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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C07F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07F
管理番号 1288049
審判番号 不服2012-2080  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-03 
確定日 2014-05-22 
事件の表示 特願2006-197326「高純度トリアルキルアルミニウム及びその製法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月 7日出願公開、特開2008- 24617〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年7月19日の出願であって、
平成23年4月12日付けの拒絶理由通知に対し、平成23年6月20日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、
平成23年10月31日付けの拒絶査定に対し、平成24年2月3日付けで審判請求がなされるとともに手続補正がなされ、
平成24年11月20日付けの審尋に対し、平成25年1月28日付けで回答書の提出がなされ、
平成25年6月24日付けの審尋に対し、平成25年8月26日付けで回答書の提出がなされたものである。

第2 平成24年2月3日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成24年2月3日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
平成24年2月3日付け手続補正(以下、「第2回目の手続補正」という。)は、補正前の請求項3?5に記載された『…高純度トリアルキルアルミニウムの製法。』という方法のカテゴリーに属する発明に関する請求項を削除するとともに、補正後の請求項3として「高純度トリアルキルアルミニウムが半導体製造に用いられるものである、請求項1乃至2のいずれか1項に記載の高純度トリアルキルアルミニウム。」という物のカテゴリーに属する発明に関する請求項を追加する補正(以下、「増項補正」という。)を含むものである。

2.補正の適否
上記「増項補正」は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号に掲げる「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」、同2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」、同3号に掲げる「誤記の訂正」ないし同4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものに該当しない。

3.まとめ
したがって、第2回目の手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反しているから、その余のことを検討するまでもなく、第2回目の手続補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
第2回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成23年6月20日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「誘導結合プラズマ発光分析により分析されるケイ素原子の含有量が0.7質量ppm以下、ケイ素原子以外の金属原子の合計含有量が0.30質量ppm以下であることを特徴とする、高純度トリアルキルアルミニウム。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成23年4月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、
平成23年4月12日付け拒絶理由通知書(以下、「先の拒絶理由通知書」という。)には、
その理由2として「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由が示され、
その「記」には、『理由1、2・請求項1・引用文献等1?2・備考 引用文献1、2には、ケイ素含有量が少ない高純度のトリアルキルアルミニウムが記載されている。…引用文献1、2に記載のような公知の精製方法を繰り返すなどして不純物含有量の極めて少ない化合物とすることは、当業者が容易になし得たことである。』との指摘がなされている。
また、原査定の「備考(請求項1?5:刊行物1?4)」の欄には「補正後の本願請求項1、2に係る発明は、依然として、先の拒絶理由で引用した刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」との指摘がなされている。

3.理由2について
(1)引用文献及びその記載事項
ア.引用文献1:特開2006-1896号公報
先の拒絶理由通知書において「引用文献1」として引用され、原査定において「刊行物1」として引用された本願出願日前に頒布された刊行物である「特開2006-1896号公報」には、次の記載がある。

摘記1a:請求項1
「不純物含有量が、有機珪素成分≦0.5ppm、塩素成分≦20ppm、炭化水素成分≦1,000ppm、Ca≦0.05ppm、Fe≦0.05ppm、Mg≦0.05ppm、Na≦0.05ppm、Si(上記有機珪素成分以外のSi分)≦0.07ppm、Zn≦0.05ppm、S≦0.05ppmである高純度トリメチルアルミニウム。」

摘記1b:段落0002?0003、0006?0009及び0016
「化合物半導体材料は、エレクトロニクス産業でマイクロ波振動子、半導体発光ダイオード及びレーザー並びに赤外検知器等に応用用途を有する材料である。有機金属化合物をエピタキシャル成長させて得られる化合物半導体の品質は、原料である有機金属化合物をはじめとする不純物に大きく左右される。従って、高機能の化合物半導体材料を得るために、有機金属化合物には高い純度が要求されている。…有機金属化合物、特にトリメチルアルミニウムの不純物としては、炭化水素成分、有機珪素成分、アルキルアルミニウム酸化物及び金属化合物等がある。…
トリメチルアルミニウムの製造方法は、大別して以下の3方法が知られている。…これらの方法では、いずれもアルミニウムやアルカリ金属を使用するため、不純物として鉱物由来の珪素、鉄、亜鉛、マグネシウム、硫黄等が不純物として混入し易いと考えられている。…これらの不純物は、上記製造工程中で様々な化合物に変化すると考えられるが、特に珪素、亜鉛、硫黄等は、トリメチルアルミニウムやその後のトリメチルアルミニウムを原料として使用する有機金属化合物であるトリメチルガリウム、トリメチルインジウム等、メチル基を有する有機金属化合物中に混入し易い物質に変化すると考えられている。…具体的には、有機珪素化合物の場合、テトラメチルシラン…等で表される化合物の存在は否定できない。…また、これらの不純物としての含有量が、ppm、ppbオーダーであることが、その除去方法の確立を困難にしてきた。…
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、工業的に容易な方法でかつ安価に有機珪素成分、塩素成分、炭化水素成分、アルキルアルミニウム酸化物、金属化合物等の不純物を極限まで低減した高純度トリメチルアルミニウム及びこれを安定して得る精製方法を提供することを目的する。」

摘記1c:段落0026及び0035?0040
「より具体的には、以上のことから、精製すべきトリメチルアルミニウムは、通常、有機珪素成分を10?200ppm、塩素成分を50?100ppm、炭化水素成分(例えばヘキサンで換算)を5,000?10,000ppm含有している。また、アルキルアルミニウム酸化物を50?200ppm含有しているものである。なお、有機珪素成分の量とは、不純物としての上記有機珪素化合物におけるSi量を意味する。…
通常、主留分の回収率は70%以下、特に50%以下が好ましい。カットされた残液は、ポリオレフィン製造触媒等に利用され、工業的に有用な取り扱いでコスト面をカバーできる。蒸留精製は必要に応じて数回繰り返されることによって、安定して高純度トリメチルアルミニウムを得ることが可能である。…
上記の精製方法により、不純物含有量が、有機珪素成分≦0.5ppm、好ましくは0.1ppm以下、塩素成分≦20ppm、好ましくは10ppm以下、炭化水素成分≦1,000ppm、好ましくは500ppm以下、Ca≦0.05ppm、Fe≦0.05ppm、Mg≦0.05ppm、Na≦0.05ppm、Si(上記有機珪素成分以外のSi分)≦0.07ppm、Zn≦0.05ppm、S≦0.05ppmであり、また、アルキルアルミニウム酸化物が20ppm以下である高純度トリメチルアルミニウムを得ることができる。なお、その他の金属であるCd、Cr、Cu、Mn、Ni、Sn、Ti、Zrについても各々0.05ppm以下が好ましい。…
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、実施例に示す有機金属化合物中の有機珪素成分は、炭化水素溶媒中に抽出される有機珪素成分を誘導結合プラズマ発光法によって定量した。…
[実施例1]
25段相当の充填塔を備えたSUS製撹拌機付き蒸留塔を十分洗浄、ヘリウム置換後、該容器にトリメチルアルミニウムを仕込んだ。次いで、市販の金属ナトリウムを5質量部溶解し、常圧下で釜に注入した。
その後、全還流を2時間行った。この間、凝縮器の温度は、塔頂温度より30℃低く設置し、低沸点不純物の滞留を防止するため、凝縮器には高純度不活性ガスを適量導入しつつ、塔頂に低沸点不純物を濃縮した。その後、環流比R=40で初留を40%カットした。その後還流比15で主留を45%カットした。釜残は、別途用意した容器に移送し、簡易蒸留によって回収した。主留を分析した結果を表1に示す。…
【表1】


[実施例2]
実施例1と同様の方法でバッチの異なるトリメチルアルミニウムを2回精製し、主留分トリメチルアルミニウム35%中の有機珪素成分濃度を測定した結果、0.1ppmであった。主留を分析した結果を表2に示す。」

イ.引用文献4:特開2005-8552号公報
先の拒絶理由通知書において「引用文献4」として提示され、原査定において「刊行物4」として引用された本願出願日前に頒布された刊行物である「特開2005-8552号公報」には、次の記載がある。

摘記4a:段落0002
「III族化合物半導体材料、例えばヒ素ガリウム、窒化ガリウムなどの化合物半導体デバイスは、携帯電話などの高速・簡易電話分野の急速な発展により、その需要が急増している。また、化合物半導体ダイオードの実用化も進み、その高効率発光性ゆえに今後需要は更に増加していく。このような材料は、従来、アルキル基を構成要素に有するIII族金属アルキル(トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、トリメチルインジウム、トリエチルガリウムなど)を原料とした、有機金属化合物気相成長法によって製造される。化合物半導体の特性は、原料であるIII族金属アルキルの純度に大きく影響され、微量の不純物でも、その光学的特性・電気的特性等は著しく低下する。このため、高純度のIII族金属アルキルの製造方法が求められてきた。」

摘記4b:段落0032
「[実施例1]ヘリウム雰囲気でキシレン250gとトリフェニルホスフィン350g(1.33mol)を混合した。そこに含珪素不純物が5400ppb混入しているトリメチルガリウム134g(1.17mol)を加え、金属アルキル付加物を生成した。上記混合物を0.2kPaの減圧で70℃に加熱することでキシレン溶媒を蒸留分離した。その後、0.2kPaの減圧で200℃まで加熱することでトリメチルガリウムの熱解離を行った。熱解離したトリメチルガリウムはドライアイスで冷却した容器に回収したところ、回収率は95%になった。NMR分析、GCマス分析を行うと、回収したトリメチルガリウムには1%程度のキシレンが含まれていることが確認された。回収したトリメチルガリウムを内径12mm、高さ100mmのヘリパックNO.2(東京特殊金網(株)製)を充填した塔で蒸留した。蒸留は留分の最初から回収し、回収率は90%とした。蒸留後のトリメチルガリウムのNMR分析、GCマス分析ではキシレンの検出はなかった。また、ICP分析でも含珪素化合物は確認されなかった。以上のことから、トリメチルガリウム中の不純物の除去ができ、使用した溶媒も簡単な操作で分離できることが確認された。」

ウ.参考文献A:特開2003-95648号公報
原査定の備考欄において「金属不純物量を測定するにあたり、誘導結合プラズマ発光分析により行うこと、その際、金属不純物量を質量ppmで特定することは、本願出願当時広く行われていた方法である…例えば…特開2003-95648号公報」として提示された本願出願日前に頒布された刊行物である「特開2003-95648号公報」には、次の記載がある。

摘記A1:段落0039
「以上説明したように本発明の製造方法を用いて得られる高純度フッ化カルシウムは、不純物金属元素の含有量が少ないことを特徴とし、特に不純物として含まれるストロンチウムの含有量が0.1質量ppm以下であることを特徴とする。また、不純物として含まれるカリウム、ナトリウム、マグネシウム、バリウムおよび鉄の含有量が各々0.1質量ppm以下であり、酸素元素の含有量は100質量ppm以下である。不純物金属は、例えば測定するサンプルを純粋あるいは酸で溶解・希釈して誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)等の方法を用いて分析することができる。」

(2)引用文献1に記載された発明
摘記1aの「不純物含有量が、有機珪素成分≦0.5ppm、塩素成分≦20ppm、炭化水素成分≦1,000ppm、Ca≦0.05ppm、Fe≦0.05ppm、Mg≦0.05ppm、Na≦0.05ppm、Si(上記有機珪素成分以外のSi分)≦0.07ppm、Zn≦0.05ppm、S≦0.05ppmである高純度トリメチルアルミニウム。」との記載、
摘記1bの「本発明は、…工業的に容易な方法でかつ安価に有機珪素成分、塩素成分、炭化水素成分、アルキルアルミニウム酸化物、金属化合物等の不純物を極限まで低減した高純度トリメチルアルミニウム…を提供することを目的する。」との記載、及び
摘記1cの「有機珪素成分の量とは、不純物としての上記有機珪素化合物におけるSi量を意味する…実施例に示す有機金属化合物中の有機珪素成分は、炭化水素溶媒中に抽出される有機珪素成分を誘導結合プラズマ発光法によって定量した。」との記載からみて、引用文献1には、
『誘導結合プラズマ発光法によって定量した不純物含有量が、有機珪素成分≦0.5ppm、塩素成分≦20ppm、炭化水素成分≦1,000ppm、Ca≦0.05ppm、Fe≦0.05ppm、Mg≦0.05ppm、Na≦0.05ppm、Si(上記有機珪素成分以外のSi分)≦0.07ppm、Zn≦0.05ppm、S≦0.05ppmである金属化合物等の不純物を極限まで低減した高純度トリメチルアルミニウム。』についての発明(以下、「引1発明」という。)が記載されている。

(3)対比
本願発明と引1発明とを比較する。
引1発明の「高純度トリメチルアルミニウム」は、本願明細書の段落0009の「トリアルキルアルミニウムが、トリメチルアルミニウム」との記載からみて、本願発明の「高純度トリアルキルアルミニウム」に相当する。
次に、引1発明の「誘導結合プラズマ発光法によって定量した不純物含有量が、有機珪素成分≦0.5ppm」及び「Si(上記有機珪素成分以外のSi分)≦0.07ppm」は、
摘記1cの「[実施例2]…主留分トリメチルアルミニウム35%中の有機珪素成分濃度を測定した結果、0.1ppmであった。」との記載からみて、引1発明における不純物含有量の基準は「トリメチルアルミニウム」であると認められ、
摘記A1の「不純物…含有量が各々0.1質量ppm以下であり、…不純物金属は…誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)…等の方法を用いて分析することができる。」との記載からみて、引1発明の誘導結合プラズマ発光法によって定量した不純物含有量の「ppm」の単位が『質量ppm』であることが明らかであり、
有機珪素成分0.5ppm以下と当該有機珪素成分以外のSi分0.07ppm以下の合計0.57ppm以下の数値範囲が本願発明の「0.7質量ppm以下」の範囲内であることも明らかであるから、
本願発明の「誘導結合プラズマ発光分析により分析されるケイ素原子の含有量が0.7質量ppm以下」に相当する。
そして、引1発明の「塩素成分≦20ppm、炭化水素成分≦1,000ppm」及び「S≦0.05ppm」は、本願発明において金属原子以外の不純物の濃度範囲が特定されていないことから、本願発明との対比において相違点を構成しない。

してみると、本願発明と引1発明は、『誘導結合プラズマ発光分析により分析されるケイ素原子の含有量が0.7質量ppm以下である高純度トリアルキルアルミニウム。』に関するものである点において一致し、
ケイ素原子以外の金属原子の合計含有量(なお、平成25年8月26日付けの回答書の「アルミニウムそれ自体は不純物ではありませんので、ケイ素原子以外の金属原子に該当しないと考えるのが相当です。」との釈明からみて、当該「ケイ素原子以外の金属原子」には「アルミニウム」が含まれないものと解する。)が、本願発明においては「0.30質量ppm以下」であるのに対して、引1発明においては『Ca≦0.05ppm、Fe≦0.05ppm、Mg≦0.05ppm、Na≦0.05ppm、Zn≦0.05ppmである金属化合物等の不純物を極限まで低減した』ものである点においてのみ一応相違する。

(4)判断
上記相違点について検討する。
摘記1bの「化合物半導体の品質は、原料である有機金属化合物をはじめとする不純物に大きく左右される。従って、高機能の化合物半導体材料を得るために、有機金属化合物には高い純度が要求されている。」との記載、及び
摘記4aの「このような材料は…トリメチルアルミニウム…を原料とした、有機金属化合物気相成長法によって製造される。化合物半導体の特性は、原料であるIII族金属アルキルの純度に大きく影響され、微量の不純物でも、その光学的特性・電気的特性等は著しく低下する。このため、高純度のIII族金属アルキルの製造方法が求められてきた。」との記載にあるように、
本願出願日前の技術水準において、化合物半導体の原料となるトリメチルアルミニウムのような有機金属化合物において、半導体製品の品質が不純物に大きく左右されることから、従来以上に高純度が求められていることは、当業者にとって技術常識であったと認められる。
してみると、引1発明の『Ca≦0.05ppm、Fe≦0.05ppm、Mg≦0.05ppm、Na≦0.05ppm、Zn≦0.05ppmである金属化合物等の不純物を極限まで低減した』という各種の不純物となる金属原子の含有量を可能な限り減じてみることは、当業者が普通に想起し得ることにすぎない。

ここで、非常に高純度のトリアルキルアルミニウムを得るための方法について、本願明細書の段落0016には「高純度トリアルキルアルミニウムを得る操作は、複数回行うことによって、より高純度のトリアルキルアルミニウムを得ることができる。」として記載されているところ、
引用文献1に記載された発明(引1発明を含む)は、摘記1cの「蒸留精製は必要に応じて数回繰り返されることによって、安定して高純度トリメチルアルミニウムを得ることが可能である。」との記載にあるように、精製のための操作を複数回行うことによって、より高純度のトリアルキルアルミニウムを得ることができるとしているものである。
そして、摘記1cの「実施例1」においては、実際に有機珪素成分の不純物含有量が、精製前の24.5ppmから精製後の0.06ppmへと408分の1以下にまで減じられており、Ca、Fe、Mg、Na、Si、Znの主要な金属不純物の量も、精製前の合計0.58ppmから検出限界以下になっており、この結果は、本願明細書の段落0018の実施例1において、有機珪素成分の不純物含有量が精製前の47ppmから精製後の0.5ppmへと94分の1にまで減じた結果よりも、不純物の含有量を効率的に減じているものである。
してみると、本願発明の「ケイ素原子以外の金属原子の合計含有量が0.30質量ppm以下」という不純物の含有量は、引用文献1に記載された方法で容易に達成できる程度のものと認められる。

さらに、本願発明の効果について検討するに、引1発明の具体例は、有機珪素成分の不純物含有量を精製前の24.5ppmから精製後の0.06ppmへと408分の1以下にまで減じ、主要な金属不純物の量も精製前の合計0.58ppmから検出限界以下にまで減じているものであるから、本願明細書の実施例1及び2における「ケイ素原子が0.5質量ppm以下」及び「ケイ素原子が0.7質量ppm以下」という結果が、当業者にとって格別予想外の顕著な効果であるとは認められず、
摘記1bの「有機金属化合物をエピタキシャル成長させて得られる化合物半導体の品質は、原料である有機金属化合物をはじめとする不純物に大きく左右される。従って、高機能の化合物半導体材料を得るために、有機金属化合物には高い純度が要求されている。…特に珪素、亜鉛、硫黄等は、トリメチルアルミニウムやその後のトリメチルアルミニウムを原料として使用する有機金属化合物であるトリメチルガリウム、トリメチルインジウム等、メチル基を有する有機金属化合物中に混入し易い物質に変化すると考えられている。…本発明は…金属化合物等の不純物を極限まで低減した高純度トリメチルアルミニウム及びこれを安定して得る精製方法を提供する」との記載に照らして、本願明細書の段落0008に記載された「本発明により、エピタキシャル成長法による高機能の化合物半導体の製造原料として、又、各種半導体製造等における有機金属化合物(例えば、トリアルキルガリウムやトリアルキルインジウム等)の製造原料として有用な高純度トリアルキルアルミニウム及びその製法を提供することができる。」という効果が、当業者にとって格別予想外の顕著な効果であるとは認められない。

したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明(並びに引用文献4及び参考文献Aに記載された技術常識)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上総括するに、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の理由及びその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2014-03-19 
結審通知日 2014-03-25 
審決日 2014-04-09 
出願番号 特願2006-197326(P2006-197326)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07F)
P 1 8・ 57- Z (C07F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 千弥子関 美祝  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 井上 雅博
木村 敏康
発明の名称 高純度トリアルキルアルミニウム及びその製法  

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