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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部無効 2項進歩性  H01L
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  H01L
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01L
管理番号 1287769
審判番号 無効2011-800206  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-10-12 
確定日 2014-05-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4055503号発明「半導体発光素子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由
第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第4055503号(以下「本件特許」という。平成14年7月23日出願(国内優先権主張:特願2001-223114号(平成13年7月24日出願)、特願2002-41737号 (平成14年2月19日出願))、平成19年12月21日登録(登録時の請求項の数は7であるが、後記第2のとおり、平成24年5月11日になされた手続補正書により補正された平成24年1月4日付け訂正請求書及び訂正明細書による訂正後の請求項の数は4である。)の請求項1?7に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。

第2 手続の経緯
本件審判の経緯は、以下のとおりである。
平成23年10月12日 審判請求
平成24年 1月 4日 訂正請求、訂正明細書及び審判事件答弁書提出
平成24年 3月 5日 審判事件弁駁書提出
平成24年 4月26日 訂正拒絶理由通知
平成24年 5月11日 手続補正書(平成24年1月4日付け訂正請求書及び訂正明細書の補正)及び意見書提出(被請求人)
平成24年 5月31日 意見書提出(請求人)
平成24年 8月22日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成24年 8月22日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成24年 9月 5日 口頭審理
平成24年10月10日 上申書提出(請求人)

第3 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 無効理由
(1)無効理由1(特許法第29条第1項第3号又は同第2項)
本件特許の請求項1ないし請求項7に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された特開2001-160539号公報(甲第1号証)に記載の発明と同一、又は特開2001-160539号公報(甲第1号証)に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1ないし請求項7に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効とすべきである。
(2)無効理由2(特許法第29条第2項)
本件特許の請求項1ないし請求項7に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された特開2002-164296号公報(甲第8号証)に記載の発明並びに特開2001-160539号公報(甲第1号証)及び本件特許出願時の周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1ないし請求項7に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効とすべきである。
なお、本件特許については、優先権の利益を享受できず、新規性及び進歩性の判断の基準日は現実の出願日である平成14年7月23日である。

2 甲号証
請求人が提出した甲号証は、以下のとおりである。
(1)甲第1号証 特開2001-160539号公報
(公開日 平成13年6月12日)
(2)甲第2号証 特開2000-216497号公報
(3)甲第3号証 特開平11-40849号公報
(4)甲第4号証 特開平10-270801号公報
(5)甲第5号証 特開平11-274568号公報
(6)甲第6号証 特開平10-4209号公報
(7)甲第7号証 国際公開第01/47039号
(8)甲第8号証 特開2002-164296号公報
(公開日 平成14年6月7日)
(9)甲第9号証 特開2002-164571号公報
(公開日 平成14年6月7日)
(10)甲第10号証 特開2001-267692号公報
(公開日 平成13年9月28日)
(11)甲第11号証 特開2001-176809号公報
(公開日 平成13年6月29日)
(12)甲第12号証 特開2001-94216号公報
(公開日 平成13年4月6日)
(以上、審判請求書に添付して提出。)
(13)甲第13号証 特開2001-7393号公報
(公開日 平成13年1月12日)
(14)甲第14号証 「High Output Power InGaN Ultraviolet Light-Emitting Diodes Fabricated on Patterned Substrates Using Metalorganic Vapor Phase Epitaxy」 Jpn. J. Appl. Phys. Vo1. 40(2001) pp. L583-L585(Part 2, No. 6B, 15 June 2001)
(15)甲第15号証 「High Output Power InGaN Ultraviolet Light-Emitting Diodes Fabricated on Patterned Substrates Using Metalorganic Vapor Phase Epitaxy」 phys. stat. sol. (a) 188, No.1, 121-125(2001)
(なお、甲第15号証は2001年に頒布された刊行物であるが、(Received June 30, 2001; accepted August 4, 2001)とあるだけで、具体的な公開日は明らかではない。)
(以上、平成24年3月5日付け審判事件弁駁書に添付して提出。)
(16)甲第16号証 特開2000-156348号公報
(以上、平成24年10月10日付け上申書に添付して提出。)

第4 被請求人の主張の概要
1 各無効理由に対して
(1)理由1
本件発明は甲第1号証によって新規性を阻却されない。
本件発明が甲第1号証に記載された発明に対して進歩性を有することは明らかである。
(2)理由2
本件発明と甲第8号証に記載された発明との相違点が推考容易であるとは言えず、甲第8号証に記載された発明を主引例とする進歩性欠如の主張は成り立たない。

2 乙号証
被請求人が提出した乙号証は、以下のとおりである。
(1)乙第1号証 「ワイドギャップ半導体 光・電子デバイス」、長谷川文夫・吉川明彦編著、2006年3月31目発行、森北出版株式会社、p.184?187、及び、p.194?195
(2)乙第2号証の1 特開平5-37011号公報
(3)乙第2号証の2 特開平7-231116号公報
(4)乙第2号証の3 特開平10-190050号公報
(5)乙第2号証の4 特開2000-261038号公報
(6)乙第2号証の5 特開2000-332291号公報
(7)乙第2号証の6 特開2002-9339号公報
(8)乙第2号証の7 特開2002-151795号公報
(9)乙第2号証の8 特開2002-164574号公報
(10)乙第2号証の9 特開2007-43178号公報
(11)乙第2号証の10 特開2007-221141号公報
(12)乙第3号証「明鏡国語辞典 第二版」、北原保雄編、2010年12月1日発行、株式会社大修館書店、p.1196?1197
(以上、平成24年1月4日付け審判事件答弁書に添付して提出。)
(13)乙第4号証「結晶成長ハンドブック」、日本結晶成長学会、「結晶成長ハンドブック」編集委員会編、1995年9月1日発行、共立出版株式会社、p.734?737
(以上、平成24年8月22日付け口頭審理陳述要領書に添付して提出。)

第5 訂正請求についての当審の判断
1 訂正請求の内容
被請求人が平成24年1月4日に提出し、平成24年5月11日付けの補正書で補正された訂正請求(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)について、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを請求するものであって、次の事項をその訂正内容とするものである。
(なお、平成24年5月11日付けの補正書での補正の内容は、平成24年4月26日付けの訂正拒絶理由通知に対応して、平成24年1月4日に提出された訂正請求書の「(3-4)訂正事項d」を削除し、さらに、上記「(3-4)訂正事項d」を削除したことにあわせて、他の訂正事項の整合をとるものであって、請求書の要旨を変更しないものと認められる。)
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の全請求項において、特許請求の範囲の減縮を目的として、「半導体発光素子」とあるのを、『半導体発光ダイオード』と訂正する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項1において、特許請求の範囲の減縮を目的として、「上記基板はC面(0001)サファイア基板であり」を追加する。
(3)訂正事項c
特許請求の範囲の請求項1において、特許請求の範囲の減縮を目的として、「上記凸部の側面が傾斜しており、その側面のテーパ角が90°より大きく、150゜以下であり、」とあるのを、『上記凸部の側面が傾斜しており、その側面のテーパ角が120°より大きく、140゜以下であり、』と訂正する。
(4)訂正事項d
特許請求の範囲の請求項4および5を、特許請求の範囲の減縮を目的として、削除する。
(5)訂正事項e
訂正事項dに伴い、特許請求の範囲の請求項6において、特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項の番号を4にするとともに、請求項が引用する請求項の番号を「1ないし5」から、『1ないし3』と訂正する。
(6)訂正事項f
特許請求の範囲の請求項7を、特許請求の範囲の減縮を目的として、削除する。
(7)訂正事項g
訂正事項a、bおよびcに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の整合性を図るために、明りょうでない記載の釈明を目的として、本件特許明細書の段落【0010】に係る記載
「【課題を解決するための手段】
本発明に係る半導体発光素子は、基板上に、基板とは材質の異なる複数のGaN系半導体層と、前記GaN系半導体層の最上層に形成されたオーミック電極とを積層し、前記GaN系半導体層で発生した光を前記オーミック電極側又は基板側から取り出すようにした半導体発光素子において、上記基板の表面部分には上記GaN系半導体層で発生した光を散乱又は回折させる凸部が、λ/4(λは上記半導体発光素子の発光波長)以上の間隔、10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されており、その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であり、上記GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに上記凸部平面形状の構成辺が上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に直交するように形成され、上記凸部の側面が傾斜しており、その側面のテーパ角が90°より大きく、150°以下であり、前記基板表面の凸部は、凸部上面、凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋められたことを特徴とする。本件発明によれば、凹凸による光の散乱・回折効果を高め、半導体層中を横方向に伝播する光を減らし、伝播中の吸収ロスを低減して発光の総量を高めることができる。」を、
『【課題を解決するための手段】
本発明に係る半導体発光ダイオードは、基板上に、基板とは材質の異なる複数のGaN系半導体層と、前記GaN系半導体層の最上層に形成されたオーミック電極とを積層し、前記GaN系半導体層で発生した光を前記オーミック電極側又は基板側から取り出すようにした半導体発光ダイオードにおいて、上記基板はC面(0001)サファイア基板であり、上記基板の表面部分には上記GaN系半導体層で発生した光を散乱又は回折させる凸部が、λ/4(λは上記半導体発光ダイオードの発光波長)以上の間隔、10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されており、その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であり、上記GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに上記凸部平面形状の構成辺が上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に直交するように形成され、上記凸部の側面が傾斜しており、その側面のテーパ角が120°より大きく、140°以下であり、前記基板表面の凸部は、凸部上面、凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋められたことを特徴とする。本件発明によれば、凹凸による光の散乱・回折効果を高め、半導体層中を横方向に伝播する光を減らし、伝播中の吸収ロスを低減して発光の総量を高めることができる。』
と訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項aについて
本訂正事項は、請求項1ないし4に係る発明において、「半導体発光素子」を「半導体発光ダイオード」に限定するものであるから、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成23年改正前特許法」という。)特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本件特許明細書には、「半導体発光素子、例えば発光ダイオード(LED)では・・・」(段落【0002】)との記載があるから、本件特許明細書には、「半導体発光素子」の一例が「半導体発光ダイオード」であることが記載されているものと認められる。
したがって、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、平成23年改正前特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項bについて
本訂正事項は、請求項1に係る発明において「基板」を、「上記基板はC面(0001)サファイア基板であり」に限定する記載を追加するものであるから、平成23年改正前特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本件特許明細書には、「また、基板にはサファイア基板、SiC基板又はスピネル基板を用いることができる。例えば、上記基板には、C面(0001)を主面とするサファイア基板を用いることができる。」(段落【0021】)との記載があるから、本件特許明細書には、「基板」の一例が、「上記基板はC面(0001)サファイア基板であ」ることが記載されているものと認められる。
したがって、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、平成23年改正前特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項cについて
本訂正事項は、請求項1に係る発明において「上記凸部の側面が傾斜しており、その側面のテーパ角が90°より大きく、150゜以下であり、」とあるのを、「上記凸部の側面が傾斜しており、その側面のテーパ角が120°より大きく、140゜以下であり、」に数値範囲を限定するものであるから、平成23年改正前特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本件特許明細書には、「半導体層によって凹凸を埋めるためには、凹凸のテーパ角θが少なくとも90°以上であることが必要である。また、散乱又は回折による出力向上の観点からは、凹凸のテーパ角θが90°より大きいことが好ましく、望ましくは105°以上、より望ましくは115°以上とする。一方、凹凸のテーパ角θがあまり大き過ぎると、却って散乱又は回折の効率が低下し、また、半導体層にピットが発生し易くなる。そこで、テーパ角θは、好ましくは160°以下、より好ましくは150°以下、さらに好ましくは140°以下とする。」(段落【0050】)、及び、「また、凸部側面の傾斜角は120°であった。」(段落【0081】)との記載があるから、本件特許明細書には、「上記凸部の側面が傾斜しており、その側面のテーパ角が120°より大きく、140゜以下であ」ることが記載されているものと認められる。
したがって、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、平成23年改正前特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項d及びfについて
本訂正事項は、請求項を削除するものであるから、平成23年改正前特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
したがって、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、平成23年改正前特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項eについて
本訂正事項は、発明の詳細な説明の記載について、訂正事項d(請求項の削除)との整合を図り記載を明りょうにするために行うものと認められるから、平成23年改正前特許法第134条の2第1項第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、上記(4)における訂正事項dについての検討と同様の理由により、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、平成23年改正前特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
(6)訂正事項gについて
本訂正事項は、発明の詳細な説明の記載について、訂正事項a、b及びcとの整合を図り記載を明りょうにするために行うものと認められるから、平成23年改正前特許法第134条の2第1項第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、上記(1)?(3)における訂正事項a、b及びcについての検討と同様の理由により、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、平成23年改正前特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

3 本件訂正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正を認める。

第6 本件訂正発明
1 上記のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許第4055503号の請求項1ないし4に係る発明(以下、請求項1ないし4に係る発明を「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明4」という。)は、次の各請求項に記載されたとおりのものと認められる。
「【請求項1】
基板上に、基板とは材質の異なる複数のGaN系半導体層と、前記GaN系半導体層の最上層に形成されたオーミック電極とを積層し、前記GaN系半導体層で発生した光を前記オーミック電極側又は基板側から取り出すようにした半導体発光ダイオードにおいて、
上記基板はC面(0001)サファイア基板であり、
上記基板の表面部分には上記GaN系半導体層で発生した光を散乱又は回折させる凸部が、λ/4(λは上記半導体発光ダイオードの発光波長)以上の間隔、10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されており、
その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であり、上記GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに上記凸部平面形状の構成辺が上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に直交するように形成され、上記凸部の側面が傾斜しており、その側面のテーパ角が120°より大きく、140°以下であり、
前記基板表面の凸部は、凸部上面、凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋められたことを特徴とする半導体発光ダイオード。
【請求項2】
上記オーミック電極が、上記半導体層の最上層のほぼ全面を覆うことを特徴とする請求項1記載の半導体発光ダイオード。
【請求項3】
上記オーミック電極が、透光性であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光ダイオード。
【請求項4】
上記半導体中における発光波長をλ、上記半導体の屈折率をnとしたとき、上記凸部の大きさが、少なくともλ/4n以上、20μm以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の半導体発光ダイオード。」

2 本件訂正発明1を分説すると、次のとおりである。
A 基板上に、基板とは材質の異なる複数のGaN系半導体層と、前記GaN系半導体層の最上層に形成されたオーミック電極とを積層し、前記GaN系半導体層で発生した光を前記オーミック電極側又は基板側から取り出すようにした半導体発光ダイオードにおいて、
B 上記基板はC面(0001)サファイア基板であり、
上記基板の表面部分には上記GaN系半導体層で発生した光を散乱又は回折させる凸部が、λ/4(λは上記半導体発光ダイオードの発光波長)以上の間隔、10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されており、
C その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であり、上記GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに上記凸部平面形状の構成辺が上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に直交するように形成され、
D 上記凸部の側面が傾斜しており、その側面のテーパ角が120°より大きく、140°以下であり、
E 前記基板表面の凸部は、凸部上面、凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋められた
F ことを特徴とする半導体発光ダイオード。

第7 優先権
1 本願は以下の出願ア及びイを優先権主張の基礎として出願したものである。
ア 特願2001-223114号(平成13年7月24日出願)
イ 特願2002-41737号 (平成14年2月19日出願)

2 本件訂正発明1ないし4は、上記第6、2の分説に従うと
「C その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であり、上記GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに上記凸部平面形状の構成辺が上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に直交するように形成され、
D 上記凸部の側面が傾斜しており、その側面のテーパ角が120°より大きく、140°以下であり、
E 前記基板表面の凸部は、凸部上面、凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋められた」ものを構成として含むものである。

3 しかしながら、上記出願ア及びイの願書に最初に添付した明細書又は図面には、「GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに上記凸部平面形状の構成辺が上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に直交するように形成され」ること、凸部の側面が傾斜しており、その側面の「テーパ角が120°より大きく、140°以下であ」ること、及び、基板表面の凸部は、凸部上面、凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面が「連続したGaN系半導体層によって埋められた」ことについては記載されていない。

4 そして、出願ア及びイの願書に最初に添付した明細書又は図面に接した当業者にとって、上記構成要件C、D及びEが自明な事項であると認めることもできない。
よって、本件訂正発明1ないし4について、上記出願ア及びイを基礎出願とした特許法第41条の規定による優先権主張の効果は認められない。

第8 無効理由についての当審の判断
1 無効理由1について
(1)甲号証の記載
ア 甲第1号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開2001-160539号公報)には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。
(ア)「【0116】図4および図5は、第2の発明の一実施例における窒化物系半導体の形成方法を示す模式的工程断面図である。
【0117】まず、図4(a)に示すように、C面を基板表面とするサファイア基板11の所定領域を、RIE法(反応性イオンエッチング法)等によりエッチングする。このようにして、所定の方向に延びる複数のストライプ状の凹部が形成されたサファイア基板11を作製する。
【0118】この場合、凹部の幅wは、数μm?数十μmとするのが好ましく、凸部の幅bは数百nm?数十μmとするのが好ましく、凹部の深さdは、数nm?数μmとするのが好ましい。例えば、本例においては凹部の幅wを約29μmとし、凸部の幅bを2μmとし、凹部の深さdを約1μmとしている。
【0119】また、サファイア基板11のC面に対する凹部側面の角度は、特に限定されるものではない。例えば、本例においては凹部側面がサファイア基板11のC面に対してほぼ垂直である。
【0120】さらに、ストライプ状の凹部を形成する方向は、特に限定されるものではない。例えば、本例においては[1-100]方向にストライプ状の凹部を形成する。なお、これ以外に、例えば[11-20]方向にストライプ状の凹部を形成してもよい。
【0121】続いて、図4(b)に示すように、基板温度を600℃に保った状態でMOVPE法により、サファイア基板11の凸部上面、凹部底面および凹部側面に、アンドープのAlGaNからなる膜厚約15nmのAlGaNバッファ層12を成長させる。この場合、AlGaNバッファ層12は、サファイア基板11の凸部上面、凹部底面および凹部側面において、図中の矢印Yの方向(c軸方向)および矢印Xの方向(横方向)に成長する。このようにして形成されたAlGaNバッファ層12の表面には、サファイア基板11と同様の凹凸パターンが形成される。
【0122】続いて、図5(c)に示すように、基板温度を1150℃に保った状態でMOVPE法により、AlGaNバッファ層12上に、アンドープのGaNからなるGaN層13を成長させる。この場合、成長初期のGaN層13は、AlGaNバッファ層12の凸部上面、凹部底面および凹部側面において、図中の矢印Yの方向(c軸方向)に成長し、その後矢印Xの方向(横方向)にも成長する。このような成長初期のGaN層13の表面には、AlGaNバッファ層12と同様の凹凸パターンが形成される。
【0123】図5(d)に示すように、矢印Yの方向におけるGaN層13の成長が進むにつれて、矢印Xの方向におけるGaN層13の成長が支配的となる。この場合、凹部底面のGaN層13上において、凸部上面および凹部側面のGaN層13がさらに横方向に成長する。それにより、GaN層13の凹部が徐々に埋められていく。
【0124】ここで、上記のようなGaN層13が横方向に成長するため、サファイア基板11付近で発生したc軸方向に伝播した転位は、GaN層13の横方向成長に伴って、横方向(矢印Xの方向)すなわちサファイア基板11のC面に平行な方向に折れ曲がる。それにより、GaN層13において、c軸方向に伝播する転位が一様に低減される。さらに、中央部を除く凹部上に転位密度の特に低減された領域が形成される。なお、この場合においては、サファイア基板11の凹部上に形成されたGaN層13の中央部の領域において、転位が集中する部分が線状に発生し、比較的転位密度の高い領域が形成される。
【0125】図5(e)に示すように、平坦化するまでGaN層13を成長させ、膜厚10μmのGaN層13を形成する。このようにして形成したGaN層13の表面においては、転位が低減されており、良好な結晶性が得られる。また、このようなGaN層13においてはボイドが発生しにくい。
【0126】以上のような窒化物系半導体の形成方法によれば、ストライプ状の凹部が形成されたサファイア基板11を用いることにより、選択成長マスクを用いることなくGaN層13を横方向成長させ、転位を低減することが可能となる。したがって、良好な結晶性を有するGaN層13を形成することができる。」
(イ)「【0133】さらに、上記においては基板上にストライプ状の凹凸パターンを形成しているが、基板上に形成する凹凸パターンは、ストライプ状以外であってもよい。」
(ウ)「【0137】さらに、凹凸の形状は上記の形状に限られるものではない。図6(a)は、図4および図5に示す窒化物系半導体の形成方法に用いる基板の他の例を示す模式的断面図である。」
(エ)「【0140】また、円形、六角形、三角形等の形状を有する複数の凹部または凸部が分散配置された基板であってもよい。この場合について、以下に説明する。
【0141】図6(b)は、図4および図5に示す窒化物系半導体の形成方法に用いる基板のさらに他の例を示す平面図である。
【0142】図6(b)に示すように、基板31においては、表面に六角形の凹部または凸部が形成されている。
【0143】このような基板31を用いた場合においては、前述のストライプ状の凹凸パターンを有するサファイア基板11を用いた場合と同様に、GaN層の転位が一様に低減されるという効果が得られる。
【0144】さらに、六角形の凹部が形成された基板31を用いた場合においては、中央部を除く凹部上に転位密度の特に低減された領域が形成される。なお、この場合においては、基板31の六角形の凹部上に形成されたGaN層の中央部において、転位が集中する部分が発生し、比較的転位密度の高い領域が形成される。
【0145】一方、六角形の凸部が形成された基板31を用いた場合においては、凸部間の凹部上の中央部を除いて、凹部上に転位密度の特に低減された領域が形成される。なお、この場合においては、基板31の六角形の凸部の間の凹部上に形成されたGaN層の中心部の領域において、転位が集中する部分が線状に発生し、比較的転位密度の高い領域が形成される。
【0146】なお、前述のように、GaN層の転位は一様に低減されるが、基板31の六角形の凹部上に形成されたGaN層の中央部の領域または基板31の六角形の凸部間の凹部上に形成されたGaN層の中心部の領域において、比較的転位密度の高い領域が形成される。このため、半導体素子の製造の際には、基板31の六角形の凹部上の中央部を除く領域または基板31の六角形の凸部間の凹部上の中心部を除く領域に素子領域を形成することが好ましい。さらに、中央部を除く六角形の凹部上または六角形の凸部間の中心部を除く凹部上に転位密度の特に低減された領域が形成されるため、基板31の六角形の凹部上の中央部を除く凹部上の領域または基板31の六角形の凸部間の凹部上の中心部を除く凹部上の領域に素子領域を形成することがさらに好ましい。
【0147】また、基板31としては、サファイア基板を用いてもよいが、スピネル等の絶縁体の基板を用いてもよい。あるいはSi、Ge等のIV族半導体、SiC等のIV-IV族半導体あるいはZnSe等のII-VI族半導体からなる半導体基板や、半導体基板の格子定数が窒化物系半導体層の格子定数と異なる、GaAs、InP、GaP等のIII-V族半導体からなる半導体基板を用いてもよい。半導体基板としては、絶縁性、n型、p型のいずれの基板を用いてもよい。特に、Si、GaAsまたはSiCからなる基板は、GaNに比べてエッチングが容易である。したがって、Si、GaAsまたはSiCからなる基板を用いた場合、エッチングにより基板に容易にストライプ状の凹部を形成することができる。それにより、転位が低減されたGaN層13を容易に形成することが可能となる。
【0148】なお、円形、三角形等の六角形以外の凹部または凸部が形成された基板を用いた場合においても、六角形の凹部または凸部を有する基板31を用いた場合と同様に、転位の集中する部分がGaN層において発生する。
【0149】なお、図6(b)に示すような六角形の凹凸パターンを有する基板31を作製する場合、あるいは三角形の凹凸パターンを有する基板を作製する場合において、六角形または三角形の各辺を形成する方向は、基板のいかなる結晶方位と一致してもよい。
【0150】なお、(0001)面を基板表面とするサファイア基板またはSiC基板に六角形または三角形の凹凸パターンを形成する場合、各辺が[1-100]方向または[11-20]方向と等価な方向に一致するように六角形または三角形の凹凸パターンを形成することが好ましい。一方、(111)面を基板表面とするSi基板に六角形または三角形の凹凸パターンを形成する場合、各辺が[1-10]方向または[11-2]方向と等価な方向に一致するように六角形または三角形の凹凸パターンを形成することが好ましい。」
(オ)「【0191】続いて、第1?第3の発明に係る窒化物系半導体の形成方法を用いて製造した半導体素子について説明する。なお、この場合においては、半導体素子の例として半導体レーザ素子について説明する。・・・
【0205】図12に示すように、半導体レーザ素子501は、以下の点を除いて、図11の半導体レーザ素子500と同様の構造を有する。
【0206】この場合においては、サファイア基板1に代えて、n-Si基板1A上に、図1および図2に示す窒化物系半導体の形成方法により、n-AlGaNからなるAlGaN第1バッファ層2、n-GaNからなるGaN第2バッファ層3、n-GaNからなる第1GaN層4およびn-GaNからなる第2GaN層5が順に形成されている。
【0207】また、この場合においては、p-GaNコンタクト層112がn-GaN電流狭窄層111およびp-AlGaN第2クラッド層110上に形成されている。n-Si基板1Aの裏面にn電極113が形成され、p-GaNコンタクト層112のリッジ部の上面にp電極114が形成されている。・・・
【0213】第5の発明に係る半導体レーザ素子は、第2の発明に係る窒化物系半導体の形成方法を用いて製造された半導体レーザ素子である。この場合について以下に説明する。
【0214】第5の発明の一実施例における半導体レーザ素子は、以下の点を除いて、図11の半導体レーザ素子500と同様の構造を有する。
【0215】この場合、図4および図5に示す窒化物系半導体の形成方法により、図4および図5に示すように、サファイア基板11上に、アンドープのAlGaNからなるAlGaNバッファ層12およびアンドープのGaNからなるGaN層13が順に形成されている。このGaN層13上に、図11の各層104?112が形成されている。なお、サファイア基板11の代わりに、サファイア以外の絶縁体からなる基板を用いてもよい。」
(カ)「【0235】上記においては、第1?第3の発明に係る窒化物系半導体の形成方法を用いて製造した半導体レーザ素子について説明したが、第1?第3の発明に係る窒化物系半導体の形成方法は、半導体レーザ素子以外の半導体素子、例えば発光ダイオード等の半導体発素子(審決注 「半導体発光素子」の誤記と思われる。)、フォトダイオード等の受光素子、トランジスタ等の電子素子の製造に適用することも可能である。」
(キ)「【符号の説明】
1,11,21,31,51,201 サファイア基板
2,12,42,52,52a AlGaNバッファ層
4,4a 第1GaN層
5,5a 第2GaN層
13,43,53 GaN層
104 n-GaNコンタクト層
105 n-AlGaInNクラック防止層
106 n-AlGaN第2クラッド層
107 n-GaN第1クラッド層
108 MQW発光層
109 p-GaN第1クラッド層
110 p-AlGaN第2クラッド層
111 n-GaN電流狭窄層
112 p-GaNコンタクト層
500,501 半導体レーザ素子」
(ク)図4、5、6、11及び12は、次のものである。

(ケ)上記(オ)及び(キ)を踏まえて、(ク)の図11をみると、半導体レーザ素子500は、サファイア基板1から順に、AlGaNバッファ層2、第1GaN層4、第2GaN層5、n-GaNコンタクト層104、n-GaN第1クラッド層107、MQW発光層108、p-GaN第1クラッド層109、p-GaNコンタクト層112を順に形成し、最上層にp電極114を形成したものであることが認められる。
イ 甲第2号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開2000-216497号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【0008】図8に示すように、サファイア基板上に形成されたGaN系半導体層のa軸およびb軸はサファイア基板のa軸およびb軸に対して30度ずれている。」
(イ)「【0059】図3はサファイア基板の面方位および酸素とAlとの位置関係を示す模式図である。また、図4はサファイア基板の面方位とGaN系半導体層の面方位との位置関係を示す図である。
【0060】図3において、サファイア基板の面方位は、一般的に白丸印の酸素を格子点として表される。ここで、サファイア基板において、黒丸印のAlは最密充填六方格子を構成する酸素の間に位置している。
【0061】上記の点から、Alによる結晶面は、次のような関係を有する。
(1)Alによる結晶面はc軸に関してサファイア基板の結晶面に対して30°回転方向にずれる。
【0062】(2)AlによるM面は、サファイア基板のA面に対応する。
(3)AlによるA面は、サファイア基板のM面に対応する。
【0063】サファイア基板上にGaN系半導体層が成長する際の成長初期過程では、最初にサファイアのAlに窒素(N)が吸着する。すなわち、微視的には、サファイア中のAlの位置とGaN系半導体層の窒素の位置とがほぼ一致する。そのため、GaN系半導体層の面方位は、窒素を格子点として表される。したがって、次の関係が得られる。
【0064】(4)サファイア基板上に成長したGaN系半導体層の面方位は、サファイア基板のAlによる結晶面と一致する。
【0065】図4に示すように、サファイア基板の面方位とそのサファイア基板上に成長したGaN系半導体層の面方位とは次の関係を有する。
【0066】(5)サファイア基板のA面またはA面オフ面には、M面のGaN系半導体層が成長する。ただし、サファイア基板およびGaN系半導体層のc軸方向は一致する。
【0067】(6)サファイア基板のM面またはM面オフ面には、A面のGaN系半導体層が成長する。ただし、サファイア基板およびGaN系半導体層のc軸方向は一致する。」
(ウ)図3、4、及び8は、次のものである。

ウ 甲第3号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開平11-40849号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【0033】例えば、ベース基板のなかでもC面サファイア基板は、その上に成長するGaN系結晶との間に、a軸に関する特殊な関係がある。図3は、C面サファイア基板上にGaN結晶が成長したときの状態をC面方向から見た図であって、サファイア結晶とそのa軸(a1?a3)を一点鎖線で、GaN結晶とそのa軸(a1?a3)を太線で示しており、C軸を共通軸として、サファイア結晶とGaN結晶とを重ね合わせて示している。同図に示すように、サファイア結晶上にGaN系結晶をエピタキシャル成長させたとき、サファイア結晶のa軸に対してGaN系結晶のa軸は、C軸を中心に30°回転した関係となる。」
(イ)図3は、次のものである。

エ 甲第4号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開平10-270801号公報)には、以下の記載がある。
「【0036】一般に、化合物半導体の結晶成長方向は、基板1の結晶構造、面方位によって決定される。基板1として6H-SiCのようなウルツ鉱構造を有する材料の(001)面(c面)を用いた場合、基板のa軸と窒化物系III-V族化合物半導体であるGaNのa軸は完全に一致し、長方形の長辺をこれと直交するように窓を形成すればよい。基板としてサファイアを用いた場合には、サファイアのa軸に対してGaNのa軸が30°回転した方向にGaNが成長するため、長方形の長辺をサファイア基板の30°回転するように窓を形成すればよい。」
オ 甲第5号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開平11-274568号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【0016】次に、GaNベースのLED110の断面図である図2を参照する。図1に示す構成要素と同じ機能を果たす図2に示す構成要素には、同じ表示が施されているので、これ以上の説明は行わない。粗面仕上げによって、界面に当たる光を散乱させ、その結果、GaN/電極/空気、または、エポキシ界面の臨界角より小さい角度で、光の一部が反射するようにする特徴118及び119が形成される。上部表面の臨界角内に含まれる円錐内に散乱する光は、111で示すように、上部表面を通ってLEDから脱出する。浅い角度で散乱する光117は、GaN層の上部表面から反射されて、もう一度基板表面に当たる。この光の一部は、112で示すように、LEDの上部表面からの脱出を可能にする角度で散乱することになる。浅すぎる角度で散乱する光は、もう一度上部表面で跳ね返り、該プロセスが繰り返される。
【0017】サファイア表面の散乱を生じる特徴は、陥凹部119または突出部118であり、LEDによって生じる光のGaNにおける波長より大きいか、あるいは、ほぼその程度であることが望ましい。特徴が光の波長よりあまりにも小さいと光は有効に散乱しない。特徴がGaN層の厚さに対し相対的に大きくなると、粗面仕上げによって、GaNの上部表面に欠陥を生じる可能性がある。これらの制限内において、LED表面の特徴を変更しなくても、粗面仕上げによって、光の結合効率が大幅に向上する。」
(イ)「【0021】基板表面の粗面仕上げは、光が基板から出射する幾何学的構造としても有効であることが分かっている。こうした幾何学的構造において、上部電極は反射材料から形成され、上部電極に当たった光が反射して基板に戻される。」
(ウ)図2は、次のものである。

カ 甲第6号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証(特開平10-4209号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】発光素子、該発光素子は以下(a)および(b)を含むことを特徴とする、
(a)素子、該素子は、以下(a-1)ないし(a-4)を含む、(a-1)基板、(a-2)p-n接合領域、該p-n接合領域は複数の層を備え、その部分組をなす複数層の極性が、p-n接合を形成するように逆極性になっており、層の1つが基板に隣接している、(a-3)透過性ウインドウ層、該透過性ウインドウ層は前記p-n接合領域に隣接して配置され、及び、(a-4)電気接点、該電気接点は前記p-n接合領域に接続し、前記p-n接合に順バイアスをかける働きをする、
(b)主界面であって、該主界面は前記素子内に配置され、少なくとも1つの選択方向において繰り返される特徴によってテクスチャが形成されており、選択された方向のそれぞれにおいて関連する周期性を備えて、光の抽出を増すようになっており、1つの周期内において、少なくとも1つの山と少なくとも1つの谷を有する断面プロフィールを備える主界面。」(特許請求の範囲)
(イ)「【0012】
【課題を解決するため手段】LEDの任意のまたは全ての界面における少なくとも1つの次元において周期的な規則的界面テキスチャを備えるLEDによって、第1のパス光の抽出が改善される。界面のパターン形成は、脱出のために素子による多重パスを必要とせずに、より多くの光を周囲に送り込めるように制御される。さらに、規則的なテキスチャ界面によって、光線が周囲に脱出する場合のフレネル損失を減少させることが可能になる。規則的にパターン化されたテキスチャ形成界面は、素子内における光の単一波長に相当する特徴間隔を備えることが可能である。テキスチャ特徴の形状及び寸法は、光の抽出が問題となる用途にとって最適になるように選択される。
【0013】規則的な制御された界面テキスチャ形成の結果、素子/周囲界面における有効脱出円錐の変化または拡大によって光抽出の利得を向上させることが可能になる。マクロ整形技法に比べると、規則的テキスチャ形成が必要とする製作プロセスはより単純である。ほぼ反射防止コーティングによって反射を最小限に抑えるやり方で、フレネル損失を減少させることが可能である。最後に、第1のパス光に関して、光抽出の利得がすぐに得られ、光は素子内から放出する前に素子構造内において多重パスを繰り返さなくてよい。」
(ウ)「【0026】最適性能に必要な規則的テキスチャ形成の特定の形状、寸法、及び、構成は、用途によって決まる。特徴形状は、円錐状の隆起及び窪みとすることが可能である。典型的な規則的構成は、方形、矩形、または、六角形(HCP、Hexagonal Closed Packed )アレイとすることが可能である。これらの構成が、それぞれ、規則的なテキスチャ形成界面の平面図を示す図5a?5cに示されている。周期的間隔は、おそらく、素子内の光の波長と同じか、あるいは、それより短い。テキスチャ形成界面の断面プロフィールは、隆起または窪みによる山と谷を示し、高さまたは深さによって決まるFWHM幅(Full-Width-at-Half-Maximum, 最大値の1/2における全幅)のように界面の平面に沿った個々の特徴の範囲も、素子内における光の波長の数倍以下と同等にすることが可能である。隆起または窪みの最大高さまたは深さは、素子内における光の1?数波長分と同等にすることが可能である。規則的パターンの間隔は、波長によって決まる。従って、界面における電磁位相整合条件を最適に変更して、周囲に伝搬する全パワーを増大させるのは重要である。パターンの局部的特徴の範囲及び深さは、光を透過するための位相条件の変更効率に影響を及ぼす。また、全光学透過及び素子性能を最大にするため、その個々の局部的特徴のサイズ及び/または形状に関して、パターンの周期を少しづつ変化させてチャープを生じさせるか、あるいは、別の変化をつけることが可能である。」
(エ)図5aないしcは、次のものである。

キ 甲第7号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証(国際公開第01/47039号)には、以下の記載がある。
(ア)「Light extraction of the LED can be increased by providing a textured surface at one of the interfaces of the III-nitride heterostructure. The texturing may be random or ordered. This is illustrated in Figures 13a-c. Figure 13a shows an inverted device employing a sapphire superstrate. The large refractive index mismatch (n?0.6) between the sapphire superstrate and the III-nitride epitaxial layers results in a large portion of the light generated from the active region to be totally-internally-reflected at the sapphire/III- nitride interface. This light is trapped and guided laterally along the device towards the sides of the die. However, because of the many loss mechanisms present in the III-nitride epi layers and electrodes, most of the waveguided light is lost before escaping the device. In Figure 13b, the interface between the III-nitride heterostructure and the sapphire superstrate is textured in order to scatter light out of the III-nitride layers. This reduces the mean photon path-length within the heterostructure and reduces the effect of internal absorption, thus improving light extraction. A similar effect can be achieved by texturing the bottom surface of the III-nitride heterstructure, or at one of the interfaces within the heterostructure. Multiple interfaces may be textured in combination to further increase light extraction.」(16頁3?18行)
(和訳 LEDの光抽出は、III族窒化物ヘテロ構造のインタフェースの1つにおいて質感表面を準備することにより増加できる。質感化は、不規則でも規則的でもよい。これは、図13aから図13cに示されている。図13aは、サファイア上層基板を利用する逆転装置を示す。サファイア上層基板とIII族窒化物エピタキシャル層との間の屈折率の不釣合が大きい(nが約0.6)と、活性領域から発生する大部分の光がサファイア・III族窒化物インタフェースで完全に内部に反射されることになる。この光は捕らえられ、装置に沿って横方向へ、ダイの側面に向かって誘導される。しかし、III族窒化物エピ層と電極とに存在する多くの損失機構のために、導波光のほとんどは、装置から逃げる前に失われる。図13bにおいて、III族窒化物ヘテロ構造とサファイア上層基板との間のインタフェースが、光をIII族窒化物層から散乱させるために質感化される。これにより、ヘテロ構造内の平均光子路程長が減少して内部吸収効果が減少し、すなわち、光抽出が改善される。同様な効果は、III族窒化物ヘテロ構造の底面、又は、ヘテロ構造内のインタフェースの1つにおいて質感化することにより達成できる。多くのインタフェースは、光抽出の更なる増大と関連して質感化され得る。)
(イ)Fig.13bは、次のものである。

ク 甲第13号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第13号証(特開2001-7393号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【0022】AlGaInN/サファイア界面に粗さを持たせた、即ちテクスチャを付けた素子の場合であっても、多層エピタキシャル構造の厚さを大きくすると光抽出効率が改善される。図5は、図4にて利用したものと同様であるがAlGaInN/サファイア界面にテクスチャをつけた素子の相対的光抽出効率をモデリングしたものである。テクスチャをつけたAlGaInN/サファイア界面は、そこに入射する光を0次反射に対して±11°の標準偏差でランダム化する。多層エピタキシャル構造の厚みを増大させたことによる光抽出率の改善はこれらのケースにおいては22?27%である。」
(イ)「【0024】本発明に基づくAlGaInNベースLEDの製造方法を、図7を参照しつつ説明する。ステップ62においては基板が用意される。基板はサファイアで作られたものが望ましい。・・・次にステップ65においては、基板の上面にテクスチャがつけられる。テクスチャづけは数ある技術のうちのいずれによって実施しても良い。・・・また、かわりに基板をウエット又はドライエッチング技術によりパターニングしても良い。」
(ウ)「【0028】AlGaInNベースLED32は、半透明金属層54を介して表面光を放射する素子として説明したが、LEDは半透明金属層のかわりに高い反射率を持つメタライズ層を有する反転素子とすることも出来る。この反転LEDにおいては、表面光は透明基板を通して放射される。」
(エ)図4及び5は、次のものである。

ケ 甲第14号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第14号証「High Output Power InGaN Ultraviolet Light-Emitting Diodes Fabricated on Patterned Substrates Using Metalorganic Vapor Phase Epitaxy」には、以下の記載がある。
(ア)「Ultraviolet(UV) light-emitting diodes(LEDs) with an InGaN multi-quantum-well(MQW) structure were fabricated on a patterned sapphire substrate(PSS) using a single growth process of metalorganic vapor phase epitaxy.」(L583頁9?10行)
(和訳 有機金属気相成長法という単一成長プロセスを用い、パターン化されたサファイア基板(PSS)上にInGaN多重量子井戸(MQW)構造を有する紫外線(UV)発光ダイオード(LED)を形成した。)
(イ)「Epitaxial layers of UV-LED devices were grown on a patterned sapphire substrate(PSS) by the MOVPE technique under atmospheric pressure using a single growth process.」(L583頁右欄3?5行)
(和訳 単一成長プロセスを用い、大気圧下においてMOVPE(有機金属気相成長法)技術により、パターン化されたサファイア基板(PSS)上にUV-LEDデバイスのエピタキシャル層を成長させた。)
(ウ)「The flip-chip LEDs were placed on lead frames, and then molded by epoxy resin.」(L584頁左欄16?18行)
(和訳 フリップチップLEDをリードフレーム上に載置した後、エポキシ樹脂により成形した。)
コ 甲第15号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第15号証「High Output Power InGaN Ultraviolet Light-Emitting Diodes Fabricated on Patterned Substrates Using Metalorganic Vapor Phase Epitaxy」には、以下の記載がある(なお、以下においてはアッパーライン付きの数字を「1 ̄」のように表した。)。
(ア)「Ultraviolet(UV) light-emitting diodes(LEDs) with an InGaN multi-quantum-well(MQW) structure were fabricated on a patterned sapphire substrate(PSS) using a single growth process of metalorganic vapor phase epitaxy.」(121頁要約1?3行)
(和訳 有機金属気相成長法という単一成長プロセスを用い、パターン化されたサファイア基板(PSS)上にInGaN多重量子井戸(MQW)構造を有する紫外線(UV)発光ダイオード(LED)を形成した。)
(イ)「Epitaxial layers of UV-LED devices were grown on a patterned sapphire substrate(PSS) by the MOVPE technique using a single growth process, without a mask or any interruption.」(122頁9?11行)
(和訳 単一成長プロセスを用い、マスクも一切の中断もない状態で、MOVPE(有機金属気相成長法)技術により、パターン化されたサファイア基板(PSS)上にUV-LEDデバイスのエピタキシャル層を成長させた。)
(ウ)「The flip-chip LEDs were placed on lead frames, and then capsulated by epoxy resin. Four types of LEDs were fabricated and measured at RT. Sample A was fabricated on the PSS with parallel grooves along the 〈11 ̄00〉_(sapphire) (〈112 ̄0〉_(GaN)) direction, Sample B was fabricated on the PSS with parallel grooves along the 〈112 ̄0〉_(sapphire) (〈11 ̄00〉_(GaN)) direction, sample C was a standard mounted (p-side up) LED with a transparent p-type electrode fabricated on the same wafer as sample A,・・・」(122頁27?33行)
(和訳 フリップチップLEDをリードフレーム上に載置した後、エポキシ樹脂でカプセル化した。室温で、4種類のLEDが形成され、計測された。サンプルAは〈11 ̄00〉_(サファイア)(〈112 ̄0〉_(GaN)))方向の平行な溝を有するPSS上に形成され、サンプルBは〈112 ̄0〉_(サファイア)(〈11 ̄00〉_(GaN))方向の平行な溝を有するPSS上に形成され、サンプルCは、サンプルAと同じウエハ上に形成された透明のp型電極を有する(p面が上の)標準型LEDであり、・・・)
(2)甲第1号証に記載された発明
上記(1)アによれば、甲第1号証には、上記(1)ア(ア)ないし(エ)に記載の「窒化物系半導体の形成方法」を用いて製造した上記(1)ア(オ)に記載の半導体レーザ素子が記載されているから、甲第1号証には以下の発明が記載されているものと認められる。
「サファイア基板から順に、AlGaNバッファ層2、第1GaN層4、第2GaN層5、n-GaNコンタクト層104、n-GaN第1クラッド層107、MQW発光層108、p-GaN第1クラッド層109、p-GaNコンタクト層112を順に形成し、最上層にp電極114を形成した半導体レーザ素子であって、
C面を基板表面とするサファイア基板の所定領域には、凹部の幅wは、数μm?数十μmとするのが好ましく、凸部の幅bは数百nm?数十μmとするのが好ましい、六角形、三角形等の形状を有する複数の凸部が分散配置された凹凸パターンが形成されており、
(0001)面を基板表面とするサファイア基板に六角形または三角形の凹凸パターンを形成する場合、各辺が[1-100]方向または[11-20]方向と等価な方向に一致するように六角形または三角形の凹凸パターンを形成することが好ましく、
サファイア基板のC面に対する凹部側面の角度は、特に限定されるものではなく、例えば、凹部側面がサファイア基板のC面に対してほぼ垂直であり、
サファイア基板の凸部上面、凹部底面および凹部側面に、アンドープのAlGaNからなるAlGaNバッファ層12を成長させ、続いて、AlGaNバッファ層12上に、アンドープのGaNからなるGaN層13を成長させ、GaN層13の凹部が徐々に埋められていき、GaN層13が横方向に成長して、平坦化するまでGaN層13を成長させる窒化物系半導体の形成方法を用いた半導体レーザ素子。」(以下「甲1発明」という。)
(3)本件訂正発明1と甲1発明との対比・判断
ア 対比
(ア)甲1発明の「半導体レーザ素子」は、上記(1)ア(カ)の「半導体レーザ素子以外の半導体素子、例えば発光ダイオード等の半導体発(光)素子」との記載からみて、「半導体レーザ素子」及び「発光ダイオード」を含めた概念として「半導体発光素子」であるといえる。
また、本件訂正発明1の「半導体発光ダイオード」は、本件特許明細書の「本発明に係る半導体発光素子」(段落【0010】)との記載からみて、「半導体発光素子」といえる。
したがって、甲1発明の「半導体レーザ素子」、及び、本件訂正発明1の「半導体発光ダイオード」は、上位概念である「半導体発光素子」である点で一致するといえる。
(イ)甲1発明の「半導体レーザ素子(半導体発光素子)」は、「サファイア基板から順に、AlGaNバッファ層2、第1GaN層4、第2GaN層5、n-GaNコンタクト層104、n-GaN第1クラッド層107、MQW発光層108、p-GaN第1クラッド層109、p-GaNコンタクト層112を順に形成し、最上層にp電極114を形成したものである」ところ、「サファイア基板」と「AlGaNバッファ層2、第1GaN層4、第2GaN層5、n-GaNコンタクト層104、n-GaN第1クラッド層107、MQW発光層108、p-GaN第1クラッド層109、p-GaNコンタクト層112」等の「複数のGaN系半導体層」とは材質が異なるから、甲1発明は、本件訂正発明1の「半導体発光ダイオード(半導体発光素子)」は、「基板とは材質の異なる複数のGaN系半導体層と、前記GaN系半導体層の最上層に形成された電極とを積層した」との構成を備える。
(ウ)甲1発明の「サファイア基板」は、「C面を基板表面とするサファイア基板の所定領域には、凹部の幅wは、数μm?数十μmとするのが好ましく、凸部の幅bは数百nm?数十μmとするのが好ましい、六角形、三角形等の形状を有する複数の凸部が分散配置された凹凸パターンが形成されており、(0001)面を基板表面とするサファイア基板に六角形または三角形の凹凸パターンを形成する」ものであるから、本件訂正発明1の「基板はC面(0001)サファイア基板であ」るとの構成を備える。
また、甲1発明の凸部のピッチである凹部の幅wは、数μm?数十μmであるから、10μm以下のピッチ(凹部の幅w)を含む。
さらに、甲1発明の「六角形、三角形等の形状を有する複数の凸部が分散配置された凹凸パターン」は「繰り返しパターン」であるといえる。
したがって、甲1発明は、本件訂正発明1の、「サファイア基板」は、「C面(0001)サファイア基板であり」、「上記基板の表面部分には凸部が、10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されて」いるとの構成を備える。
(エ)甲1発明の「C面を基板表面とするサファイア基板の所定領域には」、「六角形、三角形等の形状を有する複数の凸部が分散配置された凹凸パターンが形成されて」いるから、甲1発明は、本件訂正発明1の「凸部」は、「その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であ」るとの構成を備える。
(オ)甲1発明の「サファイア基板」に形成する「凹凸パターン」は、「サファイア基板の凸部上面、凹部底面および凹部側面に、アンドープのAlGaNからなるAlGaNバッファ層12を成長させ、続いて、AlGaNバッファ層12上に、アンドープのGaNからなるGaN層13を成長させ、GaN層13の凹部が徐々に埋められていき、GaN層13が横方向に成長して、平坦化するまでGaN層13を成長させる」ものであるから、「サファイア基板」の「凹部底面および凹部側面」は「凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面」であるといえる。
また、「凹部が徐々に埋められていき、GaN層13が横方向に成長して、平坦化するまでGaN層13を成長させる」と「連続したGaN系半導体層によって埋められ」るものである。
したがって、甲1発明は、本件訂正発明1の「基板表面の凸部」は、「凸部上面、凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋められた」との構成を備える。
(カ)そうすると、本件訂正発明1と甲1発明は、
「基板上に、基板とは材質の異なる複数のGaN系半導体層と、前記GaN系半導体層の最上層に形成された電極とを積層した半導体発光素子において、
上記基板はC面(0001)サファイア基板であり、
上記基板の表面部分には凸部が、10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されており、
その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であり、
前記基板表面の凸部は、凸部上面、凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋められた半導体発光素子。」である点で一致し、
a 本件訂正発明1は、「半導体発光ダイオード」であるのに対して、甲1発明は、「半導体レーザ素子」である点(以下「相違点1」という。)、
b 本件訂正発明1の「電極」は「オーミック電極」であって、「GaN系半導体層で発生した光をオーミック電極側又は基板側から取り出すようにした」ものであるのに対して、甲1発明の「p電極114」は「オーミック電極」であるのか明らかではなく、また、「MQW発光層108で発生した光をp電極114側又はサファイア基板側から取り出すようにした」ものであるのか明らかではない点(以下「相違点2」という。)、
c 本件訂正発明1の「凸部」は、「基板の表面部分には上記GaN系半導体層で発生した光を散乱又は回折させる凸部」であって、「λ/4(λは上記半導体発光ダイオードの発光波長)以上の間隔、10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されて」いるのに対して、甲1発明の「凹凸パターン」は、「MQW発光層108で発生した光を散乱又は回折させる」ものであるのか明らかではなく、また、「λ/4(λは上記半導体発光ダイオードの発光波長)以上の間隔で繰り返しパターンに形成されて」いるのか明らかではない点(以下「相違点3」という。)、
d 本件訂正発明1の「(平面形状が大略三角形又は六角形である)凸部」は、「GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに凸部平面形状の構成辺が上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に直交するように形成され」ているのに対して、甲1発明の「(六角形、三角形等の形状を有する複数の凸部が分散配置された)凹凸パターン」は「(0001)面を基板表面とするサファイア基板に六角形または三角形の凹凸パターンを形成する場合、各辺が[1-100]方向または[11-20]方向と等価な方向に一致するように六角形または三角形の凹凸パターンを形成することが好まし」いものであるが、「GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに凸部平面形状の構成辺が上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に直交するように形成され」ているか明らかではない点(以下「相違点4」という。)、及び、
e 本件訂正発明1の「凸部」は、「側面が傾斜しており、その側面のテーパ角が120°より大きく、140°以下であ」るのに対して、甲1発明の「凹凸パターン」は、「サファイア基板のC面に対する凹(凸)部側面の角度は、特に限定されるものではなく、例えば、凹(凸)部側面がサファイア基板のC面に対してほぼ垂直であ」って、「側面のテーパ角が120°より大きく、140°以下であ」るか明らかではない点(以下「相違点5」という。)で相違するものと認められる。
イ 判断
(ア)相違点1について検討する。
a 甲1発明は、上記(2)のとおり、「サファイア基板から順に、AlGaNバッファ層2、第1GaN層4、第2GaN層5、n-GaNコンタクト層104、n-GaN第1クラッド層107、MQW発光層108、p-GaN第1クラッド層109、p-GaNコンタクト層112を順に形成し、最上層にp電極114を形成した半導体レーザ素子」であって、上記ア(カ)に示した、本件訂正発明1と甲1発明の一致点である、「基板上に、基板とは材質の異なる複数のGaN系半導体層と、前記GaN系半導体層の最上層に形成された電極とを積層した半導体発光素子において、上記基板はC面(0001)サファイア基板であり、上記基板の表面部分には凸部が、10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されており、その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であり、前記基板表面の凸部は、凸部上面、凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋められた半導体発光素子」の構成を前提として、甲1発明の「半導体レーザ素子」を「半導体発光ダイオード」に変更することについて、当業者が容易に想到できたものであるとする根拠を見出すことはできず、甲1発明において、相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることが当業者にとって容易に想到できたとすることはできない。
b 請求人は、平成24年3月5日付けの審判事件弁駁書において「しかしながら甲1には、段落【0235】に・・・と明確に記載されている。そして『GaN系半導体層で発生した光を前記オーミック電極側又は基板側から取り出すようにした半導体発光ダイオード』は周知慣用技術である。・・・基板に加工をした半導体発光素子において、『GaN系半導体層で発生した光を前記オーミック電極側又は基板側から取り出すようにした半導体発光ダイオード』が周知慣用技術であることは明らかである。したがって、甲1の『第1?第3の発明に係る窒化物系半導体の形成方法は、半導体レーザ素子以外の半導体素子、例えば発光ダイオード等の半導体発光素子・・・の製造に適用することも可能である。』という記載に接した当業者であれば、『GaN系半導体層で発生した光を前記オーミック電極側又は基板側から取り出すようにした半導体発光ダイオード』であると理解することは明らかである。」(5頁4?28行)、及び、平成24年10月10日付け上申書において「甲1に記載されている具体例は全て半導体レーザ素子であり・・・構造的に類似しているのは端面発光型発光ダイオードである・・・そもそも、甲1は、発明の名称を『窒化物系半導体素子および窒化物系半導体素子の形成方法』とするものであり・・・発光面が端面でなければならないものでもない。」(2頁4行?3頁14行)と主張する。
しかし、甲第1号証(上記(1)ア(カ)を参照。)の「上記においては、第1?第3の発明に係る窒化物系半導体の形成方法を用いて製造した半導体レーザ素子について説明したが、第1?第3の発明に係る窒化物系半導体の形成方法は、半導体レーザ素子以外の半導体素子、例えば発光ダイオード等の半導体発(光)素子、フォトダイオード等の受光素子、トランジスタ等の電子素子の製造に適用することも可能である。」との記載は、甲第1号証における「第1?第3の発明に係る窒化物系半導体の形成方法」、すなわち「基板のC面上に第1の窒化物系半導体層を成長させ、前記第1の窒化物系半導体層においてC面から所定の方向に所定の角度傾斜した面を露出させ、前記第1の窒化物系半導体層の前記傾斜した面上に前記第1の窒化物系半導体層よりも単結晶に近い第2の窒化物系半導体層を成長させることを特徴とする窒化物系半導体の形成方法。」(請求項1)などを「半導体レーザ素子」以外の半導体素子、例えば「発光ダイオード」等の半導体発光素子の製造に適用できることを示すにとどまるものであって、当該記載を根拠として、「基板上に、基板とは材質の異なる複数のGaN系半導体層と、前記GaN系半導体層の最上層に形成された電極とを積層した半導体発光素子において、上記基板はC面(0001)サファイア基板であり、上記基板の表面部分には凸部が、10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されており、その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であり、前記基板表面の凸部は、凸部上面、凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋められた半導体発光素子」である発光ダイオードが甲第1号証に記載されているとか、「基板上に、基板とは材質の異なる複数のGaN系半導体層と、前記GaN系半導体層の最上層に形成された電極とを積層した半導体発光素子において、上記基板はC面(0001)サファイア基板であり、上記基板の表面部分には凸部が、10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されており、その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であり、前記基板表面の凸部は、凸部上面、凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋められた半導体発光素子」との構成を前提として、甲1発明の「半導体レーザ素子」を「半導体発光ダイオード」に変更することについて、当業者が容易に想到できたものであるとは認められない。
(イ)してみると、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1が、甲1発明と同一であるということはできず、また、本件訂正発明1が、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

2 無効理由2について
(1)甲号証の記載
ア 甲第8号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証(特開2002-164296号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】基板と該基板上に気相成長された半導体結晶とからなる半導体基材であって、前記基板の結晶成長面が凹凸面とされ、前記半導体結晶は凹部及び/または凸部からファセット構造を形成しながら成長されたものであることを特徴とする半導体基材。・・・
【請求項3】上記基板の結晶成長面の凸部が、平行なストライプ形状からなる凸部であることを特徴とする請求項1記載の半導体基材。
【請求項4】上記半導体結晶がInGaAlNであって、かつストライプの長手方向が該InGaAlN結晶の(1-100)面もしくは(11-20)面と平行であることを特徴とする請求項3記載の半導体基材。
【請求項5】上記基板に凹凸加工したストライプの長手方向が上記InGaAlN結晶の(1-100)面もしくは(11-20)面と平行であり、その精度が1°以内であることを特徴とする請求項4記載の半導体基材。
【請求項6】上記基板に凹凸加工した凸部の幅Aと、これに隣接する凹部の幅Bとの合計A+Bが20μm以内とされ、前記凹部の深さhをA,Bのいずれか長い方の幅の20%以上としたことを特徴とする請求項5記載の半導体基材。」(特許請求の範囲)
(イ)「【0016】
【作用】本発明は、バッファ層等すら形成していない状態の基板に対して凹凸面を設けることで、結晶成長当初からファセット面を形成可能な素地面を予め提供しておく点に特徴を有する。即ち、基板に凹凸面を具備させることで、気相成長を行うに際し、相互の段差にて区画された凹面と凸面のそれぞれ又はいずれかを、ファセット構造成長が生成される単位基準面として準備するものである。ここで、凹面と凸面の双方がファセット構造成長可能な面として準備された場合は、成長初期には基板表面全体で結晶成長が起こり、凸部及び凹部それぞれでファセット面を具備した成長となる。一方、凹面と凸面のいずれかが極めて微小幅である等の理由で実質的に結晶成長不可能な面である場合、或は結晶成長自体は可能であるが(請求項9の構成のように)加工を施して実質的に結晶成長し得ない場合は、凸部又は凹部のいずれかからファセット構造成長が起こることになる。さらに、凸部又は凹部のいずれかからファセット構造成長が起こるが、他方の面からは非ファセット構造成長がおこるという場合もある。
【0017】この結果基板からC軸方向に伸びる転位線がファセット面で横方向に曲げられ、上方に伝播しなくなる。その後成長を続ける事でやがて成長面は平坦化され、その表面近傍は基板からの転位の伝播がない為に低転位密度領域となる。すなわち低転位密度領域の形成が、従来のようにマスク層を用いることなしに、かつ、下地層が不要で達成されることになる。また特には空洞部を形成する必要が無い為、熱放散の問題が回避できるようになるものである。
【0018】
【発明の実施の態様】以下図面に基いて、本発明の実施態様につき詳細に説明する。図1(a)乃至(c)は本発明に係る半導体基材の結晶成長状態を説明するための断面図である。図において、1は基板であり、2は該基板1上に気相成長された半導体結晶をそれぞれ示している。基板1の結晶成長面には凸部11及び凹部12が形成されており、前記凸部11及び/または凹部12からファセット面を形成し得る素地面とされている。
【0019】上記した基板1とは、各種の半導体結晶層を成長させるためのベースとなる基板であって、格子整合のためのバッファ層等も未だ形成されていない状態のものを言う。このような基板としては、サファイア(C面、A面、R面)、SiC(6H、4H、3C)、GaN、AlN、Si、スピネル、ZnO,GaAs,NGOなどを用いることができるが、発明の目的に対応するならばこのほかの材料を用いてもよい。なお、基板の面方位は特に限定されなく、更にジャスト基板でも良いしオフ角を付与した基板であっても良い。また、サファイア基板などに数μmのGaN系半導体をエピタキシャル成長してある基板を用いても良い。
【0020】基板1上に成長される半導体層としては種々の半導体材料を用いることができ、Al_(X)Ga_(1-X-Y)In_(Y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)ではx、yの組成比を変化させたGaN、Al_(0.2)Ga_(0.8)N、In_(0.4)Ga_(0.6)Nなどが例示できる。」
(ウ)「【0023】本発明にあっては、上記効果が出る凹凸形状であれば特に制限はなく各種の形状を採用することができる。このような凹凸面の形成の態様としては、島状の点在型の凸部、ストライプ型の凸条からなる凸部、格子状の凸部、これらを形成する線が曲線である凸部などが例示できる。」
(エ)「【0032】また基板に凹凸加工した凸部11の立上り斜面と基板平面が成す角度は、60°以上とすることが好ましく、可及的に直角に近いことが特に望ましい。角度が60°よりも小さい場合、凸部斜面から成長が始まりファッセット成長進行後の平坦化が良好に行えない問題が発生した。本発明者らの検討の結果、60°以上の角度を形成する事で、とりわけ直角に近い立上り斜面にすると、ファセット形成並びにその後の平坦化が実質的に阻害されないことを見出した。なお可能であれば、90°を超える斜面角度とするのも好ましい。」
(オ)「【0041】【実施例】[実施例1]c面サファイア基板上にフォトレジストのパターニング(幅:2μm、周期:4μm、ストライプ方位:ストライプ延伸方向がサファイア基板の<1-100>方向)を行い、RIE(Reactive Ion Etching)装置で2μmの深さまで断面方形型にエッチングした。この時のアスペクト比は1であった。フォトレジストを除去後、MOVPE装置に基板を装着した。その後、水素雰囲気下で1100℃まで昇温し、サーマルエッチングを行った。その後温度を500℃まで下げ、3族原料としてトリメチルガリウム(以下TMG)を、N原料としてアンモニアを流し、GaN低温バッファー層を成長した。つづいて温度を1000℃に昇温し原料としてTMG・アンモニアを、ドーパントとしてシランを流しn型GaN層を成長した。その時の成長時間は、通常の凹凸の施していない場合のGaN成長における2μmに相当する時間とした。成長後の断面を観察すると、図1(b)に示すように凸部、凹部両方での成長が観察された。
【0042】同様の方法で通常の凹凸の施していない場合のGaN成長における6μmに相当する時間成長を行なった。結果、凹凸部を覆い、平坦になったGaN膜が得られた。」
(カ)「【0050】[実施例4]実施例1で得られた膜に連続してn型AlGaNクラッド層、InGaN発光層、p型AlGaNクラッド層、p型GaNコンタクト層を順に形成し、発光波長370nmの紫外LEDウエハーを作製した。その後、電極形成、素子分離を行い、LED素子とした。ウェハ全体で採取されたLEDチップの出力の平均値と逆電流特性を評価した。比較対象としては、従来のELO技術を使って上記構造を作製した紫外LEDチップと通常のサファイア基板を使って上記構造を作製した紫外LEDチップである。これらの評価結果を表2に示す。」
(キ)図1は、次のものである。

イ 甲第1号証の記載については上記1(1)アのとおりである。
ウ 甲第9号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第9号証(特開2002-164571号公報)には、以下の記載がある。
「【0014】【実施例1】アルミナ成分の濃度が20%のアルミナゾルに、アルミナのシード成分を加え、攪拌機で混合し、粘度を10センチポアズにした。アルミナのシード成分の作製方法は次のように行った。アルミナのポットミルに高純度のアルミナボールと純水を入れ、3日間回転させた後、液体を1.5万rpmの遠心分離器にかけた。そしてその上澄み液をアルミナのシード成分として用いた。シードを加えたアルミナゾルをc面の平滑なサファイア基板上に、スピンコーターで15秒間、1500rpmの条件で薄く塗布した。これを加熱炉に入れ70℃で5時間、120℃で5時間、250℃で3時間、350℃で5時間、450℃で5時間、650℃で3時間、750℃で3時間順次加熱処理し、ついで焼結のために、この基板を1200℃の温度の加熱炉に3分間保持するように、急速加熱し、200℃/分で急速冷却した。炉から取りだし、110℃に加熱した混酸(硫酸:リン酸=3:1)中で30分処理し、ついで230℃のリン酸に15分間侵せき後、純水で良く水洗し乾燥した。凸部の平均的大きさは約75nm、高さは40nmであり、ほぼ六角形状で島状的であった。」
エ 甲第10号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第10号証(特開2001-267692号公報)には、以下の記載がある。
「【0172】また、上記においては基板上にストライプ状の凹凸パターンを形成しているが、基板上に形成する凹凸パターンは、ストライプ状以外であってもよい。さらに、円形、六角形、三角形等の形状を有する複数の凹部または凸部が分散的に形成された基板であってもよい。」
オ 甲第11号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第11号証(特開2001-176809号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【0101】本実施形態にかかる半導体装置の表面を光学顕微鏡により観察したところ、窪み104のほぼ中央付近に欠陥が点状になって現れる以外は特に目立った欠陥が見られず、従来の半導体装置と比べて欠陥密度が減少したことが確認できた。
(実施形態4)図11を参照しながら、本発明による実施形態4を説明する。図11は、実施形態4にかかる半導体装置に含まれる半導体層203の上面構成を模式的に示している。本実施形態は、上記実施形態2の凸起204が複数設けられている点が上記実施形態2と異なる。以下では、説明の簡略化のため、上記実施形態2と異なる点を主に説明し、同様の説明は省略または簡略化する。
【0102】図11に示すように、本実施形態にかかる半導体装置は、サファイア基板201の上に形成されたGaNからなる第1の半導体層202(厚さ2.0μm)が形成され、その上にAl_(0.1)Ga_(0.9)Nからなる第2の半導体層203(厚さ1.5μm)とを有している。第1の半導体層202には、高さ0.5μmの凸起204が複数個形成されている。複数の凸起204は、<1,-1,0,0>方向(図中、矢印Dの方向)および<1,1,-2,0>方向(図中、矢印Eの方向)に、中心間の距離が10μmになるように等間隔に形成されている。上記実施形態2の凸起204と同様に、凸起204における第1の半導体層202の主面に含まれる辺の長さは1.0μmであり、凸起204は、面方位が(1,-1,0,1)、(0,1,-1,1)および(-1,0,1,1)である3枚の側面205、206および207と面方位が(0,0,0,1)である上面208とから構成されている。凸起204近傍の積層構造については図7と同様である。なお、不図示であるが、サファイア基板201と第1の半導体層202との間にはバッファ層が形成されている。」
(イ)「【0107】また、上記実施形態3における窪み104の形状を、図12に示すように正六角形にした構成にしてもよい。さらに、上記実施形態4における凸起204の形状を、図13に示すように正六角形にした構成にしてもよい。
【0108】なお、上記実施形態1?4において、基板101または201としてはサファイア基板以外の六方晶よりなる基板を用いることができ、例えば、スピネル基板、SiC基板またはGaN基板を用いてもよい。
【0109】また、上記実施形態1?4において、第1の半導体層に窪みまたは凸起を設ける代わりに基板101または201に窪みまたは凸起を設けてもよい。このようにすることによっても、第1の半導体層に窪みまたは凸起を形成することができる。」
(ウ)図11及び12は、次のものである。

カ 甲第12号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第12号証(特開2001-94216号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】第1の窒化物系半導体層または基板からなる下地の表面に島状に点在する複数の凸部からなる凹凸パターンを形成し、前記凹凸パターン上に第2の窒化物系半導体層を形成することを特徴とする窒化物系半導体層の形成方法。・・・
【請求項5】前記複数の凸部が円形または多角形であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の窒化物系半導体層の形成方法。
【請求項6】前記多角形は六角形であることを特徴とする請求項5記載の窒化物系半導体層の形成方法。」(特許請求の範囲)
(イ)「【0023】複数の凸部が円形または多角形であってもよい。この場合、円形または多角形の凸部上に六方晶系の第2の窒化物系半導体層がほぼ自然成長するので、第2の窒化物系半導体層の欠陥密度が低減される。
【0024】多角形は六角形であることが好ましい。この場合、六角形の凸部上に六方晶系の第2の窒化物系半導体層が自然成長するので、第2の窒化物系半導体層の欠陥密度がさらに低減される。」
(ウ)「【0053】図2および図3は六角形のパターン5の2次元配列の例を示す平面図である。図2の例では、複数の六角形のパターン5は直交するα方向およびβ方向に沿って2次元的に配列されている。すなわち、パターン5が最小のピッチW2で並ぶのは、α方向とβ方向の2方向である。図2においては、α方向と六角形のパターン5の対角線のうちの1つとが平行になる。」
(エ)図2は、次のものである。

(2)甲第8号証及び甲第1号証に記載された発明
ア 上記(1)アによれば、甲第8号証には以下の発明が記載されているものと認められる。
「基板と該基板上に気相成長された半導体結晶とからなる半導体基材であって、前記基板の結晶成長面が凹凸面とされ、前記半導体結晶は凹部及び/または凸部からファセット構造を形成しながら成長されたものであり、
上記基板の結晶成長面の凸部が、平行なストライプ形状からなる凸部であり、
上記半導体結晶がInGaAlNであって、かつ上記基板に凹凸加工したストライプの長手方向が上記InGaAlN結晶の(1-100)面もしくは(11-20)面と平行であり、その精度が1°以内であり、
上記基板に凹凸加工した凸部の幅Aと、これに隣接する凹部の幅Bとの合計A+Bが20μm以内とされ、前記凹部の深さhをA,Bのいずれか長い方の幅の20%以上とした半導体基材を用い、
基板としては、サファイア(C面)を用い、
上記半導体結晶が、上記基板上に成長される半導体層としてAl_(X)Ga_(1-X-Y)In_(Y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)であり、
n型AlGaNクラッド層、InGaN発光層、p型AlGaNクラッド層、p型GaNコンタクト層を順に形成し、その後、電極形成を行い、
上記基板に凹凸加工したストライプは、上記基板上に幅:2μm、周期:4μm、ストライプ方位:ストライプ延伸方向が上記基板の<1-100>方向で2μmの深さまで断面方形型にエッチングして凹凸を施し、効果が出る凹凸形状であれば特に制限はなく各種の形状を採用することができ、凹凸面の形成の態様としては、島状の点在型の凸部などが例示でき、上記基板に凹凸加工した凸部の立上り斜面と基板平面が成す角度は、60°以上とすることが好ましく、可及的に直角に近いことが特に望ましく、
上記基板上を断面方形型にエッチングした後、GaN低温バッファー層を成長し、n型GaN層を成長し、凸部、凹部両方での成長が観察され、凹凸部を覆い、平坦になったGaN膜が得られたLED素子。」(以下「甲8発明」という。)
イ 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)は上記1(2)のとおりである。
(3)本件訂正発明1と甲8発明との対比、判断
ア 対比
(ア)甲8発明の「LED素子」は、「基板としては、サファイア(C面)を用いることができ、上記基板上に成長される半導体層としてAl_(X)Ga_(1-X-Y)In_(Y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)などが例示でき、n型AlGaNクラッド層、InGaN発光層、p型AlGaNクラッド層、p型GaNコンタクト層を順に形成し、その後、電極形成を行った」ものであるから、「サファイア(C面)基板」と「上記基板上に成長される半導体層」である「n型AlGaNクラッド層、InGaN発光層、p型AlGaNクラッド層、p型GaNコンタクト層」等の「複数のGaN系半導体層」とは材質が異なる。
したがって、甲8発明は、本件訂正発明1の、「半導体発光ダイオード」において「基板とは材質の異なる複数のGaN系半導体層と、前記GaN系半導体層の最上層に形成された電極とを積層した」との構成、及び、「基板はC面(0001)サファイア基板であ」るとの構成を備える。
(イ)甲8発明の「基板」は、「基板上に幅:2μm、周期:4μm、ストライプ方位:ストライプ延伸方向が基板の<1-100>方向で2μmの深さまで断面方形型にエッチングして凹凸を施」すものであるところ、幅:2μm、周期:4μmの断面方形型の凹凸は、凸部が10μm以下のピッチであり、また、繰り返しパターンに形成されているといえるから、甲8発明は、本件訂正発明1の、「基板の表面部分には凸部が、10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されて」いるとの構成を備える。
(ウ)甲8発明の「凹凸部」は、「基板上を断面方形型にエッチングした後、GaN低温バッファー層を成長し、n型GaN層を成長し、凸部、凹部両方での成長が観察され、凹凸部を覆い、平坦になったGaN膜が得られ」るものであるから、「凹部」は「凸部の形成されていない平坦面」であり、当該「凸部」には「側面」があることは明らかであるから、本件訂正発明1の「基板表面の凸部」は、「凸部上面、凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋められた」との構成を備える。

そうすると、本件訂正発明1と甲8発明は、
「基板上に、基板とは材質の異なる複数のGaN系半導体層と、前記GaN系半導体層の最上層に形成された電極とを積層した半導体発光ダイオードにおいて、
上記基板はC面(0001)サファイア基板であり、
上記基板の表面部分には凸部が、10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されており、
前記基板表面の凸部は、凸部上面、凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋められた半導体発光ダイオード。」である点で一致し、

a 本件訂正発明1の「電極」は「オーミック電極」であって、「GaN系半導体層で発生した光をオーミック電極側又は基板側から取り出すようにした」ものであるのに対して、甲8発明の「電極」は「オーミック電極」であるのか明らかではなく、また、「InGaN発光層で発生した光を電極側又は基板側から取り出すようにした」ものであるのか明らかではない点(以下「相違点6」という。)、
b 本件訂正発明1の「凸部」は、「基板の表面部分には上記GaN系半導体層で発生した光を散乱又は回折させる凸部」であって、「λ/4(λは上記半導体発光ダイオードの発光波長)以上の間隔、10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されて」いるのに対して、甲8発明の「凹凸部」は、「MQW発光層108で発生した光を散乱又は回折させる」ものであるのか明らかではなく、また、「λ/4(λは上記半導体発光ダイオードの発光波長)以上の間隔」で繰り返しパターンに形成されて」いるのか明らかではない点(以下「相違点7」という。)、
c 本件訂正発明1の「凸部」は、「その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であり、上記GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに上記凸部平面形状の構成辺が上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に直交するように形成され」ているのに対して、甲8発明の「凹凸部」は、「基板上に幅:2μm、周期:4μm、ストライプ方位:ストライプ延伸方向が上記基板の<1-100>方向で2μmの深さまで断面方形型にエッチングして凹凸を施し」、「効果が出る凹凸形状であれば特に制限はなく各種の形状を採用することができ、凹凸面の形成の態様としては、島状の点在型の凸部、ストライプ型の凸条からなる凸部、格子状の凸部、これらを形成する線が曲線である凸部などが例示でき」るものであるが、「その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であ」るか明らかではなく、また、「GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに凸部平面形状の構成辺が上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に直交するように形成され」ているか明らかではない点(以下「相違点8」という。)、及び、
d 本件訂正発明1の「凸部」は、「側面が傾斜しており、その側面のテーパ角が120°より大きく、140°以下であ」るのに対して、甲8発明の「凹凸部」は、「基板に凹凸加工した凸部11の立上り斜面と基板平面が成す角度は、60°以上とすることが好ましく、可及的に直角に近いことが特に望まし」いものであって、「側面のテーパ角が120°より大きく、140°以下であ」るか明らかではない点(以下「相違点9」という。)で相違するものと認められる。
イ 判断
(ア)相違点7および9について検討する。
a 請求人は「基板に凹凸を設けることで光の散乱・回折効果を高めるということが周知であった以上(甲5?7)、甲8発明において基板に凹凸を設けていることから、光の散乱・回折効果が得られることは明らかである。」(口頭審理陳述要領書7頁1ないし3行)と主張する。
しかし、上記(1)ア(イ)の甲第8号証の記載によれば、甲8発明における「凸部」は、基板に凹凸面を具備させることで結晶成長当初からファセット面を形成可能な素地面を予め提供し、この結果基板からC軸方向に伸びる転位線がファセット面で横方向に曲げられ、上方に伝播しなくなることで、表面近傍に基板からの転位の伝播がない低転位密度領域を形成することを目的とするものと認められ、かかる「凸部」が、「光を散乱又は回折させる」ものであるとは想定し難いところである。
そして、甲第5?7号証(上記1(1)オないしキ)を見ても、甲8発明における「凸部」が、「表面近傍に基板からの転位の伝播がない低転位密度領域を形成する」と同時に、「光を散乱又は回折させる」ものと解する根拠は見出せないし、かかる構成とすることが、当業者にとって容易に想到し得ると認めるに足る根拠は、本件各証拠を通じてみても見いだすことができない。
したがって、甲8発明における「凸部」を、「GaN系半導体層で発生した光を散乱又は回折させる凸部」とすることが、当業者にとって容易に想到できたとすることはできないから、相違点7のその余の構成について検討するまでもなく、甲8発明において、相違点7に係る本件訂正発明1の構成とすることについて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
b 請求人は、「しかしながら、甲8の段落【0032】には、凸部の立上がり斜面と基板平面が成す角度は60°以上(テーパ角120°以下)とすることが好ましいと記載されていることから、テーパ角が120°より大きい場合も含まれていることは明らかである。」(審判事件弁駁書14頁1ないし4行)と主張する。
しかし、上記(1)ア(エ)の甲第8号証の記載によれば、甲8発明の「凸部」は、「ファセット形成並びにその後の平坦化が実質的に阻害されない」ように、「基板に凹凸加工した凸部11の立上り斜面と基板平面が成す角度は、60°以上(本件訂正発明1の表現に即していえば120°以下である。)とすることが好ましく、可及的に直角に近いことが特に望まし」いとしたものと認められ、かかる角度について、「側面が傾斜しており、その側面のテーパ角が120°より大きく、140°以下」とする理由は見当たらないし、かかる構成とすることが、当業者にとって容易に想到し得ると認めるに足る根拠は、本件各証拠を通じてみても見いだすことができない。
したがって、甲8発明において、相違点9に係る本件訂正発明1の構成とすることについて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(イ)請求人は、相違点8に関して甲第1号証を挙げて主張する(審判請求書40ないし41頁)が、以上の検討によれば、上記相違点6及び8について検討するまでもなく、本件訂正発明1が、甲8発明、甲1発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

第9 むすび
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲1発明と同一であるということはできず、また、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできず、さらに、甲8発明、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、本件訂正発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものということはできず、同法第123条第1項第2号に該当しない。
また、本件訂正発明2ないし4は、本件訂正発明1の特定事項をすべて備え、更に他の特定事項を付加したものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1発明と同一であるということはできず、また、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできず、さらに、甲8発明、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、本件訂正発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものということはできず、同法第123条第1項第2号に該当しない。
したがって、請求人が主張する理由によって、本件訂正発明についての特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
半導体発光素子
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】基板上に、基板とは材質の異なる複数のGaN系半導体層と、前記GaN系半導体層の最上層に形成されたオーミック電極とを積層し、前記GaN系半導体層で発生した光を前記オーミック電極側又は基板側から取り出すようにした半導体発光ダイオードにおいて、
上記基板はC面(0001)サファイア基板であり、
上記基板の表面部分には上記GaN系半導体層で発生した光を散乱又は回折させる凸部が、λ/4(λは上記半導体発光ダイオードの発光波長)以上の間隔、10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されており、
その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であり、上記GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに上記凸部平面形状の構成辺が上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に直交するように形成され、上記凸部の側面が傾斜しており、その側面のテーパ角が120°より大きく、140°以下であり、
前記基板表面の凸部は、凸部上面、凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋められたことを特徴とする半導体発光ダイオード。
【請求項2】上記オーミック電極が、上記半導体層の最上層のほぼ全面を覆うことを特徴とする請求項1記載の半導体発光ダイオード。
【請求項3】上記オーミック電極が、透光性であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光ダイオード。
【請求項4】上記半導体中における発光波長をλ、上記半導体の屈折率をnとしたとき、上記凸部の大きさが、少なくともλ/4n以上、20μm以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の半導体発光ダイオード。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は半導体発光素子に関し、特に窒化物系化合物半導体発光素子に於いて、基板に半導体に欠陥が発生しない凹凸を設け、半導体層での光の導波方向を変えて、外部量子効率を上げるようにした素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体発光素子、例えば発光ダイオード(LED)では基本的には基板上にn型半導体層、発光領域、p型半導体層を積層構造に成長させる一方、p型半導体層及びn型半導体層の上に電極を形成し、半導体層から注入される正孔と電子の再結合によって発光領域で光が発生すると、その光をp型半導体層上の透光性電極又は基板から取り出すようにした構造か採用されている。尚、透光性電極とは、p型半導体層のほぼ全面に形成された金属薄膜又は透明導電膜からなる光透過性の電極のことである。
【0003】
かかる構造の発光ダイオードでは積層構造を原子レベルで制御する関係上、基板の平坦性を鏡面レベルに加工しているので、基板上の半導体層、発光領域及び電極は相互に平行な積層構造をなし、しかも半導体層の屈折率が大きく、p型半導体層の表面と基板の表面とによって導波路が構成される。即ち、屈折率の大きな半導体層を、屈折率の小さな基板と透光性電極によって挟む構造によって導波路が形成される。
【0004】
従って、光が電極表面又は基板表面に対して所定の臨界角以上の角度で入射すると、電極・p型半導体層の界面又は基板表面で反射されて半導体層の積層構造内を横方向に伝搬して導波路内に捕捉されてしまい、また横方向の伝播中の損失もあり、所期の外部量子効率が得られない。即ち、臨界角よりも大きな角度で基板又は電極との界面に入射した光は、全反射を繰り返して導波路内を伝播し、その間に吸収される。このため、発光の一部は減衰して、有効に外部に取り出すことができず、外部量子効率が低下してしまう。
【0005】
これに対し、発光ダイオードのチップを半球状又は角錐台状に加工し、発光領域で発生した光を臨界角未満で表面に入射させるようにした方法が提案されているが、チップの加工が難しい。
【0006】
また、発光ダイオードの表面又は側面を粗面とする方法も提案されているが、p-n接合が部分的に破壊され、有効な発光領域が減少するおそれがある。
【0007】
他方、基板の表面に凹部又は凸部を形成して発光領域で発生した光を散乱させ、もって外部量子効率を向上させるようにした方法が提案されている(特開平11-274568号公報参照)。この方法では、サファイア基板、n型GaN、p型GaN、透明電極を順に積層したGaN系LEDにおいて、サファイア基板の表面を、機械研磨やエッチングによってランダムに粗面化する。これにより、サファイア基板に入射する光が散乱され、外部量子効率が向上する。
また、基板の表面に凹凸を設けることで半導体層の結晶性を高めることも提案されている(特開2001-148318、特開2000-156524、特開2000-106455、特開2002-280609、特開2002-280611)。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来公報記載の発光ダイオードでは凹部又は凸部によっては外部量子効率が向上できないことがあった。即ち、凹部又は凸部の形状や大きさを制御せずに粗面化を行った場合、生じた凹部または凸部がある程度大きくなると、成長したGaNの結晶性が低下してしまう。このため、GaN半導体層における発光効率(=内部量子効率)が下がり、外部量子効率がかえって低下する。また、無秩序に粗面化を行うだけでは、導波路内における光吸収の影響が大きいため、外部量子効率が十分なレベルに達しない。
【0009】
そこで、本発明の目的は改善された外部量子効率を安定に確保できるようにした半導体発光素子を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る半導体発光ダイオードは、基板上に、基板とは材質の異なる複数のGaN系半導体層と、前記GaN系半導体層の最上層に形成されたオーミック電極とを積層し、前記GaN系半導体層で発生した光を前記オーミック電極側又は基板側から取り出すようにした半導体発光ダイオードにおいて、上記基板はC面(0001)サファイア基板であり、上記基板の表面部分には上記GaN系半導体層で発生した光を散乱又は回折させる凸部が、λ/4(λは上記半導体発光ダイオードの発光波長)以上の間隔、10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されており、その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であり、上記GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに上記凸部平面形状の構成辺が上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に直交するように形成され、上記凸部の側面が傾斜しており、その側面のテーパ角が120°より大きく、140°以下であり、前記基板表面の凸部は、凸部上面、凸部の形成されていない平坦面、及び凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋められたことを特徴とする。本件発明によれば、凹凸による光の散乱・回折効果を高め、半導体層中を横方向に伝播する光を減らし、伝播中の吸収ロスを低減して発光の総量を高めることができる。
【0011】
本発明の特徴の1つは半導体層に欠陥が成長しないような形状の凹部及び/又は凸部を基板表面部分に設け、その上に半導体層を成長させるようにした点にある。光を散乱又は回折させる凹部又は凸部を、半導体層と電極の界面ではなく、半導体層と基板の界面に設けることは、発光領域(=活性層)の結晶性を良好にし、出力を増大させる効果がある。特に窒化ガリウム系化合物半導体系発光素子の場合、基板、n側窒化物半導体層、発光領域(=活性層)、p側窒化物半導体層の順に積層されるが、p側窒化物半導体層の膜厚はn側窒化物半導体層に比べて薄い。このため、凹部又は凸部を、半導体層と電極の界面ではなく、半導体層と基板の界面に設けることにより、凹凸による影響を厚いn側窒化物半導体層によって緩和して、発光領域(=活性層)の結晶性を良好に保つことができる。尚、本件発明において「半導体層の結晶欠陥を発生させない」とは、基板に凹凸を形成することによる半導体層へのピット等のモホロジ異常の発生がなく、また、基板に凹凸を形成することによる半導体層中の転位の増加が殆どないことをいう。
【0012】
従来の平坦な基板を有する半導体発光素子の場合、半導体層中を横方向に伝搬している光は伝搬している間に半導体層や電極に一部が吸収され、半導体層から出るまでに減衰する。
【0013】
これに対し、本発明では従来の平坦な基板の場合には横方向に伝搬していた光が凹部及び/又は凸部において散乱又は回折され、上方の半導体層又は下方の基板から効率的に取り出される結果、外部量子効率を大幅に向上できる。即ち、第1に、凹凸による光の散乱・回折効果により、基板上方又は下方への光束が多くなり、発光素子の発光面を正面から観察したときの輝度(=正面輝度)を高めることができる。また、第2に、凹凸による光の散乱・回折効果により、半導体層中を横方向に伝播する光を減らし、伝播中の吸収ロスを低減して発光の総量を高めることができる。
【0014】
しかも、基板表面部分に凹部及び/又は凸部を形成しても、半導体層には凹凸による結晶欠陥が殆ど成長しないので、上述の高い外部量子効率を安定に確保できる。尚、本件発明において、凹部の内側や凸部の周囲は完全に半導体層によって埋められていることが好ましい。凹部の内側や凸部の周囲に空洞が存在すると、散乱又は回折の機能が阻害され、発光効率を低下させるからである。
【0015】
凹部と凸部とは何れか一方を基板表面部分に形成してもよく、両者を組合せて形成しても同様の作用効果を奏する。但し、凹部よりも凸部を形成する方が、半導体層によって周囲を空洞なく埋め易いため、好ましい。凹部又は凸部の周囲に空洞があると、凹凸による散乱又は回折機能が阻害され、出力が低下してしまう。
【0016】
半導体層に欠陥が成長しないような凹部及び/又は凸部の形状とは、具体的には半導体層の成長安定面に対してほぼ平行な面と交叉する直線を構成辺とする形状である。成長安定面に対してほぼ平行な面と交叉する直線とは、より具体的に言えば、基板上面から見て成長安定面と平行でない直線のことである。なお、成長安定面とは、成長させる材料において、他の面より成長速度の最も遅い面のことをさす。成長安定面は、一般に、成長の途中にファセット面として現れる。例えば、窒化ガリウム系化合物半導体の場合、A軸に平行な平面(特にM面)が成長安定面となる。従って、基板上面から見て、A軸に平行な平面に平行でない直線(=A軸に平行でない直線)を構成辺とする多角形に凹部又は凸部を形成する。凹部及び/又は凸部が半導体層の成長安定面に対してほぼ平行な直線を構成辺としていると、半導体層の成膜時にその部位で結晶の欠陥が発生し、これが内部量子効率を低下させ、結果的に外部量子効率を低下させる原因となるからである。
【0017】
より具体的には、凹部及び/又は凸部は、半導体層の成長安定面に対してほぼ平行な面に頂点を有しかつ半導体層の成長安定面に対してほぼ平行な面と交叉する直線を構成辺とする多角形、例えば三角形、平行四辺形又は六角形、好ましくは正三角形、菱形又は正六角形とすることができる。
尚、本件明細書において、凹部又は凸部を多角形にするとは、基板上面から観察した場合の平面形状を多角形にすることを指す。また、凹凸の平面形状は、幾何学的に完全な多角形である必要はなく、加工上の理由等から角が丸みを帯びていても良い。
【0018】
例えば、サファイア基板のC面上にGaN系半導体を成長させる場合、GaN系半導体のA軸を含む平面で囲まれた六角形状で島状に成長が始まり、その島同士が結合して均一な半導体層となる。そこで、GaN系半導体のA軸を構成辺とする正六角形を想定し、その正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に直交する直線を構成辺とする多角形(例えば、三角形、六角形など)に凹部又は凸部を形成する。このように凹凸を形成したサファイア基板の上には、平坦で結晶性に優れたGaN系半導体を成長させることができる。
【0019】
また、凹部及び/又は凸部は1つでもよいが、その形状を繰り返したパターンに形成すると、光の散乱又は回折の効率がアップし、外部量子効率をさらに向上できる。尚、本件発明では、凹部及び/又は凸部を基板上に繰り返し設けた場合であっても、凹部又は凸部による局所的な結晶欠陥を抑制するように半導体層を成長させることにより、基板の全面を発光面とすることができる。
【0020】
本発明は基板表面部分に凹部及び/又は凸部を形成して光を散乱又は回折させるようにした点に特徴があり、発光素子の基板及び半導体の材料自体はどのような材料であってもよく、例えば半導体層がIII-V族系半導体、具体的にはGaN系半導体である半導体発光素子に適用することができる。GaN系の半導体層の成長安定面は、六方晶結晶のM面{1-100}である。ここで{1-100}は(1-100)、(01-10)、(-1010)のすべてを表している。M面は、A軸に平行な平面の一つである。尚、成長条件によっては、GaN系半導体のA軸を含む他の平面(=M面以外の平面)が成長安定面になる場合もある。
【0021】
また、基板にはサファイア基板、SiC基板又はスピネル基板を用いることができる。例えば、上記基板には、C面(0001)を主面とするサファイア基板を用いることができる。この場合、GaN系の半導体層の成長安定面であるM面は、サファイア基板のA面{11-20}に平行な面である。ここでA面{11-20}は(11-20)、(1-210)、(-2110)のすべてを表している。
【0022】
凹部の深さ又は凸部の段差は50Å以上で,基板上に成長される半導体層の厚さ以下の寸法であるのが重要である。少なくとも発光波長(例えば、AlGaInN系の発光層の場合、206nm?632nm)をλとしたとき、λ/4以上の深さ又は段差がないと、十分に光を散乱又は回折することができない一方、凹部の深さ又は凸部の段差が基板上に成長される半導体層の厚さを越える寸法の場合には、電流が積層構造内の横方向に流れにくくなり、発光効率が低下するからである。従って、半導体層の表面が凹状及び/又は凸状をなしてもよい。尚、十分に光を散乱又は回折させるためにはλ/4以上の深さ又は段差であることが好ましいが、λ/4n(nは半導体層の屈折率)以上の深さ又は段差であれば散乱又は回折の効果を得ることができる。
【0023】
また、凹部及び/又は凸部の大きさ(すなわち、凹部及び/又は凸部の構成辺となる一辺の長さ)、及び相互の間隔は、半導体中における発光波長をλ(380nm?460nm)としたとき、少なくともλ/4以上の大きさであることが重要である。少なくともλ/4以上の大きさがないと、十分に光を散乱又は回折することができないからである。尚、十分に光を散乱又は回折させるためには、凹部又は凸部の大きさ及び相互の間隔がλ/4以上であることが好ましいが、λ/4n(nは半導体層の屈折率)以上の大きさ及び相互の間隔があれば散乱又は回折の効果を得ることができる。製造上は凹部又は凸部の大きさ及び相互の間隔は100μm以下とするのがよい。さらに20μm以下とすることで、散乱面が増え、好ましい。
【0024】
また、一般に半導体層の総膜厚は30μm以下であるため、散乱又は回折により全反射の回数を有効に減少させる観点からは凹凸のピッチが50μm以下であることが好ましい。さらに、GaN層の結晶性(=ピット発生防止)の観点からは、凹凸のピッチが20μm以下であることが好ましい。より望ましくは、凹凸のピッチを10μm以下とすることにより、散乱又は回折の確率が高まり、出力を一層向上することができる。尚、凹凸のピッチとは、隣接する凹部同士又凸部同士の中心間距離のうち、最小の距離をいう。
【0025】
次に、凹凸の断面形状については、図9に示すように、凸部であれば台形、凹部であれば逆台形であることが好ましい。このような断面形状とすることにより、光の散乱及び回折効率を高めることができる。尚、凹凸の断面形状は、幾何学的に完全な台形又は逆台形である必要はなく、加工上等の理由から角が丸みを帯びていても良い。凹凸側面のテーパ角θは、図9に示すように、凸部であれば上面と側面のなす角をいい、凹部であれば底面と側面のなす角をいう。例えば、テーパ角θが90°の時に、凹凸の断面が方形となり、180°の時に、凹凸が全くない平らな状態となる。半導体層によって凹凸を埋めるためには、凹凸のテーパ角θが少なくとも90°以上であることが必要である。また、散乱又は回折による出力向上の観点からは、凹凸のテーパ角θが90°より大きいことが好ましく、望ましくは105°以上、より望ましくは115°以上とする。一方、凹凸のテーパ角θがあまり大き過ぎると、却って散乱又は回折の効率が低下し、また、半導体層のピットが発生し易くなる。そこで、テーパ角θは、好ましくは160°以下、より好ましくは150°以下、さらに好ましくは140°以下とする。
尚、凹凸側面が傾斜している場合、凹凸の大きさと相互の間隔は、基板最表面(=凸部であれば凸部の底面、凹部であれば基板の平坦面)における長さで定義されるものとする。
【0026】
また、本件発明に係る発光素子では、開口部を有する金属膜を形成してオーミック電極とすることが好ましい。即ち、本発明のように、凹凸を設けた基板上に、半導体層を形成し、その上に開口部を設けた全面電極を形成すると、両者の相乗的な効果によって光の取り出し効率は格段に向上する。特に、電極の開口部に、基板表面の凹凸の段差部が少なくとも1つ含まれるようにすることが好ましい。
【0027】
これは、次のような理由によると推定される。
まず第1に、凹凸基板を用いた発光素子の輝度を正面から観測すると、基板凹凸の段差部付近の輝度が、基板平坦部の輝度よりも高くなる。このため、基板凹凸の段差部上方に電極の開口部を設けることにより、出力が各段に向上する。
また、第2に、基板上に凹凸を設けた発光素子では、発光領域で発生した光のうち、本来は側方や下方に向かう光を凹部及び凸部において散乱又は回折することによって上方に取出すことができる。しかし、通常の透光性電極を全面に設けた構成では、散乱や回折を経て上方に達した光が透光性電極によって一部吸収されてしまい、光の強度が小さくなってしまう。そこで、凹凸を設けた基板上に、半導体層を形成する場合には、透光性電極に開口部を設ける、又は高反射率の開口部を有する非透光性電極を設けて一部半導体層が露出する部分を設けることで、散乱や回折を経て上方に達した光が外部に取り出されやすくなり、光の取出し効率が格段に向上する。
【0028】
また、窒化ガリウム系(少なくともガリウムと窒素を含む)の半導体発光素子の場合、p型窒化物半導体層上に設けるp電極の周縁近傍が他の部分よりも強く光るという性質がある。このため、電極に開口部を設けることによって光の吸収を軽減すると共に、強く光る周縁部分が増すため、光取り出し効率が向上する。例えば、電極の開口の周長の合計をL、開口の内側を含むオーミック電極の占有面積をSとして、L/S≧0.024μm/μm^(2)であることが好ましい。これによって、強く光る電極周縁部の割合を増加させ、より一層発光出力を高めることができる。
【0029】
開口を形成するオーミック電極には、Ni、Pd、Co、Fe、Ti、Cu、Rh、Au、Ru、W、Zr、Mo、Ta、Pt、Ag及びこれらの酸化物、窒化物から選択した少なくとも1種を含む合金または多層膜を用いることができる。特に、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)の一種を含む合金または多層膜であることが好ましい。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。図1及び図2は本発明に係る半導体発光素子の好ましい実施形態を示す。図において、基板10にはA面(11-20)にオリフラのあるC面(0001)サファイア基板が用いられ、該サファイア基板10の表面部分には凹部20が繰り返しパターンで形成されている。図2において、斜線で示される部分を残してエッチングされる。
【0031】
この凹部20はサファイア基板10に成長するGaN系半導体11の成長安定面(1-100)、(01-10)、(-1010)、すなわちM面に対して、ほぼ平行な面に頂点を有しかつ上記成長安定面に対してほぼ平行な面と交叉する直線を構成辺とする正三角形をなしている。即ち、図3に示すように、凹部20を構成する正三角形は、基板上面から見てM面が交差する位置に頂点を有しており、正三角形の各構成辺はM面に対して30度又は90度で交叉している。さらに具体的には、図3に示すように、凹部20を基板上部から見ると、凹部20の各構成辺は、GaN半導体11のM面を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線に直交している。尚、サファイア基板10の上面から観察すると、GaN半導体のM面はGaN系半導体のA軸と平行になる。
【0032】
また、凹部20の深さは約1μm、1辺の大きさaが10μmであり、凹部20と凹部20の間隔bはその対応する1辺の間隔が10μmとなっている。
【0033】
このサファイア基板10上にはn型GaN系半導体層11、その上にMQW発光領域12、さらにその上にp型AlGaN/p型GaN系半導体13が形成されている。
【0034】
本例の半導体発光素子を製造する場合、サファイア基板10上には図4(a)に示されるようにエッチングマスクとなるSiO_(2)膜30を成膜する。
【0035】
次に、1辺10μmの正三角形のフォトマスクを使用し、正三角形の一辺がオリフラと垂直になるようにフォトマスクをあわせ、正三角形の各辺をサファイアの(1-100)、(01-10)、(-1010)、すなわちM面にほぼ平行になるようし、図4(b)、(c)に示されるようにSiO_(2)膜30とサファイア基板10をRIEで約1μmエッチングした後、図4(d)に示されるようにSiO_(2)膜30を除去すると、サファイア基板10の表面部分には図2に示される凹部20の繰り返しパターンが形成される。
【0036】
凹部20の繰り返しパターンのついたサファイア基板10上にn型GaN半導体層11、その上にMQW発光領域12、その上にp型AlGaN/p型GaN半導体層13を成長させる。
【0037】
サファイア基板10の格子に対し、GaNの格子は30度ずれて成長するので、サファイア基板10につけた凹部20の繰り返しパターンはGaNのA面(11-20)、(1-210)、(-2110)面にほぼ平行の辺を持ち、GaNの成長安定面(1-100)、(01-10)、(-1010)に頂点が在り、GaNの成長安定面(1-100)、(01-10)、(-1010)、すなわちM面に平行な直線のない多角形になる。
【0038】
このような形状に凹凸を形成することにより、平坦で結晶性に優れたGaNを成長させることができる。以下にその原理を説明する。尚、凹部でも凸部でも原理は同様であるため、凸部を例にして詳説する。図5(a)及び(b)は、正三角形の凸部20を形成したサファイア基板10の上にGaNを成長させる途中過程におけるSEM写真であり、図5(a)は、基板上面から観察した様子、図5(b)は、基板斜め上方から観察した様子を示している。図5(a)及び(b)に示すように、サファイア基板10の上にGaNを成長させると、凸部20の上面と、凸部20が形成されていない平坦面とからGaNの成長が進み、最後に凸部20の側面付近が埋まる。従って、基板上方から見てGaNの成長安定面と凸部20の側面が平行になっていると、凸部20の側面付近が埋まり難く、GaNの結晶性が低下してしまう。
【0039】
そこで、基板上方から見てGaNの成長安定面であるM面と交叉するように(=平行にならないように)正三角形の凸部20の構成辺を形成することが好ましく、さらに好ましくは、図5(a)及び(b)に示すように、基板上方から見てGaNの成長安定面であるA軸を含む面を構成辺とする正六角形(=A軸を構成辺とする正六角形)の中心と頂点を結ぶ線に直交するように、正三角形の凸部20の構成辺を形成する。このように凸部20を形成することにより、凸部20の周囲を平坦に埋めて、結晶性の良好なGaNを得ることができる。
【0040】
これは、凸部20の上面から成長したGaNと、凸部20が形成されていない平坦面から成長したGaNとが接合する部分において、GaNの成長速度が高くなるためと推定される。即ち、図5(b)に示すように、凸部20の上面からは、A軸を構成辺とする六角形の形状にGaNが成長しているが、凸部20の上面から成長したGaNと平坦面から成長したGaNとが接する凸部側面付近において、GaNの成長速度が高くなる。従って、凸部20の側面付近におけるGaNの成長が他の領域に追いつき、平坦なGaNが得られる。
【0041】
このことを図6(a)?(f)を用いて模式的に説明する。図6(a)に示すように、サファイア基板10に凸部を形成して、その上にGaN11を成長させると、図6(b)及び(c)に示すように、GaN11は、凸部の底面と、凸部が形成されていない平坦面から成長し、凸部の側面付近は成長が遅れる。しかし、図6(d)及び(e)に示すように、凸部の上面から成長したGaN11と、平坦面から成長したGaN11とが出会うと、そこでGaN11の成長速度が速くなる。このため、成長の遅れていた凸部の側面付近におけるGaN11の成長が顕著に進む。そして、図6(f)に示すように、平坦で結晶性に優れたGaN11が成長する。これに対し、基板上方から見てGaNの成長安定面と凸部20の側面が平行になっていると、凸部20の側面付近で成長速度が速くなることがないため、凸部20の側面付近が埋まり難く、GaNの結晶性が低下してしまう。
【0042】
その後、デバイスプロセスを行い、電極等を適宜形成し、LEDチップに仕上げる。
【0043】
n型GaN半導体層11及びp型AlGaN/p型GaN半導体層13からMQW発光領域12に正孔及び電子が注入され、再結合が行われると、光が発生する。この光はサファイア基板10又はp型AlGaN/p型GaN半導体層13から取り出される。
【0044】
従来の平坦な基板を有する半導体発光素子の場合、図7(a)に示されるように、発光領域12からの光がp型半導体層13と電極との界面又は基板10表面に臨界角以上で入射すると、導波路内に捕捉されて横方向に伝搬していた。
【0045】
これに対し、本例の半導体発光素子ではp型半導体層13と電極との界面又は基板10表面に対して臨界角以上の光は、図7(b)に示されるように、凹部21によって散乱又は回折され、臨界角よりも小さな角度でもってp型半導体層13と電極との界面又は基板10表面に対して入射し、取り出すことができる。
【0046】
p型半導体層13上のコンタクト電極が透光性電極の場合はFU(フェイスアップ)、反射電極の場合はFD(フェイスダウン)のどちらの場合にも効果がある。尚、反射電極であっても、電極に開口又は切込みが形成されている場合には、FU(フェイスアップ)に使用される。その場合、特に顕著な効果がある。
【0047】
図8は本発明に係る半導体発光素子の他の実施形態を示す。図8(a)に示される実施形態では凹部20の段面を傾斜して形成している。また、図8(b)に示される実施形態では基板10の表面部分に凹部20ではなく、凸部21を形成しており、この例では断面半円形状の凸部21を形成している。さらに、図8(c)に示される実施形態ではn型半導体層11、発光領域12及びp型半導体層13が凹部20の影響を受けて凹状をなしている。
【0048】
図7(c)、(d)は、図8(a)及び(c)に示される実施形態における光の伝搬の例を示す。いずれにしても光が効率よく取り出せることが分かる。特に図8(a)のように、半導体層の成長安定面に対してほぼ平行な面と交叉する直線(本件では、多角形の構成辺とも称している)を境界として凸部の表面及び凹部の表面とに連続している面(=凹部又は凸部の側面)を半導体の積層方向に対して傾斜して形成することで、光の散乱又は回折の効果は顕著に増し、光の取り出し効率は格段に向上する。この1つの要因としては、傾斜して設けることで、凹部の表面及び凸部の表面とに連続している面(=凹部又は凸部の側面)の表面積が増えることで、光の散乱又は回折の起こる回数が増えるからと考えられる。
【0049】
換言すれば、凹凸の断面形状については、図9に示すように、凸部であれば台形、凹部であれば逆台形であることが好ましい。このような断面形状とすることにより、伝播する光が散乱及び回折を起こす確率が高まり、光の伝播時の吸収ロスを低減することができる。凹凸側面のテーパ角θは、図9に示すように、凸部であれば上面と側面のなす角をいい、凹部であれば底面と側面のなす角をいう。例えば、テーパ角θが90°の時に、凹凸の断面が方形となり、180°の時に、凹凸が全くない平らな状態となる。
【0050】
半導体層によって凹凸を埋めるためには、凹凸のテーパ角θが少なくとも90°以上であることが必要である。また、散乱又は回折による出力向上の観点からは、凹凸のテーパ角θが90°より大きいことが好ましく、望ましくは105°以上、より望ましくは115°以上とする。一方、凹凸のテーパ角θがあまり大き過ぎると、却って散乱又は回折の効率が低下し、また、半導体層にピットが発生し易くなる。そこで、テーパ角θは、好ましくは160°以下、より好ましくは150°以下、さらに好ましくは140°以下とする。
【0051】
図10は、凹部側面のテーパ角とLED出力の関係をシミュレーションしたグラフである。尚、これは凸部側面のテーパ角と見ても同様の傾向がある。図10のグラフの縦軸は、平坦な基板(=テーパ角θが180°)を用いた場合のLED出力を1とした場合の出力比を表しており、グラフの横軸は、凹部側面のテーパ角を表している。図示されるように、凹部側面のテーパ角(=凹部の底面と側面のなす角)を90度から180度の間で変化させることによって、LED出力が大きく変化する。
【0052】
図11は凹部20又は凸部21の他の形状の例を示す。図において、斜線で示す部分がエッチングせずに残す部分である。
【0053】
また、凹部20、又は凸部21を正六角形とする場合、図12(a)に示されるサファイア基板10のオリフラA面に対し、図12(c)に示される方向ではなく、図12(b)に示される方向に正六角形を配置する。前述の通り、サファイア基板のC面上にGaNを成長させた場合、サファイア基板のA面とGaNのM面が平行になる。従って、図12(b)のように凹凸の正六角形を配置することにより、基板上方から見て、凹凸の正六角形の各構成辺が、GaNの成長安定面であるM面のいずれかと直交するようになる。これは、別の表現をすれば、基板上方から見て、GaNのM面を構成辺とする正六角形(=A軸を構成辺とする正六角形)の中心と頂点を結ぶ線分に対して、凹凸の正六角形の各構成辺が直交することを意味している。
【0054】
また本発明は、半導体に欠陥が発生しない凹凸を設けた基板上に、窒化物半導体層などの通常の半導体層を形成し、さらに電極等を形成した素子であれば、その他の構成は特に限定されないが、さらにその他の構成を次のようにすることで顕著な効果を示す。
【0055】
(1)電極形状と材料
▲1▼開口電極
半導体発光素子の表面には、半導体層上に電極を設ける必要があるが、p型窒化物半導体層のような、比較的比抵抗が高く、その層で電流拡散が行われにくい半導体層上には、例えば半導体層表面の全面に、透光性電極を形成することが一般的である。しかしながら、透光性電極-半導体層-基板によって構成される導波路内を光が伝播する際、反射光の「しみ出し」の影響により、半導体層だけでなく、透光性電極や基板によっても発光が吸収・減衰してしまう。特に、透光性電極は、その一般的な構成材料(例えば、Au/Ni等)の短波長域における光吸収率が高いため、発光の減衰への影響が大きい。
【0056】
そこで、本件発明に係る発光素子では、開口部を有する金属膜を形成して電極とすることが好ましい。特に、電極の開口部に、基板表面の凹凸の段差部が少なくとも1つ含まれるようにすることが好ましい。このように半導体層表面に形成する電極を、開口部を有する電極とすることで、開口部から光が外部に取り出され、また電極で吸収する光の割合が減少するため好ましい。開口部は、金属膜中に複数設けることが望ましく、また開口部の面積はできるだけ大きく設けることが光取り出し効率を向上するという点で好ましい。(このような電極には、好ましくは外部と発光素子を電気的に接続させるパッド電極を設ける。)
【0057】
また窒化物半導体発光素子であって、とくに窒化ガリウム系(少なくともガリウムと窒素を含む)の半導体発光素子の場合、p型窒化物半導体層上には好ましくは全面に透光性を有する電極をp電極として設ける場合が多いが、透光性電極における光の吸収が大きく、p型窒化物半導体層上に設けるp電極の周縁近傍が他の部分よりも強く光るという性質がある。そこで、透光性電極に開口部を設けても良く、これによって光の吸収を軽減し、強く光る周縁部分が増すため、光取り出し効率が向上する。この場合、開口部の面積はできるだけ大きく設けることが光取り出し効率を向上するという点で好ましく、またp電極の周縁の部位の長さをできるだけ長く設けることで、光取り出し効率がさらに向上する。
【0058】
本発明のように、凹凸を設けた基板上に、半導体層を形成し、上述の開口部を設けた電極を形成すると、両者の相乗的な効果によって光の取り出し効率は格段に向上する。これは、次のような理由によると推定される。
まず第1に、凹凸基板を用いた発光素子の輝度を正面から観測すると、基板凹凸の段差部付近の輝度が、基板平坦部の輝度よりも高くなる。このため、基板凹凸の段差部上方に電極の開口部を設けることにより、出力が各段に向上する。
また、第2に、基板上に凹凸を設けた発光素子では、発光領域で発生した光のうち、本来は側方や下方に向かう光を凹部及び凸部において散乱又は回折することによって上方に取出すことができる。しかし、通常の透光性電極を全面に設けた構成では、散乱や回折を経て上方に達した光が透光性電極によって一部吸収されてしまい、光の強度が小さくなってしまう。そこで、凹凸を設けた基板上に、半導体層を形成する場合には、透光性電極に開口部を設ける、又は高反射率の開口部を有する非透光性電極を設けて一部半導体層が露出する部分を設けることで、散乱や回折を経て上方に達した光が外部に取り出されやすくなり、光の取出し効率が格段に向上する。
【0059】
▲2▼開口電極の材料
上述のように、窒化物半導体発光素子であって、とくに窒化ガリウム系(少なくともガリウムと窒素を含む)の半導体発光素子の場合、p型窒化物半導体層のほぼ全面に透光性を有する電極をp電極として設けるが、より好ましい形態として、p型窒化物半導体層のほぼ全面に、開口部を設けた電極を形成することで、光取り出し効率が向上する。このとき、電極として用いる材料は金属または2つ以上の金属からなる合金を用い、単層又は複数の層で形成することができる。この電極の材料には、少なくとも発光する波長に対して高反射率の金属材料を用いることで、電極で吸収する光の成分を減らし、外部への光の取り出し効率を向上させることができる。
【0060】
開口電極の好ましい材料としては、Ni、Pd、Co、Fe、Ti、Cu、Rh、Au、Ru、W、Zr、Mo、Ta、Pt、Ag及びこれらの酸化物、窒化物からなる群から選択される少なくとも一種を含む合金または多層膜があげられる。これらは、400℃以上の温度でアニールすることにより、p型半導体層と良好なオーミック接触を得ることができる。特に、Niの上にAuの多層膜が好ましい。開口電極の総膜厚としては50Å?10000Åが好ましい。特に、透光性の電極として用いる場合は、50Å?400Åが好ましい。また、非透光性電極とする場合は、1000Å?5000Åが好ましい。
【0061】
とくに窒化ガリウム系(少なくともガリウムと窒素を含む)の半導体発光素子では、高反射率の金属材料として、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)などが挙げられ、反射電極として用いる。
【0062】
特に、開口電極の材料を、特にRhとすることも好ましい。Rhを用いることで熱的に安定で、しかも吸収の少ない電極とすることができる。しかも、接触抵抗を低くすることができる。
【0063】
▲3▼開口電極のサイズと形状
電極の開口部と基板表面の凹凸の大小関係は、特に限定されないが、1つの開口部内に少なくとも1以上の凹凸段差部が形成されていることが好ましい。これにより、凹凸により散乱・回折された光を有効に取り出すことができると同時に、発光の均一性が向上する。
【0064】
また、開口電極は、p型半導体層の表面まで貫通し、かつ周囲を電極によって囲まれた複数の開口部を有する電極であるが、最外周部で囲まれた部分の面積(=開口部内を含む電極の全面積)をSとし、開口部の内周長の総和をLとすると、L/S≧0.024μm/μm^(2)であることが好ましい。これにより、p型半導体層の表面から効率良く光を外部に放出させ、さらにVfの低い半導体発光素子とすることができる。
【0065】
複数の開口部は、各開口部がほぼ同じ形状であることが好ましく、これにより、開口部の形成が容易であるとともに、発光の面内分布が均一となる。また、複数の開口部は、ほぼ同じ面積であることが好ましく、これによっても発光の面内分布が均一となる。
【0066】
膜厚を厚くして開口部を設ける場合、その開口部の形状や大きさ等を規定することによって、光の取りだし効率を高くし、発光効率を向上させることができる。特に、開口部の内周長Lを規定することで、より効率的に光を放出することが可能となる。L/Sが小さくなる、即ち、開口電極の最外周部によって囲まれた面積Sに対して、開口部の内周長さの総和Lが小さくなると、p型半導体層側への出力が低下する。
【0067】
図13は、開口率が同じ、すなわち、開口部の総面積が同じで、内周長を変化させたときの電力変換効率を示すものである。開口部の面積が同じであることで、p型半導体層と開口電極との接触面積も同じであるので、Vf及び量子効率は同じであると考えられる。この図より、開口率は同じでも、開口部の内周長を変化させることで、さらに高出力とできることがわかる。そして、本件発明では、L/S≧0.024μm/μm^(2)を満たすような範囲とすることで、高出力の半導体発光素子とすることができる。上限は、特に定めていないが、実質的には1μm/μm^(2)よりも大きくなると、開口部一つの大きさが非常に小さくなりすぎて、実用的でなくなる。
【0068】
上述のように、p型半導体層側からの出力効率が、開口部の内周長によって大きく左右されるのは、電極とp型半導体層との境界において特に強く発光が観測されるためであり、その境界を多くする、すなわち内周長を長くすることで効率よく光を放出させることができる。境界をさらに多くするためには、開口部だけでなく、さらに、p側オーミック電極の最外周部を、直線ではなく屈折させた連続線によって半導体層の端部に沿うように設けることで、p側オーミック電極とp型半導体との境界を多くすることができるので、さらに出力を向上させることができる。
【0069】
上記のような複数の開口部は、ほぼ同じ形状となるように形成することで、複数の開口部を効率よく形成しやすくなる。さらに、面内分布も均一になりやすく、ムラのない発光を得ることができる。形状としては、方形、円形、三角形など、種々の形状を用いることができる。好ましくは、隣接する開口部と一定の距離間隔をあけて均一に分散させるように複数形成させることで、均一な発光が得られ易くなる。また、複数の開口部の面積をほぼ同じになるように形成することで、開口部が形成される位置によって、好ましい形状を選択することができる。
【0070】
図14(a)乃至(d)は、開口電極の考えられる形状を示す。図14において、n側半導体層30の上に、p側半導体層32が形成され、その上にp側オーミック電極である開口電極34が形成され、その一部にp側パッド電極36が形成されている。また、p側半導体層32をエッチングして露出させたn側半導体層30の上に、n側パッド電極38が形成されている。開口電極34には、複数の円形開口部が配列されている。図14(b)は、開口電極34の円形開口部の寸法が大きな場合の例である。図14(c)及び(d)は、開口電極34とp側パッド電極36のみを抜き出したものである。図14(c)に示すように、p側オーミック電極内に設ける開口部は、周囲が閉じていない切込み形状であっても良い。この場合、p側オーミック電極は、複数の線状電極を接合したような形状となる。開口部は、電流の通路の強いところに多くの電流が流れないよう形成することが好ましい。また、図14(d)に示すように、n側パッド電極(図示せず)を中心として、同心円状に配列された複数の円弧状に開口部を設けても良い。このような開口形状とすることにより、発光の均一性を高めることができる。
【0071】
また、p側オーミック電極の端部断面形状は、図15(a)のように垂直であっても良いが、図15(b)に示すように、メサ形状(台形状)であることが好ましい。特に窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の場合、p側オーミック電極の周縁部の発光強度が高いという性質があるため、端部断面がメサ形状(台形状)であることにより、効率良く光を取り出すことができる。その場合、端部断面のもつテーパ角θは、30°≦θ<90°であることが好ましい。テーパ角が30°未満の場合、テーパ部分におけるp側オーミック電極の抵抗値が大きくなるため、電極周部が強く光るという性質を有効に利用しにくくなる。
【0072】
(2)半導体発光素子の形状
本発明は、基板表面上に基板とは材質の異なる少なくとも2層の半導体層と発光領域とを積層構造に成膜している。つまり、基板と半導体層の材質は異なる。ここで、基板として絶縁性の基板を用いる場合、例えばサファイア基板上に窒化ガリウム系(少なくともガリウムと窒素を含む)の半導体層を形成する場合などにおいて、電極は基板に形成することはできず、同一面側にn電極とp電極の2つの電極を形成する必要がある。このとき、例えばn型半導体層、発光領域、p型半導体層の順で形成する窒化物半導体素子は、p型半導体層の表面の一部をn型半導体層の表面が露出するまでエッチングし、p型半導体層表面にp電極、露出したn型半導体層の表面にn電極を形成し、半導体層表面から見た図は図16のように四角形状の半導体素子の2つの対向する頂点にそれぞれの電極を配置して形成する。
【0073】
この場合、半導体発光素子の側面から外部に出る光は、n型半導体層を露出するときに形成された側面において、n電極またはn電極と接続するワイヤーなどの外部接続端子によって、遮られてしまう。
【0074】
そこで、図17に示すように、n型半導体層を露出する部位をp型半導体層の内部とし、p型半導体層の表面の内部においてn型半導体層を露出して設けることで、n型半導体層とp型半導体層の間に挟まれて発光する発光領域が半導体発光素子の外側の側面全面において設けられるので、外部への光取り出し効率は向上する。基板上にp型半導体層、発光領域、n型半導体層の順で積層する素子の場合は、n型半導体層の内部にp型半導体層の露出面を設けることで、同様の効果が得られる。
【0075】
また、図17に示すように、一方の導電型の半導体層表面の内部をエッチングして他方の導電型の半導体層表面を露出して形成する場合、前者の半導体層の表面に、もしくは開口部を有する電極を形成する場合は、前者の半導体層及び開口部を有する電極の表面に、パッド電極から延伸した拡散電極を設けることで、前者半導体層の全面に均一に電流が流れるようになり、発光領域での発光がムラなく均一になり好ましい。さらにこの拡散電極は、半導体発光素子の外形の形状に沿って前者半導体層の内部に設けることで、さらに均一な発光となり好ましい。
【0076】
また、半導体発光素子の外形の形状としては、半導体層表面から見て、四角形状でも三角形状でもよく、その他多角形とすることができるが、エッチングによって露出する面及び露出した面に形成する電極を、半導体発光素子の外形を構成する頂点に向かって、一部延伸して形成することにより、電流が均一に流れやすくなり、発光領域での発光がムラなく均一になり好ましい。
【0077】
本発明の発光素子は、例えば窒化ガリウム系(少なくともガリウムと窒素を含む)の半導体発光素子の場合、電極まで形成した発光素子の表面にYAGを含んだ蛍光体を樹脂と混合させて形成することで、光取り出し効率の高い白色の発光素子を得ることができ、また適当な蛍光体を選択することで、種々の発光波長を持った光取り出し効率の高い発光素子を得ることができる。
【0078】
本発明で用いるp電極およびn電極とは、少なくとも半導体層に接して形成される電極であり、接する半導体層と良好なオーミック特性を示す材料が適宜選択されるものである。
【0079】
【実施例1】
基板としてA面(11-20)にオリフラのあるC面(0001)を主面とするサファイア基板を用いる。
【0080】
まずサファイア基板10上に図4(a)に示されるようにエッチングマスクとなるSiO_(2)膜30を成膜する。
【0081】
次に1辺5μmの正三角形のフォトマスクを使用し、正三角形の1辺がオリフラと垂直となるようにフォトマスクをあわせ、正三角形の各辺をサファイアの(1-100)、(01-10)、(-1010)、すなわちM面にほぼ平行となるようにし、図4(b)、(c)に示されるようにSiO_(2)膜30とサファイア基板10をRIEで3?4μmエッチングした後、図4(d)に示されるようにSiO_(2)膜30を除去すると、サファイア基板10の表面部分には図11(b)に示される凸部20(斜線部がエッチングされていない領域)の繰り返しパターンが形成される。凸部の一辺の長さa=5μm、凸部と凸部の間隔b=2μmとした。凸部のピッチ(隣接する凸部同士の中心間の距離)は、6.3μmである。また、凸部側面の傾斜角は120°であった。
【0082】
次に凸部20の繰り返しパターンのついたサファイア基板10の上に、n型半導体層としてAl_(x)Ga_(1-x)N(0≦x≦1)の低温成長バッファ層を100Å、アンドープのGaNを3μm、SiドープのGaNを4μm、アンドープのGaNを3000Å積層し、続いて発光領域となる多重量子井戸の活性層として、(井戸層、障壁層)=(アンドープのInGaN、SiドープのGaN)をそれぞれの膜厚を(60Å、250Å)として井戸層が6層、障壁層が7層となるように交互に積層する。この場合、最後に積層する障壁層はアンドープのGaNとしてもよい。尚、低温成長バッファ層の上に形成する第1層をアンドープのGaNとすることにより、より均一に凸部20を埋めて、その上に形成する半導体層の結晶性を良好にすることができる。
【0083】
多重量子井戸の活性層を積層後、p型半導体層として、MgドープのAlGaNを200Å、アンドープのGaNを1000Å、MgドープのGaNを200Å積層する。p型半導体層として形成するアンドープのGaN層は、隣接する層からのMgの拡散によりp型を示す。
【0084】
次にn電極を形成するために、MgドープのGaNからp型半導体層と活性層及びn型半導体層の一部までをエッチングし、SiドープのGaN層を露出させる。
【0085】
次にp型半導体層の表面全面にNi/Auからなる透光性のp電極を、さらに透光性のp電極上において、n型半導体層の露出面と対向する位置にAuからなるpパッド電極を形成し、n型半導体層の露出面にW/Al/Wからなるn電極およびPt/Auからなるnパッド電極を形成する。
【0086】
最後にウエハを四角形状にチップ化し、350μm□の半導体チップを得る。これを反射鏡を備えたリードフレームに実装して、砲弾型のLEDを作製した。
【0087】
これによって得られるLEDは、順方向電流20mAにおいて、発光波長400nm、外部への発光出力が9.8mWであった。
【0088】
【比較例1】
比較例として、サファイア基板の表面に凹凸を設けないで、他の構成は実施例1と同様にして砲弾型LEDを形成したところ、順方向電流20mAにおいて、外部への発光出力が8.4mWであった。
【0089】
【実施例2】
基板としてA面(11-20)にオリフラのあるC面(0001)を主面とするサファイア基板を用いる。
基板の加工及びn型半導体層からp型半導体層までの積層は、実施例1と同様にする。
次にn電極を形成するために、MgドープのGaNからなるp型半導体層と活性層及びn型半導体層の一部までをエッチングし、SiドープのGaNからなるn型半導体層を露出させる。
【0090】
次に1辺5μmの正三角形からなる開口であって、図16に示すような正三角形の開口が単位面積当たりで最も密に充填されるようなパターニングのフォトマスクを使用し、Ni/Auからなる透光性のp電極を、p型半導体層表面のほぼ全面に形成する。
【0091】
さらに透光性のp電極上において、n型半導体層の露出面と対向する位置にAuからなるpパッド電極を形成し、n型半導体層の露出面にTi/Alからなるn電極およびPt/Auからなるnパッド電極を形成する。
【0092】
最後に四角形状にウエハをチップ化し、半導体発光素子を得る。これを反射鏡を備えたリードフレームに実装して、砲弾型のLEDを作製する。
【0093】
これによって得られるLEDは、p電極の周縁近傍が他の部分よりも強く光るという性質から、実施例1よりも発光出力が向上する。
【0094】
【実施例3】
基板としてA面(11-20)にオリフラのあるC面(0001)を主面とするサファイア基板を用いる。
基板の加工及びn型半導体層からp型半導体層までの積層は、実施例1と同様にする。
【0095】
次にn電極を形成するために、MgドープのGaNからp型半導体層と活性層及びn型半導体層の一部までをエッチングし、SiドープのGaN層を露出させる。
【0096】
次に1辺7.7μmの正方形とし、6.3μmの間隔で配列し、開口率30%からなる開口であって、Rhからなるp電極を、p型半導体層表面のほぼ全面に形成する。
【0097】
さらにp電極上において、n型半導体層の露出面と対向する位置にPt/Auからなるpパッド電極を形成し、n型半導体層の露出面にW/Al/Wからなるn電極及びPt/Auからなるnパッド電極を形成する。
最後にウエハをチップ化し、半導体発光素子を得る。これを反射鏡を備えたリードフレームに実装して、砲弾型LEDを作製した。
【0098】
これによって得られる半導体発光素子は、p電極の周縁近傍が他の部分よりも強く光るいう性質を利用し、さらに電極に発光波長に対して高反射する材料を用いて電極での光の吸収成分を減少させたことから、実施例1や実施例2よりも発光出力が向上した。砲弾型LEDの発光出力は、13.2mWであった。
【0099】
【実施例4】
実施例3の発光素子において、p電極を、図14(c)のようなストライプ状に形成する。こうしたストライプ電極構造を採用することによって、p側パッド電極から半導体層に供給される電流が面内に均一化され、発光効率が向上する。
p電極のストライプ隙間は、半導体層が露出する開口部として形成されるため、開口部を増加させることができ、その結果、光取り出し効率が向上する。このとき、半導体層が露出した複数のストライプ隙間に対応する開口部5の総面積Saと、半導体層102が露出していない電極部分の面積Sbとを合計した値をSとし、開口部の内周長の総和をLとして、L/S≧0.024μm/μm^(2)が成立することが好ましい。
【0100】
【実施例5】
基板としてA面(11-20)にオリフラのあるC面(0001)を主面とするサファイア基板を用いる。
基板の加工及びn型半導体層からp型半導体層までの積層は、実施例1と同様にする。
【0101】
次にp型半導体層の表面の内部で、とくに中心部においてSiドープのGaN層が露出するまでエッチングする。このときのエッチングにより露出する面は、図17に示すように、半導体発光素子の外形を構成する3つの頂点に向かって、一部延伸して形成する。
【0102】
次に1辺5μmの正三角形であって、正三角形が単位面積当たりで最も密に充填されるようなパターニングのフォトマスクを使用し、Rhからなるp電極104を、p型半導体層表面のほぼ全面に正三角形の形状で形成する。
【0103】
さらにp電極104上に、Pt/Auからなるpパッド電極兼p拡散電極106を形成する。このpパッド電極兼p拡散電極106は、図17に示されるように、正三角形となる半導体発光素子の外形の形状に沿って前者半導体層の内部にパッド電極を延伸して設ける。この電極を設けることで、半導体層全面に電流が均一に流れやすくなるので、拡散電極として機能する。
【0104】
またn型半導体層の露出面にW/Al/Wからなるn電極及びPt/Auからなるnパッド電極103を形成する。
【0105】
最後に正三角形状にウエハをチップ化し、半導体発光素子を得る。この発光素子を上面から見ると図17のようになる。
【0106】
これによって得られる発光素子は、p電極の周縁近傍が他の部分よりも強く光るいう性質を利用し、さらに電極に発光波長に対して高反射する材料を用いて電極での光の吸収成分を減少させた、さらには多重量子井戸構造の発光領域が半導体発光素子の外側の側面全面において設けていることから、発光出力が向上した。
【0107】
【実施例6】
実施例5で得られた半導体発光素子の上面及び側面に蛍光体としてイットリウム・アルミニウム酸化物系蛍光物質をベースとしたY_(3)Al_(5)O_(12)Y:Ce(YAG:Ce)が含有された透光性の樹脂を形成する。
これによって得られる半導体発光素子は、発光出力の高い白色光が発光された。
【0108】
【実施例7】
本実施例では、種々の凹凸平面形状について、凹凸形成の効果をチップとランプの両方で確認した。まず、基板としてA面(11-20)にオリフラのあるC面(0001)を主面とするサファイア基板を用いる。
【0109】
次に、サファイア基板について、(i)?(iv)の4種類の加工を行う。サファイア基板の表面への凹凸形成は実施例1と同様にして行う。
(i)サファイア基板の表面に、図11(b)に示すような、正三角形の凸部を形成する。正三角形の凸部は、その一辺がサファイア基板のオリフラと直交するように配置し、頂点の向きが左右交互になるように配列する。正三角形の凸部の一辺を5μm、凸部同士の間隔を2μmとする。
(ii)サファイア基板の表面に、図11(l)に示すような、菱形の凸部を形成する。菱形の凸部の一辺を4μm、凸部同士の間隔を2μmとする。
(iii)サファイア基板の表面に、図11(m)に示すような、六角形の凸部を形成する。六角形の凸部の一辺を3μm、凸部同士の間隔を2μmとする。
(iv)サファイア基板の表面に凹凸を形成しない。
【0110】
次に4種類のサファイア基板10の上に、n型半導体層としてAl_(x)Ga_(1-x)N(0≦x≦1)の低温成長バッファ層を100Å、アンドープのGaNを3μm、SiドープのGaNを4μm、アンドープのGaNを3000Å積層し、続いて発光領域となる多重量子井戸の活性層として、(井戸層、障壁層)=(アンドープのInGaN、SiドープのGaN)をそれぞれの膜厚を(60Å、250Å)として井戸層が6層、障壁層が7層となるように交互に積層する。この場合、最後に積層する障壁層はアンドープのGaNとしてもよい。尚、低温成長バッファ層の上に形成する第1層をアンドープのGaNとすることにより、より均一に凹部20を埋めて、その上に形成する半導体層の結晶性を良好にすることができる。
【0111】
多重量子井戸の活性層を積層後、p型半導体層として、MgドープのAlGaNを200Å、MgドープのGaNを200Å積層する。
【0112】
次にn電極を形成するために、MgドープのGaNからp型半導体層と活性層及びn型半導体層の一部までをエッチングし、SiドープのGaN層を露出させる。
【0113】
次にp型半導体層の表面全面にNi/Auからなる透光性のp電極を、60Å/70Åの膜厚で形成する。さらに透光性のp電極上において、n型半導体層の露出面と対向する位置にAuからなるpパッド電極を形成し、n型半導体層の露出面にW/Al/Wからなるn電極およびPt/Auからなるnパッド電極を形成する。
【0114】
ウエハの状態でプローバを用いてpパッド電極とnパッド電極の間に電流を流し、発光出力を調べると、表1の通りとなる。表1では、凹凸がない場合の発光出力を1として、発光出力の強度比を表示している。

表1に示すように、凸部の形状がいずれの場合であっても、平坦なサファイア基板を用いた場合に比べて、43%以上高い発光出力が得られる。このように、反射鏡を用いないチップ状態で正面輝度の評価を行うと、凹凸形成による発光出力の増大効果が顕著に現れる。
【0115】
次にウエハを四角形状にチップ化し、350μm□の半導体チップを得る。これを反射鏡を備えたリードフレームに実装して、砲弾型のLEDを作製した。
【0116】
作製したLEDのVfと20mAにおける発光出力を評価すると、表2のようになる。尚、LEDの発光波長460nmである。

表2に示すように、凸部の形状がいずれの場合であっても、平坦なサファイア基板を用いた場合に比べて、13%以上高い発光出力が得られる。特に、本実施例において、凸部の形状が六角形である場合に最も高い発光出力が得られる。
【0117】
【実施例8】
p電極をNi/Au電極から、Rh開口電極に変えた点を除いて、実施例7と同様にする。Rh電極の開口形状は、一辺7.7μmの正方形とし、6.3μmの間隔で配列し、開口率を30%とする。
【0118】
ウエハの状態でプローバを用いてpパッド電極とnパッド電極の間に電流を流し、発光出力を調べると、表3の通りとなる。表3では、凹凸がない場合の発光出力を1として、発光出力の強度比を表示している。

表3に示すように、凸部の形状がいずれの場合であっても、平坦なサファイア基板を用いた場合に比べて、54%以上高い発光出力が得られる。
【0119】
砲弾型LEDを作製し、Vfと20mAにおける発光出力を評価すると、表4のようになる。尚、LEDの発光波長460nmである。

表4に示すように、凸部の形状がいずれの場合であっても、平坦なサファイア基板を用いた場合に比べて、17%以上高い発光出力が得られる。特に、本実施例において、凸部の形状が六角形である場合に最も高い発光出力が得られる。
実施例7と実施例8の対比からわかるように、p電極を開口電極とすることにより、開口電極と凹凸基板が相乗的に作用して、凹凸形成の効果が一層顕著に現れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る半導体発光素子の好ましい実施形態を示す断面図である。
【図2】上記実施形態における凹部のパターン例を示す図である。
【図3】窒化物半導体の成長安定面と凹部形状の関係を示す模式図である。
【図4】第1の実施形態の製造工程を示す図である。
【図5】凸部を形成したサファイア基板上に窒化ガリウムを成長する途中過程を観察したSEM写真である。
【図6】凸部を形成したサファイア基板上に窒化ガリウムを成長する過程を示す模式図である。
【図7】本発明の光の伝搬を従来構造との対比で模式的に示す図である。
【図8】更に他の実施形態を示す断面図である。
【図9】凹凸の断面形状の例を示す断面図である。
【図10】凹部側面の傾斜角と発光出力の関係を示すグラフである。
【図11】凹部又は凸部の他のパターン例を示す図である。
【図12】凹部又は凸部を正六角形とした他の実施形態を説明するための図である。
【図13】L/S(=p側オーミック電極の面積Sと開口部内周長Lの比)と発光出力の関係を示すグラフである。
【図14】p側オーミック電極の形態のバリエーションを示す図である。
【図15】p側オーミック電極の端部断面形状と発光の関係を示す模式図である。
【図16】本発明の他の実施形態に係る半導体発光素子を上面から見た図。
【図17】本発明の他の実施形態に係る半導体発光素子を上面から見た図。
【符号の説明】
10・・・基板
11・・・n型半導体層
12・・・発光領域
13・・・p型半導体層
20・・・凹部
21・・・凸部
30・・・n側半導体層
32・・・p側半導体層
34・・・p側オーミック電極
36・・・p側パッド電極
38・・・n側パッド電極
101・・・n型半導体層
102・・・p型半導体層
103・・・n電極及びnパッド電極
104・・・p電極
105・・・pパッド電極
106・・・pパッド電極兼p拡散電極
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-10-22 
結審通知日 2012-10-24 
審決日 2012-11-06 
出願番号 特願2002-213490(P2002-213490)
審決分類 P 1 113・ 851- YA (H01L)
P 1 113・ 853- YA (H01L)
P 1 113・ 113- YA (H01L)
P 1 113・ 121- YA (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉田 翠  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 小松 徹三
松川 直樹
登録日 2007-12-21 
登録番号 特許第4055503号(P4055503)
発明の名称 半導体発光素子  
代理人 黒田 健二  
代理人 玄番 佐奈恵  
代理人 宮原 正志  
代理人 鮫島 睦  
代理人 言上 恵一  
代理人 鮫島 睦  
代理人 田村 啓  
代理人 言上 恵一  
代理人 吉村 誠  
代理人 田村 啓  
代理人 宮原 正志  
代理人 玄番 佐奈恵  

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