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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録(定型) C09D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録(定型) C09D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録(定型) C09D
管理番号 1287110
審判番号 不服2013-2315  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-06 
確定日 2014-05-13 
事件の表示 特願2007-200319「活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月 6日出願公開、特開2008- 50600、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年8月1日の出願であって、平成24年5月21日付けで拒絶理由が通知され、同年7月13日付けで意見書が提出され、同年10月29日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という)がされ、これに対し、平成25年2月6日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において同年10月10日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」)が通知され、同年12月24日付けで手続補正書及び意見書が提出され、さらに平成26年3月19日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」)が通知され、同年3月26日付けで手続補正書及び意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、平成26年3月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものと認められる。
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
2-フェノキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、N-ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、N-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、および、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、からなる群より選択される、1種以上の環状構造を有する単官能モノマーを20重量%以上50重量%以下、
トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールFジアクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート、プロポキシ化イソシアヌル酸ジアクリレート、および、ジメチロールートリシクロデカンジアクリレートからなる群より選択される、1種以上の2官能モノマーを40重量%以上70重量%未満、
沸点が150℃以上250℃以下の有機溶剤を0.5重量%以上7重量%未満含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ。」

第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項:1?4
・引用文献等:1?3


引用文献1.国際公開第2006/129530号
引用文献2.特開2006-274200号公報
引用文献3.特開2006-036932号公報

2.原査定の理由の判断
(1)引用文献の記載事項
ア 引用文献1には、以下の記載がある。
(ア)
「 請求の範囲
[1]
少なくとも単官能モノマー、二官能モノマー及び光重合開始剤を含有する紫外線硬化型インクジェットインクにおいて、
該単官能モノマーを35質量%以上含有し、該光重合開始剤を前記単官能モノマーの20質量%以上含有することを特徴とする紫外線硬化型インクジェットインク。
[2]
実質的に溶剤を含んでいないことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の紫外線硬化型インクジェットインク。」

(イ)
「[0040]
(実質的に溶剤を含まない紫外線硬化型インク)
本発明の紫外線硬化型インクは、実質的に溶剤を含まないことが好ましい。ここで、『実質的に溶剤を含まない』とは、インク全質量において、含有される溶剤の含有量が7質量%未満であることを意味するが、好ましくは、5質量%未満であり、更に好ましくは、1質量%未満である。また、本発明に係る溶剤とは、当該業者周知の化合物、例えば、溶剤ポケットハンドブック(平成6年刊、有機合成化学教会編)等に記載の種々の溶剤が挙げられる。

[0051]
通常、顔料分散時の分散媒体としては、溶剤または重合性化合物を用いて行うが、本発明のインクにおいては、無溶剤であることが好ましい。
[0052]
溶剤を含有させると硬化画像中に残存して、耐溶剤性の劣化、残留する溶剤のVOCの問題が生じる場合がある。よって、本発明で用いる分散媒体は、溶剤を用いずに、重合性化合物、その中でも最も粘度の低いモノマーを選択することが、顔料分散適性上好ましい。」

(ウ)
「[0075]

実施例
[0076]
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、文中において、「部」とは「質量部」を表す。
[0077]
実施例1
以下に従って、紫外線硬化型のインクジェットインクを調製した。
[0078]
《インクジェットインクの調製》
〈インク1(シアン)の調製〉
(顔料)
C.I.Pigment Blue 15:3 4部
(単官能モノマー)
KAYARAD R-128H 5部
フェノキシエチルアクリレート 20部
イソボルニルアクリレート 5部
(二官能モノマー)
KAYARAD TPGDA 44部
(三官能モノマー)
トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート 13部
(光重合開始剤)
Irgacure907 4部
(分散剤)
アジスパーPB822 1部
上記の構成成分を用いてシアンインクを作製した。

[0083]
表中で用いている化合物の内容を下記に示す。
[0084]
KAYARAD R-128H
KAYARAD TPGDA:トリプロピレングリコールジアクリレート
…」

イ 引用文献2には、以下の記載がある。
(ア)
「【0184】
-溶剤-
本発明のインク組成物には、被記録媒体との密着性を改良するため、極微量の有機溶剤を添加することも有効である。
溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-プロパノール、1-ブタノール、tert-ブタノール等のアルコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピルなどのエステル系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、などが挙げられる。
この場合、耐溶剤性やVOCの問題が起こらない範囲での添加が有効であり、その量はインク組成物全体に対し0.1?5質量%が好ましく、より好ましくは0.1?3質量%の範囲である。」

(イ)
「【0189】
本発明のインク組成物は、インクジェット記録用のインクとして好適に用いることができる。インクジェット記録方式には特に制限はなく、…」

ウ 引用文献3には、以下の記載がある。
「【0053】
本発明のインクジェット記録用インクには、その他の添加剤として、溶剤やポリマー、表面張力調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、pH調整剤等の公知の添加剤を併用することができる。
【0054】
溶剤は、インクの極性や、粘度、表面張力、着色材料の溶解性・分散性の向上、導電性の調整および印字性能の調整などのために使用できる。前記溶剤としては、水、低沸点有機溶剤、高沸点有機溶媒が挙げられるが、先に述べた理由により、溶剤を用いる場合においても非水系の溶剤を用いることが好ましい。
低沸点有機溶剤は沸点が100℃以下の有機溶剤である。低沸点有機溶剤は環境汚染を考慮すると使用しないことが望ましいが、使用する場合は安全性の高いものを用いることが好ましい。安全性が高い溶剤とは、管理濃度(作業環境評価基準で示される指標)が高い溶剤であり、100ppm以上のものが好ましく、200ppm以上が更に好ましい。具体的には、例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、炭化水素などが挙げられ、具体的には、メタノール、2-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
【0055】
高沸点有機溶媒は沸点が100℃より高い有機溶剤である。高沸点有機溶媒は沸点が150℃以上のものが好ましく、170℃以上のものがより好ましい。例えば、多価アルコール類、脂肪族カルボン酸のエステル類、リン酸エステル類、炭化水素などが挙げられ、具体的には、ジエチレングルコール、トリメチロールプロパン、フタル酸ジブチル、安息香酸-2-エチルヘキシル、アルキルナフタレンなどが挙げられる。これらは、目的に応じ、常温で液体、固体の何れのものも使用できる。
【0056】
溶剤は一種類でも複数組み合わせて使用しても良い、使用量は0?20質量%が好ましく、0?10質量%が更に好ましく、実質的に含まないのが特に好ましい。ここで実質的に含まないとは、不可避不純物の存在を容認することを意味する。」

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、実施例1(摘示ア(ウ))等の記載からみて、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「(単官能モノマー)
フェノキシエチルアクリレート 20質量部
イソボルニルアクリレート 5質量部

(二官能モノマー)
トリプロピレングリコールジアクリレート 44質量部
を含有する紫外線硬化型インクジェットインク」

(3)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「『単官能モノマー』としての『フェノキシエチルアクリレート 』」、「『単官能モノマー』としての『イソボルニルアクリレート』」、「『二官能モノマー』としての『トリプロピレングリコールジアクリレート』」及び「紫外線硬化型インクジェットインク」は、それぞれ、本願発明の「『環状構造を有する単官能モノマー』としての『2-フェノキシエチルアクリレート 』」、「『環状構造を有する単官能モノマー』としての『イソボルニルアクリレート』」、「『2官能モノマー』としての『トリプロピレングリコールジアクリレート』」及び「活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ」に相当する。

イ 摘示ア(ウ)の[0077]及び[0078]に照らせば、引用発明は「フェノキシエチルアクリレートおよびイソボルニルアクリレートからなる2種の単官能モノマーを26重量%([(20+5)×100/(4+5+20+5+44+13+4+1)]=[25×100/96]重量%、小数点以下四捨五入)、トリプロピレングリコールジアクリレートからなる1種の二官能モノマーを46重量%([44×100/96]重量%、小数点以下四捨五入)含有する紫外線硬化型インクジェットインク」といえる。

ウ 上記ア及びイから、本願発明と引用発明とは、
「2-フェノキシエチルアクリレートおよびイソボルニルアクリレートからなる2種の環状構造を有する単官能モノマーを26重量%、
トリプロピレングリコールジアクリレートからなる1種の2官能モノマーを46重量%含有する活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点
本願発明は、「沸点が150℃以上250℃以下の有機溶剤を0.5重量%以上7重量%未満含有する」のに対して、引用発明はそのようなものでない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
上記相違点について
引用文献1において、段落[0051]及び[0052](摘示ア(イ))には、紫外線硬化型インクは無溶媒であることが好ましい旨記載されているものの、段落[0040](摘示ア(イ))の『実質的に溶剤を含まない』とは、インク全質量において、含有される溶剤の含有量が7質量%未満であることを意味する…」との記載から、溶剤の含有量を7質量%未満とする旨記載されているといえる。
しかしながら、引用文献1には、前記「溶剤の含有量を7質量%未満とする」溶剤を「沸点が150℃以上250℃以下の有機溶剤」とすることについては何ら記載されておらず、またそのような有機溶剤を使用することにより、本願明細書段落[0029]及び[0030]に記載された、「沸点が150℃より低いとヘッド内での乾燥が早く、粘度の上昇に伴いノズルから安定して吐出しなくなってしまうこと、また沸点が250℃以上になるとUV照射後にも有機溶剤が残存し、密着性の低下を招いてしまうこと、さらに0.5重量%未満の場合、インキの低粘度化、及び濡れ広がり性の向上は行えず、7重量%以上の場合、UV照射しても有機溶剤が揮発せず硬化不良、及び基材に対する密着不良を生じてしまうこと」といった問題のない紫外線硬化型インクジェットインキとすることについては記載も示唆もない。
したがって、引用発明において、引用文献1の段落[0040]から、「溶剤の含有量を7質量%未満」としても、該溶剤として、沸点が150℃以上250℃以下の有機溶剤を選択するとともに、該有機溶剤を0.5重量%以上7重量%未満含有することにより、ヘッド内での乾燥が早く、粘度の上昇に伴いノズルから安定して吐出しなくなり、UV照射後にも有機溶剤が残存し、密着性の低下を招いてしまい、インキの低粘度化、及び濡れ広がり性の向上は行えずUV照射しても有機溶剤が揮発せず硬化不良、及び基材に対する密着不良を生じてしまうことのない、紫外線硬化型インクジェットインクとなすことは、当業者が引用文献1の記載に基づいて容易になし得たこととはいえない。
また、引用文献2,3から、引用発明において、沸点が150℃以上250℃以下の有機溶剤を用いることによって、斯かる特性を有する紫外線硬化型インクジェットインキを得ることを当業者が容易になし得たものとはいえない。

(5)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項2?4に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、同様に、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由1及び2について
1.当審拒絶理由1の概要
1)この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


[1]理由1
本願明細書【0067】には,顔料分散体の製造について記載されているが,そのうち「顔料分散体A」には,顔料が含まれる旨の記載がなされていない。
よって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとすることができない。

[2]理由1?2

本願明細書の記載からは,「環状構造を有する単官能モノマーを20重量%以上50重量%以下」含有することが,本願発明の課題を解決するために必須の事項であることが示されているものとすることができない。

「2官能モノマーを40重量%以上70重量%未満」含有することについても,本願発明の課題を解決するために必須の事項であることが示されているものとすることもできない。
したがって,本願発明は明細書に記載された発明であるともいえないし,また,本願発明について,発明の詳細な説明において当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとすることもできない。

2.当審拒絶理由2の概要
1)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


[1]理由1/請求項1?4
請求項1には、環状構造を有する単官能モノマーとして同一の物質が二度繰り返し記載されている箇所があり明確でない。

3.当審拒絶理由1及び2の判断
(1)請求人による平成25年12月24日付け意見書における顔料の例示及び本願明細書【0067】の「顔料…を投入し」との記載に基づく釈明により、発明の詳細な説明の記載は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとすることができる。
よって、当審拒絶理由1[1]は解消した。

(2)平成25年12月24日付け手続補正書によって、本願の請求項1に係る発明は、課題を解決していない発明を含まないものとなったから、発明の詳細な説明に記載された発明であり、また発明の詳細な説明の記載は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとすることができる(なお、平成26年3月17日付け応対記録に添付した、請求人が平成26年3月14日付けファクシミリにて提出した実験成績証明書も参照のこと。)。
よって、当審拒絶理由1[2]は解消した。

(3)平成26年3月26日付け手続補正書によって、本願の請求項1において、同一物質の重複は排除されたため、請求項1に係る発明は明確となった。
よって、当審拒絶理由2[1]は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-04-30 
出願番号 特願2007-200319(P2007-200319)
審決分類 P 1 8・ 121- WYF (C09D)
P 1 8・ 536- WYF (C09D)
P 1 8・ 537- WYF (C09D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 桜田 政美  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 山田 靖
菅野 芳男
発明の名称 活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ  

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