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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01J
管理番号 1288280
審判番号 不服2013-9110  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-17 
確定日 2014-06-06 
事件の表示 特願2008- 14735「紫外可視近赤外分光光度計用検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月 6日出願公開,特開2009-175026〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成20年1月25日の出願であって,平成23年10月25日付けの拒絶理由通知に対し同年12月14日付けで意見書及び補正書が提出され,平成24年6月7日付けの拒絶理由通知に対し同年8月10日付けで意見書が提出されたが,平成25年2月8日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年5月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2 本願発明
この出願の請求項1?6に係る発明は,平成23年12月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は次のとおりのものである。

「紫外領域,可視領域,及び近赤外領域に亘る波長範囲の光を検出対象とするダブルビーム方式の分光光度計用検出装置において,
a)光電子増倍管検出器,InGaAs検出器,及びInAs検出器である3個の検出器と,
b)サンプルセルからの光及び参照セルからの光を,測定波長に応じて前記3個の検出器のいずれかに択一的に導入するように光路又は検出器の位置を切り替える切替手段と,
を備えることを特徴とする紫外可視近赤外分光光度計用検出装置。」

3 刊行物の記載事項
本願出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-23284号公報(以下,「刊行物」という)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は,紫外線,可視光及び近赤外線に亘る波長領域(概ね,150nm?3500nm)を対象とする汎用分光光度計の検出装置に関する。」

(2)「【発明の効果】
【0009】
本発明に係る検出装置では,従来の装置と同様,光電子増倍管検出器は対象とする紫外線・可視光・近赤外線領域範囲内の短波長側の領域(紫外線領域)を分担し,PbS検出器は長波長側の領域(近赤外線領域)を分担するが,InGaAs検出器にはその間の領域を分担させる。すなわち,少なくとも上記800?900nmの領域をこのInGaAs検出器に分担させることにより,図1(b)に示すように,紫外可視近赤外の測定範囲全域に亘って感度低下の少ない,S/N比の高い検出を行うことができる。また,InGaAsはフォトダイオードであり,光起電力素子であるため,その直線性は良好である。従って,本発明に係る分光光度計では,光電子増倍管検出器が分担する波長範囲に加え,InGaAs検出器が分担する波長範囲においても直線性が大きく改善されるようになる。
【0010】
さらに,上記出力変換手段を設けることにより,各検出器間の直線性の相違が解消され,特にPbS検出器の不十分な直線性が補償されることにより,非直線性に起因する入射光量に依存した測定データの変動を解消することができる。これは,低反射率試料の測定を低ノイズで行うことを可能とするものである。」

(3)「【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
回転セクタ鏡によるダブルビーム方式における透過光測定分光光度計に本発明に係る検出装置を用いた実施例を図2に示す。図示せぬ分光器において分光された光は出口スリットSLを通過した後,回転セクタ鏡RSMにより交互にサンプルセルSC及び参照セルRCに入射され,それぞれのセルを通過する。各セルを通過した光は,図2に示すように可動鏡VMが光路内に挿入されたときはPbS/InGaAs切替器MUの方(図2では左上方)に送られる。この場合,両セルからの光はPbS/InGaAs切替器MUの窓を通過して各凹面鏡CMによりInGaAs切替器MU上の1点に集束される。PbS/InGaAs切替器MUは,矢印の方向に移動することにより,PbS検出器又はInGaAs検出器をその集光点に置く。一方,可動鏡VMが光路外に移動されたときは,各セルからの光は光電子増倍管PMTに入射する。こうして,測定目的波長に応じて可動鏡VM及びPbS/InGaAs切替器MUの位置を適宜制御することにより,紫外線から近赤外線に亘る広い範囲の波長の分光測定を高感度で行うことができるようになる。」

以上の記載事項(1)?(3)を総合すると,上記刊行物には,以下の発明が記載されていると認められる。

「紫外線,可視光及び近赤外線に亘る波長領域を対象とする汎用分光光度計の検出装置であって,
光電子増倍管検出器は紫外線領域を分担し,PbS検出器は近赤外線領域を分担するが,InGaAs検出器にはその間の領域を分担させるものであり,
回転セクタ鏡によるダブルビーム方式における透過光測定分光光度計に検出装置を用いたものであり,
分光器において分光された光は出口スリットSLを通過した後,回転セクタ鏡RSMにより交互にサンプルセルSC及び参照セルRCに入射され,それぞれのセルを通過し,
各セルを通過した光は,可動鏡VMが光路内に挿入されたときはPbS/InGaAs切替器MUの方に送られ,この場合,両セルからの光はPbS/InGaAs切替器MUの窓を通過して各凹面鏡CMによりInGaAs切替器MU上の1点に集束され,
PbS/InGaAs切替器MUは,移動することにより,PbS検出器又はInGaAs検出器をその集光点に置くものであり,
一方,可動鏡VMが光路外に移動されたときは,各セルからの光は光電子増倍管PMTに入射するものであり,
こうして,測定目的波長に応じて可動鏡VM及びPbS/InGaAs切替器MUの位置を適宜制御することにより,紫外線から近赤外線に亘る広い範囲の波長の分光測定を高感度で行うことができるようになる汎用分光光度計の検出装置。」(以下「引用発明」という)

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「紫外線,可視光及び近赤外線に亘る波長領域を対象とする汎用分光光度計の検出装置であって」,「ダブルビーム方式における透過光測定分光光度計に検出装置を用いたもの」は,本願発明の「紫外領域,可視領域,及び近赤外領域に亘る波長範囲の光を検出対象とするダブルビーム方式の分光光度計用検出装置」に相当する。

(2)引用発明は「光電子増倍管検出器は紫外線領域を分担し,PbS検出器は近赤外線領域を分担するが,InGaAs検出器にはその間の領域を分担させるものであ」り,本願発明の「InAs検出器」は近赤外波長領域の一部をカバーするものである(【0022】参照)から,引用発明の「光電子増倍管PMT」,「InGaAs検出器」及び「PbS検出器」と,本願発明の「光電子増倍管検出器,InGaAs検出器,及びInAs検出器である3個の検出器」とは,「光電子増倍管検出器,InGaAs検出器,及び近赤外領域の光を検出対象とする検出器である3個の検出器」の点で共通する。

(3)引用発明は「分光器において分光された光は出口スリットSLを通過した後,回転セクタ鏡RSMにより交互にサンプルセルSC及び参照セルRCに入射され,それぞれのセルを通過し,各セルを通過した光は,可動鏡VMが光路内に挿入されたときはPbS/InGaAs切替器MUの方に送られ,この場合,両セルからの光はPbS/InGaAs切替器MUの窓を通過して各凹面鏡CMによりInGaAs切替器MU上の1点に集束され,PbS/InGaAs切替器MUは,移動することにより,PbS検出器又はInGaAs検出器をその集光点に置くものであり,一方,可動鏡VMが光路外に移動されたときは,各セルからの光は光電子増倍管PMTに入射するものであ」るから,引用発明の「可動鏡VM」,「PbS/InGaAs切替器MU」及び「InGaAs切替器MU」は,本願発明の「サンプルセルからの光及び参照セルからの光を,測定波長に応じて前記3個の検出器のいずれかに択一的に導入するように光路又は検出器の位置を切り替える切替手段」に相当する。

してみると,本願発明と引用発明とは
「紫外領域,可視領域,及び近赤外領域に亘る波長範囲の光を検出対象とするダブルビーム方式の分光光度計用検出装置において,
光電子増倍管検出器,InGaAs検出器,及び近赤外領域の光を検出する検出器である3個の検出器と,
サンプルセルからの光及び参照セルからの光を,測定波長に応じて前記3個の検出器のいずれかに択一的に導入するように光路又は検出器の位置を切り替える切替手段と,
を備える紫外可視近赤外分光光度計用検出装置。」
である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点)
近赤外領域の光を検出する検出器が,本願発明では「InAs検出器」であるのに対し,引用発明では「PbS検出器」である点。

5 判断
(1)相違点について
分光光度計の検出装置において,近赤外領域の光を検出する検出器として「PbS検出器」の代わりに「InAs検出器」を選択し得ることは,例えば,原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-251673号公報
(【0036】…受光素子は,分光感度特性の異なる2種以上の半導体からなる受光材料が好ましく,通常,CdS,Si,GaAsS,InS,PbS,InSb,PbSe,Ge等を挙げることができるが,照射波長900nm領域ではSi,GaAs,1000?2000nm領域ではGaInAs,2000から3000nmではPbSe,PbS等が選択される。…【0037】しかし,受光材料としては,前記透過光を効率よく集光することができる材質のものを採用することが好ましい。近赤外光および赤外光を効率よく分光し,受光するためには,波長2000nm以下,特に1000nm以下に極大の分光感度特性…を有する光伝導材料を選択することが好ましい。具体的には,硫化カドミウム(CdS),ヒ化インジウム(InAs)または硫化インジウムガリウム(InGaS)等が使用される。かかる受光材料を選択使用することにより,AOTFによる照射手段による迅速性と相伴って高精度な測定結果を得ることができる。受光素子は,具体的には,分光感度特性が,互いに異なるものであって,ピーク波長がそれぞれ,800nmおよび2100nmのものを2種以上組合わせることにより構成されるものが好適である。」),
及び,原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2007/120931号公報(対応する特表2009-534659号公報
「【0050】…吸光分光計に使用される光検出器は,レーザ及び測定される吸収線の特定波長に応じて変わる。1つの光検出器は,1200?2600nmの波長領域内の光に対して感度をもつインジウムガリウムヒ素(InGaAs)フォトダイオードである。より長い波長については,約3.6μmまでの波長に対して感度を持つインジウムヒ素フォトダイオードが使用されてもよい。或いは,約5.5μm程度の長い波長についてはアンチモン化インジウム検出器が現在利用可能である。インジウム素子は両方とも,光起電力モードで作動し,動作のためのバイアス電流を必要としない。低周波数雑音をもたないこれらの光検出器は,DC又は低周波数用途には有利である。そのような検出器はまた,高速パルスレーザ検出に有利であり,微量ガス吸光分光学に特に有用になっている。他の光検出器としては,インジウムヒ素(InAs),ガリウムヒ素(GaAs),インジウムヒ素リン(InAsP),シリコン,ゲルマニウム,水銀カドミウムテルル(MCT),及び硫化鉛(PbS)の検出器を挙げることができる。」)
に開示されているように周知技術である。
そして,「InAs検出器」は「PbS検出器」に比べて,時間応答性が良いこと,動作のためのバイアス電流(電源)を必要としないこと,低周波雑音を持たないこと等の利点があることは,例えば,上記国際公開第2007/120931号公報,及び,原査定の拒絶の理由に引用された「田幸敏治,外2名,光測定ハンドブック,日本,1998年 9月20日,第3刷,第116頁-第119頁」に開示されているように技術常識である。
そこで,これらの利点を優先させて,引用発明の「PbS検出器」に代えて,上記周知技術を適用して,「InAs検出器」を採用することは当業者が容易になし得たというべきである。

(2)効果について
上記相違点により本願発明の奏する効果は,刊行物,周知技術及び技術常識から,当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

6 むすび
したがって,本願発明は,引用発明,周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-02 
結審通知日 2014-04-09 
審決日 2014-04-22 
出願番号 特願2008-14735(P2008-14735)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横尾 雅一  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 三崎 仁
藤田 年彦
発明の名称 紫外可視近赤外分光光度計用検出装置  
代理人 喜多 俊文  
代理人 江口 裕之  

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