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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1287216
審判番号 不服2013-16548  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-27 
確定日 2014-05-01 
事件の表示 特願2006- 3925「導電ペースト及びそれを用いた積層型セラミック素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月26日出願公開、特開2007-188963〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年1月11日の出願であって、平成24年2月2日付けの拒絶理由通知(最初)に対して、同年4月9日に手続補正がなされるとともに意見書が提出され、同年10月5日付けの拒絶理由通知(最後)に対して、同年12月14日に手続補正がなされるとともに意見書が提出されたが、平成25年5月17日付けで平成24年12月14日になされた手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年8月27日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同日に手続補正がなされ、その後、同年10月25日付けで審尋がなされ、同年12月27日に回答書が提出されたものである。

2.補正の却下の決定
【補正の却下の決定の結論】
平成25年8月27日になされた手続補正を却下する。

【理由】
(1)補正の内容
平成25年8月27日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし3を、補正後の特許請求の範囲の請求項1及び2に補正するものであり、補正前後の請求項は、以下のとおりである。

(補正前)
「 【請求項1】
機能層となるべきセラミックグリーンシート上に、Ag又はCuを主金属成分として含み、溶剤と、バインダーと、WO_(3)及びMoO_(3)の少なくとも一方からなる添加剤とをさらに含む、電極層となるべき導電ペーストを塗布する工程と、
前記導電ペーストが塗布された前記セラミックグリーンシートを複数枚積層した積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成して、機能層と電極層とが交互に積層された素体を形成する工程と、を備え、
前記積層体を焼成する工程の際、前記導電ペースト中の前記主金属成分と前記添加剤とを結合させて化合物を形成する、積層型セラミック素子の製造方法。
【請求項2】
前記添加剤の添加量が0.1wt%以上30wt%以下である、請求項1に記載の積層型セラミック素子の製造方法。
【請求項3】
前記セラミックグリーンシートはPb酸化物を主成分の一つとする圧電磁器を含む、請求項1又は2に記載の積層型セラミック素子の製造方法。」

(補正後)
「 【請求項1】
圧電層となるべき、Pb酸化物を主成分の一つとする圧電磁器を含むセラミックグリーンシート上に、Agを主金属成分として含み、溶剤と、バインダーと、WO_(3)及びMoO_(3)の少なくとも一方からなる添加剤とをさらに含む、電極層となるべき導電ペーストを塗布する工程と、
前記導電ペーストが塗布された前記セラミックグリーンシートを複数枚積層した積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成して、圧電層と電極層とが交互に積層された素体を形成する工程と、を備え、
前記積層体を焼成する工程の際、前記導電ペースト中の前記主金属成分と前記添加剤とを結合させて化合物を形成する、積層型圧電素子の製造方法。
【請求項2】
前記添加剤の添加量が0.1wt%以上30wt%以下である、請求項1に記載の積層型圧電素子の製造方法。」

(2)補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると、以下のとおりである。

(補正事項a)
(補正事項a-1)
補正前の請求項1の「機能層となるべきセラミックグリーンシート上に、Ag又はCuを主金属成分として含み、溶剤と、バインダーと、WO_(3)及びMoO_(3)の少なくとも一方からなる添加剤とをさらに含む、電極層となるべき導電ペーストを塗布する工程と、」を、補正後の請求項1の「圧電層となるべき、Pb酸化物を主成分の一つとする圧電磁器を含むセラミックグリーンシート上に、Agを主金属成分として含み、溶剤と、バインダーと、WO_(3)及びMoO_(3)の少なくとも一方からなる添加剤とをさらに含む、電極層となるべき導電ペーストを塗布する工程と、」と補正すること。

(補正事項a-2)
補正前の請求項1の「前記積層体を焼成して、機能層と電極層とが交互に積層された素体を形成する工程と、を備え、」を、補正後の請求項1の「前記積層体を焼成して、圧電層と電極層とが交互に積層された素体を形成する工程と、を備え、」と補正すること。

(補正事項a-3)
補正前の請求項1の「積層型セラミック素子の製造方法。」を、補正後の請求項1の「積層型圧電素子の製造方法。」と補正すること。

(補正事項b)
補正前の請求項2の「積層型セラミック素子の製造方法。」を、補正後の請求項2の「積層型圧電素子の製造方法。」と補正すること。

(補正事項c)
補正前の請求項3を削除すること。

(3)新規事項追加の有無及び補正の目的の適否についての検討
(3-1)補正事項aについて
(3-1-1)補正事項a-1について
補正事項a-1は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「機能層」、「セラミックグリーンシート」及び「主金属成分」について、各々「圧電層」、「Pb酸化物を主成分の一つとする圧電磁器を含む」及び「Ag」と限定的に減縮する補正である。
そして、この補正は、本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。また、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を「当初明細書等」という。)の【0018】、【0020】及び【0021】段落の記載に基づく補正である。
したがって、補正事項a-1は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(以下「特許法第17条の2第3項」という。)に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしており、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(以下「特許法第17条の2第4項」という。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(3-1-2)補正事項a-2について
補正事項a-2は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「機能層」について、「圧電層」と限定的に減縮する補正である。
そして、この補正は、当初明細書の【0018】段落の記載に基づく補正である。
したがって、補正事項a-2は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしており、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(3-1-3)補正事項a-3
補正事項a-3は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「積層型セラミック素子」について、「積層型圧電素子」と限定的に減縮する補正である。
そして、この補正は、当初明細書の【0018】段落の記載に基づく補正である。
したがって、補正事項a-3は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしており、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(3-2)補正事項bについて
補正事項bは、補正前の請求項2に係る発明の発明特定事項である「積層型セラミック素子」について、「積層型圧電素子」と限定的に減縮する補正である。
そして、この補正は、当初明細書の【0018】段落の記載に基づく補正である。
したがって、補正事項bは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしており、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(3-3)補正事項cについて
補正事項cは、特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものである。

(3-4)新規事項追加の有無及び補正の目的の適否についてのまとめ
以上、検討したとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものである。

(4)独立特許要件について
(4-1)はじめに
上記(3)において検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項(以下「特許法第17条の2第5項」という。)において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、検討する。

(4-2)補正後の請求項1に係る発明
本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下「補正後の発明」という。)は、平成25年8月27日になされた手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される上記2.(1)の補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(4-3)引用刊行物に記載された事項及び発明
(4-3-1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に日本国内において頒布された特開昭60-133717号公報には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審において付与したものである(以下、同じ。)。

「[発明の概要]
本発明は、電極物質及び誘電体物質の焼結に充分な温度で焼成された電極及び誘電体物質の交互の層からなる多層コンデンサの電極製造用の金属化組成物であつて:
(a) 上記誘電体物質の焼結温度より低い固相線を有する貴金属、貴金属の固溶体または貴金属の混合物;及び
(b) 上記誘電体物質の焼結温度以下で実質的に上記(a)に溶解して溶液を形成する卑金属または卑金属のイオンを含む無機物質;
から本質的に成り、
上記(a) の割合は、電極物質及び誘電体物質の焼結により得られる(a)と卑金属または卑金属イオンとの固溶体の固相線が(a) の固相線より高く且つ誘電体物質の焼結温度より少なくとも10℃高くなるような割合である、上記金属化組成物を提供する。
本発明は第2に上記組成物に有機媒質中への分散物を提供する。
本発明は第3に単層及び多層コンデンサの製造方法であつて、(1) 有機バインダ中に分散した誘電体物質粉末の多数の層に上記分散物の層を適用し、(2) 電極を印刷した誘電体物質の多数の層を積層して、誘電体物質と厚膜組成物との交互の層から成る集合体を形成し、及び(3) 、この集合体を焼成して、有機媒質及び有機バインダを除去し且つ貴金属と誘電体物質を焼結することを含む、上記コンデンサの製造方法を提供する。
本発明は更に、誘電体物質と上記金属化組成物の交互の焼成層を含む単層及び多層のコンデンサをも提供する。
[構成の詳細な説明]
A.貴金属
本発明の電極金属化のために好ましい導電性物質はパラジウム、銀及びこれらの全ての割合での混合物及び固溶体である。
貴金属成分の粒子は無機卑金属成分と同様に、それらのペーストが通常のスクリーン印刷に適用でき及び粒子が容易に焼結できる程度に小さくなければならない。更に、誘電体グリーンテープからのコンデンサの製造において、印刷電極中に粗大な粒子が存在するとそのシートをだめにするので避けねばならない。一般に、少なくとも90%の貴金属と添加酸化物粒子は直径5μm以下である粒子を含む金属化組成物を使用する。しかし、誘電体グリーン層の厚さが1ミル以下である場合には、これらの粒子は対応して更に小さくなければならない。
好ましくは、貴金属粒子は任意の表面酸化膜を除去するめに処理され、表面は導電体としての作用において更に有効になる。この好ましい方法は継続中の米国特許出願第430,871号に開示されている。
B.無機卑金属物質
本発明の方法に好適な無機卑金属物質は、(1) それらが適用される誘電体物質の焼結温度以下で貴金属または貴金属固溶体中に実質的に可溶であり、(2) 誘電体物質の焼結条件で貴金属または貴金属固溶体中に実質的に溶解し、及び(3) 得られた貴金属または貴金属固溶体と卑金属または卑金属イオンとの固溶体が出発貴金属または貴金属溶液の固相点よりも高い固相線を有する、卑金属または卑金属イオンを含むものである。他に好適な卑金属及卑金属イオンも存在するが、公知の好適なものは、ZnO、CdO、SnO_(2)、Ni、Ni_(3)B、NiO、GeO_(2)、SnO_(2)/Sb(固溶体)、SnO_(2)/In(固溶体)、MoO_(3)及びこれらの混合物、溶液である。これらの前駆物、即ち通常の焼結条件でかかる金属、酸化物、または溶液が形成される粉末物質も使用できる。
無機卑金属物質は貴金属粒子の同様の粒径の限定を受ける。好ましい金属化組成物においては、実質的に全ての卑金属含有粒子は1μm以下であり、更に好ましい組成物は実質的に全ての粒子が0.5μm以下である。更に好ましい粒子では、表面積が少なくとも5m^(2)/g以上、最適には少なくとも8m^(2)/g以上である。
無機卑金属含有物質は貴金属と混合され、その割合はこの混合物が誘電体物質の焼結温度に曝される時、貴金属中に実質的な量の卑金属または卑金属イオンを溶解させる量である。「実質的な量」とは貴金属の固相線を誘電体物質の焼結温度よりも少なくとも10℃上昇させる量を意味する。従つて、所定の貴金属及び卑金属含有物質において、固相線の上昇をもたらす混合物中の卑金属量は逆に焼結温度に関係する。換言すれば、焼結温度が高いほど多くの卑金属が溶解する。混合物中の全ての卑金属が固溶体中に含まれる必要はなく、固相線を適当に上昇させるのに充分な量が含まれればよい。卑金属含有固溶体の固相線は一層高くなりえるが、焼成による電極の焼結及び緻密化を容易にするために、焼結温度より100℃以上高くなく、好ましくは50℃以上高くない。」(3ページ右上欄1行?4ページ右上欄17行)
「D.誘電体物質
コンデンサ製造用の誘電体物質は電極物質と両立できる任意の物質である。例えば、チタン酸バリウム、二酸化チタン、アルミナ、ジルコニア、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸鉛、チタン酸ストロンチユウム、チタン酸カルシウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸鉛、ジルコン酸チタン酸鉛、チタン酸ネオジミウム等である。」(5ページ左上欄18行?同ページ右上欄5行)
「E.コンデンサの製造
1.グリーンテープの加工処理
前記したように、有機バインダにより結合された誘電体物質粒子のグリーン(未焼成)テープである誘電体基体に電極用金属化組成物を所望のパターンで印刷することによりコンデンサは製造される。印刷された誘電体基体は積層され、切断されて、所望のコンデンサ構造が形成される。その後、焼成により誘電体物質から有機媒質及び有機バインダが除去される。これらの物質の除去は焼成操作の間の蒸発及び熱分解による。ある場合には、焼成の前に予備乾燥を行なうことが好ましいことがある。
誘電体テープの有機バインダ成分は、通常、メチルアクリレイト、メチルメタクリレイト、エチルアクリレイト及びこれらの混合物のような低級アルキルアクリレイトまたは低級アルキルメタクリレイトの柔軟なポリマーである。かかるポリマーは多くの場合に特別な柔軟性及び/または他の物理的性質を付与するために可塑剤及び他の添加剤を含有する。ラテツクスのような水-基体バインダ及び水-可溶性バインダも誘電体テープのバインダ成分として使用できる。
上記コンデンサ集合体の焼成において、積層集合体に損害を与えることなく実質的に全ての有機物質を除去するように、100?550℃で徐々に加熱する第一焼成工程を採用するのが好ましい。典型的には、有機物の完全な除去を達成する有機物焼失時間は18?24時間である。その後、集合体は所望の焼成温度に急速に加熱される。
所望の焼成温度は誘電体物質の物理的及び化学的性質により決定される。通常は誘電体の最高の緻密化が得られるように焼成温度を選択する。チタン酸バリウム誘電体系においては、この温度は1100?1450℃である。しかし、最高の緻密化は常に必要ではないことは無論である。従つて、「焼結温度」は特定のコンデンサのために誘電体の所望の緻密化が得られる温度(絶対的に時間も同様)を意味する。焼結時間は誘電体組成物により変化するが、上記焼結温度において、2時間のオーダが好ましい。
焼結後、雰囲気温度えの冷却は熱衝撃に対する成分の抵抗に従つて注意深く制御される。」(5ページ右下欄1行?6ページ右上欄3行)

(4-3-2)そうすると、引用刊行物には、以下の発明(以下「刊行物発明」という。)が記載されているものと認められる。

「有機バインダにより結合された誘電体物質粒子のグリーンテープである誘電体基体に、電極用金属化組成物を有機媒質中へ分散させた分散物を所望のパターンで印刷し、
前記分散物が印刷された前記誘電体基体の多数の層を積層して、前記誘電体基体と前記分散物との交互の層から成る集合体を形成し、
前記集合体を焼成して、前記有機媒質及び前記有機バインダを除去し且つ前記電極用金属化組成物と前記誘電体基体を焼結することを含む、多層コンデンサの製造方法であって、
前記電極用金属化組成物は、(a)上記誘電体基体の焼結温度より低い固相線を有する貴金属の固溶体または貴金属の混合物及び(b)上記誘電体基体の焼結温度以下で実質的に上記(a)に溶解して溶液を形成する卑金属のイオンを含む無機物質から成り、
上記(a)の割合は、前記電極用金属化組成物及び前記誘電体基体の焼結により得られる(a)と前記卑金属イオンとの固溶体の固相線が(a)の固相線より高く且つ前記誘電体基体の焼結温度より少なくとも10℃高くなるような割合であり、
前記貴金属の固溶体または貴金属の混合物は、パラジウム、銀の全ての割合での混合物及び固溶体であり、
前記卑金属のイオンを含む無機物質は、MoO_(3)である、
多層コンデンサの製造方法。」

(4-4)対比
(4-4-1)刊行物発明の「有機バインダにより結合された誘電体物質粒子のグリーンテープである誘電体基体」と、補正後の発明の「圧電層となるべき、Pb酸化物を主成分の一つとする圧電磁器を含むセラミックグリーンシート」は、「セラミックグリーンシート」という点で共通する。また、刊行物発明の「電極用金属化組成物を有機媒質中へ分散させた分散物」は、補正後の発明の「電極層となるべき導電ペースト」に相当する。そして、刊行物発明の「電極用金属化組成物」において、「貴金属の固溶体または貴金属の混合物」である「パラジウム、銀の全ての割合での混合物及び固溶体」と、補正後の発明において、「電極層となるべき導電ペースト」に「主金属成分として含」まれた「Ag」は、「電極層となるべき導電ペースト」に「含」まれた「Ag」という点で共通し、刊行物発明の「電極用金属化組成物」において、「卑金属のイオンを含む無機物質」である「MoO_(3)」は、補正後の発明の「WO_(3)及びMoO_(3)の少なくとも一方からなる添加剤」に相当する。 そうすると、刊行物発明の「有機バインダにより結合された誘電体物質粒子のグリーンテープである誘電体基体に、電極用金属化組成物を有機媒質中へ分散させた分散物を所望のパターンで印刷」することであって、「電極用金属化組成物は、」「貴金属の固溶体または貴金属の混合物及び」「卑金属のイオンを含む無機物質から成り、」「前記貴金属の固溶体または貴金属の混合物は、パラジウム、銀の全ての割合での混合物及び固溶体であり、前記卑金属のイオンを含む無機物質は、MoO_(3)である、」ことと、補正後の発明の「圧電層となるべき、Pb酸化物を主成分の一つとする圧電磁器を含むセラミックグリーンシート上に、Agを主金属成分として含み、溶剤と、バインダーと、WO_(3)及びMoO_(3)の少なくとも一方からなる添加剤とをさらに含む、電極層となるべき導電ペーストを塗布する工程」は、「セラミックグリーンシート上に、Agを」「含み、溶剤と、バインダーと、」「MoO_(3)」「からなる添加剤とをさらに含む、電極層となるべき導電ペーストを塗布する工程」という点で共通する。

(4-4-2)刊行物発明の「前記分散物が印刷された前記誘電体基体の多数の層を積層して、前記誘電体基体と前記分散物との交互の層から成る集合体を形成」することは、補正後の発明の「前記導電ペーストが塗布された前記セラミックグリーンシートを複数枚積層した積層体を形成する工程」に相当する。

(4-4-3)刊行物発明の「前記集合体を焼成して、前記有機媒質及び前記有機バインダを除去し且つ前記電極用金属化組成物と前記誘電体基体を焼結すること」は、補正後の発明の「前記積層体を焼成して、圧電層と電極層とが交互に積層された素体を形成する工程」に相当する。

(4-4-4)刊行物発明の「多層コンデンサの製造方法」と、補正後の発明の「積層型圧電素子の製造方法」は、「積層型素子の製造方法」という点で共通する。

(4-4-5)そうすると、補正後の発明と刊行物発明とは、
「セラミックグリーンシート上に、Agを含み、溶剤と、バインダーと、WO_(3)及びMoO_(3)の少なくとも一方からなる添加剤とをさらに含む、電極層となるべき導電ペーストを塗布する工程と、
前記導電ペーストが塗布された前記セラミックグリーンシートを複数枚積層した積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成して、圧電層と電極層とが交互に積層された素体を形成する工程と、を備える、
積層型素子の製造方法。」
である点で一致し、次の4点で相違する。

(相違点1)補正後の発明の「セラミックグリーンシート」は、「圧電層となるべき、Pb酸化物を主成分の一つとする圧電磁器を含む」のに対し、刊行物発明では、そのような特定がなされていない点。

(相違点2)補正後の発明の「電極層となるべき導電ペースト」は、「Agを主金属成分として含」むのに対し、刊行物発明では、「貴金属の固溶体または貴金属の混合物」である「パラジウム、銀の全ての割合での混合物及び固溶体」における「銀」について、そのような特定がなされていない点。

(相違点3)補正後の発明では、「前記積層体を焼成する工程の際、前記導電ペースト中の前記主金属成分と前記添加剤とを結合させて化合物を形成する」のに対し、刊行物発明では、そのような特定がなされていない点。

(相違点4)補正後の発明は、「積層型圧電素子の製造方法」であるのに対し、刊行物発明は、「多層コンデンサの製造方法」である点。

(4-5)判断
以下、上記相違点について、検討する。
(4-5-1)相違点1及び4について
積層型コンデンサの製造技術を積層型圧電素子の製造に適用できることは、以下の周知例1ないし3に記載されているように従来から周知である。また、圧電材料としてPb酸化物を主成分の一つとする圧電磁器を用いることも、従来から周知の技術である。
そうすると、刊行物発明である多層コンデンサの製造方法を積層型圧電素子の製造方法に適用し、さらに当該積層型圧電素子の材料として、Pb酸化物を主成分の一つとする圧電磁器を用いることにより、補正後の発明のように、「圧電層となるべき、Pb酸化物を主成分の一つとする圧電磁器を含むセラミックグリーンシート上に、」「電極層となるべき導電ペーストを塗布する工程」を含む「積層型圧電素子の製造方法」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、相違点1及び4は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(ア)周知例1
本願の出願日前に日本国内において頒布された特開昭62-177986号公報には、以下の事項が記載されている。
「〔従来の技術〕
従来、積層コンデンサあるいは積層型圧電セラミックス変位素子等などを製造するには、積層チップコンデンサの製造方法が適用されている。すなわち、薄板状または箔状のセラミックス材料の生シート(グリーンシート)の両面または片面に内部電極を印刷した後、接着剤を介して複数枚積層し、それを圧着した後、通常は、所定の寸法に切断してから焼結することにより製造されている。しかしながら、この方法により製造されたものは、セラミックス各層間に接着剤層があるため、得られた素子の効率という点では必ずしも満足できるものではなかった。
このため、最近、接着剤を使用することなくセラミックスのグリーンシートを複数枚積層した後、加熱し圧着して積層体を得る方法が提案され実用化されつつある。」(1ページ右下欄16行?2ページ左上欄12行)

(イ)周知例2
本願の出願日前に日本国内において頒布された特開2005-311177号公報には、以下の事項が記載されている。
「【0023】
本発明の一実施形態の積層セラミック電子部品の製造方法では、図2に示す積層セラミックコンデンサが製造される。
【0024】
積層セラミックコンデンサ1は、セラミック焼結体2を有する。セラミック焼結体2内においては、複数の内部電極3,4がセラミック層を介して交互に積層されている。内部電極3は、セラミック焼結体2の第1の端面2aに引き出されており、内部電極4は、第1の端面2aとは反対側の第2の端面2bに引き出されている。
【0025】
本実施形態では、セラミック焼結体2は、チタン酸バリウム系セラミックスにより構成されている。もっとも、セラミック焼結体2を構成するセラミック材料については、チタン酸バリウム系セラミックスに限らす、種々の誘電体セラミックスを用いることができる。」
「【0031】
上記積層セラミックコンデンサ1の製造に際しては、まず、チタン酸バリウム系セラミックスを主体とするセラミックグリーンシートの上面に、内部電極3または内部電極4を形成するためのNiを主体とする導電ペーストをスクリーン印刷する。導電ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートを複数枚積層し、上下に適宜の枚数の無地のセラミックグリーンシートを積層し、未焼成のセラミック積層体を得る。
【0032】
上記未焼成の積層体は、通常、多数の積層セラミックコンデンサを得るためのマザーの積層体として用意される。そして、このマザーの積層体を厚み方向に切断し、個々の積層セラミックコンデンサ単位の未焼成のセラミック積層体を用意する。
【0033】
上記のようにして得られた未焼成のセラミック積層体を焼成炉内で加熱し、焼成し、セラミック焼結体2を得る。」
「【0058】
なお、本発明では、積層セラミック電子部品は、積層セラミックコンデンサである必要は必ずしもない。例えば、積層型圧電セラミック部品等を本発明の製造方法に従って得てもよく、その場合には、セラミック材料としてチタン酸鉛系セラミックスのような圧電セラミックスが用いられる。」

(ウ)周知例3
本願の出願日前に日本国内において頒布された特開2004-296772号公報には、以下の事項が記載されている。
「【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は積層型圧電素子の概略の構造を示す断面図である。この積層型圧電素子10は、圧電セラミック層11と内部電極12とが交互に積層され、対向する一対の側面(図1においてはX方向側面)において内部電極12が一層おきに絶縁体13によってその表面に露出しないようになっており、この絶縁体13が設けられているX方向側面に積層方向に延在する外部電極14が設けられることによって、内部電極12が一層おきに電気的に接続された構造を有している。
【0015】
このような、所謂、全面電極型の積層型圧電素子10は、例えば、まず最初に公知のセラミックグリーンシートを用いた一体焼成法(同時焼成法)によって積層コンデンサ型の積層型圧電素子を作製し、続いて帯電したガラス成分のコロイドを電気泳動法等によって内部電極12の露出部分に堆積させて、その後に積層型圧電素子を所定の温度で焼成することによってガラスからなる絶縁体13を形成し、隣接する電極どうしが重なり合っていない部分を切り落とし、さらに絶縁体13が形成された側面に外部電極14を塗布して焼き付けることによって、作製することができる。」

(4-5-2)相違点2について
一般に、銀は、パラジウムに比べて高い導電性を有し、低価格である反面、融点が低い。したがって、銀に対するパラジウムの割合は、誘電材料あるいは圧電材料を焼結して緻密化するための最大焼成温度および製造コストに応じて、適宜設定しうる設計的事項である。
そうすると、刊行物発明においても、製造する素子に要求される最大焼成温度および製造コストを考慮し、「パラジウム、銀の全ての割合での混合物及び固溶体」において「銀」の割合を高くすることにより、補正後の発明のように、「Agを主金属成分として含」む「電極層となるべき導電ペースト」という構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、相違点2は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(4-5-3)相違点3について
引用刊行物の「本発明の方法に好適な無機卑金属物質は、(1) それらが適用される誘電体物質の焼結温度以下で貴金属または貴金属固溶体中に実質的に可溶であり、(2) 誘電体物質の焼結条件で貴金属または貴金属固溶体中に実質的に溶解し、及び(3) 得られた貴金属または貴金属固溶体と卑金属または卑金属イオンとの固溶体が出発貴金属または貴金属溶液の固相点よりも高い固相線を有する、卑金属または卑金属イオンを含むものである。」(3ページ右下欄16行?4ページ左上欄4行)という記載から、刊行物発明における焼結工程において、「貴金属の固溶体または貴金属の混合物」を構成する「銀」と、「卑金属のイオンを含む無機物質」である「MoO_(3)」が実質的に溶解結合して化合物を形成しているものと認められる。また、このことは、以下の参考例の記載からも明らかである。
そうすると、相違点3は、実質的なものでない。

(エ)参考例
本願の出願日前に日本国内において頒布された特開平10-326522号公報には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、太陽電池用導電性組成物に関するものである。」
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の課題を解決するために太陽電池用導電性組成物を完成するに至った。本願第1の発明の太陽電池用導電性組成物は、Ag粉末と、V、Mo、Wのうち少なくとも1種類の金属もしくはその化合物と、有機ビヒクルとからなることに特徴がある。
【0008】Agペースト中に添加されたV、Mo、Wあるいはそれらの化合物は、Agペーストの焼成時において、400℃前後の低温領域から導電成分であるAg粒子と固相反応を起こし、Ag粒子表面に複合酸化物の層を生成する(Vの場合はAg_(4)V_(2)O_(7)、Moの場合はAg_(2)MoO_(4)、Wの場合はAg_(2)WO_(4))。この反応層を介してAgの拡散が起こるため、低温領域からAgのネッキングと粒子成長が開始する。さらに昇温するとAg電極中に生成した複合酸化物相が融解し、生じた融液がAg粒子の液相焼結を助長して、Ag電極の焼結が促進される。」

(4-6)独立特許要件についてのまとめ
以上検討したとおり、補正後の発明と刊行物発明との相違点は、実質的なものでないか、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものにすぎず、補正後の発明は、引用刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができない。

(5)補正の却下についてのむすび
本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるが、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成25年8月27日になされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年4月9日になされた手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される上記2.(1)の補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

4.刊行物に記載された発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物には、上記2.(4-3-1)及び(4-3-2)に記載したとおりの事項及び発明が記載されているものと認められる。

5.判断
上記2.(3)において検討したとおり、補正後の請求項1に係る発明は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「機能層」、「セラミックグリーンシート」、「主金属成分」及び「積層型セラミック素子」について、各々「圧電層」、「Pb酸化物を主成分の一つとする圧電磁器を含む」、「Ag」及び「積層型圧電素子」と限定的に減縮する補正である。逆に言えば本件補正前の請求項1に係る発明(本願発明)は,補正後の発明から上記の限定をなくしたものである。
そうすると、上記2.(4)において検討したように、補正後の発明が,引用刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、当然に、引用刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-27 
結審通知日 2014-03-04 
審決日 2014-03-17 
出願番号 特願2006-3925(P2006-3925)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 小野田 誠
西脇 博志
発明の名称 導電ペースト及びそれを用いた積層型セラミック素子の製造方法  
代理人 石坂 泰紀  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 黒木 義樹  
代理人 三上 敬史  

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