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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1288167
審判番号 不服2013-10155  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-03 
確定日 2014-05-30 
事件の表示 特願2009- 31992「有機電界発光素子、有機ELディスプレイ及び有機EL照明」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月 2日出願公開、特開2010-192474〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年2月13日の出願であって、平成24年5月24日付けで拒絶理由通知がなされ、同年7月27日に手続補正がなされたが、平成25年2月27日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、同年6月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「基板と、該基板上に設けられた陽極、有機層、及び陰極とを備えた有機電界発光素子であって、
該有機層が、湿式成膜法で形成された第一の有機層及び第二の有機層を含み、
該第一の有機層と第二の有機層は、陽極側からこの順に隣接して設けられており、
第一の有機層のハロゲン原子濃度(重量%)が2重量%以上であり、
さらに第二の有機層のハロゲン原子濃度(重量%)の20倍以上であることを特徴とする、有機電界発光素子。」

第3 引用刊行物
1.記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2008-239948号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0017】
(有機電界蛍光発光素子)
本実施の形態が適用される有機電界蛍光発光素子は、基板上に少なくとも一対の電極(陽極、陰極)及びこれらの両極間に設けられた発光層等の有機層を有するものであって、有機層に1,7-ジアリールアミノナフタレン誘導体を含むものである。
次に、有機電界蛍光発光素子の各層について説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態が適用される有機電界蛍光発光素子の構造の一例を示す断面模式図である。図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層(有機発光層)、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。」
(2)「【0140】
(実施例1)
前述した化合物DDD-1を用い、以下の操作に従い、大きさ2mm×2mmの発光面積部分を有する有機電界蛍光発光素子を作製した。
尚、化合物DDD-1のトルエンに対する溶解度に対する溶解度は5重量%である。また、化合物DDD-1のガラス転移温度(Tg)は、99℃である。
【0141】
(陽極の形成)
ガラス製の基板の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nmの厚みで成膜した(スパッタ成膜品、シート抵抗15Ω)。この透明導電膜に、通常のフォトリソグラフィー技術により、2mm幅のストライプにパターニングし、陽極を形成した。
パターニングしたITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、紫外線オゾン洗浄を行った。
【0142】
(正孔注入層の形成)
続いて、陽極の上に正孔注入層を形成した。正孔注入層の材料として、下記に示す構造式の芳香族アミノ基を有する非共役系高分子化合物(PB-1:重量平均分子量29,400、数平均分子量12,600)を用い、光反応開始剤(A-1)と共に陽極の上にスピンコートした。スピンコートの条件を表2に示す。また、非共役系高分子化合物(PB-1)と光反応開始剤(A-1)の使用比率は、(PB-1):(A-1)=10:4(重量比)とした。スピンコートを行なった後、260℃で180分の乾燥を行ない、膜厚30nmの均一な正孔注入層の薄膜を形成した。
【0143】
【化17】

【0144】
【化18】

【0145】
【表2】

【0146】
(正孔輸送層)
形成した正孔注入層の上に正孔輸送層を形成した。正孔輸送層の材料として、以下に示す化合物(HT-1)を用いて、スピンコートにより、正孔輸送層を形成した。スピンコートの条件を表3に示す。スピンコートを行なった後、230℃で60分の乾燥を行ない、膜厚20nmの均一な正孔輸送層の薄膜を形成した。
【0147】
【化19】


(3)「【0149】
(発光層)
次に、形成した正孔輸送層の上に発光層を形成した。発光層の材料として、化合物DDD-1と、以下に示す蛍光発光性のドーパント(D-1)を下記条件でトルエンに溶解した組成物を用いて、スピンコートにより発光層を形成した。スピンコートの条件を表4に示す。また、化合物DDD-1とドーパント(D-1)との使用比率は、(化合物DDD-1):(D-1)=10:1(重量比)とした。スピンコートを行なった後、100℃で60分の乾燥を行ない、膜厚50nmの均一な発光層の薄膜を形成した。」
(4)「【0152】
(正孔阻止層・電子輸送層)
続いて、形成した発光層の上に正孔阻止層を形成し、さらに、正孔阻止層の上に電子輸送層を形成した。正孔阻止層の材料として、下記に示すHB-1を用いて、真空蒸着法により膜厚10nmの正孔阻止層を形成した。次に、電子輸送層の材料として、下記に示すET-1を用いて、真空蒸着法により膜厚30nmの電子輸送層を形成した。」
(5)「【0154】
(電子注入層・陰極)
次に、電荷輸送層の上に電子注入層を形成し、さらに、電子注入層の上に陰極を形成した。電子注入層は、フッ化リチウム(LIF)を用い、有機層と同様に真空蒸着法によって膜厚0.5nmの電子注入層を形成した。また、陰極の材料としてアルミニウムを用い、膜厚80nmの陰極を、それぞれ陽極であるITOストライプと直交する形状の2mm幅のストライプ状に積層した。」
(6)「【図1】



2.引用発明
これらの記載事項を含む引用文献1全体の記載及び当業者の技術常識を総合すれば、引用文献1には、以下の発明が記載されている。
「基板上に少なくとも一対の電極(陽極、陰極)及びこれらの両極間に設けられた発光層等の有機層を有する有機電界蛍光発光素子であって、
正孔注入層の材料として、【化17】に示す構造式の芳香族アミノ基を有する非共役系高分子化合物(PB-1:重量平均分子量29,400、数平均分子量12,600)を用い、【化18】に示す光反応開始剤(A-1)と共に陽極の上にスピンコートした正孔注入層を形成し、
非共役系高分子化合物(PB-1)と光反応開始剤(A-1)の使用比率は、(PB-1):(A-1)=10:4(重量比)とし、
正孔注入層の上に、正孔輸送層の材料として、【化19】に示す化合物(HT-1)を用いて、スピンコートにより、正孔輸送層を形成した、
有機電界蛍光発光素子。
【化17】

【化18】

【化19】

」(以下「引用発明」という。)

第4 対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「基板」、「陽極」、「発光層等の有機層」、「陰極」及び「有機電界蛍光発光素子」は、それぞれ本願発明の「基板」、「陽極」、「有機層」、「陰極」及び「有機電界発光素子」に相当する。
(2)引用発明の有機層に含まれる「正孔注入層」及び「正孔輸送層」は、それぞれ本願発明の「第一の有機層」及び「第二の有機層」に相当し、両者はともにスピンコートにより形成されているから、引用発明は本願発明の「有機層が、湿式成膜法で形成された第一の有機層及び第二の有機層を含」む構成に相当する構成を有する。
(3)引用発明は陽極の上に正孔注入層を形成し、正孔注入層の上に正孔輸送層を形成しており、この構成は本願発明の「第一の有機層と第二の有機層は、陽極側からこの順に隣接して設けられて」いる構成に相当する。
(4)引用発明の正孔注入層のハロゲン原子濃度(重量%)を、本願明細書の段落【0011】?【0016】の記載に照らして算出すれば、11.8(重量%)となる(平成24年5月24日付け拒絶理由通知書参照)。
したがって、引用発明は本願発明の「第一の有機層のハロゲン原子濃度(重量%)が2重量%以上であ」る構成に相当する構成を有する。
(5)引用発明の正孔輸送層はハロゲン原子を含有しない材料を用いて形成されているから、引用発明の正孔注入層に正孔輸送層の20倍以上のハロゲン原子濃度(重量%)の層があることは明らかである。
この点について、請求人は審判請求書において「有機電界発光素子において、層間で低分子の化合物やイオンが移動することは周知であるから、ハロゲン原子を含まない層が記載されているからといって、直ちに「正孔注入層におけるハロゲン濃度が、正孔輸送層のハロゲン濃度の20倍以上となることは自明」であるとするのは誤りである」旨主張する。
しかしながら、層間で化合物やイオンが移動することは本願発明においても同様であって、本願明細書の段落【0019】の記載に鑑みれば、本願発明が濃度を比較する対象としているのは、そのような影響を受けない領域についてであることは明らかであって、引用発明においてもそのような影響を受けない領域があることは当業者の技術常識に照らして自明であるから、請求人の上記主張には理由がない。

2.判断
してみると両者は、
「基板と、該基板上に設けられた陽極、有機層、及び陰極とを備えた有機電界発光素子であって、
該有機層が、湿式成膜法で形成された第一の有機層及び第二の有機層を含み、
該第一の有機層と第二の有機層は、陽極側からこの順に隣接して設けられており、
第一の有機層のハロゲン原子濃度(重量%)が2重量%以上であり、
さらに第二の有機層のハロゲン原子濃度(重量%)の20倍以上である、有機電界発光素子。」
の点で一致し、相違点はない。

3.小括
したがって、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明であるから特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-03-27 
結審通知日 2014-04-01 
審決日 2014-04-17 
出願番号 特願2009-31992(P2009-31992)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横川 美穂  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 北川 清伸
伊藤 昌哉
発明の名称 有機電界発光素子、有機ELディスプレイ及び有機EL照明  

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