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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1288285
審判番号 不服2013-11515  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-19 
確定日 2014-06-06 
事件の表示 特願2008-151468「電磁波遮蔽用組成物とその製造方法及び該組成物を用いた電磁波遮蔽物の形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月12日出願公開,特開2009- 33113〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 手続の経緯
本件出願は,平成20年6月10日(優先権主張平成19年6月22日)の出願であって,平成24年6月13日付けで通知された拒絶の理由に対して,平成24年8月8日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが,平成25年3月12日付けで拒絶査定され,これに対して,平成25年6月19日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に同日付けの手続補正書が提出され,その後,同年11月12日付けで当審より審尋され,平成26年1月10日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成25年6月19日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年6月19日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.特許請求の範囲の請求項1の記載は,平成25年6月19日付けの手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)により,次のように補正された。
(1)本件補正前
「金属ナノ粒子が分散媒に分散した電磁波遮蔽用組成物であって,
前記金属ナノ粒子が75質量%以上の銀ナノ粒子を含有し,
前記金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1又は2の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾され,
前記金属ナノ粒子が一次粒径50?200nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有することを特徴とする電磁波遮蔽用組成物。」

(2)本件補正後
「金属ナノ粒子が分散媒に分散した電磁波遮蔽用組成物であって,
前記金属ナノ粒子が75質量%以上の銀ナノ粒子を含有し,
前記金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾され,
前記金属ナノ粒子が一次粒径50?200nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有することを特徴とする電磁波遮蔽用組成物。」(なお,文中のアンダーラインは,補正箇所を示すものとして当審で付与したものである。)

2.本件補正の目的要件
特許請求の範囲の請求項1についての補正は,「炭素数」について,「1又は2」であったものを「1」に限定するものであるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について,次に検討する。

3.本願補正発明の独立特許要件
(1)刊行物等
ア.原査定の拒絶の理由に刊行物等として示された特開2006-28637号公報(以下「引用例1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【0001】
本発明は,基材上に銀導電膜を形成するための銀膜形成用塗布液等の製造に用いられる銀微粒子コロイド分散液,特に粒径の大きい銀微粒子コロイド分散液と,その銀微粒子コロイド分散液を用いて製造される銀膜形成用塗布液及びその製造方法,並びに銀膜形成用塗布液を用いて得られる銀膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,銀を含む貴金属微粒子を溶媒に分散させたコロイド分散液は,コンピュータディスプレイの漏洩電磁波防止に用いられる透明導電層形成塗布液(特開平11-329071号公報,特開2000-268639号公報)や,抗菌コーティング形成塗布液(特開平4-321628号公報)等として用いられている。例えば,前者の用途では,透明導電膜形成塗布液を陰極線管(CRT)の前面ガラス(前面板)にスピンコート法等で塗布し,乾燥した後,200℃程度の温度で焼成して透明導電層を形成している。
【0003】
また,高濃度の銀微粒子コロイド分散液(ペースト)を,スクリーン印刷などを用いて印刷し,200℃程度の温度で焼成して銀導電層を得る方法も提案されている(特開2002-334618号公報)。しかし,この用途で用いられる銀微粒子コロイド分散液は,銀を減圧下のガス中で蒸発・凝縮させ,分散剤を含んだ溶剤中に回収するガス中蒸発法を用いて製造されていたため,非常に生産性が悪く,従って得られる銀微粒子コロイド分散液も非常に高価であった。また,この銀微粒子コロイド分散液の場合,分散安定性を高めるため,銀微粒子の表面に強く結合する分散剤が含まれているので,塗布(印刷)・乾燥した後に,200℃程度の高温加熱処理を施して分散剤を分解除去する必要があり,好ましいとは言えなかった。」

・「【0009】
ところで,最近では,銀導電膜を形成する場合に,その膜厚を厚くして,低抵抗膜化することが要望されている。しかしながら,従来の平均粒径が小さい銀微粒子からなる銀膜形成用塗布液を用いた場合には,膜厚を例えば数μmまで厚膜化した場合,膜焼成時にクラックが発生してしまい,膜の導電性や密着力が大幅に劣化するという問題があった。」

・「【0025】
本発明方法では,まず,反応工程において,公知のCarey-Lea法[Am.J.Sci.,37,38,47(1889)参照]を用いて,粒径の小さい銀微粒子の凝集体を比較的高濃度に含む反応液を得る。即ち,硫酸鉄(II)水溶液とクエン酸ナトリウム水溶液の混合液に,硝酸銀水溶液を混合して銀微粒子を生成させる。この銀微粒子の生成反応は,下記化学式1のように表される。
【0026】
[化1]
Ag^(+) +Fe^(2+) → Ag+Fe^(3+)
【0027】
上記化学式1を含む一連の反応は,各原料水溶液の混合後1?2秒以内に起きる。また,生成した銀微粒子は,共存するクエン酸イオンの保護作用を受けると同時に,高濃度の鉄イオン,ナトリウムイオン等により急速に凝集するため,クエン酸イオンで保護された銀微粒子の凝集体が形成される。尚,このとき生成する銀微粒子の粒径は,通常の2?15nm程度である。」

・「【0029】
次に,熟成工程において,上記反応工程で得られた銀微粒子凝集体を含む反応液を放置する。この放置・熟成によって,粒状に粒成長した銀微粒子の凝集体が得られ,最終的に銀微粒子コロイド分散液としたときの銀微粒子の平均粒径を20nm以上とすることができる。尚,平均粒径が200nmを超えると,銀微粒子が沈降を起こすため好ましくない。また,この熟成工程では,反応液をそのままの状態で放置することが好ましいが,例えば連続的に生成させた反応液などは容器に移して放置することも可能である。」

「【0033】
その後,分散工程において,上記銀微粒子凝集体のケーキに純水を加えることにより,銀微粒子コロイド分散液が得られる。銀微粒子凝集体のケーキに純水を加えると,液中の鉄イオンとナトリウムの濃度が大幅に低下するため,凝集要因がなくなり,クエン酸イオンで保護された銀微粒子は液中に再分散して,銀微粒子のコロイド分散液となるのである。このようなコロイドの製造方法は,一般的に洗い出し法と呼ばれている。
【0034】
上記した本発明の製造方法により得られる銀微粒子コロイド分散液は,従来よりも銀微粒子の平均粒径が大きく,好ましくは20?200nmであり,更に好ましくは30nmを超え200nm以下である。しかも,簡単な方法で安価に製造できるうえ,分散剤などの不純物が少なく,分散安定性にも優れている。尚,本発明における粒径とは,透過電子顕微鏡(TEM)で観察される銀微粒子の粒径である。」

「【0037】
上記銀微粒子コロイド濃縮洗浄分散液は,そのままでも印刷・塗布が可能であるが,溶媒が水系であるため,プラスチック等の基材の種類によっては成膜工程においてハジキ等の塗布欠陥を生じる場合がある。そこで,次の溶媒配合工程において,銀微粒子コロイド濃縮洗浄分散液に有機溶媒を加えることにより,本発明の銀膜形成用塗布液とする。この銀膜形成用塗布液の塗布性は,有機溶媒の添加により大幅に改善されている。」

「【0042】
このようにして得られる本発明の銀膜形成用塗布液は,平均粒径20nm以上の銀微粒子が水及び有機溶媒中に分散され,且つこの銀微粒子が印刷法に適用し得る高濃度で含まれ,不純物含有量が少なく,分散安定性に優れている。また,この銀膜形成用塗布液は,
分散安定性に優れるだけでなく,膜厚を厚くしても膜焼成時の収縮が抑制され,クラックの発生を防止できる。そのため,例えば厚さが数μmで,且つ優れた導電性を有する銀膜を形成することが可能となる。
【0043】
銀膜形成用塗布液中の銀微粒子の平均粒径は,20?200nmの範囲が好ましく,30nmを超え200nm以下であることが更に好ましい。銀膜形成用塗布液中の銀微粒子の平均粒径が20nm未満では,厚さ数μm以上の銀膜でクラックの発生を抑制できない。逆に,平均粒径が200nmを超えると,銀微粒子が銀膜形成用塗布液中で沈降し易くなり,更には銀膜形成用塗布液の印刷及び乾燥後の加熱処理において銀微粒子同士の焼結が進み難くなるため,低抵抗の導電膜を得ることが難しくなる。また,銀膜形成用塗布液中の銀微粒子は均一性にも優れ,例えば,平均粒径±20nmの銀微粒子が全体の90%以上を占めることが好ましい。
【0044】
銀膜形成用塗布液による銀膜の形成は,塗布法により簡単に形成することができる。即ち,銀膜形成用塗布液を基材上に塗布した後,通常は60?250℃又はそれ以上の数百℃の温度で加熱処理し,塗布液の乾燥及び銀微粒子の焼結を行うことにより,銀膜を形成することができる。本発明の銀膜形成用塗布液は,バインダーなどの添加成分を加えなければ60℃程度の加熱処理によっても低抵抗の銀導電膜を得ることが可能であるが,加熱温度は適用する基材の耐熱性を考慮して決めればよいため,特に限定されない。」

イ.これらの記載によれば引用例1には,次の発明が記載されていると認めることができる。(以下,この発明を「引用発明」という。)
「銀微粒子を溶媒に分散させた銀微粒子コロイド濃縮洗浄分散液に有機溶媒を加えた銀膜形成用塗布液であって,
前記銀微粒子はクエン酸イオンで保護され,
前記銀微粒子が平均粒径20?200nmの範囲内の銀微粒子からなる銀膜形成用塗布液。」

(2)対比・判断
ア.本願補正発明と引用発明とを対比する。
a.引用発明の「銀微粒子」は,平均粒径が「20?200nm」であるから,本願補正発明の「金属ナノ粒子」又は「銀ナノ粒子」ということができる。

b.引用例1の段落【0002】の背景技術に関する記載から,引用発明の「銀膜形成用塗布液」は,本願補正発明の「電磁波遮蔽用組成物」であるといえる。

c.引用例1の段落【0002】の「銀を含む貴金属微粒子を溶媒に分散させたコロイド分散液」との記載,及び段落【0033】の「クエン酸イオンで保護された銀微粒子は液中に再分散して,銀微粒子のコロイド分散液となる」との記載と前記a.及びb.の事項とから,引用発明の「銀微粒子を溶媒に分散させた銀微粒子コロイド濃縮洗浄分散液に有機溶媒を加えた銀膜形成用塗布液」は,本願補正発明の「金属ナノ粒子が分散媒に分散した電磁波遮蔽用組成物」に相当するものといえる。

d.引用発明の「銀微粒子」は,100%の銀微粒子からなることを意味する。本願明細書の段落【0021】に,「75質量%以上の範囲に限定したのは,75質量%未満ではこの組成物を用いて形成された電磁波遮蔽物の導電率が低下し,従って電磁波遮蔽性が低下してしまうからである。」と記載されているところ,100%であれば当然,十分な導電率が得られるものであるので,引用発明の「銀微粒子」は,本願補正発明の「金属ナノ粒子が分散媒に分散した電磁波遮蔽用組成物」及び「金属ナノ粒子が75質量%以上の銀ナノ粒子を含有し」との条件を満たすと解せる。

e.引用発明の「クエン酸イオン」は,本願明細書に良好な耐候性が得られる炭素数3の分散剤の一例として記載されたものであるから,本願補正発明の「炭素骨格が炭素数1の有機分子主鎖の保護剤」とは,「炭素骨格が炭素数の小さい有機分子主鎖の保護剤」である点で共通する。

f.引用発明の「クエン酸イオンで保護され」は,引用例1の段落【0033】に「クエン酸イオンで保護された銀微粒子は液中に再分散して,銀微粒子のコロイド分散液となる」と記載されるように,銀ナノ粒子に対して,有機分子主鎖の保護剤としての作用を有するものであるから,本願補正発明の「有機分子主鎖の保護剤で化学修飾され」に相当する。

g.引用発明の「平均粒径20?200nmの範囲内の銀微粒子からなる」態様と本願補正発明の「一次粒径50?200nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有する」態様とは,「所定の粒径範囲内の金属ナノ粒子が多数を占める」との概念で共通する。

イ.そうすると,本願補正発明と引用発明との一致点,相違点は,次のとおりである。
《一致点》
「金属ナノ粒子が分散媒に分散した電磁波遮蔽用組成物であって,
前記金属ナノ粒子が75質量%以上の銀ナノ粒子を含有し,
前記金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数の小さい有機分子主鎖の保護剤で化学修飾され,
前記金属ナノ粒子が所定の粒径範囲内の金属ナノ粒子が多数を占める電磁波遮蔽用組成物。」

《相違点1》
有機分子主鎖の保護剤に関し,本願補正発明では「炭素骨格が炭素数1の保護剤」であるのに対し,引用発明では「クエン酸イオン」である点。

《相違点2》
所定の粒径範囲内の金属ナノ粒子が多数を占める構成に関し,本願補正発明では「一次粒径50?200nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有する」ものであるのに対し,引用発明では「平均粒径20?200nmの範囲内の銀微粒子からなる」ものである点。

ウ.以下,相違点について検討する。
《相違点1について》
本願明細書の段落【0029】の記載によれば,炭素数1の保護剤としては「グリコール酸ナトリウム」を用いていることが認められる。
この「グリコール酸ナトリウム」は,金属ナノ粒子を分散媒により分散させるために用いる保護剤として,周知のものである(例えば,特開2006-179474号公報(段落【0049】に「上記保護コロイドとしては,適当な溶媒に溶解し,分散効果を示すものであれは特に限定されず,例えば,……グリコール酸ナトリウム等のイオン性化合物……等を挙げることができる。これらの分散剤は,単独で用いられてもよく,2種以上が併用されてもよい。」と記載されている。),特開2007-16301号公報(段落【0026】に「本発明に係る金属コロイド溶液は,上記金属粒子を分散させる分散剤を含有する。分散剤としては,……グリコール酸ナトリウム……が挙げられるが,分散媒に溶解しかつ分散効果を示すものであれば特に限定されず,これらは単独で用いられても2種類以上が併用されてもよい。」と記載されている。),特開2006-291347号公報(段落【0079】に「このような分散剤としては,例えば,……グリコール酸ナトリウム等のイオン性化合物,……等が挙げられ,これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。」と記載されている。)参照。)。
そして,本願明細書の段落【0021】に「金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を限定したのは,炭素数が4以上であると焼成時の熱により保護剤が脱離或いは分解(分離・燃焼)し難く,上記電磁波遮蔽物内に有機残渣が多く残り,変質又は劣化して電磁波遮蔽物の導電性が低下してしまうからである。」と記載され,同書の【表1】には,炭素数1?3のもの全てについて,比較例1を除きいずれも耐候性は「良好」としていて,その効果に相違はなく,炭素数1?3のうち何れを採用するかは,任意選択事項といえる。
また,例えば,引用例1と同じCarey-Lea法を用いる方法について開示した特開2006-179474号公報に「【0048】 液中還元法による金属微粒子製造法として公知の技術が適用でき,例えば保護コロイドと呼ばれる安定化剤で金属微粒子の表面を保護し分散させる方法が知られている。例えば,American Journal of Science,Vol.37,P476-491,1889,M Carey Leaには,金属塩の水溶液に,保護コロイドとしてクエン酸またはその塩を加え,第一鉄イオン等の還元剤を添加した後,脱塩,濃縮することによって,金属コロイド溶液を得る方法が開示されている。【0049】 上記保護コロイドとしては,適当な溶媒に溶解し,分散効果を示すものであれは特に限定されず,例えば,クエン酸三ナトリウム,クエン酸三カリウム,クエン酸三リチウム,りんご酸二ナトリウム,酒石酸二ナトリウム,グリコール酸ナトリウム等のイオン性化合物;……等を挙げることができる。これらの分散剤は,単独で用いられてもよく,2種以上が併用されてもよい。但し,アルカンチオール等の金属と強固な共有結合を形成する化合物は好ましくない。」と記載されているように,当業者は,引用発明の分散剤において,「クエン酸三ナトリウム」に替えて「りんご酸二ナトリウム」や「グリコール酸ナトリウム」を採用することができたものである。
なお,請求人は,審判請求書の請求の理由のなかで,特開2001-167647号公報には,グリコール酸ナトリウムが比較例での分散剤として用いられており不具合が生じることが示唆されている旨,主張し,さらにこのことから,「グリコール酸ナトリウム」を分散剤として直ちに採用できたとはいえない旨,平成26年1月10日付けの回答書において主張しているが,「グリコール酸ナトリウム」を分散剤として用いることは上記したように周知の事項といえるのであって,さらに,Carey-Lea法に係る上記特開2006-179474号公報の摘記事項から,引用発明においても,「グリコール酸ナトリウム」を分散剤として採用できたものといえる。
したがって,引用発明において,分散剤として「グリコール酸ナトリウム」を用いることで相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たことと認められる。

《相違点2について》
金属ナノ粒子の粒径については,引用例1において,具体的な一実施例として段落【0049】に,「平均粒径が60nmであり,粒径40?80nmの粒状の銀微粒子が全体の90%以上を占める均一な粒度分布のもの」と記載されており,本願の明細書を見てもその数値範囲についての比較例は,「一次粒径50?200nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で50%含有する」ものが記載されているだけであることから,引用発明においても,銀ナノ粒子の粒径とその含有量について「平均粒径20?200nm」としているものを「一次粒径50?200nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有する」ようにすることで相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者がその設計の範囲において適宜なし得る程度のことと認められる。

また,本願補正発明の奏する効果は引用発明及び上記周知の事項から想到し得る程度のことと認められる。

したがって,本願補正発明は,引用発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明は,平成24年8月8日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(「第2.1.(1)参照。以下,これを「本願発明」という。)。

2.引用刊行物等
原査定の拒絶の理由に示された引用例1の記載事項は,前記「第2.3.(1)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は,上記したとおりであって,前記「第2.」で検討した本願補正発明の,「炭素数1」を,「炭素数1又は2」と保護剤に関する選択肢を多くしたものである。
そうすると,本願発明の構成要件を全て含み,さらに周知の保護剤の中から選択肢を減少したものに相当する本願補正発明が,前記「第2.3.(2)」に記載したとおり,引用例1に記載の発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明及び上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして,原査定の拒絶の理由のとおり,保護剤(分散剤)について炭素数2のものを用いることは,原査定の拒絶の理由に周知例として引用された特開2001-167647号公報(段落【0018】等参照。)及び特開2006-193594号公報(段落【0032】等参照。)に記載されているように,周知事項である(前記「第2.3.(2)ウ.」で例示した周知例(これらには,いずれも,クエン酸三ナトリウム及びグリコール酸ナトリウムとともに,りんご酸二ナトリウムが保護剤(分散剤)の選択肢の1つとして記載されている。)も参照。)。
したがって,本願補正発明と同様の理由により,本願発明は,原査定の拒絶の理由のとおり,引用発明及び上記周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び上記周知の事項ないし周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため,本願の特許請求の範囲の他の請求項2ないし7に係る発明について検討するまでもなく,本願は,同法第49条第2号の規定に該当し,拒絶をされるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-01 
結審通知日 2014-04-08 
審決日 2014-04-21 
出願番号 特願2008-151468(P2008-151468)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05K)
P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 邦喜  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 槙原 進
藤井 昇
発明の名称 電磁波遮蔽用組成物とその製造方法及び該組成物を用いた電磁波遮蔽物の形成方法  
代理人 須田 正義  

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