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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04Q
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1287970
審判番号 不服2012-4687  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-03-12 
確定日 2014-05-19 
事件の表示 特願2010-161233「通信回路」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月16日出願公開、特開2010-283851〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明

1.手続の経緯
本願は,平成11年10月28日(優先権主張 1998年(平成10年)10月28日 米国)を出願日とする出願の一部を平成22年7月16日に新たな特許出願として出願したものであって,平成23年11月7日付けで拒絶査定され,平成24年3月12日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされ,平成25年3月11日付けで拒絶理由を当審から通知し,平成25年9月12日付けで意見書とともに手続補正書の提出がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成25年9月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(下線は請求人が付与。)。

【請求項1】
通信回路であって、
各々の時間スロットの前半内で前記通信回路の外部の源からの第1の制御信号と第1の電力制御信号とを受信し、前記各々の時間スロットの前半内で前記第1の電力制御信号を復調する処理回路を含み、
前記処理回路は、第2の制御信号と第2の電力制御信号とを生成し、前記第2の電力制御信号が前記第1の制御信号によって決定され、前記第2の電力制御信号が前記第2の制御信号に接近して生成される、
通信回路。


第2 引用例及び引用発明

平成25年3月11日付けで当審から通知した拒絶理由に引用した,いずれも本願優先日前に頒布された刊行物である特開平10-51424号公報(平成10年2月20日公開。以下「引用例1」という。)及び特開平10-135904号公報(平成10年5月22日公開。以下「引用例2」という。)には,それぞれの次の事項が記載されている(下線は当審が付与。)。

1.引用例1
引用例1には,図面とともに次の事項が記載されている。

(1) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、情報レートより高速の拡散符号で広帯域の信号に拡散して多元接続伝送を行うCDMA方式に準拠した復調装置に関するものである。
【0002】さらに詳述すると、本発明は、高速フェージング環境における音声・データ伝送を行う移動通信方式に適用できるCDMA復調装置に関するものである。」

(2) 「【0014】
【発明の実施の形態】まず、本発明を適用したCDMA復調装置の動作原理を図3に従って説明する。フレーム構成は、送信パターン(1次変調が位相変調の場合には位相)既知のパイロットシンボルを情報データシンボルの間に一定周期で挿入する構成を有する。このパイロットシンボルでの受信チャネル(位相,振幅)を参照信号として、パイロットシンボル間の情報シンボルのチャネル変動を推定する。
【0015】DS-CDMAの上りチャネルにおいては、他ユーザからの相互相関に起因する干渉信号に対してSIRを確保するために瞬時のレイリー変動に追従する送信電力制御を行う。従って、実際の送信機出力信号は、図3に示すようにスロット(パイロットブロック)単位で送信電力制御を行うために送信信号の振幅(電力)はスロット単位で変化し、また送信増幅器の動作により位相も僅かに変化する。
【0016】そこで、図3中の左下がり斜線を施してあるスロットにおけるチャネル推定について説明する。この場合、従来の方法においては、この情報データシンボルの両端のパイロットブロックのパイロットシンボルのみを用いてこの間の情報データシンボルのチャネルを求めていたが、実際の移動伝搬環境においては、熱雑音(送信電力をできるだけ低減するために、特にセル端では雑音リミテッドな環境になる)、および、他ユーザからの相互相関に起因する干渉信号が、自チャネルの希望波信号に加わるためにチャネル推定精度は劣化する。
【0017】従って、図3に示すようにより多くのスロットのパイロットシンボルを用いてチャネル推定を行うことにより、チャネル推定精度を向上させることができる。この場合、上述のようにスロットが異なるパイロットブロック間では送信信号の電力も異なるが、この差に起因するチャネル推定誤差よりもより多くのパイロットシンボルを平均化することによる熱雑音,干渉信号の影響の低減効果の方が大きいために、チャネル推定精度を向上させることができる。
【0018】実施の形態1
図1は、第1の実施の形態を示すブロック図である。本図において、2はマッチトフィルタ、4はメモリ、6はスロット同期検出部、8はパイロットシンボル平均化手段、10は遅延手段、12は複素パイロットブロックチャネル推定手段、14は乗算器、16はRAKE(レイク)合成手段、18は送信電力制御データ位相変動補償・判定手段を示す。
【0019】次に、図1に示したCDMA復調装置の動作を説明する。
【0020】まず、マッチトフィルタ2に受信拡散信号を入力し、入力された受信データ系列を各ユーザの各マルチパスの受信タイミングに応じた拡散符号レプリカを用いて逆拡散する。逆拡散した、シンボル周期の受信データ系列をメモリ4に蓄積する。スロット(パイロットブロック)同期検出部6では、パイロットシンボル位置の検出を行う。パイロットシンボル平均化手段8では、このタイミング情報から、各パイロットブロック内の数シンボルのパイロットシンボルでの受信チャネルを平均化して各パイロットブロック毎のチャネルを推定する。
【0021】この各パイロットブロックでの推定チャネル情報を遅延手段10に入力してタイミングをそろえ、複数パイロットブロックチャネル推定手段12で、2K個の各パイロットブロックでのチャネル推定値を重み付き加算することにより、平均化して求める。図3ではK=3の場合を示している。
【0022】このようにして得られたチャネル推定値(複数パイロットブロックチャネル推定手段12の出力)を図3に示した左下がり斜線部分の各情報シンボルにおける共通のチャネル推定値とする。このチャネル推定値により各情報シンボルのフェージング位相変動を補償し、位相変動補償後の信号をRAKE合成手段16で同相合成する。
【0023】一方、各パイロットブロックの直後の送信電力制御データについては、各パイロットブロックでのチャネル推定値(パイロットシンボル平均化手段8の出力)を、そのまま送信電力制御シンボルのチャネル推定値として、フェージング位相変動を補償し、データ判定する(送信電力制御データ位相変動補償・判定手段18)。」
(公報第3ページ第4欄-第4ページ第6欄)

(3) 「【0045】
【発明の効果】以上説明した通り本発明によれば、高精度なチャネル推定が実現できるため、このチャネル推定を用いる絶対同期検波により、所要の受信品質(受信誤り率)を得るために必要な、信号電力対干渉電力比(SIR)を低減できる。その結果として送信電力を低減することができるため、システムの加入者容量を増大することができる。
【0046】すなわち、移動通信環境においては所要の誤り率特性を得るために誤り訂正方式が用いられるが、このとき復調器の動作点は誤り訂正を用いない場合と比較して、低Eb/N0(1ビットあたりの信号電力対雑音電力比)の領域での動作となる。そのためパイロットシンボルが雑音によって劣化し、正しい伝送路の推定が行われなくなるという問題があったが、本発明によれば、複数のパイロットブロックを重み付け平均化することにより、SNRの向上したパイロットシンボルとすることができる。かくして、より高精度な伝送路変動推定・補償を行うことを可能とした復調装置が実現できる。」
(公報第6ページ第9-10欄)

上記記載及び図面の記載を技術常識に照らせば,次のことがいえる。

a) 引用例1記載の「CDMA復調装置」が受信する信号が,「送信機」からのものであること,さらに,該「送信機」が上記CDMA復調装置の外部のものであることは,明白である。

b) 引用例1記載の「送信電力制御データ」が,信号として,CDMA復調装置において,受信され,復調されることによって得られることは明らかである。
このことは,引用例1に記載された「CDMA復調装置」が,該「送信電力制御データ信号」を受信し,復調することを意味する。つまり,該「CDMA復調装置」は,上記「送信電力制御データ信号」を復調する「処理回路」を含んでいることを意味している。

ここで,引用例1における【0023】(ほかに【0028】,【0031】,【0033】,【0036】,【0038】,【0041】,【0044】参照。)の記載によれば,引用例1には,「送信電力制御データ」がパイロットブロックの直後のものであると記載されている。つまり,引用例1における図3?図7に記載された「TPCビット」が,上記「送信電力制御データ信号」としてCDMA復調装置に受信されることは明白である。

これらのことは,引用例1記載の「CDMA復調装置」において,「送信電力制御データ信号」を「復調する」のが各々の時間スロットnの前半内であることを示している。
また,上記「CDMA復調装置」が受信する信号を送信する「送信機」が,送信電力データ信号をパイロットブロックに接近して生成していることは明らかである。

以上によれば,引用例1には,次の発明(以下「引用例記載発明」という。)が開示されているといえる。

「各々の時間スロットの前半内でCDMA復調装置の外部の送信機からのパイロットブロックと送信電力制御データ信号とを受信し,前記各々の時間スロットの前半内で前記パイロット信号及び前記送信電力制御信号とを復調する処理回路を含む,
CDMA復調装置。」

さらに,引用例1は,「CDMA復調装置」が「パイロットブロック」とその直後の「送信電力制御データ信号」とを受信することを開示しているといえるものである。つまり,引用例1は,次の技術(以下「引用例1記載技術」という。)を開示していること示している。

「送信機において,送信電力制御データ信号がパイロットブロックに接近して生成される」技術。

2.引用例2
引用例2には,図面とともに次の事項が記載されている。

(1) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、双方向の通信を行うセルラー方式の移動通信システムにおける送信電力制御方式に関する。」

(2) 「【0006】図5乃至図7は、上述したような送信電力制御を行なうために必要とされる受信波レベルを求める従来例を説明するための図である。
【0007】図5は、フレームごとに符号化されて送信され、複数のスロットからなる音声データを示す図である。各フレームを構成するスロットは、第1スロット以外はパイロット(PL)、TPCビット、音声データから構成されている。フレームの先頭となる第1スロットは音声データの代わりにフレーム制御データが含まれる。
【0008】第1スロット内のパイロットは4シンボルPL1,PL2,PL3,PL4からなり、通信はQPSK変調により行われている。
【0009】図6(a)は受信したパイロットシンボルPL1,PL2,PL3,PL4をIQ平面で表わした図であり、図6(b)は、受信したパイロットシンボルから各シンボルのパワーを算出し(2乗化)、その平均値により求めた受信波レベルを示す図である。図7は、基地局または移動局に配置され、受信したパイロットから、送信電力制御命令を作成するための装置の構成を示す図である。
【0010】図7に示される従来例は、2乗化器61、平均化器62、比較器63から構成されており、2乗化器61では受信したパイロットシンボルから各シンボルのパワーを算出し、平均化器62では2乗化器61にて算出されたパワーを平均することにより受信波レベルを求め、比較器63では受信波レベルを基準値と比較した結果に応じて送信電力の大きさを制御する送信電力制御命令を生成する。
【0011】上記のような装置を備える基地局および移動局において、受信波レベルの測定は通話中に周期的に実行され、基地局(あるいは移動局)は受信波レベルと基準値とを比較する。その結果、受信波レベルが基準値以上であれば、基地局(あるいは移動局)は送信電力を減少させる命令を移動局(あるいは基地局)に対して送出する。この命令を受信した移動局(あるいは基地局)は直ちにその送信電力を予め定められた制御ステップ幅だけ減少させる。受信波レベルが基準値未満の場合には、基地局(あるいは移動局)は送信電力を増加させる命令を移動局(あるいは基地局)に対して送出する。この命令を受信した移動局(あるいは基地局)は直ちにその送信電力を予め定められた制御ステップ幅だけ増加させる。このような制御を行うことにより受信波レベルをほぼ基準値に保つことができる。」

上記記載を技術常識に照らせば,受信したパイロットシンボル(PL)から,作成される「送信電力制御命令」が,「TPCビット」として,「基地局(あるいは移動局)」から「移動局(あるいは基地局)」に対して,少なくとも「パイロットシンボル」及び「音声データ」とともに送出されることは,明らかである。

そして,引用例2記載の「移動局」及び「基地局」はいずれも通信を行うための「通信回路」を有し,該「通信回路」が「送信電力制御命令(「TPCビット」)」,「パイロットシンボル」及び「音声データ」を受信し,復調する処理回路を有することは当然である。
また,上記「移動局」及び上記「基地局」は,信号を送信する機能を有するものであって,この信号を送信する点において,信号の「源」といえるものである。つまり,上記「移動局」及び上記「基地局」は互いに「外部の源」であるといえるものである。
そして,引用例2記載の「パイロットシンボル」,「送信電力命令(TPCビット)」は,それぞれ,本願発明における「制御信号」,「電力制御信号」といえるものである。
さらに,上記「移動局」及び上記「基地局」は,受信した「パイロットシンボル」から,「送信電力制御命令」を生成するのであるから,その生成のための「処理回路」を有することは当然である。

以上によれば,引用例2は,次の技術(以下「引用例2記載技術」という。)を開示していることを示している。

「移動局及び基地局が有する通信回路であって,
前記通信回路の外部の源からの第1の制御信号と第1の電力制御信号とを受信し,前記第1の電力制御信号を復調する処理回路を含み,
前記処理回路は,第2の制御信号と第2の電力制御信号とを生成し,前記第2の電力制御信号が前記第1の制御信号によって決定される」技術。


第3 当審の判断

1.対比
本願発明と引用例記載発明を比較すると次のことがいえる。

・ 引用例記載発明における「CDMA復調装置」は,信号を受信し復調する通信回路といえるものである。つまり,引用例記載発明は,CDMA復調装置を備えた通信回路といえる。
よって,本願発明と引用例記載発明はともに「通信回路」の点で共通する。
・ 引用例記載発明における「CDMA復調装置」に対して信号を送信する「送信機」は,該信号の「源」といえる。よって,該「送信機」は本願発明における「源」と共通する。

・引用例記載発明における「パイロットブロック」,「送信電力制御データ信号」は,「CDMA復調装置」が受信する信号であるから,それぞれ,本願発明における「第1の制御信号」,「第1の電力制御信号」に相当する。
以上から,本願発明と引用例記載発明は,次の点で一致し,相違するといえる。

[一致点]
通信回路であって,
各々の時間スロットの前半内で前記通信回路の外部の源からの第1の制御信号と第1の電力制御信号とを受信し,前記各々の時間スロットの前半内で前記第1の電力制御信号を復調する処理回路を含む,
通信回路。

[相違点]
本願発明における「通信回路」が含む「処理回路」は,(i)「第2の制御信号」と第1の制御信号によって決定される「第2の電力制御信号」とを生成するものであって,(ii)「第2の電力制御信号」を「第2の制御信号に接近して生成」するものであるのに対して,引用例記載発明における「処理回路」は,「第2の制御信号」も「第2の電力制御信号」も生成しない点で相違する。

2.検討
上記相違点について検討する。
音声・データ伝送を行う移動通信方式に係る技術分野において,該伝送が双方向に行われることは,引用例をあげるまでもなく周知である。
ここで,引用例1の【0002】の記載によれば,引用例記載発明における「CDMA復調装置」は,音声・データ伝送を行う移動通信方式に適用できるものである。
これらことは,引用例記載発明における「CDMA復調装置」を,復調機能のみの通信回路とするか,あるいは,さらに変調機能を附加し,送信も行いうる通信回路にするかは,当業者が適宜なし得る事項であること,つまり,通信回路に,上記「CDMA復調装置」に加えて,変調装置を附加することが,当業者には格別な技術的困難がないことを示している。

以上のことは,引用例記載発明に対して,引用例2記載技術を適用しうることが,当業者には容易に想到しうることを意味する。
すなわち,引用例記載発明に対し,引用例2記載技術を適用し,引用例記載発明における「処理回路」が,「第2の制御信号と第2の電力制御信号とを生成し,前記第2の電力制御信号が第1の制御信号によって決定され」ルようにすることは,当業者が容易に想到し得たことを意味する。
また,引用例1は,引用例記載発明とともに引用例1記載技術を開示しており,引用例記載発明に対して,引用例2記載技術を適用するにあたり,「第2の電力制御信号が第2の制御信号に接近して生成される」ようにすることは,当業者が容易に想起し得たものであるといわざるを得ない。

そして,本願発明のように構成したことによる効果も,引用例記載発明,引用例1記載技術,引用例2記載技術及び周知技術から,当業者が予測できる範囲のものである。

3.まとめ
したがって,本願発明は,引用例記載発明,引用例1記載技術,引用例2記載技術及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび

以上のとおりであるから,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって,他の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-10 
結審通知日 2013-12-13 
審決日 2014-01-06 
出願番号 特願2010-161233(P2010-161233)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04Q)
P 1 8・ 537- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼須 甲斐  
特許庁審判長 近藤 聡
特許庁審判官 加藤 恵一
吉田 隆之
発明の名称 通信回路  
代理人 浅村 皓  
代理人 大日方 和幸  
代理人 畑中 孝之  
代理人 浅村 肇  

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