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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1288295
審判番号 不服2013-17062  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-04 
確定日 2014-06-06 
事件の表示 特願2010-273022「磁気ディスク用ガラス基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月28日出願公開、特開2011- 86371〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【第1】経緯

[1]手続の経緯
本願は、平成18年9月26日(優先権主張平成17年9月26日)に出願した特願2006-260068号の一部を、平成22年12月7日に新たな特許出願(特願2010-273022号)としたものであって,手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成23年11月10日(起案日)
意見書 :平成24年 1月15日
手続補正 :平成24年 1月15日
拒絶理由通知 :平成24年 9月10日(起案日)
意見書 :平成24年11月19日
手続補正 :平成24年11月19日
拒絶査定 :平成25年 5月30日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成25年 9月 4日
手続補正 :平成25年 9月 4日
前置審査報告 :平成25年11月12日
審尋 :平成25年12月13日(起案日)
回答書 :平成26年 2月17日

[2]査定
原査定の理由は,概略,以下のとおりである。

〈査定の理由の概略〉

本願の各請求項に係る発明は,下記の刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

記(刊行物等一覧)
刊行物1:特開2003-346316号公報
刊行物2:特開平03-036447号公報
刊行物3:特開昭64-063742号公報
刊行物4:特開平09-229442号公報

【第2】補正の却下の決定
平成25年9月4日付けの補正(以下「本件補正」という。)について次のとおり決定する。

《結論》
平成25年9月4日付けの補正を却下する。

《理由》

【第2-1】本件補正の内容

本件補正は特許請求の範囲についてする補正であり,補正前特許請求の範囲の独立請求項である補正前請求項1,2,7の記載を,補正後請求項1,2,7とする補正であり,本件補正前および本件補正後の請求項1,2,7の記載は下記のとおりである。

記(補正前,平成24年11月19日補正によるもの)
【請求項1】
ロードアンロード方式であり,かつ,ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって,
複数の工程を経由して製造され,
前記複数の工程を,互いに区画された複数の区域内において実施し,
前記複数の工程は,研磨砥粒を用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程と,この粗研磨工程の後に実施され,前記粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を用いて前記ガラス基板を研磨する精研磨工程とを含み,
該製造工程により製造される磁気ディスク用ガラス基板を用いた磁気ディスクにおけるサーマルアスペリティ障害を抑止すべく,前記粗研磨工程における発塵が,前記精研磨工程を実施する区域に流入することを阻止するように,前記複数の区域のうち,前記精研磨工程を行う区域においては,前記粗研磨工程が実施される区域へ向けた気流が生じている
ことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
ロードアンロード方式であり,かつ,ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって,
複数の工程を経由して製造され,
前記複数の工程を,互いに区画された複数の区域内において実施し,
前記複数の工程は,研磨砥粒を用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程と,この粗研磨工程の後に実施され,前記粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を用いて前記ガラス基板を研磨する精研磨工程とを含み,
該製造工程により製造される磁気ディスク用ガラス基板を用いた磁気ディスクにおけるサーマルアスペリティ障害を抑止すべく,前記粗研磨工程における発塵が,前記精研磨工程を実施する区域に流入することを阻止するように,前記複数の区域のうち,前記粗研磨工程を行う区域においては,前記精研磨工程が実施される区域からの気流が流入している
ことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
ロードアンロード方式であり,かつ,ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって,
研磨砥粒を用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程と,この粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を用いて前記ガラス基板を研磨する精研磨工程とを含み,該製造工程により製造される磁気ディスク用ガラス基板を用いた磁気ディスクにおけるサーマルアスペリティ障害を抑止すべく,前記粗研磨工程を実施する場所と,前記精研磨工程を実施する場所とを遮断し,これら場所間の遮断が解かれたときに,前記精研磨工程を実施する場所から,前記粗研磨工程を実施する場所へ向けた気流が生じることよって,前記粗研磨工程における発塵が,前記精研磨工程を実施する場所に流入することを阻止する
ことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。

記(補正後,補正部分をアンダーラインで示す。)
【請求項1】
ロードアンロード方式であり,かつ,ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられ,主表面の算術平均粗さRaが0.4nm以下である磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって,
複数の工程を経由して製造され,
前記複数の工程を,互いに区画された複数の区域内において実施し,
前記複数の工程は,研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程と,この粗研磨工程の後に実施され,前記粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いて前記ガラス基板を研磨する精研磨工程とを含み,
該製造工程により製造される磁気ディスク用ガラス基板を用いた磁気ディスクにおけるサーマルアスペリティ障害を抑止すべく,前記粗研磨工程における発塵が,前記精研磨工程を実施する区域に流入することを阻止するように,前記複数の区域のうち,前記精研磨工程を行う区域においては,前記粗研磨工程が実施される区域へ向けた気流が生じている
ことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
ロードアンロード方式であり,かつ,ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられ,主表面の算術平均粗さRaが0.4nm以下である磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって,
複数の工程を経由して製造され,
前記複数の工程を,互いに区画された複数の区域内において実施し,
前記複数の工程は,研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程と,この粗研磨工程の後に実施され,前記粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いて前記ガラス基板を研磨する精研磨工程とを含み,
該製造工程により製造される磁気ディスク用ガラス基板を用いた磁気ディスクにおけるサーマルアスペリティ障害を抑止すべく,前記粗研磨工程における発塵が,前記精研磨工程を実施する区域に流入することを阻止するように,前記複数の区域のうち,前記粗研磨工程を行う区域においては,前記精研磨工程が実施される区域からの気流が流入している
ことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
ロードアンロード方式であり,かつ,ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられ,主表面の算術平均粗さRaが0.4nm以下である磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって,
研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程と,この粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いて前記ガラス基板を研磨する精研磨工程とを含み,該製造工程により製造される磁気ディスク用ガラス基板を用いた磁気ディスクにおけるサーマルアスペリティ障害を抑止すべく,前記粗研磨工程を実施する場所と,前記精研磨工程を実施する場所とを
遮断し,これら場所間の遮断が解かれたときに,前記精研磨工程を実施する場所から,前記粗研磨工程を実施する場所へ向けた気流が生じることよって,前記粗研磨工程における発塵が,前記精研磨工程を実施する場所に流入することを阻止する
ことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。

〈補正内容〉
そして,その補正内容は,
補正前請求項1,2,7に記載された「磁気ディスク用ガラス基板の製造方法」を「主表面の算術平均粗さRaが0.4nm以下である磁気ディスク用ガラス基板の製造方法」とするとともに,
補正前請求項1,2,7に記載された
「前記複数の工程は,研磨砥粒を用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程」,「前記粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を用いて前記ガラス基板を研磨する精研磨工程」を,それぞれ,
「前記複数の工程は,研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程」,「前記粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いて前記ガラス基板を研磨する精研磨工程」とするものである。

【第2-2】本件補正の適否1(範囲,目的)

〈補正の範囲(第17条の2第3項)〉
本件補正は,当初明細書の段落【0097】,【0098】,【0137】?【0140】の記載を根拠とするものと認められ,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする補正であるといえ,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

〈補正の目的(第17条の2第4項)〉
本件補正は,補正後請求項1,2,7は,対応する補正前請求項1,2,7に記載のあった特定事項である「磁気ディスク用ガラス基板」,「研磨砥粒を用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程」,「研磨砥粒を用いて前記ガラス基板を研磨する精研磨工程」について,上記の下線部分を付加して限定するものであり,かつ,補正の前後において,産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから,特許法第17条の2第4項第2号でいう特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。すなわち,本件補正は,特許法第17条の2第4項の規定に適合する。

【第2-3】本件補正の適否2 独立特許要件(第17条の2第5項)
そこで,独立特許要件について検討するに,補正後請求項1に記載される発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

本件補正後の請求項1に記載される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由の詳細は,以下のとおりである。

《理由:独立特許要件に適合しない理由の詳細》

補正後の請求項1に記載される発明を「補正後発明」という。

[1]補正後発明

補正後発明(補正後の請求項1)について検討する。
補正後発明は,前記【第2-1】の補正後の【請求項1】のとおりであるところ,
下記の様に分説することができる。

記(補正後発明,分説)
A :ロードアンロード方式であり,かつ,ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられ,主表面の算術平均粗さRaが0.4nm以下である磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって,
B0:複数の工程を経由して製造され,
B1:前記複数の工程を,互いに区画された複数の区域内において実施し,
B2:前記複数の工程は,研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程と,この粗研磨工程の後に実施され,前記粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いて前記ガラス基板を研磨する精研磨工程とを含み,
C :該製造工程により製造される磁気ディスク用ガラス基板を用いた磁気ディスクにおけるサーマルアスペリティ障害を抑止すべく,前記粗研磨工程における発塵が,前記精研磨工程を実施する区域に流入することを阻止するように,前記複数の区域のうち,前記精研磨工程を行う区域においては,前記粗研磨工程が実施される区域へ向けた気流が生じている
A :ことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。

[2]引用刊行物の記載の摘示

(1)刊行物1:特開2003-346316号公報
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である上記刊行物1には,以下の記載(下線は,注目箇所を示すために当審で施したものである。)が認められる。(〔〕は引用箇所を示す。)

(K1)〔1頁左下欄〕
【要約】
【課題】 例えば,HDDにおけるテイク・オフ・ハイト(TOH)を低くすることができる情報記録媒体並びに該情報記録媒体用ガラス基板の製造方法および該方法によって製造された情報記録媒体用ガラス基板を提供する。

(K2)
【請求項9】 基板上に記録層が形成された情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において,
前記ガラス基板の表面を,100%モデュラスが7840?24500kPaである樹脂を加工した研磨部材によって研磨する工程を含むことを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。

(K3)〈技術分野,従来の技術,目的〉
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,情報記録媒体並びに該情報記録媒体用ガラス基板の製造方法および該方法によって製造された情報記録媒体用ガラス基板に関し,特に,パワースペクトルによって表面形状が評価された情報記録媒体並びに該情報記録媒体用ガラス基板の製造方法および該方法によって製造された情報記録媒体用ガラス基板に関する。
【0002】
【従来の技術】近年,情報のデジタル化は目覚ましく進展しており,デジタル化された情報を情報記録媒体に記録するための情報記録装置が各種開発製造されている。これら情報記録媒体の改良進歩はまさに日進月歩であり,これら情報記録媒体の記録容量,並びに情報記録装置の記録速度,および再生速度が年率十数%で向上している。このような状況において,現在最も広く使用されている情報記録装置は,ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:以下,「HDD」と省略することがある)であり,このHDDの改良進歩速度は,他の情報記録装置のそれ以上である。
【0003】ハードディスク用媒体(以下,「ディスク」ということがある)は,ディスク用基板上に情報記録層が形成され,この情報記録層にデジタル化された情報が記録される(書き込まれる)。
【0004】HDDにおける磁気ヘッドのロード・アンロード方式には,CSS(contactstart stop:コンタクト・スタート・ストップ)方式とランプロード方式とがある。CSS方式は,ディスクが回転中であるときは,磁気ヘッドがディスクの情報記録領域上を滑空し,ディスクが回転を開始または回転を停止するときは,ディスクのCSSゾーン上を滑走する方式である。なおCSS方式では,ディスクの停止中に磁気ヘッドとディスクは接触している。
【0005】ここで,ディスクのCSSゾーンとは,ディスクの主に内周または外周に沿って,高さ数十nmオーダーの均一な凹凸が意図的に設けられた領域をいう。
【0006】また,ランプロード方式は,ディスクが回転中であるときは,磁気ヘッドがディスク上を滑空し,ディスクが回転を停止するときは,磁気ヘッドが格納位置に収納される方式である。なおランプロード方式では,ディスクの停止中においても,磁気ヘッドとディスクは接触することはない。
【0007】以下,この磁気ヘッドの最低浮上高さをテイク・オフ・ハイト(以下,「TOH」と省略することがある)という。このTOHを低くすると,滑空高さも低くすることができる。なお,テイク・オフ・ハイトは,タッチダウン・ハイトと呼ばれることがある。
【0008】CSS方式またはランプロード方式においては,ハードディスクが回転中であるときは,磁気ヘッドがTOHをもってその情報記録領域上を滑空するので,記録情報高密度化を体現するためには,TOHを小さくすることが求められる。
【0009】磁気ヘッドによりディスクに情報の記録再生を行う場合において,ハードディスクの表面に大きい凹凸が形成されているときは,ハードディスクの回転中に磁気ヘッドがハードディスクの表面の大きい凸部に接触または衝突し,飛行中のヘッド揺らぎが大きくなるので,ヘッドクラッシュが発生し易い。
【0010】また,ヘッドクラッシュの発生に至らないまでも,上記接触または衝突により磁気ヘッドに熱が発生し,発生した熱により磁気ヘッドが異常な信号を検知する,いわゆるサーマルアスペリティー(thermal asperity)が発生し易い。
【0011】特に,最近の磁気ヘッドでは,高精度に読込みを行うMR(磁気抵抗型)ヘッド,またはGMR(巨大磁気抵抗型)ヘッドが主流となっており,高精度に読込みを行うがゆえに,サーマルアスペリティーの発生し難いものが求められている。
【0012】従来,ハードディスク用基板としては,アルミニウム基板が主流であったが,現在ではガラス基板に置き替わりつつある。ハードディスク用基板をガラス基板とすると,高精度な研磨加工を施すことができるので,ヘッドの滑空高さを低くすることができる。その結果,磁気ヘッドとの間隔をより狭くでき,高精度に読込みを行う磁気ヘッドに応えることができる。このように,情報記録媒体用基板には,高い表面平坦性や表面平滑性が求められ,さらには高い剛性も求められている。

【0031】本発明の目的は,例えばHDDにおける磁気ヘッドの飛行の障害となるウネリを低減し,TOHを低くすることができる情報記録媒体,およびそれに用いる情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することにある。

(K4)〈課題を解決するための手段〉
【0048】本発明の第2形態である請求項9記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は,基板上に記録層が形成された情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において,前記ガラス基板の表面を,100%モデュラスが7840?24500kPa(80?250kg/cm2)である樹脂を加工した研磨部材によって研磨する工程を含むことを特徴とする。
【0049】ただし,100%モデュラスとは,断面積1cm2の試料片を2倍の長さに伸ばすのに要する力をいう。

(K5)〈実施の形態,製造方法〉
【0078】また本発明者は,基板上に記録層が形成された情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において,前記ガラス基板の表面を,100%モデュラスが7840?24500kPa(80?250kg/cm2)である樹脂を加工した研磨部材によって研磨すると,例えばHDDの磁気ヘッドの飛行の障害となるウネリ成分の低減することができる。その結果,ヘッドクラッシュやサーマルアスペリティーの発生を防止でき,TOHを低くすることができることを見出した。
【0080】以下,本発明の実施の形態に係る情報記録媒体の製造方法を,図面を参照しながら説明する。
【0081】図1は,本発明の実施の形態に係る情報記録媒体の製造方法の工程図である。

《一次研磨加工》
【0099】一次研磨加工工程(ステップS6)
次に,ラッピング加工工程を施した際に,ワーク表面に生じた凹凸の表面粗さを改善し,かつクラックや傷等を除去するために,研磨剤としての酸化セリウムを主な成分とするスラリーを用いて,ワークの情報記録面に一次研磨加工を施す。このスラリーは,平均粒径が1.5μm程度,濃度が20質量%程度のランタノイド酸化物(酸化セリウムおよび酸化ランタンなど)を含有する。具体的には,このスラリーを研磨機に供給することによってワークの情報記録面に一次研磨加工を施す。
【0100】研磨機には,ワークと接触する面に,酸化セリウムを含浸させた発泡ウレタン系樹脂の研磨パッドが貼り付けられており,この研磨パッドを介してワークに49N(5kgf)程度の荷重をかけると共に,ワークの上面および下面を同時に研磨し,ワークが所定の厚みになるまで研磨機を稼働させる。
《二次研磨加工》
【0102】精密研磨加工工程(ステップS7)
次に,二次研磨加工として精密研磨加工を施す。
【0103】研磨パッドは,その最表面層がナップ層からなり,このナップ層には,表面硬度の指標としての100%モデュラスが7840?24500kPa(80?250kg/cm2)の範囲にある硬さの樹脂を溶融し発泡させたのちに,その最表面を削りとって空孔を露出させることで製造される研磨部材が用いられる。このような100%モデュラスが大きい樹脂をナップ層に用いることより,精密研磨加工を施しているときにナップ層の表面層が微視的にみて硬いために,ワークの情報記録面の波長0.1?5mmのウネリ成分を改善することができる。
【0105】例えば結晶化度の大きい樹脂,すなわち100%モデュラスが大きな樹脂で作ったナップ層は,微視的にみると硬く,巨視的にみるとナップ層に含まれる空孔があるため柔らかいという性質を持つ。詳細なメカニズムは定かでないが,ナップ層の微視的な硬さが波長0.1?5mmのウネリ除去に有効と考えている。
・・・(中略)・・・
【0111】研磨液としては,研磨剤としての酸化セリウムおよび/または酸化ランタンを含有するランタノイド酸化物系スラリー,または微粒子状のシリカを含有するシリカ系スラリーが用いられる。ランタノイド系酸化物系スラリーには0.01?5%程度のフッ素が含まれていてもよい。
【0112】スラリーを用いて精密研磨加工を施す場合においては,ランタノイド酸化物系スラリー固形分の最大粒径が3μm以下であることが好ましい。これにより,ワークの情報記録面の波長1?10μmのウネリ成分が減少し,また,研磨斑やファインスクラッチ等の発生を防止することができる。さらに,研磨剤の粒径が1?3μm程度のものの含有量が研磨剤の固形分質量の10%以下とすると,波長1?10μmのウネリ成分がさらに減少するので好ましい。
【0113】ランタノイド酸化物系スラリー固形分の平均粒径は,特に限定されないが,例えば平均粒径を0.1?1.6μmとしてもよい。ランタノイド酸化物からなる研磨剤は,その平均粒径が小さ過ぎると,研磨効率を低下させるか,または研磨剤粒子が凝集して,ワーク表面に研磨斑を発生し易くする。
【0114】微粒子状のシリカを含有するスラリーを用いて研磨加工を施す場合においては,市販のコロイダルシリカまたはヒュームドシリカを用いることができる。コロイダルシリカは,平均粒径0.03?0.5μmのシリカをコロイドの状態で分散したスラリーである。このような平均粒径のコロイダルシリカであるときは,シリカの平均粒径が小さくてもコロイド状のシリカが凝集することがなく,局所的な研磨ムラを発生し難いので,特にシリカの平均粒径は限定されない。
【0115】精密研磨加工が施されたワークは,そのままでも情報記録媒体用ガラス基板製品とできるほどに,ウネリが改善されている。ウネリが改善されているので,後述する工程を行うことなく,ハードディスク用ガラス基板として,その最表面に円周状にテクスチャー処理を施してもよい。
【0116】次に,精密研磨加工を施す際にワーク表面に軟弱に付着した研磨剤およびスラリーに簡易洗浄処理を施す。例えば,精密研磨加工停止前にスラリーを水に切り替えてリンスを施したり,シャワー洗浄を施したり,ワークを取り上げて純水浴中に投入後超音波を付与しながら純水洗浄を施したりする。
・・・(中略)・・・
【0137】例えば,TOHが4.5nm以下であるハードディスク用媒体は,優れた記録再生特性を有し,磁気ヘッドの飛行の障害となるウネリが低減され,ヘッド揺らぎが小さく,ヘッドクラッシュが発生しにくい。また,サーマルアスペリティーも発生しにくいハードディスク用媒体である(以下,このことを優れたメディア特性を有する,と称する)。

(K6)〈実施例,製造方法〉
【0167】
【実施例】以下,本発明の実施例を説明する。
【0168】本発明者等は,図1の情報記録媒体の製造方法にしたがって以下の工程を順に実行し,情報記録媒体のサンプル1?19および比較例1?11を作製した。

《一次研磨加工工程》
【0174】一次研磨加工工程(ステップS6)
次に,平均粒径が0.05?1.6μm,固形分の濃度が20質量%程度である酸化セリウムおよび酸化ランタンを含有するランタノイド酸化物系スラリーを,研磨機に供給しながらワークの情報記録面に一次研磨加工を施した。ワークと接触する面に酸化セリウムを含浸させた発泡ウレタン系樹脂からなる研磨パッドを貼り付けた研磨機を用いて,この研磨パッドを介してワークに49N(5kgf)程度の荷重をかけると共に,ワークの上面および下面を同時に研磨し,ワークが所定の厚みになるまで研磨機を稼働させた。
《精密研磨加工工程》
【0176】精密研磨加工工程(ステップS7)
キャリアの自転の回転速度の範囲が,0.0166/秒?0.2833/秒(1?17rpm)程度となるように,上定盤回転数および下定盤回転数を調整して,ワークの上面および下面同時に精密研磨加工を施した。精密研磨加工を施す際に,スウェードタイプの研磨パッドを用いた。このスウェードタイプの研磨パッドにおけるナップ層は,100%モデュラスの範囲が,4900?24500kPa(50?250kg/cm2)である樹脂を溶融し発泡させたのちに,その最表面を削りとって空孔を露出させることで製造される研磨部材であり,その厚みは0.2?lmm,その開口径は30?100μmであった。また,このスウェードタイプの研磨パッドにおけるベース層は樹脂シートからなる。さらに,最大粒径1?5μm程度,平均粒径0.05?1.6μm,粒径1?5μmの研磨剤の含有量が固形分全質量の0.1?65質量%程度の酸化セリウムおよび酸化ランタンを主な成分とするランタノイド酸化物系スラリー,または微粒子状のシリカを含有するスラリーを用いた。
・・・(中略)・・・
【0185】以下,第1の実施例に係る情報記録媒体のサンプル1?19および比較例1?11について,それぞれ説明する。
【0186】そして,図1のステップS11で実行された検査工程において,作製されたサンプル1?19および比較例1?11のTOH〔nm〕,ファインスクラッチ〔有/無〕,研磨斑〔有/無〕,およびウネリの大きさ〔nm〕を測定し,100%モデュラスで表記した樹脂硬さ〔kPa(kg/cm2)〕とPSD×fの最大値〔cm2〕との関係(サンプル1?7,比較例1?3),キャリアの自転の回転速度である〔/秒(rpm)〕とPSD×fの最大値〔cm2〕との関係(サンプル8?12,比較例4?6),および研磨剤の最大粒径〔μm〕とPSD×fの最大値〔nm2〕との関係(サンプル13?19,比較例7?11)等を研究した。
【0187】なお,TOH〔nm〕は,情報記録媒体の回転速度を徐々に下げることによってヘッドの滑空高さを小さくし,そのときヘッドに装着したピエゾ信号検出装置によりピエゾ信号の変化を検出し,信号出力が急激に立ち上がったときの回転速度から算出した。
【0188】以下,研究における測定結果を表1に示す。
【0189】
【表1】
【0202】[サンプル13]精密研磨加工工程において,100%モデュラスが11760kPa(120kg/cm2)の樹脂から作られる研磨部材,キャリアの自転の回転速度が0.1/秒(6rpm)の研磨機,および平均粒径が0.1μmで,最大粒径が1.1μmで,かつ粒径が1μm以上のものがスラリー固形分の0.1質量%である,酸化セリウムを主な成分とするスラリー固形分を用いた。このような精密研磨加工工程を実行して製造されたサンプル13の情報記録媒体は,ファインスクラッチがなく,研磨斑がなく,TOHが3.4nmだった。
【0206】[サンプル17]精密研磨加工工程において,平均粒径が0.03μmで,最大粒径が0.1μmであり,かつ粒径が1μm以上のものを含まないシリカを主な成分とするスラリー固形分を用いた以外は,サンプル16と同じ樹脂から作られる研磨部材および研磨機を用いた。このような精密研磨加工工程を実行して製造されたサンプル17の情報記録媒体は,ファインスクラッチがなく,研磨斑がなく,TOHが3.3nmだった。
【0207】[サンプル18]精密研磨加工工程において,平均粒径が0.1μmで,最大粒径が0.15μmであり,かつ粒径が1μm以上のものを含まないシリカを主な成分とするスラリー固形分を用いた以外は,サンプル16と同じ樹脂から作られる研磨部材および研磨機を用いた。このような精密研磨加工工程を実行して製造されたサンプル18の情報記録媒体は,ファインスクラッチがなく,研磨斑がなく,TOHが3.3nmだった。
【0240】以下,第4の実施例を説明する。
【0241】図1のステップS11で実行された検査工程において,第1の実施例に係る情報記録媒体のサンプル13?19および比較例7?11の1μm平方?50μm平方における円周状テクスチャー近傍の表面形状をNanoscopeIVの探針を用いて,円周方向に沿って所定の波長νの範囲が1?50μmで測定し,平均粗さRa〔nm〕を測定し,サンプルの平均粗さRa〔nm〕とTOH〔nm〕との関係,およびPSD×fの最大値〔nm2〕とTOH〔nm〕との関係について研究した。
【0242】以下,測定された結果を表4および図9に示す。
【0243】
【表4】

(2)刊行物2:特開平03-036447号公報
同じく,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である上記刊行物2には,以下の記載(下線は,注目箇所を示すために当審で施したものである。)が認められる。(〔〕は引用箇所を示す。)

(L1)〈特許請求の範囲〉〔1頁左下欄〕
2.特許請求の範囲
(1)第1制御,第2制御及び第3制御区画の順に配置され独立した3区画を有する清浄加工室であって,第1制御区画に所定のクリーン度及び温湿度に制御された空気流が導入され,第2区画には第1区画から空気流が,又第3区画には第2区画から空気流が導入されるようになされた清浄加工室。
(2)上記第2及び第3区画の任意の箇所にクリーン度及び温湿度が制御された空気流が別途に導入されるようになされた請求項(1)に記載の清浄加工室。
(3)清浄加工室を第1制御,第2制御及び第3制御の3つに区画し,第1制御区画に所定のクリーン度及び温湿度に制御された空気流を導入し,この第1区画よりその第2区画へ,又第2区画より第3区画へ順次その空気流の一部を移動せしめることを特徴とする清浄加工室制御方法。

(L2)〈利用分野,従来技術,課題〉〔2頁左上欄1行?右上欄6行)〕
〔産業上の利用分野〕
本発明は清浄加工室並びにその清浄制御方法に関し,更に詳しくは高度清浄加工を行うための極めて有効な清浄加工室並びにその利用方法に関する。
〔従来の技術〕
近年半導体関連分野,医薬,化学,その他の分野に於いて清浄加工室は必要不可欠であり,又その清浄度もより高度なものが要求されている。従来の清浄加工室は1区画から構成されており,同区画内に於いて化学的,物理的汚染を発生するような工程と超高清浄雰囲気を必要とする工程が共存しえない構造となっている。しかしながら汚染発生工程といえども通常の大気中で作業を行うのは好ましくなく一般に清浄加工室で作業するために他の工程への汚染が大きな問題となる。汚染を避けるために汚染発生工程の内の一部工程のみを清浄加工室内で行い,その他の極力他工程への汚染の影響の少ない工程のみを清浄加工室で行う場合に於いても清浄加工室への,物,人の出入りが頻繁となり作業が煩雑となる。
〔発明が解決しようとする課題]
本発明が解決しようとする課題は,汚染を発生する工程と超高清浄雰囲気を必要とする工程を同一清浄加工室内に於いて合理的,且つ機能的に進行しうる清浄加工室を開発することである。

(L3)〈解決手段〉〔2頁右上欄7行?左下欄末行〕
〔課題を解決するための手段〕
この課題は同一清浄加工室を3つの区画に分け原則的には各区画を各々独立した形態となし,各区画を垂直下向方式のエアーカーテン,隔壁,カーテン等適宜な手段で隔離し第1区画に所定のクリーン度及び温湿度に制御された空気流を導入し,この空気流を該区画内に常時存在せしめると共に,その一部を第2区画に移動せしめ,同第2区画内では第1区画内よりも低いクリーン度及び広い温湿度領域となるように制御して,常時存在せしめ,次いで第2区画より第3区画に空気流を移動せしめ,第2区画内よりも更に低いクリーン度と更に広い温湿度領域を有する空気流を存在せしめると共にこれをドラフト等適宜な手段で排出するようになし,加えて被加工物は第3区画から第1区画に向かって順次移送せしめるようになすことにより解決される。
又必要に応じ第2区画及び第3区画の任意の箇所には順次導入される空気流とは別途に所定のクリーン度及び温湿度が制御された空気流を別途に導入することもでき,これにより完全に所定のクリーン度及び温湿度に制御できる。
更に若干説明すると,上記の如くすることにより同一清浄加工室内で汚染発生の工程と超清浄工程を合理的,且つ機能的に併進しうる構造を見出した。このような構造を採ることにより一連の工程を短時間に且つ汚染皆無の状態で完結しうる。
即ち化学工程等の場合合成時に粉塵,有害ガス等が多量に発生するが,まずこの工程は3区画の第3区画たる最下流部で行う,この区画はドラフト機構を備えており粉塵,有害ガスの発生も何等他の区画に影響はない。合成終了後は第2,第1区画に移動し次の工程の処理を行うことができ,合理的な作業が可能である。

(L4)〈構成,作用〉〔2頁右下欄1行?3頁左下欄1行〕
〔発明の構成並びに作用〕
本発明をその構成を模擬的に示した説明図を用いて説明する。
第1図は3区画から構成された清浄加工室を示す,101は所定のクリーン度及び温湿度に制御された空気流を導入し,常時循環して存在せしめると共に一定量を次の第2区画に供給せしめる第1区画(以下粒子制御区画ということがある)である,102は温湿度に制御された空気流を常時循環せしめると共に一定量を次の第3区画へ供給せしめる第2区画(以下温湿度制御区画ということがある)である。又103は汚染空気流の排除を行わしめる第3区画(以下汚染排除制御区画ということがある)である,そして被加工物は原則的には,第3区画から順次第2,第1区画へと空気流と対向方向に移動せしめられる。
上流超高清浄区画に外部より粒子制御された空気流を供給することにより気流方向は常に101より103側へ維持しうる。従って気流の上流側は超高清浄雰囲気を確保できる構造である。又第2及び第3区画内の任意の箇所にクリーン度及び温湿度の制御された空気流をエアーカーテン,カーテン等の適宜な手段で送風することにより,この区画内で部分的に高清浄雰囲気を確保する構造である。上記加工室に於いて化学的,物理的汚染を発生する工程を行う場合先ず汚染発生工程を103の一次加工室で行い,次に加工物を102の二次加工室に移動し中間仕上げ工程を行う,最後に加工物を103の三次加工室に移動し最終仕上げ工程を行う。通常の加工工程は複雑な工程が殆どであり,汚染発生工程又は中間仕上げ工程の場合に於いても作業の内容により粒子制御区画での作業の先行を必要とすることがある。必然的に汚染発生区画と粒子制御区画間の物,人の移動が頻繁となるがこのように気流と加工物の移動方向を向流にすることにより清浄気流中で加工する必要のある汚染発生工程を含む加工工程を機能的,且つ合理的に完結しうるものである。
本発明に於いて,第2区画及び第3区画に供給する空気流,及び第1区画に供給する空気流のクリーン度,温度及び湿度を示せば下記の通りである。

各区画を仕切る隔壁は各区画が独立して又所定の空気流が循環しうる構造であるかぎり何等限定されず,各種の手段が採用でき,好ましい例としてエアーカーテン,隔壁,カーテン等を例示できる。又各区間に示した順次次の区間に空気流を一時移送する手段としても目的が達成できる手段でよい,第3区画に於いては汚染された空気流をドラフトを介して排出するが,この際のドラフトの形態も何等限定されない,被加工物の移送手段としても被加工物を第3区画から順次第2,第1区画に移送しうる手段であれば良い。

[3]刊行物1に記載された発明(以下,「引用発明」という。)

ア 概要
前掲(K1)?(K4)によれば,刊行物1は,ランプロード方式のハードディスクにも用いるガラス基板を対象にしたものと想定され,
そこには,高精度な研磨加工を施して表面を平坦平滑にして,ヘッドの滑空高さが低くてもヘッドとディスクの接触によるヘッドクラッシュやサーマルアスペリティーの発生を抑制しようとするものであって,
特定の研磨部材により研磨することで,HDDにおける磁気ヘッドの飛行の障害となるウネリを低減し,TOHを低くすることができる情報記録媒体用ガラス基板の製造方法が認められる。
ここに,特定の研磨部材は,100%モデュラスが7840?24500kPa(80?250kg/cm2)である樹脂を加工した研磨部材であり(請求項9,【0048】),
TOH(テイク・オフ・ハイト)とは,「最低浮上高さ」であり,CSS方式またはランプロード方式においては,ハードディスクが回転中であるときは,磁気ヘッドがTOHをもってその情報記録領域上を滑空するものであるとされる(【0008】)。

イ 製造方法
上記ガラス基板の製造方法の具体は,実施の形態,実施例に示され,以下のようである。

イ-1 実施の形態{前掲(K5)}
ガラス基板は図1の製造工程,すなわち,母材ガラス選択工程(ステップS1),シート状ガラス生産工程(ステップS2),ワーク抜出工程(ステップS3),端面研磨加工工程(ステップS4),ラッピング加工工程(ステップS5),一次研磨加工工程(ステップS6),精密研磨加工工程(ステップS7),化学強化処理工程(ステップS8),スクラブ処理工程(ステップS9)で製造される(摘示はしていない)。
前掲(K5)によれば,ステップS6の一次研磨加工工程は,ラッピング加工工程を施した際に,ワーク表面に生じた凹凸の表面粗さを改善し,かつクラックや傷等を除去するためのもので,研磨剤として平均粒径が1.5μm程度のランタノイド酸化物(酸化セリウムおよび酸化ランタンなど)を含有するスラリーと発泡ウレタン系樹脂の研磨パッドを用いて行われる。(【0099】)
次の工程であるステップS7の二次研磨加工工程は,精密研磨加工を施す工程であって,ここで,表面が上記特定の研磨部材である研磨パッド(段落【0103】)が用いられる。
研磨液としては,研磨剤としての酸化セリウムおよび/または酸化ランタンを含有するランタノイド酸化物系スラリー,または微粒子状のシリカを含有するシリカ系スラリーが用いられ,
前者(ランタノイド酸化物系スラリー)では,平均粒径を0.1?1.6μm(最大粒径が3μm以下,粒径が1?3μm程度のものの含有量が研磨剤の固形分質量の10%以下)のものが,後者(シリカ系スラリー)では平均粒径0.03?0.5μmのものが用いられる(【0113】【0114】)。

イ-2 実施例{前掲(K6)}
前掲(K6)によれば,実施例でも上記と同様図1の製造法にしたがい,サンプル1?19(比較例は比較例1?11)が製造され,
その製造工程中,
一次研磨加工工程(ステップS6)では,平均粒径が0.05?1.6μmの酸化セリウムおよび酸化ランタンを含有するランタノイド酸化物系スラリーと,発泡ウレタン系樹脂からなる研磨パッドを用いる(【0174】)とされる(実施の形態で,平均粒径が1.5μm程度とするのと異なっている)。
精密研磨加工工程(ステップS7)では,上記特定の研磨部材を用いたスウェードタイプの研磨パッドを用い(【0176】),研磨材・粒径等を変化させて,表1に示す条件で上記サンプル1?19とした。
このうち,サンプル13,17,18について,表1と表4と併せ,結果と共に示せば以下のとおりである。

サンプル 研磨材主成分 平均粒径 最大粒径 粒径1μm以上%
13 酸化セリウム 0.1μm 1.1μm 0.1%
17 シリカ 0.03μm 0.1μm 0%
18 シリカ 0.1μm 0.15μm 0%
サンプル TOH Ra 研磨部材の樹脂硬さ
13 3.4nm 0.37nm 11760kPa
17 3.3nm 0.21nm 19800kPa
18 3.3nm 0.25nm 19800kPa

ウ 引用発明
以上を総合すれば,引用発明として,下記の発明を認めることができる(便宜上,p?s2に分説しておく)。

記(引用発明)
p :ランプロード方式のハードディスクに用いるガラス基板を高精度な研磨加工を施して表面を平坦平滑にして,ヘッドの滑空高さが低くてもヘッドとディスクの接触によるヘッドクラッシュやサーマルアスペリティーの発生を抑制しようとするものであって,
q :特定の研磨部材により研磨することで,HDDにおける磁気ヘッドの飛行の障害となるウネリを低減し,TOHを低くすることができる情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であって,
但し,
q1:特定の研磨部材:100%モデュラスが7840?24500kPa(80?250kg/cm2)である樹脂を加工した研磨部材,
q2:TOH(テイク・オフ・ハイト):「最低浮上高さ」であり,ランプロード方式においては,ハードディスクが回転中であるときは,磁気ヘッドがTOHをもってその情報記録領域上を滑空するもの

r :ガラス基板の製造方法は,ラッピング加工工程を施した際に,ワーク表面に生じた凹凸の表面粗さを改善し,かつクラックや傷等を除去するための一次研磨加工工程(ステップS6)と,その次の精密研磨加工を施す二次研磨加工工程(ステップS7)とを含み,
r1:一次研磨加工工程では,
研磨剤として,平均粒径が1.5μm程度のランタノイド酸化物(酸化セリウムおよび酸化ランタンなど)を含有するスラリーと,発泡ウレタン系樹脂の研磨パッドを用いて行われ,
r2:二次研磨加工工程(精密研磨加工工程)では,
研磨液としては,研磨剤として,平均粒径を0.1?1.6μm(最大粒径が3μm以下,粒径が1?3μm程度のものの含有量が研磨剤の固形分質量の10%以下)のランタノイド酸化物系スラリー,または,平均粒径0.03?0.5μmのシリカ系スラリー)と,表面が上記特定の研磨部材である研磨パッドを用いて行われる,製造方法であって,
s :実施例として,
s1:一次研磨加工工程で,平均粒径が0.05?1.6μmの酸化セリウムおよび酸化ランタンを含有するランタノイド酸化物系スラリーと,発泡ウレタン系樹脂からなる研磨パッドを用い,
s2:二次研磨加工工程(精密研磨加工工程)で,上記特定の研磨部材を用いたスウェードタイプの研磨パッドと,次の研磨材を用いて製造し,以下のサンプル13,17,18を得る,製造方法。

サンプル 研磨材主成分 平均粒径 最大粒径 粒径1μm以上%
13 酸化セリウム 0.1μm 1.1μm 0.1%
17 シリカ 0.03μm 0.1μm 0%
18 シリカ 0.1μm 0.15μm 0%
サンプル TOH Ra 研磨部材の樹脂硬さ
13 3.4nm 0.37nm 11760kPa
17 3.3nm 0.21nm 19800kPa
18 3.3nm 0.25nm 19800kPa

[4]補正後発明と引用発明との対比(対応関係)

ア 要件Aについて
A「ロードアンロード方式であり,かつ,ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられ,主表面の算術平均粗さRaが0.4nm以下である磁気ディスク用ガラス基板の製造方法」

〈「ロードアンロード方式であ」る「磁気ディスク用ガラス基板の製造方法」の点〉
要件Aでいう「ロードアンロード方式」とは,別名「ランプロード方式」ともいう(本願明細書の段落【0005】)方式であるから,引用発明のp「ランプロード方式」と同じものである。
したがって,引用発明は,要件Aでいう「ロードアンロード方式であ」る「ハードディスクに用いるガラス基板」といえ,上記の点において,補正後発明と一致する。

〈「主表面の算術平均粗さRaが0.4nm以下」(である磁気ディスク用ガラス基板)の点〉
引用発明も,s(実施例)のサンプル13,17,18で 「主表面の算術平均粗さRaが0.4nm以下」のガラス基板が製造されているといえるから,上記の点においても,補正後発明と相違しない。

〈「ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられ」(る磁気ディスク用ガラス基板)の点〉
引用発明{s(実施例)}のサンプル13,17,18のTOHは,3.3nm,3.4nmであるから,引用発明は,TOHが3.4nm程度の磁気ディスクに用いられるものである。
ここに,TOH(テイク・オフ・ハイト)とは,「ランプロード方式においては,ハードディスクが回転中であるときは,磁気ヘッドがTOHをもってその情報記録領域上を滑空するもの」(引用発明のq2)とされていることからすれば,3.4nm程度の高さをもって情報記録領域上を滑空する,そのときの「ヘッド浮上量」は3.4nm程度であるから「ヘッド浮上量が10nm以下」ということができる。
もっとも,「TOH」は,段落【0187】において「情報記録媒体の回転速度を徐々に下げることによってヘッドの滑空高さを小さくし,そのときヘッドに装着したピエゾ信号検出装置によりピエゾ信号の変化を検出し,信号出力が急激に立ち上がったときの回転速度から算出した。」と説明され,
また,「TOH」は「最低浮上高さ」である(引用発明のq2)ともしていて,これは「ヘッド浮上量」の最低高さを意味すると考えられる。
これらのことからすれば,「TOHが3.4nm程度」とは,
それ以下では浮上せずそれ以上では浮上状態を維持するヘッドの浮上量(浮上高さ)の下限値が3.4nm程度であること,すなわち,「浮上が維持できる浮上量の下限が3.4nm程度」であること,と解される。
一方,本願明細書には「ヘッド浮上量」についての特段の説明はない。
そうすると,「浮上が維持できる浮上量の下限が3.4nm程度」であるから,「ヘッド浮上量が10nm以下」を満たすことが十分可能である,ということができる。
もっとも,「浮上が維持できる浮上量の下限が3.4nm程度の磁気ディスクに用いられる」ことと,「ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられる」こと,が全く同じとはいえず,両者間には相違が存在する。

〈まとめ〉
補正後発明と引用発明は,
A’「ロードアンロード方式であり,磁気ディスクに用いられ,主表面の算術平均粗さRaが0.4nm以下である磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって,」とする点で一致し,
磁気ディスク用ガラス基板が,
補正後発明では,,「ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられ」とするのに対して,
引用発明では,TOH(浮上が維持できる浮上量の下限)が3.4nm程度の磁気ディスクに用いられ,とするものであって,「ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられ」とはしていない点,
で相違する。

イ B0,B1,B2について

イ-1 B0「複数の工程を経由して製造され」について
引用発明も,r「ガラス基板の製造方法は,ラッピング加工工程を施した際に,ワーク表面に生じた凹凸の表面粗さを改善し,かつクラックや傷等を除去するための一次研磨加工工程(ステップS6)と,その次の精密研磨加工を施す二次研磨加工工程(ステップS7)とを含み」とするから,「複数の工程を経由して製造され」とする点で,補正後発明と一致する。

イ-2 B1「前記複数の工程を,互いに区画された複数の区域内において実施し」について
引用発明では,上記「一次研磨加工工程」と「二次研磨加工工程」が,「互いに区画された複数の区域内において実施し」とはしておらず,要件B1を満たさず,この点,補正後発明と相違する。

イ-3 B2「前記複数の工程は,研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程と,この粗研磨工程の後に実施され,前記粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いて前記ガラス基板を研磨する精研磨工程とを含み,」について

引用発明の「一次研磨加工工程」は,r「ラッピング加工工程を施した際に,ワーク表面に生じた凹凸の表面粗さを改善し,かつクラックや傷等を除去するための」工程であって,次に「精密研磨加工を施す二次研磨加工工程」が続くものであるから,「精研磨工程」に対比して「粗研磨工程」ということができ,また,r1,s1から「研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程」といい得る工程である。
また,引用発明の「二次研磨加工工程」である「精密研磨加工工程」は,「精研磨工程」とも称し得るものであり,また,r2,s2から「この粗研磨工程の後に実施され」,「研磨液と研磨パッドとを用いて前記ガラス基板を研磨する精研磨工程」といい得る工程である。

「精研磨工程」で使用される研磨液が,「前記粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を含む研磨液」であるとする点について
引用発明の二次研磨加工工程(精密研磨加工工程)で使用する研磨材は, ○サンプル13:主成分が酸化セリウムで,平均粒径0.1μm,最大粒径1.1μm,粒径1μm以上割合0.1%,
○サンプル17:主成分がシリカで,平均粒径:0.03μm,最大粒径0.1μm,粒径1μm以上割合が0%,
○サンプル18:主成分がシリカで,平均粒径:0.1μm,最大粒径0.15μm,粒径1μm以上割合が0%,
であって,平均粒径が0.1?0.03μmであるのに対して,
一次研磨加工工程(補正後発明でいう「粗研磨工程」)で使用する研磨剤は,r1で平均粒径が1.5μm程度のランタノイド酸化物(酸化セリウムおよび酸化ランタン)としている
{なお,s1(実施例)では,サンプルを製造する実施例であるにもかかわらず,平均粒径が0.05?1.6μmとその範囲のみを特定し,サンプル製造時には特定の一であるはずの平均粒径の具体値を特定しておらず不明瞭・不自然である(「粒径が0.05?1.6μmの誤りかもしれない)のに対し,r1では平均粒径が1.5μm程度と明記・規定されていることから,具体値としてこの値を想定し採用した。}
ことから,
二次研磨加工工程(精密研磨加工工程)で使用される研磨液には,一次研磨加工工程(「粗研磨工程」)にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を含んでいる,と普通に想定される。

また,一般に,二次研磨加工工程(精密研磨加工工程)で使用される研磨液に,一次研磨加工工程(「粗研磨工程」)にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を含むようにすることが周知技術にすぎない{例えば,特開2001-250226号公報(段落【0059】【0060】,「後記[6](2-2)相違点2について」に摘示した。),特開2000-348338号公報(段落【0065】?【0069】等),特開2002-352422号公報(段落【0038】),国際特許公開2005/005099(段落【0152】)}ことからも,平均粒径の関係が上記のようであると普通に想定される。

イ-4 まとめ
補正後発明と引用発明は,
B0「複数の工程を経由して製造され,」
B2「前記複数の工程は,研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程と,この粗研磨工程の後に実施され,前記粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いて前記ガラス基板を研磨する精研磨工程とを含み,」とする点で一致し,
補正後発明が,B1「前記複数の工程(粗研磨工程と精研磨工程)を,互いに区画された複数の区域内において実施し」とするのに対して,
引用発明では,そのようにする,とはしていない点
で相違する。

ウ 要件Cについて
引用発明は,C「該製造工程により製造される磁気ディスク用ガラス基板を用いた磁気ディスクにおけるサーマルアスペリティ障害を抑止すべく,前記粗研磨工程における発塵が,前記精研磨工程を実施する区域に流入することを阻止するように,前記複数の区域のうち,前記精研磨工程を行う区域においては,前記粗研磨工程が実施される区域へ向けた気流が生じている」とはしておらず,この点,補正後発明と相違する。

[5]一致点,相違点
以上の対比結果によれば,補正後発明1と引用発明との一致点,相違点は次のとおりであることが認められる。

[一致点]
A’:ロードアンロード方式であり,磁気ディスクに用いられ,主表面の算術平均粗さRaが0.4nm以下である磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって,
B0:複数の工程を経由して製造され,
B2:前記複数の工程は,研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いてガラス基板を研磨する粗研磨工程と,この粗研磨工程の後に実施され,前記粗研磨工程にて使用される研磨砥粒よりも粒子径の小さな研磨砥粒を含む研磨液と研磨パッドとを用いて前記ガラス基板を研磨する精研磨工程とを含み,
A :ことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。

〔相違点〕

〔相違点1〕
磁気ディスク用ガラス基板が
補正後発明が,「ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられ」とするのに対して,
引用発明では,TOH(浮上が維持できる浮上量の下限)が3.4nm程度の磁気ディスクに用いられ,とするものであって,「ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられ」とはしていない点

〔相違点2〕
補正後発明1では,
B1:前記複数の工程を,互いに区画された複数の区域内において実施し,
C :該製造工程により製造される磁気ディスク用ガラス基板を用いた磁気ディスクにおけるサーマルアスペリティ障害を抑止すべく,前記粗研磨工程における発塵が,前記精研磨工程を実施する区域に流入することを阻止するように,前記複数の区域のうち,前記精研磨工程を行う区域においては,前記粗研磨工程が実施される区域へ向けた気流が生じている
とするのに対して,
引用発明では,そのようにする,とはしていない点。

[6]相違点等の判断

(1)[相違点の克服]
引用発明を出発点とし,
〈相違点1の克服〉
引用発明の磁気ディスク用ガラス基板{TOH(浮上が維持できる浮上量の下限)が3.4nm程度の磁気ディスクに用いられる磁気ディスク用ガラス基板}が,
「ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられ」とすること(以下,[相違点1の克服]という)で上記〔相違点1〕は克服され,

〈相違点2の克服〉
引用発明の粗研磨工程と精研磨工程を,
・「互いに区画された複数の区域内において実施し」とし,
(このようにすることで,B1の「前記複数の工程を,互いに区画された複数の区域内において実施し」となる)
・「該製造工程により製造される磁気ディスク用ガラス基板を用いた磁気ディスクにおけるサーマルアスペリティ障害を抑止すべく,前記粗研磨工程における発塵が,前記精研磨工程を実施する区域に流入することを阻止するように,前記複数の区域のうち,前記精研磨工程を行う区域においては,前記粗研磨工程が実施される区域へ向けた気流が生じている」
とすること(以下,[相違点2の克服〕という)で,上記〔相違点2〕は克服され,補正後発明に到達する。

(2)相違点についての判断(〔相違点の克服〕の容易想到性)

(2-1)相違点1について
引用発明の磁気ディスク用ガラス基板は,浮上が維持できる浮上量の下限が3.4nm程度の磁気ディスクに用いられるであるから,
それに接した当業者であれば,それより高い範囲を含む「10nm以下の浮上量」の磁気ディスクに適用することを容易に想到するというべきである。
また,最低浮上高さ3.4nmと10nmとの差が6.6nm程度あることからみても,ヘッド浮上量が10nm以下のディスクに用いることを容易に想到するというべきである。
また,ヘッド浮上量を10nm以下とする磁気ディスクは周知であり
{例えば,特開2002-150505号公報(請求項5),
特開2002-230739号公報(段落【0046】等),
特開2003-123232号公報(段落【0023】等),
特開2003-132529号公報(段落【0021】等),
特開2004-345018号公報(段落【0076】等),
特開2005- 11498号公報(段落【0034】等),
特開2005-141824号公報(段落【0025】等,平成23年11月10日付け拒絶理由通知で引用された引用文献1に同じ),
特開2005-141852号公報(段落【0009】【0043】【0044】等,グライドハイト3.4nmのディスクをヘッド浮上量を10nmとしている),
特開2005-149668号公報(段落【0059】等),
国際特許公開2005/068589(段落【0032】等)},
このことからみても,「ヘッド浮上量が10nm以下のディスクに用いられ」とすることを容易に想到するというべきである。
以上,上記[相違点1の克服],すなわち,引用発明の磁気ディスク用ガラス基板が「ヘッド浮上量が10nm以下の磁気ディスクに用いられ」とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

(2-2)相違点2について

ア 周知技術・技術常識
表面平滑性に優れ(表面粗さがRa≦0.2nm,Ra≦0.3nm程度に小さい),凸凹欠陥のない,ロードアンロード用ハードディスクのガラス基板を製造するのに,
基板表面を平滑化する研磨工程に発塵性があること等から,発塵性がある研磨工程をも含むこれ以降の工程で空気中に浮遊しているパーティクルが基板材料へ付着するのを防止できるようにするため,
・発塵性がある研磨工程を含むこれ以降の複数の工程を,クリーンルームで行い,工程が進むにつれてクリーン度が高くなるように,後の工程でのクリーン度が前の工程のクリーン度より高いクリーン度とした各別のクリーンルーム環境区域に被研磨ディスクを搬送して実施するようにすること
・粗研磨工程(例えば,酸化セリウム;平均粒径1.3μmを用いる)とその次に行われる精研磨工程(例えば,酸化セリウム;平均粒径0.8μmやシリカ;平均粒径0.1μmを用いる)を研磨工程毎に清浄度を設定する,すなわち,精研磨工程は,粗研磨工程が実施されるクリーン環境区域よりもクリーン度の高い環境区域に被研磨ディスクを搬送して実施するようにすること
は,本願出願前,よく知られた普通の技術である。

これには,特開2001-250226号公報が参照される。同公報は,本願明細書中で従来例として挙げているもので,前置報告でも示されたものであり,下記に摘示する。(ちなみに,同公報は,本願の原出願の拒絶の理由にも示されている。)
上記のように「各別のクリーンルーム環境区域に被研磨基板を搬送して実施」,「環境区域に搬送して」実施しているとしたのは,例えば,同公報の段落【0007】「各製造工程間では,ディスクは複数枚単位に収納するディスクケースで搬送される」,【0023】「前工程で使用されれディスクケースに付着したパーティクルを次工程に持ち込むことがない」,【0049】「次に第1研磨工程で使用したものと同じタイプの両面研磨装置を用い」等の記載によるものである。 また,第1研磨工程,第2研磨工程が,「粗研磨工程」「精研磨工程」といい得ることは,段落【0049】等の記載から明らかである。

そして,ガラス基板に付着したパーティクルやゴミ,研磨残り等が低フライングハイト化を阻害するヘッドクラッシュやサーマルアスペリティの原因となることは技術常識である{例えば,特開平10-194785号公報(要約,【0006】等),特開2000-348338号公報(「研磨残り」,【0006】等)等参照。}ことから,上記技術は,サーマルアスペリティ防止のための技術と当業者に普通に理解される。

記(周知例:特開2001-250226号公報,
注目箇所を下線で示す。)
【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板材料から研削工程及び研磨工程を含む製造工程により情報記録媒体用基板を製造する情報記録媒体用基板の製造方法において,
研削工程を大気中で行い,研磨工程及びそれ以降の工程をクリーンルームで行なう情報記録媒体用基板の製造方法。
【請求項11】 前記情報記録媒体用基板の表面粗さは,Rmax≦3nm,Ra≦0.3nmである請求項1?10のいずれか1項記載の情報記録媒体用基板の製造方法。

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は情報記録媒体用基板の製造方法及び情報記録媒体の製造方法に係り,特にハードディスク,光ディスク,光磁気ディスクといった情報記録媒体用の基板の製造方法及びこれを用いた情報記録媒体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】現在,ハードディスク,光ディスク等の記録媒体やこのような記録媒体用の基板としてはディスクが広く用いられている。このようなディスクは,高記録密度化に伴い,その表面平滑性を確保することが要請されている。
【0003】ディスクは,一般に,形状加工工程,研削工程,研磨工程,最終検査工程を経て製造される。ディスクの表面の平滑性は,主に研磨工程で使用する研磨パッド,研磨砥粒の種類や粒径を選定することによって所望な表面に仕上げられている。しかし,いまや研磨条件だけでは,所望なディスク表面の平滑性を得られない状況になり,製造工程における環境が問題視されるようになった。例えば,特開平9-288820号には,最終仕上研磨後に実施される成膜工程までの間に基板が大気中にさらされず,基板に大気中のごみ等が付着することのないように,最終仕上研磨を所定クリーン度のクリーンルーム内で研磨テープを用いて水溶液で洗い流しながら行う磁気記録媒体用基板の製造方法が記載されている。
【0004】また,特開平10-194785には,最終研磨工程以後の清浄工程,化学強化工程,化学強化処理液の洗浄工程,乾燥工程,検査工程,収納工程のなかの少なくとも一工程を,ガラス基板にパーティクルが付着しないように,クリーンルーム内で行う情報記録媒体用ガラス基板の製造方法が記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】これらの製造方法はいずれも最終研磨工程や最終研磨工程以後の工程における製造環境を問題としている。しかし,これらの対策を講じてもなお,ディスク表面に微小な欠陥(凸状の欠陥や凹状の欠陥)が発生し,高密度記録化に適用できる情報記録媒体用基板が得られないという問題があった。その原因を究明した結果,今まで問題視されていなかった最終研磨工程の前の研磨工程等での製造環境に原因があることが分かった。即ち,今までは研磨工程で使用する両面研磨装置は,発塵性がある等の理由からクリーンルーム外に置かれ,最終研磨工程前の研磨工程は大気中で行われていた。
【0006】また,このような研磨工程で使用する研磨液としては,酸化セリウムやコロイダルシリカの研磨砥粒と水道水を混合した研磨液を使用していた。しかし,大気中に浮遊している微小なパーティクル(例えば,アルミ,鉄,鉛,クロム,銅等)や,研磨液で使用されている水道水に含まれる微小なパーティクル(例えば,銅,鉄,鉛等)が研磨パッドとディスクとの間に介在してディスク表面に傷を与えたり,また,ディスクの搬送時にディスク表面に付着したパーティクルとディスクを収納,搬送するためのディスクケースが接触してディスク表面に傷を与えたりすることがあった。さらに,洗浄不良によってディスク表面にパーティクルが残存し,このパーティクルが例えば化学強化工程における熱処理によってディスクに強固に付着して平滑性を悪化させることが明らかになった。
【0007】また,上記各製造工程間では,ディスクは複数枚単位に収納するディスクケースで搬送される。しかし,全ての工程で共通のディスクケースを使用すると,前工程でディスクケースに付着した異物を後工程に持ち込むことになり,ディスクの平滑性を悪化させる原因となる。特に,ディスク表面の平滑性を問題としない大気中で行われる研削工程からクリーンルーム内で行われる研磨工程へディスクを搬送するのに共通のディスクケースを使用すると,たとえ研磨工程前にディスクケースを洗浄処理したとしても,異物を持ち込んでしまうおそれがある。本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり,平滑性の高い情報記録媒体用基板の製造方法及びこれを用いた情報記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため,本発明は以下の構成を有する。請求項1の発明は,基板材料から研削工程及び研磨工程を含む製造工程により情報記録媒体用基板を製造する情報記録媒体用基板の製造方法において,研削工程を大気中で行い,研磨工程及びそれ以降の工程をクリーンルームで行なう情報記録媒体用基板の製造方法である。
【0009】本発明における研磨工程は基板表面の平滑性の向上を目的とするものであり,この工程で空気中に浮遊しているパーティクルが基板へ付着するのを防止することにより,基板表面の傷の発生を防止することができる。本発明によれば,基板表面に発生する欠陥,特に凹欠陥の発生率を低減することができる。本発明において,研磨工程は基板の主表面を研磨する主表面研磨工程,基板の端面を研磨する端面研磨工程を含む。
【0010】請求項2の発明は,基板材料から研削工程,形状加工工程,研磨工程,化学強化工程及び検査工程を含む工程により情報記録媒体用基板を製造する情報記録媒体用基板の製造方法において,研削工程と形状加工工程を大気中で行い,研磨工程から検査工程までをクリーンルーム中で行なう情報記録媒体用基板の製造方法である。本発明によれば,研磨工程,化学強化工程,検査工程をクリーンルーム中で行なうことにより,研磨工程で発生する凹欠陥,化学強化工程で基板に異物が付着することにより発生する凸欠陥,検査工程で発生する凸欠陥の発生率を低減することができる。
【0022】本発明では,例えば,基板の平坦度と形状精度を向上と目的とした研削工程及び基板の端部形状の作り込みを行なう形状加工工程については大気中で行ない,研磨工程以降の工程をクリーンルームで行ない,さらに,研磨工程(端面研磨工程,主表面の研磨工程を含む),化学強化工程,検査工程をそれぞれ一つの製造環境とし,クラス100000,クラス10000,クラス1000の環境下で行なうことにより実施することができる。さらに,研磨工程を端面研磨工程と主表面の研磨工程と分離し,それぞれクラス500000,クラス100000としたり,主表面の研磨工程を複数の研磨工程で行なう場合は,さらに研磨工程毎に清浄度を設定することができる。上述と同様,研磨工程,形状加工工程もクリーンルームで行なっても良い。
【0023】請求項10の発明は,工程単位毎に基板を収納するディスクケースを異ならせる請求項9記載の情報記録媒体用基板の製造方法である。本発明によれば,前工程で使用されれディスクケースに付着したパーティクルを次工程に持ち込むことがないので,欠陥を防止することができる。この場合,ディスクケースを使用される環境を表示する色で着色したり,材質を異ならせたりすることで,前工程からのパーティクルの持ち込みを確実に防止することができる。
【0033】請求項11の発明は,前記情報記録媒体用基板の表面粗さは,Rmax≦3nm,Ra≦0.3nmである請求項1?10のいずれか1項記載の情報記録媒体用基板の製造方法である。本発明によれば,表面平滑性の高い基板であって欠陥(凹欠陥,凸欠陥)のない基板を提供することが可能になる。さらに,情報記録媒体用基板の表面粗さは,Rmax≦2nm,Ra≦0.2nmとすることが望ましい。
【0039】
【実施例】以下,本発明の実施例について説明するが,本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕本実施例では,磁気ディスク(ハードディスク)用ガラス基板を製造し,さらに,このガラス基板を用いて磁気ディスクを製造した。本実施例の方法は,(1)粗ラッピング工程(粗研削工程),(2)形状加工工程,(3)精ラッピング工程(精研削工程),(4)端面鏡面加工工程,(5)第1研磨工程,(6)第2研磨工程,(7)化学強化工程,(8)検査工程,(9)磁気ディスク製造工程を含む。
【0040】本実施例では,(1)粗ラッピング工程から(3)精ラッピング工程までを大気中にて行ない,(4)端面鏡面加工工程から(6)第2研磨工程までを第1クリーン環境で実施し,(7)化学強化工程を第2クリーン環境で,(8)検査工程を第3クリーン環境で,(9)磁気ディスク製造工程を第4クリーン環境にて実施した。それぞれのクリーン環境は,清浄度を,クラス100000(第1クリーン環境),クラス10000(第2クリーン環境),クラス1000(第3クリーン環境),クラス100(第4クリーン環境)とし,クリーンルーム内の濾過した空気を循環させていた環境とした。
【0041】また,上記(4)端面鏡面加工工程から(6)第2研磨工程までの研磨装置に使用する研磨液の水は,RO水を使用した。なお,製造環境毎(第1,2,3,4クリーン環境)にディスク(基板)を収納するディスクケースとしてそれぞれ違った色に着色されたディスクケースを用いた。
・・・(中略)・・・
【0047】(5)第1研磨工程
次に,上述したラッピング工程で残留した傷や歪みの除去するため第1研磨工程を両面研磨装置を用いて行なった。両面研磨装置においては,研磨パッドが貼り付けられた上下上盤の間にキャリアにより保持したガラス基板を密着させ,このキャリアをサンギアとインターナルギアとに噛合させ,上記ガラス基板を上下定番によって挟圧する。その後,研磨パッドとガラス基板の研磨面との間に研磨液を供給して回転させることによって,ガラス基板が定盤上で自転しながら公転して両面を同時に研磨加工するものである。以下,実施例で使用する両面研磨装置としては同一装置を用いた。
【0048】具体的には,ポリシャとして硬質ポリシャ(硬質発泡ウレタン)を用い,研磨工程を実施した。研磨条件は,研磨液として酸化セリウム(平均粒径1.3μm)+RO水とし,荷重:100g/cm2,研磨時間:15分とした。上記第1研磨工程を終えたガラス基板を,中性洗剤,純水,純水,IPA,IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して,超音波洗浄し,乾燥した。
【0049】(6)第2研磨工程
次に第1研磨工程で使用したものと同じタイプの両面研磨装置を用い,ポリシャを軟質ポリシャ(スウェードパット)に変えて,第2研磨工程を実施した。この第2研磨工程は,上述した第1研磨工程で得られた平坦な表面を維持しつつ,例えば表面粗さRaを1.0?0.3μm程度以下まで低減させることを目的とするものである。研磨条件は,研磨液として酸化セリウム(平均粒径0.8μm)+RO水とし,荷重:100g/cm2,研磨時間を5分とした。上記第2研磨工程を終えたガラス基板を,中性洗剤,純水,純水,IPA,IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して,超音波洗浄し,乾燥した。
【0054】〔実施例2〕実施例1におけるアルミノシリケートガラスの代わりに,SiO2:35?65モル%,・・・(中略)・・・ガラスを結晶化処理させ,主結晶がエンスタタイト及び/又はその固溶体である結晶化ガラス基板を用いた。尚,磁気ディスク用ガラス基板の製造工程は,(1)円盤状ガラス基板素材製造工程,(2)結晶化ガラス製造工程,(3)形状加工工程,(4)ラッピング工程(研削工程),(5)端面鏡面加工工程,(6)第1研磨工程,(7)第2研磨工程,(8)検査工程,(9)磁気ディスク製造工程からなる。実施例1との相違点は,各工程毎に異なるクリーン環境で実施したことである。具体的には,上記(1)円盤状ガラス基板素材製造工程から(4)ラッピング工程までを大気中にて行ない(5)端面鏡面加工工程を第1クリーン環境で実施し,(6)第1研磨工程を第2クリーン環境で実施し,(7)第2研磨工程を第3クリーン環境で実施し,(8)検査工程を第4クリーン環境で,(9)磁気ディスク製造工程を第5クリーン環境にて実施した。それぞれのクリーン環境は,清浄度を,クラス500000(第1クリーン環境),クラス100000(第2クリーン環境),クラス50000(第3クリーン環境),クラス1000(第4クリーン環境),クラス100(第5クリーン環境)とし,クリーンルーム内の濾過した空気を循環させた。また,上記(4)端面鏡面加工工程から(6)第2研磨工程までの研磨装置に使用する研磨液の水として,RO水を利用した。
・・・(中略)・・・
【0059】(5)第1研磨工程
次に,第1研磨工程を両面研磨装置を用いて行なった。詳しくは,ポリシャとして硬質ポリシャ(硬質発砲ウレタン)を用い,研磨工程を実施した。研磨条件は,研磨液として酸化セリウム(平均粒径1.3μm)+RO水とし,荷重:120g/cm2,研磨時間:60分とした。上記第1研磨工程を終えたガラス基板を,中性洗剤,純水,純水,IPA,IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して,超音波洗浄し乾燥した。
【0060】(6)第2研磨工程
次に第1研磨工程で使用したものと同じタイプの両面研磨装置を用い,ポリシャを軟質ポリシャ(スウェードパット)に変えて,第2研磨工程を実施した。研磨条件は,研磨液としてコロイダルシリカ(平均粒径0.1μm)+RO水を用い,荷重:120g/cm2,研磨時間を20分とした。上記第2研磨工程を終えたガラス基板を,中性洗剤,純水,純水,IPA,IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して,超音波洗浄し,乾燥した。
【0061】(7)検査工程
次に,上記洗浄を終えたガラス基板の表面の目視検査及び顕微鏡による精密検査等を実施した。その結果,ガラス基板表面に付着物による突起や,傷等の欠陥は発見されなかった。
【0062】これは,表面の平滑性悪化の原因となる雰囲気中に浮遊しているパーティクルが研磨工程時に基板へ付着するのを防止し,研磨パッドと基板との間に介在されたパーティクルによる基板表面の傷の発生を防止できたこと及び研磨液の溶媒(液体)に含まれるパーティクルを除去したことにより,研磨パッドと基板との間に介在されたパーティクルによる基板表面に発生する欠陥(特に凹欠陥:転がり傷や結晶相が抜け落ちたことによるピット)を防止できたためと考えられる。また,検査工程で付着する欠陥(凸欠陥)についても,クリーンルーム内の清浄な雰囲気で実施することによって,凸欠陥を防止できたと考えられる。上述のように,研磨工程以降の工程(具体的には,研磨工程,検査工程)をクリーンルーム中で行なうことによって基板表面に発生する欠陥(凹欠陥,凸欠陥)を防止することができる。
【0063】また,上記工程を経て得られたガラス基板の主表面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)にて測定したところ,Rmax=3.23nm,Ra=0.31nmと超平滑な表面を持つ磁気ディスク用ガラス基板を得た。
【0079】本発明は上述した実施例に限定されるものではなく,適宜変更して実施することが可能である。例えば,研磨工程以前のラッピング工程,形状加工工程をクリーンルーム内で行なってもよい。また,上述の実施例では,ロードアンロード用磁気ディスク及び磁気ディスク用基板について説明したが,本発明は,例えば,CSS(コンタクト・スタート・ストップ)方式の磁気ディスク及び磁気ディスク用基板に適用できる。(以下略)
【0080】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように,本発明によれば情報記録媒体用基板の製造工程において,研磨工程以降の工程をクリーンルームで行うようにしたので,研磨工程以降の工程で空気中に浮遊しているパーティクルが基板材料へ付着するのを防止することができ,平滑性に優れた情報記録媒体用基板を製造することが可能になる。また,このような情報記録媒体用基板を用いて情報記録媒体を製造するので記録密度の高い情報記録媒体を製造することが可能になる。

イ 刊行物2記載技術
[2](2)に摘示した刊行物2には,清浄加工室(クリーンルーム)への被加工物の移送,人の出入りに伴う作業の煩雑性を低減するための清浄加工室並びにその清浄制御方法として,同一清浄加工室を3つの区画に分け,一連の工程を短時間に且つ汚染皆無の状態で完結しうるようにする発明が記載されている。簡単のため,これを,2つの区画に分けたものとして,そこに記載された技術を認定する。
また,「汚染」に粉塵等が含まれていることは明らかである。

刊行物2には,
清浄気流中で加工する必要のある粉塵等の汚染発生工程を含む一連の加工工程において,
清浄加工室(クリーンルーム)への被加工物の移送,人の出入りに伴う作業が煩雑であることにかんがみ,これを低減し,かかる一連の加工工程を同一清浄加工室内に於いて合理的,且つ機能的に進行しうるようにするため,
清浄加工室を,垂直下向方式のエアーカーテン,隔壁,カーテン等適宜な手段で隔離した2つの区画に分け,
第1区画に所定のクリーン度に制御された空気流を導入し,この空気流を該区画内に常時存在せしめると共に,その一部を第2区画に移動せしめ,同第2区画内では第1区画内よりも低いクリーン度の領域となるように制御して常時存在せしめるとともに,
被加工物は第2区画から第1区画に向かって移送せしめる,すなわち,気流と加工物の移動方向を向流にすることにより,気流の上流側は超高清浄雰囲気を確保できる構造-下流の区画で発生した粉塵等が上流の区画に影響しない構造とする
-このとき,第2区画の任意の箇所には順次導入される空気流とは別途に所定のクリーン度が制御された空気流を別途に導入してもよく,この場合,より完全に所定のクリーン度に制御できる-
ことで,清浄気流中で加工する必要のある粉塵等の汚染発生工程を含む一連の工程を短時間に且つ汚染皆無の状態で完結しうるようにする技術(以下,「刊行物2記載技術」という。)
が記載されている。

ウ 容易想到性
引用発明は,p「ガラス基板を高精度な研磨加工を施して表面を平坦平滑にして,ヘッドの滑空高さが低くてもヘッドとディスクの接触によるヘッドクラッシュやサーマルアスペリティーの発生を抑制しようとするもの」で,特に,ウネリに着目しこれを低減してサーマルアスペリティーの発生を抑制しようとするものであり,刊行物1自体には,上記相違点2の構成要件Cに至る示唆等の記載はない。
しかしながら,上記アで上述したように,ガラス基板に付着したパーティクルやゴミ,研磨残り等によりサーマルアスペリティーが発生するため,そのようなサーマルアスペリティーの原因となるパーティクルやゴミ,研磨残り等の付着を防止することが重要であり,
そのような付着を防止するための技術として,
・発塵性がある研磨工程を含むこれ以降の複数の工程を,クリーンルームで行い,工程が進むにつれてクリーン度が高くなるように,後の工程でのクリーン度が前の工程のクリーン度より高いクリーン度とした各別のクリーンルーム環境区域に被研磨ディスクを搬送して実施するようにすること,
・粗研磨工程とその次に行われる精研磨工程を研磨工程毎に清浄度を設定する,すなわち,精研磨工程は,粗研磨工程が実施されるクリーン環境区域よりもクリーン度の高い環境区域に被研磨ディスクを搬送して実施すること は,本願出願前,よく知られた普通の技術であるのであるから,
刊行物1に接した当業者は,引用発明の「精研磨工程」も,上記周知技術と同様「粗研磨工程が実施されるクリーン環境区域よりもクリーン度の高い環境区域に被研磨ディスクを搬送して実施する」ようにすること(以下,簡単に『異なるクリーン環境区域に搬送して行う2段階研磨』ということとする)をごく普通に想定するものである。

そして,かかる「粗研磨工程」→「精研磨工程」のような,連続して実施する粉塵の発生を伴う一連の工程であって,後工程は,前工程が実施されるクリーン環境区域よりもクリーン度の高い環境区域に被加工物を搬送して実施する場合,
そのような場合の工程を前提・対象とし、その煩雑性等を改善する上記イに示した「刊行物2記載技術」、すなわち、
清浄気流中で加工する必要のある粉塵等の汚染発生工程を含む一連の加工工程において,
清浄加工室(クリーンルーム)への被加工物の移送,人の出入りに伴う作業が煩雑であることにかんがみ,これを低減し,かかる一連の加工工程を同一清浄加工室内に於いて合理的,且つ機能的に進行しうるようにするため, 清浄加工室を,垂直下向方式のエアーカーテン,隔壁,カーテン等適宜な手段で隔離した2つの区画に分け,
第1区画に所定のクリーン度に制御された空気流を導入し,この空気流を該区画内に常時存在せしめると共に,その一部を第2区画に移動せしめ,同第2区画内では第1区画内よりも低いクリーン度の領域となるように制御して常時存在せしめるとともに,
被加工物は第2区画から第1区画に向かって移送せしめる,すなわち,気流と加工物の移動方向を向流にすることにより,気流の上流側は超高清浄雰囲気を確保できる構造-下流の区画で発生した粉塵等が上流の区画に影響しない構造とする
-このとき,第2区画の任意の箇所には順次導入される空気流とは別途に所定のクリーン度が制御された空気流を別途に導入してもよく,この場合,より完全に所定のクリーン度に制御できる-
ことで,清浄気流中で加工する必要のある粉塵等の汚染発生工程を含む一連の工程を短時間に且つ汚染皆無の状態で完結しうるようにする技術
が,本願出願前の古くから知られていて、
刊行物1に接した当業者が普通に想定する上記『異なるクリーン環境区域に搬送して行う2段階研磨』においても,被加工物であるディスクの移送,人の出入りに伴う作業が煩雑である等の点では上記「刊行物2記載技術」と同じであることからすれば,同『2段階研磨』に,これを解決して一連の加工工程を合理的,且つ機能的に進行しうるようにする上記「刊行物2記載技術」を採用する動機付けが充分あるというべきである。

そして,そのように採用すれば(このとき,上記「第1区画」において精研磨工程が実施され,「第2区画」において「粗研磨工程」が実施の形態されることとなる),
引用発明の,前記一連の複数の工程(粗研磨工程と精研磨工程)は,「垂直下向方式のエアーカーテン,隔壁,カーテン等適宜な手段で隔離した2つの区画」で実施されることとなるから,「互いに区画された複数の区域内において実施」することとなり,
「前記複数の区域のうち,前記精研磨工程を行う区域においては,前記粗研磨工程が実施される区域へ向けた気流が生じている」ことになると共に,「気流の上流側は超高清浄雰囲気を確保でき」,「下流の区画で発生した粉塵等が上流の区画に影響しな」くなる,すなわち,「前記粗研磨工程における発塵が,前記精研磨工程を実施する区域に流入することを阻止するように」なる。
そして,そのようにすることが「サーマルアスペリティーの原因となるパーティクルやゴミ,研磨残り等の付着を防止する」ことに寄与することになるから,そのようにすることは「該製造工程により製造される磁気ディスク用ガラス基板を用いた磁気ディスクにおけるサーマルアスペリティ障害を抑止すべく」するためにすることであるということができる。
すなわち,そのように採用すれば,上記[相違点2の克服〕がなされることとなる。

なお,上記刊行物2記載技術の「第2区画の任意の箇所には順次導入される空気流とは別途に所定のクリーン度が制御された空気流を別途に導入」を採用して,「粗研磨工程」が実施される区域(第2区画)に別途に所定のクリーン度が制御された空気流を別途に導入するようにするか,これを採用しないかは任意であるが,これを採用した場合においては,前工程であり気流の下流に位置する粗研磨工程が,より所定のクリーン度に制御できることになる。

以上によれば,上記[相違点2の克服]は,技術常識・周知技術および刊行物2に基づいて当業者が容易になし得ることである。

エ まとめ(相違点についての判断)
引用発明を出発点とし,上記[相違点1の克服]及び[相違点2の克服]を併せてすることも当業者が容易に想到し得ることである。
効果についてみても,構成の採用に伴って予測し得ない格別顕著なものがあるとも認められない。
したがって,補正後発明は,刊行物1及び刊行物2及び技術常識・周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。


[7]まとめ(理由:独立特許要件不適合)
以上によれば,補正後の請求項1に係る発明は,上記刊行物1に記載された発明,上記刊行物2に記載された発明,及び技術常識・周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

【第3】査定の当否(当審の判断)

[1]本願発明
平成25年9月4日付けの補正は上記のとおり却下する。
本願の請求項1?8に係る各発明は,本願特許請求の範囲,明細書及び図面(平成24年1月15日付け,平成24年11月19日付けの手続補正を含む)の記載からみて,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?8に記載した事項により特定されるとおりのものと認められるところ,
その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,前記【第2-1】に記載した補正前の【請求項1】のとおりである。

[2]引用刊行物の記載,引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1である特開2003-346316号公報には,前記「【第2-3】[3]」で認定したとおりの引用発明が認められ,同じく,拒絶の理由に引用された刊行物2である特開平03-036447号公報には,前記「【第2-3】[6](2-2)イで示したとおりの「刊行物2記載技術」が認められる。

[3]対比,判断
本願発明は,【第2-3】で検討した補正後発明から,発明特定事項である「磁気ディスク用ガラス基板」についての「主表面の算術平均粗さRaが0.4nm以下である」との限定を削除し,「粗研磨工程」及び「精研磨工程」について(研磨砥粒)「を含む研磨液と研磨パッドと」(を用いて)との限定を削除したものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正後発明が,上記【第2-3】[4]?[7]に示したとおり,刊行物1に記載された発明,刊行物2に記載された発明,及び技術常識・周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,
本願発明も,同様の理由により,刊行物1に記載された発明,刊行物2に記載された発明,及び技術常識・周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである,ということができる。

【第4】むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,上記刊行物1に記載された発明,上記刊行物2に記載された発明,及び技術常識・周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願の他の請求項について特に検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-04 
結審通知日 2014-04-08 
審決日 2014-04-22 
出願番号 特願2010-273022(P2010-273022)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 和彦  
特許庁審判長 乾 雅浩
特許庁審判官 酒井 伸芳
関谷 隆一
発明の名称 磁気ディスク用ガラス基板の製造方法  
代理人 山崎 高明  

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