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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1287320
審判番号 不服2013-11441  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-18 
確定日 2014-05-08 
事件の表示 特願2009-502891「タイヤ用パンクシール剤及びそれを製造する工程」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月 4日国際公開、WO2007/112010、平成21年 9月 3日国内公表、特表2009-531520〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2007年3月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年3月24日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年11月25日に翻訳文が提出され、平成24年7月20日付けで拒絶理由が通知され、平成25年1月24日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年2月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年6月18日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2 本願発明について
本願の請求項1ないし41に係る発明は、平成25年1月24日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし41にそれぞれ記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「パンクシール剤において、
グリセリン凍結防止剤と混合されている、天然ゴムと合成ゴムの内の一方を含んでいるゴム乳濁液を備えており、
前記パンクシール剤組成物の総重量に対する前記グリセリン凍結防止剤の割合は、5から75重量%の間にある、パンクシール剤。」

3 引用刊行物及びその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-170973号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。

ア 「【0011】
本発明のパンクシーリング剤は、少なくとも、ゴムラテックス溶液と短繊維とを含有する。さらに、クレイ系増粘剤を含有している。
【0012】
本明細書において、「ゴムラテックス溶液」とは、ゴムポリマーの粒子が分散した懸濁液で、短繊維を除いた状態のパンクシーリング剤をいう。例えば、本発明のパンクシーリング剤が、短繊維、ゴムラテックス、不凍液および増粘剤で構成されている場合、ゴムラテックス溶液とは、ゴムラテックス、不凍液および増粘剤の混合物をいう。
【0013】
(クレイ系増粘剤)
クレイ系増粘剤は、ゴムラテックス溶液の粘度を適正な範囲に調整するために含有される。スメクタイトクレイ等の粘度鉱物を用いたクレイ系増粘剤では、スメクタイト薄片が水和し、エッジ部は弱い「+」、表面は弱い「-」の電荷をおびる。この電荷で、スメクタイトが立体構造をとることで増粘する。上記のような機構で増粘するため、ラテックスの凝集はおこさない。
これに対し、従来技術であるメチルセルロース等の水溶性高分子を用いた増粘では、ラテックスと相互作用して粒径が1μmの粒を形成して増粘してしまうことが多い。
【0014】
クレイ系増粘剤としては、既述のスメクタイト(モンモリロナイト(ベントナイト)を含む)の他、アタパルジャイト、カオリン(カオリナイト)等があり、さらに、スメクタイトを4級アンモニウム有機コンパウンドと反応させて作る有機ベントナイトクレイのような有機物で修飾したクレイが挙げられる。それぞれの鉱物、結晶構造、粒子径等の特徴から用途に合わせて選択することが好ましい。」

イ 「【0043】
(凍結防止剤)
本発明のパンクシーリング剤は、凍結防止剤を含有していることが好ましい。凍結防止剤としては、特に限定されず、エチレングリコール、プロピレングリコール等を使用することができる。パンクシーリング剤中の凍結防止剤の含有量は、5?50質量%であることが好ましい。5質量%未満では、低温での凍結防止性が十分に得られないことがあり、50質量%を超えると、ゴムラテックス量に対して、グリコール量が多くなるため、パンク補修時に、凝集したゴムラテックスの粒がグリコール中に分散した状態として存在するため、十分なシール特性が得られないことがある。」

ウ 「【0048】
〔実施例1〕
下記(1)?(5)の材料をプロペラミキサーにて混合して、パンクシーリング剤を作製した。なお、20℃でのゴムラテックス溶液の粘度は1000mPa・s(撹拌子:BL3,60rpmにより測定)であり、+50℃?-20℃の温度域で3?6000mPaとなるように調整した。
【0049】
(1)ゴムラテックス・・・NBR系ラテックス(日本ゼオン社製、Nipol)、パンクシーリング剤中の含有量:65質量%
(2)短繊維・・・ナイロン繊維、パンクシーリング剤中の含有量:2質量%、短繊維の長さ:2?7mm、短繊維の太さ:5?30μm
(3)不凍液・・・エチレングリコール、パンクシーリング剤中の含有量:25質量%
(4)増粘剤・・・スメクタイトクレイ、パンクシーリング剤中の含有量:2質量%
(5)その他・・・残部として水」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-302629号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。

ア 「【請求項1】 インフレイタブルな物品と、その内部に配されたパンク自己封止用組成物とを含み、前記パンク自己封止用組成物が、二次元フィブリドの懸濁液を含有するパンク自己封止型のインフレイタブルな製品。
……
【請求項5】 前記懸濁液が凍結防止剤を含有する請求項1記載のパンク自己封止型のインフレイタブルな製品。
……
【請求項11】 前記凍結防止剤が、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびグリセリンよりなる群から選択される請求項5記載のパンク自己封止型のインフレイタブルな製品。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、平面型フィブリドを含有したパンク自己封止用組成物からなるパンク自己封止型のインフレイタブルな製品に関するもので、特に、凍結防止剤および固形物を少量使用するだけで、優れた流動性と持続性のある封止効果を得ることができ、自転車のタイヤおよびバイクや自動車のチューブ入りあるいはチューブレスタイヤの空気漏れ防止または封止に広く応用できるようなパンク自己封止型のインフレイタブルな製品に関するものである。」

(3)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭53-4903号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。

ア 「2.特許請求の範囲
(1)樹脂又はゴムの水溶液に樹脂又はゴムをゼリー状にゲル化した粒状物を混合したことを特徴とする自動車等のパンク防止剤」(1頁左下欄4?7行)

イ 「本発明は自転車、自動車等の空気入りタイヤ及びチューブのパンク防止剤とその製造法に係るもので、パンクと同時にその個所が閉塞されてチューブ内の圧力がほとんど低下することがなく、継続してそのまま安全運転が出来るようにした点を特徴とするものである。」(1頁左下欄15行?右下欄2行)

ウ 「然して上記水溶液中に更にグリセリン及びメタノールを加えることがあり、これ等を添加したものは氷点が低下するので寒冷地に於いて使用した場合顕著な効果を奏す。」(2頁右上欄15?18行)

4 引用例1に記載された発明
(1)引用例1には、摘示(1)ア「【0011】本発明のパンクシーリング剤は、少なくとも、ゴムラテックス溶液と短繊維とを含有する。さらに、クレイ系増粘剤を含有している。
【0012】本明細書において、「ゴムラテックス溶液」とは、ゴムポリマーの粒子が分散した懸濁液で、短繊維を除いた状態のパンクシーリング剤をいう。例えば、本発明のパンクシーリング剤が、短繊維、ゴムラテックス、不凍液および増粘剤で構成されている場合、ゴムラテックス溶液とは、ゴムラテックス、不凍液および増粘剤の混合物をいう。」及び摘示(1)ウ「【0048】〔実施例1〕
下記(1)?(5)の材料をプロペラミキサーにて混合して、パンクシーリング剤を作製した。なお、20℃でのゴムラテックス溶液の粘度は1000mPa・s(撹拌子:BL3,60rpmにより測定)であり、+50℃?-20℃の温度域で3?6000mPaとなるように調整した。
【0049】(1)ゴムラテックス・・・NBR系ラテックス(日本ゼオン社製、Nipol)、パンクシーリング剤中の含有量:65質量%
(2)短繊維・・・ナイロン繊維、パンクシーリング剤中の含有量:2質量%、短繊維の長さ:2?7mm、短繊維の太さ:5?30μm
(3)不凍液・・・エチレングリコール、パンクシーリング剤中の含有量:25質量%
(4)増粘剤・・・スメクタイトクレイ、パンクシーリング剤中の含有量:2質量%
(5)その他・・・残部として水」が記載されている。

(2)上記(1)から、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「少なくとも、ゴムラテックス溶液と短繊維とを含有し、さらに、クレイ系増粘剤を含有しているパンクシーリング剤であって、ゴムラテックス溶液とは、ゴムポリマーの粒子が分散した懸濁液で、短繊維を除いた状態のパンクシーリング剤をいい、
下記(1)?(5)の材料をプロペラミキサーにて混合して作製したパンクシーリング剤。
(1)ゴムラテックス・・・NBR系ラテックス(日本ゼオン社製、Nipol)、パンクシーリング剤中の含有量:65質量%
(2)短繊維・・・ナイロン繊維、パンクシーリング剤中の含有量:2質量%、短繊維の長さ:2?7mm、短繊維の太さ:5?30μm
(3)不凍液・・・エチレングリコール、パンクシーリング剤中の含有量:25質量%
(4)増粘剤・・・スメクタイトクレイ、パンクシーリング剤中の含有量:2質量%
(5)その他・・・残部として水」

5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「NBR系ラテックス(日本ゼオン社製、Nipol)」、「ゴムラテックス溶液」及び「パンクシーリング剤」は、それぞれ、本願発明の「合成ゴム」、「ゴム乳濁液」及び「パンクシール剤」に相当する。
(2)引用発明の「『不凍液』としての『エチレングリコール』」と本願発明の「『凍結防止剤』としての『グリセリン』」とは、凍結防止剤である点で一致する。
(3)引用発明の「ゴムラテックス溶液」とは、ゴムポリマーの粒子が分散した懸濁液で、短繊維を除いた状態のパンクシーリング剤をいい、不凍液であるエチレングリコールの該パンクシーリング剤中の含有量は25質量%であり、引用発明の「パンクシーリング剤」は、少なくとも、前記ゴムラテックス溶液と短繊維とを含有し、さらに、クレイ系増粘剤を含有しているものであるから、引用発明の「パンクシーリング剤」と本願発明の「パンクシーリング剤」とは、凍結防止剤と混合されている、合成ゴムを含んでいるゴム乳濁液を備えており、
パンクシール剤組成物の総重量に対する前記凍結防止剤の割合は、25重量%である点で重複する。

(4)上記(1)及び(2)から、本願発明と引用発明とは、
「パンクシール剤において、
凍結防止剤と混合されている、合成ゴムを含んでいるゴム乳濁液を備えており、
パンクシール剤組成物の総重量に対する前記凍結防止剤の割合は、25重量%である、パンクシール剤」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
本願発明は、凍結防止剤が、「グリセリン」であるのに対して、引用発明は、エチレングリコールである点。

6 判断
上記相違点について検討する。
(1)引用例1には、「(凍結防止剤)本発明のパンクシーリング剤は、凍結防止剤を含有していることが好ましい。凍結防止剤としては、特に限定されず、エチレングリコール、プロピレングリコール等を使用することができる。パンクシーリング剤中の凍結防止剤の含有量は、5?50質量%であることが好ましい。5質量%未満では、低温での凍結防止性が十分に得られないことがあり、50質量%を超えると、ゴムラテックス量に対して、グリコール量が多くなるため、パンク補修時に、凝集したゴムラテックスの粒がグリコール中に分散した状態として存在するため、十分なシール特性が得られないことがある。」(摘示(1)イ参照)との記載がある(下線は審決で付した。)。

(2)凍結防止剤としてグリセリンを含有したパンクシール剤は、本願の優先日前に周知のものである(以下「周知技術」という。例.引用例2及び3参照)。

(3)上記(1)及び(2)に照らし、引用発明において、不凍液としてエチレングリコールに代えて、グリセリンを用いることは、当業者が引用例1に記載された事項及び周知技術に基づいて容易になし得たことといえる。

(4)効果について
本願明細書の表1の事例A及びB、表2の事例1?8並びに表3の事例1及び2等を参酌しても、パンクシール剤に含有される凍結防止剤として、グリセリンがエチレングリコールに比べ、優れた効果を奏することを実証する具体的データは明らかにされていない。
したがって、本願発明は、パンクシール剤に含有される凍結防止剤としてグリセリンを用いる点に格別の効果を奏するものとは認められない。

(4)まとめ
よって、本願発明は、当業者が、引用例1に記載された発明、引用例1に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

7 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が、引用例1に記載された発明、引用例1に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、その余の点について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-06 
結審通知日 2013-12-09 
審決日 2013-12-20 
出願番号 特願2009-502891(P2009-502891)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 新居田 知生
菅野 芳男
発明の名称 タイヤ用パンクシール剤及びそれを製造する工程  
代理人 上杉 浩  
代理人 西島 孝喜  
代理人 大塚 文昭  
代理人 辻居 幸一  
代理人 須田 洋之  
代理人 熊倉 禎男  

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