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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  B23D
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23D
管理番号 1287847
審判番号 無効2013-800026  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-02-19 
確定日 2014-05-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第4354006号発明「端面加工装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯及び本件発明

1.手続の経緯
本件特許第4354006号の請求項1ないし7に係る発明についての手続の経緯は、以下のとおりである。
平成19年 3月14日 特願2007-65247号出願
平成20年11月26日 上記出願の一部を新たな出願(特願2008-300803号)として出願
平成21年 8月 7日 特許第4354006号の設定登録
平成25年 2月19日 本件審判請求書提出(請求人)
平成25年 5月10日 審判事件答弁書提出(被請求人)
平成25年 6月 3日 審理事項通知
平成25年 7月 1日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成25年 7月 4日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成25年 7月18日 口頭審理 平成25年8月31日まで審判事件の手続を中止
平成25年 7月22日 上申書提出(被請求人)
平成25年 9月 4日 審判事件の手続中止を解除


2.本件特許発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたとおりのものであるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)を構成要件に分説して記載すると、以下のとおりである。

「A.母材(Mf)のボルト取付孔(Mh)を貫通し、そしてナット(2)で固定されたトルシアボルト(1)の破断面(1c)に生じたバリ(1d)を除去するための端面加工装置において、
B.バリ除去用工具(10、10CA?10CK)と、
C.そのバリ除去用工具(10、10CA?10CK)を回転する回転機構(R、14、70)と、
D.円筒状のフード部(12、12A、12B)とを備え、
E.その円筒状のフード部(12、12A、12B)は金属粉収集機構(12H、16、19A、19B)を有しており、
F.バリ除去用工具(10、10CA?10CK)は破断面(1c)のコーナー部(E)にエッジを形成しないように、破断面(1c)のコーナー部(E)を加工する部分(102C、103C、104C、41a、42a、43)は、コーナー部(E)以外の破断面(1c)を加工する部分(101C、104C、41b、42b、43)よりも、母材(Mf)に近い側に位置している
G.ことを特徴とする端面加工装置。」


第2.当事者の主張

1.請求人の主張する請求の趣旨及び理由
請求人は、本件特許発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その請求の理由は、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、同項の規定により無効とすべきものであるという理由(以下、「無効理由1」という。)、及び、本件特許発明は、特許法第36条第6項第1号の要件に違反して特許されたものであるから、その特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、同項の規定により無効とすべきものであるという理由(以下、「無効理由2」という。)である。
なお、以降、指摘箇所を行数で示す場合には、空白行は含めない。

(1)無効理由1について
(請求書第6ページ第1行ないし第17ページ第7行、及び請求人口頭審理陳述要領書第2ページ第18行ないし第4ページ第8行)
本件特許発明は、甲1発明に周知技術及び甲2発明又は甲6発明若しくは甲7発明を適用することにより当業者が容易に想到できたものである。

(2)無効理由2について
(請求書第17ページ第8行ないし第18ページ第7行、請求人口頭審理陳述要領書第4ページ第9行ないし第5ページ第5行、及び第1回口頭審理調書の「請求人 4.」欄)
本件特許の明細書には、蛇腹状のカバーの凹部に金属粉が収集されるとの記載はなく、被請求人が東京地裁平成24年(ワ)第3817号特許権侵害差止請求事件においてベローズ120の凹部が構成要件Eの金属粉収集機構に相当すると主張する以上、かかる主張は、本件特許の明細書及び図面から認識できる範囲を超えるものである。
すなわち、蛇腹状の凹部が金属粉収集機構であることは、本件特許の特許請求の範囲、明細書及び添付図面のいずれにも記載されていない。
本件特許明細書の図11には、ベローズ120が示されているが、本件特許の明細書にはベローズ120の凹部が金属粉収集機構に相当するとの記載はない。図11においても、ベローズ120の凹部には符号すら付されていない。このような事実からすると、ベローズ120の凹部に金属粉収集機構としての機能があるとの認識が被請求人になかったことは明らかであり、蛇腹状のカバーの凹部が金属粉収集機構であるとの被請求人の主張は、出願時の被請求人の認識を超えるものであって、許されるものではない。被請求人は「金属粉収集機構」について、明細書でサポートされている範囲を超えた解釈の下で権利行使をしているから、本件特許発明は、明細書によってサポートされていないものである。
本件特許発明の構成要件Eの「金属粉収集機構」の符合には、ベローズにあたる120の符合がないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものである。

2.請求人の証拠方法
証拠方法として、審判請求書において以下の甲第1ないし8号証が提出され、口頭審理陳述要領書において以下の甲第9号証が提出されている。

甲第1号証 特許第3017984号公報
甲第2号証 特開2001-38622号公報
甲第3号証 実願昭62-187003号(実開平1-92311号)のマイクロフィルム
甲第4号証 特開2005-133336号公報
甲第5号証 特開2005-155768号公報
甲第6号証 日立電動工具2000、日立工機株式会社、平成12年3月、表紙、第34ないし37ページ、及び裏表紙の写し
甲第7号証 日立電動工具2002-9、日立工機株式会社、2002年9月、表紙、第30ないし33ページ、及び裏表紙の写し
甲第8号証 東京地裁平成24年(ワ)第3817号特許権侵害差止請求事件の訴状の写し
甲第9号証 東京地裁平成24年(ワ)第3817号特許権侵害差止請求事件の被告準備書面(2)の写し

3.被請求人の主張する答弁の趣旨
被請求人の主張する答弁の趣旨は、本件特許無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めるものであり、無効理由1に対しては、本件特許発明は、甲第1号証記載の発明に、副引用例である甲第2号証ないし甲第7号証に記載された発明を適用することが容易に想到できたものではない、というものであり、無効理由2に対しては、本件特許発明の請求項の記載が、特許法第36条第6項第1号違反であるということはできない、というものである。

(1)無効理由1について
(審判事件答弁書第7ページ第18行ないし第18ページ第2行、及び被請求人口頭審理陳述要領書2ページ第20行ないし第4ページ第7行)
本件特許発明が目的とする技術課題と、甲1発明が目的とする技術課題とは、全く異なるものであるから、当業者が、主引用例である甲1発明を出発点として本件特許発明の特徴点に到達するとは到底思えない。
甲1発明が目的とする技術課題と、甲2発明が目的とする技術課題とは、全く異なるものであるから、甲1発明と甲2発明とを組み合わせることについて動機づけが存在するという請求人の主張は失当である。
眼鏡フレーム用ボルトに関する甲1発明に対し、その眼鏡フレーム用ボルトを鋼構造建築物の構築に用いられる甲第4号証又は甲第5号証のようなトルシアボルトに置換することを当業者が想到することができるとは到底思えない。
甲1発明において眼鏡フレーム用ボルトのねじ部の面取りを行った際に切り屑が発生するとしても、このような眼鏡フレーム用ボルトに関する甲1発明に対し、甲第6号証及び甲第7号証のようなコンクリートに穴をあけるドリル等と組み合わせて用いる蛇腹状に形成された筒状の集じんカップを適用することを当業者が想到することができるとは到底思えない。
本件特許発明の技術上の意義、明細書の記載を考慮すれば、バリ除去用工具を回転する回転機構は、手動ではなく、電動モータ等の駆動装置による自動の回転機構であることは明らかである。甲1の面取り加工具7の操作部76は、手動で操作されるものである。よって、甲1の切断したボルトのねじ部面取り装置は、本件特許発明における回転機構に相当する回転機構を備えていない。

(2)無効理由2について
(審判事件答弁書第18ページ第3行ないし第19ページ第24行)
本件特許明細書に係る図11においてベローズ120の凹部に符合がないことや、本件特許明細書にベローズの凹部についての言及がないことは、ベローズ120における金属粉収集機構の有無とは無関係である。本件特許発明の金属粉収集機構に蛇腹状の凹部が記載されていないことや、発明の詳細な説明に蛇腹状の凹部が金属粉収集機構であるなとと文言上具体的に記載されていないとしても、本件特許明細書を通読すれば、図11のベローズには凹部の記載があり、請求人の製品にみられるような蛇腹状の凹部が本件特許発明の構成要件Eにいう金属粉収集機構に該当することが容易に分かるのであって本件特許発明の請求項の記載が、特許法第36条第6項第1号違反であるということはできない。

4.被請求人の証拠方法
証拠方法として、審判事件答弁書において以下の乙第1ないし6号証が提出され、平成25年7月22日付け上申書において以下の乙第7号証が提出されている。

乙第2号証 トルシアボルトの破断面の写真(作成者 ジロー株式会社)の写し
乙第3号証 鋼道路橋塗装・防食便覧(社団法人 日本道路協会、平成17年12月26日 初版発行)第II-iないし第II-iiiページ、第II-46ないし第II-51ページの写し
乙第4号証 特開2005-238417号公報
乙第5号証 実願昭55-18682号(実開昭55-103143号)のマイクロフィルム
乙第7号証 東京地裁平成24年(ワ)第3817号特許権侵害差止請求事件の原告準備書面(2)の写し

なお、第1回口頭審理において、乙第1及び6号証は参考資料とされた(第1回口頭審理調書の「被請求人 2」欄)。


第3.無効理由1についての当審の判断

1.各書証の記載事項、各書証記載の発明、及び各書証記載の技術的事項

(1)甲第1号証の記載事項、及び甲第1号証記載の発明
ア.請求項6
「【請求項6】 面取りするボルトのねじ部を螺合するねじ部装着具と、このねじ部装着具に相対的に回転自在に挿入し組み合わされる面取り加工具とを備え、
前記ねじ部装着具は、
前記面取り加工具を挿入する挿入穴部を形成した筒状のねじ部装着具本体と、
このねじ部装着具本体の先端に有底状に形成した先端部と、
この先端部に面取りするボルトのねじ部を螺合して面取りする部分を前記挿入穴部内に突出させるねじ孔と、
を有し、
前記面取り加工具は、
前記ねじ部装着具本体の挿入穴部に軸方向に対し偏動することなく相対的に回動自在に挿入される筒状の面取り加工具本体と、
この面取り加工具本体の先端部に形成され、前記ねじ部装着具本体のねじ孔と一致する位置であって、このねじ孔に螺合して前記ねじ装着具本体の挿入部内に突出した面取りする部分のねじ部分を係入して前記面取り加工具本体を前記ねじ部装着具に対し相対的に回動することによって面取りする面取り部と、
前記ねじ部装着具本体の挿入穴部に挿入し組み合わせた状態で前記面取り加工具本体を回動操作する操作部と、
を有することを特徴とする切断したボルトのねじ部面取り装置。」

イ.段落【0001】ないし【0006】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はボルトのねじ部の切断及び切断したボルトのねじ部の面取りをそれぞれ行うボルトのねじ部切断装置及び切断したボルトのねじ部面取り装置に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、例えば眼鏡レンズの厚みは度数により異なるため、眼鏡フレームに眼鏡レンズをボルトとナットで取り付ける場合には、ボルトのねじ部の長さを調整する必要があった。
【0003】このため、従来では、ボルトのねじ部の長さを調整する場合、ボルトを眼鏡フレームと眼鏡レンズの挿入孔に挿入した状態で突出するボルトのねじ部に位置決め用の専用ナットを取り付け、この上からニッパ型のねじ部切断装置によって前記ねじ部の切断を行っていた。このような眼鏡フレームと眼鏡レンズの場合に限らず、ボルトのねじ部の長さを調整する必要がある場合には、前述と同様の方法でねじ部の切断を行っていた。
【0004】また、このような従来のねじ部切断方法によってボルトのねじ部を切断した場合、切断したねじ部の先端部の縁部が鋭利な状態となるため、ねじ部の先端部の面取りを行う必要がある。この場合、面取り加工具として、棒状で先端の凹部の面取り用の刃を形成したものを用いている。面取りを行う場合は、前記面取り加工具を手で直接保持し、前記ねじ部の先端部に面取り加工具の凹部を押し当てて、面取り加工具を回転させることによりねじ部の先端部の縁部を削るようにしていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述の従来のボルトのねじ部切断方法では、専用ナットに対してねじ部切断装置を傾けた状態で操作したり、専用ナットとねじ部切断装置の間に隙間が発生した状態で操作することが多々あり、ねじ部の切断位置が不適切な状態になり、ボルトのねじ部が長すぎて邪魔になることが多々あり、またねじの切断面が平行にならず、斜めになってしまうことがあった。また、従来の切断したボルトのねじ部面取り方法では、面取り加工具をボルトのねじ部に対して傾けた状態で操作することが多々あり、面取りが不均一となり、面取り量が不足してねじ部にクラックが発生し易くなったり、面取り量が多すぎてナットが外れ易くなることが多々あった。
【0006】そこで本発明は、簡単な操作でねじ部の切断位置の精度を向上することができ、しかも切断面をねじの軸方向に対し常に垂直にできるボルトのねじ部切断装置の提供を目的とする。また、本発明は、簡単な操作で精度の高いねじ部の面取りを行うことができる切断したボルトのねじ部面取り装置の提供を目的とする。」

ウ.段落【0038】ないし【0049】
「【0038】図10は本発明に係る切断したボルトのねじ部面取り装置の実施の形態を示す断面図である。
【0039】図10において、切断したボルトのねじ部面取り装置5は、面取りするボルトのねじ部を螺合するねじ部装着具6と、このねじ部装着具6に相対的に回転自在に挿入し組み合わされる面取り加工具7とを備えている。
【0040】前記ねじ部装着具6は、前記面取り加工具7を挿入する挿入穴部62を形成した筒状のねじ部装着具本体61と、このねじ部装着具本体61の先端に有底状に形成した先端部63と、この先端部63に面取りするボルトのねじ部を螺合して面取りする部分を前記挿入穴部62内に突出させるねじ孔64と、を有している。
【0041】前記面取り加工具7は、前記ねじ部装着具本体61の挿入穴部62に軸方向に対し偏動することなく相対的に回動自在に挿入される筒状の面取り加工具本体71と、この面取り加工具本体71の先端部72に形成され、前記ねじ部装着具本体61のねじ孔64と一致する位置であって、このねじ孔64に螺合して前記ねじ装着具本体61の挿入部内に突出した面取りする部分のねじ部分を係入して前記面取り加工具本体71を前記ねじ部装着具6に対し相対的に回動することによって面取りする面取り部73と、を有している。
【0042】また、前記面取り加工具7には、前記ねじ部装着具本体61の挿入穴部62に挿入し組み合わせた状態で前記面取り加工具本体71を回動操作する操作部74が設けられている。
【0043】図11は図10のねじ部装着具6を示す断面図である。
【0044】図11において、前記ねじ部装着具6は、面取り加工具7挿入側(背面側)の太径の筒状部66より所定角度で縮まるファンネル部67を経て細径の筒状部68につながる。第2の筒状部68の先端には先端部63が形成され、この先端部63にねじ孔64が形成されている。筒状部66,ファンネル部67及び筒状部68はねじ部装着具本体61を形成し、筒状部66,ファンネル部67,筒状部68の内面及び先端部63の底面により囲まれる部分は、前記面取り加工具7を挿入する挿入穴部62となっている。
【0045】図12は図10の面取り加工具7を一部を切り欠いて示す側面図である。
【0046】図12において、前記面取り加工具7は、外径が図11の筒状部66とほぼ一致する円柱状の操作部76から弱干細径の棒状部77につながり、この棒状部77より所定角度で縮まる円錐部78を経てさらに細径の棒状部79につながる。棒状部79の先端には先端部72が形成され、この先端部72に面取り部73が形成されている。棒状部77は、前記雌型カッタ本体61の棒状部66に軸方向に対し偏動することなく相対的に回動自在に挿入されるように、その外径が第1の筒状部66の内径より微かに小さい径に形成されている。棒状部79は、前記雌型カッタ本体61の筒状部68に軸方向に対し偏動することなく相対的に回動自在に挿入されるように、その外径が筒状部68の内径より僅かに小さい径に形成されている。
【0047】これら棒状部77,円錐部78及び棒状部79は、面取り加工具本体71を構成している。
【0048】図13は図10の切断したボルトのねじ部面取り装置5を示す側面図である。
【0049】図13において、ねじ部装着具6の筒状部66の外周の中間部には、すべり止めローレット69を形成している。面取り加工具7の操作部76には、ねじ部装着具6挿入側の一部を残してすべり止めローレット70を形成している。」

エ.段落【0054】ないし【0058】
「【0054】図16は図10の切断したボルトのねじ部面取り装置5を拡大して示す断面図である。
【0055】図16において、加工具7の先端部72に形成されは面取り部73は、球面状の凹部80の内側に複数の刃81,81・・・を形成したものである。刃81は、側方から見た場合、円弧状に形成される。
【0056】ねじ部装着具6の筒状部69及びねじ孔64の中心軸C5と、面取り加工具7の棒状部79及び面取り部73の中心軸C6が一致しており、ねじ部装着具6とと面取り加工具7とを角度調整しても、先端部63の底面のねじ孔64の開口部は、先端部72の係入部73に完全に連通する状態となる。これにより、ねじ孔64から螺入したボルトのねじ部は、そのまま面取り部73に挿入して複数の刃81,81・・・に接触することになる。
【0057】図17は図16の加工具7の先端部72を拡大して示す正面図である。
【0058】図17において、先端部72の面取り部73には、複数の刃81,81・・・が正面から見て放射状に形成されている。このような構造でボルトのねじ部に対して加工具7を回転させることにより、ボルトのねじ部の先端の縁部を削ることができるようになっている。」

オ.段落【0063】ないし【0074】
「【0063】次にボルトのねじ部切断装置1で切断したボルトのねじ部面取り作業を説明する。
【0064】まず、図26に示すように、ねじ部装着具6を用意し、ねじ部装着具6の先端部63のねじ孔64に座金105の後方に突出したねじ部94を押し当て、ねじ部装着具6を右回りに回転させることによりねじ孔64にねじ部94を螺入する。この場合ねじ部装着具6を停止するまで回転させると、図27に示すように、眼鏡フレーム101、図18のワッシャ102、眼鏡レンズ103、図18のワッシャ104、座金105は、ボルト9のボルト頭92とねじ部装着具6の先端部63に挟まれて固定された状態となる。この後、図28に示すように、面取り加工具7を用意し、面取り加工具7の面取り加工具本体71を、ねじ部装着具本体61の挿入穴部62に挿入し、さらに、面取り加工具本体71の先端部72の面取り部73に、前記ねじ部装着具6のねじ孔64に螺合して突出したボルト9のねじ部94の切断部を押し当て、ねじ部装着具6と面取り加工具7を組み合わせる。この後、図29に示すように、ねじ部装着具6と面取り加工具7を組み合わせた状態で前記面取り加工具7の操作部76を回動操作ことにより、ねじ部94の切断部の面取りを行う。この場合の面取り動作は後述の図34及び図35によって詳細に説明する。
【0065】この後、図30に示すように、ねじ部装着具6を左回りに回転させ、座金105の後方に突出したねじ部94からねじ部装着具6のねじ孔64を外す。これにより、ねじ部装着具6と面取り加工具7を組み合わたねじ部面取り装置5からねじ部94が外される。これにより、切断したボルトのねじ部面取り装置5を用いたボルトのねじ部の面取り操作が完了する。
【0066】この後、図31に示すように、切断及び面取りが行われたボルト9のねじ部94にナット装置120を螺合して取り付け、ボルト締めを行うことにより、眼鏡フレーム101と眼鏡レンズ103とが取り付け固定する。
・・・・・(中略)・・・・・
【0071】図34は図33においてボルト9のねじ部94から雌型カッタ2を外した直後の状態を示す断面図である。
【0072】図34において、座金105から突出するねボルト9のねじ部94は、切断部が図33の雌型カッタ2のねじ孔24を通過したため、ばりが取り除かれているが、切断部となる先端95の縁部96が鋭利な状態となっている。
【0073】図35は図29に示したねじ部94の面取り動作をさらに詳細に説明する説明図である。
【0074】図35において、眼鏡フレーム101、ワッシャ102、眼鏡レンズ103、ワッシャ104、座金105は、ボルト9のボルト頭92とねじ部装着具6の先端部63に挟まれて固定された状態となっている。ねじ部装着具6の先端部63のねじ孔64から螺入したボルト9のねじ部94は、そのまま面取り加工具7の先端部72の面取り部73に挿入して複数の刃81に接触することになる。ねじ部装着具6と面取り加工具7とを組み合わせた状態で前記面取り加工具7を回動操作ことにより、ねじ部94の先端95の縁部96が複数の刃81,81・・・により削られ、面取りが行われる。」

カ.段落【0075】ないし【0077】
「【0075】図36は図35においてボルト9のねじ部94からねじ部装着具6を外した直後の状態を示す断面図である。
【0076】図36において、座金105から突出したボルト9のねじ部94は、先端95の縁部96が面取りされた丸まった状態となっている。
【0077】図37は図36のボルト9のねじ部94にナット装置120を取り付けた状態を示す断面図である。」

キ.図35の図示
図35には、「ボルト9」の「先端95」のうちの「縁部96」と「面取り部73」とは、接触しているように図示されており、「ボルト9」の「先端95」のうちの「縁部96」以外の部分と「面取り部73」とは、空間を介在して対向しているように図示されている。
また、「面取り部73」と「縁部96」とが接触している部分は、「面取り部73」が空間を介在して「先端95」と対向している部分よりも、眼鏡レンズ103に近い側に位置しているように図示されている。

ク.甲第1号証記載の発明
上記ア.に摘示する請求項6の末尾の「切断したボルトのねじ部面取り装置」という記載を考慮すると、上記オ.ないしカ.に摘示する記載での「ボルト9」が、切断したボルトを意味することは、明らかである。
また、上記オ.に示す段落【0064】には、「図27に示すように、・・・・・ボルト9のボルト頭92とねじ部装着具6の先端部63に挟まれて固定された状態となる」との記載があるから、「ボルト9」は「ねじ部装着具6」で固定されているといえる。
また、上記オ.に摘示する段落【0074】の「ねじ部94の先端95の縁部96が複数の刃81,81・・・により削られ、面取りが行われる」という記載や、上記カ.に摘示する段落【0076】の「・・・先端95の縁部96が面取りされた丸まった状態となっている。」との記載から、面取り部73には、先端95の縁部96を加工する部分と、縁部96を加工しない部分がある。そして、上記キ.に記載した図35の図示からみて、面取り部73は、先端95の縁部96を面取りするように、先端95の縁部96を加工する部分(図35において、面取り部73が縁部96と接触する部分)は、縁部96を加工しない部分(図35において、面取り部73が空間を介在して先端95と対向している部分)よりも、眼鏡レンズ103に近い側に位置しているといえる。

以上の記載事項を、本件特許発明の分説に沿って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認定することができる。

「a1.眼鏡レンズ103の挿入孔108を貫通し、そしてねじ部装着部6で固定された切断したボルト9の先端95を面取りするための面取り加工具7において、
b1.面取り部73と、
c1.その面取り部73を回転する操作部76と、を備え、
f1.面取り部73は先端95の縁部96を面取りするように、先端95の縁部96を加工する部分は、縁部96を加工しない部分よりも、眼鏡レンズ103に近い側に位置している
g1.面取り加工具7。」

(2)甲第2号証の記載事項、及び甲第2号証記載の発明
ア.段落【0001】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、圧縮空気を動力源として、カッタ、グラインダ、ドリル、ハンマなどを駆動する圧縮空気式工具、及びそのような圧縮空気式工具に装着して使用される付属装置に関し、更に詳しくは、切削や研磨などの際に発生する粉塵を除去する防塵機能を備えた圧縮空気式工具及びそのための付属装置に関する。」

イ.段落【0014】ないし【0015】
「【0014】ロータ12の他端にはロータギア19が取り付けられており、このロータギア19はスピンドル20に取り付けられたスピンドルギア21に歯合している。スピンドル20は第3、第4ベアリング22、23によって回転自在に保持されており、その下端には略円盤形状のグラインダ24が着脱自在に設けられている。ヘッド部10bの下側には、グラインダ24を取り囲むカバー25が装着される。本実施例では、カバー25は、ヘッド部10bに固定され、グラインダ24の上面を覆う金属製の上面部25aと、上面部25aに固定される偏平円筒形状の厚手のゴムから成る囲繞部25bとから成る。勿論、全体を金属製の一体構造としてもよい。
【0015】カバー25の上面部25aには、カバー25の内側と連通する開口27を有する集塵管26が一体に形成されており、その集塵管26の側方から内部に突出するように略L字状の空気噴射管28が設けられている。集塵管26の内側に開口した空気噴射管28の開口端面(以下「噴射口」という)29は、カバー25と反対側、つまり集塵フィルタ3側に向いている。上記排気孔18には排気孔カバー30がケーシング10に気密に取り付けられ、その排気孔カバー30と空気噴射管28の外側開口とは可撓性の送気管31で接続されている。」

ウ.段落【0017】ないし【0019】
「【0017】本実施例の圧縮空気式グラインダを使用する際の動作は次の通りである。コンプレッサ2が作動されると、送給用チューブ4を通して工具本体1内に圧縮空気が送給される。このときの空気圧は、例えば6kg/cm^(2)程度である。圧縮空気は空気流通路14を通って円筒室11に入り、ベーン13に当たってロータ12を回転させる。圧縮空気の圧力は高いので、ロータ12は高速で回転する。ベーン13に当たったあとの圧縮空気は、空気排出路17から排気孔18を介して送気管31に送り込まれる。ロータ12が高速回転すると、ロータギア19、スピンドルギア21を介してスピンドル20が高速回転する。これにより、グラインダ24が回転し、例えば粗い床面6などの研磨が行える。
【0018】送気管31を通った圧縮空気は、空気噴射管28の噴射口29から集塵管26の内部に噴出する。圧縮空気はベーン13を回転させる際に運動エネルギを失うが、それでも大気圧よりは高い圧力を維持したまま集塵管26の内部に噴出する。すると、噴射口29の側方や後方近傍は、空気圧が大気圧よりも低い、負圧状態になる。圧縮空気が送気管31や空気噴射管28よりも大きな内径を有する集塵管26に噴出されると、その空気圧はかなり低下するものの、排塵用チューブ5の内部を集塵フィルタ3に向かって流れてゆく。グラインダ24の周囲はカバー25で覆われているため、グラインダ24と床面6との接触で発生した粉塵は周囲に巻き上がらずカバー25で囲まれる空間内に収まる。上述したように集塵管26の開口27付近は負圧になっているため、カバー25内部の空気はこの負圧部分に向かって流れる。そしてこれを補うように、カバー25の囲繞部25bの下端と床面6との隙間を介して外部からカバー25内側に空気が流れ込む。この空気はカバー25内部に集まっている粉塵を伴って集塵管26に入り込む。すると、粉塵は噴射口29から勢いよく噴き出している空気流に巻き込まれ、この空気流に乗って排塵用チューブ5内を搬送され、集塵フィルタ3に到達する。
【0019】而して、この圧縮空気式グラインダでは、研磨によって生じた粉塵が周囲に広がらず排塵用チューブ5に吸引されて床面6から除去される。」

エ.甲第2号証記載の発明
以上の記載事項を、本件特許発明の分説に沿って整理すると、甲第2号証には次の発明が記載されていると認定することができる。
「a2.圧縮空気を動力源として、グラインダを駆動する圧縮空気式グラインダにおいて、
b2.グラインダ24と、
c2.そのグラインダ24を回転するベーン13、ロータ12、ロータギア19及びスピンドルギア21と、
d2.カバー25とを備え、
e2.そのカバー25は内側に空気噴射管28が設けられた集塵管26を有している
g2.圧縮空気式グラインダ。」

(3)甲第3号証の記載事項、及び甲第3号証記載の発明
ア.明細書第2ページ第5ないし7行
「この考案は、プレス成形品の端面周縁に形成されているバリを取るためのバリ取り装置に関するものである。」

イ.明細書第6ページ第12行ないし第7ページ第13行
「このバリ取り装置は、バリbを研摩して取り除くための装置本体10と、この装置本体10のモータ(駆動源)11に加わる負荷を検出するための負荷検出手段12と、・・・(中略)・・・とから構成されている。
まず、装置本体10は、第1図に示すように、フレーム16と、そのフレーム13の上部に上向きに固定された上記のモータ11と、そのモータ11の回転軸17に連結されたチップホルダ18と、そのチップホルダ18に取り付けられた4枚のチップ19からなる。チップホルダ18は、第2図、第3図に示すように、上面側中央部に凹部を有し、下面中央部にモータ11の回転軸17に連結するための連結部を有する略すり鉢形状のもので、上記のチップ19を取り付けるための4つのスリット20が放射状に等間隔に形成されているとともに、それらのチップ19を螺子によって固定するための切欠部21が形成されたものである。」

ウ.甲第3号証記載の発明
以上の記載事項を、本件特許発明の分説に沿って整理すると、甲第3号証には次の発明が記載されていると認定することができる。
「a3.プレス成形品のバリを取るためのバリ取り装置において、
b3.チップホルダ18に取り付けられたチップ19と、
c3.そのチップホルダ18を回転するモータ11及び回転軸17とを備え、
f3.チップホルダ18は略すり鉢形状であり、チップ19を取り付けるためのスリット20が放射状に等間隔に形成されており、チップ19はスリット20に固定されている
g3.バリ取り装置。」

(4)甲第4号証の記載事項、及び甲第4号証記載の技術的事項
ア.段落【0014】ないし【0015】
「【0014】
上記の図1と図2に示す接合構造の施工方法例での施工手順例を、図3に基づき概要説明する。
(1)図1の接合構造(ナット締め高力ボルト使用の場合)
a.上側の鋼管柱1bと下側の鋼管柱1aの上端に、それぞれ、通しダイアフラム2を溶接wする前に、T形金物3を接合する上部側の開口端からの手作業で、高力ボルト4を鋼管柱の内部に挿入して内部側からボルト孔1oに挿入し、鋼管柱の外側に当接したT形金物3のボルト孔3o(長孔もしくは過大孔)から外部に突出させ、ナット7を仮締めして、上端部に通しダイアフラム2を溶接する。ここで用いる高力ボルト4としては、ナット締め付け側にピンテールを有しトルク管理ができる従来のトルシア型高力ボルトを用いることができる。・・・(後略)
【0015】
(前略)・・・
e.aで仮締めしてある鋼管柱1とT形金物3を本締めして接合する。」

イ.甲第4号証記載の技術的事項
以上の記載事項を、本件特許発明の分説に沿って整理すると、甲第4号証には以下の技術的事項が記載されていると認定することができる。
「a4.T形金物3のボルト孔3oを貫通し、そしてナット7で仮締め及び本締めされた高力ボルト4として、トルシア型高力ボルトを用いること。」

(5)甲第5号証の記載事項、及び甲第5号証記載の技術的事項
ア.段落【0013】ないし【0014】
「【0013】
図3は、本発明に係るボルトの第二の実施形態を示す図である。
図3に示すように、本実施形態によるボルト11は、ボルト11を緩めるときの反力受けとなる、軸部19より小さな径の六角形断面の把持部14を、軸部19の先端面とピンテール17の基端面との間に設けたトルシアボルトである。
ボルト頭部16の形状は、受圧面積を増加させるために丸型になっている。そのため、使用に当たっては、頭部側の座金を省略することができる。
また、ピンテール17は、把持部14より小さな径の六角形断面をしており、ピンテール17の基端部の外周面には、V字状のノッチ18が形成されている。
【0014】
本実施形態によるボルト11の締め付けは、トルシアボルト締め付け用の工具を用いて行う。即ち、アウタースリーブとインナースリーブを備えるトルシアボルト締め付け用の工具(図示省略)を使用し、アウタースリーブとインナースリーブをそれぞれナット2とピンテール17に嵌合させた後、アウタースリーブとインナースリーブをそれぞれ反対方向に回転させ、ピンテール17がノッチ18で破断するまで締め付けを行う。
一方、ボルト11を緩める場合は、第一の実施形態と同様に、電動スリーブ40のアウタースリーブ41とインナースリーブ42をそれぞれナット2と把持部14に嵌合させた後、アウタースリーブ41とインナースリーブ42をそれぞれ締め付け時と逆方向に回転させて緩めるものである。」

イ.甲第5号証記載の技術的事項
以上の記載事項を、本件特許発明の分説に沿って整理すると、甲第5号証には以下の技術的事項が記載されていると認定することができる。
「a5.トルシアボルト11のピンテール17がノッチ18で破断するまでナット2を締め付けて、トルシアボルト11を固定すること。」

(6)甲第6号証の記載事項
甲第6号証の第36ページ左下から6つめの「●」の欄には、「集じんカップ(B)組」という記載がある。

(7)甲第7号証の記載事項
甲第7号証の第32ページ右下欄の下から3行目には、「集じんカップ(B)組」という記載があり、また、下から6行目には、半透明で概ね円筒状の部材の写真とともに、「●集じんカップ(B)組」という記載がある。

(8)甲第8号証の記載事項
甲第8号証の第6ページ下から第7行ないし第5行には、「被告製品の構成E´の『フード部(12´)(カバー(24))内面の凹部(12H´)』は、本件発明の構成要件Eの『円筒状のフード部(12)の金属粉収集機構(R)』に該当する」との記載がある。

(9)甲第9号証の記載事項
甲第9号証の第4ページ第9ないし20行には、「本件特許の審査段階においては、補正によって金属粉収集機構に符合12H、16、19A、19Bが付された。しかし、被告製品のカバー(24)と同様に蛇腹状に形成された図11のベローズ120の凹部には符合は付されていないのであるから、ベローズ120の凹部は、金属粉収集機構12H、16、19A、19Bのいずれにも該当しない。すなわち、原告には、少なくとも出願時において、ベローズ120の凹部が金属粉収集機構に相当するという認識がなかったことが明らかである。
よって、被告準備書面(1)の第6頁第4項において主張したように、被告製品におけるジャバラ形状のカバー(24)の凹部(12H’)は、本件特許の構成要件Eにおける金属粉収集機構に相当するものではない。」との記載がある。

(10)乙第3号証の記載事項
乙第3号証の第II-48ページ下から第5行ないし末行には、以下の記載がある。
「x)高力ボルト接合継手にトルシアボルトを用いる場合、ピンテール跡が鋭利な形状をすることが多く、塗装を行う場合はそのままでは塗料が十分に付きにくい。この場合にはピンテール跡を写真-II.3.1に示すようにグラインダーなどで平滑に仕上げれば、通常のボルト頭やナット部と同等の塗装品質が確保できる表面性状とすることができる。」


2.本件特許発明と甲1発明との対比
本件特許発明と上記1.(1)ク.に示す甲1発明とを対比すると、甲1発明の分説a1.の「切断したボルト9」は、「切断ないし破断したボルト」という点で、本件特許発明の分説A.の「トルシアボルト」と共通する。また、甲1発明の「ねじ部装着具6」は、「ボルト9」と螺合して「ボルト9」を固定する機能を有しているから、本件特許発明の「ナット」に相当する。そして、甲1発明の「眼鏡レンズ103」及び「挿入孔108」が、本件特許発明の「母材」及び「ボルト取付孔」に相当することは、明らかである。そして、甲1発明の「先端95を面取りするための面取り加工具7」は、「断部を加工するための断部加工装置」という点で本件特許発明の「破断面に生じたバリを除去するための端面加工装置」と共通する。
甲1発明の分説b1.の「面取り部73」は、「断部加工工具」という点で、本件特許発明の分説B.の「バリ除去用工具」と共通する。
甲1発明の分説c1.の「操作部76」は、断部加工工具を回転させるためのものであるから、本件特許発明の分説C.の「回転機構」に相当する。
甲1発明の分説f1.の「縁部96」が、本件特許発明の分説F.の「コーナー部」に相当することは明らかであるし、「縁部96を面取りする」ことが「コーナー部にエッジを形成しないように」することに相当することも明らかである。そして、甲1発明の「先端95の縁部96を面取りするように、先端95の縁部96を加工する部分は、縁部96を加工しない部分よりも、眼鏡レンズ103に近い側に位置している」ことは、「断部のコーナー部にエッジを形成しないように、断部のコーナー部を加工する部分は、断部のコーナー部を加工しない部分よりも、母材に近い側に位置している」という点で、本件特許発明の「破断面のコーナー部にエッジを形成しないように、破断面のコーナー部を加工する部分は、コーナー部以外の破断面を加工する部分よりも、母材に近い側に位置している」ことと共通する。
以上から、本件特許発明と甲1発明とは、以下の点で一致、及び相違する。
<一致点A>
「母材のボルト取付孔を貫通し、そしてナットで固定された切断ないし破断したボルトの断部を加工するための断部加工装置において、断部加工工具と、その断部加工工具を回転する回転機構と、を備え、断部加工工具は断部のコーナー部にエッジを形成しないように、断部のコーナー部を加工する部分は、断部のコーナー部を加工しない部分よりも、母材に近い側に位置している断部加工装置。」である点。
<相違点1>
切断ないし破断したボルトが、本件特許発明では「トルシアボルト」であるのに対して、甲1発明では「切断したボルト9」である点。
<相違点2>
断部加工装置が、本件特許発明では、「端面加工装置」であって、「バリ除去用工具」を備えており、バリ除去用工具は、「コーナー部以外の破断面を加工する部分」を有しているのに対して、甲1発明では、「先端95を面取りするための面取り加工具7」であって、「面取り部73」を備えているものの、当該面取り部73は、コーナー部以外の先端95を加工する部分を有しているか不明な点。
<相違点3>
本件特許発明の装置は、「円筒状のフード部」を備え、「フード部は金属粉収集機構を有して」いるのに対して、甲1発明の装置は、フード部を備えていない点。
点。

3.相違点1ないし3についての判断
(1)相違点1について
甲1発明における「切断したボルト9」は、上記1.(1)イ.に摘示する段落【0004】に示すように、先端部の縁部が鋭利な状態であり、同じく段落【0006】に示すように、甲1発明は、そのような鋭利な先端部を面取りすることを目的とするものである。
そして、部材を固定するためのボルトとして、トルシアボルトが存在することは、上記1.(4)イ.に示す甲第4号証記載の技術的事項や、上記1.(5)イ.に示す甲第5号証記載の技術的事項に例示されるように、周知の技術的事項であるところ、トルシアボルトが破断することにより先端部が鋭利な状態となり、先端部を平滑に仕上げる必要があることは、上記1.(10)に摘示する乙第3号証の記載事項に示すように、周知の技術的事項であるから、甲1発明における切断したボルト9とトルシアボルトとは、先端が鋭利な状態であるボルトという点で共通するし、トルシアボルトは、甲1発明の「切断したボルト9」と同様に、先端部を加工する必要性を内在しているといえる。
しかし、トルシアボルトは、ボルトとナットとの締め付け力が所定値に達した際にボルトのピンテールが破断するものであって、ボルトをナットで固定する際の締め付け力を所定値に規制するものであるところ、ピンテール破断直後にナットを取り外すことは通常行わないものである。
一方、本件特許発明のナットに相当する甲1発明の「ねじ部装着具6」は、面取り加工において「ボルト9」を固定してはいるものの、上記1.(1)オ.に摘示する段落【0065】や、上記1.(1)カ.に摘示する段落【0075】にあるように、面取り加工の後には「ボルト9」から取り外されるものであるから、甲1発明の「切断したボルト9」は、面取り加工の後には別途のナットで固定する必要がある。
そうすると、甲1発明の「ねじ部装着具6」が本件特許発明のナットに相当することを前提とする限り、仮に甲1発明の「切断したボルト9」に代えてトルシアボルトを適用するならば、面取り加工において「ねじ部装着具6」で固定する際には、ピンテールが破断することによって、その締め付け力を所定値に規制することはできるものの、面取り加工の後に「ねじ部装着具6」を取り外して別途のナットで固定する際には、ピンテールは既に破断済みであるため、その締め付け力を所定値に規制することはできない。
以上から、甲1発明における「切断したボルト9」に代えてトルシアボルトを適用することは、上記の点で阻害事由が存するというべきであり、甲第4及び5号証記載の技術的事項、並びに乙第3号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到できた事項ではない。

(2)相違点2について
甲1発明の「面取り部73」は、上記1.(1)エ.に摘示する段落【0055】に示すように、「球面状の凹部80の内側に複数の刃81,81・・・を形成したものである。刃81は、側方から見た場合、円弧状に形成される」ものであるから、甲1発明の「面取り部73」における「縁部96を加工しない部分」、すなわち図35において、面取り部73が空間を介在して先端95と対向している部分にも、複数の刃81,81が存在しているといえる。そして、そのような複数の刃81,81により、先端95を加工すれば、先端95の全体の形状を球面状の滑らかな形状に加工できることは明らかである。
甲第1号証には、先端95の縁部96を面取り加工することだけでなく、先端95のうちの縁部96以外の部分についても加工すること、すなわち先端95の全体を加工することについて明記されてはいないものの、先端95の全体を加工すれば、先端95の形状がより滑らかな半球状の形状となり、甲1発明の目的、すなわち鋭利な先端部を面取りすること(上記1.(1)イ.に摘示する段落【0006】)を十全に達成できる。
そうすると、甲1発明において、先端95の縁部96だけを面取り加工するか、それとも先端95の縁部96だけでなく全体を加工するかは、加工に必要なコストや、先端95の形状に要求される滑らかさの程度等を勘案して、適宜に選択すればよい事項ということができ、先端95の全体を加工するように選択することは、当業者にとって格別に想到困難な事項とはいえない。
したがって、先端95の形状をより滑らかな形状となるように、先端95の全体を加工すること、すなわち甲1発明の「面取り部73」を「コーナー部以外の破断面を加工する部分」を有するように構成して「バリ除去用工具」とし、それにともなって、甲1発明の「先端95を面取りするための面取り加工具7」を「端面加工装置」とすることは、当業者が容易に想到できた事項である。

(3)相違点3について
甲1発明の装置における面取り加工は、ボルト9がねじ部装着具6で固定された状態で行われるところ、当該ねじ部装着具6は、上記1.(1)アに摘示する【請求項6】に示すように「筒状のねじ部装着具本体」を有しており、その「筒状のねじ部装着具本体」は、上記1.(1)ウ.に摘示する段落【0044】に示すように、筒状部66、ファンネル部67、筒状部68の内面及び先端部63の底面により囲まれる部分を有するものであって、ボルト9の先端95や面取り部73は、当該「囲まれる部分」の内部に配置された状態で、面取り加工が行われる。
面取り加工によって、ボルト9の先端95から金属粉が発生することは明らかであるところ、ねじ部装着具6の筒状部66、ファンネル部67、筒状部68の内面及び先端部63の底面により囲まれる部分の内部に、ボルト9の先端95及び面取り部73を配置して面取り加工を行えば、その加工によって金属粉が発生しても、当該金属粉は上記の「囲まれる部分」の内部にとどまるものと考えざるを得ない。
このような甲1発明の装置に、「円筒状のフード部」を設けることの容易想到性を検討するため、上記1.(2)エ.に摘示する甲第2号証記載の発明を参照すると、甲第2号証記載の発明は「カバー25」を備えているところ、上記1.(2)ウ.に摘示する段落【0018】に示すように、当該「カバー25」は、「グラインダ24と床面6との接触で発生した粉塵は周囲に巻き上がらずカバー25で囲まれる空間内に収まる」ように設けられたものである。そして、甲1発明の装置の金属粉は、上記の「囲まれる部分」の内部にとどまり、周囲に巻き上がるようなことはないから、甲1発明の装置に甲第2号証記載の発明の「カバー25」を設けるべき理由はない。
また、上記1.(6)及び(7)に摘示する甲第6及び7号証の記載事項を参照すると、「集じんカップ」、すなわち粉じんを収集するためのカップが示されているところ、甲1発明の装置の金属粉は、上記の「囲まれる部分」の内部にとどまり、上記の「囲まれる部分」の内部に収集されているといえるから、甲1発明の装置に、甲第6及び7号証の記載事項の「集じんカップ」を適用するべき理由はない。
したがって、上記1.(2)エ.に摘示する甲2号証記載の発明が公知であり、また、上記1.(6)及び(7)に摘示する甲第6及び7号証の記載事項の「集じんカップ」が周知の技術的事項であるとしても、甲1発明の装置に当該公知の発明や、周知の技術的事項を適用して、甲1発明の装置に「円筒状のフード部」を備え、「フード部は金属粉収集機構を有して」いるように構成することは、当業者が容易に想到できたものではない。

(4)むすび
以上のとおり、甲1発明における「切断したボルト9」に代えてトルシアボルトを適用することは、当業者が容易に想到できた事項ではなく、また、甲1発明の装置に「円筒状のフード部」を備え、「フード部は金属粉収集機構を有して」いるように構成することは、当業者が容易に想到できたものではないから、本件特許発明は、甲1発明、甲第2号証記載の発明、並びに、上記のとおり甲第4号証ないし甲第7号証に記載された従来周知の各技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

(5)その他の証拠について
上記1.(3)ウ.に摘示する甲第3号証記載の発明や、上記1.(8)ないし(9)に摘示する甲第8ないし9号証の記載事項を参照しても、甲1発明における「切断したボルト9」に代えてトルシアボルトを適用することは、当業者が容易に想到できた事項ではなく、また、甲1発明の装置に「円筒状のフード部」を備え、「フード部は金属粉収集機構を有して」いるように構成することは、当業者が容易に想到できたものではない。

4.無効理由1についてのむすび
本件特許発明は、甲1発明、甲第2号証及び甲第3号証記載の発明、上記のとおり甲第4号証ないし甲第7号証に記載された従来周知の各技術的事項、並びに甲第8ないし9号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。


第4.無効理由2についての当審の判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明を参照すると、「金属粉収集機構」に関して、以下の記載がある。
(1)段落【0022】
「また本発明では、金属粉収集機構(12H、15、16、19A、19B)を有しているので、端面加工装置(100、107、108、109、110)の外部に金属粉が拡散する以前の段階で、当該金属粉が収集される。そのため、金属粉が端面加工装置(100、107、108、109、110)外部に拡散してしまうことが、確実に防止される。」

(2)段落【0028】
「(前略)・・・・・
なお、バリ1dが除去される際に生ずる金属粉は、端面加工装置100に設けた凹部12H(金属粉収集機構)により収集される。」

(3)段落【0053】
「図13は第7実施形態を示す。
図1、図2の第1実施形態では、金属粉収集機構として、フード部12の下方に形成された凹部12Hを設けている。
しかし、たとえば垂直に延在するトルシアボルト1の破断面1cのバリを除去する際に発生する金属片の除去に際しては、図1及び図2で示す様な凹部12Hでは、金属粉の収集には不充分である。」

そして、上記(1)ないし(3)に摘示する記載から、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「金属粉収集機構」が記載されている。本件特許発明における「金属粉収集機構」が、発明の詳細な説明に記載されていないということはできない。
また、「金属粉収集機構」は、金属粉を集めるための機構を意味することは明らかであって、上記の(1)ないし(3)の記載は、いずれも金属粉を集めるための機構を開示しているから、本件特許発明における「金属粉収集機構」は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではない。
したがって、本件特許発明は、特許法第36条第6項第1号の要件に違反して特許されたものではない。


第5.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1に係る発明を無効とすることができない。審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-17 
結審通知日 2013-10-22 
審決日 2013-11-05 
出願番号 特願2008-300803(P2008-300803)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (B23D)
P 1 123・ 537- Y (B23D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関 義彦  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 久保 克彦
刈間 宏信
登録日 2009-08-07 
登録番号 特許第4354006号(P4354006)
発明の名称 端面加工装置  
代理人 柳野 隆生  
代理人 中村 智廣  
代理人 清永 利亮  
代理人 三原 研自  
代理人 柳野 嘉秀  
代理人 小原 英一  
代理人 森岡 則夫  
代理人 関口 久由  
代理人 特許業務法人東京アルパ特許事務所  

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