• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04L
管理番号 1287785
審判番号 不服2011-25215  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-22 
確定日 2014-05-14 
事件の表示 特願2008-530301「波長ルーティングを用いたマルチユーザのWDMネットワーク上での量子鍵配布方法およびシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月29日国際公開,WO2007/033560,平成21年 3月 5日国内公表,特表2009-509366〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,2006年7月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年9月19日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,
平成20年5月1日付けで特許法第184条の4第1項の規定による明細書,請求の範囲,及び,図面(図面の中の説明に限る)の日本語による翻訳文が提出されると共に審査請求がなされ,平成23年2月22日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して平成23年5月31日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,平成23年7月20日付けで審査官により拒絶査定がなされ(謄本送達;平成23年7月26日),これに対して平成23年11月22日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ,平成24年2月2日付けで審査官により特許法第164条第3項の規定に基づく報告がなされ,平成24年3月8日付けで当審により特許法第134条第4項の規定に基づく審尋がなされ,平成24年5月30日付けで回答書が提出され,平成25年6月28日付けで当審によって平成23年11月22日付けの手続補正が却下されると共に(発送;平成25年7月16日)拒絶理由が通知され(発送;平成25年7月2日),これに対して平成25年9月30日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたものである。

第2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下,これを「本願発明」という)は,平成25年9月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるものである。

「マルチユーザのWDM(wavelength division multiplexing)ネットワーク上での送信器と複数の受信器間の量子鍵配布の方法であって,
各受信器に異なる受信波長を割り当るステップと,
複数の受信器の内,送信器と通信すべき一つの受信器を選択するステップと,
WDMネットワーク上で送信器から選択された受信器へ量子信号を送信するステップとを含み,
送信される量子信号は受信器の受信波長に等しい波長であり,
WDMネットワーク上で送信器から選択された受信器へ量子信号を送信するステップはさらに,
送信器の光源から連続波光を放射するステップと,
位相変調周期において二つの非直交状態をもつ前記連続波光をランダムに位相変調するステップと,
1よりも小さい光の平均光子数が,単一光子検出器によって1タイムスロット内で検出されるように前記位相変調された連続波光を減衰させるステップと,
減衰された光を光ファイバを通して送信するステップと,
複数の出力ポートをもち,各出力ポートは中心波長と各受信器の受信波長に対応する帯域幅とをもつ波長分割逆多重化器を用いることにより,減衰された光を選択された受信器にルーティングするステップと,
ロングアームとショートアームを含む二つのアームであって,ロングアームとショートアームの間で光が伝搬する時間差が位相変調周期の時間間隔に等しいようなアームによって,選択された受信器によって受信された光を二つの部分に分割するステップと,
二つのアームを通過した後,干渉が生じるように光の二つの部分を結合するステップと,
強め合う干渉が起きたとき,二つの検出器によって光子を検出するステップと,
どちらの検出器が光子を検出するかを決定することにより,受信器において量子鍵を確立するステップとを含むことを特徴とする方法。」

第3.引用刊行物に記載の発明
当審が平成25年6月28日付けの補正却下の決定,及び,同日付けの拒絶理由(以下,拒絶理由のみを「当審拒絶理由」,補正却下の決定と,拒絶理由を併せて「当審拒絶理由等」という)において引用した,本願の第1国出願前に既に公知である,「Kyo Inoue, Edo Waks, Yoshihisa Yamamoto,「Differential phase shift quantum key distribution」,Proceedings of SPIE Vol.4917 13 September 2002, p.32-38(以下,これを「引用刊行物1」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

A.「ABSTRACT
This paper presents novel quantum key distribution (QKD) schemes that use differential phases of sequential pulses as an information carrier. Alice sends a photon in a linear superposition state of three temporal slots, in which each amplitude is phase-modulated by {O, π} . Bob measures the phase difference by an asymmetric interferometer, and tells Alice time-instance at which the photon was counted. From this time information and her modulation data, Alice knows which detector counted the photon in Bob's site. Then, the two parties create a secret key. The scheme is suitable for fiber transmission systems and offers key creation efficiency higher than conventional phase-encoding QKD. The above scheme utilizes fully non-orthogonal four states. Differential phase shift QKD utilizing two nonorthogonal states is also presented. Alice sends a coherent pulse train with less than one photon per pulse, which is phase-modulated by {O, π} for each pulse, and Bob measures the pulse train by a one-bit delay circuit. The system has a simple configuration such that Alice has no interferometer and sends no intense reference pulse, unlike to conventional QKD scheme using two non-orthogonal states, and also has an advantage of high key creation efficiency.」(32頁1行?12行)
(この論文は,情報キャリアとして連続パルスの位相差を用いる,新しい量子鍵配送(QKD)スキームを提示する。アリスは,それぞれの振幅が,{0,π}によって位相変調されているところの,3つの時間的なスロットの線形重ね合わせ状態において光子を送信する。ボブは,非対称干渉計によって,位相差を測定し,アリスに,光子を計数した,時間インスタンスを伝える。この時間情報と,アリスの変調データから,アリスは,ボブ側内で,光子を計数した検出器を知る。次に,両者は,秘密鍵を生成する。このスキームは,ファイバ送信システムに適しており,従来の位相-符号化QKDよりもより高い鍵生成効率を提供する。上記のスキームは,非直交4状態を,全て,使用する。2つの非直交状態を使用する,差動位相シフトQKDもまた,提供される。アリスは,パルス毎に,{0,π}で位相変調されている,パルス毎に1つより少ない光子のコヒーレント・パルス列を送り,ボブが,1ビット遅延回路で,パルス列を測定する。該システムは,アリスが,干渉計を有せず,2つの非直交状態を使用する従来のQKDスキームとは異なり,強烈な参照パルスを送信しないといった,簡単な構造を有し,高い鍵生成効率という長所も有している。<当審にて訳出。以下,同じ。>)

B.「Figure 3 shows the configuration of the scheme. Alice randomly phase-modulates a pulse train of coherent light for each pulse by {O, π} , attenuates it so that the average photon number is less than one per pulse, and then sends it to Bob. Bob divides each incoming pulse into two paths and recombines them by 50:50 couplers, where the path length difference is set equal to the time interval of the incoming pulse train. Photon detectors are placed at the two outputs of the recombining coupler, respectively.
This setup operates as follows. At the recombining coupler in Bob's site, the partial wavefunctions of two sequential pulses interfere with each other, as illustrated in Figure 3 . Either one of the detectors clicks depending on the phase difference between the two sequential pulses. With an appropriate phase in the interferometer, DET1 clicks for 0 phase difference and DET2 clicks for it phase difference. In other words, Bob measures phase difference between two sequential pulses by this one-bit delayed circuit. Note that he does not count a photon for every timeslot because the transmitted signal has less than one photon per pulse.
The protocol to create a secret key is the same as in the previous section. After raw signal transmission, Bob tells Alice the time-instances at which a photon is counted. From this time information and her modulation data, Alice knows which detector clicked in Bob's site. Under the agreement that the click by DET1 denotes “0” and the click by DET2 denotes “1,” Alice and Bob obtain a shared bit string. Bob tells only the time-instance to Alice in this procedure, thus third parties do not know the bit information in public.」(36頁7行?22行)
(図3は,そのスキームの配置を示している。アリスは,ランダムに,{0,π}で,それぞれのパルスに対して,コヒーレント光のパルス列を位相変調し,平均光子数が,パルス毎に1つより少なくなるよう,減衰し,次に,それをボブに送信する。ボブは,受信パルスそれぞれを,2つの経路に分け,50:50カプラによって,それらを再結合する。そこは,経路長の差が,入力パルス列の時間間隔と同じに設定されている。光子検出器は,それぞれ,再結合カプラの2つの出力に配置されている。
この設定は,次のように動作する。図3に示されるように,ボブ側内の再結合カプラで,2つの連続パルスの部分的な波動関数が,互いに干渉する。検出器のどちらかが,2つの連続パルスの間の位相差に従って反応する。干渉計における適切な位相で,DET1は,位相差0で反応し,DET2は,位相差πで反応する。言い換えれば,ボブは,この1ビット遅延回路によって,2つの連続パルスの間の位相差を測定している。送信される信号は,パルス毎に1光子より少ないので,ボブは,全てのタイムスロットについて,光子を数えていないことに留意されたい。
秘密鍵を生成するためのプロトコルは,前のセクションにおけるものと同じである。生の信号送信の後,ボブは,アリスに,光子が計数される時間インスタンスを伝える。この時間情報と,アリスの変調データから,アリスは,ボブ側において,反応した検出器を知る。DET1による反応が,“0”を示し,DET2による反応が,“1”を示すという合意によって,アリスとボブは,共有されたビット・ストリングを得る。この手順において,ボブは,アリスに,時間インスタンスのみを伝える。それ故,第3者は,公開において,そのビット情報を知ることはない。)

C.「No phase-modulator in Bob's site is also advantageous as in the previous section. Bob's circuit consists of all passive element, thus stable, polarization-insensitive operation is possible, provided the silica-based waveguide technology is applied. In fact, optical differential-phase-shift-keying (DPSK) transmission systems, whose configuration is basically the same as the present scheme, have been successfully demonstrated using a waveguide receiver circuit [13]. The “plug & play” scheme mentioned in the previous section is also applicable for stable B92 operation [11], but it has a disadvantage of a relatively low pulse repetition rate, as described there.
Another feature of the present setup is its high detection efficiency. In the original B92, a photon is detected for basis-matched pulses, i.e., pulses for which imposed phase modulation is matched between Alice and Bob. Thus, a half of arriving photons are not detected and discarded. In the present scheme, on the other hand, arriving photons are detected either by DET1 or DET2, which fully contribute to creating a secret key. The detection efficiency (i,e., key creation efficiency) is twice than the original B92.」(38頁7行?17行)
(ボブ側に位相変調器がないこともまた,前の節におけるものより有利である。ボブの回路は,全て,受動素子から構成されている。それ故,安定で,偏波無依存動作が可能であり,与えられたシリコン・ベースの導波技術が応用される。実際に,光差動位相シフト-キーイング(DPSK)通信システムは,その構造が,本スキームと,基本的に同じであって,導波受信回路[13]を用いて,上手く実施されている。前節において言及した,“プラグ&プレイ”スキームもまた,安定したB92オペレーション[11]のために適用されるが,そこに説明されているように,それは,相対的に,低いパルス繰り返し率の不利を有している。本設定の他の特徴は,その高い検出効率である。元のB92においては,光子は,基準と一致したパルス,即ち,アリスとボブの間で一致する位相変調が与えられたパルスに対して検出される。それ故,到達する光子の半分は,検出されることなく,破棄される。一方,本スキームにおいては,到達する光子は,DET1か,DET2の何れかで検出され,秘密鍵を生成することに,十分に寄与する。検出の効率(即ち,鍵生成の効率)は,元のB92の2倍である。)

D.「4. SUMMARY
Novel quantum key distribution protocols were presented, which use differential phases of sequential pulses. Two schemes were described; one using fully non-orthogonal four states, and one using two non-orthogonal states. In the former, a photon split into three time slots is sent from Alice to Bob, in which each time-slot is randomly phase-modulated by {O, π} . In the latter, a attenuated coherent pulse train with an average photon number less that one per pulse is sent from Alice to Bob, in which each pulse is randomly phase-modulated by {O, π} . Bob measures the differential phase by an asymmetric interferometer in which the delay time is equal to the time interval of the incoming signal. A secret key is created from information of time instances at which photons are counted. The systems are favored for fiber transmission systems and offer a higher key creation efficiency than conventional fiberbased QKD systems.」(38頁23行?32行)
(4.要約
新種の量子鍵配送プロトコルは,連続するパルスの位相差を用いるものであることが示された。2つのスキームは,1つは,完全に,非直交の4状態を使用することが,そして,1つが,2つの非直交状態を使用することが説明された。前者の場合は,3つのタイム・スロットに分割した光子が,アリスから,ボブに送られ,それぞれのタイム・スロットは,{0,π}によって,ランダムに位相-変調されている。後者の場合は,パルス毎に1つより少ない平均光子数で減衰された,コヒーレント・パルス列が,アリスから,ボブに送られ,それぞれのパルスは,{0,π}によって,その時間遅延が,ランダムに位相変調されている。ボブは,受信信号の時間間隔に等しい非対称干渉計によって,位相差を測定する。秘密鍵は,係数される光子の,時間インスタンスの情報から生成される。そのシステムは,ファイバ通信システムに対して支持され,そして,従来のファイバ・ベースQKDシステムより高い鍵生成効率を示す。)

E.



(図3:差動位相シフトQKDがコヒーレント光を使用するための設定。
PM:位相変調器,ATT:減衰器,DET:光子検出器)

1.上記Aの「This paper presents novel quantum key distribution (QKD) schemes that use differential phases of sequential pulses as an information carrier.(この論文は,情報キャリアとして連続パルスの位相差を用いる,新しい量子鍵配送(QKD)スキームを提示する。)」という記載,上記Aの「Differential phase shift QKD utilizing two nonorthogonal states is also presented. Alice sends a coherent pulse train with less than one photon per pulse, which is phase-modulated by {O, π} for each pulse, and Bob measures the pulse train by a one-bit delay circuit. The system has a simple configuration such that Alice has no interferometer and sends no intense reference pulse, unlike to conventional QKD scheme using two non-orthogonal states, and also has an advantage of high key creation efficiency.(2つの非直交状態を使用する,差動位相シフトQKDもまた,提供される。アリスは,パルス毎に,{0,π}で位相変調されている,パルス毎に1つより少ない光子のコヒーレント・パルス列を送り,ボブが,1ビット遅延回路で,パルス列を測定する。該システムは,アリスが,干渉計を有せず,2つの非直交状態を使用する従来のQKDスキームとは異なり,強烈な参照パルスを送信しないといった,簡単な構造を有し,高い鍵生成効率という長所も有している。)」という記載,上記Bの「Figure 3 shows the configuration of the scheme. Alice randomly phase-modulates a pulse train of coherent light for each pulse by {O, π} , attenuates it so that the average photon number is less than one per pulse, and then sends it to Bob.(図3は,そのスキームの配置を示している。アリスは,ランダムに,{0,π}で,それぞれのパルスに対して,コヒーレント光のパルス列を位相変調し,平均光子数が,パルス毎に1つより少なくなるよう,減衰し,次に,それをボブに送信する。)」という記載,及び,上記Dの「In the latter, a attenuated coherent pulse train with an average photon number less that one per pulse is sent from Alice to Bob, in which each pulse is randomly phase-modulated by {O, π} .(後者の場合は,パルス異に1つより少ない平均光子数で減衰された,コヒーレント・パルス列が,アリスから,ボブに送られ,それぞれのパルスは,{0,π}によって,その時間遅延が,ランダムに位相変調されている。)」という記載,並びに,上記Eに引用した図3から,引用刊行物1には,
“アリスのコヒーレント光の光源から,連続パルスの光パルス列を出力し,該光パルス列にランダムに位相変調器によって位相変調をかけ,位相変調をかけたパルス列を,平均光子数が,パルス毎に1より少なくなるように,減衰器によって減衰して,ボブに送信する”ことが記載されていることが読み取れる。

2.上記1.で引用した上記Aの記載内容,上記Bの「Either one of the detectors clicks depending on the phase difference between the two sequential pulses. With an appropriate phase in the interferometer, DET1 clicks for 0 phase difference and DET2 clicks for it phase difference.(検出器のどちらかが,2つの連続パルスの間の位相差に従って反応する。干渉計における適切な位相で,DET1は,位相差0で反応し,DET2は,位相差πで反応する。)」という記載,及び,上記Dの「Bob measures the differential phase by an asymmetric interferometer in which the delay time is equal to the time interval of the incoming signal.(ボブは,受信信号の時間間隔に等しい非対称干渉計によって,位相差を測定する。)」という記載,並びに,上記Cの「 In the present scheme, on the other hand, arriving photons are detected either by DET1 or DET2(一方,本スキームにおいては,到達する光子は,DET1か,DET2の何れかで検出され)」から,引用刊行物1には,
“ボブは,非対称干渉計,2つの検出器を有し,干渉計における適切な位相で,検出器DET1は,位相差0で光子を検出し,検出器DET2は,位相差πで光子を検出する”ことが記載されていることが読み取れる。

3.上記Aの「 Bob measures the phase difference by an asymmetric interferometer, and tells Alice time-instance at which the photon was counted.(ボブは,非対称干渉計によって,位相差を測定し,アリスに,光子を計数した,時間インスタンスを伝える。)」という記載,及び,上記Bの「 After raw signal transmission, Bob tells Alice the time-instances at which a photon is counted. From this time information and her modulation data, Alice knows which detector clicked in Bob's site. Under the agreement that the click by DET1 denotes “0” and the click by DET2 denotes “1,” Alice and Bob obtain a shared bit string. Bob tells only the time-instance to Alice in this procedure,(生の信号送信の後,ボブは,アリスに,光子が計数される時間インスタンスを伝える。この時間インスタンスと,アリスの変調データから,アリスは,ボブ側において,反応した検出器を知る。DET1による反応が,“0”を示し,DET2による反応が,“1”を示すという合意によって,アリスとボブは,共有されたビット・ストリングを得る。この手順において,ボブは,アリスに,時間インスタンスのみを伝える。)」という記載から,引用刊行物1には,
“アリスは,生の信号をボブに送信し,ボブは,非対称干渉計によって,位相差を測定し,アリスに,光子が計数される時間インスタンスを伝え,アリスは,この時間情報と,アリスの変調データから,ボブ側において,反応した検出器を知り,アリスとボブは,共有されたビット・ストリングを得る”ことが記載されていると読み取れる。

4.上記Aの「This paper presents novel quantum key distribution (QKD) schemes that use differential phases of sequential pulses as an information carrier.(この論文は,情報キャリアとして連続パルスの位相差を用いる,新しい量子鍵配送(QKD)スキームを提示する。)」という記載,及び,上記Aの「 Differential phase shift QKD utilizing two nonorthogonal states is also presented.(2つの非直交状態を使用する,差動位相シフトQKDもまた,提供される。)」という記載から,引用刊行物1は,「差動位相シフト量子鍵配送」に関するものであることが読み取れ,
また,上記Dの「The systems are favored for fiber transmission systems and offer a higher key creation efficiency than conventional fiberbased QKD systems.(そのシステムは,ファイバ通信システムに対して支持され,そして,従来のファイバ・ベースQKDシステムより高い鍵生成効率を示す。)」という記載と,上記1.?3.において検討した事項から,引用刊行物1に記載の「アリス」と,「ボブ」は,“光ファイバ”を介して接続されていることは明らかであるから,引用刊行物は,
“光ファイバを介して接続されたアリスと,ボブの間の差動位相シフト量子鍵配送”に関するものであることが読み取れる。

以上1.?4.において検討した事項から,引用刊行物1には,次の発明(以下,これを「引用発明」という)が記載されているものと認める。

光ファイバを介して接続されたアリスと,ボブの間の差動位相シフト量子鍵配送方法であって,
アリスのコヒーレント光の光源から,連続パルスの光パルス列を出力し,該光パルス列にランダムに位相変調器によって位相変調をかけ,位相変調をかけたパルス列を,平均光子数が,パルス毎に1より少なくなるように,減衰器によって減衰して,生の信号を,ボブに送信するステップと,
ボブは,非対称干渉計,干渉計における適切な位相で,検出器DET1は,位相差0で光子を検出し,検出器DET2は,位相差πで光子を検出する2つの検出器を有し,前記非対称干渉計によって位相差を測定し,2つの検出器の何れかで前記光子を検出するステップと,
ボブが,アリスに,前記光子が計数される時間インスタンスを伝えるステップと,
アリスが,前記時間インスタンスと,アリスの変調データから,ボブ側において,前記光子を検出した検出器を知ることによって,アリスとボブは,共有されたビット・ストリングを得るステップとを有する,差動位相シフト量子鍵配布方法。

第4.本願発明と引用発明との対比
1.引用発明における「差動位相シフト量子鍵配送方法」は,「量子鍵配送方法」の一種であり,引用発明における「アリス」が「光子」の“送信器”,「ボブ」が「光子」の“受信器”を有していること,及び,上記「アリス」と,「ボブ」とが,「光ファイバ」を用いた“ネットワーク”に接続されていることは明らかであるから,
引用発明における「光ファイバを介して接続されたアリスと,ボブの間の差動位相シフト量子鍵配送方法」と,
本願発明における「マルチユーザのWDM(wavelength division multiplexing)ネットワーク上での送信器と複数の受信器間の量子鍵配布の方法」とは,
“ネットワーク上での送信器と受信器間の量子鍵配布の方法”
である点で共通する。

2.引用発明における「アリスのコヒーレント光の光源から,連続パルスの光パルス列を出力」すること,「光パルス列にランダムに位相変調器によって位相変調をかけ」ること,及び,「位相変調をかけたパルス列を,平均光子数が,パルス毎に1より少なくなるように,減衰器によって減衰」すること,並びに,「生の信号を,ボブに送信するステップ」が,それぞれ,
本願発明における「送信器の光源から連続波光を放射するステップ」,「位相変調周期において二つの非直交状態をもつ前記連続波光をランダムに位相変調するステップ」,及び,「1よりも小さい光の平均光子数が,単一光子検出器によって1タイムスロット内で検出されるように前記位相変調された連続波光を減衰させるステップ」,並びに,「減衰された光を光ファイバを通して送信するステップ」に相当する。

3.引用発明において,「ボブは,非対称干渉計,干渉計における適切な位相で,検出器DET1は,位相差0で光子を検出し,検出器DET2は,位相差πで光子を検出する2つの検出器を有し,前記非対称干渉計によって位相差を測定し,2つの検出器の何れかで前記光子を検出するステップ」では,上記「第3.引用刊行物に記載の発明」のE.において引用した引用刊行物1の「図3」に示されているとおり,「ボブ」の“受信器”は,「ボブ」が受信した「光子」は,“長い光路”と,“短い光路”とに一旦分離され,「検出器DET1」,及び,「検出器DET2」の直前で,再び合成される構成を有していることは明らかであるから,この構成が,
本願発明における「ロングアームとショートアームを含む二つのアームであって,ロングアームとショートアームの間で光が伝搬する時間差が位相変調周期の時間間隔に等しいようなアームによって,選択された受信器によって受信された光を二つの部分に分割するステップ」,及び,「二つのアームを通過した後,干渉が生じるように光の二つの部分を結合するステップ」に相当する。

4.引用発明において,「DET1は,位相差0で光子を検出し,検出器DET2は,位相差πで光子を検出する2つの検出器を有し,前記非対称干渉計によって位相差を測定し,2つの検出器の何れかで前記光子を検出する」とは,
“DET1は,位相差0で強めあう干渉が生じたときに光子を検出し,検出器DET2は,位相差πで強めあう干渉が生じたときに光子を検出する”ことにほかならないので,
引用発明における「DET1は,位相差0で光子を検出し,検出器DET2は,位相差πで光子を検出する2つの検出器を有し,前記非対称干渉計によって位相差を測定し,2つの検出器の何れかで前記光子を検出する」が,
本願発明における「強め合う干渉が起きたとき,二つの検出器によって光子を検出するステップ」に相当する。

5.引用発明における「ボブが,アリスに,前記光子が計数される時間インスタンスを伝えるステップと,
アリスが,前記時間インスタンスと,アリスの変調データから,ボブ側において,前記光子を検出した検出器を知ることによって,アリスとボブは,共有されたビット・ストリングを得るステップ」という2つのステップから,これらのステップが,
“ボブ側で,どちらに「光子」によって,ボブ側の“量子鍵”が確定したかを通知し,それによって,ボブと,アリスとで鍵を共有するステップ”であることは,明らかであるから,
引用発明も,本願発明と同じく,
「どちらの検出器が光子を検出するかを決定することにより,受信器において量子鍵を確立するステップ」を有していると言える。

以上,1.?5.において検討した事項から,本願発明と,引用発明との一致点,及び,相違点は,次のとおりである。

[一致点]
ネットワーク上での送信器と受信器間の量子鍵配布の方法であって,
送信器の光源から連続波光を放射するステップと,
位相変調周期において二つの非直交状態をもつ前記連続波光をランダムに位相変調するステップと,
1よりも小さい光の平均光子数が,単一光子検出器によって1タイムスロット内で検出されるように前記位相変調された連続波光を減衰させるステップと,
減衰された光を光ファイバを通して送信するステップと,
ロングアームとショートアームを含む二つのアームであって,ロングアームとショートアームの間で光が伝搬する時間差が位相変調周期の時間間隔に等しいようなアームによって,選択された受信器によって受信された光を二つの部分に分割するステップと,
二つのアームを通過した後,干渉が生じるように光の二つの部分を結合するステップと,
強め合う干渉が起きたとき,二つの検出器によって光子を検出するステップと,
どちらの検出器が光子を検出するかを決定することにより,受信器において量子鍵を確立するステップとを含む方法。

[相違点1]
“ネットワーク上での送信器と受信器間の量子鍵配布の方法”に関して,
本願発明においては,「マルチユーザのWDM(wavelength division multiplexing)ネットワーク上での送信器と複数の受信器間の量子鍵配布」であるのに対して,
引用発明においては,「WDM」に関しての言及がなく,「受信器」が「複数」である点についても言及がない点。

[相違点2]
本願発明においては,「各受信器に異なる受信波長を割り当るステップ」と,「複数の受信器の内,送信器と通信すべき一つの受信器を選択するステップ」と,「WDMネットワーク上で送信器から選択された受信器へ量子信号を送信するステップ」とを含んでいるのに対して,
引用発明においては,上記ステップに対応する構成についての言及がない点。

[相違点3]
本願発明においては,「複数の出力ポートをもち,各出力ポートは中心波長と各受信器の受信波長に対応する帯域幅とをもつ波長分割逆多重化器を用いることにより,減衰された光を選択された受信器にルーティングするステップ」が存在するのに対して,
引用発明においては,上記ステップに対応する構成についての言及がない点。

第5.相違点に対する当審の判断
[相違点1]?[相違点3]について
「相違点1」?「相違点3」は,“送信器と,複数の受信器間のWDMで接続して,量子鍵配送を行う”場合の「WDM」に関連する部分に相当するものである。
しかしながら,当審拒絶理由等に引用した,本願の第1国出願前に既に公知である,「Gilles Brassarda Felix Bussieresa,, Nicolas Godbout, Suzanne Lacroix,「Multi-User Quantum Key Distribution Using Wavelength Division Multiplexing」,Proc. SPIE 5260, Applications of Photonic Technology 6, December 12, 2003, p.149-153(以下,これを周知文献)という」に,

F.「The solution we propose makes use of wavelength division multiplexing (WDM) to overcome the inefficiencies of the Townsend architecture. Indeed, let us replace the power divider on Fig. 1 by a de-multiplexer, and let the manager address each user Bob by using the appropriate wavelength (see Fig. 2) .」(150頁32行?34行)
(我々が提案する解決手法は,タウンゼンド・アーキテクチャーの非能率を克服するために光波長分割多重(WDM)を利用する。確かに,図1の上のパワー・ディバイダをデマルチプレクサに取り替え,マネージャに適切な波長の使用により各ユーザである,ボブと対話する(図2を参照)。)

と記載されてもいるように,量子鍵配送において,複数の「受信器」に対して,波長分割多重(WDM)を用いて通信することは,本願の第1国出願前に,当業者には周知の技術事項であり,「WDM」において,受信側に,異なる周波数を割り当ておくようにすることも,「WDM」の技術構成上,当業者には周知の技術事項である。
更に,WDMにおいて,「波長分割逆多重化器」用いる点に関しても,当審拒絶理由において,周知文献2として引用した,本願の第1国出願前に既に公知である,特開2003-338794号公報(2003年11月28日公開)に,

G.「【0003】光ネットワークは,伝送容量を増加させるために,しばしば,波長分割多重(WDM)又は,高密度波長分割多重(DWDM)を使用する。WDM及びDWDMネットワークでは,異なる波長で,各光ファイバー内に,幾つかの光チャネルが収容される。ネットワーク容量は,各光ファイバ内の波長又はチャネルの数及びチャネルの帯域又は,サイズに基づいている。マルチプレックス及びデマルチプレックスネットワークノードで,トラフィックを追加し又は分割するために,アレイ導波路回折格子(AWG),インターリーバ及び/又はファイバー回折格子(FG)が,典型的には,使用される。」

と記載されていて,上記Gに記載の「アレイ導波路回折格子(AWG)」が,本願発明における「波長分割逆多重器」に相当することは,当審拒絶理由において,周知文献3として引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2000-244543号公報(200年9月8日公開)に,

H.「【0007】図6は,図5に示した光ADM103の内部構成を示すブロック図である。図6において,111は送信のための追加波長信号光118を送出する多波長光源,112aはLAN104から入力されるLAN波長多重通信信号入力光113を分波する波長合分波器(AWG),112bは複数の波長帯の光を合波してLAN波長多重通信信号出力光116としてLAN104に送出する波長合分波器(AWG),114は多波長光源111からの追加波長信号光118と波長合分波器112aによって分波された光とを対応する波長毎に合波すると共に,波長合分波器112aによって分波された複数の波長の光のうち所望の波長の光を取り出す光スイッチアレイ,115は光スイッチアレイ114からの取り出し波長信号光119を電気信号に変換する光検出器,117は光ADM全体を制御する光ADM制御装置である。図6に示すように,光ADM103は,相当複雑な装置モジュール群が組み合わされて構成されている様子がよく分かる。この光ADM103は,各ノードあるいは端末毎に1台必要となり,大規模かつ高額であることは先に述べたとおりである。」(下線は,当審にて,説明の都合上,附加したものである。)

と記載されているように当業者には周知の技術事項であるから,上記Gに引用した内容と併せて,WDMにおいて,「波長分割逆多重化器」用いる点に関しても,当業者には周知の技術事項であることはあきらかである。
そして,引用刊行物1においても,

I.「This issue can be dealt with by, for example, sending timing pulses via wavelength division multiplexing.」(34頁36行?37行)
(この問題は,光波長分割多重によって,例えば,送信タイミング・パルスによって扱うことができる。),

と記載されていて,WDMを使用する目的は異なるものの,引用発明においても,WDMを組み合わせることが可能なことは明らかであるから,引用発明において,「アリス」と,複数の「ボブ」との間で,「量子鍵配送」を行う場合に,「WDM」を用いること,或いは,周知技術文献に記載された発明における,“アリスと,複数のボブとの間の,WDMを用いた量子鍵配送”において,引用発明における「差動位相シフト量子鍵配布方法」を採用することは,当業者が適宜なし得る事項である。
よって,相違点1?相違点3は,格別のものではない。

上記で検討したごとく,相違点1?3はいずれも格別のものではなく,そして,本願発明の構成によってもたらされる効果も,当業者であれば容易に予測できる程度のものであって,格別なものとは認められない。

第6.むすび
したがって,本願発明は,本願の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-05 
結審通知日 2013-12-10 
審決日 2013-12-24 
出願番号 特願2008-530301(P2008-530301)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 重徳  
特許庁審判長 山崎 達也
特許庁審判官 田中 秀人
石井 茂和
発明の名称 波長ルーティングを用いたマルチユーザのWDMネットワーク上での量子鍵配布方法およびシステム  
代理人 森下 賢樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ