• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1288059
審判番号 不服2011-15873  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-22 
確定日 2014-05-21 
事件の表示 特願2004-555819「細胞治療学、細胞治療単位、およびそれらを利用した治療法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月10日国際公開、WO2004/047770、平成18年 3月23日国内公表、特表2006-509770〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成15年11月25日(パリ条約による優先権主張 平成14年11月26日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成18年11月22日に手続補正書が提出され,平成22年2月24日付けで拒絶理由通知書が出され,同年9月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成23年3月16日付けで拒絶査定となり,これに対して,同年7月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同年9月8日に手続補正書(方式)が提出され,同年9月12日に手続補足書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?19に係る発明は,平成22年9月2日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定される発明であると認める。
その内,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次の事項により特定される発明である。
「【請求項1】
細胞治療単位であって,
複数の分化能を持つ細胞内に少なくとも1%のCD34^(+)細胞を有するものであり,
前記単位は複数の供給源からの細胞を有し,前記複数の分化能を持つ細胞は,単離されたCD34^(-),OCT-4^(+),SSEA3^(-),CD10^(+),CD29^(+),CD38^(-),CD44^(+),CD45^(-),CD54^(+),CD90^(+),SH2^(+),SH3^(+),SH4^(+),SSEA4^(-),及びABC-p^(+)胎盤幹細胞を有するものである,細胞治療単位。」

第3 原査定の拒絶理由の概要
平成22年2月24日付けで通知された拒絶理由の概要は以下に記すとおりである。
「この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願の優先権主張日前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願の優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.国際公開第02/064755号(8月22日)」

第4 刊行物1記載の事項
原査定の拒絶理由で引用され,本願優先権主張日前に頒布された刊行物である国際公開第02/064755号(以下,刊行物1」という。)には,次の事項が記載されている。
なお,翻訳は,対応日本出願の公表特許公報である特表2004-528021号公報によるものである。参考として,前記公表特許公報に付された段落番号も付記しておいた。摘記箇所の頁と行は,刊行物1のものである。

(刊1-1)「38. 少なくとも次の特徴:CD10+,CD29+,CD34-,CD44+,CD45-,CD54+,CD90+,SH2+,SH3+,SH4+,SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+およびABC-p+を有する,単離された哺乳動物胎盤幹細胞。」(明細書44頁2?4行 【請求項38】)

(刊1-2)「46. 請求項35,37または38に記載のヒト胎盤幹細胞を投与することを含んでなる,ヒト疾患の治療方法。
47. 請求項35,37または38に記載のヒト胎盤幹細胞を,それを必要とする患者に投与することを含んでなる,幹細胞の移植方法。
48. 請求項35,37または38に記載のヒト胎盤幹細胞を含んでなる,医薬組成物。
49. 臍帯血または胎盤血をさらに含む,請求項46に記載の医薬組成物。」(明細書44頁下から2行?45頁6行 【請求項46】?【請求項49】)

(刊1-3)「幹細胞の採取および使用に制限があり,臍帯血から回収される細胞の数は一般に不十分であることから,幹細胞は極めて供給が不足している。幹細胞は,悪性疾患,先天性代謝異常,異常ヘモグロビン症,免疫不全などの非常に多様な障害の治療に使用できる可能性がある。様々な治療法,およびその他の医学的に関連する目的で,多数のヒト幹細胞を容易に入手可能にする供給源が切実に求められている。本発明は,この需要その他を解消しようとするものである。」(明細書5頁14?20行 【0014】)

(刊1-4)「本発明の別の実施形態では,上記胎盤を灌流することにより,血液,残留細胞,タンパク質およびその他の残留物質を除去する。この胎盤をさらに処理することによって残屑を除去してもよい。灌流は,通常,適当な灌流液を用いて,少なくとも2?24時間以上継続する。本発明のいくつか別の実施形態では,少なくとも2,4,6,8,10,12,14,16,18,20および22時間胎盤を灌流してから幹細胞を収集する。上記時点のいずれかで収集した灌流液も胚様幹細胞の供給源を提供すると考えられる。胎盤から最初に収集した血液が,主に,CD34+およびCD38+造血前駆細胞を含む臍帯血と呼ばれることを理解すべきである。分娩後最初の24時間以内の灌流において,CD34+およびCD38-細胞と一緒に,胎盤からCD34+およびCD38-造血前駆細胞を単離することができる。約24時間の灌流後に,前記細胞と一緒に,胎盤からCD34-およびCD38-細胞を単離することができる。」(明細書6頁1?13行 【0016】)

(刊1-5)「本発明は,胎盤に由来する胚様幹細胞を提供する。本発明の胚様幹細胞は,フローサイトメトリーおよび免疫細胞化学のような技法を用いて形態および細胞表面マーカーの変化を測定し,かつ,PCRのような技法を用いて遺伝子発現の変化を測定することにより,特性決定することができる。本発明の一実施形態では,このような胚様幹細胞は,下記の細胞表面マーカーの存在により特性決定することができる:CD10+,CD29+,CD34-,CD38-,CD44+,CD45-,CD54+,CD90+,SH2+,SH3+,SH4+,SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+,およびABC-p+。好ましい実施形態では,このような胚様幹細胞は,細胞表面マーカー:OCT-4+およびAPC-p+(当審注:「ABC-P+」の誤記と解される。)の存在により特性決定することができる。胎盤に由来する胚様幹細胞は,胚性幹細胞の特徴を有するが,胚に由来するものではない。換言すれば,本発明は,分娩出後に灌流した胎盤から単離された未分化の幹細胞であるOCT-4+およびABC-p+細胞を包含する。このような細胞はヒト胚性幹細胞と同じくらい万能である(例えば,多分化能性である)。前述のように,様々な時点の灌流した胎盤から,多数の異なる多分化能性または多能性幹細胞を単離することができ,このような細胞として,例えば,CD34+/CD38+,CD34+/CD38-,およびCD34-/CD38-造血細胞が挙げられる。本発明の方法によれば,ヒト胎盤を,分娩後,胚様幹細胞の供給源として用いる。」(明細書8頁1?17行 【0023】)

(刊1-6)「本発明は,本発明の胚様幹細胞を含む医薬組成物に関する。本発明はさらに,あらゆる細胞型に分化する能力があるヒト胎盤幹細胞の単離された均一集団に関する。本発明はまた,限定するものではないが,高濃度(または大きな集団)の,CD34+/CD38-細胞およびCD34-/CD38-細胞などの均一造血幹細胞を含む医薬組成物も包含し,ここで,1以上の上記細胞集団を臍帯血造血細胞,すなわち,CD34+/CD38+造血細胞と一緒に,または該細胞との混合物として,移植およびその他の用途に用いることができる。」(明細書8頁21?29行 【0025】)

(刊1-7)「本明細書で用いる「幹細胞」という用語は,無限に再生して,組織および器官の専門化した細胞を形成することができるマスター細胞(master cell)を意味する。幹細胞は,発生上は,多分化能性または多能性の細胞である。幹細胞は分裂して2個の娘幹細胞,または1個の娘細胞と1個の前駆(「トランジット」)細胞を産生し,後に,これが増殖して,成熟した完全に形成された組織の細胞となる。」(明細書10頁14?18行 【0037】)

(刊1-8)「53. 多能性であるヒト胎盤幹細胞の単離された均一集団。
・・・(略)・・・
56. CD34+およびCD38-である細胞が富化された造血幹細胞の集団を含んでなる,骨髄移植用の組成物。
57. CD34+およびCD38+である細胞を有する臍帯血をさらに含む,請求項53に記載の組成物。」(明細書45頁13?22行 【請求項53】?【請求項57】)

(刊1-9)「他の実施形態では,細胞を遺伝子治療法で,自己または異種トランスジーン担体として用いることにより,副腎脳白質ジストロフィー,嚢胞性繊維症,糖原貯蔵症,甲状腺低下,鎌状赤血球貧血,ペアソン症候群,ポーンプ病,フェニルケトン尿症(PKU),およびテイ-サックス病,ポルフィリン症,カエデシロップ尿病,ホモシスチン尿症,ムコ多糖症,慢性肉芽腫性疾患およびチロシン血症などの先天性代謝異常を改善したり,あるいは,癌,腫瘍またはその他の病状を治療したりすることができる。」(明細書33頁19?25行 【0142】)

(刊1-10)「別の実施形態では,上記胚様幹細胞を,化学療法に加える補足的治療として用いる。癌細胞をターゲッティングし,破壊するのに用いられるほとんどの化学療法薬は,すべての増殖中の細胞(すなわち,細胞分裂している細胞)を死滅させることにより作用する。骨髄は身体において最も活発に増殖している組織の1つであるため,造血幹細胞は化学療法薬により損傷を受けたり,破壊されたりすることが多く,その結果,血液細胞生産が減少または停止してしまう。化学療法は,所定期間継続したら停止し,患者の造血系が血液細胞供給を補充してから,再開しなければならない。以前には静止状態であった幹細胞が増殖し,白血球数を許容可能なレベルまで増加させ,化学療法を再開できるまでには,1ヶ月以上を要すると考えられる(再開しても,骨髄幹細胞は再び破壊される)。
化学療法による治療を停止している間,血液細胞は再生するが,その間にも癌は成長し,恐らく自然選択により,化学療法薬に対する耐性が強くなる。従って,化学療法による治療期間を長くすると同時に,治療を停止する期間を短くするほど,癌を確実に死滅させる勝算が高くなる。化学療法による治療の間隔を短くするために,本発明の方法に従い収集した胚様幹細胞または前駆細胞を患者に導入することができる。このような治療によって,患者が低い血液細胞数を呈示する時間が短くなるため,化学療法治療をこれまでより早く再開することができる。」(明細書34頁6?24行 【0145】?【0146】)

第5 刊行物1記載の発明
刊行物1の特許請求の範囲には,
「38. 少なくとも次の特徴:CD10+,CD29+,CD34-,CD44+,CD45-,CD54+,CD90+,SH2+,SH3+,SH4+,SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+およびABC-p+を有する,単離された哺乳動物胎盤幹細胞。」(刊1-1)
「46. 請求項35,37または38に記載のヒト胎盤幹細胞を投与することを含んでなる,ヒト疾患の治療方法。
・・・(略)・・・
48. 請求項35,37または38に記載のヒト胎盤幹細胞を含んでなる,医薬組成物。
49. 臍帯血または胎盤血をさらに含む,請求項46に記載の医薬組成物。」(刊1-2)
と記載されている。
医薬組成物に係る請求項49は,「請求項46に記載の医薬組成物」を引用するが,請求項46は治療方法であり,引用関係に整合性がなくなるから,医薬組成物に係る請求項48の引用の誤記と解される。仮に,誤記でないとしても,請求項46は,請求項38を引用しているから下記の発明の認定に影響はない。

そこで,請求項49の請求項の引用を解除すると,次の発明(以下,「引用発明」という。)が,刊行物1に記載されていると認められる。
「少なくとも次の特徴:CD10+,CD29+,CD34-,CD44+,CD45-,CD54+,CD90+,SH2+,SH3+,SH4+,SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+およびABC-p+を有する,単離された哺乳動物胎盤幹細胞であるヒト胎盤幹細胞を含んでなり,
臍帯血または胎盤血をさらに含む医薬組成物。」

第6 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 細胞治療単位について
本願明細書の段落【0006】?【0008】に,本願発明の「細胞治療単位」について,次のように定義されている。
「【0006】ここで用いるとおり,「細胞治療単位(cytotherapeutic unit)」とは,少なくとも1つの細胞タイプを特定の患者または特定の疾患状態に対して調製した,複数の分化能を持つ細胞を有する細胞製剤を指す。・・・(略)・・・
【0007】
細胞または細胞タイプについて「分化能を持つ(potent)」とは,前記細胞または細胞タイプが少なくとも1種類の細胞に分化できることを意味する。
【0008】
細胞または細胞タイプについて「多分化能を持つ(Pluripotent)」とは,前記細胞または細胞タイプが少なくとも2種類の細胞に分化できることを意味する。」

そうすると,本願発明の「細胞治療単位」とは,少なくとも1つの細胞タイプを特定の患者または特定の疾患状態に対して調製した,複数の分化能を持つ細胞,すなわち,分化多能性を持つ細胞を有する細胞製剤のことをいうものと解される。

他方,引用発明の「単離されたヒト胎盤幹細胞を含んでなる,医薬組成物」には,幹細胞が含まれている。この引用発明の「幹細胞」は,刊行物1の「幹細胞は,発生上は,多分化能性または多能性の細胞である。」(刊1-7)との記載に照らし,分化多能性を持つ細胞である。また,この引用発明の「幹細胞」は,「単離されたもの」であるから1つの細胞タイプであるといえる。

引用発明の「医薬組成物」には,「幹細胞」が含まれているから,細胞製剤といえる。

引用発明の「単離されたヒト胎盤幹細胞を含んでなる,医薬組成物」は,刊行物1の「幹細胞は,悪性疾患,先天性代謝異常,異常ヘモグロビン症,免疫不全などの非常に多様な障害の治療に使用できる可能性がある。」(刊1-3)との記載に照らし,特定の患者又は特定の疾患状態に対して,調製されたものであることは明白である。

以上のことを総合すると,引用発明の「単離されたヒト胎盤幹細胞を含んでなる,医薬組成物」は,1つの細胞タイプを特定の患者または特定の疾患状態に対して調製した複数の分化能を持つ細胞を有する細胞製剤と言い換えることができ,本願明細書記載の前記「細胞治療単位」の定義に照らし,本願発明の「細胞治療単位」に相当する。

2 複数の分化能を持つ細胞について
引用発明の「幹細胞」は,本願発明の「複数の分化能を持つ細胞」に相当する。

3 幹細胞の発現マーカーについて
引用発明の「CD10+,CD29+,CD34-,CD44+,CD45-,CD54+,CD90+,SH2+,SH3+,SH4+,SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+およびABC-p+を有する,単離されたヒト胎盤幹細胞」は,本願発明の「単離されたCD34^(-),OCT-4^(+),SSEA3^(-),CD10^(+),CD29^(+),CD38^(-),CD44^(+),CD45^(-),CD54^(+),CD90^(+),SH2^(+),SH3^(+),SH4^(+),SSEA4^(-),及びABC-p^(+)胎盤幹細胞」に相当する。

4 CD34^(+)細胞について
刊行物1には「胎盤から最初に収集した血液が,主に,CD34+およびCD38+造血前駆細胞を含む臍帯血と呼ばれることを理解すべきである。」(刊1-4)と記載され,「57. CD34+およびCD38+である細胞を有する臍帯血をさらに含む,請求項53に記載の組成物。」(刊1-8)とも記載されている。
そうすると,引用発明の「臍帯血または胎盤血」には,「CD34+およびCD38+である細胞」(刊1-8),すなわち,「CD34+およびCD38+造血前駆細胞」(刊1-4)とも言われる細胞が含まれていることは明白であり,この細胞は,CD34+という特徴を有するから,本願発明の「CD34^(+)細胞」に包含される。

しかし,引用発明の「医薬組成物」における,CD34+およびCD38+造血前駆細胞の含有量は不明である。

よって,引用発明の「臍帯血または胎盤血」に含まれるCD34+およびCD38+造血前駆細胞を有することと,本願発明の「少なくとも1%のCD34^(+)細胞を有する」こととは,「CD34^(+)細胞を有する」点で共通する。

5 複数の供給源について
本願明細書の段落【0043】には,本願発明の「供給源」について,次のように定義と例示が記載されている。
「・・・(略)・・・いくつかの実施例では,前記細胞が複数の供給源に由来し,そのような供給源では複数の臓器から来ている可能性がある。ここで用いるとおり,前記「供給源」という用語は,細胞が由来するか,抽出されたすべての有機体,組織,または臓器を指す。いくつかの実施例では,前記供給源が胎児臍帯血,胎児組織,胎盤,分娩後の胎盤,分娩後の胎盤灌流液,またはそれら混合物である。」
この定義からすると,供給源とは,「胎児臍帯血,胎児組織,胎盤,分娩後の胎盤,分娩後の胎盤灌流液」などをいうものであり,胎児臍帯血を供給源の一つとすれば,少なくとも,充分灌流された分娩後の胎盤灌流液は,臍帯血が含まれることがないから,別の供給源と解される。

他方,引用発明の「単離された幹細胞」の取得源について,刊行物1には次のような記載がある。
(1)CD34+およびCD38+造血前駆細胞の取得源について
「胎盤から最初に収集した血液が,主に,CD34+およびCD38+造血前駆細胞を含む臍帯血と呼ばれることを理解すべきである。」(刊1-4)
このことからすると,引用発明の「臍帯血または胎盤血」に含まれる「CD34+およびCD38+造血前駆細胞」からみれば,臍帯血または胎盤血は,供給源といえる。

(2)「CD10+,CD29+,CD34-,CD44+,CD45-,CD54+,CD90+,SH2+,SH3+,SH4+,SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+およびABC-p+」の特徴を有する「ヒト胎盤幹細胞」の供給源について
引用発明の「CD10+,CD29+,CD34-,CD44+,CD45-,CD54+,CD90+,SH2+,SH3+,SH4+,SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+およびABC-p+」の特徴を有する「ヒト胎盤幹細胞」の供給源は,「ヒト胎盤幹細胞」とあるように,ヒト胎盤である。
より具体的には,刊行物1には,「換言すれば,本発明は,分娩出後に灌流した胎盤から単離された未分化の幹細胞であるOCT-4+およびABC-p+細胞を包含する。」(刊1-5),及び「約24時間の灌流後に,前記細胞と一緒に,胎盤からCD34-およびCD38-細胞を単離することができる。」(刊1-4)との記載からすると,24時間,すなわち,充分灌流した後のヒト胎盤の灌流液が該「ヒト胎盤幹細胞」供給源である。

そうすると,引用発明の「医薬組成物」には,ヒト胎盤の灌流液を供給源とする「単離されたヒト胎盤幹細胞」,及び,「臍帯血または胎盤血」に含まれ,それを供給源とするCD34+およびCD38+造血前駆細胞という,異なる2つの供給源の細胞が含まれるということができ,本願発明の「前記単位は複数の供給源からの細胞を有」することに相当する。

6 小括
以上の事項を総合すると,両発明の間には,次の(一致点)及び(相違点)を有する。

(一致点)
「細胞治療単位であって,
複数の分化能を持つ細胞内にCD34^(+)細胞を有するものであり,
前記単位は複数の供給源からの細胞を有し,前記複数の分化能を持つ細胞は,単離されたCD34^(-),OCT-4^(+),SSEA3^(-),CD10^(+),CD29^(+),CD38^(-),CD44^(+),CD45^(-),CD54^(+),CD90^(+),SH2^(+),SH3^(+),SH4^(+),SSEA4^(-),及びABC-p^(+)胎盤幹細胞を有するものである,細胞治療単位。」

(相違点)
CD34^(+)細胞が,本願発明では,「少なくとも1%」有するのに対して,引用発明では,「臍帯血または胎盤血」の中にどれだけのCD34^(+)細胞が含まれているか不明な点。

第7 検討
1 少なくとも1%のCD34^(+)細胞を有する技術的意義について
本願発明の「少なくとも1%のCD34^(+)細胞を有する」ことについて,本願明細書の段落【0040】には,
「本発明のいくつかの実施形態では,前記細胞治療単位が最小数の異なる特定の細胞タイプを有する。最小数の異なる特定の細胞タイプを有する利点は,前記細胞治療単位の効果を改善する可能性があることである。例えば,前記細胞治療単位はアッセイされ,既知量の他の好ましい細胞タイプを含むか含まない,少なくとも約1,000個のOCT4陽性細胞を有することができる。他の実施形態では,前記単位が特定の割合のCD34陽性細胞を有するようになっており,前記製剤中のすべての有核細胞を参照して測定されてもよい。したがって,そのような製剤は少なくも0.01%,0.1%,1%,10%,20%,30%,40%,50%,60%,70%,80%,90%,95%または他の割合のCD34陽性細胞を有することができる。同様に,他の抗原決定基または特定の因子を有する,既知の割合の細胞がさらに作られてもよい。」
と記載されている。
この記載からは,いかなる目的でCD34+細胞が細胞治療単位に加えられてるのか示されておらず,本願発明の「少なくとも1%」とする数値に,臨界的な技術的意義を見いだすことはできない。

また,本願明細書には,実施例として次のような記載がある
「【実施例1】【0060】急性骨髄性白血病(AML)を有する成人は,細胞移植法により血液再構成を行う必要がある。前記患者はAMLに罹患しているため,前記細胞治療単位はCD34+を有核細胞全体の1%以上,CD8+細胞を2.5%以上含み,移植片対腫瘍効果を最小限にする。」
「【実施例2】【0061】鎌状赤血球貧血を有する小児は細胞移植が必要である。前記小児の体重1キログラムあたり1.7×10^(7)個の有核細胞が必要であると定められる。従来の方法で適切なHLAタイピングが行われる。前記細胞治療単位は,前記総有核細胞中,CD34+細胞を1%以上有する必要がある,と定められている。」

この記載からは,CD34+細胞を1%以上とする記載はあるが,それによる具体的な作用効果の記載は無く,本願優先権主張日当時の技術常識を参酌しても,「1%」という数値に臨界的な技術的意義を見いだすことはできない。

そうすると,本願明細書の記載及び本願優先権主張日当時の技術常識からは,せいぜい,急性骨髄性白血病(AML)を有する成人や鎌状赤血球貧血を有する小児に対する治療に資するCD34+細胞の含有量として,「少なくとも1%」と本願発明で規定された程度のものと解される。

2 刊行物1におけるCD34+細胞についての記載事項について
刊行物1にはCD34+という特徴を有する細胞について,次のような記載がある。
「胎盤から最初に収集した血液が,主に,CD34+およびCD38+造血前駆細胞を含む臍帯血と呼ばれることを理解すべきである。」(刊1-4)
「本発明は,本発明の胚様幹細胞を含む医薬組成物に関する。本発明はさらに,あらゆる細胞型に分化する能力があるヒト胎盤幹細胞の単離された均一集団に関する。・・・(略)・・・ここで,1以上の上記細胞集団を臍帯血造血細胞,すなわち,CD34+/CD38+造血細胞と一緒に,または該細胞との混合物として,移植およびその他の用途に用いることができる。」(刊1-6)
「53. 多能性であるヒト胎盤幹細胞の単離された均一集団。
・・・(略)・・・
57. CD34+およびCD38+である細胞を有する臍帯血をさらに含む,請求項53に記載の組成物。」(刊1-8)
このことからすると,引用発明において「臍帯血または胎盤血」を引用発明の「医薬組成物」に加えるのは,そこに含まれるCD34+およびCD38+造血前駆細胞に注目してのことであることは明白である。
そして,CD34+およびCD38+造血前駆細胞は,造血細胞であるから,血球系に異常がある患者に用いることができるのは自明なことである。
これを裏付けるように,刊行物1には,「鎌状赤血球貧血」(刊1-9)への適用が記載されている。
さらに,刊行物1には「造血幹細胞は化学療法薬により損傷を受けたり,破壊されたりすることが多く,その結果,血液細胞生産が減少または停止してしまう」(刊1-10)ことから,「別の実施形態では,上記胚様幹細胞を,化学療法に加える補足的治療として用いる」(刊1-10)ことが記載され,「化学療法による治療の間隔を短くするために,本発明の方法に従い収集した胚様幹細胞または前駆細胞を患者に導入することができる。このような治療によって,患者が低い血液細胞数を呈示する時間が短くなるため,化学療法治療をこれまでより早く再開することができる。」(刊1-10)との効果が具体的に示されている。ここには,前駆細胞についても,低い血液細胞数を呈示する時間が短くなる,すなわち,前駆細胞の造血効果を期待することも記載されている。

そうであるなら,引用発明において,造血作用に資する量のCD34+およびCD38+造血前駆細胞を加えるべく,「臍帯血または胎盤血」の添加量を適宜決め,本願発明のごとく「少なくとも1%のCD34^(+)細胞を有するもの」とする程度のことは,当業者が容易になし得たことといえる。

3 本願発明の効果について
そして,本願発明の効果は,刊行物1記載の事項から当業者が予測し得る程度のものであって,格別顕著な効果とはいえない。

第8 結語
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明及び刊行物1に開示された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-12 
結審通知日 2013-12-17 
審決日 2014-01-08 
出願番号 特願2004-555819(P2004-555819)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 広介  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 安藤 倫世
田村 明照
発明の名称 細胞治療学、細胞治療単位、およびそれらを利用した治療法  
代理人 矢口 太郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ