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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A63F
審判 全部無効 2項進歩性  A63F
管理番号 1287249
審判番号 無効2012-800095  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-06-07 
確定日 2014-05-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第4523017号発明「スロットマシン」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4523017に係る発明についての出願(特願2007-139846号)は,平成17年 2月17日に出願した特願2005-40601号の一部を平成19年 5月28日に新たな特許出願としたものであって,その後の経緯は以下のとおりである。
平成22年 6月 4日 特許の設定登録
平成24年 6月 7日(差出日) 本件審判請求
平成24年 8月24日 答弁書の提出。なお,訂正請求はなかった。
平成24年 9月11日 審理事項通知書
平成24年10月 9日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
平成24年10月25日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
平成24年11月 8日 口頭審理
平成24年11月13日 審理終結通知

第2 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は,本件特許の請求項1に係る発明(以下,「本件特許発明」という。)は,その原出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明と同一のものであるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである(以下,これを「無効理由1」という。)と主張し,証拠方法として,甲第1?14号証を提出している。
また,請求人は,本件特許発明は,仮に甲第1号証に記載された発明でないとしても,甲1発明に周知技術(甲第2号証ないし甲第14号証に開示)を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである(以下,これを「無効理由2」という。)と主張し,証拠方法として,甲第1?14号証を提出している。

(証拠方法)
甲第1号証:特開2004-223077号公報
甲第2号証:特開平10-192507号公報
甲第3号証:特開平11-333109号公報
甲第4号証:特開2000-93620号公報
甲第5号証:特開2003-144658号公報
甲第6号証:特開2003-180962号公報
甲第7号証:特開2003-180963号公報
甲第8号証:特開平5-317486号公報
甲第9号証:特開平9-91162号公報
甲第10号証:特開2001-246117号公報
甲第11号証:特開2003-190425号公報
甲第12号証:特開2004-5267号公報
甲第13号証:特開2004-121422号公報
甲第14号証:特開2003-181121号公報

そして,無効理由1,2,及び本件特許発明の要旨認定に関する請求人の主張は,概ね以下のとおりである。

(1)無効理由1(新規性欠如)について
甲第1号証にはメモリマップ(図6)が記載されており,しかも,同メモリマップに連続して記載された各領域には,それぞれ連続した番号の符号が付せられている。
また,少なくとも遊技機の技術分野において,メモリマップに連続したアドレスが割り当てられていることは技術常識(甲第2?14号証)である。
したがって,甲第1号証に接した当業者は,上記技術常識を参酌することにより,甲第1号証記載のメモリマップ(図6)につき,当然に,連続したアドレスが割り当てられているものと理解する。
かかる技術常識を参酌すれば,甲第1号証は,実質的に本件特許発明を開示するものである。
よって,本件特許発明は,原出願より前に頒布された甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であって,新規性が欠如するものである。

(2)無効理由2(進歩性欠如)について
(ア)仮に,本件特許発明と甲1発明との実質的な同一性が認められないとしても,本件特許発明と甲1発明との相違点は,実質的に,本件特許発明では,初期化領域に連続したアドレスが割り当てられているのに対し,甲1発明では,初期化領域が記載されたメモリマップにおいて,連続したアドレスが割り当てられているか否かが明らかでない点に尽きる。
まず,メモリマップに連続したアドレスを割り当てる構成は,少なくとも遊技機の技術分野において周知技術(甲第2?14号証)である。
そして,本件特許発明の課題は,甲1発明において,本件特許発明の課題解決手段の特徴的部分をなす<1ゲーム毎に未使用領域を初期化する構成>が採用されていることによって,既に解決済みである。
また,本件特許発明は,本件特許明細書の記載によれば,不正プログラムが常駐してしまうことを防止することができることに加え,複数種類の初期化を行うためのプログラム容量を削減することができるという作用効果を奏するものとされているが(段落番号【0010】),プログラムの容量を削減することなど,プログラミングにおいて当業者が当然に検討する事項でしかない。
したがって,当業者が甲第1号証記載のメモリマップ(図6)に接すれば,わざわざ複雑にアドレスを割り当てするのでなく,上記周知技術を適用して,メモリマップの記載に即して連続したアドレスを割り当てする動機付けは十分に認められる。
以上のとおり,本件特許発明の課題は,既に甲1発明において解決済みであるところ,各領域に連続した番号の符号が付せられている甲第1号証記載のメモリマップに上記周知技術を適用して,連続したアドレスを割り当てることについては,十分に動機付けが認められる。
よって,本件特許発明は,甲1発明に周知技術を適用することにより当業者が容易に想到し得たものでしかなく,進歩性が欠如するものである。

(イ)また,審理事項通知書記載の相違点である,本件特許発明が,各初期化条件に応じて,初期化領域を一括して初期化する構成であるのに対し,甲1発明は,初期化領域を構成する各領域を,図10のフローチャートに従い順に初期化をしていく構成である点を前提としても,
甲第1号証には,初期化領域が記載されたメモリマップ(図6)及び各初期化条件に応じた初期化領域を記載した表(図7)が記載されている。
上記の初期化領域が記載されたメモリマップでは,初期化する各領域が連続して順に配置されており,しかも,電点投入時でRAMが壊れていた時は,メモリマップの記載において,重要ワーク(112-1)から未使用スタック領域(112-7)まで,電源投入時でRAMが壊れていなかった時は,非保存ワーク(112-5)から未使用スタック領域(112-7)まで,毎遊技開始時には,未使用領域(112-6)から未使用スタック領域(112-7)を初期化する構成が開示されている。
したがって,少なくとも,上記のメモリマップ(図6)及び表(図7)が記載されている以上,甲第1号証には,メモリマップに連続したアドレスが割り付けられる構成,上記それぞれの初期化条件において,初期化開始アドレスから初期化終了アドレスまでの領域を一括して初期化する構成は,十分に示唆されている。
また,上記のメモリマップ(図6)及び表(図7)が記載されている以上,これを基礎として,アドレスが連続する各領域を一括して初期化する構成に至ることは,当業者において,ごく自然な発想といえる。したがって,甲1発明について,これに,初期化開始アドレスから初期化終了アドレスまでの領域を一括して初期化する構成を採用する動機付けも十分に認められる。
さらに,そもそも,甲第1号証記載の図10のフローチャートは,未使用領域(112-6)及び未使用スタック領域(112-7)がすべての初期化条件に共通して初期化される領域であることをわかりやすく説明するために,あえて,これらの処理を,フローチャートの最後の処理工程において,S108として,切り出して記載したものといえる。したがって,甲1発明において,図10記載のフローチャートに従って初期化の実行処理がなされることは,必須の構成ではなく,これに替えて,初期化開始アドレスから初期化終了アドレスまでの領域を一括して初期化する構成を採用することに阻害要因もない。
あるいは,メモリマップに記載された各初期化領域について,これら領域を一括して初期化するか,もしくは所定の初期化条件に応じて各領域ごとに順に初期化を行うかは,単なる設計事項にすぎない。
よって,審理事項通知書記載の相違点を前提としても,本件特許発明は進歩性が欠如するものでしかない。

(3)本件特許発明の要旨認定について
また,請求人は,無効理由1,2を主張する前提として,本件特許発明の要旨認定について,主に口頭審理陳述要領書において概ね次のように主張している。

本件特許発明の特許請求の範囲の記載では,初期化領域の構成について,これが,各初期化条件に対応してそれぞれ設定された初期化開始アドレスから,各初期化条件に共通して設定された初期化終了アドレスまでの各アドレスが割り当てられた領域であることが,発明事項として特定されている。
しかし,本件特許発明の特許請求の範囲の記載において,初期化領域が具体的にどのように初期化されるのか,初期化の実行処理方法について限定する記載は全くない。
そして,本件特許発明の特許請求の範囲の記載は,初期化領域そのものの構成として,その技術的意義が一義的に明確に理解されるものであるから,リパーゼ事件最高裁判決が示す特段の事情などない。
実質的に,初期化領域を初期化する実行処理方法につき,「初期化開始アドレスから初期化終了アドレスまで一括して初期化する」ものであるとの特定事項を付加して,本件特許発明の要旨認定を行うことは,上記最高裁判決に反するものである。
仮に,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても,「初期化条件に応じた複数のデータ記憶領域を初期化開始アドレスから初期化終了アドレスまで一括して初期化する」ことは,明細書の発明の詳細な説明あるいは出願経過において提出された上申書及び意見書に何らの記載されておらず,記載されていない特定事項を付加して,発明の要旨を限定することは認められない。
本件特許発明の作用効果は,明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,(i)データ記憶手段の未使用領域を利用して不正プログラムを格納させても,当該不正プログラムが常駐してしまうことを防止することができる,(ii)複数種類の初期化を行うためのプログラム容量を削減できる,というものである。
上記の作用効果(i)は,明細書の発明の詳細な説明の段落番号【0010】記載のとおり,1ゲーム毎に未使用領域を初期化する構成があれば足りるのであって,本件特許発明の特許請求の範囲の記載された初期化領域の構成によって実現されるものではなく,また,上記の作用効果(ii)については,たかだか,本件特許発明の特許請求の範囲の記載された初期化領域の構成によってプログラムの容量を削減することができることを示したものと解することしかできない。
よって,発明の詳細な説明に記載された作用効果に照らしても,本件特許発明の要旨の認定において,初期化の具体的な実行処理方法を限定して,これを発明事項として付加すべき理由は全くない。
以上のとおり,特許発明の要旨認定は,特段の事情がない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてなされるべきであって,本件特許発明については,特許請求の範囲の記載に基づき,あくまで,初期化手段について,初期化領域そのものの構成を発明事項として特定したものとして認定されるべきである。また,仮に,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても,初期化の具体的な実行処理方法を発明事項として付加すべき理由などない。

2.被請求人の主張
被請求人は,本件特許発明に無効理由1及び無効理由2はないと主張して,概略,以下のように反論している。

(1)無効理由1(新規性欠如)について
甲第1号証の【図10】のフローチャートに基づけば,「S103」「S104」「S108」のステップに示されるように一の初期化条件に対応する複数の領域を別個に初期化する構成が記載されており,また,甲第1号証の段落【0063】ないし【0066】の記載,段落【0089】ないし【0091】の記載をみても,甲第1号証には各領域を個々にクリアする構成が開示されているのみである。
また,甲第2号証ないし甲第14号証には遊技機においてメモリマップにアドレスを割り当てる構成が記載されている。しかし,甲第2号証ないし甲第14号証にはメモリマップにアドレスを割り当てる構成の開示はあるものの,複数の初期化条件に対応する記憶領域をどのように初期化するかについては何ら開示されていない。
したがって,甲第1号証ないし甲第14号証には,本件特許発明の「前記初期化手段は,2種類以上の初期化条件の種類に対応して前記データ記憶手段における初期化開始アドレスがそれぞれ設定されるとともに,該2種類以上の初期化条件に共通する一の初期化終了アドレスが設定された初期化領域設定手段を含み,前記2種類以上の初期化条件のうちいずれかの初期化条件が成立したときに,該初期化条件の種類に対応して前記初期化領域設定手段に設定された初期化開始アドレスから前記2種類以上の初期化条件に共通して前記初期化領域設定手段に設定された初期化終了アドレスまでの各アドレスが割り当てられた記憶領域を初期化する」なる構成(構成要件(D))の開示はない。
また,甲第1号証に,本件特許発明の「前記データ記憶手段には,記憶領域を特定するアドレスが割り当てられている」なる構成(構成要件(C))は明記されていない。
よって,本件特許発明は甲1発明と同一ではない。

(2)無効理由2(進歩性欠如)について
甲第1号証ないし甲第14号証には,上記のとおり,本件特許発明の構成要件(D)の開示はない。
さらに,初期化手段として採り得る構成は,本件特許明細書に初期化開始アドレスから初期化終了アドレスまでを初期化する方法や,初期化開始アドレスから設定されたサイズを初期化する方法が開示されているように複数にわたり存在しており,複数の領域を個々に初期化する構成から本件特許発明の構成要件(D)が一義的に導き出せるわけではない。
したがって,甲1発明に甲第2号証ないし甲第14号証に記載のメモリマップにアドレスを割り当てる構成を適用したとしても,甲第2号証ないし甲第14号証に複数の初期化条件に対応する記憶領域をどのような方法で初期化するかについて記載も示唆もされていない以上,本件特許発明の構成要件(D)を導き出すことは出来ず,本件特許発明に到達することはない。
よって,本件特許発明は甲1発明,甲第2号証ないし甲第14号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく進歩性を有する。

(3)本件特許発明の要旨認定,特徴(作用効果)について
(ア)本件特許発明の構成要件(D)について
本件特許発明の構成要件(D)は,「初期化領域設定手段」なる構成を備えることを前提として,初期化手段が初期化領域設定手段に設定された初期化開始アドレスから初期化領域設定手段に設定された初期化終了アドレスまでの各アドレスが割り当てられた記憶領域を初期化するという処理を行うもの(手段),すなわち「初期化手段」を発明特定事項としたものである。
また,本件特許発明は単に初期化開始アドレスと共通の初期化終了アドレスを用いて初期化を行うだけでなく,初期化条件に応じた複数のデータ記憶領域を初期化するに際して,初期化領域設定手段に設定されている初期化条件に応じた初期化開始アドレスと初期化終了アドレスとを取得することで,複数種類の初期化を共通の処理を用いて行うものである。
そして,本件特許発明の構成要件(D)には,「初期化領域設定手段」なる構成を前提として,初期化手段が初期化領域設定手段に設定された初期化開始アドレスから初期化領域設定手段に設定された初期化終了アドレスまでの各アドレスが割り当てられた記憶領域を初期化するとして,初期化領域をどのように初期化されるのかを特定しているのであるから,請求人の「初期化の実行処理方法について限定する記載は全くない」とする主張は誤りである。

(イ)本件特許発明の特徴(作用効果)について
本件特許発明は,構成要件(D)を備えることで,(1)初期化条件に応じた記憶領域を初期化する際に,初期化条件に応じたデータ記憶領域を個々に初期化するのではなく,初期化条件に応じた複数のデータ記憶領域を初期化開始アドレスから初期化終了アドレスまで一括して初期化することができ,(2)初期化条件に応じた複数のデータ記憶領域を一括して初期化するに際して,初期化領域設定手段に設定されている初期化条件に応じた初期化開始アドレスと初期化終了アドレスとを取得することで,複数種類の初期化を共通の処理を用いて行うことができ,(3)さらに,初期化終了アドレスを初期化領域設定手段に共通して設定しておくことで,初期化領域設定手段に複数の初期化条件に対応する終了アドレスを個々に設定しておくことなく,複数の初期化条件に対応する領域を初期化することができる,という作用効果を奏するものである(答弁書)。
なお,上記「一括して」なる記載は,本件特許発明の構成要件(D)のなかの「該初期化条件の種類に対応して前記初期化領域設定手段に設定された初期化開始アドレスから前記2種類以上の初期化条件に共通して前記初期化領域設定手段に設定された初期化終了アドレスまでの各アドレスが割り当てられた記憶領域を初期化する」なる構成に基づき,初期化条件に応じたデータ記憶領域を個々に特定して初期化するのではなく,初期化条件に応じて設定された初期化開始アドレスから初期化終了アドレスまでのひとくくりのデータ記憶領域を特定し,この特定したデータ記憶領域を初期化する意味であり,この意味において「一括して」なる表現を用いて説明しただけである。
また,本件特許発明は,発明の詳細な説明の段落【0393】の記載を根拠としているので,段落【0393】の記載に基づき,上記した本件特許発明の作用効果を主張することに何ら誤りはない。


第3 甲各号証の記載事項
請求人の提出した甲各号証には,以下の記載事項と発明が認められる。なお,下線は当審で付した。

1.甲第1号証:特開2004-223077号公報
甲第1号証には,以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
1ゲームに対して賭け数を設定することによりゲームを開始させることが可能となり、可変表示装置の表示結果が導出表示されることにより1ゲームが終了し、該可変表示装置の表示結果に応じて所定の入賞が発生可能であるスロットマシンにおいて、
前記可変表示装置の表示結果が導出表示される以前に前記入賞の発生を許容するか否かを決定する事前決定手段と、
前記事前決定手段により特別入賞の発生が許容されたときに、前記特別入賞の発生が許容された旨を示す決定情報を設定すると共に、設定した決定情報を次ゲーム以降に複数個持ち越すことが可能な決定情報持越手段と、
前記入賞の種類毎に、入賞の発生が可能である旨を示す入賞可能情報を設定する入賞可能情報設定手段と、
前記入賞可能情報設定手段に前記特別入賞の入賞可能情報が設定されていないときに、前記決定情報持越手段に持ち越された決定情報を繰り入れて、該特別入賞の入賞可能情報を前記入賞可能情報設定手段に設定すると共に、該繰り入れた決定情報を前記決定情報持越手段から消去する決定情報繰入手段とを備え、
前記特別入賞の入賞可能情報は、当該入賞可能情報に基づく特別入賞が発生したときにクリアされる
ことを特徴とするスロットマシン。」

「【0027】
図1?図3を参照して説明すると、このスロットマシン1の上部前面側には、可変表示装置2が設けられている。可変表示装置2の内部には、3つのリール3L、3C、3Rから構成されるリールユニット3が設けられている。リール3L、3C、3Rは、それぞれリールモータ3ML、3MC、3MRの駆動によって回転/停止させられる。
【0028】
リール3L、3C、3Rの外周部には、それぞれ「色なし7」、「色つき7」、「BAR」、「JAC」、「スイカ」、「チェリー」、「ベル」といった図柄が所定の順序で描かれている。リール3L、3C、3Rの外周部に描かれた図柄は、可変表示装置2において上中下三段に表示される。また、リールユニット3内には、リール3L、3C、3Rのそれぞれに対して、その基準位置を検出するリールセンサ3SL、3SC、3SRと、背面から光を照射するリールランプ3LPとが設けられている。」

「【0045】
遊技制御基板101は、スロットマシン1における遊技の進行全体の流れを制御するメイン側の制御基板であり、CPU111、RAM112、ROM113及びI/Oポート114を含む1チップマイクロコンピュータからなる制御部110を搭載している。また、乱数発生回路115、サンプリング回路116、バッファ回路117、スイッチ回路118、モータ回路119その他の回路を搭載している。」

「【0063】
図6は、遊技制御基板101のRAM112のメモリマップを示す図である。図示するように、RAM112は、ワーク領域としての重要ワーク112-1、一般ワーク112-2、特別ワーク112-3、設定値ワーク112-4及び非保存ワーク112-5と、未使用領域112-6と、スタック領域としての未使用中スタック領域112-7(当審注:ここでは「未使中スタック領域112-7」と表現されるが、図6や【0066】【0091】では、「中」がない「未使用スタック領域112-7」と表現されている。以後、後者の「未使用スタック領域112-7」で統一する。)及び使用中スタック領域112-8とに分かれている。各領域112-1?8は、クリアされるときの条件によって区別されるものであり、図7は、RAM112の各領域112-1?8をクリアする条件を示す図である。
【0064】
重要ワーク112-1は、ビッグボーナス終了時にクリアされると不都合が生じることのあるデータを記憶するワーク領域である。重要ワーク112-1は、電源投入時にRAM112が壊れていた場合と設定スイッチ91による設定が終了した場合にのみクリアされる。一般ワーク112-2は、ビッグボーナス終了時にクリアしてもよいデータを記憶するワーク領域であり、詳細を後述する当選フラグ設定部301を含む。遊技状態を示すフラグや各種カウンタなどもほとんどがここに記憶される。一般ワーク112-2は、ビッグボーナス終了時の他に、電源投入時にRAM112が壊れていた場合と設定が終了した場合にクリアされる。
【0065】
特別ワーク112-3は、演出制御基板102に送信するコマンドやソフトウェア乱数を生成するためのワーク領域であり、詳細を後述するストック数記憶部302を含む。特別ワーク112-3は、電源投入時にRAM112が壊れていた場合にのみクリアされる。設定値ワーク112-4は、設定スイッチ91による設定値を保持するワーク領域であり、設定の終了時に当該設定された値が、電源投入時にRAM112が壊れていた場合に設定値1を示すデータが入れられる。他の場合には、ここに値を入れることはない。非保存ワーク112-5は、スイッチの状態を保持するワーク領域であり、電源投入時にはRAM112が壊れていたか否かに関わらず、クリアされる。
【0066】
未使用領域112-6は、RAM112のうちの使用されていない領域であり、電源投入時(RAM112が壊れていたか否かに関わらない)、設定終了時、ビッグボーナス終了時、及び各ゲーム開始時にクリアされる。未使用スタック領域112-7は、スタック領域のうちの使用されていない領域であり、未使用領域112-6と同じ条件でクリアされる。使用中スタック領域112-8は、スタック領域のうちの使用されている領域であり、クリアされることはない。なお、未使用スタック領域112-7と使用中スタック領域112-8との境界は可変となるが、それを示すスタックポインタは、使用中スタック領域112-8の中に設けられている。」

図6,7は次のとおり。


ここで,図6によれば,重要ワーク112-1,一般ワーク112-2,特別ワーク112-3,設定値ワーク112-4,非保存ワーク112-5,未使用領域112-6と,未使用スタック領域112-7,使用中スタック領域112-8は,RAM112のメモリマップにおいて,この順に配置されている。

「【0080】
図9は、遊技制御基板101のCPU111が実行する1ゲーム分の処理を示すフローチャートである。この処理は、電源を投入し、所定のブート処理を行った後、または設定スイッチ91の操作により設定変更を行った直後にも実行される。1ゲームの処理が開始すると、まず、RAM112の所定の領域をクリアする処理を含む初期処理が行われる(ステップS1)。なお、初期処理の詳細については後述する。」

「【0088】
次に、上記したステップS1の初期処理について詳しく説明する。図10は、CPU111がステップS1で実行する初期処理を詳細に示すフローチャートである。初期処理においては、まず直前にメインスイッチ94の操作により電源が投入されたかどうかを判定する(ステップS101)。直前に電源が投入された場合には、RAM112の状態をチェックし、そのデータ内容が壊れているかどうかを判定する(ステップS102)。
【0089】
RAM112が壊れていなければ、非保存ワーク112-5のみをクリアして(ステップS103)、ステップS108の処理に進む。RAM112が壊れていた場合には、重要ワーク112-1、一般ワーク112-2、特別ワーク112-3、及び非保存ワーク112-5をクリアすると共に、設定値ワーク112-4に設定値として1を入れて(ステップS104)、ステップS108の処理に進む。
【0090】
ステップS101において直前に電源が投入されたのではなかった場合には、直前に設定スイッチ91の操作により内部当選確率の設定変更がされたかどうかを判定する(ステップS105)。設定変更がされていた場合には、重要ワーク112-1と一般ワーク112-2とをクリアする(ステップS106)。さらに、その操作により変更された設定の値を設定値ワーク112-4に入れて(ステップS107)、ステップS108の処理に進む。
【0091】
設定変更もされていなかった場合には、そのままステップS108の処理に進む。ステップS108では、いずれの条件においてもクリアされることとなる未使用領域112-6及び未使用スタック領域112-7をクリアする。そして、初期処理を終了し、図9の処理に復帰する。なお、初期処理に開始直前にどのような状況にあったとしても、この初期処理において、使用中スタック領域112-8をクリアすることはない。」

図10は次のとおり。


「【0108】
現在のボーナスの終了条件が成立した場合には、RAM112に設定されているボーナス中フラグを消去する(ステップS407)。また、ここでビッグボーナスの終了条件が成立したのかどうかを判定する(ステップS408)。ビッグボーナスではなく、レギュラーボーナスの終了条件が成立したのであれば、そのままステップS410の処理に進む。一方、ビッグボーナスの終了条件が成立したのであれば、RAM112の一般ワーク112-2、未使用領域112-6及び未使用スタック領域112-7をクリアしてから(ステップS409)、ステップS410の処理に進む。」

これら記載事項を含め,甲第1号証の全記載を総合すると,甲第1号証には次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「1ゲームに対して賭け数を設定することによりゲームを開始させることが可能となり,可変表示装置の表示結果が導出表示されることにより1ゲームが終了し,該可変表示装置の表示結果に応じて所定の入賞が発生可能であるスロットマシンにおいて,
可変表示装置2の内部には,リールモータの駆動によって回転/停止させられる,3つのリール3L,3C,3Rから構成されるリールユニット3が設けられ,リール3L,3C,3Rの外周部には,それぞれ「色なし7」,「色つき7」,「BAR」,「JAC」,「スイカ」,「チェリー」,「ベル」といった図柄が所定の順序で描かれており,
スロットマシンにおける遊技の進行全体の流れを制御するメイン側の制御基板であって,CPU111,RAM112,ROM113及びI/Oポート114を含む1チップマイクロコンピュータからなる制御部110を搭載している,遊技制御基板101を備え,
遊技制御基板101のRAM112は,ワーク領域としての重要ワーク112-1,一般ワーク112-2,特別ワーク112-3,設定値ワーク112-4及び非保存ワーク112-5と,未使用領域112-6と,スタック領域としての未使用スタック領域112-7及び使用中スタック領域112-8とに分かれており,
重要ワーク112-1,一般ワーク112-2,特別ワーク112-3,設定値ワーク112-4,非保存ワーク112-5,未使用領域112-6と,未使用スタック領域112-7,使用中スタック領域112-8は,RAM112のメモリマップにおいて,この順に配置されており,
重要ワーク112-1は,電源投入時にRAM112が壊れていた場合と設定スイッチ91による設定が終了した場合にのみクリアされ,
一般ワーク112-2は,ビッグボーナス終了時の他に,電源投入時にRAM112が壊れていた場合と設定が終了した場合にクリアされ,
特別ワーク112-3は,電源投入時にRAM112が壊れていた場合にのみクリアされ,
設定値ワーク112-4は,設定スイッチ91による設定値を保持するワーク領域であり,設定の終了時に当該設定された値が,電源投入時にRAM112が壊れていた場合に設定値1を示すデータが入れられ,他の場合には,ここに値を入れることはなく,
非保存ワーク112-5は,スイッチの状態を保持するワーク領域であり,電源投入時にはRAM112が壊れていたか否かに関わらず,クリアされ,
未使用領域112-6は,RAM112のうちの使用されていない領域であり,電源投入時(RAM112が壊れていたか否かに関わらない),設定終了時,ビッグボーナス終了時,及び各ゲーム開始時にクリアされ,
未使用スタック領域112-7は,スタック領域のうちの使用されていない領域であり,未使用領域112-6と同じ条件でクリアされ,
使用中スタック領域112-8は,スタック領域のうちの使用されている領域であり,クリアされることはないものであり,
各領域112-1?8は,クリアされるときの条件によって区別されるものであり,
RAM112の各領域112-1?8をクリアする条件は図7にまとめられたように,
電源投入時でRAMが壊れていた時は,重要ワーク112-1,一般ワーク112-2,特別ワーク112-3,設定値ワーク112-4,非保存ワーク112-5,未使用領域112-6と,未使用スタック領域112-7が初期化され,
電源投入時でRAMが壊れていなかった時は,非保存ワーク112-5,未使用領域112-6と,未使用スタック領域112-7が初期化され,
毎遊技開始時は,未使用領域112-6と,未使用スタック領域112-7が初期化されるもので,
初期処理は,
まず直前にメインスイッチ94の操作により電源が投入されたかどうかを判定し(ステップS101),
直前に電源が投入された場合には,RAM112の状態をチェックし,そのデータ内容が壊れているかどうかを判定し(ステップS102),
RAM112が壊れていなければ,非保存ワーク112-5のみをクリアして(ステップS103),ステップS108の処理に進み,
RAM112が壊れていた場合には,重要ワーク112-1,一般ワーク112-2,特別ワーク112-3,及び非保存ワーク112-5をクリアすると共に,設定値ワーク112-4に設定値として1を入れて(ステップS104),ステップS108の処理に進み,
また,ステップS101において直前に電源が投入されたのではなかった場合には,直前に設定スイッチ91の操作により内部当選確率の設定変更がされたかどうかを判定し(ステップS105),
設定変更がされていた場合には,重要ワーク112-1と一般ワーク112-2とをクリアし(ステップS106),さらに,その操作により変更された設定の値を設定値ワーク112-4に入れて(ステップS107),ステップS108の処理に進み,
設定変更もされていなかった場合には,そのままステップS108の処理に進み,
ステップS108では,いずれの条件においてもクリアされることとなる未使用領域112-6及び未使用スタック領域112-7をクリアして,初期処理を終了する,
スロットマシン。」

2.甲第2号証:特開平10-192507号公報
本件特許にかかる原出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証には,スロットマシン等の遊技機のメモリマップにつき,以下の記載がなされている。
「【0035】図12は,基本回路37に含まれるMPUのアドレスマップである。図12を参照して,アドレス0000H?000FHは,データをスタックするためのスタックエリアとして用いられる。アドレス0010H?0005CHは,プログラムのワークエリアとして用いられる。アドレス0005DH?6FFFHは,未使用のワークエリアとしてリザーブされている。アドレス7000H?8FFFHは,ROMのエリアである。このうち,アドレス7000H?7FF7Hは,パチンコ遊技機制御のためのデータおよびプログラムデータが格納されるデータエリア,プログラムエリアとして用いられる。アドレス7FF8H?7FFFHには,各種割込み信号やリセットパルスに応答して実行が開始されるプログラム(本実施例の場合はメインプログラム)の該当ステップのアドレスが格納されるベクトルスタートエリアが設けられている。アドレス8000H?8FFFHは,アドレスが許されないアドレッシング不可エリアである。」
「【0036】図13?図36は,図10に示される基本回路37のMPUにおいて実行される,この発明にかかるパチンコ遊技機を制御するためのプログラムのフローチャートである。図13および図14は,このプログラムのメインルーチンを示す。このメインルーチンはMPUに定期リセットパルスが与えられるたびに先頭から1回実行される。この実施例においては,定期リセットパルスは1msecに1回発生される。すなわち,このメインルーチンは1msecごとに1回実行される。ステップ(以下単にSという)7801において,図12に示されるメモリマップのうち,スタックポインタとして使用されるアドレスの指定が行なわれる。なお,以下の説明において,各ステップに与えられた番号は,実施例のソースプログラムのアドレスに対応したものである。続いてS7804において,RAMエラーがあったか否かの判断がなされる。この判断は,たとえばRAMの所定のアドレスのデータを読出し,読出されたデータが予め定められた値と等しいか否かによって判断される。RAMエラーがない場合には制御はS780Fに進む。しかし,プログラムの暴走や電源投入時などには,RAMの格納内容は不定であるためRAMエラーが発生し,制御はS780Bに進む。」

3.甲第3号証:特開平11-333109号公報
本件特許にかかる原出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第3号証には,スロットマシン等の遊技機のメモリマップにつき,以下の記載がなされている。
「【0058】図9は,主基板84のマイコン71(CPU72)のメモリ空間のメモリマップを示す図である。アドレスを16進数で「0000h」のように表すと,マイコン71のアドレス空間は0000h?FFFFhの64KBであり,0000hからの256バイトは,内蔵RAMエリアでありRAM74の一部に割り当てられたアドレス領域である。この内蔵RAMエリアは作業用のエリアとして使用したり,スタック領域として使用する。ROMエリアは,マイコン71に内蔵されたROM73のアドレス領域である。」
「【0059】内蔵レジスタエリアは,CPU72の内蔵レジスタに関連したアドレス領域である。デコードエリアは,入出力ポートのアドレスが割り当てられた領域であり,図6における入力回路35,情報出力回路37,LED回路46,ソレノイド回路48等への入出力を行うためのアドレス領域である。そして,ユーザRAMエリアは,RAM74に含まれるアドレス領域であり,遊技制御プログラムおよびデータがCD-ROM102からこの領域に読み込まれて実行される。マイコン71は,ユーザRAMエリアの遊技制御プログラムを実行し,遊技制御データを利用する。」
「【0060】図10は,画像制御基板94のマイコン67(CPU68)の論理アドレス空間のメモリマップを示す図である。マイコン67は,論理アドレス空間として0000h?FFFFhの64KBのアドレス空間を有するものであるが,この論理アドレス空間に2MBの物理アドレス空間のメモリをメモリマッピングによりマッピングし,2MBの物理メモリをアクセスすることができる。」
「【0061】0000hからのI/Oおよび内蔵レジスタエリアは,I/Oポートおよび内蔵レジスタに割り当てられたアドレス領域である。ワークRAMエリアは,マイコン67に内蔵された作業用RAM69のためのアドレス領域である。画像データバンクエリアは,画像データを読み取るための領域である。ROMエリアは,マイコン67に内蔵されたROM70のためのアドレス領域である。プログラム及びデータエリアは,表示制御プログラム,音声データ等のプログラムおよびデータにアクセスするためのアドレス領域である。」
「【0062】図11は,マイコン67の物理アドレス空間のメモリマップを示す図である。物理アドレス空間は000000h?1FFFFFhの2MBの領域である。物理アドレス空間のユーザRAMエリアは,論理アドレス空間の画像データバンクエリアおよびプログラム及びデータエリアにマッピングされる。物理アドレス空間のROMエリア,ワークRAMエリア,I/O及び内蔵レジスタエリアは,論理アドレス空間のそれぞれの対応する領域にマッピングされている。」
「【0063】図12は,図11におけるユーザRAMエリアの詳細なメモリマップを示す図である。表示制御プログラムエリアは,画像表示手段53に表示する画像を制御するためにマイコン67が実行する表示制御プログラムを記憶する領域である。画像データエリアは,常時使用する画像データを記憶する領域であり,音声データエリアは,常時使用する音声データを記憶する領域である。これらの表示制御プログラムエリア,画像データエリア,音声データエリアは固定領域であり,パチンコ機1の電源投入時やシステムリセット時にCD-ROM102のリードアウト側記録領域201から,表示制御プログラム,画像および音声データ等の固定データを読み込む。これらの固定データは,パチンコ機1の動作中は破棄されることなく常にメモり中(注:原文まま)に保持されている。」
また,上記記載で示された図が記載されている。

4.甲第4号証:特開2000-93620号公報
本件特許にかかる原出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第4号証には,遊技機のメモリマップにつき,従来技術として,以下の記載がなされている。
「【0005】この場合,従来の遊技制御装置では,図6のRAM領域メモリマップに示すように,RAMのワークエリアの破壊を検出できるように,RAMの記憶領域のうちワークエリアとなる記憶領域102(0001H番地?00DF番地)の前後の番地(0000H番地,000C0H番地)の記憶領域101,103がそれぞれ第1の検査領域,第2の検査領域として割り当てられ,これらにそれぞれRAM検査第1データ,RAM検査第2データが格納されるようになっていた。すなわち,従来の遊技制御装置では,第1の検査用領域は,RAMの先頭番地の記憶領域101に配置されるようになっていた。なお,RAMの残りの領域104(00C1番地?00FF番地)はスタック領域となる。」
「【0006】なお,遊技制御装置においては,従来から,図6のように0000H番地?00FF番地にかけてに(注:原文まま)RAM領域を配設することが多い。これは,遊技制御装置のCPUとして,0000H番地?00FF番地へのアクセス命令が,他の番地へのアクセス命令に比較して短いプログラムで記述できるものが採用されていることから,頻繁にアクセスされるRAM領域を,0000H番地?00FF番地に配設することが,プログラム作成上,効率的であることに基づいている。」

5.甲第5号証:特開2003-144658号公報
本件特許にかかる原出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第5号証には,弾球遊技機のメモリマップにつき,以下の記載がなされている。
「【0046】次に,パチンコ機2の制御上のメモリマップについて説明する。図7に示すように,先頭部に内蔵RAM83用にワーク領域 (アドレス0000H?00FFH)が割り当てられ,このワーク領域の後続側に,未使用領域 (アドレス0100H ?0FFFH),内蔵レジスタ領域 (アドレス1000H ?103FH),未使用領域 (アドレス1040H ?1FFFH),CSIOデコード領域 (アドレス2000H ?20FFH),未使用領域 (アドレス2100H ?DFFFH)と,更に,プログラム管理領域 (アドレスE000H?E0FFH),内蔵ROM82用にプログラム領域 (アドレスE100H ?FFFFH)が順々に割り当てられている。但し,記号Hは,16進数を示すものである。」
「【0047】ワーク領域には,遊技制御情報領域83A (アドレス0000H ?00A0H)と,未使用領域83B (アドレス00A1H ?00EAH)と,スタック領域83C (アドレス00EBH ?00FFH)とがこの順に設けられている。遊技制御情報領域83Aには,図8に示すように,先頭側の共通記憶部CMと,これに後続させた後続側に非共通記憶部NMがこの順に設けられている。共通記憶部CMには,タイマ情報メモリ領域83aと,図柄情報メモリ領域83bと,コマンドバッファ領域83cと,カウンタ・スイッチ情報メモリ領域83d等の複数の記憶部がこの順に設けられている。」

6.甲第6号証:特開2003-180962号公報
本件特許にかかる原出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第6号証には,遊技機のメモリマップにつき,以下の記載がなされている。
「【0046】図柄制御手段60は,特別図柄表示手段23を制御する特別図柄制御手段61と,普通図柄表示手段24を制御する普通図柄制御手段62と,変動パターン記憶手段63等を有し,コマンド送信手段56から送信される図柄制御コマンドを受信し,受信した図柄制御コマンドを解析する。図柄制御手段60においては,特別図柄制御手段61により各図柄表示部23a?23cにおける特別図柄変動が制御され,普通図柄制御手段62により各図柄表示部24a,24bにおける普通図柄変動が制御される。変動パターン記憶手段63には,普通図柄や特別図柄に関して,複数の変動パターン番号の各々に変動内容(変動時間を含む)を対応づけた変動パターン情報が記憶されている。」
「【0047】このように,複数の手段51?56を有する主制御手段50は前述したマイコン39Aにより実現されている。そこで,主制御基板39には前述したように,マイコン39Aを有しており,このマイコン39Aは,CPU75とROM76及びRAM77等を備えている。ここで,主制御手段50による主制御上のメモリマップについて説明しておく。」
「【0048】図6に示すように,先頭部に内蔵RAM77用にワーク領域 (アドレス0000H?00FFH)が割り当てられ,このワーク領域の後続側に,未使用領域 (アドレス0100H ?0FFFH),内蔵レジスタ領域 (アドレス1000H ?103FH),未使用領域 (アドレス1040H ?1FFFH),CSIOデコード領域 (アドレス2000H ?20FFH),未使用領域 (アドレス2100H ?DFFFH)と,更に,プログラム管理領域 (アドレスE000H?E0FFH),内蔵ROM76用にプログラム領域 (アドレスE100H ?FFFFH)が順々に割り当てられている。但し,記号Hは,16進数を示すものである。」
「【0049】RAM77のワーク領域には,図7に示すように,遊技制御情報領域77aと,未使用領域77bと,スタック領域77cと,バックアップ情報メモリ77dとがこの順に設けられている。遊技制御情報領域77aには,その先頭部に,乱数発生手段51により順次発生する大当たり抽出用制御乱数と,乱数発生手段51により発生する複数の抽出用乱数が一巡する毎に一巡を開始する初期値(先頭値)を更新する初期値更新用乱数と,前回用いた初期値用乱数と,大当たりに際して確率変動図柄と非確率変動図柄を決定する大当たり図等決定用乱数等が記憶されるとともに,これらに続けて,遊技動作や遊技制御に必要な種々の遊技制御情報が記憶される。」
「【0050】スタック領域77cには,サブルーチンコールする場合のアドレス等が記憶される。また,バックアップ情報メモリ77dには,主電源が断たれる場合に,電源復帰時に遊技制御の再開に必要な種々のバックアップ情報が記憶される。ここで,このマイコン39AのRAM77とマイコン46AのRAM81には,後述するバックアップ電源93からのバックアップ用電力が供給されており,これらRAM77,81の全ての記憶情報が記憶保持されている。ROM76のプログラム領域には,遊技動作制御プログラムが主として記憶されている。」

7.甲第7号証:特開2003-180963号公報
本件特許にかかる原出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第7号証には,遊技機のメモリマップにつき,以下の記載がなされている。
「【0047】図柄制御手段60は,特別図柄表示手段23を制御する特別図柄制御手段61と,普通図柄表示手段24を制御する普通図柄制御手段62と,変動パターン記憶手段63等を有し,コマンド送信手段56から送信される図柄制御コマンドを受信し,受信した図柄制御コマンドを解析する。図柄制御手段60においては,特別図柄制御手段61により各図柄表示部23a?23cにおける特別図柄変動が制御され,普通図柄制御手段62により各図柄表示部24a,24bにおける普通図柄変動が制御される。変動パターン記憶手段63には,普通図柄や特別図柄に関して,複数の変動パターン番号の各々に変動内容(変動時間を含む)を対応づけた変動パターン情報が記憶されている。」
「【0048】このように,複数の手段51?56を有する主制御手段50は前述したマイコン39Aにより実現されている。そこで,主制御基板39には前述したように,マイコン39Aを有しており,このマイコン39Aは,CPU75とROM76及びRAM77等を備えている。ここで,主制御手段50による主制御上のメモリマップについて説明しておく。」
「【0049】図6に示すように,先頭部に内蔵RAM77用にワーク領域 (アドレス0000H?00FFH)が割り当てられ,このワーク領域の後続側に,未使用領域 (アドレス0100H ?0FFFH),内蔵レジスタ領域 (アドレス1000H ?103FH),未使用領域 (アドレス1040H ?1FFFH),CSIOデコード領域 (アドレス2000H ?20FFH),未使用領域 (アドレス2100H ?DFFFH)と,更に,プログラム管理領域 (アドレスE000H?E0FFH),内蔵ROM76用にプログラム領域 (アドレスE100H ?FFFFH)が順々に割り当てられている。但し,記号Hは,16進数を示すものである。」
「【0050】RAM77のワーク領域には,図7に示すように,遊技制御情報領域77aと,未使用領域77bと,スタック領域77cと,バックアップ情報メモリ77dとがこの順に設けられている。遊技制御情報領域77aには,その先頭部に,乱数発生手段51により順次発生する大当たり抽出用制御乱数と,乱数発生手段51により発生する複数の抽出用乱数が一巡する毎に一巡を開始する初期値(先頭値)を更新する初期値更新用乱数と,前回用いた初期値用乱数と,大当たりに際して確率変動図柄と非確率変動図柄を決定する大当たり図等決定用乱数等が記憶されるとともに,これらに続けて,遊技動作や遊技制御に必要な種々の遊技制御情報が記憶される。」
「【0051】スタック領域77cには,サブルーチンコールする場合のアドレス等が記憶される。また,バックアップ情報メモリ77dには,主電源が断たれる場合に,電源復帰時に遊技制御の再開に必要な種々のバックアップ情報が記憶される。ここで,このマイコン39AのRAM77とマイコン46AのRAM81には,後述するバックアップ電源93からのバックアップ用電力が供給されており,これらRAM77,81の全ての記憶情報が記憶保持されている。ROM76のプログラム領域には,遊技動作制御プログラムが主として記憶されている。」

8.甲第8号証:特開平5-317486号公報
本件特許にかかる原出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第8号証には,スロットマシン等の遊技機のメモリマップにつき,以下の記載がなされている。
「【0022】図5は,図4のRAM58に記憶されたデータの一例を示すメモリマップである。図5に示すように,RAM58は,各アドレスごとに8ビットの記憶領域を有し,各種のデータは単アドレスまたは複数アドレスを使って記憶されている。」

9.甲第9号証:特開平9-91162号公報
本件特許にかかる原出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第9号証には,スロットマシン等の遊技機のメモリマップにつき,以下の記載がなされている。
「【0090】次に,基本回路40に含まれるRAMの記憶内容を詳細に説明する。図10は,RAM403の記憶内容を示すメモリマップである。」
「【0091】図10を参照して,RAM403は,RAMアドレスごとに8ビットの記憶エリアを有する。RAM403には,制御データ等の各種のデータが単アドレスまたは複数アドレスを使用して記憶される。図10を用いて具体的に説明すると,制御データとして,たとえば,大当りフラグ1?3およびプロセスフラグ等の制御データが,予め定められたアドレスに記憶されている。」

10.甲第10号証:特開2001-246117号公報
本件特許にかかる原出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第10号証には,遊技機のメモリマップにつき,以下の記載がなされている。
「【0026】ファームROM525には,検査情報の出力に必要なプログラムが格納されており,規定の検査仕様に基づいて検査情報信号出力コネクタ533から出力される。コスト,機構的な制約から検査情報の転送は,シリアル転送方式が効果的である。検査情報は,アドレスデコード回路531で指定された出力ポート532を介して検査情報信号出力コネクタ533から出力される。また,検査情報信号出力コネクタ533から出力される信号は,シリアルデータとして転送される検査情報信号と,転送タイミングをとるために必要な同期信号と,転送終了信号とで構成され,その転送タイミングは,ファームROM525上にプログラミングされている。検査情報は,図6に示すように,RAM(不図示)の所定領域に格納され,かつ,ビット単位に割り当てられている。図6の例では,RAMの領域のうち検査情報を格納すべき領域には,その先頭アドレスから順に,検査情報1?6が格納されている。図6は,検査情報を格納したRAMのメモリマップを示す図である。」

11.甲第11号証:特開2003-190425号公報
本件特許にかかる原出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第11号証には,遊技機のメモリマップにつき,以下の記載がなされている。
「【0113】次に,遊技制御用マイクロコンピュータ53のRAM55において記憶される各種データの一例を説明する。ここでは,特に,前述した電源断時にバックアップされるデータを一例として説明する。図9は,遊技制御用マイクロコンピュータ53のRAM55に記憶される各種データの一例をメモリ番地とデータ内容との対応をメモリマップ図形式で示す図である。」
「【図9】 遊技制御用マイクロコンピュータのRAMに記憶される各種データの一例をメモリ番地とデータ内容との対応をメモリマップ図形式で示す図である。」

12.甲第12号証:特開2004-5267号公報
本件特許にかかる原出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第12号証には,遊技機のメモリマップにつき,以下の記載がなされている。
「【0033】<デコード手段の説明> 次に図2,図3に示すデコード手段c6は,メモリマップドI/O方式,またはI/OマップドI/O方式によるチップ内部の各機能ブロックのデコードや外部デバイス用のデコード用信号であるチップセレクト信号のデコードを行い,チップセレクト信号のアドレス範囲を設定する。チップセレクト信号を例にすると,図4にメモリマップドI/O方式によるチップセレクト信号がFF00(16進)?FF19(16進)にマッピングされ,図5(b)にI/OマップドI/O方式によるチップセレクト信号が00(16進)?19(16進)にマッピングされていることを示している。なお,チップセレクト信号は複数本あるので,便宜上本明細書ではこれらを総称して外部デバイスデコード出力バスとしている。」

13.甲第13号証:特開2004-121422号公報
本件特許にかかる原出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第13号証には,遊技用装置のメモリマップにつき,以下の記載がなされており,図10には,メモリマップが開示されている。
「【図10】本発明の実施例のカードユニットにおけるメモリ構成を示すメモリマップである。」

14.甲第14号証:特開2003-181121号公報
本件特許にかかる原出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第14号証には,遊技用システムのメモリマップにつき,以下の記載がなされており,図8には,メモリマップが開示されている。
「【図8】本発明の実施例におけるカードユニット内のメモリ構成を示すメモリマップである。」


第4 当審の判断
1.本件特許発明の認定について
本件特許発明は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
1ゲームに対して所定数の賭数を設定することによりゲームが開始可能となるとともに,各々が識別可能な複数種類の識別情報を変動表示可能な可変表示装置の表示結果が導出表示されることにより1ゲームが終了し,該可変表示装置の表示結果に応じて入賞が発生可能とされたスロットマシンであって,
遊技の制御を行う遊技制御手段を備え,
前記遊技制御手段は,
データを読み出し及び書き込み可能に記憶する記憶領域を有する記憶手段であり,前記記憶領域として前記遊技制御手段が動作を行うためのデータが記憶されるワーク領域と,前記遊技制御手段が動作を行うためのデータが読み出し及び書き込みが行われることのない未使用領域と,が少なくとも割り当てられたデータ記憶手段と,
複数種類の初期化条件のうちいずれかの初期化条件が成立したときに,前記データ記憶手段における記憶領域のうち該成立した初期化条件の種類に対応して定められた領域を初期化するとともに,前記データ記憶手段の記憶領域における前記未使用領域を1ゲーム毎に初期化する初期化手段と,
を含み,
前記データ記憶手段には,記憶領域を特定するアドレスが割り当てられているとともに,
前記初期化手段は,2種類以上の初期化条件の種類に対応して前記データ記憶手段における初期化開始アドレスがそれぞれ設定されるとともに,該2種類以上の初期化条件に共通する一の初期化終了アドレスが設定された初期化領域設定手段を含み,前記2種類以上の初期化条件のうちいずれかの初期化条件が成立したときに,該初期化条件の種類に対応して前記初期化領域設定手段に設定された初期化開始アドレスから前記2種類以上の初期化条件に共通して前記初期化領域設定手段に設定された初期化終了アドレスまでの各アドレスが割り当てられた記憶領域を初期化する
ことを特徴とするスロットマシン。」

ここで,本件特許発明の認定について検討しておく。
まず,請求項1の「前記初期化手段は,2種類以上の初期化条件の種類に対応して前記データ記憶手段における初期化開始アドレスがそれぞれ設定されるとともに,該2種類以上の初期化条件に共通する一の初期化終了アドレスが設定された初期化領域設定手段を含み」とは,
初期化手段に含まれる初期化領域設定手段(実施例では図44(b)の初期化テーブル)には,初期化条件の種類に対応してデータ記憶手段における初期化開始アドレスが,初期化条件の種類の数だけ,設定(登録)されるとともに,2種類以上の初期化条件に共通する一の初期化終了アドレスが,設定(登録)されているという意味と解される。
さらに,それに続く請求項1における,初期化手段は「前記2種類以上の初期化条件のうちいずれかの初期化条件が成立したときに,該初期化条件の種類に対応して前記初期化領域設定手段に設定された初期化開始アドレスから前記2種類以上の初期化条件に共通して前記初期化領域設定手段に設定された初期化終了アドレスまでの各アドレスが割り当てられた記憶領域を初期化する」については,
当該記載事項に,初期化領域設定手段(初期化テーブル)を参照してアドレス情報を取得することは明示されていないものの,技術常識に照らせば当然にそのような参照と取得がなされているものと理解されるから,当該記載事項の「(成立した)該初期化条件の種類に対応して前記初期化領域設定手段に設定された初期化開始アドレス」及び「前記2種類以上の初期化条件に共通して前記初期化領域設定手段に設定された初期化終了アドレス」は,初期化領域設定手段を参照して取得されたアドレス情報であることが規定されていると認められる。
すなわち,当該記載事項における「(成立した)該初期化条件の種類に対応した初期化開始アドレス」及び「前記2種類以上の初期化条件に共通した初期化終了アドレス」は,初期化領域設定手段を情報源として取得した情報であり,他の情報源から取得したアドレス情報ではない。
なお,他の情報源としては,例えば,本件特許の図13(a)に示されるような,各初期化条件に応じて初期化する領域を各種ワークやスタック領域等ごとに整理した初期化される領域と,図44(a)に示されるような,各種ワークやスタック領域等の記憶領域に対してアドレスが割り当てられているRAMの格納領域を示す情報とを情報源としたものが考えられ,その処理は,まず図13(a)から初期化条件の種類に対応する初期化領域である各種ワークやスタック領域等の情報を取得し,次に,当該情報に基づいて図44(a)から「(成立した)該初期化条件の種類に対応した初期化開始アドレス」及び「前記2種類以上の初期化条件に共通した初期化終了アドレス」を取得することが考えられる。しかし,請求項1の当該記載事項は,このようにして取得されたアドレス情報は規定していないのである。
つまり,請求項1には,初期化領域設定手段に,2種類以上の初期化条件の種類に対応した個々の初期化開始アドレスと,該2種類以上の初期化条件に共通する一の初期化終了アドレスとが予め設定(登録)されており,前記2種類以上の初期化条件のうちいずれかの初期化条件が成立したときに,初期化領域設定手段に設定された情報に基づき特定される「(成立した)該初期化条件の種類に対応した初期化開始アドレス」及び「前記2種類以上の初期化条件に共通した初期化終了アドレス」を用いて,該成立した初期化条件の種類に対応する初期化開始アドレスから共通の初期化終了アドレスまでの各アドレスが割り当てられた記憶領域を初期化することが,初期化領域設定手段を含む初期化手段の機能として,規定されている。
なお,特許明細書の【0385】?【0393】には,「初期化開始アドレスから初期化終了アドレスまでの記憶領域を初期化する」ための具体的な手法として,開始アドレスにポインタを設定し,1バイトクリアする毎にポインタを進める処理をし,ポインタが示すアドレスが終了アドレスであるかを判定し,終了アドレスであれば初期化を終了する手法や,開始アドレスから終了アドレスまでの初期化バイト数を計算して,1バイトクリアする毎に初期化バイト数を1減算し,初期化バイト数がゼロになった時点で終了アドレスに到達したと判定し,初期化を終了する手法が示されているところ,請求項1は,そのような「初期化開始アドレスから初期化終了アドレスまでの記憶領域を初期化する」ための具体的な手法を規定しようとするものではない。

次に,請求項1の「前記データ記憶手段には,記憶領域を特定するアドレスが割り当てられている」との記載は,2種類以上の初期化条件の種類に対応して初期化される領域に連続するアドレスが割り当てられていることは明記されていない。
しかし,それに続く請求項1の「前記初期化手段は,2種類以上の初期化条件の種類に対応して前記データ記憶手段における初期化開始アドレスがそれぞれ設定されるとともに,該2種類以上の初期化条件に共通する一の初期化終了アドレスが設定された初期化領域設定手段を含み,前記2種類以上の初期化条件のうちいずれかの初期化条件が成立したときに,該初期化条件の種類に対応して前記初期化領域設定手段に設定された初期化開始アドレスから前記2種類以上の初期化条件に共通して前記初期化領域設定手段に設定された初期化終了アドレスまでの各アドレスが割り当てられた記憶領域を初期化する」との記載を考慮すると,
請求項1の「前記データ記憶手段には,記憶領域を特定するアドレスが割り当てられている」におけるアドレスの割り当ては,より詳細には,記憶手段の記憶領域のうち2種類以上の初期化条件に対応して初期化される領域に,2種類以上の初期化条件の種類に対応してデータ記憶手段における初期化開始アドレスと,2種類以上の初期化条件に共通する一の初期化終了アドレスとが割り当てられており,しかも,初期化開始アドレスから初期化終了アドレスまでの記憶領域を初期化するのであるから,初期化開始アドレスから初期化終了アドレスまでは,初期化しない領域が含まれないように,連続するアドレスが割り当てられているものと認められる。

なお,請求人は,「本件特許発明の特許請求の範囲の記載では,初期化領域の構成について,これが,各初期化条件に対応してそれぞれ設定された初期化開始アドレスから,各初期化条件に共通して設定された初期化終了アドレスまでの各アドレスが割り当てられた領域であることが,発明事項として特定されている。しかし,本件特許発明の特許請求の範囲の記載において,初期化領域が具体的にどのように初期化されるのか,初期化の実行処理方法について限定する記載は全くない。」と主張するが,本件特許発明は上記で検討したとおりのものであり,請求人の主張は,請求項1に規定された初期化領域設定手段,及び初期化領域設定手段を含む初期化手段の機能を無視するものであるから,妥当でない。


2.無効理由1(新規性欠如)について
本件特許発明と甲1発明とを対比する。

甲1発明の「「色なし7」,「色つき7」,「BAR」,「JAC」,「スイカ」,「チェリー」,「ベル」といった図柄」は,本件特許発明の「各々が識別可能な複数種類の識別情報」に相当し,
甲1発明の「可変表示装置2の内部には,リールモータの駆動によって回転/停止させられる,3つのリール3L,3C,3Rから構成されるリールユニット3が設けられ,リール3L,3C,3Rの外周部には,それぞれ「色なし7」,「色つき7」,「BAR」,「JAC」,「スイカ」,「チェリー」,「ベル」といった図柄が所定の順序で描かれて」いる「可変表示装置2」は,実質的に,本件特許発明の「各々が識別可能な複数種類の識別情報を変動表示可能な可変表示装置」に相当する。

甲1発明の「スロットマシンにおける遊技の進行全体の流れを制御するメイン側の制御基板であって,CPU111,RAM112,ROM113及びI/Oポート114を含む1チップマイクロコンピュータからなる制御部110を搭載している,遊技制御基板101」,あるいは,遊技制御基板101の「制御部110」は,本件特許発明の「遊技の制御を行う遊技制御手段」に相当する。

甲1発明の「遊技制御基板101のRAM112」は,本件特許発明の「データを読み出し及び書き込み可能に記憶する記憶領域を有する記憶手段」あるいは「データ記憶手段」に相当し,
甲1発明の「遊技制御基板101のRAM112は,ワーク領域としての重要ワーク112-1,一般ワーク112-2,特別ワーク112-3,設定値ワーク112-4及び非保存ワーク112-5と,未使用領域112-6と,スタック領域としての未使用スタック領域112-7及び使用中スタック領域112-8とに分かれており」のなかの,「ワーク領域としての重要ワーク112-1,一般ワーク112-2,特別ワーク112-3,設定値ワーク112-4及び非保存ワーク112-5」は,本件特許発明の「前記遊技制御手段が動作を行うためのデータが記憶されるワーク領域」に相当し,
また,甲1発明の「未使用領域112-6」が,本件特許発明の「前記遊技制御手段が動作を行うためのデータが読み出し及び書き込みが行われることのない未使用領域」に相当する。
なお,本件特許発明の「未使用領域」の解釈について,本件特許明細書の【0007】?【0009】には,従来,RAMの格納領域のうち未使用の格納領域(設計上全く使用されることのない格納領域やスタックの未使用領域)は,定期的に初期化されるものではないため,これらRAMの未使用領域に不正なプログラムを常駐させる不正がなされる虞があったので,本件特許発明は,未使用領域に不正プログラムが常駐することを防止できるようにした旨の記載があること,また,本件特許の図13では,未使用領域だけでなく未使用スタック領域も初期化対象にされていること,同じく図44(b)では,本件特許発明の「該2種類以上の初期化条件に共通する一の初期化終了アドレス」に対応するものとして,「SP」のアドレス(すなわち,スタックポインタが位置するアドレス)が示されていることから,未使用スタック領域は,「未使用領域」の一種であると解する余地があり得るので検討すると,本件特許発明は,「前記遊技制御手段が動作を行うためのデータが読み出し及び書き込みが行われることのない未使用領域」と規定されているので,本件特許発明の「未使用領域」に,未使用スタック領域は含まないと解され,甲1発明の「未使用スタック領域112-7」は,本件特許発明の「未使用領域」に相当しない。

甲1発明の
「RAM112の各領域112-1?8をクリアする条件は図7にまとめられたように,
電源投入時でRAMが壊れていた時は,重要ワーク112-1,一般ワーク112-2,特別ワーク112-3,設定値ワーク112-4,非保存ワーク112-5,未使用領域112-6と,未使用スタック領域112-7が初期化され,
電源投入時でRAMが壊れていなかった時は,非保存ワーク112-5,未使用領域112-6と,未使用スタック領域112-7が初期化され,
毎遊技開始時は,未使用領域112-6と,未使用スタック領域112-7が初期化されるもので」
において,
「電源投入時でRAMが壊れていた時」「電源投入時でRAMが壊れていなかった時」「毎遊技開始時」は,いずれも,RAM112の各領域112-1?112-8の少なくとも一部分をクリアする条件であるから,本件特許発明の「複数種類の初期化条件」に相当するので,
甲1発明は,本件特許発明の「複数種類の初期化条件のうちいずれかの初期化条件が成立したときに,前記データ記憶手段における記憶領域のうち該成立した初期化条件の種類に対応して定められた領域を初期化する」ものであるといえ,
また,甲1発明における「毎遊技開始時」の初期化は,本件特許発明の「前記データ記憶手段の記憶領域における前記未使用領域を1ゲーム毎に初期化する」に相当し,
甲1発明は,当然に本件特許発明の「初期化手段」に相当する手段を有するといえる。
次に,甲1発明における,RAM112の各領域112-1?112-8の並び順(甲1の図6)は,本件特許明細書の図44(a)に記載のものと類似し,本件特許発明につながる条件は部分的にあるといえるけれども,
甲1発明には,初期化条件の種類(RAM112の領域112-1?112-8のうちどの領域を初期化するか)に対応した初期化開始点と,初期化条件の種類に関係なく共通である初期化終了点を,各領域に割り当てられたアドレスにより設定する旨の記載はないので,
本件特許発明の
「前記データ記憶手段には,記憶領域を特定するアドレスが割り当てられているとともに,
前記初期化手段は,2種類以上の初期化条件の種類に対応して前記データ記憶手段における初期化開始アドレスがそれぞれ設定されるとともに,該2種類以上の初期化条件に共通する一の初期化終了アドレスが設定された初期化領域設定手段を含み,前記2種類以上の初期化条件のうちいずれかの初期化条件が成立したときに,該初期化条件の種類に対応して前記初期化領域設定手段に設定された初期化開始アドレスから前記2種類以上の初期化条件に共通して前記初期化領域設定手段に設定された初期化終了アドレスまでの各アドレスが割り当てられた記憶領域を初期化する」
に相当する記載は,甲1発明にはない。

そうすると,両発明の一致点,相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「1ゲームに対して所定数の賭数を設定することによりゲームが開始可能となるとともに,各々が識別可能な複数種類の識別情報を変動表示可能な可変表示装置の表示結果が導出表示されることにより1ゲームが終了し,該可変表示装置の表示結果に応じて入賞が発生可能とされたスロットマシンであって,
遊技の制御を行う遊技制御手段を備え,
前記遊技制御手段は,
データを読み出し及び書き込み可能に記憶する記憶領域を有する記憶手段であり,前記記憶領域として前記遊技制御手段が動作を行うためのデータが記憶されるワーク領域と,前記遊技制御手段が動作を行うためのデータが読み出し及び書き込みが行われることのない未使用領域と,が少なくとも割り当てられたデータ記憶手段と,
複数種類の初期化条件のうちいずれかの初期化条件が成立したときに,前記データ記憶手段における記憶領域のうち該成立した初期化条件の種類に対応して定められた領域を初期化するとともに,前記データ記憶手段の記憶領域における前記未使用領域を1ゲーム毎に初期化する初期化手段と,
を含む,
スロットマシン。」

[相違点]
本件特許発明は,
前記データ記憶手段には,記憶領域を特定するアドレスが割り当てられている(以下,「構成要件(C)」という。)とともに,
前記初期化手段は,2種類以上の初期化条件の種類に対応して前記データ記憶手段における初期化開始アドレスがそれぞれ設定されるとともに,該2種類以上の初期化条件に共通する一の初期化終了アドレスが設定された初期化領域設定手段を含み,前記2種類以上の初期化条件のうちいずれかの初期化条件が成立したときに,該初期化条件の種類に対応して前記初期化領域設定手段に設定された初期化開始アドレスから前記2種類以上の初期化条件に共通して前記初期化領域設定手段に設定された初期化終了アドレスまでの各アドレスが割り当てられた記憶領域を初期化する(以下,「構成要件(D)」という。)のに対して,
甲1発明は,
重要ワーク112-1,一般ワーク112-2,特別ワーク112-3,設定値ワーク112-4,非保存ワーク112-5,未使用領域112-6と,未使用スタック領域112-7,使用中スタック領域112-8は,RAM112のメモリマップにおいて,この順に配置されており,
RAM112の各領域112-1?8をクリアする条件は図7にまとめられたように,
電源投入時でRAMが壊れていた時は,重要ワーク112-1,一般ワーク112-2,特別ワーク112-3,設定値ワーク112-4,非保存ワーク112-5,未使用領域112-6と,未使用スタック領域112-7が初期化され,
電源投入時でRAMが壊れていなかった時は,非保存ワーク112-5,未使用領域112-6と,未使用スタック領域112-7が初期化され,
毎遊技開始時は,未使用領域112-6と,未使用スタック領域112-7が初期化されるもので,
初期処理は,
まず直前にメインスイッチ94の操作により電源が投入されたかどうかを判定し(ステップS101),
直前に電源が投入された場合には,RAM112の状態をチェックし,そのデータ内容が壊れているかどうかを判定し(ステップS102),
RAM112が壊れていなければ,非保存ワーク112-5のみをクリアして(ステップS103),ステップS108の処理に進み,
RAM112が壊れていた場合には,重要ワーク112-1,一般ワーク112-2,特別ワーク112-3,及び非保存ワーク112-5をクリアすると共に,設定値ワーク112-4に設定値として1を入れて(ステップS104),ステップS108の処理に進み,
また,ステップS101において直前に電源が投入されたのではなかった場合には,直前に設定スイッチ91の操作により内部当選確率の設定変更がされたかどうかを判定し(ステップS105),
設定変更がされていた場合には,重要ワーク112-1と一般ワーク112-2とをクリアし(ステップS106),さらに,その操作により変更された設定の値を設定値ワーク112-4に入れて(ステップS107),ステップS108の処理に進み,
設定変更もされていなかった場合には,そのままステップS108の処理に進み,
ステップS108では,いずれの条件においてもクリアされることとなる未使用領域112-6及び未使用スタック領域112-7をクリアして,初期処理を終了するものである点。

そこで,相違点について検討する。

本件特許発明の構成要件(C)は,メモリマップに連続したアドレスを割り当てる構成は,遊技機の技術分野において技術常識であること(甲第2?14号証参照。)を参酌すると,甲第1号証に記載されているに等しい事項といえる蓋然性がある。
しかし,本件特許発明の構成要件(D)については,甲第1号証に記載されておらず,しかも,技術常識を参酌しても,記載されているに等しい事項とはいえない。

よって,本件特許発明は,その原出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明ではない。


3.無効理由2(進歩性欠如)について
本件特許発明の構成要件(C)は,甲第1号証に記載されているに等しい発明といえない場合でも,メモリマップに連続したアドレスを割り当てる構成は,遊技機の技術分野において周知技術であること(甲第2?14号証を参照。)を参酌すると,容易想到であるといえる。
しかし,本件特許発明の構成要件(D)については,甲2?14号証にはこれに関する技術の開示がなく,たとえ技術常識を勘案したとしても,当業者が容易に想到し得たものということはできない。

なお,請求人は,甲第1号証には,メモリマップに連続したアドレスが割り付けられる構成,それぞれの初期化条件において,初期化開始アドレスから初期化終了アドレスまでの領域を一括して初期化する構成は,十分に示唆されており,また,甲第1号証において,初期化領域が記載されたメモリマップ(図6)及び各初期化条件に応じた初期化領域を記載した表(図7)が記載されている以上,これを基礎として,アドレスが連続する各領域を一括して初期化する構成に至ることは,当業者において,ごく自然な発想といえるから,甲1発明について,これに,初期化開始アドレスから初期化終了アドレスまでの領域を一括して初期化する構成を採用する動機付けも十分に認められる旨を主張する。
しかし,本件特許発明の構成要件(D)の初期化手段は,上記「第4 1.」で述べたとおり,初期化条件の種類毎の初期化開始アドレスと共通の初期化終了アドレスを予め設定(登録)した初期化領域設定手段を有し,かつ,該初期化領域設定手段に設定された情報に基づき特定される「成立した該初期化条件の種類に対応した初期化開始アドレス」及び「2種類以上の初期化条件に共通した初期化終了アドレス」を用いて,該初期化開始アドレスから該初期化終了アドレスまでの記憶領域を初期化するものであるから,請求人の「初期化開始アドレスから初期化終了アドレスまでの領域を一括して初期化する構成が容易である」との主張とそのための論理は,本件特許発明の構成要件(D)の一部についての容易想到性に対応するものに過ぎず,本件特許発明の構成要件(D)全体についての容易想到性を論理付けるものではない。

そして,本件特許発明は,構成要件(C)及び(D)を具備することにより,被請求人の主張する作用効果(上記「第2 2.(3)(イ)」を参照。)を奏するものといえる。

なお,被請求人は,作用効果の一つとして,「本件特許発明は単に初期化開始アドレスと共通の初期化終了アドレスを用いて初期化を行うだけでなく,初期化条件に応じた複数のデータ記憶領域を初期化するに際して,初期化領域設定手段に設定されている初期化条件に応じた初期化開始アドレスと初期化終了アドレスとを取得することで,複数種類の初期化を共通の処理を用いて行うものである」旨を主張する。この主張の根拠の一つは,本件特許発明には含まれない実施例(初期化テーブルを用いて初期化開始アドレスと初期化サイズにより初期化領域を特定する手法)に関する特許明細書【0297】の記載であるところ,前段落【0296】の記載も参酌すると,【0296】の最後の4行において比較例として記載された「初期化条件に応じた領域毎に初期化する」手法では,例えば,まず初期化条件の種類に応じた初期化対象の記憶領域(ワーク領域,未使用領域)を確認して,必要ならば(初期化対象の記憶領域になっていた場合に)ワーク領域を初期化する処理をし,次に未使用領域を初期化する処理を行う手法などが具体的に考えられる。これに対して,実施例の手法や本件特許発明の手法では,初期化条件の種類に応じた個別の処理は必要なく,予め用意された初期化領域設定手段(初期化テーブル)を参照して,初期化条件に応じた初期化開始アドレスと初期化終了アドレス(実施例では初期化開始アドレスと初期化サイズ)を取得するという処理となり,複数種類の初期化を共通の処理を用いて行うことができるという作用効果が期待されることを被請求人は主張していると理解することができる。

したがって,本件特許発明は,その原出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第5 むすび
以上のとおり,本件の請求項1に係る発明についての特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものでなく,また,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものでもないので,特許法第123条第1項第2号に該当せず,無効とすべきものでない。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-13 
結審通知日 2012-11-15 
審決日 2012-11-27 
出願番号 特願2007-139846(P2007-139846)
審決分類 P 1 113・ 113- Y (A63F)
P 1 113・ 121- Y (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡崎 彦哉小林 英司  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 吉村 尚
瀬津 太朗
登録日 2010-06-04 
登録番号 特許第4523017号(P4523017)
発明の名称 スロットマシン  
代理人 大住 洋  
代理人 溝渕 良一  
代理人 川端 さとみ  
代理人 井口 喜久治  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 森本 純  
代理人 藤野 睦子  
代理人 重信 和男  
代理人 堅田 多恵子  
代理人 辻 淳子  
代理人 山崎 道雄  
代理人 小椋 正幸  

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