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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1287834
審判番号 不服2013-15118  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-06 
確定日 2014-05-15 
事件の表示 特願2008- 73903「ダイボンドフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月 8日出願公開、特開2009-231469〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成20年3月21日の出願であって、平成24年6月29日付けの拒絶理由通知に対して、同年8月31日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年4月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月6日に拒絶査定不服審判が請求がされたものであり、その請求項1?8に係る発明は、平成24年8月31日に提出された手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
少なくとも3つの重合鎖が放射状に伸びる星型構造を有する共重合体と、エポキシ樹脂と、硬化剤と、フィラーとを含有するダイボンドフィルムであって、
前記共重合体のガラス転移点が50℃以下であることを特徴とするダイボンドフィルム。」

2 引用例の記載と引用発明
(1)引用例1:特開2007-302881号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2007-302881号公報(以下「引用例1」という。)には、「接着剤組成物及び接着シート」(発明の名称)に関して、図1及び2とともに以下の記載がある。(下線は当審において付加した。)

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物及び接着シートに関するものである。」

イ 「【背景技術】
【0002】
従来、配線板に半導体素子を始めとする各種電子部品を搭載した実装基板の最も重要な特性の一つとして信頼性が挙げられる。その中でも、熱疲労に対する接続信頼性は実装基板を用いた機器の信頼性に直接影響を与えるため、非常に重要な項目である。この接続信頼性を低下させる原因の一つとして、熱膨張係数の異なる各種材料を用いていることから生じる熱応力が挙げられる。
…(略)…
【0004】
近年、半導体チップを接着して多段に積層したスタックドMCP(Multi Chip Package)が普及している。このようなパッケージでの接続信頼性を左右する要素の一つとして、接着面に空隙を発生させることなく半導体チップを実装できるか否かが挙げられる。特に、配線などに起因する凹凸を表面に有する基板上に半導体チップを積層する場合、凹部における埋め込み性が重要となる。
【0005】
このようなパッケージは、接着層を有する接着シートを用いた以下のような方法で製造することができる。まず、接着シートを備えた半導体チップを、凹凸表面を有する半導体チップ搭載用の配線板や半導体ウエハ等の基材に接着シートを介して圧着する。その後、接着シートの加熱硬化により半導体チップと基材を接着し、更にワイヤボンディングにより半導体チップを基材に接続する。その後、さらに別の半導体チップを接着層を介して接着しながら積層して半導体チップを基材にワイヤボンディングにより接続する工程を必要に応じて繰り返して行う。これにより半導体チップが多段に積層される。そして、ワイヤボンディングにより接続する工程をすべて終了後、半導体チップを樹脂封止する。
【0006】
最近、半導体装置の小型化や薄型化を実現するため、基材の薄型化が進んでいる。一方で、上述の熱膨張係数の差異に由来する素子の歪み(反り)を低減する観点から、基材に対して低温・低荷重での実装が強く求められている。しかしながら、従来、半導体チップを低温・低荷重で基材に圧着して実装するだけでは、基材表面の凹部(窪みや溝)に接着層を埋め込むことは困難である。
…(略)…
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1で提案されたものを始めとする従来の接着シートは、低温及び低荷重での半導体チップの圧着に用いた場合、基材表面の凹部に接着層を十分に埋め込むには十分とはいえず、更に改善の余地がある。
【0011】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、基材の表面に半導体チップを圧着により搭載する際に、従来よりも低温及び低荷重での圧着によっても、基材及び半導体チップの表面における凹部に従来と同程度又はそれ以上に接着層を埋め込むことが可能な接着シート及びその接着シートを構成する接着剤組成物を提供することを目的とする。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明は、(a)エポキシ樹脂と下記一般式(1)又は(2)で表される構造単位を有するフェノール樹脂との混合物100質量部と、(b)重量平均分子量が10万?120万、かつTgが-50?+50℃であって、分子内に架橋性官能基を有する高分子量成分(ただし、前記(a)成分を除く。)15?40質量部と、(c)無機フィラー40?180質量部とを含有する接着剤組成物を提供する。
…(略)…
【0015】
この本発明の接着剤組成物は、基材の表面に半導体チップを圧着により搭載する際に、従来よりも低温及び低荷重での圧着によっても、基材及び半導体チップの表面における凹部に従来と同程度又はそれ以上に接着層を埋め込むことが可能な接着シートを形成できる。これは、本発明の接着剤組成物が、従来よりも低粘度であることに起因する。
【0016】
本発明は、熱硬化性であって、硬化前の80℃における溶融粘度が800Pa・s?40000Pa・s、特定の基材への接着強度が3MPa以上、かつ厚みが5?250μmである接着層を備える接着シートを提供する。
…(略)…
【0020】
本発明は、(a)必須成分として重量平均分子量800以上のエポキシ樹脂及び融点40℃以上のエポキシ樹脂を含み、かつ、任意成分としてフェノール樹脂を含む熱硬化性成分であって、熱硬化性成分の総量に対して重量平均分子量が800以上のエポキシ樹脂、融点が40℃以上のエポキシ樹脂及びフェノール樹脂を合計で50?70質量%含む前記熱硬化性成分100質量部と、(b)重量平均分子量が10万?120万、かつTgが-50?+50℃であって、分子内に架橋性官能基を有する高分子量成分(ただし、上記(a)成分を除く。)15?40質量部と、(c)無機フィラー40?180質量部とを含有する接着剤組成物をシート状に成形した接着層を備える接着シートを提供する。
【0021】
この本発明の接着シートは、基材の表面に半導体チップを圧着により搭載する際に、従来よりも低温及び低荷重での圧着によっても、基材及び半導体チップの表面における凹部に従来と同程度又はそれ以上に接着層を埋め込むことが可能な接着シートとなる。これは、本発明の接着剤組成物が、従来よりも低粘度であることに起因する。」

エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
…(略)…
【0028】
図1は、本発明の好適な実施形態に係る接着シートを示す模式断面図である。この接着シート10は、支持フィルム(基材フィルム)1と、その表面上に形成された接着層2とを備える。
【0029】
接着層2は、(a)熱硬化性成分と、(b)高分子量成分と、(c)フィラーとを含有する接着剤組成物をシート状に成形したものである。
【0030】
(a)熱硬化性成分は、半導体チップを実装する場合に要求される耐熱性及び耐湿性を接着層に付与するためには、エポキシ樹脂及びその硬化剤を主成分とすることが好ましい。
…(略)…
【0036】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、通常用いられている公知の硬化剤を使用することができる。例えば、…(略)…等のフェノール樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0037】
これらの中で、上記一般式(1)又は(2)で表される構造単位を有するフェノール樹脂は、本発明の目的をより効果的かつ確実に達成することができるので、硬化剤として好適である。ここで、上記式(1)及び(2)で表される構造単位の繰り返し数は、1分子当たり1?50であると好ましい。
…(略)…
【0043】
(b)高分子量成分は、重量平均分子量が10万?120万、かつTgが-50?+50℃であって、分子内に架橋性官能基を有するものである。ただし、上述の(a)成分に該当するものは除かれる。
【0044】
高分子量成分は、エポキシ基、アルコール性又はフェノール性水酸基、カルボキシル基等の架橋性官能基を有することが好ましい。架橋性官能基を有する高分子量成分としては、(メタ)アクリル共重合体((メタ)アクリル樹脂)、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フェノキシ樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル基を有するモノマーを重合して得られる(メタ)アクリル共重合体が好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0045】
(メタ)アクリル共重合体としては、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリルゴムなどを使用することができ、アクリルゴムがより好ましい。アクリルゴムは、アクリル酸エステルを主成分とし、主として、ブチルアクリレートとアクリロニトリルなどの共重合体や、エチルアクリレートとアクリロニトリルなどの共重合体などからなるゴムである。
【0046】
(メタ)アクリル共重合体は、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートなどの、エポキシ基を有するアクリルモノマーをモノマー単位として有することが好ましい。すなわち、(メタ)アクリル共重合体(好ましくはアクリルゴム)はエポキシ基を有することが好ましい。
【0047】
高分子量成分の重量平均分子量は、好ましくは10万以上100万以下である。この分子量が10万未満であると接着層の硬化後の耐熱性及び接着力が低下する傾向があり、分子量が120万を超えると接着層の流動性が低下する傾向がある。なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値である。
【0048】
また、高分子量成分は重量平均分子量が互いに異なる2種類又は3種類のものを併せて用いることが好ましい。さらに、10万?30万の重量平均分子量を有する1種類以上の高分子量成分と、互いに異なる50万以上の重量平均分子量を有する2種類又は3種類の高分子量成分とを併せて用いることがより好ましい。これらにより、一層高い接着強度を有する接着層が得られる。この接着層は、粘度が低くても、硬化後の耐熱性及び耐湿性により優れたものとなる
【0049】
なお、高分子量成分が2種類以上接着剤組成物に含まれる場合、それらは別個に重合して得られるものである。
【0050】
高分子量成分のガラス転移温度(Tg)は-50?+50℃であることが好ましい。Tgが-50℃未満であると、-50?+50℃の範囲内にある場合と対比して、接着層の柔軟性が高くなりすぎる傾向にある。これにより、ウエハダイシング時に接着層を切断し難くなり、その結果バリが発生してダイシング性が低下する傾向にある。またTgが+50℃を超えると、-50?+50℃の範囲内にある場合と対比して、接着層の柔軟性が低下する傾向にある。
…(略)…
【0063】
本実施形態の接着剤組成物は、上述の各成分の他、本発明の目的を達成する限りにおいて、硬化促進剤、触媒、添加剤、カップリング剤、可塑剤、粘着性付与剤、硬化促進剤等、接着剤組成物に含まれ得る通常の成分を含んでもよい。
【0064】
以上、説明した接着剤組成物は、本発明の目的を達成する限りにおいて、上述の各成分のそれぞれにおいて例示されたもののいずれを組み合わせてもよい。
【0065】
上記接着剤組成物の好適な実施形態は、(a)エポキシ樹脂と上記一般式(1)又は(2)で表される構造単位を有するフェノール樹脂との混合物100質量部と、(b)重量平均分子量が10万?120万、かつTgが-50?+50℃であって、分子内に架橋性官能基を有する高分子量成分(ただし、上記(a)成分を除く。)15?40質量部と、(c)無機フィラー40?180質量部とを含有するものである。
【0066】
また、上記接着剤組成物の別の好適な実施形態は、(a)必須成分として重量平均分子量が800以上のエポキシ樹脂及び融点が40℃以上のエポキシ樹脂を含み、かつ、任意成分としてフェノール樹脂を含む熱硬化性成分であって、上述の熱硬化性成分の総量に対して上記重量平均分子量が800以上のエポキシ樹脂、上記融点が40℃以上のエポキシ樹脂及び上記フェノール樹脂を合計で50?70質量%含む熱硬化性成分100質量部と、(b)重量平均分子量が10万?120万、かつTgが-50?+50℃であって、分子内に架橋性官能基を有する高分子量成分(ただし、上記(a)成分を除く。)15?40質量部と、(c)無機フィラー40?180質量部とを含有するものである。
【0067】
接着層2は、熱硬化性であって、硬化前(Bステージ状態)の80℃における溶融粘度が800Pa・s?40000Pa・sであると好ましく、800Pa・s?28000Pa・sであるとより好ましい。また、特定の基材への接着強度が3MPa以上、かつ厚みが5?250μmであると好ましい。上述の溶融粘度が800Pa・sを下回ると、上記数値範囲内にある場合と比較して、半導体チップ側面からの接着剤組成物のはみ出しが生じやすくなる。また、この溶融粘度が40000Pa・sを超えると、上記数値範囲内にある場合と比較して、被着体表面における凹部への接着層の埋め込み性が低下する。
…(略)…
【0069】
接着層2の硬化前の80℃における溶融粘度は、上述のエポキシ樹脂の種類の選定、(b)高分子量成分の分子量分布の調整、接着剤組成物における融点が40℃以上のエポキシ樹脂の含有割合の調整、(b)高分子量成分と(c)フィラーとの配合比の調整、並びに接着層2の形成条件の調整などにより、上記数値範囲内に収めることができる。また、上述のエポキシ樹脂の選定、(b)高分子量成分の分子量分布の調整、並びに(b)高分子量成分と(c)フィラーとの配合比の調整などにより、接着強度を3MPa以上に制御することができる。
【0070】
このような接着層2は、80℃での圧着により基材表面への埋め込みが可能となる。
…(略)…
【0086】
本実施形態に係る接着シート10は、配線回路等に起因して形成された凹凸表面の凹部充填性が良好である。したがって、半導体装置の製造における半導体チップと基材との間や半導体チップ同士の間を接着するための工程において、接着信頼性に優れる接着シートとして使用することができる。本実施形態に係る接着シート10は、半導体素子搭載用の基材に半導体チップを実装する場合に必要な耐熱性、耐湿性、絶縁性を有し、かつ作業性にも優れる。
【0087】
上記半導体チップにおける半導体ウエハとしては、…(略)…
【0088】
有機基板と接着層2との間の接着強度は、より十分な接着力を確保する観点から、265℃で3MPa以上であると好ましい。なお、ここでの「接着強度」は、上記「特定の基材への接着強度」における「特定の基材」を有機基板に代えて測定されるものである。この接着強度は、上述のエポキシ樹脂の選定、(b)高分子量成分の分子量分布の調整、並びに(b)高分子量成分と(c)フィラーとの配合比の調整などにより3MPa以上に制御することができる。」

オ 「【0089】
図2は、本発明に係る半導体装置の一実施形態を示す断面図である。図2に示す半導体装置100は、同サイズの半導体チップを2つ以上備えるパッケージであって、いわゆるスタックドCSPと称されるものである。半導体装置100は、基材20及び基材20の一面側において積層された3個の半導体チップA1を備えている。そして、半導体チップA1と基材20との間、及び半導体チップA1同士の間に、上記実施形態に係る接着シート10から形成された硬化接着層2aが介在している。硬化接着層2aは、上記接着層2の硬化体である。
【0090】
基材20は、基板3と、基板3の一面上に設けられた配線4と、配線4の下方において基板3を貫通する貫通孔を通って基板3の他方面側に導出された端子5とから主として構成される。基材20の配線4側の面は、配線4が形成されているために凹凸表面が形成されている。各半導体チップA1は、ワイヤ6を介して配線4と接続されている。
【0091】
このような構成を有する半導体装置100の製造において、本実施形態では、基材20の凹部を埋め込み、かつ上部の半導体チップA1との絶縁性を確保することが可能となる。
【0092】
硬化接着層2aを介して半導体チップA1を基材20上に形成するには、例えば、下記のような工程を経る。まず、ダイシングテープである支持フィルム1及びその表面上に設けられた接着層2からなる接着シート10の接着層2側に、更に半導体ウエハを0?80℃程度で貼り合わせる。次いで、回転刃又はレーザーを用いてそれらを所定の寸法及び形状になるように切断して、接着層2と貼り合わされた半導体チップA1を得る。支持フィルム1を接着層2から剥離除去した後、接着層2を、半導体チップA1とは反対側の面で基材20に圧着し、更に加熱する。この加熱により、接着層2は基材20と半導体チップA1及び半導体チップA1同士を接着する硬化接着層2aとなる。
【0093】
この際の圧着荷重は、0.001?1MPa程度であると好ましく、0.01?0.5MPaであるとより好ましく、0.01?0.3MPaであると更に好ましい。圧着荷重が0.001MPa未満であると、ボイド(空隙)が発生しやすくなり、耐熱性に劣る。また、圧着荷重が1MPaを超えると、半導体チップA1を破壊する可能性がある。また、圧着温度(加熱温度)は80?140℃であると好ましく、100?120℃であるとより好ましい。
…(略)…
【0095】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0096】
例えば、本発明の別の実施形態において、接着シートは接着層のみから構成されてもよい。この場合、接着剤組成物を含む上記ワニスを被塗布用フィルムの表面上に塗布し、更にワニスを加熱により乾燥した後、被塗布用フィルムを剥離除去して接着層からなる接着シートが得られる。
【0097】
被塗布用フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルナフタレートフィルム及びメチルペンテンフィルムが挙げられる。
…(略)…
【0104】
また、上記接着シートから形成された硬化接着層を備えた半導体装置は、図2に示すものに限定されず、半導体チップと基材との間に上記硬化接着層を設けたものであればよい。したがって、例えば、いわゆるピラミッド型、逆ピラミッド型のスタックドCSPであってもよい。」

カ 「【実施例】
【0105】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例における各操作は全て大気中で行われた。
【0106】
(実施例1?5及び比較例1?3)
表1又は表2に商品名及び配合比(質量比)を示すエポキシ樹脂、フェノール樹脂、モノマー及びフィラーからなる組成物にシクロヘキサノンを加え、撹拌混合した。これに、表1又は表2に同様に示すアクリルゴムを加えて撹拌し、更に表1又は表2に同様に示すカップリング剤及び硬化促進剤を加えて各成分が均一になるまで撹拌してワニスを得た。
…(略)…
【0109】
次に、そのワニスを100メッシュのフィルターで濾過して真空脱泡した。真空脱泡後のワニスを、支持フィルムの主面上に塗布した。支持フィルムとしては、厚さ38μmの離型処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを採用した。塗布したワニスを140℃で5分間加熱乾燥した。こうして支持フィルムの主面上に、Bステージ状態にある厚み40μmの接着層を備えた接着シートを得た。
…(略)…
【0114】
(各種物性の評価)
得られた接着シートについて、80℃での溶融粘度、室温でのタック強度、接着強度及び耐リフロー性の測定及び試験を行った。
【0115】
[溶融粘度の測定]
接着層の溶融粘度を平行板プラストメーター法により測定した。…(略)…
【0120】
[耐リフロー性の評価]
接着層の耐リフロー性を下記の方法により評価した。…(略)…
【0122】
実施例と比較例とを対比すると、実施例の方が比較例よりも粘度、タック性、接着強度及び耐リフロー性にバランスよく優れていることが判明した。」

(2)引用発明
以上、特に段落【0096】の記載を勘案してまとめると、引用例1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「基材の表面に半導体チップを圧着により搭載する際に、従来よりも低温及び低荷重での圧着によっても、基材及び半導体チップの表面における凹部に従来と同程度又はそれ以上に接着層を埋め込むことが可能な接着シートであって、該接着シートは接着層から構成され、前記接着層は、(a)熱硬化性成分と、(b)高分子量成分と、(c)フィラーとを含有する接着剤組成物をシート状に成形したものであり、(a)熱硬化成分として、エポキシ樹脂及びその硬化剤を主成分とするものを使用し、(b)高分子量成分として、重量平均分子量が10万?120万、かつガラス転移温度Tgが-50?+50℃である、アクリルゴムを使用する、接着シート。」

(3)引用例2:特開2001-64252号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2001-64252号公報(以下「引用例2」という。)には、「有機スルフィド化合物、その用途、それを用いた重合方法および重合体」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規な有機スルフィド化合物、その用途、それを用いた重合方法および重合体に関する。」

イ 「【0002】
【従来の技術】メチルメタクリレートやブチルアクリレート等のビニル系単量体を、公知の重合開始剤を用いて重合させた場合、重合熱による急激な温度上昇がみられるため、反応を制御するのが困難であり、特にバルク重合において問題があった。このような問題を解決するために、重合開始剤を減らしたり、多量の溶剤を使用する等の方法がある。しかしながら、これらの方法では、重合が極端に遅くなったり、反応後に多量の溶剤を除去する必要がある等の新たな問題点か生じている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明が解決しようとする課題は、ビニル系単量体を温和に重合させ、高収率で重合体を製造する等の目的に用いられる、新規な有機スルフィド化合物、その用途およびそれを用いた重合方法を提供することである。本発明が解決しようとする別の課題は、高度に枝分かれした重合体を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、重合反応の開始剤や連鎖移動剤として用いられる有機イオウ化合物に着目した。そして、1価メルカプタンとアクリルエステルモノマーとをマイケル付加させて得られた付加体を合成し、これを開始剤として重合反応を行ってみると、重合反応が温和に進行し、その収率が高まるという確認を得た。本発明者は、さらに、有機イオウに含まれるイオウ原子の数が多いほど、重合反応を温和に進行させる作用を発揮し、その収率がさらに高まるのではないかという仮説を立てて、この仮説を確かめるために、上記マイケル付加反応において1価メルカプタンを多価メルカプタンに代え、マイケル付加反応させて得られた付加体を製造し、それを用いて重合反応を行うと、重合反応がさらに温和に進行し、その収率がいっそう高まるという確認を得て、本発明に到達した。」

ウ 「【0012】…(略)…
本発明にかかる重合開始剤および連鎖移動剤は、いずれも、上記有機スルフィド化合物を必須成分とする。
【0013】本発明にかかるビニル系単量体の重合方法は、上記重合開始剤および/または連鎖移動剤を用いて、ビニル系単量体をラジカル重合させる方法である。本発明にかかる重合体は、GPC-LALLSで測定した重量平均分子量Mw^(LALLS )とGPCで測定した重量平均分子量Mw^(GPC )との比(Mw^(LALLS )/Mw^(GPC ))が3.0以上である高度に枝分かれした重合体である。」

エ 「【0014】
【発明の実施の形態】有機スルフィド化合物およびその製造方法
本発明にかかる有機スルフィド化合物は、以下の第1の製造方法または第2の製造方法で得られた化合物である。
〔第1の製造方法〕第1の製造方法は、多価メルカプタンとビニル系化合物とをマイケル付加反応させる方法である。
【0015】多価メルカプタンとしては、1分子内に2個以上のメルカプト基を有する化合物であれば特に限定はなく、たとえば、水酸基を2個以上有する化合物とカルボキシル基含有メルカプタン類とを反応させて得られるポリエステル化合物;…(略)…
【0016】水酸基を2個以上有する化合物とカルボキシル基含有メルカプタン類とを反応させて得られるポリエステル化合物としては、たとえば、…(略)…;ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート(PETG)、…(略)…等の、ペンタエリスリトール等の水酸基を4個有する化合物とカルボキシル基含有メルカプタン類とを反応させて得られるテトラエステル化合物;…(略)…等を挙げることができ、これらが1種または2種以上使用される。
【0017】ビニル系化合物としては、1価ビニル系化合物や、2官能以上の多価ビニル系化合物を挙げることができ、これらが1種または2種以上使用される。1価ビニル系化合物としては、たとえば、…(略)…等を挙げることができ、これらが1種または2種以上使用される。
【0018】多価ビニル系化合物としては、たとえば、…(略)…トリメチロールプロパントリアクリレート、…(略)…等の、1分子当たり3個以上の水酸基を有する化合物とアクリル酸とを反応させて得られるポリエステル化合物;…(略)…等を挙げることができ、これらが1種または2種以上使用される。
…(略)…
【0035】…(略)…
重合開始剤および連鎖移動剤
本発明にかかる重合開始剤および連鎖移動剤は、いずれも、上記化合物(1)、化合物(2)および化合物(3)から選ばれた少なくとも1種の有機スルフィド化合物を必須成分とし、ビニル系単量体を温和に重合させ、高収率で重合体を製造するのに用いられる。
〔重合開始剤〕本発明の重合開始剤は、化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)のいずれであってもよい。
【0036】重合開始剤として好ましい化合物(1)の構造としては、…(略)…
【0045】…(略)…
ビニル系単量体の重合方法
本発明にかかるビニル系単量体の重合方法は、上記重合開始剤および/または連鎖移動剤を用いて、ビニル系単量体をラジカル重合させる重合方法であり、ビニル系単量体は温和に重合し、得られる重合体の収率は高い。
【0046】ビニル系単量体としては、たとえば、(メタ)アクリル酸;炭素原子数1?30のアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレートなどに代表される(メタ)アクリレート類;α-メチルスチレン、ビニルトルエン、スチレンなどに代表されるスチレン系単量体;…(略)…等を挙げることができ、これらが1種または2種以上使用される。
【0047】ラジカル重合は、通常のラジカル重合方法である塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等で行うことができる。安価な重合体を得るためには、余分な揮発成分を含まない塊状重合が好ましい。重合温度は、30?200℃が好ましく、より好ましくは重合開始剤を使用しないで安定に塊状重合できる100?150℃である。
【0048】本発明のビニル系単量体の重合方法に用いられる重合開始剤としては、特に限定はないが、たとえば、一般式(1)中、o=m=0、かつ、k≧1、n≧3を満たす化合物(1A)を必須成分とするものが好ましく、重合開始剤が化合物(1A)のみからなるとさらに好ましい。化合物(1A)を必須成分とする重合開始剤を用いてラジカル重合させると、化合物(1A)からそのメルカプト基のプロトンが解離した残りの部分である多価メルカプタン部分を中心として、ビニル系単量体がラジカル重合して得られる重合体部分が、化合物(1A)中のメルカプト基に由来するイオウ原子に結合する形で、放射状に伸びた枝分かれの多い構造の星型重合体が得られる。
【0049】この星型重合体は、多くの枝分かれ構造を有し、同一組成、同一分子量の直鎖状の重合体と比較して、引張強さおよび弾性率が低下することなく、低粘度で、凝集力が高くなる。このため、高分子加工を行う上で、非常に有用である。この星型重合体としては、GPC-LALLSで測定した重量平均分子量Mw^(LALLS )とGPCで測定した重量平均分子量Mw^(GPC )との比(Mw^(LALLS )/Mw^(GPC ))が3.0以上である高度に枝分かれした重合体が好ましく、有用である。
【0050】この星型重合体は、高分子量、高い凝集力を有しながら、低粘度で使用できるため、作業性がよく、熱可塑性樹脂、塗料、接着剤、粘着剤等の各種用途に好ましく使用でき、大変有用である。」

オ 「【0051】
【実施例】以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。以下では、「%」は「重量%」、「部」は「重量部」を示す。
(実施例1)攪拌装置、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた2リットルの4つ口フラスコにトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)59.2g、メチルエチルケトン600g、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート(PETG)259.2gを加え、窒素雰囲気下、反応混合物を攪拌しながら還流温度まで昇温した。上記仕込みにおいて、TMPTA/PETG(官能基比)=3/4、TMPTA/PETG(モル比)=1/3であった。2時間攪拌した後、冷却してマイケル付加反応を終了させた。得られた有機スルフィド化合物(1)の化学構造は、NMR、IR、元素分析結果から、TMPTA1個とPETG3個とが反応した生成物であり、TMPTAのすべての炭素-炭素2重結合に対して、PETGのSH基がマイケル付加した、下記化学式(a)で示される構造であることが確認された。
…(略)…
【0061】…(略)…
(実施例6)実施例1と同様の反応容器に、スチレン160g、ブチルアクリレート40gおよび実施例1で得られた有機スルフィド化合物(1)27gを加え、窒素雰囲気下、反応混合物を攪拌しながら還流温度まで昇温した。5時間攪拌した後、冷却して重合を終了させた。得られた重合体(6)の重合率は97%、GPCで測定した重量平均分子量Mw^(GPC )に対するGPC-LALLSで測定した重量平均分子量Mw^(LALLS)の比率(Mw^(LALLS)/Mw^(GPC ))は3.49であった。
【0062】ここで、Mw^(LALLS)/Mw^(GPC )は、平均回転自乗半径の比であるgと比例し、gと重合体中の枝の数fとは、g=f^(2)/(3f-2)の経験式がある。Mw^(LALLS)/Mw^(GPC )>1の場合は、分枝構造をとることが知られており、重合体(6)が枝分かれ構造になっていることが確認された。上記経験式にg=3.49を代入して、計算上の枝分かれ数fは10であった。
(実施例7)ジペンタエリスリトールヘキサキスアクリレート(DPEHA)72.7g、メチルエチルケトン500g、ジペンタエリスリトールヘキサキスチオグリコレート(DPEHG)526.8gを加え、実施例1と同様にしてマイケル付加反応させた。なお、上記仕込み時に、DPEHA/DPEHG(官能基比)=6/6、DPEHA/DPEHG(モル比)=1/6であった。化学反応式からは、1分子平均30個のメルカプト基が放射状に伸びた化合物が生成するはずであるが、同定できなかった。この化合物を実施例6の有機スルフィド化合物(1)に代えて反応を行い、GPCで測定した重量平均分子量Mw^(GPC )に対するGPC-LALLSで測定した重量平均分子量Mw^(LALLS)の比率(Mw^(LALLS)/Mw^(GPC ))が6.5である重合体を得た。また、実施例6の経験式から、計算上の枝分かれ数fは19であった。
(実施例8)実施例1と同様の反応容器に、スチレン160g、ブチルアクリレート40gおよび実施例1で得られた有機スルフィド化合物(1)27gを加え、窒素雰囲気下、反応混合物を攪拌しながら80℃まで昇温した。反応混合物の温度が安定した後、AIBN(アゾビスブチロニトリル)2gを反応混合物に投入した。5時間攪拌した後、冷却して重合を終了した。その間、反応混合物の温度は80℃±5℃以内で推移した。得られた重合体(7)の重合率は95%、Mw^(LALLS)/Mw^(GPC )は2.2であり、重合体(7)が枝分かれ構造になっていることが確認された。なお、計算上の枝分かれ数は6であった。
(実施例9)…(略)…
(比較例1)実施例1と同様の反応容器に、スチレン160gおよびブチルアクリレート40gを加え、窒素雰囲気下、還流温度まで昇温した。5時間攪拌した後、冷却して重合を終了した。得られた比較重合体(1)の重合率は60%、Mw^(LALLS)/Mw^(GPC )1.0であり、比較重合体(1)が直鎖構造になっていることが確認された。
【0063】上記実施例6では、有機スルフィド化合物を用いてビニル系単量体を重合させており、比較例1よりも重合体が高収率で得られている。このことから有機スルフィド化合物が開始剤として有用であることがわかる。」

カ 「【0065】
【発明の効果】本発明にかかる有機スルフィド化合物は、ビニル系単量体を温和に重合させ、高収率で重合体を製造する等の目的に用いることができ、新規な化合物である。本発明にかかる重合開始剤および連鎖移動剤は、上記有機スルフィド化合物を必須成分とするため、ビニル系単量体を温和に重合させ、高収率で重合体を製造するのに用いられる。
【0066】本発明にかかるビニル系単量体の重合方法は、ビニル系単量体を温和に重合させ、高収率で重合体を得させることができる。本発明にかかる重合体は、GPC-LALLSで測定した重量平均分子量Mw^(LALLS )とGPCで測定した重量平均分子量Mw^(GPC )との比(Mw^(LALLS )/Mw^(GPC ))が3.0以上であり、高度に枝分かれしている。」

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「接着シート」は、「『基材の表面に半導体チップを圧着により搭載する際に』、『基材及び半導体チップの表面における凹部に』『接着層を埋め込むことが可能な接着シート』」であるから、「『半導体チップ』を基材に接着するために用いる『シート』」であるといえる。また、該「半導体チップ」及び「シート」は、それぞれ「ダイ」及び「フィルム」に対応するから、引用発明の「接着シート」は、「『ダイ』を基材に接着するために用いる『フィルム』」に相当する。
よって、引用発明の「接着シート」は、本願発明の「ダイボンドフィルム」に相当する。

イ 引用発明は、「『(b)高分子量成分として』、『アクリルゴムを使用する』」から、引用発明の「(b)高分子量成分」は、本願発明の「共重合体」に相当する。

ウ また、引用発明では、「該接着シートは接着層から構成され」、「前記接着層」は、「(a)熱硬化性成分と、(b)高分子量成分と、(c)フィラーとを含有する接着剤組成物をシート状に成形したもの」であり、「(a)熱硬化成分として、エポキシ樹脂及びその硬化剤を主成分とするものを使用」するから、本願発明と引用発明とは、「エポキシ樹脂と、硬化剤と、フィラーとを含有する」点で一致する。

エ 引用発明では、「『(b)高分子量成分として』、『ガラス転移温度Tgが-50?+50℃である、アクリルゴムを使用』」し、「ガラス転移温度Tg」は本願発明の「ガラス転移点」に相当するから、本願発明と引用発明とは、「前記共重合体のガラス転移点が50℃以下である」点で一致する。

以上をまとめると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「共重合体と、エポキシ樹脂と、硬化剤と、フィラーとを含有するダイボンドフィルムであって、
前記共重合体のガラス転移点が50℃以下であるダイボンドフィルム。」

<相違点>
共重合体について、本願発明は、「少なくとも3つの重合鎖が放射状に伸びる星型構造を有する」ものであるのに対し、引用発明の「(b)高分子量成分」では、そのような特定はなされていない点。

(2)判断
ア 相違点について
(ア)上記「2(3)引用例2」の摘記事項「オ」の段落【0051】には、実施例1において、「トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)59.2g、メチルエチルケトン600g、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート(PETG)259.2g」を用いて有機スルフィド化合物(1)を得ること、得られた「有機スルフィド化合物(1)」の化学構造は、「TMPTA1個とPETG3個とが反応した生成物であり、TMPTAのすべての炭素-炭素2重結合に対して、PETGのSH基がマイケル付加した」構造である旨が記載されている。
引用例2の上記摘記事項、並びに上記「2(3)引用例2」の摘記事項「エ」の段落【0015】、【0016】、【0018】を勘案すると、「有機スルフィド化合物(1)」は、多価ビニル系化合物である「TMPTA1個」と多価メルカプタンである「PETG3個」とが反応した生成物であるから、3官能の化合物である。

また、当該摘記事項「オ」の段落【0061】、【0062】には、実施例6において、「スチレン160g、ブチルアクリレート40gおよび実施例1で得られた有機スルフィド化合物(1)27g」を使用して、重合体(6)を得ること、「重合体(6)」は、「枝分かれ構造」になっている旨が記載されている。

したがって、引用例2のこれらの上記摘記事項、並びに上記「2(3)引用例2」の摘記事項「エ」の段落【0048】及び技術常識を勘案すると、実施例6で得られた「重合体(6)」は、「3官能の化合物である『有機スルフィド化合物(1)』」を重合開始剤として用い、「スチレン」と「ブチルアクリレート」のビニル系単量体をラジカル重合させて得た「共重合体」であることは明らかであるから、「『少なくとも3つの重合鎖』が伸びる『枝分かれ構造』になっており、『少なくとも3つの重合鎖が放射状に伸びる星型構造を有する共重合体』」であるといえる。

(イ)また、スター型ポリマー(星型重合体)は、同じ分子量の直鎖状ポリマーに比べて、分子構造がコンパクトであることに起因して、低い粘性を示すことは、下記の周知例1には以下のように記載されており、さらに、上記「2(3)引用例2」の摘記事項「エ」の段落【0049】には、「この星型重合体は、多くの枝分かれ構造を有し、同一組成、同一分子量の直鎖状の重合体と比較して、引張強さおよび弾性率が低下することなく、低粘度で、凝集力が高くなる。」と記載されているように、周知の技術事項である。

(a)周知例1:特開平6-199952号公報
・「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、フィルム、シート、成形物、塗料用樹脂、接着剤、コーティング剤、分散剤等に用いることのできる特定の構造を有するポリマーとその製造方法に関する。」

・【0006】
【課題を解決するための手段】この発明は、3官能以上の多官能チオールを核として、この核に対しスルフィド結合により結合した枝を有し、前記枝の数平均分子量が1000?100000であり、ポリマーとしての重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が5以下であるスター型ポリマーとその製造方法に関する。
【0007】枝の数平均分子量は1000?100000であることが好ましい。1000未満では、スター型ポリマーの特徴である粘度低減効果において、直鎖状ポリマーとの優位差があまりない。100000超では、枝の絡み合いが増えて粘度が大きくなってしまう。
(1)枝構成成分
枝構成成分となるものとしては、重合性を有するビニル系モノマーが用いられる。具体的には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸とそのエステル;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族系ビニルモノマー;マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸とそのエステル;(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル等のビニル化合物;等が挙げられる。以上のモノマーを単独重合してもよく、共重合してもよい。
【0008】
枝の中に、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、スルホン酸基、シリル基、アリル基のうちの少なくとも1種類の官能基を有するようにするために前記ビニル系モノマーと共重合させる官能性モノマーとしては、アクリル酸、メタアクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、マレイン酸、フマル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アリル(メタ)アクリレート、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。ビニル系モノマーを0.1?99.9重量部、官能性モノマーを残部として用いればよい。
(2)多官能チオール
この発明に開始剤として用いる3官能以上の多官能チオールとしては、トリメチロールプロパン(トリス)チオグリコレート、トリメチロールプロパン(トリス)β-チオプロピオネート、ペンタエリスリトール(テトラキス)チオグリコレート、ペンタエリスリトール(テトラキス)β-チオプロピオネート等が挙げられる。」

・「【0013】
【作用】チオールが金属塩あるいは金属錯体により一電子酸化されてチイルラジカルを生じ、そこから重合性の二重結合をもつモノマーを重合させることができる。これにより、多官能チオールを開始剤としてラジカル重合で一段階でスター型ポリマーを合成できる。」

・「【0027】実施例2で合成した4本のポリメタクリル酸メチルの枝を持つスター型ポリマーGと、光錯乱法で求めた絶対分子量がポリマーGとほぼ等しい直鎖状ポリマーDとで、フローテスターによる溶融粘性特性を比較した。図3にみるように、ポリマーGのほうが低い粘性を示した。これは、スター型ポリマーは同じ分子量の直鎖状ポリマーに比べて、分子構造がコンパクトであるということに起因している。
【0028】
【発明の効果】この発明によれば、工業的に有利なラジカル重合法により、フィルム、シート、成形物、塗料用樹脂、接着剤、コーティング剤、分散剤等に用いることのできるスター型ポリマーを一段階で製造できる。」

(ウ)一方、星型重合体の用途について、上記周知例1の段落【0001】、【0028】に上記のように記載されており、さらに、上記「2(3)引用例2」の摘記事項「エ」の段落【0050】には、「この星型重合体は、高分子量、高い凝集力を有しながら、低粘度で使用できるため、作業性がよく、熱可塑性樹脂、塗料、接着剤、粘着剤等の各種用途に好ましく使用でき、大変有用である。」と記載されているように、星型重合体を接着剤に使用できることも周知の技術事項である。

(エ)他方、上記「2(1)引用例1」の摘記事項「ウ」の段落【0015】及び【0021】には、「接着シート」(ダイボンドフィルム)を構成する「接着剤組成物」について、「本発明の接着剤組成物が、従来よりも低粘度である」と記載されており、段落【0069】には、接着層2の硬化前の溶融粘度は、「『(b)高分子量成分の分子量分布』の調整」などにより好ましい数値範囲内に収めることができる旨が記載されている。
すると、引用例1には、接着層の接着剤組成物の溶融粘度を、「『高分子量成分』の分子の大きさのばらつき」の調整により好ましい数値範囲内に収めることができる旨は開示されているものの、「『高分子量成分』自体」を調整することは開示されていない。

しかしながら、上記(イ)に記載したように、スター型ポリマー(星型重合体)は、同じ分子量の直鎖状ポリマーに比べて、分子構造がコンパクトであることに起因して、低い粘性を示すことは、周知例1及び引用例2に記載されているように、周知の技術事項であり、上記(ウ)に記載したように、星型重合体の用途として、接着剤に使用できることも、周知例1及び引用例2に記載されているように周知の技術事項であるから、引用発明において、「(b)高分子量成分」を星型重合体とすることにより、接着剤組成物を低粘度のものとすることができることは、周知例1及び引用例2に接した当業者であれば、当然察知し得たことと認められるので、引用発明において、「(b)高分子量成分」自体を調整する動機付けは十分にあるものと認められる。

(オ)したがって、引用発明において、「接着剤組成物」をより低粘度とするために、「(b)高分子量成分」(共重合体)として、周知技術を勘案することにより、引用例2に記載のような「少なくとも3つの重合鎖が放射状に伸びる星型構造を有する共重合体」を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

イ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は、審判請求書の請求の理由として、平成25年9月18日に提出された手続補正書にて、本願発明の課題は、ダイボンドフィルムにおける高流動性と高信頼性とを両立することであるが、(A)(1)いずれの引用例に係る発明も、高流動性と高信頼性とを両立するという課題は開示も示唆もされていないこと、(2)本願明細書の段落[0004]の記載から、従来においては、単に低粘度化(高流動性)を追求するのみでは、それとトレードオフの関係にある高信頼性を実現することは不可能であること、及び(3)引用例1には、高分子量成分として低粘度のものを用いて接着シート全体の粘度を低下させることについては記載されていないことから、引用例1に係る発明において、高流動性のみを追求して低粘度の高分子量成分を用いる契機すらなく、まして高流動性と高信頼性との両立を図ることを目的として、アクリルゴムの代わりに引用例2に係る星型重合体を用いる契機がないこと、(B)仮に、引用例1に係る発明において、アクリルゴムの代わりに引用例2に係る星型共重合体を用いる場合、星型重合体は低粘度であるが故に高流動性の効果は予期することができるものの、本願発明は、出願当時の技術水準から当業者が予測することができない高信頼性という異質な効果を奏すること、並びに(C)「引用例2の実施例6で合成した星型共重合体のTgは54℃となり、これは補正後の本願発明に係る共重合体のTgの範囲外」であり、引用例1に、高分子量成分のTgが-50?+50℃である旨記載されていたとしても、それは星型でない共重合体のTgについてであり、そのTgの範囲が星型共重合体のTgとしても妥当するか否かは自明ではないため、引用例1と引用例2とを組み合わせて直ちに本願発明に至るものではない旨を主張された。

(イ)しかしながら、上記(A)の主張について、本願の明細書の段落【0004】には、「ダイボンドフィルムの特性としては、…(略)…、埋込性、信頼性(耐リフロー性)などが要求される。」と記載されている。
他方、上記「2(1)引用例1」の摘記事項「エ」の段落【0047】には、「高分子量成分」の重量平均分子量について、「分子量が10万未満であると接着層の硬化後の耐熱性及び接着力が低下する傾向があり、分子量が120万を超えると接着層の流動性が低下する傾向がある」と記載されており、当該摘記事項「エ」の段落【0086】には、「本実施形態に係る接着シート10は、配線回路等に起因して形成された凹凸表面の凹部充填性が良好である。…(略)…本実施形態に係る接着シート10は、半導体素子搭載用の基材に半導体チップを実装する場合に必要な耐熱性、耐湿性、絶縁性を有し」と記載されており、上記「2(1)引用例1」の摘記事項「カ」の段落【0122】には、「接着層の耐リフロー性を評価し、実施例の方が比較例よりも粘度、タック性、接着強度及び耐リフロー性にバランスよく優れていることが判明した。」と記載されている。
したがって、引用例1には、「高流動性と高信頼性(耐リフロー性)とを両立するという課題」は開示ないし示唆されており、しかも、「高分子量成分」の分子量が所定値未満であると硬化後の耐熱性が低下してしまうことも示唆されているといえる。

さらに、上記「ア」?「エ」で検討したとおり、引用発明において、接着剤組成物の粘度を低粘度のものとするために、「(b)高分子量成分」自体を調整する動機付けは十分にあるものと認められる。

(ウ)次に、上記(B)の主張について、上記「2(3)引用例2」の摘記事項「エ」の段落【0050】に、星型重合体は、「高分子量、高い凝集力を有しながら、低粘度で使用できる」ものである旨記載されており、上記「ア 相違点について」の「(イ)(a)周知例1」の段落【0027】には、スター型ポリマーは同じ分子量の直鎖状ポリマーに比べて、分子構造がコンパクトであるということに起因して、低い粘性を示す旨が記載されているから、引用発明において、「(b)高分子量成分」として、引用例2に記載の「星型重合体」を採用した結果、粘度を低下させ、かつ、低分子量化しないで済むので硬化後の耐熱性も低下しないものとなることも、予測できるものと認められるので、引用発明と引用例2に記載の技術の組合せにより奏される効果も当業者が予測できる範囲内のものと認められる。

(エ)次に、上記(C)の主張について、「共重合体」のガラス転移点の温度は、ガラス状態からゴム状態に転移する温度であり、ダイボンドフィルムの接着層の柔軟性を規定するものであるから、引用発明において、「(b)高分子量成分」として、引用例2に記載のような「多くの枝分かれ構造」を有し、「少なくとも3つの重合鎖が放射状に伸びる星型構造を有する共重合体」を採用するに際し、「星型構造を有する『共重合体』」のガラス転移点の温度を、ダイボンドフィルムの接着層の柔軟性が所望の程度となるようにすることは当然である。
さらに、共重合体のガラス転移点の温度Tgは、例えば、各モノマーのホモポリマーのガラス転移点の温度と各モノマーの重量分率とから、FOX式を用いて求めることができることは技術常識であり、そして、引用例2の実施例6におけるモノマーであるスチレンとブチルアルコールそれぞれのガラス転移点の温度は、ブチルアルコールの方がスチレンより低いので、実施例6において、ブチルアルコールの重量分率を増やすことにより、スチレン160g、ブチルアルコール40g使用して得られた実施例6の重合体に比べて、ガラス転移点の温度を低く調整することができることも明らかである。
そして、引用例1には、高分子量成分のガラス転移点Tgが-50?+50℃である旨記載されているのだから、引用発明において、「(b)高分子量成分」として、引用例2に記載のような「多くの枝分かれ構造」を有し、「少なくとも3つの重合鎖が放射状に伸びる星型構造を有する共重合体」を採用するに際し、当該「星型構造を有する共重合体」として、そのガラス転移点の温度を、本願発明のように「50℃以下」であるものを採用することに格別の困難性は認められず、請求人の上記主張を採用することはできない。

ウ 判断についてのまとめ
以上のとおりであるから、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の構成を採用することは、引用例2及び周知例1に接した当業者であれば容易になし得たことである。
したがって、本願発明は、引用発明、並びに引用例2に記載の技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-03-17 
結審通知日 2014-03-18 
審決日 2014-03-31 
出願番号 特願2008-73903(P2008-73903)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水野 浩之  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 恩田 春香
西脇 博志
発明の名称 ダイボンドフィルム  
代理人 三好 秀和  
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