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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1287836
審判番号 不服2013-16686  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-29 
確定日 2014-05-15 
事件の表示 特願2009- 47535「接合方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月16日出願公開、特開2010-201441〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成21年3月2日の特許出願であって、同24年12月3日付けで拒絶の理由が通知され、同25年1月31日に意見書とともに手続補正書が提出され、特許請求の範囲及び明細書について補正がなされたが、同25年5月27日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成25年8月29日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がされるとともに手続補正書が提出され、特許請求の範囲及び明細書についてさらに補正がなされた。その後、当審からの平成25年11月18日付け審尋に対して、同25年12月26日に回答書が提出されたものである。
第2 平成25年8月29日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年8月29日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
平成25年8月29日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成25年1月31日付けで補正された特許請求の範囲及び明細書をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)<補正前の請求項1>
「【請求項1】
一対の金属部材の突合部に、前記金属部材の表面よりも盛り上がった肉盛部を肉盛溶接によって形成して前記突合部を接合する仮接合工程と、前記突合部に対して摩擦攪拌用回転ツールによって摩擦攪拌を行って前記金属部材同士を接合する本接合工程と、を含む接合方法であって、
前記摩擦攪拌用回転ツールは、柱状のショルダ部と、このショルダ部の底面中央に突設された攪拌ピンとを備え、
前記本接合工程では、前記ショルダ部の下端面を前記金属部材の表面よりも下方に押し込み、前記ショルダ部の外周面で前記摩擦攪拌用回転ツールの進行方向前側に形成された前記肉盛部及び前記金属部材の表層を剥ぎ取りながら前記突合部に対して摩擦攪拌接合を行うことを特徴とする接合方法。」

(2)<補正後の請求項1>
「【請求項1】
一対の金属部材の突合部に、前記金属部材の表面よりも盛り上がった肉盛部を肉盛溶接によって形成して前記突合部を接合する仮接合工程と、前記突合部に対して摩擦攪拌用回転ツールによって摩擦攪拌を行って前記金属部材同士を接合する本接合工程と、を含む接合方法であって、
前記摩擦攪拌用回転ツールは、柱状のショルダ部と、このショルダ部の底面中央に突設された攪拌ピンとを備え、
前記本接合工程では、前記ショルダ部の下端面を前記金属部材の表面よりも0.5?1.0mm下方に押し込み、前記ショルダ部の外周面で前記摩擦攪拌用回転ツールの進行方向前側に形成された前記肉盛部及び前記金属部材の表層を剥ぎ取りながら前記突合部に対して摩擦攪拌接合を行うことを特徴とする接合方法。」

2 補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、補正前の請求項1の「ショルダ部の下端面を前記金属部材の表面よりも下方に押し込」むことについて、「0.5?1.0mm下方に押し込」むと限定的に減縮するものである。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち独立特許要件について検討する。

(1)補正発明
補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「接合方法」であると認める。

(2)刊行物
これに対して、原審の平成24年12月3日付け拒絶の理由にも引用された、本件出願日前に頒布された刊行物である以下の文献には、以下の発明あるいは事項が記載されていると認められる。

刊行物1:特開2003-164977号公報(原審の引用文献1)
刊行物2:特開2003-225778号公報(原審の引用文献2)

(2-1)刊行物1
ア 刊行物1に記載された事項
刊行物1には、「摩擦攪拌接合用回転ツールおよびそれを用いた摩擦攪拌接合方法」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は理解の便のため、当審で付したものである。

(ア)特許請求の範囲の請求項2及び請求項3
「【請求項2】 突き合わせ部分が余盛仮付け溶接された2つの被接合材を、切り刃によって前記余盛を除去しながら同時に摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合方法であって、
前記切り刃によって前記余盛を除去しながら同時に摩擦攪拌接合する際に、少なくとも前記切り刃およびその付近を不活性ガスの雰囲気にすることを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項3】 前記切り刃は、前記摩擦攪拌接合用回転ツールに設けられたものである請求項2記載の摩擦攪拌接合方法。」

(イ)「【0004】ところで、前記2つの被接合材が摩擦攪拌接合中に位置がずれないように、前記摩擦攪拌接合に先立って、2つの被接合材の被接合部分を突き合わせ、その突き合わせ部分を一定間隔毎に余盛仮付け溶接し、余盛により仮付けした状態で摩擦攪拌接合するのが一般的である。」

(ウ)「【0029】本発明に係る摩擦攪拌接合装置1は、図1に示すように、接合予定の被接合材W1,W2を載置する平坦なベッド2の長手方向に沿って門形フレーム3が走行可能に配設されている。・・・(中略)・・・
【0030】前記接合ヘッド5は、上部にモータ(図示せず)を有し、下端部には、前記モータによって回転駆動される摩擦攪拌接合用回転ツール11が回転可能に支承されている。
【0031】前記回転ツール11は、図2および図3に示すように、円柱状のツール本体12の下端部に下向きに先細のテーパ部13が連設され、そのテーパ部13の下端部に円柱状のショルダ部14が連設され、そのショルダ部14の先端面の中心部より下方にピン15が突出している。また、ツール本体12の基端部が、接合ヘッド5のチャック手段22(図4参照)に着脱可能にクランプされている。」

(エ)「【0032】また、前記ショルダ部14からテーパー部13にかけて、具体的にはショルダ部14の上端(当審注:「下端」の誤記)からテーパー部13の上部まで、余盛Sを除去する2つの切り刃11Aが対称な位置関係で形成され、前記余盛Sを除去しながら同時に接合することを可能としている。そのような余盛Sを除去する切り刃11Aを、ショルダ部14からテーパー部13にかけて形成しているので、従来の回転ツールの基本形状を変更することなく、余盛Sを除去する切り刃11Aを簡単に設けることができる。それに加えて、前記回転ツール11には、2つ(複数個)の切り刃11Aが対称に設けられるので、余盛Sの除去が複数の切り刃11Aによってバランスよく行われる。」

(オ)「【0033】そして、切り刃11Aの先端がショルダ部14の先端面と一致しているので、摩擦攪拌接合するために前記用回転ツール11のピン15を、突き合わせ部分に所定深さまで挿入して、回転ツール11を回転させながら移動させる際に、切り刃11Aによって被接合材W1,W2の表面を傷つけるおそれがない。」

(カ)「【0035】なお、前記回転ツール11は、被接合材W1,W2(例えばアルミ合金)よりも硬質で剛性の高い材料で形成されている。
【0036】上記被接合材W1,W2は、ベッド2上に長手方向に沿って載置されるが、被接合材W1,W2の長辺を突き合わせた状態で、治具(図示せず)にて固定されている。なお、被接合材W1,W2は、突き合わせ部分が一定間隔でもって余盛S(図4参照)にて余盛仮付け溶接されている。この余盛仮付け溶接は、被接合材W1,W2の材質に近い材料からなる溶接材を用いて行われる。また、被接合材W1,W2の両端は、2枚のタブ板j,j(捨て板)が溶接により固着され、そのタブ板j,jの突き合わせ部分も溶接により固着されている。」

(キ)「【0041】上記装置によれば、図6に示すように、前記ピン15が突き合わせ部分に所定の深さまで挿入された状態で回転することにより、2つの切り刃11Aによる余盛Sの除去と同時に、ピン15およびショルダ部14の摺接による摩擦熱で温度が上昇し、ピン15の回転で攪拌された金属が被接合材W1,W2の間で塑性流動する。」

(ク)「【0042】そして、摩擦攪拌接合用回転ツール11が、余盛Sを除去する切り刃11Aを備えているので、図5に示すように、摩擦攪拌接合用回転ツール11を前記突き合わせ部分に沿って回転させながら移動させることで、前記切り刃11Aにより余盛Sを除去しながら移動することになる。なお、回転ツール11の回転により摩擦攪拌接合されているときには、余盛Sによる仮付け強度は維持されている。そして、摩擦攪拌接合用回転ツール11の切り刃11Aにて、余盛Sを除去しながら、同時に摩擦攪拌接合されるので、摩擦攪拌接合の前後において余盛Sに対し何らかの処理を行うという必要がなくなる。よって、摩擦攪拌接合の前後において余盛Sに対し何らかの処理を行うという必要がなく、切り刃11Aの焼き付きも生じないので、接合作業に要する時間も短縮され、作業効率も著しく向上する。
【0043】また、切り刃11Aの根元部付近の開孔21aを通じて不活性ガスが切り刃11Aおよびその付近に吹き出されるので、切り刃11Aの根元部から先端部およびその付近まで不活性ガスが一様に供給され、不活性ガスの雰囲気が生成されている。よって、切り刃11Aによる余盛の除去が、空気中ではなく、不活性ガスの雰囲気中で行われることとなり、切り刃11Aの焼き付きが防止される。」

(ケ)図5及び図6
以下に示す図5及び図6を、上記摘記事項(カ)に照らして合理的に解釈すれば、被接合材W1,W2の表面よりも盛り上がった余盛Sを余盛仮付け溶接によって形成することによって突き合わせ部分を仮付けしていることが認められる。


イ 刊行物1に記載の発明
上記摘記事項(キ)における工程は、摘記事項(カ)における「余盛仮付け溶接」の工程後、金属を塑性流動させて摩擦攪拌接合するものであるから、本接合工程、ということができる。

そこで、上記摘記事項(ア)ないし(ク)及び認定事項(ケ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて補正発明に照らして整理すると刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。
「アルミ合金である被接合材W1,W2の突き合わせ部分に、前記被接合材W1,W2の表面よりも盛り上がった余盛Sを余盛仮付け溶接によって形成して前記突き合わせ部分を接合する仮付け工程と、前記突き合わせ部分に対して摩擦攪拌接合用回転ツール11によって摩擦攪拌を行って前記被接合材W1,W2同士を接合する本接合工程と、を含む接合方法であって、
前記摩擦攪拌接合用回転ツール11は、円柱状のショルダ部14と、このショルダ部14の先端面の中心部より突出したピン15とを備え、
前記本接合工程では、前記摩擦攪拌接合用回転ツール11のショルダ部14に設けられ、先端がショルダ部14の先端面と一致している切り刃11Aで前記摩擦攪拌接合用回転ツール11の進行方向前側に形成された前記余盛Sを除去しながら前記突き合わせ部分に対して摩擦攪拌接合を行う接合方法。」

(2-2)刊行物2
ア 刊行物2に記載された事項
刊行物2には、「摩擦撹拌接合方法」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は理解の便のため、当審で付したものである。

(ア)特許請求の範囲の請求項3及び請求項4
「【請求項3】 接合部表面に酸化膜層、異種金属層、塗料層等の表皮層が形成されている被接合材の前記接合部に沿って摩擦撹拌ツールを回転させつつ移動させることにより前記接合部を摩擦撹拌接合する方法であって、
前記摩擦撹拌ツールは柱状のツール本体と、このツール本体の底面に突設された撹拌ピンと、この撹拌ピンの周囲を取り囲むように前記底面に渦巻き状に突設された撹拌用突条体とを備え、前記撹拌ピン、前記撹拌用突条体および前記ツール本体の下部を接合部内に略垂直に挿入し、前記ツール本体の前記接合部内に挿入されている下端部外周面でツールの進行方向の前側の接合部表面を覆っている前記表皮層を剥ぎ取りながら前記接合部を摩擦撹拌接合するすることを特徴とする摩擦撹拌接合方法。
【請求項4】 請求項1,2または3記載の摩擦撹拌接合方法において、
摩擦撹拌ツールの最外周面の被接合材への押込量が0.05?0.5mmであることを特徴とする摩擦撹拌接合方法。」

(イ)「【0025】図3は第2の発明に係る摩擦撹拌接合方法を示す平面図、図4は摩擦撹拌ツールの使用状態を示す断面図である。これらの図において、アルミニウム合金の押出形材によって矩形板状に形成された被接合材30,31は、その長手方向の一端面が互いに突き合わされることにより、この突き合わせ側端縁とその付近が摩擦撹拌される接合部32を形成し、突き合わせ面が接合面32Aを形成している。また、被接合材30,31の表面には、厚さが0.1mm程度のZn層33が形成されている。一方、被接合材30,31の裏面側には、銅からなる裏当て34が接合部32に沿って密接されている。
【0026】前記被接合材30,31の接合面32Aを摩擦撹拌接合するために用いられる摩擦撹拌ツール40は、図7および図8に示した従来のスクロールツール20と同一形状に形成されることにより、円柱状のツール本体40Aと、このツール本体40Aの底面41の中央に一体に突設された撹拌ピン40Bと、同じく前記底面41に前記撹拌ピン40Bの周囲を取り囲むように渦巻き状に一体に突設された撹拌用突条体40Cとで構成されている。ツール本体40Aの底面41は平坦面に形成されている。撹拌ピン40Bは、被接合材30,31の板厚と略等しい長さを有し、外周に雄ねじ42が形成されている。撹拌用突条体40Cは、前記撹拌ピン40Bより低く形成されている。」

(ウ)「【0027】このような摩擦撹拌ツール40を用いて被接合材30,31の接合面32Aを摩擦撹拌接合するには、摩擦撹拌ツール40をモータによって500?10000rpm程度の回転数で回転させながら撹拌ピン40Bを接合面32A上に位置させて接合部32の表面に押し付け、摩擦熱によって接合部32の撹拌ピン40Bによって押し付けられている表面部分およびその近傍を加熱、可塑化させ、撹拌ピン40Bと撹拌用突条体40Cを接合部32内に徐々に押し込む。ツール本体40Aが接合部32の表面に押し込まれる量(押込量)は、Zn層33を確実に剥ぎ取ることができる量で、必要以上に押し込み量を大きくすると、被接合材の厚さが必要以上に薄くなり、また摩擦撹拌接合を円滑に行えなくなることがあるため好ましくない。また、摩擦撹拌ツール40は、底面41の全面が接合部32の表面を均一に押圧するように接合部32の表面に対して略垂直に押し込まれる。」

(エ)「【0029】摩擦撹拌ツール40を矢印A方向に移動させると、ツール本体40Aは下端部が接合部32に押し込まれているので、下端部外周面によってツール前方側のZn層33を剥ぎ取る。すなわち、この第2の発明は、最外周面であるツール本体40Aの下端部外周面で表皮層33を剥ぎ取るものであるから、この点で図7および図8に示した従来のスクロールツール20による摩擦撹拌接合方法と異なっている。ツール本体40Aの下端部外周面によって剥ぎ取られたZn層33は、ツール本体40Aの底面41が接合部32の表面を押圧しているため、底面41と接合部32の表面との間に入り込むことがなく、可塑化したメタルMに混入することがない。したがって、上記した第1の実施の形態と同様に摩擦撹拌接合された接合部32の表面に、剥ぎ取られたZn層33が混入することがなく、良好かつ確実に接合することができ、接合部32の外観、耐食性および接合強度を増大させることができる。」

イ 刊行物2事項
刊行物2の上記摘記事項(ア)ないし(エ)を図面(特に図3及び図4)を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、刊行物2には以下の事項(以下、「刊行物2事項」という。)が記載されていると認められる。
「一対の被接合材の突き合わせ面に対して摩擦攪拌用回転ツール40によって摩擦攪拌を行って前記被接合材同士を接合する接合工程であって、
前記摩擦撹拌ツール40は、円柱状のツール本体40Aと、このツール本体40Aの底面41の中央に突設された撹拌ピン40Bとを備え、
前記接合工程では、前記ツール本体40Aの被接合材への押込量が0.05?0.5mmであり、前記ツール本体40Aの外周面で前記摩擦撹拌ツール40の進行方向前側に形成された表皮層を確実に剥ぎ取りながら前記突き合わせ面に対して摩擦攪拌接合を行うこと。」

(3)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。
刊行物1発明の「アルミ合金である被接合材W1,W2」は、補正発明の「一対の金属部材」に相当することは、その機能及び技術常識に照らして明らかであり、以下同様にそれぞれの機能を踏まえれば、「突き合わせ部分」は「突合部」に、「被接合材W1,W2」は「金属部材」に、「余盛S」は「肉盛部」に、「余盛仮付け溶接」は「肉盛溶接」に、「仮付け工程」は「仮接合工程」に、「摩擦攪拌接合用回転ツール11」は「摩擦攪拌用回転ツール」に、「円柱状の」「ショルダ部14」は「柱状の」「ショルダ部」に、「先端面の中心部より突出した」は「底面中央に突設された」に、「ピン15」は「攪拌ピン」に、「除去しながら」は「剥ぎ取りながら」に相当することも明らかである。
また、刊行物1発明の「摩擦攪拌接合用回転ツール11のショルダ部14に設けられ、先端がショルダ部14の先端面と一致している切り刃11Aで前記摩擦攪拌用回転ツール11の進行方向前側に形成された前記余盛Sを除去」することは、上記対比を踏まえ、「摩擦攪拌用回転ツールのショルダ部に設けられ、先端がショルダ部の先端面と一致している切り刃11Aで前記摩擦攪拌用回転ツールの進行方向前側に形成された前記肉盛部を剥ぎ取」ることと言い換えられるところ、これは、補正発明の「ショルダ部の下端面を前記金属部材の表面よりも0.5?1.0mm下方に押し込み、前記ショルダ部の外周面で前記摩擦攪拌用回転ツールの進行方向前側に形成された前記肉盛部及び前記金属部材の表層を剥ぎ取」ることと、「ショルダ部を利用して前記摩擦攪拌用回転ツールの進行方向前側に形成された前記肉盛部を剥ぎ取」、ることである限りにおいて共通する。

したがって、補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「一対の金属部材の突合部に、前記金属部材の表面よりも盛り上がった肉盛部を肉盛溶接によって形成して前記突合部を接合する仮接合工程と、前記突合部に対して摩擦攪拌用回転ツールによって摩擦攪拌を行って前記金属部材同士を接合する本接合工程と、を含む接合方法であって、
前記摩擦攪拌用回転ツールは、柱状のショルダ部と、このショルダ部の底面中央に突設された攪拌ピンとを備え、
前記本接合工程では、前記ショルダ部を利用して前記摩擦攪拌用回転ツールの進行方向前側に形成された前記肉盛部を剥ぎ取りながら前記突合部に対して摩擦攪拌接合を行う接合方法。」

そして、補正発明と刊行物1発明とは、以下の2点で相違している。
<相違点1>
ショルダ部を利用して肉盛部等を剥ぎ取ることに関し、補正発明においては、ショルダ部の外周面で剥ぎ取るのに対し、刊行物1発明においては、先端がショルダ部14の先端面と一致している切り刃11Aで除去する(剥ぎ取る)点。
<相違点2>
摩擦攪拌用回転ツールの進行方向前側に形成された肉盛部を剥ぎ取ることに関し、補正発明は、ショルダ部の下端面を金属部材の表面よりも0.5?1.0mm下方に押し込み、摩擦攪拌用回転ツールの進行方向前側に形成された肉盛部に加え金属部材の表層を剥ぎ取るものであるのに対し、刊行物1発明は、ショルダ部14の下端面を被接合材W1,W2(金属部材)の表面より下方に押し込むものではなく、余盛S(肉盛部)のみを除去するものである点。

(4)相違点1及び2の検討
ア 上記(2)(2-2)イにて指摘したように、刊行物2事項は、
「一対の被接合材の突き合わせ面に対して摩擦攪拌用回転ツール40によって摩擦攪拌を行って前記被接合材同士を接合する接合工程であって、前記摩擦撹拌ツール40は、円柱状のツール本体40Aと、このツール本体40Aの底面41の中央に突設された撹拌ピン40Bとを備え、前記接合工程では、前記ツール本体40Aの被接合材への押込量が0.05?0.5mmであり、前記ツール本体40Aの外周面で前記摩擦撹拌ツール40の進行方向前側に形成された表皮層を確実に剥ぎ取りながら前記突き合わせ面に対して摩擦攪拌接合を行うこと。」というものであるところ、これを補正発明の用語に倣って表現すれば、刊行物2事項の「突き合わせ面」は「突合部」と表現でき、以下同様に、「摩擦攪拌用回転ツール40」は「摩擦攪拌用回転ツール」と、「円柱状の」「ツール本体40A」は「柱状の」「ショルダ部」と、「底面41の中央」は「底面中央」と、「撹拌ピン40B」は「攪拌ピン」と表現できる。
また、刊行物2事項の
「ツール本体40Aの被接合材への押込量が0.05?0.5mmであり、前記ツール本体40Aの外周面で前記摩擦撹拌ツール40の進行方向前側に形成された表皮層を確実に剥ぎ取りながら」なる事項は、上記対応関係も踏まえ、
「ショルダ部の下端面を前記被接合材の表面よりも0.05?0.5mm下方に押し込み、前記ショルダ部の外周面で前記摩擦撹拌ツールの進行方向前側に形成された表皮層を確実に剥ぎ取りながら」、と表現できる。
したがって、刊行物2事項は、
「一対の被接合材の突合部に対して摩擦攪拌用回転ツールによって摩擦攪拌を行って前記被接合材同士を接合する接合工程であって、前記摩擦撹拌ツールは、柱状のショルダ部と、このショルダ部の底面中央に突設された撹拌ピンとを備え、前記接合工程では、前記ショルダ部の下端面を前記被接合材の表面よりも0.05?0.5mm下方に押し込み、前記ショルダ部の外周面で前記摩擦撹拌ツールの進行方向前側に形成された表皮層を確実に剥ぎ取りながら前記突合部に対して摩擦攪拌接合を行うこと。」と言い改めることができる。

イ ここで、刊行物1発明と刊行物2事項は、いずれも、一対の被接合材の突合部に対して摩擦攪拌用回転ツールによって摩擦攪拌を行って前記金属部材同士を接合する接合工程において、ショルダ部を利用して前記摩擦撹拌ツールの進行方向前側に形成された外層部を剥ぎ取りながら前記突合部に対して摩擦攪拌接合を行うもの、である点で共通しており、刊行物2に接した当業者がこれを刊行物1発明に適用することを試みることに格別困難性はない。
そして、刊行物1発明に刊行物2事項を適用すれば、
(ア)(相違点1に係る補正発明のように)ショルダ部の外周面で肉盛部を剥ぎ取ることとなり、
(イ)(相違点2に係る補正発明と部分的に同じく)ショルダ部の下端面を(被接合材たる)金属部材の表面よりも0.05?0.5mm下方に押し込み、摩擦撹拌ツールの進行方向前側に形成された(表皮層たる)肉盛部を確実に剥ぎ取る、こととなる。

ウ もっとも補正発明は、ショルダ部の下方押し込み量を0.5?1.0mmと大きくした点、及び肉盛部のみならず(その下の)金属部材の表層を剥ぎ取ることを特定した点で、なお刊行物2事項を適用した刊行物1発明と相違する。
これにつき検討するに、補正発明がショルダ部の下方押し込み量を0.5?1.0mmと特定していることについては、本件明細書には、「【0039】 本実施形態では、摩擦攪拌用回転ツールKの押込み量LK(金属部材1の表面12からショルダ部K1の下端面K11までの距離)は、例えば0.5mm?1.0mmに設定する。このように、ショルダ部K1の下端面K11が肉盛部Gの下端よりも下側に位置した状態で摩擦攪拌接合を行うことにより、金属部材1の表層が剥ぎ取られる。これにより、表層とともに肉盛部Gを確実に剥ぎ取ることができる。なお、押込み量LKは、肉盛部Gを剥ぎ取ることができる量(長さ)で適宜設定すればよい。」(下線は当審で付与)と記載されていることから、肉盛部を確実に剥ぎ取る程度の技術的意義しか認めることができない。そして、刊行物2事項を適用した刊行物1発明は、肉盛部を確実に剥ぎ取るものであることからすれば、ショルダ部の下方押し込み量を(刊行物2事項のような)表皮層ではなく刊行物1発明の余盛S(肉盛部)を確実に剥ぎ取るべく、0.5mm?1.0mm程度に大きくすることも、当業者が通常の創作能力の発揮によりなし得るものというべきである。
また、刊行物2事項を刊行物1発明に適用して、余盛S(肉盛部)を確実に剥ぎ取るものとした場合、余盛S(肉盛部)の下方に接する金属部材の表層も、望むと望まざるにかかわらず、少なからず剥ぎ取られることは避けられない。

エ 請求人は、「(2)引用文献1には、ショルダ部の先端面を被接合金属部材の表面よりも下方に押し込むことについては一切記載されていない。引用文献1の段落0033に『切り刃1Aの先端がショルダ部14の先端面と一致している』と記載されているように、引用発明1の切り刃1Aとショルダ部14の先端面との位置関係はこの一態様しか記載されていない。引用文献1の課題は、切り刃の焼き付きを防止することであるから、引用文献1に接した当業者であれば、ショルダ部の先端面および切り刃を被接合金属部材の表面よりも下方に押し込むとは考えない筈である。」と主張する(審判請求書の第4.の4-5.(2))。しかし、切り刃等を被接合金属部材の表面よりも下方に押し込むことは、製品たる金属部材の表面を剥ぎ取ることとなり、また切り刃等の焼き付きを惹き起こしかねないデメリットがある一方で、表面の余盛S(肉盛部)を確実に剥ぎ取るメリットがあるところ、当業者がこれらを比較衡量して、余盛S(肉盛部)を確実に剥ぎ取るメリットを優先して、敢えて被接合金属部材の表面よりも下方に押し込むことは、当業者が取り得ない選択枝ではない。
したがって、請求人の主張には理由がない。

オ そうしてみると、刊行物1発明に刊行物2事項を適用して、相違点1及び相違点2に係る補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものと解するのが相当である。

カ したがって、補正発明は、刊行物1発明及び刊行物2事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願の発明について
1 本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、平成25年1月31日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本件出願の発明」という。)は、上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「接合方法」である。

2 刊行物
これに対して、原審の拒絶の理由に引用された刊行物は、上記第2の2(2)に示した刊行物1及び刊行物2であり、その記載事項は上記第2の2(2)(2-1)及び(2-2)のとおりである。

3 対比・検討
本件出願の発明は、上記第2の2で検討した補正発明から、実質的に、「ショルダ部の下端面を前記金属部材の表面よりも0.5?1.0mm下方に押し込」むことについて、「0.5?1.0mm」という限定を削除したものである。
そうすると、本件出願の発明と刊行物1発明とは、上記第2の2(3)で示した一致点を有し、上記第2の2(3)で示した相違点1及び下記の相違点2Bにおいて相違する。
<相違点2B>
摩擦攪拌用回転ツールの進行方向前側に形成された肉盛部を剥ぎ取ることに関し、本件出願の発明は、ショルダ部の下端面を金属部材の表面よりも下方に押し込み、摩擦攪拌用回転ツールの進行方向前側に形成された肉盛部に加え金属部材の表層を剥ぎ取るものであるのに対し、刊行物1発明は、ショルダ部14の下端面を被接合材W1,W2(金属部材)の表面より下方に押し込むものではなく、余盛S(肉盛部)のみを除去するものである点。

そして、相違点1及び相違点2Bについては、上記第2の2(3)で示した、下方への押し込み量を特定した相違点2が想到容易である以上、下方への押し込み量を特定していない相違点2Bも想到容易ということになる。
したがって、本件出願の発明は、刊行物1発明及び刊行物2事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということになる。

4 むすび
以上により、本件出願の発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-03-12 
結審通知日 2014-03-18 
審決日 2014-03-31 
出願番号 特願2009-47535(P2009-47535)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B23K)
P 1 8・ 121- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 公一  
特許庁審判長 石川 好文
特許庁審判官 長屋 陽二郎
刈間 宏信
発明の名称 接合方法  
復代理人 町田 能章  
復代理人 多田 悦夫  
代理人 磯野 道造  

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