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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1288003
審判番号 不服2013-1991  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-04 
確定日 2014-05-21 
事件の表示 特願2007-536021「中間レイヤ動きデータ予測を用いて符号化されたビデオシーケンスを生成するための装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月27日国際公開、WO2006/042611、平成20年 5月22日国内公表、特表2008-517498〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2005(平成17)年9月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年10月15日、米国、2004年12月13日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成22年6月29日付けの拒絶理由通知に応答して平成23年1月6日付けで手続補正がなされ、平成23年10月31日付けの拒絶理由通知に応答して平成24年4月27日付けで意見書のみが提出されたが、平成24年9月24日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成25年2月4日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

第2.平成25年2月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年2月4日付けの手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、請求項1に係る次の補正事項を含むものである(アンダーラインは補正箇所)。

(補正事項)
請求項1について
(補正前)「ベーススケーリングレイヤ(1002)および拡張スケーリングレイヤ(1004)を有する符号化されたビデオシーケンスを生成するための装置であって、前記装置は、
現在のピクチャ中のブロックがピクチャの群中の別のピクチャに関してどのように動いたかを示すベース動きデータを計算するためのベース動きデータ計算器(1006)と、
前記ベース動きデータを用いて残差ピクチャのベースシーケンスを計算するためのベース動きシーケンス計算器(1012)と、
残差ピクチャの前記ベースシーケンスから符号化された第1スケーリングレイヤを生成するように形成されているベースピクチャコーダ(1010)と、
拡張動きデータを決定するための拡張動きデータ計算器(1014)であって、前記拡張動きデータ計算器は、前記ベース動きデータを用いてブロック毎に適応的に拡張動きデータを決定し、さらにブロック毎に信号伝達情報を提供するように形成され、前記信号伝達情報は前記拡張動きデータに関連する拡張動きデータ計算器と、
前記拡張動きデータを用いて残差ピクチャの拡張シーケンスを計算するための拡張シーケンス計算器(1016)と、
符号化された拡張スケーリングレイヤを得るために、残差ピクチャの前記拡張シーケンスについての情報を符号化し、さらにブロック毎に前記信号伝達情報を符号化するための拡張ピクチャコーダ(1028)とを備える、装置。」
とあるのを、
(補正後)「ベーススケーリングレイヤ(1002)および拡張スケーリングレイヤ(1004)を有する符号化されたビデオシーケンスを生成するための装置であって、前記装置は、
現在のピクチャ中のブロックがピクチャの群中の別のピクチャに関してどのように動いたかを示すベース動きデータを計算するためのベース動きデータ計算器(1006)と、
前記ベース動きデータを用いて残差ピクチャのベースシーケンスを計算するためのベース動きシーケンス計算器(1012)と、
残差ピクチャの前記ベースシーケンスから符号化された第1スケーリングレイヤを生成するように形成されているベースピクチャコーダ(1010)であって、前記ベースピクチャコーダ(1010)は、ベース量子化パラメータ(1034)を用いて量子化するように形成されるベースピクチャコーダと、
拡張動きデータを決定するための拡張動きデータ計算器(1014)であって、前記拡張動きデータ計算器は、前記ベース動きデータを用いてブロック毎に適応的に拡張動きデータを決定し、さらにブロック毎に信号伝達情報を提供するように形成され、前記信号伝達情報は前記拡張動きデータに関連する拡張動きデータ計算器と、
前記拡張動きデータを用いて残差ピクチャの拡張シーケンスを計算するための拡張シーケンス計算器(1016)と、
符号化された拡張スケーリングレイヤを得るために、残差ピクチャの前記拡張シーケンスについての情報を符号化し、さらにブロック毎に前記信号伝達情報を符号化するための拡張ピクチャコーダ(1028)であって、前記拡張ピクチャコーダ(1028)は、拡張量子化パラメータ(1036)を用いて量子化するように形成され、前記拡張量子化パラメータは、前記ベース量子化パラメータ(1034)よりも細かな量子化ステップ幅を表す拡張ピクチャコーダとを備える、装置。」
と補正する。

2.補正の適否
この補正は、補正前の請求項1の「ベースピクチャコーダ(1010)」に、「ベース量子化パラメータ(1034)を用いて量子化するように形成される」という限定を加えるとともに、補正前の請求項1の「拡張ピクチャコーダ(1028)」に、「拡張量子化パラメータ(1036)を用いて量子化するように形成され、前記拡張量子化パラメータは、前記ベース量子化パラメータ(1034)よりも細かな量子化ステップ幅を表す」という限定を加える補正を行うものである。
したがって、この補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定された特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記第2.1.の請求項1(補正後)に記載した事項により特定されるとおりのものである。

(2)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1である特開平10-136372号公報(以下「引用例」という)には、次に掲げる事項が記載されている。

ア.「【0005】図42は、MPEG方式におけるMP@MLのエンコーダの一例の構成を示している。
【0006】符号化すべき画像データは、フレームメモリ31に入力され、一時記憶される。そして、動きベクトル検出器32は、フレームメモリ31に記憶された画像データを、例えば、16画素×16画素などで構成されるマクロブロック単位で読み出し、その動きベクトルを検出する。
【0007】ここで、動きベクトル検出器32においては、各フレームの画像データを、Iピクチャ、Pピクチャ、またはBピクチャのうちのいずれかとして処理する。なお、シーケンシャルに入力される各フレームの画像を、I,P,Bピクチャのいずれのピクチャとして処理するかは、予め定められている(例えば、I,B,P,B,P,・・・B,Pとして処理される)。
【0008】即ち、動きベクトル検出器32は、フレームメモリ31に記憶された画像の中の、予め定められた所定の参照フレームを参照し、その参照フレームと、現在符号化の対象となっているフレームの16画素×16ラインの小ブロック(マクロブロック)とをパターンマッチング(ブロックマッチング)することにより、そのマクロブロックの動きベクトルを検出する。
【0009】ここで、MPEGにおいては、画像の予測モードには、イントラ符号化(フレーム内符号化)、前方予測符号化、後方予測符号化、両方向予測符号化の4種類があり、Iピクチャはイントラ符号化され、Pピクチャはイントラ符号化または前方予測符号化され、Bピクチャはイントラ符号化、前方予測符号化、後方予測符号化、または両方法予測符号化される。
【0010】即ち、動きベクトル検出器32は、Iピクチャについては、予測モードとしてイントラ符号化モードを設定する。この場合、動きベクトル検出器32は、動きベクトルの検出は行わず、予測モード(イントラ予測モード)を、VLC(可変長符号化)器36および動き補償器42に出力する。
【0011】また、動きベクトル検出器32は、Pピクチャについては、前方予測を行い、その動きベクトルを検出する。さらに、動きベクトル検出器32は、前方予測を行うことにより生じる予測誤差と、符号化対象のマクロブロック(Pピクチャのマクロブロック)の、例えば分散とを比較し、マクロブロックの分散の方が予測誤差より小さい場合、予測モードとしてイントラ符号化モードを設定し、VLC器36および動き補償器42に出力する。また、動きベクトル検出器32は、前方予測を行うことにより生じる予測誤差の方が小さければ、予測モードとして前方予測符号化モードを設定し、検出した動きベクトルとともに、VLC器36および動き補償器42に出力する。
【0012】さらに、動きベクトル検出器32は、Bピクチャについては、前方予測、後方予測、および両方向予測を行い、それぞれの動きベクトルを検出する。そして、動きベクトル検出器32は、前方予測、後方予測、および両方向予測についての予測誤差の中の最小のもの(以下、適宜、最小予測誤差という)を検出し、その最小予測誤差と、符号化対象のマクロブロック(Bピクチャのマクロブロック)の、例えば分散とを比較する。その比較の結果、マクロブロックの分散の方が最小予測誤差より小さい場合、動きベクトル検出器32は、予測モードとしてイントラ符号化モードを設定し、VLC器36および動き補償器42に出力する。また、動きベクトル検出器32は、最小予測誤差の方が小さければ、予測モードとして、その最小予測誤差が得られた予測モードを設定し、対応する動きベクトルとともに、VLC器36および動き補償器42に出力する。
【0013】動き補償器42は、動きベクトル検出器32から予測モードと動きベクトルの両方を受信すると、その予測モードおよび動きベクトルにしたがって、フレームメモリ41に記憶されている、符号化され、既に局所復号化された画像データを読み出し、これを、予測画像として、演算器33および40に供給する。
【0014】演算器33は、動きベクトル検出器32がフレームメモリ31から読み出した画像データと同一のマクロブロックを、フレームメモリ31から読み出し、そのマクロブロックと、動き補償器42からの予測画像との差分を演算する。この差分値は、DCT器34に供給される。
【0015】一方、動き補償器42は、動きベクトル検出器32から予測モードのみを受信した場合、即ち、予測モードがイントラ符号化モードである場合には、予測画像を出力しない。この場合、演算器33(演算器40も同様)は、特に処理を行わず、フレームメモリ31から読み出したマクロブロックを、そのままDCT器34に出力する。
【0016】DCT器34では、演算器33の出力に対して、DCT処理が施され、その結果得られるDCT係数が、量子化器35に供給される。量子化器35では、バッファ37のデータ蓄積量(バッファ37に記憶されているデータの量)(バッファフィードバック)に対応して量子化ステップ(量子化スケール)が設定され、その量子化ステップで、DCT器34からのDCT係数が量子化される。この量子化されたDCT係数(以下、適宜、量子化係数という)は、設定された量子化ステップとともに、VLC器36に供給される。
【0017】VLC器36では、量子化器35より供給される量子化ステップに対応して、同じく量子化器35より供給される量子化係数が、例えばハフマン符号などの可変長符号に変換され、バッファ37に出力される。さらに、VLC器36は、量子化器35からの量子化ステップ、動きベクトル検出器32からの予測モード(イントラ符号化(画像内予測符号化)、前方予測符号化、後方予測符号化、または両方向予測符号化のうちのいずれが設定されたかを示すモード)および動きベクトルも可変長符号化し、バッファ37に出力する。
【0018】バッファ37は、VLC器36からのデータを一時蓄積し、そのデータ量を平滑化して、例えば、伝送路に出力し、または記録媒体に記録する。
【0019】また、バッファ37は、そのデータ蓄積量を、量子化器35に出力しており、量子化器35は、このバッファ37からのデータ蓄積量にしたがって量子化ステップを設定する。即ち、量子化器35は、バッファ37がオーバーフローしそうなとき、量子化ステップを大きくし、これにより、量子化係数のデータ量を低下させる。また、量子化器35は、バッファ37がアンダーフローしそうなとき、量子化ステップを小さくし、これにより、量子化係数のデータ量を増大させる。このようにして、バッファ37のオーバフローとアンダフローを防止するようになっている。
【0020】量子化器35が出力する量子化係数と量子化ステップは、VLC器36だけでなく、逆量子化器38にも供給されるようになされている。逆量子化器35では、量子化器35からの量子化係数が、同じく量子化器35からの量子化ステップにしたがって逆量子化され、これによりDCT係数に変換される。このDCT係数は、IDCT器(逆DCT器)39に供給される。IDCT器39では、DCT係数が逆DCT処理され、演算器40に供給される。
【0021】演算器40には、IDCT器39の出力の他、上述したように、動き補償器42から、演算器33に供給されている予測画像と同一のデータが供給されており、演算器40は、IDCT器39からの信号(予測残差)と、動き補償器42からの予測画像とを加算することで、元の画像を、局所復号する(但し、予測モードがイントラ符号化である場合には、IDCT器39の出力は、演算器40をスルーして、フレームメモリ41に供給される)。なお、この復号画像は、受信側において得られる復号画像と同一のものである。
【0022】演算器40において得られた復号画像(局所復号画像)は、フレームメモリ41に供給されて記憶され、その後、インター符号化(前方予測符号化、後方予測符号化、量方向予測符号化)される画像に対する参照画像(参照フレーム)として用いられる。」

イ.「【0154】次に、図4は、スケーラビリティを実現する、図1のVOP符号化部3nの構成例を示している。
【0155】VOP構成部2nからのVOP(画像データ)、並びにそのキー信号、サイズデータ(VOP size)、およびオフセットデータ(VOP offset)は、いずれも画像階層化部21に供給される。
【0156】画像階層化部21は、VOPから、複数の階層の画像データを生成する(VOPの階層化を行う)。即ち、例えば、空間スケーラビリティの符号化を行う場合においては、画像階層化部21は、そこに入力される画像データおよびキー信号を、そのまま上位レイヤ(上位階層)の画像データおよびキー信号として出力するとともに、それらの画像データおよびキー信号を構成する画素数を間引くことなどにより縮小し(解像度を低下させ)、これを下位レイヤ(下位階層)の画像データおよびキー信号として出力する。」

ウ.「【0159】画像階層化部21は、例えば、時間スケーラビリティ(テンポラルスケーラビリティ)の符号化を行う場合、時刻に応じて、画像データおよびキー信号を、下位レイヤまたは上位レイヤのデータとして、例えば、交互に出力する。即ち、例えば、画像階層化部21は、そこに、あるVOを構成するVOPが、VOP0,VOP1,VOP2,VOP3,・・・の順で入力されたとした場合、VOP0,VOP2,VOP4,VOP6,・・・を、下位レイヤのデータとして、また、VOP1,VOP3,VOP5,VOP7,・・・を、上位レイヤデータとして出力する。なお、時間スケーラビリティの場合は、このようにVOPが間引かれたものが、下位レイヤおよび上位レイヤのデータとされるだけで、画像データの拡大または縮小(解像度の変換)は行われない(但し、行うようにすることも可能である)。
【0160】また、画像階層化部21は、例えば、SNR(Signal to Noise Ratio)スケーラビリティの符号化を行う場合、入力された画像データおよびキー信号を、そのまま上位レイヤまたは下位レイヤのデータそれぞれとして出力する。即ち、この場合、下位レイヤ並びに上位レイヤの画像データおよびキー信号は、同一のデータとなる。」

エ.「【0177】図4に戻り、画像階層化部21において生成された上位レイヤの画像データ、キー信号、オフセットデータFPOS_E、およびサイズデータFSZ_Eは、遅延回路22で、後述する下位レイヤ符号化部25における処理時間だけ遅延され、上位レイヤ符号化部23に供給される。また、下位レイヤの画像データ、キー信号、オフセットデータFPOS_B、およびサイズデータFSZ_Bは、下位レイヤ符号化部25に供給される。また、倍率FRは、遅延回路22を介して、上位レイヤ符号化部23および解像度変換部24に供給される。
【0178】下位レイヤ符号化部25では、下位レイヤの画像データ(第2の画像)およびキー信号が符号化され、その結果得られる符号化データ(ビットストリーム)に、オフセットデータFPOS_BおよびサイズデータFSZ_Bが含められ、多重化部26に供給される。
【0179】また、下位レイヤ符号化部25は、符号化データを局所復号化し、その結果局所復号結果である下位レイヤの画像データを、解像度変換部24に出力する。解像度変換部24は、下位レイヤ符号化部25からの下位レイヤの画像データを、倍率FRにしたがって拡大(または縮小)することにより、元の大きさに戻し、これにより得られる拡大画像を、上位レイヤ符号化部23に出力する。
【0180】一方、上位レイヤ符号化部23では、上位レイヤの画像データ(第1の画像)およびキー信号が符号化され、その結果得られる符号化データ(ビットストリーム)に、オフセットデータFPOS_EおよびサイズデータFSZ_Eが含められ、多重化部26に供給される。なお、上位レイヤ符号化部23においては、上位レイヤ画像データの符号化は、解像度変換部24から供給される拡大画像をも参照画像として用いて行われる。
【0181】多重化部26では、上位レイヤ符号化部23および下位レイヤ符号化部25の出力が多重化されて出力される。
【0182】なお、下位レイヤ符号化部25から上位レイヤ符号化部23に対しては、下位レイヤのサイズデータFSZ_B、オフセットデータFPOS_B、動きベクトルMV、フラグCODなどが供給されており、上位レイヤ符号化部23では、これらのデータを必要に応じて参照しながら、処理を行うようになされているが、この詳細については、後述する。」

オ.「【0183】次に、図11は、図4の下位レイヤ符号化部25の詳細構成例を示している。なお、図中、図42における場合と対応する部分については、同一の符号を付してある。即ち、下位レイヤ符号化部25は、キー信号符号化部43およびキー信号復号部44が新たに設けられている他は、基本的には、図42のエンコーダと同様に構成されている。
【0184】画像階層化部21(図4)からの画像データ、即ち、下位レイヤのVOPは、図42における場合と同様に、フレームメモリ31に供給されて記憶され、動きベクトル検出器32において、マクロブロック単位で動きベクトルの検出が行われる。
【0185】但し、下位レイヤ符号化部25の動きベクトル検出器32には、下位レイヤのVOPのサイズデータFSZ_BおよびオフセットデータFPOS_Bが供給されるようになされており、そこでは、このサイズデータFSZ_BおよびオフセットデータFPOS_Bに基づいて、マクロブロックの動きベクトルが検出される。」

カ.「【0188】なお、検出された動きベクトル(MV)は、予測モードとともに、VLC器36および動き補償器42に供給される他、上位レイヤ符号化部23(図4)にも供給される。」

キ.「【0196】次に、図12は、図4の上位レイヤ符号化部23の構成例を示している。なお、図中、図11または図42における場合と対応する部分については、同一の符号を付してある。即ち、上位レイヤ符号化部23は、キー信号符号化部51、フレームメモリ52、およびキー信号復号部53が、新たに設けられている他は、基本的には、図11の下位レイヤ符号化部25または図42のエンコーダと同様に構成されている。
【0197】画像階層化部21(図4)からの画像データ、即ち、上位レイヤのVOPは、図42における場合と同様に、フレームメモリ31に供給されて記憶され、動きベクトル検出器32において、マクロブロック単位で動きベクトルの検出が行われる。なお、この場合も、動きベクトル検出器32には、図11における場合と同様に、上位レイヤのVOPの他、そのサイズデータFSZ_EおよびオフセットデータFPOS_Eが供給されるととも、キー信号復号部53がら復号キーが供給されるようになされており、動きベクトル検出器32では、上述の場合と同様に、このサイズデータFSZ_EおよびオフセットデータFPOS_Eに基づいて、絶対座標系における上位レイヤのVOPの配置位置が認識されるとともに、そのVOPに含まれる物体の抜き出しが、復号キー信号に基づいて行われ、マクロブロックの動きベクトルが検出される。」

ク.「【0198】ここで、上位レイヤ符号化部23および下位レイヤ符号化部25における動きベクトル検出器32では、図42で説明したように、予め設定されている所定のシーケンスにしたがって、VOPが処理されていくが、そのシーケンスは、ここでは、例えば、次のように設定されている。
【0199】即ち、空間スケーラビリティの場合においては、図13(A)または図13(B)に示すように、上位レイヤまたは下位レイヤのVOPは、例えば、P,B,B,B,・・・またはI,P,P,P,・・・の順でそれぞれ処理されていく。
【0200】そして、この場合、上位レイヤの最初のVOPであるPピクチャは、例えば、同時刻における下位レイヤのVOP(ここでは、Iピクチャ)を参照画像として用いて符号化される。また、上位レイヤの2番目以降のVOPであるBピクチャは、例えば、その直前の上位レイヤのVOPおよびそれと同時刻の下位レイヤのVOPを参照画像として用いて符号化される。即ち、ここでは、上位レイヤのBピクチャは、下位レイヤのPピクチャと同様に他のVOPを符号化する場合の参照画像として用いられる。
【0201】なお、下位レイヤについては、例えば、MPEG1や2、あるいはH.263における場合と同様に符号化が行われていく。
【0202】SNRスケーラビリティは、空間スケーラビリティにおける倍率FRが1のときと考えられるから、上述の空間スケーラビリティの場合と同様に処理される。
【0203】テンポラルスケーラビリティの場合、即ち、例えば、上述したように、VOが、VOP0,VOP1,VOP2,VOP3,・・・で構成され、VOP1,VOP3,VOP5,VOP7,・・・が上位レイヤとされ(図14(A))、VOP0,VOP2,VOP4,VOP6,・・・が下位レイヤとされた場合においては(図14(B))、図14に示すように、上位レイヤまたは下位レイヤのVOPは、例えば、B,B,B,・・・またはI,P,P,P,・・・の順でそれぞれ処理されていく。
【0204】そして、この場合、上位レイヤの最初のVOP1(Bピクチャ)は、例えば、下位レイヤのVOP0(Iピクチャ)およびVOP2(Pピクチャ)を参照画像として用いて符号化される。また、上位レイヤの2番目のVOP3(Bピクチャ)は、例えば、その直前にBピクチャとして符号化された上位レイヤのVOP1、およびVOP3の次の時刻(フレーム)における画像である下位レイヤのVOP4(Pピクチャ)を参照画像として用いて符号化される。上位レイヤの3番目のVOP5(Bピクチャ)も、VOP3と同様に、例えば、その直前にBピクチャとして符号化された上位レイヤのVOP3、およびVOP5の次の時刻(フレーム)における画像である下位レイヤのVOP6(Pピクチャ)を参照画像として用いて符号化される。」

ケ.「【0205】以上のように、あるレイヤのVOP(ここでは、上位レイヤ)については、PおよびBピクチャを符号化するための参照画像として、他のレイヤ(スケーラブルレイヤ)(ここでは、下位レイヤ)のVOPを用いることができる。このように、あるレイヤのVOPを符号化するのに、他のレイヤのVOPを参照画像として用いる場合、即ち、ここでは、上位レイヤのVOPを予測符号化するのに、下位レイヤのVOPを参照画像として用いる場合、上位レイヤ符号化部23(図12)の動きベクトル検出器32は、その旨を示すフラグref_layer_id(階層数が3以上存在する場合、フラグref_layer_idは、参照画像として用いるVOPが属するレイヤを表す)を設定して出力するようになされている。
【0206】さらに、上位レイヤ符号化部23の動きベクトル検出器32は、VOPについてのフラグref_layer_idにしたがい、前方予測符号化または後方予測符号化を、それぞれ、どのレイヤのVOPを参照画像として行うかを示すフラグref_select_code(参照画像情報)を設定して出力するようにもなされている。
【0207】即ち、図15(A)または(B)は、PまたはBピクチャについてのフラグref_select_codeを、それぞれ示している。
【0208】例えば、上位レイヤ(Enhancement Layer)のPピクチャが、その直前に復号(局所復号)される、それと同一のレイヤに属するVOPを参照画像として用いて符号化される場合、フラグref_select_codeは「00」とされる。また、Pピクチャが、その直前に表示される、それと異なるレイヤ(ここでは、下位レイヤ)(Reference Layer)に属するVOPを参照画像として用いて符号化される場合、フラグref_select_codeは「01」とされる。さらに、Pピクチャが、その直後に表示される、それと異なるレイヤに属するVOPを参照画像として用いて符号化される場合、フラグref_select_codeは「10」とされる。また、Pピクチャが、それと同時刻における、異なるレイヤのVOPを参照画像として用いて符号化される場合、フラグref_select_codeは「11」とされる(図15(A))。
【0209】一方、例えば、上位レイヤのBピクチャが、それと同時刻における、異なるレイヤのVOPを前方予測のための参照画像として用い、かつ、その直前に復号される、それと同一のレイヤに属するVOPを後方予測のための参照画像として用いて符号化される場合、フラグref_select_codeは「00」とされる。また、上位レイヤのBピクチャが、それと同一のレイヤに属するVOPを前方予測のための参照画像として用い、かつ、その直前に表示される、それと異なるレイヤに属するVOPを後方予測のための参照画像として用いて符号化される場合、フラグref_select_codeは「01」とされる。さらに、上位レイヤのBピクチャが、その直前に復号される、それと同一のレイヤに属するVOPを前方予測のための参照画像として用い、かつその直後に表示される、それと異なるレイヤに属するVOPを後方予測のための参照画像として用いて符号化される場合、フラグref_select_codeは「10」とされる。また、上位レイヤのBピクチャが、その直前に表示される、それと異なるレイヤに属するVOPを前方予測のための参照画像として用い、かつその直後に表示される、それと異なるレイヤに属するVOPを後方予測のための参照画像として用いて符号化される場合、フラグref_select_codeは「11」とされる(図15(B))。
【0210】ここで、図13および図14で説明した予測符号化の方法は、1つの例であり、前方予測符号化、後方予測符号化、または両方向予測符号化における参照画像として、どのレイヤの、どのVOPを用いるかは、例えば、図15で説明した範囲で、自由に設定することが可能である。
【0211】なお、上述の場合においては、便宜的に、「空間スケーラビリティ」、「時間スケーラビリティ」、「SNRスケーラビリティ」という語を用いたが、図15で説明したように、予測符号化に用いる参照画像を設定する場合、即ち、図15に示したようなシンタクスを用いる場合、フラグref_select_codeによって、空間スケーラビリティや、テンポラルスケーラビリティ、SNRスケーラビリティを明確に区別することは困難となる。即ち、逆にいえば、フラグref_select_codeを用いることによって、上述のようなスケーラビリティの区別をせずに済むようになる。
【0212】なお、上述のスケーラビリティとフラグref_select_codeとを対応付けるとすれば、例えば、次のようになる。即ち、Pピクチャについては、フラグref_select_codeが「11」の場合が、フラグref_layer_idが示すレイヤの同時刻におけるVOPを参照画像(前方予測のための参照画像)として用いる場合であるから、これは、空間スケーラビリティまたはSNRスケーラビリティに対応する。そして、フラグref_select_codeが「11」の場合以外は、テンポラルスケーラビリティに対応する。
【0213】また、Bピクチャについては、フラグref_select_codeが「00」の場合が、やはり、フラグref_layer_idが示すレイヤの同時刻におけるVOPを前方予測のための参照画像として用いる場合であるから、これが、空間スケーラビリティまたはSNRスケーラビリティに対応する。そして、フラグref_select_codeが「00」の場合以外は、テンポラルスケーラビリティに対応する。
【0214】なお、上位レイヤのVOPの予測符号化のために、それと異なるレイヤ(ここでは、下位レイヤ)の、同時刻におけるVOPを参照画像として用いる場合、両者の間に動きはないので、動きベクトルは、常に0(0,0)とされる。」

コ.「【0215】図12に戻り、上位レイヤ符号化部23の動き検出器31では、以上のようなフラグref_layer_idおよびref_select_codeが設定され、動き補償器42およびVLC器36に供給される。
【0216】また、動きベクトル検出器32では、フラグref_layer_idおよびref_select_codeにしたがって、フレームメモリ31を参照するだけでなく、必要に応じて、フレームメモリ52をも参照して、動きベクトルが検出される。
【0217】ここで、フレームメモリ52には、解像度変換部24(図4)から、局所復号された下位レイヤの拡大画像が供給されるようになされている。即ち、解像度変換部24では、局所復号された下位レイヤのVOPが、例えば、いわゆる補間フィルタなどによって拡大され、これにより、そのVOPを、FR倍だけした拡大画像、つまり、その下位レイヤのVOPに対応する上位レイヤのVOPと同一の大きさとした拡大画像が生成され、上位レイヤ符号化部23に供給される。フレームメモリ52では、このようにして解像度変換部24から供給される拡大画像が記憶される。
【0218】従って、倍率FRが1の場合は、解像度変換部24は、下位レイヤ符号化部25からの局所復号されたVOPに対して、特に処理を施すことなく、そのまま、上位レイヤ符号化部23に供給する。
【0219】動きベクトル検出器32には、下位レイヤ符号化部25からサイズデータFSZ_BおよびオフセットデータFPOS_Bが供給されるとともに、遅延回路22(図4)からの倍率FRが供給されるようになされており、動きベクトル検出器31は、フレームメモリ52に記憶された拡大画像を参照画像として用いる場合、即ち、上位レイヤのVOPの予測符号化に、そのVOPと同時刻における下位レイヤのVOPを参照画像として用いる場合(この場合、図15で説明したように、フラグref_select_codeは、Pピクチャについては「11」に(同図(A))、Bピクチャについては「00」にされる(同図(B))、その拡大画像に対応するサイズデータFSZ_BおよびオフセットデータFPOS_Bに、倍率FRを乗算する。そして、その乗算結果に基づいて、絶対座標系における拡大画像の位置を認識し、動きベクトルの検出を行う。」

サ.「【0220】なお、動きベクトル検出器32には、下位レイヤの動きベクトルと予測モードが供給されるようになされており、これは、次のような場合に使用される。即ち、動きベクトル検出部32は、例えば、上位レイヤのBピクチャについてのフラグref_select_codeが「00」である場合において、倍率FRが1であるとき、即ち、SNRスケーラビリティのとき(但し、この場合、上位レイヤの予測符号化に、上位レイヤのVOPが用いられるので、この点で、ここでいうSNRスケーラビリティは、MPEG2に規定されているものと異なる)、上位レイヤと下位レイヤは同一の画像であるから、上位レイヤのBピクチャの予測符号化には、下位レイヤの同時刻における画像の動きベクトルと予測モードをそのまま用いることができる。そこで、この場合、動きベクトル検出部32は、上位レイヤのBピクチャについては、特に処理を行わず、下位レイヤの動きベクトルと予測モードをそのまま採用する。
【0221】なお、この場合、上位レイヤ符号化部23では、動きベクトル検出器32からVLC器36には、動きベクトルおよび予測モードは出力されない(従って、伝送されない)。これは、受信側において、上位レイヤの動きベクトルおよび予測モードを、下位レイヤの復号結果から認識することができるからである。
【0222】以上のように、動きベクトル検出器32は、上位レイヤのVOPの他、拡大画像をも参照画像として用いて、動きベクトルを検出し、さらに、図42で説明したように、予測誤差(あるいは分散)を最小にする予測モードを設定する。また、動きベクトル検出器32は、例えば、フラグref_select_codeやref_layer_idその他の必要な情報を設定して出力する。」

シ.「【0226】また、VLC器36には、量子化係数、量子化ステップ、動きベクトル、および予測モードの他、倍率FR、フラグref_serect_code,ref_layer_id、サイズデータFSZ_E、オフセットデータFPOS_E、およびキー信号符号化部51の出力も供給されるようになされており、VLC器36では、これらのデータがすべて可変長符号化されて出力される。
【0227】一方、動きベクトルの検出されたマクロブロックは符号化された後、やはり上述したように局所復号され、フレームメモリ41に記憶される。そして、動き補償器42において、動きベクトル検出器32における場合と同様にして、フレームメモリ41に記憶された、局所復号された上位レイヤのVOPだけでなく、フレームメモリ52に記憶された、局所復号されて拡大された下位レイヤのVOPをも参照画像として用いて動き補償が行われ、予測画像が生成される。」

ス.「【0303】ここで、MBTYPEは、マクロブロックの予測モードおよびそのマクロブロックに含まれるデータ(フラグ)を示すものであり、また、CBPBは、マクロブロック中のどのブロックにDCT係数が存在するかを示す6ビットのフラグである。即ち、マクロブロックは、図31に示すように、4個の輝度信号についての8×8画素のブロックと、色差信号Cb,Crについての8×8画素のブロックとの合計で6個のブロックで構成され、図11および図12のDCT器34では、このブロックごとにDCT処理が施されるが、図11および図12のVLC器36では、6ビットのCBPBの各ビットが、6個のブロックそれぞれにおけるDCT係数が存在するかどうかで0または1とされる。」

セ.「【0311】また、予測モードがH.263に規定されているダイレクトモード(Direct codingモード)であるときには、MBTYPEは「1」とされ、MVDBが伝送される。
【0312】ここで、上述の場合においては、インター符号化モードとして、前方予測符号化モード、後方予測符号化モード、および両方光予測モードの3種類についてしか説明しなかったが、MPEG4では、この3種類に、ダイレクトモードを加えた4種類が規定されており、従って、図11および図12の動きベクトル検出器32では、Bピクチャについては、例えば、イントラ符号化モード、前方予測符号化モード、後方予測符号化モード、両方向予測モード、またはダイレクトモードのうちの、予測誤差を最も少なくするものが予測モードとして設定されるようになされている。なお、ダイレクトモードについての詳細は後述する。」

ソ.「【0333】ところで、以上のように、複数のMODBテーブルやMBTYPEテーブルを用いる場合、下位レイヤと、ref_select_codeが「00」以外となっている上位レイヤとについては問題ないが、ref_select_codeが「00」となっている上位レイヤについては、次のような問題が生じる。
【0334】即ち、上位レイヤにおいて、Bピクチャの処理対象マクロブロックについてのフラグref_select_codeが「00」である場合というのは、図34に示すように、その処理対象マクロブロックを、同一レイヤ(ここでは上位レイヤ)におけるIまたはPピクチャと、そのレイヤと異なるレイヤ(ここでは下位レイヤ)の同一時刻における画像(拡大画像)とが、必要に応じて、参照画像として用いられる場合である(図15)。
【0335】一方、ダイレクトモードは、時刻の異なる2つのIまたはPピクチャの間にあるBピクチャを、その直前に復号されるPピクチャの動きベクトルを用いて予測符号化するものである。
【0336】従って、ref_select_codeが「00」の場合、ダイレクトモードは適用し得ないのに、MBTYPEテーブルAが用いられるときには、予測モードとして、ダイレクトモードが設定されることがある。
【0337】そこで、本実施の形態においては、上位レイヤにおいて、Bピクチャの処理対象マクロブロックについてのフラグref_select_codeが「00」である場合、次のような第1または第2の方法のうちのいずれかによって、MBTYPEが可変長符号化/可変長復号化されるようになされている。
【0338】即ち、第1の方法では、上位レイヤにおいて、Bピクチャの処理対象マクロブロックについてのフラグref_select_codeが「00」である場合は、MBTYPEテーブルAは用いられず、MBTYPEテーブルBが用いられる。MBTYPEテーブルBには、上述したように、ダイレクトモードは定義されていないから、図34に示したような場合に、予測モードとしてダイレクトモードが設定されることはない。
【0339】また、第2の方法では、ダイレクトモードに準ずる予測モードとして、次のような準ダイレクトモードを定義し、上位レイヤにおいて、Bピクチャの処理対象マクロブロックについてのフラグref_select_codeが「00」である場合に、MBTYPEテーブルAが用いられるときには、MBTYPEの可変長符号「1」に、ダイレクトモードではなく、準ダイレクトモードを割り当てるようにする。
【0340】ここで、準ダイレクトモードにおいては、図34に示した場合において、前方向予測は、下位レイヤ(異なるレイヤ)の画像を倍率FRにしたがって拡大した拡大画像を参照画像(予測参照画像)として行い、また、後方予測は、上位レイヤ(同一レイヤ)の直前に符号化(復号)された画像を参照画像として行う。
【0341】さらに、図35に示すように、前方予測の参照画像とされる拡大画像における対応マクロブロック(符号化対象のマクロブロックと同一位置にあるマクロブロック)についての動きベクトルをMVとするとき、後方予測に用いる動きベクトルMVBとして、次式で与えられるベクトルを用いる。
【0342】MVB=MV×FR+MVDB
【0343】即ち、下位レイヤの対応マクロブロックについての動きベクトルMVをFR倍し、これに、ベクトルMVDBを加算したものを、後方予測の動きベクトルMVBとして用いる。
【0344】なお、この場合、動きベクトルMVBは伝送されない。これは、動きベクトルMVBは、動きベクトルMV、倍率FR、およびMVDBから得ることができるためであり、従って、受信側(デコーダ側)では、上位レイヤにおいて、Bピクチャの処理対象マクロブロックについてのフラグref_select_codeが「00」である場合に、MBTYPEテーブルAを用いて可変長復号化が行われるとき、MBTYPEが「1」となっているマクロブロックの動きベクトルMVBは、下位レイヤの対応マクロブロックについての動きベクトルMV、倍率FR、およびベクトルMVDBから求められる。
【0345】よって、この場合、いわば冗長なデータである動きベクトルMVBが伝送されないので、符号化効率を向上させることができる。」

(3)引用発明
a.VOP符号化部
引用例の前掲イ,ウ,エ及び図4の記載によると、引用例には、スケーラビリティを実現するためのVOP符号化部3nが記載されており、このVOP符号化部3nは、画像階層化部21、下位レイヤ符号化部25、上位レイヤ符号化部23、多重化部26を有している。
画像階層化部21は、空間スケーラビリティの符号化を行う場合は、入力される画像データをそのまま上位レイヤの画像データとして出力し、縮小した画像データを下位レイヤに出力し、時間スケーラビリティの符号化を行う場合には、入力される画像データを上位レイヤ、下位レイヤに交互に出力して、VOPが間引かれた画像データを出力し、SNRスケーラビリティの符号化を行う場合には、入力される画像データをそのまま上位レイヤ、下位レイヤの画像データとして出力する。
下位レイヤ符号化部25は、下位レイヤの画像データを符号化し、その結果得られる符号化データ(ビットストリーム)を多重化部26に供給し、上位レイヤ符号化部23は、上位レイヤの画像データを符号化し、その結果得られる符号化データ(ビットストリーム)を多重化部26に供給する。
なお、引用例は、前掲アの段落【0005】、前掲セの記載などからMPEG方式の符号化を採用しているものといえる。
すなわち、引用例には、下位レイヤ符号化部25、上位レイヤ符号化部23を備えており、スケーラビリティを実現する下位レイヤおよび上位レイヤの画像データをMPEG方式で符号化した符号化データ(ビットストリーム)を出力するVOP符号化部3nが記載されている。

b.下位レイヤ符号化部
引用例の前掲ア,オ,カ及び図11,図42の記載によると、引用例の下位レイヤ符号化部25は、画像データ(下位レイヤのVOP)についての、マクロブロック単位で参照画像に基づく動きベクトルの検出を行う動きベクトル検出器32を有しており、検出された動きベクトルMVを、動き補償器42、上位レイヤ符号化部23に供給する。動き補償器42は、動きベクトルにより予測画像を演算器33に供給する。
また、下位レイヤ符号化部25は、画像データ(下位レイヤのVOP)のマクロブロックと動き補償器42からの予測画像との差分を演算器33により演算し、この差分値をDCT器34でDCT処理し、得られるDCT係数を量子化器35により設定された量子化ステップ(量子化スケール)で量子化し、量子化係数をVLC器36に供給し、VLC器36より符号化して下位レイヤの符号化データ(ビットストリーム)を出力する。
すなわち、引用例には、下位レイヤ符号化部25は、画像データ(下位レイヤのVOP)についての、マクロブロック単位で参照画像に基づく動きベクトルの検出を行う動きベクトル検出器32と、画像データ(下位レイヤのVOP)のマクロブロックと動き補償器42からの予測画像との差分を演算して差分値を出力する演算器33と、差分値をDCT処理してDCT係数を出力するDCT器34、DCT係数を設定された量子化ステップ(量子化スケール)で量子化して量子化係数を出力する量子化器35、量子化係数を符号化して下位レイヤの符号化データ(ビットストリーム)を出力するVLC器36を備えていることが記載されている。

c.上位レイヤ符号化部
引用例の前掲キ,ク,ケ,コ,サ,シ及び図12,図13,図14,図15の記載によると、引用例の上位レイヤ符号化部23は、画像データ(上位レイヤのVOP)についての、マクロブロック単位で参照画像に基づく動きベクトルの検出を行う動きベクトル検出器32を有している(前掲キ)。
c-1.参照画像
上位レイヤ符号化部23における動きベクトル検出器32では、画像データ(上位レイヤのVOP)の符号化に用いる参照画像として、下位レイヤのVOPを用いることができ、その旨を示すフラグref_layer_idと、どのレイヤのどのVOPを参照画像とするかを示すフラグref_select_code(参照画像情報)を設定して出力する(前掲ク,ケ,図15)。
参照画像の具体例としては、空間スケーラビリティ及びSNRスケーラビリティの場合には、一例として、上位レイヤの最初のVOPであるPピクチャは、同時刻における下位レイヤのVOP(ここでは、Iピクチャ)を参照画像として用いて符号化され、上位レイヤの2番目以降のVOPであるBピクチャは、その直前の上位レイヤのVOPおよびそれと同時刻の下位レイヤのVOPを参照画像として用いて符号化される(前掲ク,図13)。
また、テンポラルスケーラビリティ(時間スケーラビリティ)の場合は、一例として、上位レイヤの最初のVOP1(Bピクチャ)は、下位レイヤのVOP0(Iピクチャ)およびVOP2(Pピクチャ)を参照画像として用いて符号化され、上位レイヤの2番目のVOP3(Bピクチャ)は、その直前にBピクチャとして符号化された上位レイヤのVOP1、およびVOP3の次の時刻(フレーム)における画像である下位レイヤのVOP4(Pピクチャ)を参照画像として用いて符号化される(前掲ク,図14)。

c-2.動きベクトル
上位レイヤ符号化部23における動きベクトル検出器32では、上位レイヤのVOPの他、下位レイヤのVOPも参照画像として用いて、動きベクトルを検出し、予測誤差(あるいは分散)を最小にする予測モードを設定する(前掲サの段落【0222】)。
そして、上位レイヤのVOPの予測符号化のために、下位レイヤの同時刻におけるVOPを参照画像として用いる場合は、両者の間に動きはないので動きベクトルは常に0とする(前掲ケの段落【0214】)。
また、フレームメモリ52に記憶された下位レイヤの同時刻ではない拡大画像(倍率FRが1の場合は、局所復号化された下位レイヤのVOPそのもの)を参照画像として用いる場合は、その下位レイヤの拡大画像に基づいて動きベクトルを検出する(前掲コ)。
ここで、前掲コの段落【0219】の『動きベクトル検出器31は、フレームメモリ52に記憶された拡大画像を参照画像として用いる場合、即ち、上位レイヤのVOPの予測符号化に、そのVOPと同時刻における下位レイヤのVOPを参照画像として用いる場合(この場合、図15で説明したように、フラグref_select_codeは、Pピクチャについては「11」に(同図(A))、Bピクチャについては「00」にされる(同図(B))、その拡大画像に対応するサイズデータFSZ_BおよびオフセットデータFPOS_Bに、倍率FRを乗算する。そして、その乗算結果に基づいて、絶対座標系における拡大画像の位置を認識し、動きベクトルの検出を行う。』の記載に関し、下位レイヤの同時刻のVOPを参照する場合は上述したように動きベクトルは0であって、『即ち』に続く言い換えを行っている部分(下線を付加した部分)の記載は誤記と認められるため、この部分は読み飛ばして、引用例の記載を前の段落で述べたように下位レイヤの同時刻ではないVOPを参照するものと認定した。
さらに、倍率FRが1の場合、上位レイヤと下位レイヤは同一の画像であるので、上位レイヤの予測符号化に上位レイヤのVOPを用いるときに、下位レイヤの同時刻における動きベクトルをそのまま採用する(前掲サ)。
なお、動きベクトル検出器32においては、動きベクトルと予測モードをVLC器36に出力する(前掲アの段落【0012】)。
また、フラグref_select_code(参照画像情報)には、下位レイヤの同時刻における動きベクトルをそのまま採用し、上位レイヤの動きベクトルは存在しないことを示す情報が含まれている(図15(A)のフラグ「11」,図15(B)のフラグ「00」)。

c-3.量子化・符号化
上位レイヤ符号化部23は、下位レイヤ符号化部25と同様に、画像データ(上位レイヤのVOP)のマクロブロックと動き補償器42からの予測画像との差分を演算器33により演算し、この差分値をDCT器34でDCT処理し、得られるDCT係数を量子化器35により設定された量子化ステップ(量子化スケール)で量子化し、量子化係数をVLC器36に供給し、VLC器36より符号化して上位レイヤの符号化データ(ビットストリーム)を出力するものである。
また、VLC器36は、動きベクトル、予測モード、フラグref_select_code、ref_layer_idなどを符号化して出力する(前掲サの段落【0222】,シ)。

c-4.まとめ
これらの記載から、引用例には、上位レイヤ符号化部23は、画像データ(上位レイヤのVOP)についての、マクロブロック単位で参照画像に基づく動きベクトルの検出を行う動きベクトル検出器32を備えており、動きベクトル検出器32は、参照画像(上位レイヤのVOP、下位レイヤのVOP)に基づいて動きベクトルを検出し、予測誤差(あるいは分散)を最小にする予測モードを設定するものであって、その際、倍率FRが1の場合で上位レイヤの予測符号化に上位レイヤのVOPを用いるときに、下位レイヤの同時刻における動きベクトルをそのまま採用することが記載されている。
さらに、動きベクトル検出器32は、動きベクトル、予測モード、及び下位レイヤの同時刻における動きベクトルをそのまま採用し、上位レイヤの動きベクトルは存在しないことを示すフラグなどを設定して出力することが記載されている。
また、上位レイヤ符号化部23は、画像データ(上位レイヤのVOP)のマクロブロックと動き補償器42からの予測画像との差分を演算して差分値を出力する演算器33と、差分値をDCT処理してDCT係数を出力するDCT器34、DCT係数を設定された量子化ステップ(量子化スケール)で量子化して量子化係数を出力する量子化器35、量子化係数を符号化して上位レイヤの符号化データ(ビットストリーム)を出力するとともに、動きベクトル、予測モード、及び下位レイヤの同時刻における動きベクトルをそのまま採用し、上位レイヤの動きベクトルは存在しないことを示すフラグなどを符号化して出力するVLC器36を備えていることが記載されている。

d.準ダイレクトモード
引用例の前掲ス,セ、ソ及び図34,図35の記載によると、引用例の動きベクトル検出器32は、MBTYPE(マクロブロックタイプ)として、前方予測符号化モード、後方予測符号化モード、両方向予測モードのほか、ダイレクトモードが規定されており、そのうちの予測誤差を最も少なくするものが予測モードとして設定されることが記載されている。そして、ダイレクトモードに準ずる予測モードとして、準ダイレクトモードが記載されている。
準ダイレクトモードでは、上位レイヤの後方予測において上位レイヤの直前に符号化された画像を参照画像とする場合に、下位レイヤの対応マクロブロックの動きベクトルMVを用いて、MVB=MV×FR+MVDB(MVB:後方予測ベクトル、FR:倍率、MVDB:所定のベクトル)により求める。
すなわち、上位レイヤ符号化部23の動きベクトル検出器32は、上記c-2で述べた動きベクトルの検出の際に、準ダイレクトモードでは、上位レイヤの画像を参照画像とする場合に、下位レイヤの対応マクロブロックの動きベクトルMVから算出した動きベクトルを採用することが記載されている。
また、動きベクトル検出器32は、動きベクトルと予測モードをVLC器36に出力するものであるので、予測モードの一つとして準ダイレクトモードであることも出力するものといえる。

e.スケーラビリティ
引用例のVOP符号化部3nのスケーラビリティ符号化に関しては、
(1)『【0202】SNRスケーラビリティは、空間スケーラビリティにおける倍率FRが1のときと考えられるから、上述の空間スケーラビリティの場合と同様に処理される。』(前掲ク)の記載によれば、空間スケーラビリティの倍率FRが1の場合をSNRスケーラビリティとしていることから、倍率FRが1以外の時は空間スケーラビリティのほかにSNRスケーラビリティと同等のスケーラビリティを行っていると認められること、
(2)図14のテンポラルスケーラリビティ(時間スケーラビリティ)の説明図において(B)のBase LayerのVPOが縮小された小さなVOPで表現されており、テンポラルスケーラリビティ(時間スケーラビリティ)と空間スケーラビリティが併用されるものと想定されること、
(3)『【0211】なお、上述の場合においては、便宜的に、「空間スケーラビリティ」、「時間スケーラビリティ」、「SNRスケーラビリティ」という語を用いたが、図15で説明したように、予測符号化に用いる参照画像を設定する場合、即ち、図15に示したようなシンタクスを用いる場合、フラグref_select_codeによって、空間スケーラビリティや、テンポラルスケーラビリティ、SNRスケーラビリティを明確に区別することは困難となる。即ち、逆にいえば、フラグref_select_codeを用いることによって、上述のようなスケーラビリティの区別をせずに済むようになる。』(前掲ケ)の記載によれば、参照画像の設定は行っているが、空間スケーラビリティ、時間スケーラビリティ、SNRスケーラビリティの区別は行っていないこと、
という記載を考慮すると、引用例のVOP符号化部3nは、空間スケーラビリティ、時間スケーラビリティ、SNRスケーラビリティを併用することを想定したものであると認められる。

f.以上によれば、引用例には、下記の発明(以下「引用発明」という)が記載されていると認められる。

記(引用発明)
空間スケーラビリティ、時間スケーラビリティ、SNRスケーラビリティを併用するものであり、下位レイヤ符号化部25、上位レイヤ符号化部23を備えており、スケーラビリティを実現する下位レイヤおよび上位レイヤの画像データをMPEG方式で符号化した符号化データ(ビットストリーム)を出力するVOP符号化部3nであって、
下位レイヤ符号化部25は、画像データ(下位レイヤのVOP)についての、マクロブロック単位で参照画像に基づく動きベクトルの検出を行う動きベクトル検出器32と、
画像データ(下位レイヤのVOP)のマクロブロックと動き補償器42からの予測画像との差分を演算して差分値を出力する演算器33と、
差分値をDCT処理してDCT係数を出力するDCT器34、DCT係数を設定された量子化ステップ(量子化スケール)で量子化して量子化係数を出力する量子化器35、量子化係数を符号化して下位レイヤの符号化データ(ビットストリーム)を出力するVLC器36を備え、
上位レイヤ符号化部23は、画像データ(上位レイヤのVOP)についての、マクロブロック単位で参照画像に基づく動きベクトルの検出を行う動きベクトル検出器32を備えており、
動きベクトル検出器32は、参照画像(上位レイヤのVOP、下位レイヤのVOP)に基づいて動きベクトルを検出し、予測誤差(あるいは分散)を最小にする予測モードを設定するものであって、その際、倍率FRが1の場合で上位レイヤの予測符号化に上位レイヤのVOPを用いるときに、下位レイヤの同時刻における動きベクトルをそのまま採用し、準ダイレクトモードでは、上位レイヤの画像を参照画像とする場合に、下位レイヤの対応マクロブロックの動きベクトルMVから算出した動きベクトルを採用し、
動きベクトル、準ダイレクトモードを含む予測モード、及び下位レイヤの同時刻における動きベクトルをそのまま採用し、上位レイヤの動きベクトルは存在しないことを示すフラグなどを設定して出力するものであり、
上位レイヤ符号化部23は、画像データ(上位レイヤのVOP)のマクロブロックと動き補償器42からの予測画像との差分を演算して差分値を出力する演算器33と、
差分値をDCT処理してDCT係数を出力するDCT器34、DCT係数を設定された量子化ステップ(量子化スケール)で量子化して量子化係数を出力する量子化器35、量子化係数を符号化して上位レイヤの符号化データ(ビットストリーム)を出力するとともに、動きベクトル、予測モード、及び下位レイヤの同時刻における動きベクトルをそのまま採用し、上位レイヤの動きベクトルは存在しないことを示すフラグなどを符号化して出力するVLC器36を備えている、
VOP符号化部3n。

(4)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると次のことが認められる。

(a)「ベーススケーリングレイヤ(1002)および拡張スケーリングレイヤ(1004)を有する符号化されたビデオシーケンスを生成するための装置」について

引用発明は、下位レイヤ符号化部25、上位レイヤ符号化部23を備えたVOP符号化部3nであり、スケーラビリティを実現する下位レイヤおよび上位レイヤの画像データを符号化した符号化データ(ビットストリーム)を出力する。
引用発明の「スケーラビリティを実現する下位レイヤおよび上位レイヤの画像データを符号化した符号化データ(ビットストリーム)」は「ベーススケーリングレイヤ(1002)および拡張スケーリングレイヤ(1004)を有する符号化されたビデオシーケンス」であるといえるので、引用発明の「VOP符号化部3n」は「ベーススケーリングレイヤ(1002)および拡張スケーリングレイヤ(1004)を有する符号化されたビデオシーケンスを生成するための装置」である点において本願補正発明と一致する。

(b)「現在のピクチャ中のブロックがピクチャの群中の別のピクチャに関してどのように動いたかを示すベース動きデータを計算するためのベース動きデータ計算器(1006)」について

引用発明は、下位レイヤ符号化部25が備える動きベクトル検出器32において、マクロブロック単位で、画像データ(下位レイヤのVOP)についての参照画像に基づく動きベクトルの検出を行っている。
本願補正発明は、明細書の段落【0001】を参照するとMPEG方式の符号化を行うもので有るので、同じくMPEG方式の符号化を行う引用発明の「マクロブロック」、「参照画像」は本願補正発明の「ブロック」、「ピクチャの群中の別のピクチャ」に対応するものといえる。
また、引用発明の「下部レイヤ符号化部25」における「動きベクトル」は本願補正発明の「ベース動きデータ」に相当する。
以上のことから、引用発明の下位レイヤ符号化部25が備える動きベクトル検出器32は、本願補正発明の「現在のピクチャ中のブロックがピクチャの群中の別のピクチャに関してどのように動いたかを示すベース動きデータを計算するためのベース動きデータ計算器(1006)」と一致するものである。

(c)「前記ベース動きデータを用いて残差ピクチャのベースシーケンスを計算するためのベース動きシーケンス計算器(1012)」について

引用発明の下位レイヤ符号化部25は、画像データ(下位レイヤのVOP)のマクロブロックと動き補償器42からの予測画像との差分を演算して差分値を出力する演算器33を備えている。
引用発明の下位レイヤは本願補正発明のベーススケーリングレイヤ側に相当する。
そして、動き補償器42は下位レイヤにおける動きベクトルを用いて予測画像を生成するものであり、画像データ(下位レイヤのVOP)のマクロブロックと予測画像との差分を表す差分値は、本願補正発明の「残差ピクチャのベースシーケンス」に相当するものといえる。
よって、引用発明の下位レイヤ符号化部25の動き補償器42及び演算器33は、本願補正発明の「前記ベース動きデータを用いて残差ピクチャのベースシーケンスを計算するためのベース動きシーケンス計算器(1012)」と一致するものである。

(d)「残差ピクチャの前記ベースシーケンスから符号化された第1スケーリングレイヤを生成するように形成されているベースピクチャコーダ(1010)であって、前記ベースピクチャコーダ(1010)は、ベース量子化パラメータ(1034)を用いて量子化するように形成されるベースピクチャコーダ」について

引用発明の下位レイヤ符号化部25は、差分値をDCT処理してDCT係数を出力するDCT器34、DCT係数を設定された量子化ステップ(量子化スケール)で量子化して量子化係数を出力する量子化器35、量子化係数を符号化して下位レイヤの符号化データ(ビットストリーム)を出力するVLC器36を備えている。
引用発明の「下位レイヤの符号化データ(ビットストリーム)」は本願補正発明の「符号化された第1スケーリングレイヤ」に対応する。
また、引用発明の「設定された量子化ステップ(量子化スケール)」は、下位レイヤの量子化器35における量子化ステップ(量子化スケール)であるので、本願補正発明の「ベース量子化パラメータ(1034)」に対応するものである。
よって、引用発明の下位レイヤ符号化部25のDCT器34、量子化器35、VLC器36は、本願発明の「残差ピクチャの前記ベースシーケンスから符号化された第1スケーリングレイヤを生成するように形成されているベースピクチャコーダ(1010)であって、前記ベースピクチャコーダ(1010)は、ベース量子化パラメータ(1034)を用いて量子化するように形成されるベースピクチャコーダ」と一致するものである。

(e)「拡張動きデータを決定するための拡張動きデータ計算器(1014)であって、前記拡張動きデータ計算器は、前記ベース動きデータを用いてブロック毎に適応的に拡張動きデータを決定し、さらにブロック毎に信号伝達情報を提供するように形成され、前記信号伝達情報は前記拡張動きデータに関連する拡張動きデータ計算器」について

引用発明の上位レイヤ符号化部23は、画像データ(上位レイヤのVOP)についての、マクロブロック単位で参照画像に基づく動きベクトルの検出を行う動きベクトル検出器32を備えている。
引用発明の上位レイヤは本願補正発明の拡張スケーリングレイヤ側に相当するので、上位レイヤ符号化部23の動きベクトル検出器32は、本願補正発明の「拡張動きデータを決定するための拡張動きデータ計算器(1014)」に対応するものである。

(e-1)拡張動きデータ
引用発明の上位レイヤ符号化部23の動きベクトル検出器32は、参照画像(上位レイヤのVOP、下位レイヤのVOP)に基づいて動きベクトルを検出し、予測誤差(あるいは分散)を最小にする予測モードを設定するものであって、その際、倍率FRが1の場合で上位レイヤの予測符号化に上位レイヤのVOPを用いるときに、下位レイヤの同時刻における動きベクトルをそのまま採用し、準ダイレクトモードでは、上位レイヤの画像を参照画像とする場合に、下位レイヤの対応マクロブロックの動きベクトルMVから算出した動きベクトルを採用するものである。
すなわち、引用発明の上位レイヤ符号化部23の動きベクトル検出器32は、マクロブロック単位で、符号量が最小となる動きベクトルを検索する際に、通常の上位レイヤのVOPに基づいて動きベクトルを検出する以外に、下位レイヤの動きベクトルも計算に用いて検索を行うほか、特定の条件下では、下位レイヤの動きベクトルをそのまま用いるというものである。

ここで、本願補正発明の「前記ベース動きデータを用いてブロック毎に適応的に拡張動きデータを決定し」という構成に関し、本願発明における「適応的」の技術事項を認定する。
本願明細書の
『本発明の好適な実施の形態によれば、適応概念、すなわち、ピクチャの異なるブロックに対してベース動きデータを考慮する異なったやり方を実行することができ、さらに、1つのブロックに対して、ベース動きデータを予測子とした拡張動きデータ予測がデータ削減に寄与しないことが判明している場合には、その予測を全面的に省略できる、という概念を用いる。』(段落【0066】)、
『実施によっては、拡張動き補償器によってベース動きデータが続けて用いられるように、ベース動きデータを拡張動きデータの実際の計算に考慮することができる。しかしながら、本発明によれば、ベース動きデータとは別に拡張動きデータを計算し、さらに、実際に拡張ピクチャコーダに送られる拡張動きデータを得るために、ベース動きデータを拡張動きデータの後処理にだけに用いることも望ましい。このように、本発明によれば、高い柔軟性という意味において、拡張動きデータの別計算が実行され、これらは、ベース動きデータから計算された拡張動きデータとは関係なく、コーダ側の動き予測に用いられ、一方、ベース動きデータは、任意のタイプの残余信号を計算して、拡張動きベクトルを送信するのに必要なビットを削減するためだけに用いられる。』(段落【0067】)、
『1つの実施において、拡張動き補償器1014は、個々のモーションフィールドを全部計算するか、あるいは、ベース動き補償器1006によって計算されるモーションフィールドを直接的に(バイパスライン1040)またはアップサンプラ1042によってアップサンプリングした後に用いるように形成されている。』(段落【0083】)、
『一方、SNRスケーラビリティだけの場合には、全てのスケーリングレイヤに対してモーションフィールドは同じである。そのため、これは一度しか計算する必要がなく、高位のあらゆるスケーリングレイヤは、より低位のスケーリングレイヤが計算したものを直接使用することができる。』(段落【0085】)、
『動きデータフラグ1030の簡単な実施が図1dに示されている。フラグがセットされていると、拡張レイヤの動きデータがベースレイヤのアップサンプルされた動きデータから導出される。SNRスケーラビリティの場合、アップサンプラ1042は必要ない。ここで、フラグ1048がセットされていると、拡張レイヤの動きデータを、ベース動きデータから直接導出することができる。なお、この動きデータ「導出」は、動きデータの直接引用であることも、動きデータ予測値を得るために、ブロック1014がベースレイヤから得られる動きベクトルをブロック1014によって計算された拡張スケーリングレイヤに対して対応する動きベクトルから差し引くという実際の予測であることもある。』(段落【0096】)、
『図1eを参照すると、拡張動き補償器1014は、基本的に2つのことを行わなければならないことが分かる。すなわち、それは、第一に、拡張動きデータ、典型的には全動きベクトルを計算し、さらにそれを拡張動き予測器1016に供給しなければならなく、その結果、それは、従来技術では通常ブロック毎に適応的に実行される残差ピクチャの拡張シーケンスを得るために、符号化されていないフォームのこれらのベクトルを用いることができる。もう一方の事項は、拡張動きデータを処理すること、すなわち、次に、動き補償予測に用いられる動きデータをできるだけ圧縮してビットストリームに書き込むことである。何かをビットストリームに書き込むためには、図1eに示すように、それぞれのデータを拡張ピクチャコーダ1028に送り込む必要がある。このように、拡張動きデータ処理手段1014bは、拡張動きデータ計算手段1014aが決定した拡張動きデータに含まれる冗長性を、ベースレイヤに関して、できる限り削減するための機能を有する。』(段落【0128】)、
『本発明によれば、ベース動きデータまたはアップサンプルされたベース動きデータについては、拡張動きデータ計算手段1014aが、実際に用いられる拡張動きデータの計算に用いることもでき、または、拡張動きデータの処理、すなわち拡張動きデータの圧縮のためだけに用いることもできるが、これらのことは拡張動きデータの計算には重要ではない。図1gの1.)および2.)の2つの可能性は、拡張動きデータの計算において、ベース動きデータおよびアップサンプルされたベース動きデータが用いられている実施の形態を示し、図1bの3.)は、ベース動きデータについての情報が拡張動きデータの計算に用いられないが、残余データの符号化およびキャプチャだけにそれぞれ用いられる場合を示す。』(段落【0129】)、
及び、図1g、



図1gの説明である
『以下に、図1gに概略を示す各種の実施の形態を参照する。図6aに関して既に説明したように、BLFlag1098は、拡張動き予測のためのアップスケールされたベース動きデータの全面的な引き継ぎを信号伝達する。この場合、手段1014aは、ベース動きデータを全面的に引き継ぐように、さらに、異なるレイヤからの異なる解像度の場合には、アップスケールされたフォームで動きデータを引き継ぎ、これらをそれぞれ手段1016に送信するように形成されている。しかしながら、モーションフィールドまたは動きベクトルについての情報は、拡張ピクチャコーダには送信されない。代わりに、マクロブロックまたはサブマクロブロックのどちらかの各ブロックに対して個別のフラグ1098だけが送信される。』(段落【0131】)、
『【0133】
本発明の第2の実施の形態では、フラグQrefFlag1100によって信号伝達され、ベース動きベクトルは、手段1014aによって実行される拡張動きデータ計算に組み入れられる。図1gの部分2.)および上記で説明したように、動きデータ計算および動きベクトルmの計算は、それぞれ、数式項
(D + ΛR)

の最小値を検索することによって実行される。
【0134】
現在のピクチャBのブロックと、特定の潜在的な動きベクトルによりシフトされた先行するおよび/または後続するピクチャのブロックとの差分は、ひずみ数式項Dに導入される。図1aの1036で示した拡張ピクチャコーダの量子化パラメータは、ファクタλに導入される。数式項Rは、潜在的な動きベクトルを符号化するために用いられるビット数についての情報を提供する。
【0135】
通常、検査は、いろいろな潜在的な動きベクトルの間で実行され、あらゆる新しい動きベクトルに対してひずみ数式項Dが計算され、レート数式項Rが計算され、一定であることが望ましいが変化させることもできる拡張量子化パラメータ1036が検討される。上記の合計数式項がいろいろな潜在的な動きベクトルに対して評価され、最小結果の合計を提供する動きベクトルが用いられる。
【0136】
次に、本発明によれば、ベースレイヤからの対応するブロックのベース動きベクトルも、このインタラクティブな検索に組み入れられる。ベクトルが検索基準を満たす場合、先と同様に、フラグ1100だけを送信しなければならないが、このブロックに対する残余値または他のどんなものも送信してはならない。このように、ベース動きベクトルがブロックに対する基準(前の数式項の最小化)を満たす場合、手段1014aは、それを手段1016に送信するために動きベクトルを用いる。ただし、フラッグ1100だけが拡張ピクチャコーダに送信される。
【0137】
デコーダ側では、手段1078bがベース動きデータからのこのブロックに対する動きベクトルを決定するためにフラグ1100を復号化する場合、手段1078aが手段1078bを制御するが、その理由は拡張ピクチャデコーダが残余データを送信していないからである。
【0138】
第2の実施の形態の変形例において、ベース動きベクトルだけでなく、そのベース動きベクトルから導出され(わずかに)違いのある複数のベース動きベクトルも検索に組み入れられる。実施によっては、動きベクトルのどの成分も、個別に1インクリメント増加させたり低減させたりでき、または同じままにしておくことができる。このインクリメントは、動きベクトルの特定の粒度、たとえば、解像度ステップ、半分解像度ステップまたは4分の1解像度ステップを表すことができる。このような違いのあるベース動きベクトルが検索基準を満たす場合、その違い、すなわち+1、0または-1のインクリメントの値が「残余データ」としてフラグ1100に追加して送信される。
【0139】
フラグ1100によってアクティブにされて、デコーダは、データストリーム中のインクリメントを探し、さらにベース動きベクトルまたはアップサンプルされたベース動きベクトルをリカバーし、拡張レイヤにおける対応するブロックに対する動きベクトルを得るために、ブロック1078において、そのインクリメントと対応するベース動きベクトルとを結合する。
【0140】
フラグ1106によって信号伝達される第3の実施の形態において、動きベクトルの決定を、基本的には任意に実行することができる。この全面的な柔軟性に関して、手段1014aは、拡張動きデータを、たとえば、第2の実施の形態に関連して説明した最小化オブジェクトに従って決定することができる。次に、決定された動きベクトルは、ベースレイヤからの情報を配慮することなく、コーダ側の動き補償予測に用いられる。ただし、この場合、拡張動きデータ処理1014aは、実際の算術符号化の前の冗長度削減のための動きベクトル処理にベース動きベクトルを組み入れるように形成される。』
の記載を参照すると、本願補正発明の「適応的」とは、ブロック毎の拡張動きデータの実際の計算に、ベース動きデータを異なったやり方で考慮するというものであり、あらゆる潜在的なベクトルから伝送ビットが最小となるベクトルの検索を行う中で、特定の条件下、SNRスケーラビリティだけの場合や、ベース動きデータの採用が伝送ビットを最小にする場合において、ベース動きデータをそのまま(直接又はアップサンプリングして)、又は、ベースレイヤと拡張レイヤの解像度の相違に合わせてベース動きデータをわずかに違わせたものを採用するというものであり、さらに、通常通り計算した拡張動きデータを採用する際には、ベース動きデータとの差分をとり、ビットを削減して伝送するというものと認められる。

そして、本願補正発明の拡張動きデータの計算と引用発明の上位レイヤの動きベクトルの計算を比較すると、両者とも、ブロック毎に符号量を最小とする動きベクトルの検索を行う際に、特定の条件下においてはベース動きデータ(引用発明では下位レイヤの動きベクトル)を用いた計算も行うというものであり、一般に、予め定めた制御を行うのではなく制御対象の特性に応じて制御を変えるものを適応的制御といい、符号量を最小とする動きベクトルの検索を行いつつ、特定の条件下においてベース動きデータを用いた計算を行うことは適応的制御であるといえるので、両者は、一応「前記ベース動きデータを用いてブロック毎に適応的に拡張動きデータを決定」するものであるという点で一致する。
しかしながら、本願補正発明の「適応的に拡張動きデータを決定」することは、通常通り計算した拡張動きデータを採用する際には、ベース動きデータとの差分をとってビットを削減するという動作を含むものであるが、引用発明はそのような動作を行っていない点で本願補正発明と相違する。

なお、引用発明は下位レイヤのVOPを参照画像として利用するのに対し、本願明細書記載の実施例はベーススケーリングレイヤのピクチャは参照画像として利用していない点で両者に相違が存在するが、本願補正発明においては動きデータの決定について特定されているのみで参照画像についての特定はされていないので、この点は本願補正発明と引用発明との相違点とはしない。

(e-2)信号伝達情報
本願補正発明と引用発明の比較の前に、本願補正発明の「信号伝達情報」の技術事項を認定する。
本願明細書の
『ベース動きデータを用いて拡張動きデータ予測が一体実施されたかどうか、それがどんなタイプであったのかを、ブロックに関連付けられる信号伝達情報としてビットストリーム中で送信しデコーダに示す。』(段落【0066】)
『第1マクロブロックモードは、「base_layer_mode」であり、第2モードは、「qpel_refinement_mode」である。これらの2つの追加マクロブロックモードを信号伝達するために、図1に示すように、シンタックスエレメントmb_modeに先立って、2つのフラグ、すなわちBLFlagおよびQrefFlagがマクロブロックレイヤシンタックスに加えられる。このように、第1フラグBLFlag1098は、ベースレイヤモードを信号伝達し、もう一方のフラグ1100は、Qpel refinement modeを記号表示する。』(段落【0121】)、
『BLFlag=1の場合、対応するマクロブロックに対して、ベースレイヤモードが用いられ、さらなる情報は用いられない。このマクロブロックモードは、ベースレイヤの対応するマクロブロックのマクロブロックパーティションを含む動き予測情報が、このようにして拡張レイヤのために直接用いられていることを示す。』(段落【0122】)、
『しかしながら、フラグ1098がゼロに等しく、フラグ1100が1に等しい場合、マクロブロックモードqpel_refinement_modeが信号伝達される。フラグ1100は、望ましくは、ベースレイヤが現在レイヤの半分の空間解像度を有するレイヤを表す場合にだけ存在する。そうでない場合は、マクロブロックモード(qpel_refinement_mode)は、実施可能なマクロブロックモードのセットには含まれない。この場合のマクロブロックは、ベースレイヤモードと同様である。マクロブロックパーティション、参照インデックスおよび動きベクトルは、ベースレイヤモードにおけるように導出される。ただし、各々の動きベクトルに対して、あらゆる動きベクトル成分に対するさらなる4分の1サンプルの動きベクトルのリファインメント-1.0または+1があり、これは追加して送信され、導出された動きベクトルに加えられる。』(段落【0123】)、
『フラグ1098=0でフラグ1100=0の場合、すなわち、フラグ1100が存在しない場合、通常通り、マクロブロックモードと、対応参照インデックスと、動きベクトル差分とが特定される。このことは、動きデータの全体セットが、ベースレイヤに対して行われたのと同様に、拡張レイヤに対して送信されることを意味する。しかしながら、本発明によれば、(空間動きベクトル予測子の代わりに)現在の拡張レイヤ動きベクトルに対する予測子として、ベースレイヤ動きベクトルを用いる可能性が提供される。このように、リストX(Xは0から1までの間の値)により、考慮された動きベクトルの参照インデックスリストが特定される。引き続くすべての状態が真であれば、図6cに示すように、あらゆる動きベクトルの差分について、次のようなフラグMvPrdFlagが送信される。』(段落【0124】)、
『図6cのフラグ1106が存在しない場合、または、このフラグ1106=0の場合、AVC規格と同様に空間動きベクトル予測子が特定される。そうでない場合、フラグ1106が存在して=1の場合、動きベクトル予測子として対応するベースレイヤベクトルが用いられる。この場合、現在のマクロブロック/サブマクロブロックパーティションのリストX動きベクトル(X=0または1)は、ベースレイヤマクロブロック/サブマクロブロックパーティションの場合によってスケールされたリストX動きベクトルに、送信されたリストX動きベクトル差分を加算することによって得られる。』(段落【0125】)
の記載を参照すると、本願補正発明の「信号伝達情報」とは、拡張動きデータ予測がベース動きデータを用いてどのように実施されたかを示すブロックに関連付けられる情報であるが、具体的には、ベースレイヤの動きデータを直接用いたことを示すフラグや、変形して用いたことを示すフラグ、通常通り計算した拡張動きデータを採用し、ベース動きデータとの差分を伝送したこと示すフラグなどの情報である。
つまり、本願補正発明の「信号伝達情報」は、拡張動きデータ予測がベース動きデータをどのように用いたかを示す情報のほかに、通常通り計算した拡張動きデータを採用し、ベース動きデータとの差分を伝送したこと示すフラグを加えた情報といえる。

一方、引用発明の上位レイヤ符号化部23の動きベクトル検出器32は、動きベクトル、準ダイレクトモードを含む予測モード、及び下位レイヤの同時刻における動きベクトルをそのまま採用し、上位レイヤの動きベクトルは存在しないことを示すフラグなどを設定して出力するものである。
そして、引用発明の準ダイレクトモードは、上位レイヤの画像を参照画像とする場合に、下位レイヤの対応マクロブロックの動きベクトルMVから算出した動きベクトルを採用するものであるから、この動きベクトル検出器32は、上位レイヤの動きベクトルの算出に下位レイヤの動きベクトルMVを利用したことや、上位レイヤの動きベクトルとして下位レイヤの動きベクトルをそのまま採用したことを示す情報を出力するものであり、すなわち、上位レイヤの動きベクトルに関連する情報であり、上位レイヤの動き予測が下位レイヤの動きベクトルをどのように用いたかを示す情報を出力するものといえる。
さらに、予測モードや下位レイヤの動きベクトルの利用はブロック単位で決められるものであるので、この情報はブロック毎に形成されるものといえる。
そうすると、引用発明の「上位レイヤの動き予測」、「下位レイヤの動きベクトル」は、本願補正発明の「拡張動きデータ予測」、「ベース動きデータ」に相当するものであるので、本願補正発明と引用発明は共に「ブロック毎に拡張動きデータ予測がベース動きデータをどのように用いたかを示す情報を提供するように形成され」ており、「前記拡張動きデータ予測がベース動きデータをどのように用いたかを示す情報は前記拡張動きデータに関連する」ものである点において一致する。
ただし、本願補正発明は、「拡張動きデータ予測がベース動きデータをどのように用いたかを示す情報」のほかに、通常通り計算した拡張動きデータを採用し、ベース動きデータとの差分を伝送したこと示すフラグを加えた拡張動きデータに関連する「信号伝達情報」を提供するものあるのに対し、引用発明は、そのようなベース動きデータとの差分を伝送したこと示す情報を提供するものではない点で本願補正発明と相違する。

(e-3)まとめ
以上をまとめると、引用発明の上位レイヤ符号化部23の動きベクトル検出器32は、「拡張動きデータを決定するための拡張動きデータ計算器(1014)であって、前記拡張動きデータ計算器は、前記ベース動きデータを用いてブロック毎に適応的に拡張動きデータを決定し、さらにブロック毎に拡張動きデータ予測がベース動きデータをどのように用いたかを示す情報を提供するように形成され、前記拡張動きデータ予測がベース動きデータをどのように用いたかを示す情報は前記拡張動きデータに関連する拡張動きデータ計算器」である点において本願補正発明と一致するものである。
しかしながら、本願補正発明の「適応的に拡張動きデータを決定」することは、通常通り計算した拡張動きデータを採用する際には、ベース動きデータとの差分をとってビットを削減するという動作を含むものであるが、引用発明はそのような動作を行っていない点で本願補正発明と相違する。
また、本願補正発明は、「拡張動きデータ予測がベース動きデータをどのように用いたかを示す情報」のほかに、通常通り計算した拡張動きデータを採用し、ベース動きデータとの差分を伝送したこと示すフラグを加えた拡張動きデータに関連する「信号伝達情報」を提供するものあるのに対し、引用発明は、そのようなベース動きデータとの差分を伝送したこと示す情報を提供するものではない点で本願補正発明と相違する。

(f)「前記拡張動きデータを用いて残差ピクチャの拡張シーケンスを計算するための拡張シーケンス計算器(1016)」について

引用発明の上位レイヤ符号化部23は、画像データ(上位レイヤのVOP)のマクロブロックと動き補償器42からの予測画像との差分を演算して差分値を出力する演算器33を備えている。
引用発明の上位レイヤは本願補正発明の拡張スケーリングレイヤ側に相当する。
そして、動き補償器42は上位レイヤにおける動きベクトルを用いて予測画像を生成するものであり、この上位レイヤにおける動きベクトルは、本願補正発明の「拡張動きデータ」に相当するものといえ、画像データ(上位レイヤのVOP)のマクロブロックと予測画像との差分を表す差分値を演算することは、本願補正発明の「残差ピクチャの拡張シーケンスを計算する」ことに相当するものといえる。
よって、引用発明の上位レイヤ符号化部23の動き補償器42及び演算器33は、「拡張動きデータ」を用いて「残差ピクチャの拡張シーケンスを計算する」ものであり、本願補正発明の「前記拡張動きデータを用いて残差ピクチャの拡張シーケンスを計算するための拡張動きシーケンス計算器(1016)」と一致するものである。

(g)「符号化された拡張スケーリングレイヤを得るために、残差ピクチャの前記拡張シーケンスについての情報を符号化し、さらにブロック毎に前記信号伝達情報を符号化するための拡張ピクチャコーダ(1028)であって、前記拡張ピクチャコーダ(1028)は、拡張量子化パラメータ(1036)を用いて量子化するように形成され、前記拡張量子化パラメータは、前記ベース量子化パラメータ(1034)よりも細かな量子化ステップ幅を表す拡張ピクチャコーダ」について

引用発明の上位レイヤ符号化部23は、差分値をDCT処理してDCT係数を出力するDCT器34、DCT係数を設定された量子化ステップ(量子化スケール)で量子化して量子化係数を出力する量子化器35、量子化係数を符号化して上位レイヤの符号化データ(ビットストリーム)を出力するVLC器36を備えている。
引用発明の「上位レイヤの符号化データ(ビットストリーム)」は本願補正発明の「符号化された拡張スケーリングレイヤ」に対応しており、引用発明の上位レイヤ符号化部23のDCT器34、量子化器35、VLC器36が行う動作は、本願発明の「符号化された拡張スケーリングレイヤを得るために、残差ピクチャの前記拡張シーケンスについての情報を符号化し」に対応するものといえる。

引用発明の上位レイヤ符号化部23のVLC器36は、動きベクトル、予測モード、及び下位レイヤの同時刻における動きベクトルをそのまま採用し、上位レイヤの動きベクトルは存在しないことを示すフラグなどを符号化して出力するものであり、前記(e-2)の検討を参照すると、「ブロック毎に前記拡張動きデータ予測がベース動きデータをどのように用いたかを示す情報を符号化する」ものである点において本願補正発明と一致するものといえる。
しかしながら、本願補正発明は「信号伝達情報」を符号化するものであるのに対し、引用発明はそのようなものではない点で本願補正発明と相違する。

引用発明の「設定された量子化ステップ(量子化スケール)」は、上位レイヤの量子化器35における量子化ステップ(量子化スケール)であるので、本願補正発明の「拡張量子化パラメータ(1036)」に対応するものである。
引用発明には、拡張量子化パラメータがベース量子化パラメータよりも細かな量子化ステップ幅であることが明確にされていないが、引用発明は空間スケーラビリティ、時間スケーラビリティ、SNRスケーラビリティを併用するものであって、SNRスケーラビリティとは、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2である「社団法人映像情報メディア学会編,総合マルチメディア選書 MPEG,株式会社オーム社,1998年7月20日,第1版,第4刷」の119頁6行?120頁9行、図5・20で解説されているように、粗く量子化された低SNRのビットストリームと、細かい量子化ステップサイズで量子化されたエンハンスメントビットストリームを符号化伝送するというスケーラビリティの方式であるから、引用発明は、拡張量子化パラメータをベース量子化パラメータよりも細かな量子化ステップ幅とするものである。

よって、引用発明の上位レイヤ符号化部23のDCT器34、量子化器35、VLC器36は、「符号化された拡張スケーリングレイヤを得るために、残差ピクチャの前記拡張シーケンスについての情報を符号化し、さらにブロック毎に前記拡張動きデータ予測がベース動きデータをどのように用いたかを示す情報を符号化するための拡張ピクチャコーダ(1028)であって、前記拡張ピクチャコーダ(1028)は、拡張量子化パラメータ(1036)を用いて量子化するように形成され、前記拡張量子化パラメータは、前記ベース量子化パラメータ(1034)よりも細かな量子化ステップ幅を表す拡張ピクチャコーダ」である点において本願補正発明と一致するものである。
ただし、本願補正発明は「信号伝達情報」を符号化するものであるのに対し、引用発明はそのようなものではない点で本願補正発明と相違する。

(5)一致点・相違点
上記(4)(a)ないし(g)での対比結果をまとめると、本願補正発明と引用発明との[一致点]と[相違点]は以下のとおりである。

[一致点]
ベーススケーリングレイヤ(1002)および拡張スケーリングレイヤ(1004)を有する符号化されたビデオシーケンスを生成するための装置であって、前記装置は、
現在のピクチャ中のブロックがピクチャの群中の別のピクチャに関してどのように動いたかを示すベース動きデータを計算するためのベース動きデータ計算器(1006)と、
前記ベース動きデータを用いて残差ピクチャのベースシーケンスを計算するためのベース動きシーケンス計算器(1012)と、
残差ピクチャの前記ベースシーケンスから符号化された第1スケーリングレイヤを生成するように形成されているベースピクチャコーダ(1010)であって、前記ベースピクチャコーダ(1010)は、ベース量子化パラメータ(1034)を用いて量子化するように形成されるベースピクチャコーダと、
拡張動きデータを決定するための拡張動きデータ計算器(1014)であって、前記拡張動きデータ計算器は、前記ベース動きデータを用いてブロック毎に適応的に拡張動きデータを決定し、さらにブロック毎に拡張動きデータ予測がベース動きデータをどのように用いたかを示す情報を提供するように形成され、前記拡張動きデータ予測がベース動きデータをどのように用いたかを示す情報は前記拡張動きデータに関連する拡張動きデータ計算器と、
前記拡張動きデータを用いて残差ピクチャの拡張シーケンスを計算するための拡張シーケンス計算器(1016)と、
符号化された拡張スケーリングレイヤを得るために、残差ピクチャの前記拡張シーケンスについての情報を符号化し、さらにブロック毎に前記拡張動きデータ予測がベース動きデータをどのように用いたかを示す情報を符号化するための拡張ピクチャコーダ(1028)であって、前記拡張ピクチャコーダ(1028)は、拡張量子化パラメータ(1036)を用いて量子化するように形成され、前記拡張量子化パラメータは、前記ベース量子化パラメータ(1034)よりも細かな量子化ステップ幅を表す拡張ピクチャコーダとを備える、装置。

[相違点1]
本願補正発明の「適応的に拡張動きデータを決定」することは、通常通り計算した拡張動きデータを採用する際には、ベース動きデータとの差分をとってビットを削減するという動作を含むものであるが、引用発明はそのような動作を行っていない点。

[相違点2]
本願補正発明は、拡張動きデータ計算器が「拡張動きデータ予測がベース動きデータをどのように用いたかを示す情報」のほかに、通常通り計算した拡張動きデータを採用し、ベース動きデータとの差分を伝送したこと示すフラグを加えた拡張動きデータに関連する「信号伝達情報」を提供し、拡張ピクチャコーダが「信号伝達情報」を符号化するものあるのに対し、引用発明は、そのようなベース動きデータとの差分を伝送したこと示す情報を提供し符号化するものではない点。

(6)相違点の判断
[相違点1]について
スケーラビリティの符号化を行う際に、拡張レイヤの動きベクトルからベースレイヤの動きベクトルを減算してその差分を伝送することにより、動きベクトルの符号量を削減する技術は、スケーラビリティの符号化における周知技術である(例えば、前置報告書において提示された米国特許第6510177号明細書(第14欄第46-57行)、国際公開第2004/073312号(第4ページ第2-6行)等を参照のこと)。
米国特許第6510177号明細書(第14欄第46-57行)
『In a preferred embodiment in which the high-resolution motion vectors are used (in other words, box 925 is present), the output enhancement layer motion vector data includes only the encoded differences between the high-resolution motion vectors and then motion vectors obtained from a prediction of those motion vectors formed using the upsampled low-resolution motion vectors from the base layer. In this preferred embodiment, the bit rate required for sending high-resolution motion vector data is reduced due to the prediction of the high-resolution motion vectors using the upsampled low-resolution motion vectors from the base layer.(高解像度動きベクトルが用いられる望ましい実施例(いわば、ボックス925が存在するもの)においては、出力される拡張レイヤ動きベクトルのデータは、高解像度動きベクトルとベースレイヤからのアップサンプルされた低解像度動きベクトルを使って生成された動きベクトル予測から得られた動きベクトルとの間の符号化された差分のみを含みます。この望ましい実施例においては、伝送する高解像度動きベクトルのデータのために必要とされるビットレートは、ベースレイヤからのアップサンプリングされた低解像度動きベクトルを使った高解像度動きベクトルの予測によって減少させられます。)』
国際公開第2004/073312号(第4ページ第2-6行)
『Since the motion estimation is done on the complete image, the motion estimation vectors of the base layer will have a high correlation with the corresponding vectors of the enhancement layer. Thus, the bitrate of the enhancement layer can be reduced by only transmitting the difference between the motion estimation vectors of the base layer and the enhancement layer as describe below.(動き推定が完全なイメージでされるので、ベースレイヤの動き予測ベクトルは拡張レイヤの対応するベクトルと高い相互関係を持ちます。そのため、拡張レイヤのビットレートは、下記のように、ベースレイヤと拡張レイヤの動き予測ベクトルの間の差分を伝送することによって減少させられます。)』

そして、スケーラビリティの符号化を実現する引用発明において、上記周知技術を採用し動きベクトルの符号量を削減しようとすることは、当業者が容易に想到し得ることと認められ、そうすることにより、引用発明の適応的に拡張動きデータを決定する動作に、通常通り計算した拡張動きデータを採用する際にベース動きデータとの差分をとってビットを削減するという動作を追加し、本願補正発明と同様の適応的に拡張動きデータを決定するものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

[相違点2]について
引用発明において、拡張動きデータに関連する拡張動きデータ予測がベース動きデータをどのように用いたかを示す情報を提供し符号化しているように、一般に符号化装置においてどのような予測符号化を行ったかの情報を復号化装置側へ伝送することは普通に実施されていることである。
上記相違点1について検討のように、引用発明に通常通り計算した拡張動きデータを採用する際にベース動きデータとの差分をとるという動作を追加した場合には、拡張動きデータ予測がベース動きデータをどのように用いたかを示す情報に、通常通り計算した拡張動きデータを採用しベース動きデータとの差分を伝送したこと示す情報を追加し、それらを合わせた情報を提供して符号化することは、当業者が当然に実施することと認められる。
よって、引用発明において、通常通り計算した拡張動きデータを採用し、ベース動きデータとの差分を伝送したこと示すフラグを加えた拡張動きデータに関連する「信号伝達情報」を提供し、拡張ピクチャコーダが「信号伝達情報」を符号化するものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

(7)効果等について
本願補正発明の構成は、上記のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願補正発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測しうる範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものではない。

(8)まとめ
以上のように、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成25年2月4日付けの手続補正は上記の通り却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成23年1月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載した事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、前記第2.1.の請求項1(補正前)に記載した事項により特定されるとおりのものである。

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及び、その記載事項は、前記第2.2.(2)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.2.で検討した本願補正発明における「ベースピクチャコーダ(1010)」における「ベース量子化パラメータ(1034)」についての限定事項、及び「拡張ピクチャコーダ(1028)」における「拡張量子化パラメータ(1036)」についての限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記第2.2.に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-13 
結審通知日 2013-12-17 
審決日 2014-01-06 
出願番号 特願2007-536021(P2007-536021)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04N)
P 1 8・ 572- Z (H04N)
P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂本 聡生畑中 高行  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 松尾 淳一
奥村 元宏
発明の名称 中間レイヤ動きデータ予測を用いて符号化されたビデオシーケンスを生成するための装置および方法  
代理人 岡田 全啓  

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