は、90:10重量%?40:60重量%の範囲が好ましい。・・・より好ましくは、80:20重量%?45:55重量%である」(段落0025)や、「バインダー添加量は、アノード材料100gに対して5?50gのセルロース系有機高分子の使用が好ましく、好適には10?30gである。・・・これらによって、焼成後10%以上の空孔率を持つアノードチューブを得ることができる」(段落0040)との記載を見れば、本願出願時の技術常識から、実施例1の混合比率や空孔率は、格別の試行錯誤なく決定できる旨主張している。
しかしながら、段落0025記載の混合比率は、広範囲にわたるものであり、また、段落0040記載のバインダー添加量は、アノード材料100gに対する相対量であるが、実施例1には、バインダー添加量もアノード材料の使用量も記載されていないから、結局、バインダーの配合割合を推定することもできない。そして、発明の詳細な説明の「これまでチューブ径が2mm以下の高性能なセルをその強度を保持して実現することは極めて困難であった」(段落0036)との記載を見れば、むしろ本願出願時の技術常識から、実施例1の混合比率や空孔率を決定することは、強度の点からも、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を要することであると解される。
したがって、上記主張は採用できない。

6.サポート要件違反について

(1)発明の詳細な説明には、本発明の解決しようとする課題が、従来材料を用いたチューブ型電気化学リアクターセルによって、作動温度の低温化(650℃以下)を実現することである(段落0008?0009)と記載されている。
そして、本発明の具体例とされる実施例1?3には、市販されているNiO,GDC及びLaSrCoFeO_(3)を用い、請求項1に係る発明の発明特定事項であるチューブ構造体の外径と管厚み並びにアノードチューブの電気抵抗を満足するチューブ型電気化学リアクターセルが、550℃において0.8W/cm^(2)を超える電力出力を示すことが記載されている。

(2)ところが、「5(2)」で述べたように、上記実施例は、請求項1に係る発明の発明特定事項であるチューブ構造体(=アノードチューブ)の空孔率が不明であるから、請求項1に係る発明がその課題を解決したことを、上記実施例により裏付けられていると解することはできない。
また、仮に、その余の発明の詳細な説明の記載や技術常識から見て、上記実施例のアノードチューブの空孔率が少なくとも10%以上であり、請求項1に係る発明がその課題を解決したことを、上記実施例により裏付けられていると解することができるとしても、請求項1及びこれを引用する請求項2,3の記載は、次の(3)(4)の点で、上記実施例から拡張可能なものではなく、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。

(3)上記実施例のアノードチューブは、アノード材料であるNiOに電解質材料であるGDCを混合し焼成して得られた酸化物複合材料であり、請求項1に係る発明の発明特定事項である電気抵抗もその効果である出力性能も、該酸化物複合材料において測定されたものである。そして、発明の詳細な説明には、「チューブ構造体は、アノード材料と電解質材料の混合体から構成される複合物である必要がある」(段落0024)と記載され、「これは、電極活性や熱膨張係数の整合性等のバランスに優れるから」(段落0025)であると記載されている。
これに対し、請求項3には、チューブ構造体が、アノード材料のみから構成されても良いことが記載され、またそのアノード材料が、酸化物だけでなく金属でも良いことが記載されている。
してみると、当業者にとって、酸化物と金属では、電気抵抗や電極活性や熱膨張係数などの特性も、焼成温度などの製造条件も異なるのは技術常識であるから、チューブ構造体をアノード材料のみ、さらには金属で構成したチューブ型電気化学リアクターセルについてまで、上記実施例と同様の作用効果を奏すると認識することはできない。
したがって、請求項3の記載は、当業者にとって上記実施例から拡張可能なものではない。

(4)上記実施例のアノードチューブにおいて測定された電気抵抗(図5)を見ると、上記実施例で用いた酸化物複合材料では、管厚みが0.1mmになるとアノード側の集電において問題のない十分な低抵抗値(0.1Ω以下)を示さないことが記載されている。そして、発明の詳細な説明には、管厚みが0.1mmのチューブ型電気化学リアクターセルの構成材料や性能について記載も示唆もない。
これに対し、請求項1には、チューブの管厚みの下限が0.1mmであることが記載されている。
してみると、当業者にとって、管厚みが小さくなれば、電気抵抗だけでなく、強度の点からも、構成材料の選択が困難なことは自明であるから、チューブの管厚みが0.1mmのチューブ型電気化学リアクターセルについてまで、上記実施例と同様の作用効果を奏すると認識することはできない。
したがって、請求項1の記載は、当業者にとって上記実施例から拡張可能なものではない。

7.むすび

以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないし、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、当審拒絶の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-24 
結審通知日 2014-02-26 
審決日 2014-03-11 
出願番号 特願2005-364333(P2005-364333)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H01M)
P 1 8・ 537- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 知絵  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 大橋 賢一
小川 進
発明の名称 チューブ型電気化学リアクターセル及びそれらから構成される電気化学反応システム  
代理人 須藤 政彦  
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