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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1287907
審判番号 不服2013-13293  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-11 
確定日 2014-05-14 
事件の表示 特願2008-309857「屋外用途に特に適した耐候性でインクジェット可能な放射線硬化性流体組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月14日出願公開、特開2009-102644〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13(2001)年11月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年11月9日、米国(US))を国際出願日とする特願2002-542010号の一部を平成20年12月4日に新たな特許出願としたものであって、平成24年1月20日付けの拒絶理由通知に応答して平成24年7月24日付けの手続補正書と意見書が提出されたが、平成25年3月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年7月11日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

なお、本願の原出願である特願2002-542010号に係る発明は、本願請求項1に係る発明と同一の発明であるが、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、当該出願は拒絶をすべきものである旨の審決(不服2008-28034号)が平成24年8月6日付けでなされ、その後、平成24年12月19日に当該審決が確定している。

2.本願発明
本願に係る発明は、平成24年7月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は次のとおりである(以下、「本願発明」という)。

「【請求項1】
(a)オリゴ/樹脂成分と;
(b)(i)1つ以上の複素環式放射線硬化性モノマーおよび/またはペンダントアルコキシル化官能性を含み、主鎖アルコキシル化官能性を含まないアルコキシル化モノマーを含む接着促進放射線硬化性成分と、
(ii)複数の放射線硬化性部分を有する1つもしくはそれ以上の多官能性モノマーと、
(iii)少なくとも60℃のTgを有する高Tg成分とを含む放射線硬化性反応性希釈剤と、
を含む組成物であって、
前記反応性希釈剤は、3個の放射線硬化性部分を有するモノマーを含まず、かつ複数の放射線硬化性部分を有する前記多官能性モノマーを0.5?25重量パーセント含み、
該組成物は、0.1?50重量パーセントの前記接着促進放射線硬化性成分を含み、そして
該組成物は、硬化状態で少なくとも50パーセントの伸びを有している、インクジェット可能な放射線硬化性インクジェットインク組成物。」

3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、特許法第36条第6項第1号に係る「理由1」は下記のとおりである。
「1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。・・・・・

・理由:1
・請求項:1?7
<備考>
本願発明は、オリゴ/樹脂と特定のモノマーとを組み合わせ、硬化状態での伸びの範囲を特定することにより、「低粘度、射出のための最適な表面張力、接着性、耐候性、耐久性、非粘着性、光沢、透明性及び耐摩耗性の硬化インクの所望の特性を同時に達成する」という課題の解決を目的としたものと認められるが、本願の発明の詳細な説明に記載された実施例は、いずれも本願請求項1に係る発明の発明特定事項を満たさないものであり(実施例1?8、10は「硬化状態で50%の伸び」の点がなく、実施例9aは2官能性モノマーが含まれておらず、実施例9bは(i)に規定する接着促進放射線硬化性成分の量が50.2重量%である。)、技術常識に照らしても、前記課題が解決することを技術的な裏付けをもって記載されたものとは認められない。
そうしてみると、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載されたものであって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
よって、請求項1?7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」

4.当審の判断
(1)明細書のサポート要件について
特許法第36条第6項は、「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号判決参照)。
そこで、以下、この観点から、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かについて検討する。

(2)本願発明
本願発明は上記の第2に記載されたとおりのものである(以下に、再掲する。)。
「(a)オリゴ/樹脂成分と;
(b)(i)1つ以上の複素環式放射線硬化性モノマーおよび/またはペンダントアルコキシル化官能性を含み、主鎖アルコキシル化官能性を含まないアルコキシル化モノマーを含む接着促進放射線硬化性成分と、
(ii)複数の放射線硬化性部分を有する1つもしくはそれ以上の多官能性モノマーと、
(iii)少なくとも60℃のTgを有する高Tg成分とを含む放射線硬化性反応性希釈剤と、
を含む組成物であって、
前記反応性希釈剤は、3個の放射線硬化性部分を有するモノマーを含まず、かつ複数の放射線硬化性部分を有する前記多官能性モノマーを0.5?25重量パーセント含み、
該組成物は、0.1?50重量パーセントの前記接着促進放射線硬化性成分を含み、そして
該組成物は、硬化状態で少なくとも50パーセントの伸びを有している、インクジェット可能な放射線硬化性インクジェットインク組成物。」

(3)本願発明の課題について
本願明細書の本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の課題に関し、以下の記載がある。
「本発明の放射線硬化性インクジェットインクは、低粘度、射出のための最適な表面張力のほか、接着性、耐候性、耐久性、非粘着性、光沢、透明性、および耐摩耗性の硬化インク特性の所望のインク特性を同時に達成することによって従来のインクの欠陥を克服する。」(段落【0011】)

この記載からみて、本願発明の課題は、「低粘度、射出のための最適な表面張力のほか、接着性、耐候性、耐久性、非粘着性、光沢、透明性、および耐摩耗性について、所望のインク特性を同時に達成することによって従来のインクの欠陥を克服した放射線硬化性インクジェットインクを提供すること」と認められる。

(4)本願明細書の発明の詳細な説明の記載について
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明について、課題の解決に関連して以下の記載がある。

a.「【0027】
…本発明の硬化組成物は…必要に応じて約50%超?約300%以上の伸びによって特徴づけることができる。約50%超の伸び特性を有する硬化組成物は、応力亀裂を減少させ、強靭性を改善するとともに、耐候性を改善するために有利に用いられる。…」

b.「【0034】
…粘度制御、硬化時の収縮の削減、耐久性、適応性、屋外耐候性、および/またはそのようなものを含めて多くの利点を提供するために本発明の流体組成物に1つ以上のオリゴ/樹脂を組込むことができる。…」

c.「【0043】?【0044】
反応性希釈剤は一般に1つ以上の放射線硬化性モノマー類を含む。所望の性能基準に従って、任意の放射線硬化性モノマーまたはそれらの組合せを反応性希釈剤に組込むことができる。…反応性希釈剤の放射線硬化性モノマー類は…オリゴ/樹脂成分(もしあれば)のための希釈剤または溶剤として、減粘剤として、硬化されると結合剤として、および架橋剤として機能する。…」

d.「【0046】?【0047】
多官能性放射線硬化性材料を反応性希釈剤に組込み、架橋密度、硬度、粘着性、耐受傷性等を含めて硬化フィルムの1つ以上の特性を増強することもできる。
…本発明の好ましい放射線硬化性の反応性希釈剤は、1つ以上の放射線硬化性モノマー類またはそれらの組合せで配合することができ、放射線硬化性組成物および/または得られた硬化組成物が1つ以上の性能基準を満たすのに役立つ。例えば、得られた硬化材料の硬度および耐摩耗性を促進するために、本発明の流体組成物は放射線硬化性モノマー(類)(以下、「高Tg成分」)を組込むこが有利でありうるが、それらの存在により、硬化材料、またはそれらの一部は、このような高Tg成分を欠く別の点では同一の材料に比べ、高いガラス転移温度、Tgを有することになる。…」

e.「【0049】
放射線硬化の前と特に後の両方で接着性を促進するために、本発明の流体組成物は、放射線硬化性モノマー(類)(以下、「接着促進成分」)を組込むこが有利でありうるが、それらの存在により、非硬化および/または硬化材料は、このような接着促進成分を欠く別の点では同一の材料に比べ、所望の受容基材に対する高い接着性を有することになる。…」

f.「【0119】?【0169】、【0177】?【0180】
実施例1
一連の無着色UV硬化性透明インク(試料1a?1k)を調製した。以下の表に示されているように、指示オリゴ/樹脂を指示比のモノマー類および2重量パーセントのIRGACURE 184光開始剤と結合した。各試料について、全成分をガラスジャーに配置し、ジャーミルのローラー上で転動することによって一夜、混合させた。
組成物の物理特性を測定し、それらの射出反応を観察した。第1表は試料の組成、粘度、表面張力、および見かけ弾性を示す。

…試料を10、12、および14cPの粘度(所望粘度はプリントヘッドを加熱することによって達成した)で射出した。…プリントヘッドへのパルス適用点から100マイクロ秒の遅延時間後にインクの液滴粘度を測定した。…結果を第2表に示す。
射出性能を評価するために、各試料について以下のパラメータを測定した(第2表に示す):射出後100マイクロ秒での液滴粘度(射出条件:パルス幅=16マイクロ秒;射出電圧=45V;流体の10cP粘度を達成するための温度);ノズルからの液滴剥離時間;付随体の有無;付随体の数および形状;射出を開始するために必要な最小電圧(射出条件:パルス幅=16マイクロ秒;流体の12cP粘度を達成するための温度);およびノズルでの液体蓄積。

#6Meyerバー(RD Specialties(Webster、NY)を用いて各透明インクをHIシーティング上にコーティングし、10?12ミクロンの名目湿フィルム厚さを得、…以下の条件下に直ちに硬化した:通常/通常設定、50フィート/分、窒素パージ、200?240mJ/cm^(2)。
…選択されたクリアコート配合物の初期および風化または機械的摩耗後維持された硬化フィルム特性を第3表に示す。

第3表の値は、ASTM G155サイクル1に従い行われた4000時間のキセノン-アーク曝露後のデータを示す。

実施例2
81.25部C.I.ピグメントレッド179、81.25部のC.I.ピグメントレッド224、40.63部のEFKA 4046(乾燥)、67.03部のHDDA、286.0部のEEEA、および93.84部のIBOAからミルベース(ミルベース2)を調製した。…
処理および特徴づけの後、オリゴマーおよび追加のEFKA材料でミルベースを希釈し、以下の割合で組成物Aを調製した:53.0部の赤色ミルベース(処理後)、37.0部のSartomer CN964 B-85;0.44部のEFKA 4046(乾燥)。…
光開始剤および追加のモノマー類で組成物Aを希釈することによって完全に配合した赤色インク(インク2)を調製した。重量に基づくインク2の最終組成は以下のとおりであった:4.25部のC.I.ピグメントレッド179、4.25部のC.I.ピグメントレッド224、10部のHDDA、14部のIBOA、42部のEEEA、20部のSartomer CN964-85、3部のEFKA 4046、および2.5部のIRGACURE 819。
インク2は、0.97のべき法則指数、32.4cPの25℃および1000s^(-1)での粘度、および52℃、1000s^(-1)で10cPの粘度を有した。

様々な基材上に文字データおよび線パターンを印刷した。…
印刷画像を2つの方法で硬化した:
硬化方法1:EFOS ULTRACURE 100SSパルスランプ(EFOS Corp.(カナダ、Missisaugua、Ontario))からのUV光を、プリントヘッドに近い位置まで光ファイバ製フレキシブル接続体によって伝達した。この構成では、印刷と硬化との経過時間はほんの一瞬であった。硬化中に窒素パージを用いた。光の強度は完全な硬化のためには十分ではなかった。したがって、上記の実施例1に記載した窒素パージによるUVプロセッサを用いたオフラインで硬化を完了した。
硬化方法2:インクを実施例1におけるように印刷、硬化した。印刷と硬化との経過時間は約5分であった。
光学顕微鏡を用いて単一の印刷ラインの幅を測定した。これらの値は、インクフローとドットゲインに関係し、それらは画像の質と相関した。
上述したASTM D 3359-95Aに従い異なる基材上のインクの接着性を測定した。結果を第4表に示す。

実施例3
4.25部のC.I.ピグメントレッド179、4.25部のC.I.ピグメントレッド224、7.9部のHDDA、27.7部のIBOA、27.7部のEEEA、20.0部のEBECRYL 8402、1.42部のEFKA 4046、2.75部のIRGACURE 819、3.0部のTINUVIN123、および1.0部のTINUVIN 400から実施例2におけるように赤色インク(インク3)を調製した。
市販の溶剤系スクリーン印刷インク(3Mスクリーン印刷インクシリーズ880I、第5表)との比較にために、このインクの精選されたフィルム特性を評価した:

実施例4
実施例2におけるように45分間にミル粉砕により40部のBAYER YELLOW Y568を8.25部のSOLSPERSE 32000、および35部のTHFFAを結合することによって黄色ミルベース(ミルべース4)を調製した。
20部のミルベース4、30部のオリゴマーA、33部のTHFFA、30部のIBOA、30部のEEEA、20部のNVC、10部のHDDA、4部のTINUVIN 292、1.8部のSTABAXOL I、0.2部のIRGANOX 1035、12部のIRGACURE 819、4部のIRGACURE 651、4部のIRGACURE 369、2部のIPTXから実施例2におけるように黄色インク(インク4)を調製した。
25部の上記インク4にSF96-100流動剤0.1グラムを添加し、表面張力を25℃で23.5dynes/cmに削減した。得られた粘度は25℃で17.6cPであった。
…180-10ビニルフィルムおよびDGシーティング上に解像度317×285dpiで試験パターンを印刷した。すべてのフィルムを実施例1に記載したとおりに硬化した。硬化インクは両方の基材上で100%の粘着を示した。180-10ビニル上では122ミクロンのドット径が確認され、DGシーティング上では160ミクロンのドット径が確認された。

実施例5
実施例2のように70分間のミル粉砕により、33.3部のCIBA RT-343-Dピグメント、9.9部のSOLSPERSE 32000、および57.1部のTHFFAを結合することによって赤紫色ミルベース(ミルベース5)を調製した。
2.5部のミルベース5、5部のCN 964B85、3.9部のHDDA、7.5部のEEEA、5.25部のIBOA、1.5部のDAROCUR 4265、および0.1部のTEGORAD 2500から実施例2におけるように赤紫色インク(インク5)を調製した。
…グラフィックスを印刷した。印刷画像を実施例1に記載したように硬化した。印刷画像は、十分なドットゲインとともに180-10ビニル上で優れた流動および湿潤を示し、完全な固体充填パターンが得られた。硬化フィルムが光沢があり、べとつきはなかった。

実施例6
実施例2におけるように0.5mmジルコニア媒体を用いたNetzsch Mini-Zetaビードミルを用いて、ミルベース6a、6b、6c、および6dを調製した。
黄色ミルベース(ミルベース6a)は、33部のBAYER Y-5688顔料、9.9部のSOLSPERSE 2000、および57.1部のTHFFAを含み、70分間ミル粉砕された。
赤紫色ミルベース(ミルベース6b)は、33.3部のCIBA RT343-D顔料、11.55部のSOLSPERSE 32000、および55.45部のTHFFAを含み、90分間ミル粉砕された。
シアンミルベース(ミルベース6c)は、22.9部のSun 249-1284顔料、25.4部のSOLSPERSE 5000、10.2部のSOLSPERSE 32000、および41.5部のTHFFAを含み、70分間ミル粉砕された。
黒色ミルベース(ミルベース6d)は、25部のLampblack LB-1011、5部のSOLSPERSE 32000、および70部のTHFFAを含み、45分間ミル粉砕された。
以上のミルベースからインク6a、6b、6c、および6dを以下の配合を用いて実施例2の方法に従い調製した。

180-10ビニルフィルム上にべとつきのない光沢フィルムを生成する2個の中圧Hgランプを用いた200mJ/cm^(2)の曝露で空気中で4つのインクはすべて十分な硬化を示した。インクの物理特性を第6表に示す。

実施例7
実施例6と同じミルベースを用いて一連の4つのプロセスカラーインクを調製した。組成を第7表に示す。

180-10ビニルフィルム上にべとつきのない光沢フィルムを生成する2個の中圧Hgランプを用いた150mJ/cm^(2)の曝露で空気中で4つのインクはすべて十分な硬化を示した。インクの他の物理特性を第8表に示す。

実施例8
25部のオリゴマーA、21.7部のTHFFA、12.6部のEEEA、12.6部のIBOA、2.5部のHDDA、10部のNVC、2.9部のLAMPBLACK LB 101顔料、0.68部のSOLSPERSE 32000、2.部のTINUVIN 292、0.1部のIRGANOX 1035、0.9部のSTABAXOL I、0.2部のCOATOSIL 3573流動剤、3.76部のIRGACURE 819、2.5部のIRGACURE 651、1.26部のIRGACURE 369、および1部のIPTXから実施例2におけるようにインク8を調製した。
…インク8を11マイクロメートルの湿厚さでコーティングした。これらの試料を市販の硬化性インクジェットと比較した:Spectra Inc.(Hanover、NH)より得られるJET 7537ブラックUVインクジェットインク。
硬化インク層を有する180-10ビニルのそれぞれに折り目をつけた。JET 7537ブラックUVインクジェットインクは折り目でひびが入ったが、インク8はどんなひびも示さなかった。
接着性も測定し、その結果を第9表に示す。

ASTM G155、サイクル1に従い行われた2000時間のキセノン-アーク曝露後、硬化印刷インクを第10表に示すように評価した。…


実施例10
モルフォリン付加物を調製して光沢促進剤として用いた。
…中程度の速度(約70rpm)で混合しながらテトラエチレングリコールジアクリレート(256g)をフラスコに添加した。液体の温度を上昇させた。温度が46.1℃を超えないような速度でモルフォリン(155g)をフラスコに添加した。温度制御バスを43.3℃に設定し、フラスコの内容物を30分間混合した。フラスコ上の真空を遮断し、反応生成物(T-4モルフォリン)を25ミクロンフィルタを通じて容器に傾瀉した。 実施例11
それぞれの配合が、それぞれ異なる光沢促進剤を含むことを除き同一の試料(A?E)を調製した。試料の硬化特性を測定した。配合(重量部の固体)および結果を第12表に示す。



g.「【0170】?【0176】
実施例9
本発明のインクの伸びを測定し、同等の市販のインクジェットインクと比較した。
インク9aを実施例2におけるように以下の配合で調製した:2部のSUN BLACK予備分散型顔料、25部のオリゴマーB、20部のTHFFA、18部のIBOA、18部のEEEA、10部のNVC、2部のTINUVIN 292、3部のIRGACURE 819、2部のIRGACURE 651、0.5部のIRGACURE 369、および1部のIPTX。
インク9bを実施例2におけるように以下の配合で調製した:3部のブラックミルベース6d、6.5部のオリゴマーB、7部のTHFFA、7部のIBOA、7部のEEEA、1.5部のHDDA、2.5部のNVC、0.6部のTINUVIN 292、0.9部のIRGACURE 819、0.6部のIRGACURE 651、0.15部のIRGACURE 369、および0.3部のIPTX。
#8Meyerバー(名目湿厚さ8マイクロメートル)を用いてSCOTCHCAL 180-10ビニルフィルム上にインク9a、インク9b、およびSpectra Jet 7537インクをコーティングした。
材料試験システムモデル880サーボハイドロリックテスター(MTS Systems Corp.(Minneapolis、MN))およびASTM法D-3759を用いて硬化試料の伸びを測定した。1インチ幅の試料を調製し、2インチのジョーセパレーションで固定した。
試料を12インチ/分で引張った。伸び率を破断点またはインク層間剥離点で、どちらか最初に生じた場合に記録した(第11表)。



h.「【0087】?【0088】
本発明を以下の例示的な実施例に関してさらに説明する。以下の略語を実施例の全体を通じて用いる:



i.「【0045】?【0048】
反応性希釈剤における使用に適した1官能性の放射線硬化性モノマー類の代表的な例としては、…イソボルニル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、…、N-ビニルカプロラクタム、…、イソオクチル(メタ)アクリレート、…、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート…等が挙げられる。
…高官能性の放射線硬化性モノマー類の例としては、…へキサンジオールジ(メタ)アクリレート…等が挙げられる。

高Tg成分に組込むために適した比較的高いTg特性を有する傾向がある放射線硬化性モノマー類の例示的なクラスは、少なくとも1つの放射線硬化性(メタ)アクリレート部分および少なくとも1つの非芳香族の脂環式および/または非芳香族の複素環式部分を含む。イソボルニル(メタ)アクリレートは1つのこのようなモノマーの具体的な例である。」

j.「【0072】?【0077】
…本発明に適した光開始剤を生じる市販のフリーラジカルとしては、…IRGACURE…が挙げられる…。
…硬化速度を改善するために共開始剤およびアミン共力剤を含めることができる。例としては、イソプロピルチオキサントン…が挙げられる。

フリーラジカル捕捉剤は…ヒンダードアミン光安定剤(HALS)化合物…等が挙げられる。
市販のHALS化合物としては、TINUVIN 292…が挙げられる。」

(5)判断
(ア)発明の詳細な説明の実施例の記載について
まず、本願明細書の発明の詳細な説明の実施例(実施例1?11)の記載について、摘記f?jの事項(摘記h?jは実施例で使用された化合物、試薬についての説明事項。)を参照して、本願発明の発明特定事項を満たす実施例の有無について検討する。
実施例1?8、10、11には、組成物を構成する成分について記載されているが、「硬化状態で50%の伸び」を有するか否かについては、何ら記載されていない(摘記f)。
また、実施例9aについては、硬化状態の伸び率が170%であって、「硬化状態での少なくとも50%の伸び」を有することは記載されているものの、その構成成分については、「オリゴ/樹脂成分」にあたる「オリゴマーB」、「接着促進放射線硬化性成分であるb(i)成分」にあたる「THFFA」、「EEEA」、「NVC」、及び、「放射線硬化性反応性希釈剤であるb(iii)成分」にあたる「IBOA」を含むが、「多官能性モノマーであるb(ii)成分」にあたる成分を含まないものである(摘記g)。
実施例9bについては、硬化状態の伸び率が128%であって、「硬化状態での少なくとも50%の伸び」を有することは記載されているものの、その「接着促進放射線硬化性成分であるb(i)成分」の量が50.2重量%であって、「0.1?50重量%の前記接着促進放射線硬化性成分を含」むものではない点で本願発明の発明特定事項を満たすものとはいえない(なお、実施例9bの(b)(i)成分の量について補足すると次のとおりである。段落【0172】のインク9bの組成の記載よりみて、インクの全体量は、3部+6.5部+7部+7部+7部+1.5部+2.5部+0.6部+0.9部+0.6部+0.15部+0.3部=37.05部である。また、段落【0172】の記載、及び、【0154】のブラックミルベースの組成の記載よりみて、(b)(i)成分として、ペンダントアルコキシ含有モノマーEEEAは7部、複素環式硬化性モノマーTHFFAは9.1部(うち、2.1部はブラックミルベースに由来(=3部×70部/100部)。)、複素環式硬化性モノマーNVCは2.5部含有されると認められる。よって、(b)(i)成分の量は、(7+9.1+2.5)/37.05=50.2重量%と認められる。)(摘記g)。

以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例はいずれも、本願発明の発明特定事項のすべてを満たすものとはいえない(すなわち、実施例1?8、10、11は硬化状態での伸び率が不明であって「硬化状態で少なくとも50%の伸び」を有するという条件を満たすものといえないし、実施例9a、9bは、(b)(i)成分乃至(b)(ii)成分についての条件を満たさないものである。)。

このように、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例の記載はいずれも、本願発明の課題に係る特性のうちの幾つかを満たすことを示すものではあっても、本願発明の課題である「低粘度、射出のための最適な表面張力のほか、接着性、耐候性、耐久性、非粘着性、光沢、透明性、および耐摩耗性の硬化インク特性の所望のインク特性を同時に達成すること」を当業者が確認し得るものとは、認められない(本願発明の課題に係る特性等として、実施例1において確認されているのは、粘性、表面張力、見掛け弾性、耐候性、光沢、耐摩耗性であって、接着性、非粘着性、透明性については記載されていないと認められる(摘記f)。また、実施例2?8、10、11において、本願発明の課題に係る特性等として確認されているのは、それぞれ、実施例2では粘性、見掛け弾性、硬化性、粘着性、実施例3では光沢、耐摩耗性、実施例4では表面張力、粘性、硬化性、実施例5では光沢、非粘着性(べたつき)、実施例6では反射率光学濃度、表面張力、粘性、実施例7では反射率光学濃度、粘性、実施例8では粘着性、光沢、耐久性、実施例10、11では光沢促進剤についての粘性、表面粘着性、硬化性、耐摩耗性(耐受傷性)と認められる(摘記f)。また、実施例9a、9bにおいて記載されたデータは、硬化インクの伸びのみと認められる(摘記g)。)。

(イ)発明の詳細な説明の記載全体について
上記(ア)を踏まえて、本願明細書の発明の詳細な説明の記載全体について検討する。

本願明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例に係る放射線硬化性インクジェットインク組成物はいずれも、本願発明の発明特定事項のすべてを満たすものとはいえないし、また、先に摘記したa?eにおいても、「硬化状態での少なくとも50%の伸び」とすることの目的については記載されている(摘記a)としても、成分(a)?(c)を構成成分とする放射線硬化性インクジェットインク組成物において、本願発明の発明特定事項である「硬化状態での少なくとも50%の伸び」を達成する方法が技術的な裏付けをもって開示されているとも認められない。
そして、特許請求の範囲に記載された発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であって発明の課題を解決できるものと認識し得るものであるためには、発明の詳細な説明に、特許請求の範囲に記載された発明特定事項を備えた発明品を得る方法が技術的な裏付けをもって開示がされ、それによって課題の解決がされることが確認し得るように記載されていることが必要であるものと認められる。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明には、成分(a)?(c)を構成成分とし、かつ、硬化状態での少なくとも50%の伸びを有する放射線硬化性インクジェットインク組成物に係る本願発明品についての実施例はなく、それを得る方法が技術的な裏付けをもって開示されているともいえないのであるから、本願明細書の発明の詳細な説明に、特許請求の範囲に記載された発明が技術的な裏付けをもって開示されているものとは認められない。
そして、樹脂含有組成物の硬化時の伸びが、使用する樹脂の種類、使用する可塑剤、共重合や導入される側鎖などの種々の要因によって変化することは技術常識と推認されること(例えば、特開平8-104714号公報の段落【0020】には、「通常用いられる架橋剤…を用いた場合には架橋剤の量を増していくと…伸び特性が悪くなり」と架橋剤の量によって樹脂含有組成物の伸びが変化することが記載されている。また、「塗装の事典」吉田豊彦等編(朝倉書店)1980年4月30日発行、第244頁第7?12行には、樹脂含有組成物が塗料である場合であるが、「割れの発生は塗膜の性質に依存する…一般的な対策をあげると次のようである.(1)バインダーを内部可塑化または外部可塑化(可塑剤の配合)して硬くて伸びの大きい塗膜にすること…」と、樹脂含有組成物であるバインダーに可塑剤を配合したり、内部可塑化、すなわち、共重合や側鎖の導入、を行ったりすることによって塗料の硬化時の伸びが変化することが記載されている。)を考慮すると、本願発明に係る成分(a)?(c)を含有する放射線硬化性インクジェットインク組成物の場合において硬化状態での伸びを少なくとも50%のものとする方法が自明であるとすべき技術常識が存在するものとは認められないから、技術常識に照らしても、本願明細書の発明の詳細な説明に、特許請求の範囲に記載された発明について、技術的な裏付けをもって開示されているものとは認められない。

また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施例の記載等を参照しても、低粘度、射出のための最適な表面張力のほか、接着性、耐候性、耐久性、非粘着性、光沢、透明性、および耐摩耗性の硬化インク特性の所望のインク特性を「同時」に達成するという本願発明の課題の達成について確認したものとはいえない。

そうすると、本願発明については、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとは、出願時の技術常識に照らしても認められないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではない。

なお、請求人は審判請求の理由において、「表1に記載されたインクの実験データ(追加試験の結果)を参酌すれば、本願発明が、本願明細書に記載の通りの効果を発揮し、「インクジェットインクとして使用した場合に、低粘度及び射出のために最適な表面張力を実現することができるばかりでなく、例えば接着性、耐侯性、耐久性、非粘着性、光沢、透明性、耐摩耗性といったインク特性を達成することができる」という本願発明の課題が実際に解決可能であることは明らかです。」と主張し、追加試験の結果を記載した「表1」についてさらに、「要するに、当業者は、表1に記載されたインクの実験データを見て初めて、本願発明が請求項1に記載の発明特定事項を備えることにより、本願発明の課題を解決できることを認識するわけではないのです。すなわち、実験データは、本願明細書に当初から記載されていた技術内容を確認するものであり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を補完して、その理解を助ける役目を果たすものであるのです。」と述べて、結論として「本願発明の課題及び課題解決手段ならびにその効果は、本願明細書の発明の詳細な説明に明確に記載されているということができます。よって、当業者が発明の詳細な説明の記載を参酌すれば、発明の詳細な記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるのです。」と主張している。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例に係る放射線硬化性インクジェットインク組成物はいずれも、本願発明の発明特定事項のすべてを満たすものとはいえないし、また他の記載においても、成分(a)?(c)を構成成分とする放射線硬化性インクジェットインク組成物において、本願発明の発明特定事項である「硬化状態での少なくとも50%の伸び」を達成する方法が技術的な裏付けをもって開示されているとはいえないのは上述のとおりであるから、上記実験データは、「本願明細書に当初から記載されていた技術内容を確認」し、かつ「本願明細書の発明の詳細な説明の記載を補完して、その理解を助ける」ものとはなり得ず、当業者は審判請求の理由において示された表1に記載されたインクの実験データ(追加試験の結果)を見て初めて、本願発明が請求項1に記載の発明特定事項を備えることにより、本願発明の課題を解決できることを認識するものというべきである。したがって、請求人の上記主張は理由がない。
加うるに、本願発明と同一の発明である特願2002-542010号の請求項1に係る発明について、本願発明と同じ理由により拒絶をすべきものである旨の審決がなされ、しかも請求人には該審決に対する訴えを提起する機会があったにもかかわらず、当該審決はそのまま確定している。したがって、確定した審決に記載されている理由と同じ理由に対して、あらためて反論を行うことは許されないというべきである。

5.むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではなく、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないものであるから、その余の点について検討するまでもなく、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-03 
結審通知日 2013-12-10 
審決日 2013-12-24 
出願番号 特願2008-309857(P2008-309857)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C09D)
P 1 8・ 537- Z (C09D)
P 1 8・ 121- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桜田 政美  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 菅野 芳男
新居田 知生
発明の名称 屋外用途に特に適した耐候性でインクジェット可能な放射線硬化性流体組成物  
代理人 石田 敬  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 出野 知  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 胡田 尚則  

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