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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W |
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管理番号 | 1287427 |
審判番号 | 不服2012-4478 |
総通号数 | 174 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-06-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-03-08 |
確定日 | 2014-05-07 |
事件の表示 | 特願2010-211205「ソフトハンドオフにある間送信パワーを制御するための方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月 3日出願公開、特開2011- 45106〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯及び本願発明 1.手続の経緯 本願は,1999年(平成11年)12月2日(優先権主張 1998年(平成10年)12月3日 米国)を国際出願日とする出願の一部を平成22年9月21日に新たな特許出願としたものであって,平成22年10月21日付けで手続補正がなされ,平成23年3月2日付けで拒絶理由が通知され,同年11月1日付けで拒絶査定され,平成24年3月8日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされ,平成25年2月6日付けで当審から拒絶理由を通知し,同年6月11日付けで意見書とともに手続補正書の提出がなされたものである。 2.本願発明 請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成25年6月11日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】 下記を具備する、通信システムのための方法: (1)順方向リンク信号及び逆方向リンク信号を介して移動局と第1の基地局との間の通信を維持すること; (2)前記順方向リンク信号の送信のパワーレベルを決定するための第1の送信パワーメッセージを前記移動局において、発生すること; (3)第2の基地局から前記移動局に、利得調整されたトラフイック信号及びパイロットチャンネルを備える前記順方向リンク信号を送信すること; (4)前記第2の基地局で前記移動局からの前記逆方向リンク信号を受信すること; (5)前記順方向リンク信号の冗長バージョンの送信のパワーレベルを決定するための第2の送信パワーメッセージを前記移動局において、発生すること;及び (6)前記第1及び第2の送信パワーメッセージを前記第1及び第2の基地局において受信すること、及び (7)基地局コントローラから前記第1の基地局と前記第2の基地局へ、アラインされたパワー制御命令を送ること、ここにおいて、前記第1の基地局及び前記第2の基地局は前記移動局と同時に通信し、ここにおいて、前記アラインされたパワー制御命令は、前記第2の基地局から前記移動局への、前記順方向リンク信号及び前記第1の基地局からの前記順方向リンク信号の送信のための前記第1及び第2の基地局においてパワー制御調整の相関パターンとを生成することに関する、ここにおいて、該相関パターンは、トラフィックとパイロットとの内積、トラフィック送信レベルとパイロットレベルの比、信号対雑音比のいずれか1つに基づいて設定される、 (8)前記第1の送信パワーメッセージの前記移動局により送られた前記パワー制御命令の第1の正しいパワー制御命令を、前記基地局コントローラにおいて決定すること、及び (9)前記第2の送信パワーメッセージに関して、前記移動局により送られた前記パワー制御命令の第2の正しいパワー制御命令を前記基地局コントローラにおいて決定すること。 第2 引用例及び引用発明 原査定の理由に引用された特開平10-112683号公報(平成10年4月28日公開。以下「引用例」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。 1.「【特許請求の範囲】 【請求項1】 複数の基地局と、該基地局に無線回線を介して接続される移動局と、該基地局を制御する基地局制御局を有し、該移動局と複数の基地局とを同時接続して該複数の基地局間でダイバーシチ合成を行うサイトダイバーシチが行われる移動局通信システムにおける下り送信電力制御方法であって、 前記移動局から送信され各基地局で終端されサイトダイバーシチ中に合成されない第1の制御信号を用いた第1の下り送信電力制御を行い、 前記基地局制御局から基地局に送信される追加制御信号を用いた追加の下り送信電力制御を行うことを特徴とする移動通信システムにおける下り送信電力制御方法。 (当審注 【請求項2】?【請求項20】の記載は省略。) 【請求項21】 前記第1の下り送信電力制御は各基地局の送信電力を独立に制御し、前記追加の下り送信電力制御はサイトダイバーシチ中に前記複数の基地局の送信電力が同一になるよう制御することを特徴とする請求項1記載の移動通信システムにおける下り送信電力制御方法。 【請求項22】 各基地局は、該各基地局における一定期間中の前記第1の送信電力制御による送信電力制御量と受信信頼度を前記基地局制御局に周期的に報告し、該基地局制御局は基地局中で最も高い受信信頼度を有する一基地局から報告された一送信電力制御量を他の基地局に通知し、該他の基地局の各々は該他の基地局の各々における送信電力を該基地局制御局から通知された該一送信電力制御量を用いて制御することにより前記複数の基地局の送信電力が同一になるよう周期的に制御されることを特徴とする請求項21記載の移動通信システムにおける下り送信電力制御方法。 【請求項23】 各基地局は、該各基地局における送信電力値を前記基地局制御局に周期的に報告し、該基地局制御局は一基地局から報告された一送信電力値を他の基地局に通知し、該他の基地局の各々は該他の基地局の各々における送信電力を該基地局制御局から通知された該一送信電力値に制御することを特徴とする請求項21記載の移動通信システムにおける下り送信電力制御方法。 【請求項24】 前記一送信電力値は、基地局から報告された送信電力値の中で最大のものであることを特徴とする請求項23記載の移動通信システムにおける下り送信電力制御方法。 【請求項25】 前記一送信電力値は、基地局から報告された送信電力値の中で最小のものであることを特徴とする請求項23記載の移動通信システムにおける下り送信電力制御方法。」 (公報第2ページ第1欄?第3ページ第4欄) 2.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、サイトダイバーシチを行う移動通信システムにおいて基地局から無線回線を介して移動局へ送信される下り無線信号の送信電力制御を効率的に行う移動通信システムにおける下り送信電力制御方法および移動通信システムに関する。 【0002】 【従来の技術】無線通信方式では、送信電力を必要最小限に抑える送信電力制御技術がある。送信電力制御を行うことにより、消費電力の節約や他の無線回線への干渉の低減といった効果が得られる。特に、CDMA方式では干渉量をできるだけ低く抑えることが、直接加入者容量の増大につながるため、送信電力制御は必須の技術である。 【0003】また、CDMA方式における干渉低減技術としてサイトダイバーシチがある。サイトダイバーシチは移動局と複数の基地局を同時接続し複数の基地局間でダイバーシチ合成を行う技術であり、より少ない送信電力で一定以上の通信品質を満足することができるため、干渉を低減し加入者容量を増大することができる。 【0004】無線通信においては一般に、移動局から基地局への上り回線と基地局から移動局への下り回線とでは、伝搬損失は一致しない。従って、送信電力制御の精度を高めるためには、クローズドループ送信電力制御を行うことが望ましい。 【0005】このクローズドループ送信電力制御では、図1に示すように、移動局で測定した受信品質に基づいて基地局送信電力を制御し(図1(b)参照)、基地局で測定した受信品質に基づいて移動局送信電力を制御する(図1(a)参照)。例えば、送信電力制御コマンドとして1ビット情報を用いる場合には、受信側で受信品質を測定した結果、所要の品質に見たない場合は「0」を、所定の品質を満たしている場合は「1」を送信電力制御コマンドとして送信側に伝送する。送信側では送信電力制御コマンドが「0」であれば送信電力を1ステップ上げ、「1」であれば送信電力を1ステップ下げる。この制御を連続的に行うことにより、受信品質をほぼ所要品質に保つことができる。 【0006】クローズドループ送信電力制御の方法として移動局と基地局間で終端した制御信号を用いて行う方法と、移動局と基地局制御局間で終端した制御信号を用いて行う方法がある。後者の場合、移動局が送信した制御信号はサイトダイバーシチ中に複数基地局で受信し合成した後に基地局制御局に送られる。ここでは、移動局と基地局間で終端した制御信号はレイヤ1で伝送されるとし、レイヤ1制御信号と呼ぶ。また、移動局と基地局制御局間で終端した制御信号はレイヤ3で伝送されるとし、レイヤ3制御信号と呼ぶ。 【0007】このクローズドループ送信電力制御の周期が短いほど、送信電力制御の精度は高まる。従って、送信電力制御コマンドをレイヤ1制御信号として伝送する方法では、レイヤ1制御信号は符号化処理や再送処理を行わないため、非常に高速な送信電力制御を実現できる。 【0008】図2に下り送信電力制御にレイヤ1制御信号を用いた場合の例を示す。この場合、移動局と基地局との間でループを組むため、制御遅延の小さい高速な送信電力制御が可能となり、送信電力制御誤差を小さくすることができる。しかしながら、レイヤ1制御信号は各基地局で独立に受信するため、サイトダイバーシチ中の制御に問題がある。つまり、上り回線においてサイトダイバーシチ合成後の品質を一定以上に保つ制御を行った場合、同時接続中の複数基地局の中のある基地局においては、十分な上り受信品質を保つことができなくなり、移動局から基地局に伝送するレイヤ1制御信号の誤り率が高くなる可能性がある。この基地局においては、送信電力制御誤差が大きくなるため、干渉が増大し、CDMA移動通信システムでは容量劣化の原因となる。 【0009】図10に下り送信電力制御にレイヤ3制御信号を用いた場合の例を示す。サイトダイバーシチ中、レイヤ3制御信号は交換局で合成された後基地局制御局に伝送される。従って、レイヤ3制御信号の信頼度は極めて高く、必ず同一の情報を基に各基地局の送信電力が制御されることになる。しかしながら、レイヤ3制御信号の伝送遅延のため、高速送信電力制御を行うことはできず、送信電力制御誤差が大きくなり容量が劣化する。また、基地局と基地局制御局間の制御信号の伝送量が増大するという問題もある。 【0010】従来の下り回線のクローズドループ送信電力制御としては、常時レイヤ3制御信号によって制御する方法と、常時レイヤ1制御信号によって制御する方法がある。 【0011】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、サイトダイバーシチを行う移動通信システムにおいて、常時レイヤ1制御信号で送信電力制御を行った場合、サイトダイバーシチ中の送信電力制御誤差の増大が問題となる。また、常時レイヤ3制御信号で送信電力制御を行った場合、サイトダイバーシチを行っていないときの送信電力制御誤差の増大および、局間伝送量の増大が問題となる。送信電力制御誤差の増大は干渉の増大の原因となるため、CDMA移動通信システムでは容量劣化の原因となる。 【0012】本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、送信電力制御の精度を向上し、干渉を低減することが可能であり、これによりCDMA移動通信システムでは容量を増大出来る移動通信システムにおける下り送信電力制御方法および移動通信システムを提供することを目的とする。 【0013】また、本発明は、制御誤差が小さく、局間伝送量の少ない送信電力制御を行いうる移動通信システムにおける下り送信電力制御方法および移動通信システムを提供することを目的とする。 【0014】また、本発明は、移動局と基地局間で終端した送信電力制御コマンドによる下り送信電力制御においてサイトダイバーシチを行った場合の送信電力制御を小さくする移動通信システムにおける下り送信電力制御方法および移動通信システムを提供することを目的とする。」 (公報第4ページ第6欄?第5ページ第8欄) 3.「【0065】 【発明の実施の形態】以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。 【0066】まず、図4-図10を参照して、本発明による移動通信システムの下り送信電力制御方式の基本実施形態を説明する。 【0067】以下の説明において、移動局と基地局の間で終端され、サイトダイバーシチ中に交換局において合成されない制御信号をレイヤ1制御信号と呼ぶ。但し、このような制御信号は一般にレイヤ1制御信号に限られるものではなく、またレイヤ1制御信号は一般にそのような特徴を有することが定義づけられているものではない。このレイヤ1制御信号は、実装上は送信電力制御コマンドまたは送信電力制御ビットとも呼ばれるものである。また、移動局と基地局制御局の間で終端され、サイトダイバーシチ中に交換局において合成される制御信号をレイヤ3制御信号と呼ぶ。但し、このような制御信号は一般にレイヤ3制御信号に限られるものではなく、またレイヤ3制御信号は一般にそのような特徴を有することが定義づけられているものではない。また、以下の説明において、基地局制御局は交換局と機能的に分離独立したものとするが、実際のシステム構成によっては、物理的に分離した基地局制御局とを設けずに基地局制御局の機能を交換局に機能的に一体化して組込むことも可能である。 【0068】図4は本発明の下り送信電力制御方式を実現する移動通信システムの概略構成を示す。 【0069】図4において、移動局5は無線回線を介して基地局1,2と接続され、該基地局1,2は交換局7を介して通信網9および基地局制御局11に接続されている。なお、本移動通信システムはサイトダイバーシチ機能を有し、移動局5と複数基地局1,2との間で同時に無線回線を接続し、複数基地局1,2間でダイバーシチ合成を行うことができる。交換局7は、基地局1,2からの回線と通信網9からの回線を接続する機能を有する。交換局7は、サイトダイバーシチ中に、複数基地局1,2で受信した信号を合成する機能、通信網9からの信号を複数基地局1,2に分配する機能も有する。基地局制御局11は基地局1,2を制御する機能を有する。 【0070】なお、本移動通信システムにおいて移動局5が通信を維持するために、移動局5と基地局1,2間の無線回線を通じて制御を行う。制御信号はレイヤ1制御信号とレイヤ3制御信号に分類される。レイヤ1制御信号は移動局5と基地局1,2間のレイヤ1で伝送され、終端位置は移動局と基地局である。レイヤ1制御信号については、高速な制御を行うために、サイトダイバーシチ中においても交換局で合成せず、各基地局1,2において独立に受信する。レイヤ3制御信号は基地局1,2と交換局7を通じて、移動局5と基地局制御局11間のレイヤ3で伝送される。レイヤ3制御信号の終端位置は移動局5と基地局制御局11である。」 (公報第8ページ第14欄?第9ページ第15欄) 4.「【0075】上記最も基本的な実施形態の一例として、図7に示す第1の基本実施形態では、基地局制御局11から基地局1,2に送信する追加の制御信号は、移動局5から基地局1,2を介して交換局7に送信され、交換局7で合成され、交換局7から基地局制御局11に供給されるレイヤ3制御信号から基地局制御局11において生成されることを特徴とする。 【0076】この第1の基本実施形態の一例として、図8に示す第2の基本実施形態では、移動局5からのレイヤ1制御信号を用いた短い周期の下り送信電力制御は非サイトダイバーシチ中に行い、移動局5からのレイヤ3制御信号に基づく基地局制御局11からの追加の制御信号を用いた長い周期の下り送信電力制御はサイトダイバーシチ中に行うことを特徴とする。 【0077】また、上記第1の基本実施形態の他の例として、図9に示す第3の基本実施形態では、移動局5からのレイヤ1制御信号を用いた短い周期の下り送信電力制御と、移動局5からのレイヤ3制御信号に基づく基地局制御局11からの追加の制御信号を用いた長い周期の下り送信電力制御とを共にサイトダイバーシチ中に行うことを特徴とする。 【0078】一方、上記最も基本的な実施形態の他の例として、図10に示す第4の基本実施形態では、基地局制御局11から基地局1,2に送信する追加の制御信号は、各基地局からの報告に基づく各基地局の現在の送信電力制御状態に基づいて基地局制御局11において生成され、全基地局に対する集中送信電力制御を実現することを特徴とする。」 (公報第9ページ第15欄?同ページ第16欄) 5.「【0123】次に、図24,図25を参照して、上記第4の基本実施形態に基づいたより具体的な実施形態である第6の具体的実施形態について説明する。 【0124】なお、本実施形態の移動局および基地局の構成は図18,図19に示したものと同じてあるが、基地局制御局11は機能的に交換局7に組み込まれており基地局制御局との間の制御は交換局7との間の制御として実現されるものとする。 【0125】本実施形態は、サイトダイバーシチ中に各基地局における平均受信SIRを比較した結果により基地局の送信電力を補正するものであり、図25に示すように、各基地局1,2は、一定期間に受信したレイヤ1制御信号(送信電力制御コマンド)と平均受信SIRを制御部63を通じて交換局7に周期的に報告する。図24の例では、基地局1は-2Δ(dB)を、基地局2は+2Δ(dB)を自局の送信電力制御量として報告する。ここで送信電力制御量は、送信電力が制御されるべき量を初期電力に対する相対量として示すもので、初期電力は定期的に更新されるものである。そして、図25に示すように、交換局7では、各基地局1,2から報告された平均受信SIRを比較し、平均受信SIRが最大である基地局の送信電力制御量を他の基地局に対して通知する。送信電力制御量を通知された各基地局では、通知された送信電力制御量により送信電力を補正する。例えば、図24において、基地局1の平均受信SIRの方が大きい場合には、基地局1における送信電力制御量-2Δ(dB)を基地局2に通知する。基地局2では、図24に示すように通知された送信電力制御量-2Δ(dB)により送信電力を補正し、これにより、基地局1,2の送信電力が同一となるよう周期的に制御される。 【0126】このように、受信SIR(受信信頼度)が低くレイヤ1制御信号の誤り率の高い基地局2において、受信SIR(受信信頼度)が高い基地局1において受信したレイヤ1制御信号によって送信電力制御量が補正されるため、全基地局の送信電力が同一となるよう周期的に制御されてほぼ同一レベルに保たれると共に、レイヤ1制御信号の誤り率の高い基地局においても送信電力制御誤差を最小限に抑えることが可能となり、CDMA移動通信システムにおいて容量を増大させることができる。 【0127】次に、図26を参照して、上記第4の基本実施形態に基づいたより具体的な実施形態である第7の具体的実施形態について説明する。 【0128】本実施形態は、サイトダイバーシチ中に各基地局における送信電力値を比較した結果により基地局送信電力を補正するものである。なお、本実施形態の移動局および基地局の構成は図18,図19に示したものと同じであるが、基地局制御局11は機能的に交換局7内に組み込まれており、基地局制御局との間の制御は交換局7との間の制御として実現されるものとする。 【0129】本実施形態においては、図26に示すように、各基地局1,2は周期的に自基地局の送信電力値を交換局7に報告する。交換局7では、報告された送信電力値を比較し、送信電力が最大である基地局の送信電力値をそれ以外の基地局に対して通知する。図26では、基地局2から報告された送信電力値の方が30dBmと大きいため、この送信電力値を基地局1に対して通知する。基地局1では、送信電力を30dBmに補正する。 【0130】以上の制御により、レイヤ1制御信号の誤り率の高い基地局における送信電力誤差を小さくでき、各基地局の送信電力値を同程度に保つことができるので、CDMA移動通信システムにおいて容量を増大させることができる。また、送信電力の高い方に合わせるため、品質が劣化することはない。 【0131】なおここでは、送信電力値の高い方に合わせる制御を行ったが、送信電力値の低い方に合わせる制御も考えられる。この場合は、品質が劣化する可能性はあるが、送信電力を最小限にできるため、容量は増大する。」 (公報第14ページ第25欄?同ページ第26欄) 6.「【0142】また、本発明によれば、サイトダイバーシチ中にレイヤ1制御信号の受信信頼度の最も高い基地局の送信電力制御量に基づいて受信信頼度の低い他の基地局の送信電力制御量を該信頼度が最も高い基地局の送信電力制御量と同一になるように周期的に補正しているので、レイヤ1制御信号の受信信頼度の低い基地局における送信電力誤差を小さくすることができ、従って移動局と基地局間で終端された高速な送信電力制御を少ない誤差で実現でき、CDMA移動通信システムにおいて容量を増大させることができる。 【0143】また、本発明によれば、サイトダイバーシチ中に交換局は各基地局から周期的に報告される送信電力に基づいて送信電力値を決定し、各基地局の送信電力値を補正するので、レイヤ1制御信号の誤り率の高い基地局において送信電力誤差を小さく保つことができ、従ってCDMA移動通信システムにおいて容量を増大させることができる。」 (公報第15ページ第28欄) 上記の記載によれば,引用例には,次の事項が記載されているといえる。 サイトダイバーシチを行う移動通信システムにおいて基地局から無線回線を介して移動局へ送信される下り無線信号の送信電力制御を行う移動通信システムにおける下り送信電力制御方法に関し, 複数の基地局と,該基地局に無線回線を介して接続される移動局と,該基地局を制御する基地局制御局を有し,該移動局と複数の基地局とを同時接続して該複数の基地局間でダイバーシチ合成を行うサイトダイバーシチが行われる移動局通信システムにおける下り送信電力制御方法であって, 基地局制御局11は機能的に交換局7に組み込まれており基地局制御局との間の制御は交換局7との間の制御として実現され, サイトダイバーシチ中に各基地局における平均受信SIRを比較した結果により基地局の送信電力を補正するものであり, 各基地局1,2は,一定期間に受信したレイヤ1制御信号(送信電力制御コマンド)と平均受信SIRを制御部63を通じて交換局7に周期的に報告し, 基地局1は-2Δ(dB)を,基地局2は+2Δ(dB)を自局の送信電力制御量として報告し,ここで送信電力制御量は,送信電力が制御されるべき量を初期電力に対する相対量として示すもので,初期電力は定期的に更新されるものであり, 交換局7では,各基地局1,2から報告された平均受信SIRを比較し,平均受信SIRが最大である基地局の送信電力制御量を他の基地局に対して通知し,送信電力制御量を通知された各基地局では,通知された送信電力制御量により送信電力を補正し, 基地局1の平均受信SIRの方が大きい場合には,基地局1における送信電力制御量-2Δ(dB)を基地局2に通知し, 基地局2では,通知された送信電力制御量-2Δ(dB)により送信電力を補正し,これにより,基地局1,2の送信電力が同一となるよう周期的に制御される 移動通信システムにおける下り送信電力制御方法。 第3 当審の判断 1.対比 本願発明と引用発明を比較すると次のことがいえる。 ○ 引用発明における「基地局制御局を組み込む交換局」は本願発明における「基地局コントローラ」に相当する。 なお,上記基地局制御局11は,基地局1,2に追加の制御信号を送信している(引用例【0078】における記載(上記「4.」参照。))。 ○ 引用発明における「移動通信システム」が「無線システム」といえることは明白である。 ○ 引用発明における「基地局1,2」から「移動局」に送信される「下りリンク信号」が,「トラフィック信号及びパイロットチャネル」を備えることは技術的に明らかであって,該「トラフィック信号」が「利得調整された」ものであることは明らかである。 ○ 引用発明における移動局と基地局を無線回線を介して送信される「無線信号」が,「リンク信号」といえることは技術的に明らかである。 このことは,引用発明において,基地局から移動局に対する「無線信号」が「下りリンク信号」と,また,移動局から基地局に対する「無線信号」が「上りリンク信号」といえることを示している。 そうすると,上記「下りリンク信号」及び上記「上りリンク信号」は,それぞれ本願発明における「順方向リンク信号」及び「逆方向リンク信号」に相当する。 また,引用発明における「基地局1」及び「基地局2」は,一方が本願発明における「第1の基地局」に,他方が「第2の基地局」に相当する。 そして,引用発明では,移動局と複数の基地局と同時に接続するサイトダイバーシチが行われる。 また,サイトダイバーシチでは,下りリンク信号を介して同じトラフィック信号を複数の基地局から送信している。 このことは,引用発明において,その一方の「基地局(1又は2)」から送信される「下りリンク信号」が「冗長バージョンの送信」といえること,また,引用発明が,「上りリンク信号及び下りリンク信号を介して移動局と第1の基地局との間の通信を維持する」構成を有していることを示している。 ここで,引用発明において,基地局1,2が受信したレイヤ1制御信号(送信電力制御コマンド)は,移動局において発生したものであることは明らかであって,送信電力制御コマンドを伝送するもの(引用例【0006】参照。)である。そして,該「レイヤ1制御信号(送信電力制御コマンド)」を基に,「基地局1」及び「基地局2」からの「下りリンク信号」の送信電力が決定されていることは明白である。 つまり,該「レイヤ1制御信号(送信電力コマンド)」は,送信のパワーレベルを決定するための「送信パワーメッセージ」と共通する。 また,引用発明において,基地局1,2はいずれも「レイヤ1制御信号(送信電力制御コマンド)」を受信している。 そうすると,一方の基地局が受信する「レイヤ1制御信号(送信電力制御コマンド)」が「第1の送信パワーメッセージ」に,他方の基地局が受信する「レイヤ1制御信号(送信電力制御コマンド)」が冗長バージョンの送信のパワーレベルを決定するための「第2の送信パワーメッセージ」といえることを示している。 ○ 引用発明における「交換局7」には各基地局1,2における平均受信SIRが周期的に報告され,該「交換局7」では報告された平均受信SIRを比較し,平均受信SIRが最大である基地局の送信電力制御量を他の基地局に対して通知する。そして,送信電力制御量を通知された各基地局1,2では,「通知された送信電力制御量により送信電力」を補正する。 つまり,引用発明においては,各基地局から報告されたレイヤ1制御信号(送信電力制御コマンド)と平均受信SIRとに従って,各基地局から移動局への送信電力を補正するために,交換局7において送信電力制御量が決定され,該「送信電力制御量」が交換局7から各基地局1,2に通知される。 そうしてみると,引用発明における「通知された送信電力制御量」について次のこと(i)?(iii)がいえる。 (i)交換局7に組み込まれた基地局制御局から基地局1,2へ送信されるものであり, (ii)基地局1,2の一方から移動局への下りリンク信号を生成することに関するものであり, (iii)さらに,基地局1,2から報告される「平均受信SIR」は,基地局1,2において下りリンク信号の送信のための送信電力の補正,つまり「パワー制御調整」のために生成されるもの,要するに,「基地局1,2の他方からの下りリンク信号の送信のための基地局1,2においてパワー制御調整のため平均受信SIRを生成することに関する」ものである, これらのことが,上記「通知された送信電力制御量」についていえる。 このことは,引用発明における「平均受信SIR」が「基地局1,2のいずれか一方からの下りリンク信号の送信のため,基地局1,2において生成される送信電力制御調整するもの」である点と,本願発明における「相関パターン」が「第1の基地局からの順方向リンク信号の送信のための前記第1及び第2の基地局においてパワー制御調整するものである点」とに技術的差異がないことを示している。つまり,引用発明における「平均受信SIR」は本願発明における「相関パターン」といえることを示している。 以上から,引用発明は,本願発明における「基地局コントローラから前記第1の基地局と前記第2の基地局へ,アラインされたパワー制御命令を送ること,ここにおいて,前記第1の基地局及び前記第2の基地局は前記移動局と同時に通信し,ここにおいて,前記アラインされたパワー制御命令は,前記第2の基地局から前記移動局への,前記順方向リンク信号及び前記第1の基地局からの前記順方向リンク信号の送信のための前記第1及び第2の基地局においてパワー制御調整の相関パターンとを生成することに関する」構成,及び 「前記第1の送信パワーメッセージの前記移動局により送られた前記パワー制御命令の第1の正しいパワー制御命令を,前記基地局コントローラにおいて決定すること,及び前記第2の送信パワーメッセージに関して,前記移動局により送られた前記パワー制御命令の第2の正しいパワー制御命令を前記基地局コントローラにおいて決定すること」の構成を有しているといえる。 したがって,本願発明と引用発明は次の点で一致し,相違するといえる。 [一致点] 下記を具備する,通信システムのための方法: (1)順方向リンク信号及び逆方向リンク信号を介して移動局と第1の基地局との間の通信を維持すること; (2)前記順方向リンク信号の送信のパワーレベルを決定するための第1の送信パワーメッセージを前記移動局において,発生すること; (3)第2の基地局から前記移動局に,利得調整されたトラフイック信号及びパイロットチャンネルを備える前記順方向リンク信号を送信すること; (4)前記第2の基地局で前記移動局からの前記逆方向リンク信号を受信すること; (5)前記順方向リンク信号の冗長バージョンの送信のパワーレベルを決定するための第2の送信パワーメッセージを前記移動局において,発生すること;及び (6)前記第1及び第2の送信パワーメッセージを前記第1及び第2の基地局において受信すること,及び (7)基地局コントローラから前記第1の基地局と前記第2の基地局へ,アラインされたパワー制御命令を送ること,ここにおいて,前記第1の基地局及び前記第2の基地局は前記移動局と同時に通信し,ここにおいて,前記アラインされたパワー制御命令は,前記第2の基地局から前記移動局への,前記順方向リンク信号及び前記第1の基地局からの前記順方向リンク信号の送信のための前記第1及び第2の基地局においてパワー制御調整の相関パターンとを生成することに関する, (8)前記第1の送信パワーメッセージの前記移動局により送られた前記パワー制御命令の第1の正しいパワー制御命令を,前記基地局コントローラにおいて決定すること,及び (9)前記第2の送信パワーメッセージに関して,前記移動局により送られた前記パワー制御命令の第2の正しいパワー制御命令を前記基地局コントローラにおいて決定すること。 [相違点] 本願発明の「相関パターン」は,「トラフィックとパイロットとの内積,トラフィック送信レベルとパイロットレベルの比,信号対雑音比のいずれか1つに基づいて設定される」ものであるのに対して,引用発明のものは,「平均受信SIR」である点。 2.検討 引用発明における「平均受信SIR」が,基地局と移動局との間の通信品質を示すものであることは技術的に明白である。 他方,本願発明における「相関パターン」も,「トラフィックとパイロットとの内積,トラフィック送信レベルとパイロットレベルの比,信号対雑音比のいずれか1つ」であるのだから,引用発明と同様に,基地局と移動局との間の通信品質を技術的に意味するものであると解される。 ここで,移動体無線通信システムにおいて,「トラフィックとパイロットとの内積」,「トラフィック送信レベルとパイロットレベルの比」若しくは「信号対雑音比(SNR)」を基にして,基地局と移動局との間の送信電力を制御するようにすることは,引用例を提示するまでもなく周知である。 したがって,引用発明に対して周知技術を適用して,相違点のように「相関パターン」を,「トラフィックとパイロットとの内積,トラフィック送信レベルとパイロットレベルの比,若しくは信号対雑音比(SNR)」のいずれか1つに基づいて設定するようにすることは,当業者が適宜なしえたことである。 そして,本願発明のように構成した効果も,引用発明及び周知技術から予測できる程度のものである。 したがって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおりであるから,本願発明は,特許法第29条第2項に規定により特許を受けることができない。 したがって,他の理由について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-11-26 |
結審通知日 | 2013-12-03 |
審決日 | 2013-12-17 |
出願番号 | 特願2010-211205(P2010-211205) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H04W)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼須 甲斐 |
特許庁審判長 |
近藤 聡 |
特許庁審判官 |
佐藤 聡史 吉田 隆之 |
発明の名称 | ソフトハンドオフにある間送信パワーを制御するための方法及び装置 |
代理人 | 幸長 保次郎 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 砂川 克 |
代理人 | 竹内 将訓 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 岡田 貴志 |
代理人 | 福原 淑弘 |
代理人 | 村松 貞男 |
代理人 | 佐藤 立志 |
代理人 | 峰 隆司 |
代理人 | 野河 信久 |
代理人 | 河野 直樹 |
代理人 | 白根 俊郎 |
代理人 | 堀内 美保子 |
代理人 | 高倉 成男 |
代理人 | 井関 守三 |