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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1288168
審判番号 不服2013-17063  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-04 
確定日 2014-05-30 
事件の表示 特願2009-147548「ガラス繊維強化樹脂組成物を射出成形して得られる電気・電子機器部品」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月 6日出願公開、特開2011- 1514〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成21年6月22日の出願であって、平成24年10月31日付けで拒絶理由が通知され、平成25年1月8日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年5月30日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成25年9月4日に拒絶査定に対する審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年10月9日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年11月20日付けで前置報告がなされ、当審において同年12月17日付けで審尋がなされ、平成26年2月6日に回答書が提出されたものである。

第2.補正の却下の決定
[結論]
平成25年9月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容
平成25年9月4日付け手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、平成25年1月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、補正前の
「【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂(A成分)40?65重量%並びに(B)繊維断面の長径の平均値が10?50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5?8である扁平断面ガラス繊維(B-1成分)および、板状充填材(B-2成分)よりなり、B-1成分とB-2成分の重量比(B-1成分/B-2成分)が10/90?100/0である強化充填材(B成分)35?60重量%の合計100重量部に対し、(C)有機リン酸エステル系難燃剤(C成分)1?30重量部を含んでなるガラス繊維強化樹脂組成物を射出成形して得られるパソコンの部品。
【請求項2】
B-1成分の長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2.5?5である請求項1に記載のパソコンの部品。
【請求項3】
B-2成分の板状充填材がガラスフレーク、マイカ、グラファイトおよびタルクからなる群より選ばれる少なくとも1種の充填材である請求項1または2に記載のパソコンの部品。
【請求項4】
A成分がポリカーボネート系樹脂(A-1成分)を50重量%以上含有する請求項1?3のいずれかに記載のパソコンの部品。
【請求項5】
熱可塑性樹脂(A成分)がA-1成分100重量部に対し、スチレン系樹脂(A-2成分)1?100重量部を含有する請求項4に記載のパソコンの部品。
【請求項6】
(C)有機リン酸エステル系難燃剤が下記一般式(1)で表される難燃剤である請求項1?5のいずれかに記載のパソコンの部品。
【化1】

(但し上記式中のXは、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビス(4-ヒドロキシビフェニル)メタン、ビスフェノールA、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシナフタレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイドのいずれかから誘導される二価の基が挙げられ、j、k、l、mはそれぞれ独立して0または1であり、nは0?5の整数であり、またはn数の異なるリン酸エステルの混合物の場合は0?5の平均値であり、R^(1)、R^(2)、R^(3)、およびR^(4)はそれぞれ独立して1個以上のハロゲン原子を置換したもしくは置換していないフェノール、クレゾール、キシレノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p-クミルフェノールのいずれかから誘導される一価の基である。)
【請求項7】
A成分とB成分の合計100重量部に対し、(D)含フッ素滴下防止剤(D成分)0.01?3重量部を含有してなる請求項1?6のいずれかに記載のパソコンの部品。」

「【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂(A成分)40?65重量%並びに(B)繊維断面の長径の平均値が10?50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5?8である扁平断面ガラス繊維(B-1成分)および、板状充填材(B-2成分)よりなり、B-1成分とB-2成分の重量比(B-1成分/B-2成分)が10/90?100/0である強化充填材(B成分)35?60重量%の合計100重量部に対し、(C)有機リン酸エステル系難燃剤(C成分)1?30重量部を含んでなるガラス繊維強化樹脂組成物を射出成形して得られるパソコンのハウジング。
【請求項2】
B-1成分の長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2.5?5である請求項1に記載のパソコンのハウジング。
【請求項3】
B-2成分の板状充填材がガラスフレーク、マイカ、グラファイトおよびタルクからなる群より選ばれる少なくとも1種の充填材である請求項1または2に記載のパソコンのハウジング。
【請求項4】
A成分がポリカーボネート系樹脂(A-1成分)を50重量%以上含有する請求項1?3のいずれかに記載のパソコンのハウジング。
【請求項5】
熱可塑性樹脂(A成分)がA-1成分100重量部に対し、スチレン系樹脂(A-2成分)1?100重量部を含有する請求項4に記載のパソコンのハウジング。
【請求項6】
(C)有機リン酸エステル系難燃剤が下記一般式(1)で表される難燃剤である請求項1?5のいずれかに記載のパソコンのハウジング。
【化1】

(但し上記式中のXは、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビス(4-ヒドロキシビフェニル)メタン、ビスフェノールA、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシナフタレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイドのいずれかから誘導される二価の基であり、j、k、l、mはそれぞれ独立して0または1であり、nは0?5の整数であり、またはn数の異なるリン酸エステルの混合物の場合は0?5の平均値であり、R^(1)、R^(2)、R^(3)、およびR^(4)はそれぞれ独立して1個以上のハロゲン原子を置換したもしくは置換していないフェノール、クレゾール、キシレノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p-クミルフェノールのいずれかから誘導される一価の基である。)
【請求項7】
A成分とB成分の合計100重量部に対し、(D)含フッ素滴下防止剤(D成分)0.01?3重量部を含有してなる請求項1?6のいずれかに記載のパソコンのハウジング。」
へと変更するものであり、下記の補正事項1及び2を含むものである。

補正事項1:補正前の請求項1?7に係る「パソコンの部品」を「パソコンのハウジング」に特定する補正。
補正事項2:補正前の請求項6に係る一般式(1)の説明の「上記式中のXは・・・のいずれかから誘導される二価の基が挙げられ」から「上記式中のXは・・・のいずれかから誘導される二価の基であり」へ変更する補正。

2.本件手続補正の適否について
2-1.新規事項・補正の目的について
補正事項1は、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書または図面(以下、「当初明細書等」という。)の発明の詳細な説明の記載に基づき、補正前の発明を特定するための事項をさらに限定するものであって、補正前の請求項1?7に記載された発明と補正後の請求項1?7に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、補正事項1は、当初明細書等に記載された事項の範囲内でするものであり、特許請求の範囲の減縮(いわゆる、請求項の限定的減縮)を目的とするものに該当する。
補正事項2は、拒絶査定の付言で指摘された明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

2-2.独立特許要件
本件手続補正は、請求項の限定的減縮を目的とする補正事項1を含むので、本件手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる、独立特許要件)を満足するか否かについて、以下に検討する。

(1)補正発明について
補正発明は、本件手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される前記1.に記載のとおりのものと認める。

(2)刊行物及び刊行物の記載について
本願の出願前に頒布された刊行物である特開2007-70468号公報(以下、「引用文献」という。原審での引用文献1に同じ。)には、以下の記載がされている。

ア. 「【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂またはポリフェニレンエーテル樹脂よりなる熱可塑性樹脂(A成分)40?99重量%および繊維断面の長径の平均値が10?50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5?8である扁平断面ガラス繊維(B-1成分)からなる強化充填材(B成分)1?60重量%の合計100重量部に対し、有機リン酸エステル系難燃剤(C成分)1?30重量部、含フッ素滴下防止剤(D成分)0?3重量部を含んでなるガラス繊維強化難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
B成分が繊維断面の長径の平均値が10?50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5?8である扁平断面ガラス繊維(B-1成分)及び板状無機充填剤(B-2成分)からなり、(B-1成分)と(B-2成分)の重量比(B-1成分/B?2成分)が5/95?95/5である強化充填材である請求項1または2記載のガラス繊維強化難燃性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1?10のいずれかに記載のガラス繊維強化難燃性樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品。」(特許請求の範囲 請求項1、3及び11)

イ. 「本発明は、寸法精度の改善されたガラス繊維強化難燃性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは本発明は、扁平断面ガラス繊維と板状強化材で強化された機械的強度、低異方性、流動性に優れ、さらに良好な難燃性を併せ持つガラス繊維強化難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
ガラス繊維で強化された熱可塑性樹脂は機械的強度、加工性に優れているため広く利用されている。特に、ポリカーボネート樹脂は、機械的強度、寸法安定性や難燃性といったその優れた特性から機械部品、自動車部品、電気・電子部品、事務機器部品などの多くの用途に用いられている。またポリカーボネート樹脂に様々な強化剤を添加した強化ポリカーボネート樹脂も、その優れた機械的強度、耐熱性から幅広い用途に用いられている。一方で、ポリカーボネート樹脂にガラス繊維を配合した樹脂組成物は機械的強度、剛性は優れるものの繊維の配向による成形収縮率の異方性が生じてしまう欠点を有している。近年のカメラ部品や事務機器部品などの精密機械部品などの成形品に用いる場合には、機械的強度、低異方性、流動性、難燃性の良好なガラス繊維強化難燃性熱可塑性樹脂が求められている。
例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂と繊維充填剤および有機リン酸エステルからなる流動性の改善された芳香ポリカーボネート樹脂組成物は公知である(特許文献1参照)。しかしながら、かかる樹脂組成物においては、成形収縮率の異方性が大きくソリやすい問題がある。芳香族ポリカーボネート樹脂と特定の非円形繊維と板状充填材とからなるソリ性の改善されたポリカーボネート樹脂組成物は公知である(特許文献2参照)。しかしながら、かかる樹脂組成物においては流動性、難燃性が不十分である。
ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、まゆ形断面形状ガラス繊維からなる樹脂組成物は公知である(特許文献3参照)。また、ポリアミド樹脂、まゆ形断面形状ガラス繊維および臭素系難燃剤からなる樹脂組成物からなる樹脂組成物は公知である(特許文献4参照)。
しかしながらかかる公報は、良好な機械的強度、難燃性、流動性を有し、異方性を改善することに有効な知見を開示するものではなかった。
・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
上記に鑑み本発明の目的は、扁平断面ガラス繊維と板状無機充填材で強化された熱可塑性樹脂を基体として、機械的強度、低異方性、流動性に優れ、かつ良好な難燃性を併せ持つ強化難燃性樹脂組成物を提供することにある。本発明者は、上記目的を達成せんとして鋭意検討を重ねた結果、特定の断面形状を有するガラス繊維を利用することにより、かかる目的を達成できることを見出し、更に鋭意検討を進め本発明を完成するに至った。」(【0001】?【0006】)

ウ. 「本発明のガラス繊維強化難燃性樹脂組成物は通常上記の如く製造されたペレットを射出成形して成形品を得ることにより各種製品を製造することができる。かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などを挙げることができる。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。」(【0165】)

エ. 「本発明の樹脂組成物が利用される成形品は、各種電子・電気機器部品、カメラ部品、OA機器部品、精密機械部品、機械部品、車両部品、その他農業資材、搬送容器、遊戯具および雑貨などの各種用途に有用であり、その奏する産業上の効果は格別である。」(【0168】)

オ. 「【実施例】
(I)ガラス繊維強化難燃性樹脂組成物の評価
(i)曲げ弾性率:ASTM D790(測定条件23℃)に準拠して測定した。なお、試験片は、射出成形機(住友重機械工業(株)製 SG-150U)によりシリンダー温度280℃、金型温度60℃で成形した。
(ii)曲げ強さ(ウエルド有、ウエルド無):ASTM D638 タイプIの試験片を使用し、ウエルドを有する試験片は、試験片の両側に設けたサイドゲートから充填させ試験片中央部にウエルドを作成した。また、ウエルドが無い試験片は一方のゲートを封鎖し、作成した。得られた試験片をASTM D790(測定条件23℃)に準拠して測定した。なお、試験片は、射出成形機(住友重機械工業(株)製 SG-150U)によりシリンダー温度280℃、金型温度60℃で成形した。
(iii)ウエルド強さ保持率:(ウエルド有の曲げ強さ)/(ウエルド無の曲げ強さ)×100=ウエルド強さ保持率(%)として求めた。
(iv)成形収縮率:一方の短辺側に厚み1.5mmのフィルムゲートを有する短辺50mm、長辺100mm、厚み4mmの平板を成形し、23℃、50%RH、24時間状態調節したのち、平板の流動の流れ方向および直角方向の寸法を三次元測定機(三豊製作所(株)製 MICROPAK 550)を使用し測定し、流れ方向および直角方向の成形収縮率を求めた。
(v)異方性:上記で求めた成形収縮率の流れ方向と直角方向の比を異方性として求めた。異方性の値は1に近いほど好ましい。
(vi)流動性:住友重機械工業(株)SG-150U成形機を用い、アルキメデス型スパイラルフロー金型(流路厚さ2mm、流路幅8mm)にて流動長を評価した。条件は、シリンダー温度290℃、金型温度60℃、射出圧力98.1MPaとした。
(vii)難燃性:UL94規格に準拠し、厚み1.5mmにて最大燃焼秒数およびUL94ランクを評価した。最大燃焼秒数が短いほど、難燃性に優れている。なお、試験片は、射出成形機(住友重機械工業(株)製 SG-150U)によりシリンダー温度280℃、金型温度60℃で成形した。
[実施例1?14、比較例1?10]
ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、リン酸エステル系難燃剤、各種添加剤を表1?表2記載の各種添加剤を各配合量で、ブレンダーにて混合した後、ベント式二軸押出機を用いて溶融混練してペレットを得た。使用する各種添加剤は、それぞれ配合量の10?100倍の濃度を目安に予めポリカーボネート樹脂またはポリフェニレンエーテル樹脂との予備混合物を作成した後、ブレンダーによる全体の混合を行った。ベント式二軸押出機は(株)日本製鋼所製:TEX-30XSST(完全かみ合い、同方向回転、2条ネジスクリュー)を使用した。押出条件は吐出量20kg/h、スクリュー回転数150rpm、ベントの真空度3kPaであり、また押出温度は第一供給口から第二供給口まで270℃、第二供給口からダイス部分まで280℃とした。なお、強化充填剤は上記押出機のサイドフィーダーを使用し第二供給口から供給し、残りの熱可塑性樹脂および添加剤は第一供給口から押出機に供給した。ここでいう第一供給口とはダイスから最も離れた供給口であり、第二供給口とは押出機のダイスと第一供給口の間に位置する供給口である。
得られたペレットを100℃で5時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形機を用いて、評価用の試験片を成形した。各評価結果を表1?表2に示した。
表1?表2中の記号表記の各成分は下記の通りである。
(A成分)
PC:粘度平均分子量22400の直鎖状ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製:パンライトL-1225WP)
・・・
(B成分)
(B-1成分)
HGF-1:扁平断面チョップドガラス繊維(日東紡績(株)製:CSG 3PA-820、長径27μm、短径4μm、カット長3mm、ウレタン系集束剤)
HGF-2:扁平断面チョップドガラス繊維(日東紡績(株)製:CSG 3PA-830、長径27μm、短径4μm、カット長3mm、エポキシ系集束剤)
(B-2成分)
GFL:顆粒状ガラスフレーク(日本板硝子(株)製フレカREFG-301、標準篩法によるメジアン平均粒径140μm、厚み5μm、エポキシ系集束剤)
MICA-1:平均粒子径250μmマスコバイト(林化成(株)製「MC-40」(商品名))
MICA-2:平均粒子径約40μmマスコバイト((株)クラレ製「クラライトマイカ300D」(商品名))
TALC-1:タルク((株)勝光山鉱業所製「ビクトリライトTK-RC」(商品名)、かさ密度:0.80g/cm^(3)、平均粒子径:2μm)
TALC-2:タルク((株)勝光山鉱業所製「ビクトリライト SG-A」(商品名)、平均粒子径:15.2μm、JIS M8016に従って測定されたハンター白色度:90.2%、pH:9.8)
(本発明以外の無機充填材)
GF-1:円形断面ガラスファイバー(日本電気硝子(株)製;ECS?03T-511、直径13μm、カット長3mm、アミノシラン処理表面処理およびウレタン系集束剤)
GF-2:円形断面ガラスファイバー(日東紡績(株)製3PE937、繊維径:13μm、カット長:3mm、アミノシラン処理表面処理およびエポキシ/ウレタン系集束剤)
(C成分)
FR-1:ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を主体とするリン酸エステル(大八化学工業(株)製「CR-741」(商品名)、TGA5%重量減少温度=335.9℃)
FR-2:レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)(大八化学工業(株)製「PX-200」(商品名)、TGA5%重量減少温度=351.0℃)
(D成分)
PTFE:フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業(株)製「ポリフロンMPA FA500」(商品名))
(その他の成分)
WAX:モンタン酸エステル(クラリアントジャパン(株)製;Licolub WE-1(商品名))
TMP:トリメチルホスフェート(大八化学工業(株)製TMP)
CB:カーボンブラックマスター(越谷化成(株)カーボンブラック40%含有ポリスチレン樹脂マスター)
【表1】

」(【0172】?【0179】)

(3)引用文献に記載された発明
摘示ア.の記載からみて、引用文献には、
「芳香族ポリカーボネート樹脂またはポリフェニレンエーテル樹脂よりなる熱可塑性樹脂(A成分)40?99重量%および繊維断面の長径の平均値が10?50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5?8である扁平断面ガラス繊維(B-1成分)及び板状無機充填剤(B-2成分)からなり、(B-1成分)と(B-2成分)の重量比(B-1成分/B?2成分)が5/95?95/5である強化充填材(B成分)1?60重量%の合計100重量部に対し、有機リン酸エステル系難燃剤(C成分)1?30重量部、含フッ素滴下防止剤(D成分)0?3重量部を含んでなるガラス繊維強化難燃性樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品。」
なる発明(以下、「引用発明」という。)
が記載されている。

(4)補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「芳香族ポリカーボネート樹脂またはポリフェニレンエーテル樹脂よりなる熱可塑性樹脂(A成分)」(以下、「引A成分」という。)は、補正発明の「(A)熱可塑性樹脂(A成分)」(以下、「本A成分」という。)に相当している。
引用発明の「繊維断面の長径の平均値が10?50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5?8である扁平断面ガラス繊維(B-1成分)及び板状無機充填剤(B-2成分)からなり、(B-1成分)と(B-2成分)の重量比(B-1成分/B?2成分)が5/95?95/5である強化充填材(B成分)」(以下、「引B成分」という。)は、(B-1成分)と(B-2成分)の重量比が補正発明と重複一致しているから、補正発明の「(B)繊維断面の長径の平均値が10?50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5?8である扁平断面ガラス繊維(B-1成分)および、板状充填材(B-2成分)よりなり、B-1成分とB-2成分の重量比(B-1成分/B-2成分)が10/90?100/0である強化充填材(B成分)」(以下、「本B成分」という。)に相当している。
引用発明の「有機リン酸エステル系難燃剤(C成分)」(以下、「引C成分」という。)は、補正発明の「(C)有機リン酸エステル系難燃剤(C成分)」(以下、「本C成分」という。)に相当している。
引用発明の、引A成分40?99重量%および引B成分1?60重量%の合計100重量部に対し、引C成分1?30重量部、含フッ素滴下防止剤(D成分)0?3重量部を含んでなるガラス繊維強化難燃性樹脂組成物は、補正発明の、本A成分40?65重量%並びに本B成分35?60重量%の合計100重量部に対し、本C成分1?30重量部を含んでなるガラス繊維強化樹脂組成物と、その組成が重複一致しているから、補正発明の上記ガラス繊維強化樹脂組成物に相当している。
補正発明の「成形」及び「樹脂成形品」に関して、摘示ウ.には、樹脂組成物のペレットを射出成形することにより成形品を得ることが記載され、摘示オ.には、実施例として、射出成形により得られた成形品を用いて評価を行ったことが記載されている。また、摘示イ.及びエ.には、引用発明の樹脂成形品を、電気・電子部品に用いることが記載されている。補正発明の「パソコンのハウジング」は、パソコンの部品であるから、電気・電子部品に包含される。
したがって、補正発明と引用発明とは、
「(A)熱可塑性樹脂(A成分)40?65重量%並びに(B)繊維断面の長径の平均値が10?50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5?8である扁平断面ガラス繊維(B-1成分)および、板状充填材(B-2成分)よりなり、B-1成分とB-2成分の重量比(B-1成分/B-2成分)が10/90?100/0である強化充填材(B成分)35?60重量%の合計100重量部に対し、(C)有機リン酸エステル系難燃剤(C成分)1?30重量部を含んでなるガラス繊維強化樹脂組成物を射出成形して得られる電気・電子部品。」
である点で一致し、下記の相違点において相違している。

相違点:補正発明は、電気・電子部品が「パソコンのハウジング」と特定されているのに対し、引用発明にはそのような特定がなされていない点。

(5)相違点に対する判断
パソコンのハウジングは、電気・電子部品として一般的なものである。また、ポリカーボネート樹脂は、機械的強度、寸法安定性や難燃性に優れ、電気・電子部品などの多くの用途に用いられているが、ポリカーボネート樹脂にガラス繊維を配合した樹脂組成物は機械的強度、剛性は優れるものの成形収縮率の異方性が生じてしまう欠点を有しているとの記載(摘示イ.)、機械的強度、低異方性、流動性に優れ、かつ難燃性の良好なガラス繊維強化難燃性熱可塑性樹脂を得ることが引用発明の課題、目的であるとの記載(摘示イ.)からみて、引用発明の電気・電子部品は、機械的強度、剛性、寸法安定性、低異方性、流動性などが必要とされる部品であることが前提であるといえる。
よって、引用発明の電気・電子部品における具体的な部品を、電気・電子部品として一般的なものであり、上記特性を必要とする部品であるパソコンのハウジングに適用することは、当業者が適宜なし得る程度のことである。
パソコンのハウジングに適用することによる効果についても、引用発明の成形品が元々有している上記特性及び技術常識から予測できる範囲内であって、格別顕著な効果であるとは認められない。

(6)小括
以上のとおり、補正発明は、出願当時の技術水準からみて、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(7)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成25年10月9日提出の審判請求書の手続補正書(方式)(3頁)において、概略、以下の主張をしている。
パソコンのハウジングは、パソコンの外装部品として使用されるため、最も重要な特性は「たわみ量」であり、本願明細書の実施例においても、パソコンのハウジングの模擬成形品のたわみ量を評価している。引用文献1の実施例には、一般的な電子・電気機器部品に必要な物性が記載されているが、パソコンのハウジングとして最も重要な物性である「たわみ量」については引用文献1には記載も示唆もないから、引用文献1に記載された発明から想到容易とはいえない。
上記主張について検討する。
引用発明における課題である剛性、機械的強度には、たわみ量も含まれる。したがって、たわみ量を含む剛性、機械的強度、さらに、寸法安定性、低異方性、流動性、難燃性を併せ持つ引用発明の電気・電子部品を、上記特性が必要とされる電気・電子部品であるパソコンのハウジングとすることは、当業者が適宜なし得る程度のことである。
また、引用文献には、引用発明の具体例として、補正発明に係る樹脂組成物の条件を満たす樹脂組成物を用いた射出成形品が、実施例6?8として記載されており(摘示オ.)、補正発明の条件を満たす樹脂組成物を用いていることから、たわみ量についても、補正発明と同じ効果が奏されているものと認められる。
したがって、上記主張は採用できない。

3.むすび
以上のとおりであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記第2.の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
平成25年9月4日付け手続補正は、上述のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成25年1月8日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び明細書並びに図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。

「(A)熱可塑性樹脂(A成分)40?65重量%並びに(B)繊維断面の長径の平均値が10?50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5?8である扁平断面ガラス繊維(B-1成分)および、板状充填材(B-2成分)よりなり、B-1成分とB-2成分の重量比(B-1成分/B-2成分)が10/90?100/0である強化充填材(B成分)35?60重量%の合計100重量部に対し、(C)有機リン酸エステル系難燃剤(C成分)1?30重量部を含んでなるガラス繊維強化樹脂組成物を射出成形して得られるパソコンの部品。」

第4.原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた、平成24年10月31日付け拒絶理由通知書に記載された理由のうち、理由1は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものを含むものであり、刊行物として、以下の引用文献1が提示されている。
1.特開2007-70468号公報(上記第2.2.2-2.(2)に記載の引用文献に同じ。)

第5.当審の判断
本願発明が、上記引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるか否か検討する。
引用文献1には、前記第2.2.2-2.(2)に記載した事項及び第2.2.2-2.(3)に記載の引用発明が記載されている。
そして、前記第2.1.に記載した補正発明は、本願明細書の特許請求の範囲の記載について限定的減縮をしたものであるから、本願発明が補正発明を含むことは明らかである。
そうすると、前記第2.2.に記載したとおり、補正発明は引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことは明らかである。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明についての原査定の理由は妥当なものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-03-28 
結審通知日 2014-04-01 
審決日 2014-04-14 
出願番号 特願2009-147548(P2009-147548)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 大島 祥吾
富永 久子
発明の名称 ガラス繊維強化樹脂組成物を射出成形して得られる電気・電子機器部品  
代理人 為山 太郎  

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