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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04D 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F04D |
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管理番号 | 1288296 |
審判番号 | 不服2013-17190 |
総通号数 | 175 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-07-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-09-06 |
確定日 | 2014-06-06 |
事件の表示 | 特願2008-549256「冷却ファン」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月19日国際公開,WO2008/072516〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は,2007年(平成19年)12月 5日(優先権主張 平成18年12月11日)を国際出願日とする特許出願であって,平成25年 6月 7日付けで拒絶査定(発送日:平成25年 6月11日)がなされ,これに対して,同年 9月 6日に本件審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。 II.平成25年 9月 6日付けの手続補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成25年 9月 6日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正後の本願発明 本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は, 「【請求項1】 有底筒状のボス部と,前記ボス部の外周面に設けられ径方向に向かって放射状に延びる複数のブレードとから成り, 前記ブレードの先端よりも径方向内側に各々ブレードを相互に連結するリング部材が設けられ, 前記ブレードは, 前記ボス部と前記リング部材との間において,前記ブレードの表裏面であると共に,前記ボス部の径方向に沿った断面が直線状となる一対の面を備え, 前記一対の面の幅が,前記ブレードにおける前記ボス部側の付け根部から前記リング部材の径方向外側に向かって徐々に薄くなるように形成され, 前記ボス部側の付け根部の迎角が大きく設定されると共に翼弦長が短く設定され,且つ前記リング部材よりも外側の前記ブレードの先端に向かって迎角が小さく設定されると共に翼弦長が長く設定されている冷却ファン。」 と補正された(当審にて,補正された箇所に下線を付した。)。 本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ブレード」に関して,本件補正前の請求項1を引用する請求項5に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記ブレードの肉厚が,前記付け根部から前記リング部材に向かって除々に薄くなるように形成されている」を「前記ボス部と前記リング部材との間において,前記ブレードの表裏面であると共に,前記ボス部の径方向に沿った断面が直線状となる一対の面を備え,前記一対の面の幅が,前記ブレードにおける前記ボス部側の付け根部から前記リング部材の径方向外側に向かって徐々に薄くなるように形成され」と,限定したものであって,この限定事項は,願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載されており,本件補正後の請求項1に記載された発明は,本件補正前の請求項5に記載された発明と,産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2.引用例及びその記載事項 (1)原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である実願昭61-143623号(実開昭63-48996号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)には,「熱交換器のファン」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。 ・「[産業上の利用分野] 本考案は主として自動車用熱交換器の背面に設けられるファンに係り,特にファンのボス部周縁で空気流れの逆流が生じるのを防止するものに関する。」(明細書第1ページ第13?16行) ・「即ち,ボス部1の外周に複数の羽根2を放射状に形成する。そして熱交換器コア4に対向してそれらを配設するものである。ここにおいて本考案の特徴とするところは夫々の羽根2,2の放射方向中間部間を架橋して,その全体がボス部1に同心円状の短い筒状部3を形成するようにしたものである。従って本ファンによれば,この筒状部3により羽根2表面上で起こる空気流5の逆流を可及的に防止し得るものである。」(明細書第3ページ第1?9行) ・「第1図は本考案の第1実施例を示す斜視略図である。この実施例では,ファン全体が合成樹脂製の一体成形品からなる。そして,中心にボス部1を有し,その外周に羽根2が放射状に複数突設されると共に,各羽根2の中間部位置で羽根2,2間を架橋するように筒状部3が設けられ,該筒状部3の全体がボス部1に同心円状で且つ短い筒状に形成されたものである。又第2図は本考案の第2実施例であり,この実施例では前記実施例よりもボス部1が小さな軸流ファンである。この実施例においては羽根2の放射方向中央位置よりもやや外周よりに筒状部3が設けられている。そして第3図に示す如くこの筒状部3はわずかに湾曲して形成される。 又第4図は本考案の第3実施例であり,この実施例においては筒状部3が後方に向かって末広がりに形成されている。このように筒状部3を湾曲させたりあるいは後方に向かって末広がりに形成するのは,逆流を効果的に防止するためである。即ち空気流5を円滑に後方に導き羽根2の表面上での逆流を防止するものである。」(明細書第3ページ第13行?第4ページ第13行) ・「1)本ファンは,ボス部1に同心円状の筒状部3が設けられ該筒状部3は隣合う羽根2,2の夫々の中間部間を架橋するように形成されているから,ボス部1外周に生じる逆流を効果的に防止することができる。即ち,従来の軸流ファンや混流ファンでは夫々の羽根の先端部における周速度がボス部周辺のそれよりも大きいから,羽根の先端部で,比較的大きな圧力を加えられた空気流がそれよりも小さな圧力を有するボス部周りに逆流することがあったが,本考案では筒状部3が比較的高圧の空気流を円滑に後方へ導くため,前記した逆流を可及的に少なくし得る。従って本熱交換器のファンを自動車用に用いれば,その自動車の走行に伴って生じる走行風の風抜けを良好に維持できる。そして熱交換器の通風性を確保し熱交換を促進し得るものとなる。 2)又筒状部3の存在により羽根2の振動を少なくし,騒音の発生を防止する。」(明細書第4ページ第17行?第5ページ第15行) ・第1図からは,羽根2は,前記羽根2の表裏面であると共に,前記ボス部1の径方向に沿った断面が略直線状となる一対の面を備えているものが理解できる。 ・第2図,第3図からは,ボス部1が有底筒状であることが理解できる。 ・上記記載事項と第2図からみて,羽根2の先端よりも径方向内側に各々羽根2を相互に連結する筒状部3が設けられていることが理解できる。 これらの記載事項及び図示内容を総合すると,第2図,第3図からなる第2実施例に関連した,引用例1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「有底筒状のボス部1と,前記ボス部1の外周に放射状に形成される複数の羽根2とからなり, 前記羽根2の先端よりも径方向内側に各々羽根2を相互に連結する筒状部3が設けられ, 熱交換器の通風性を確保し熱交換を促進し得る軸流ファン。」 (2)原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平6-229397号公報(以下「引用例2」という。)には,「軸流ファン」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。 ・「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は,壁用換気扇などに使用される軸流ファンに関する。 【0002】 【従来の技術】この種の軸流ファンは,モータの回転軸に取着されるファンボスの外周部に複数枚のブレードを放射状に突設した構成であり,一般に合成樹脂により一体成形されている。 【0003】而して,従来では,図5に示すように,ファンボス1から突設されたブレード2を,これの厚さ寸法dがブレード2全体にわたって一様となるように形成している場合と,図6に示すように,ブレード3を,これの厚さ寸法dが基端部3aから外周部3bにかけて徐々に小さくなるように形成している場合とがある。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記した構成のもののうち,図5に示したものでは,ブレード2の厚さ寸法dが大きい場合には,ブレード2による風切り音が大きく,騒音が大きくなり,逆にブレード2の厚さ寸法dが小さい場合には,ブレード2の曲げに対する強度が弱くなるため,比較的大きな圧力が掛かった状態ではブレード2が変形し易く,同一風量における騒音が大きくなるという問題点があった。 【0005】一方,図6に示したものでは,成形時における湯流れが悪く,成形装置としては性能がワンランク上のものにする必要があり,ひいてはコストが高くなるという欠点があった。 【0006】そこで,本発明の目的は,騒音の低減化を図り,また,コストの上昇を抑え得る軸流ファンを提供するにある。」 上記摘記事項と図6からみて,「ブレードが,ブレードの表裏面であると共に,ファンボスの径方向に沿った断面が略直線状となる一対の面を備え,前記一対の面の幅が,前記ブレードにおける前記ファンボス側の付け根部から径方向外側に向かって徐々に薄くなるように形成され」ているものが示されている。 (3)原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2000-110789号公報(以下「引用例3」という。)には,「軸流送風機」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,空気調和機の室外機の送風機等に使用される軸流送風機に関する。」 ・「【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら,このような従来の軸流送風機1では,これを空気調和機の室外機に送風機として組み込み,この送風機の単位時間当りの回転数(以下,単に回転数という。)を上昇させ,送風量の増加を図った場合,室外機内の静圧上昇が起こり,各翼3の負圧面側前縁部3aに対する空気流れuの流入角が変化して,翼面3cで流れの剥離が発生しやすくなり,送風音が増加してしまうという課題がある。」 ・「【0029】図8は各翼13の負圧面側前縁部13aの送風機半径方向に沿う断面を示しており,その断面の厚さh_(0) はハブ12側Zaから翼外周13g側Zbへ行くに従って漸次薄くなるように除変されている。」 ・上記摘記事項と図8からみて,「翼が,翼の表裏面であると共に,ハブの径方向に沿った断面が略直線状となる一対の面を備え,前記一対の面の幅が,前記翼における前記ハブ側の付け根部から径方向外側に向かって徐々に薄くなるように形成され」ているものが示されている。 3.発明の対比 本願補正発明と引用発明とを対比すると,後者の「ボス部1」は前者の「ボス部」に相当し,以下同様に,「ボス部1の外周」は「ボス部の外周面」に,「羽根2」は「ブレード」に,「筒状部3」は「リング部材」にそれぞれ相当する。 後者の「前記ボス部1の外周に放射状に形成される複数の羽根2とからな」る態様は,前者の「前記ボス部の外周面に設けられ径方向に向かって放射状に延びる複数のブレードとから成」る態様に相当する。 そして,後者の「軸流ファン」と前者の「冷却ファン」とは,「ファン」である点で共通する。 そうすると,両者は, 「有底筒状のボス部と,前記ボス部の外周面に設けられ径方向に向かって放射状に延びる複数のブレードとから成り, 前記ブレードの先端よりも径方向内側に各々ブレードを相互に連結するリング部材が設けられている, ファン。」 の点で一致し,以下の各点で相違すると認められる。 <相違点1> ブレードは,本願補正発明では,「前記ボス部と前記リング部材との間において,前記ブレードの表裏面であると共に,前記ボス部の径方向に沿った断面が直線状となる一対の面を備え,前記一対の面の幅が,前記ブレードにおける前記ボス部側の付け根部から前記リング部材の径方向外側に向かって徐々に薄くなるように形成され」ているのに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。 <相違点2> 本願補正発明では,「前記ボス部側の付け根部の迎角が大きく設定されると共に翼弦長が短く設定され,且つ前記リング部材よりも外側の前記ブレードの先端に向かって迎角が小さく設定されると共に翼弦長が長く設定されている」のに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。 <相違点3> 本願補正発明では,「冷却ファン」であるのに対して,引用発明では,「熱交換器の通風性を確保し熱交換を促進し得る軸流ファン」であるものの,「冷却」ファンとは明記されていない点。 4.相違点の検討 <相違点1について> 引用例1の摘記事項として示したとおり,上記引用例1の第1図には,羽根2は,前記羽根2の表裏面であると共に,前記ボス部1の径方向に沿った断面が略直線状となる一対の面を備えたものが示されており,ボス部1と筒状部3との間においてもそのように構成されているものと推測される。 そして,引用例2や引用例3に例示されるように,騒音の低減化を目的とした軸流ファンにおいて,「ブレードが,ブレードの表裏面であると共に,ボス部の径方向に沿った断面が略直線状となる一対の面を備え,前記一対の面の幅が,前記ブレードにおける前記ボス部側の付け根部から径方向外側に向かって徐々に薄くなるように形成され」ているものは,本願の優先権主張の日前に周知の事項である。 そうすると,引用発明における「ボス部とリング部材との間のブレード」に,上記引用例1の第1図から推測される事項,及び,上記周知の事項を勘案すれば,引用発明及び上記周知の事項がいずれも,騒音の低減化を目的とした軸流ファンである点で共通していることから,引用発明において,相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。 なお,請求人は,本願補正発明は,ボス部の付け根部からリング部材の径方向外側に至るまで連続的に徐々に薄くなっている旨主張する。 しかしながら,本願補正発明は,「ボス部とリング部材との間に」おける「一対の面の幅」について限定したにとどまるものである。そして,仮に,請求人の主張するように,「ボス部の付け根部からリング部材の径方向外側に至るまで連続的に徐々に薄くなっている」ものだとしても,当業者が容易に想到し得た域を出るものではない。 <相違点2について> 拒絶査定時に周知例として提示した特開2004-218513号公報(特に,段落【0001】,【0009】を参照のこと。なお,これは請求人が従来例(特許文献1)として提示したものでもある。)に示されるように,冷却に用いる軸流ファンに関して,ボス部側の付け根部の迎角が大きく設定されると共に翼弦長が短く設定され,且つリング部材よりも外側のブレードの先端に向かって迎角が小さく設定されると共に翼弦長が長く設定されているものは,本願の優先権主張の日前において,周知の事項である。 引用発明も「熱交換器の通風性を確保し熱交換を促進し得る軸流ファン」に関するものであるから冷却も考慮していることは明らかである。そうすると,冷却に用いる軸流ファンに関するものである点で共通する引用発明に上記周知の事項を適用して,相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が適宜なし得たものである。 <相違点3について> 上述したように,引用発明も「熱交換器の通風性を確保し熱交換を促進し得る軸流ファン」に関するものであるから冷却を考慮していることは明らかである。 そうすると,相違点3に係る相違は,実質的なものとは認められない。 そして,本願補正発明の奏する効果について検討してみても,引用発明及び上記周知の事項から当業者が予測し得たものであって,格別なものとはいえない。 そうすると,本願補正発明は,引用発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5.小括 以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 III.本願発明について 1.本願発明 平成25年 9月 6日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成24年12月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 有底筒状のボス部と,前記ボス部の外周面に設けられ径方向に向かって放射状に延びる複数のブレードとから成り, 前記ブレードの先端よりも径方向内側に各々ブレードを相互に連結するリング部材が設けられ, 前記ブレードは,前記ボス部側の付け根部の迎角が大きく設定されると共に翼弦長が短く設定され,且つ前記リング部材よりも外側の前記ブレードの先端に向かって迎角が小さく設定されると共に翼弦長が長く設定されている冷却ファン。」 2.引用例の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は前記II.2.に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は,前記II.で検討した本願補正発明の限定事項(「II.平成25年 9月 6日付けの手続補正の却下の決定[理由]1.本件補正後の本願発明」参照。)を削除したものである。 そうすると,本願発明の構成よりも更に限定した構成を備える本願補正発明が前記II.4に記載されたとおり,引用発明及び上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明の上位概念発明にあたる本願発明も,本願補正発明と同様の理由で,引用発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。 4.むすび 以上のとおり,本願発明は,本願発明は,引用発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると,このような特許を受けることができない発明を包含する本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-04-02 |
結審通知日 | 2014-04-08 |
審決日 | 2014-04-21 |
出願番号 | 特願2008-549256(P2008-549256) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F04D)
P 1 8・ 121- Z (F04D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田谷 宗隆 |
特許庁審判長 |
新海 岳 |
特許庁審判官 |
槙原 進 藤井 昇 |
発明の名称 | 冷却ファン |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 鈴木 慎吾 |