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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1288306 |
審判番号 | 不服2012-3751 |
総通号数 | 175 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-07-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-02-27 |
確定日 | 2014-06-04 |
事件の表示 | 特願2007-515525「AAVベクターの凝集を防ぐための組成物およびその方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月15日国際公開、WO2005/118792、平成20年 1月24日国内公表、特表2008-501339〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は,2005年6月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年6月1日米国(US),2004年12月22日米国(US))を国際出願日とする出願であって,以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。 平成23年 2月15日付け 拒絶理由通知書 平成23年10月19日付け 拒絶査定 平成24年 2月27日 審判請求書 平成24年 4月19日 手続補正書(方式) 第2 本願発明の認定 この出願の請求項1に係る発明は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「本願明細書」という。)の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ,請求項1にかかる発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものであると認める。 「ビリオン調製物におけるビリオンの凝集を防ぐ方法であって,少なくとも約200mMのイオン強度を達成するためにビリオン調製物に1種類以上の賦形剤を添加することを含む,方法。」 第3 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由の概要は,本願発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 記 Molecular Therapy,2004年5月,Vol.9,Sup.1,p.S163,#425(原査定における引用文献2。以下,「刊行物1」という。) 第4 刊行物に記載された事項 この優先日前に頒布された刊行物である刊行物1には,以下の事項が記載されている。なお,提示した翻訳は当審での翻訳であり,下線は当審で付与した。以下,同様。 1 刊行物1に記載された事項 1a「Formulation Development for AAV2 Vectors: Identification of Excipients That Inhibit Vector Aggregation」(標題) (翻訳) 「AAV2ベクターの製剤開発:ベクター凝集を抑制する賦形剤の同定」 1b「The objective of this study was to investigate the mechanism of AAV2 vector aggregation, and to identify classes of excipients to prevent the phenomenon.・・・We have observed that vector aggregation can also be induced following reduction of the ionic strength()by dilution of buffered solutions containing rAAV, and have used this as a model system to investigate the ability of various excipients to inhibit aggregation.」(11?20行) (翻訳) 「この研究の目的は,AAV2ベクターの凝集メカニズムを調べ,その現象を防ぐ賦形剤の種類を見分けることであった。・・・我々は,rAAV含有緩衝液を希釈することにより続いてイオン強度の低下も誘導され得ることに気づき,これを凝集阻害する種々の賦形剤の能力を調べるモデル系として使用した。」 1c「The exponential dependence of ionic strength on the valency of contributing ionic species (μ=1/2Σc_(i)z_(i)^(2)) led us to investigate ionic excipients with valency >l. We observed that a number of these excipients inhibited aggregation more efficiently than NaCl. For example, the divalent salt Mg^(2+) SO_(4)^(2-) inhibited aggregation at a molar concentration approximately 4-fold lower than that required using NaCl. Cumulatively, these data confirm that ionic interactions play a major role in AAV2 vector aggregation, and that use of excipients that maximize ionic strength is a promising strategy to reduce aggregation potential, providing optimal long-term stability and clinical dosing potential for AAV vectors. 」(38?49行) (翻訳) 「寄与しているイオン種特性であるイオン強度(μ=1/2Σc_(i)z_(i)^(2))に指数関数的に依存していることより,イオン価が1より大きいイオン賦形剤を研究することとした。我々は多数のこれら賦形剤がNaClよりもっと効率的に凝集阻害することに気づいた。例えば2価塩のMg^(2+) SO_(4)^(2-) は,NaClを用いる場合に必要とされるモル濃度よりも約4倍低いモル濃度で凝集を阻害した。累積的にこれらのデータより,イオンの相互作用はAAV2ベクターの凝集に主要な役割を果たしており,イオン強度を最大化する賦形剤の使用は凝集能力を低減させる有望な方策であることが確認され,これはAAVベクターの最適な長期安定性及び臨床投与の可能性を提供するものである。」 第5 当審の判断 1 刊行物1に記載された発明 刊行物1は,「AAV2ベクターの製剤開発:ベクター凝集を抑制する賦形剤の同定」(1a)に関し記載するものであり,このAAV2ベクターの凝集を抑制する賦形剤を同定するに際し,刊行物1に記載の「rAAV含有緩衝液を希釈・・続いてイオン強度の低下も誘導され得る・・これを凝集阻害する種々の賦形剤の能力を調べるモデル系として使用した」(1b)こと,及び「イオン強度を最大化する賦形剤の使用は凝集能力を低減させる有望な方策であること」(1c)を勘案すると,賦形剤は一般に添加して使用するものであることから,AAV2ベクター含有緩衝液にイオン強度を最大化する賦形剤を添加することにより,AAV2ベクターの凝集を抑制する方法が記載されているといえる。そうすると,刊行物1には, 「AAV2ベクター含有緩衝液にイオン強度を最大化する賦形剤を添加することにより,AAV2ベクターの凝集を抑制する方法。」 の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 2 本願発明と引用発明との対比 (1)本願発明の「ビリオン」は,本願明細書の「【0014】・・ビリオンは,アデノ随伴ウイルス(AAV)ビリオン,例えば,AAV-2である」,「【0023】本発明は,凝集過程におけるウイルス粒子間のイオン相互作用の関与を示唆する,溶液のイオン強度がAAVベクター凝集の重要なパラメーターであるという知見に一部基づくもの」及び「【0022】・・本明細書において用いられる用語「ベクター」は,組換えAAVビリオン,またはウイルス粒子に言及し」という記載より,AAV-2ビリオンまたはウイルス粒子,すなわちAAV-2ベクターを包含するといえる。 そうすると,引用発明の「AAV2ベクター」は,本願発明の「ビリオン」に相当する。 (2)本願発明の「ビリオン調製物」について,本願明細書の「【0016】・・界面活性剤Pluronic[登録商標]F68が,例えば,0.001%までビリオン調製物に添加される。1つの実施態様において,組成物は,精製ウイルス粒子,10mM Tris pH8.0,100mM クエン酸ナトリウム,および0.001% Pluronic[登録商標]F68を含む。」という記載より,この組成物中の「精製ウイルス粒子及び10mM Tris pH8.0」が「ビリオン調製物」であると理解され,これはすなわち精製ウイルス粒子を含有する緩衝液のことといえる。 そうすると,引用発明の「AAV2ベクター含有緩衝液」は,上記(1)で述べたことを踏まえると,本願発明の「ビリオン調製物」に相当する。 (3)引用発明の「凝集を抑制する」こととは,凝集を防ぐことであり,引用発明の「凝集を抑制する方法」は,AAV2ベクター含有緩衝液における方法であることから,上記(1),(2)で述べたことを踏まえると,引用発明の「AAV2ベクターの凝集を抑制する方法」は,本願発明の「ビリオン調製物におけるビリオンの凝集を防ぐ方法」に相当する。 (4)引用発明の「AAV2ベクター含有緩衝液にイオン強度を最大化する賦形剤を添加する」とは,AAV2ベクター含有緩衝液に,イオン強度を最大化することを達成するために賦形剤を添加することであり,賦形剤を添加するとは,賦形剤として少なくとも1種類は添加することが明らかである。しかも,「多数のこれら賦形剤」(すなわち「イオン価が1より大きいイオン賦形剤」)「がNaClよりもっと効率的に凝集阻害する」(1c)ことを見い出していることも勘案すると,イオン価が1より大きいイオン賦形剤を1種類以上添加し得るといえる。 そうすると,引用発明の「AAV2ベクター含有緩衝液にイオン強度を最大化する賦形剤を添加する」と,本願発明の「少なくとも約200mMのイオン強度を達成するためにビリオン調製物に1種類以上の賦形剤を添加する」とは,上記(2)で述べたことを踏まえると,目的のイオン強度を達成するためにビリオン調製物に1種類以上の賦形剤を添加する点で,共通する。 したがって,両者は, 「ビリオン調製物におけるビリオンの凝集を防ぐ方法であって,目的のイオン強度を達成するためにビリオン調製物に1種類以上の賦形剤を添加することを含む,方法。」 である点で一致し,以下の点でのみ相違する。 目的のイオン強度が,本願発明では,少なくとも約200mMであるのに対し,引用発明では,最大化された値である点。(以下,「相違点」という) 3 判断 (1)相違点について 引用発明は,AAV2ベクターの製剤開発に際し,AAV2ベクター凝集を抑制する賦形剤を同定する目的で研究したところ(1a,1b),「イオンの相互作用はAAV2ベクターの凝集に主要な役割を果たしており,イオン強度を最大化する賦形剤の使用は凝集能力を低減させる有望な方策であることが確認され」(1c)たことに基づく発明で,「これはAAVベクターの最適な長期安定性及び臨床投与の可能性を提供するもの」(1c)である。 そうすると,引用発明において,AAV2ベクターが製剤として最適な長期安定性を有し臨床投与が可能となるよう,AAV2ベクターの凝集を抑制するのに最適なイオン強度にしようとして,それを満たす最適なイオン強度の数値を決定することは,当業者が適宜なし得たことであり,そのイオン強度として「少なくとも約200mM」と決定することに,格別の困難性はない。 (2)本願発明の効果について 刊行物1には,「これはAAVベクターの最適な長期安定性及び臨床投与の可能性を提供するものである」(1c)と記載されており,これは,引用発明によるAAV2ベクターの凝集抑制により,AAV2ベクターは最適な長期安定性,すなわちAAV2ベクターとして感染価や導入効率等が最適となるように長期安定して維持されるという効果を有すると理解される。 したがって,本願発明の効果は,刊行物1の記載事項から当業者が容易に予測し得るものであり,格別顕著なものではない。 (3)請求人の主張について 請求人は,平成24年4月19日付け手続補正書(方式)の「第4.次回の拒絶理由通知書に対して行う予定の補正」において,特許請求の範囲の補正案を示し,その補正案は原査定の拒絶理由を全て解消するものである旨主張する。 通常の手続においては,審判請求時に手続補正を行うべきであるが,念のため,この補正案の請求項1に係る発明を検討すると,この発明は,本願発明の「ビリオン」を「AVVビリオン」に限定すると共に,本願発明の「1種類以上の賦形剤」を「クエン酸イオンを含む1種類以上の賦形剤」に限定するものである。 「AVVビリオン」に限定することについて,引用発明もビリオンとしてAAV2ベクターであり,相違しない。 「クエン酸イオンを含む1種類以上の賦形剤」に限定することについて,クエン酸イオンを賦形剤として添加した効果につき,まず,本願明細書の表2(【0039】)及び表3(【0045】)を検討すると,リン酸ナトリウムは凍結融解サイクル後に凝集を生じ効果がないことは理解されるものの,他の各種3価イオンを賦形剤とした場合の凍結融解サイクル後の凝集の有無につき実験結果が示されていない。そもそも,「本発明・・特定のイオン種に関与する相互作用よりむしろ溶液自体のイオン強度が、関連する物理化学的パラメーターであるという仮説を支持するもの」(本願明細書【0023】)であるとの本願明細書の記載によれば,クエン酸イオン以外の3価イオンでも,クエン酸イオンと同じく凍結融解サイクル後に凝集を生じない効果を奏する可能性がある。それ故,クエン酸イオンが他の3価イオンと比較し顕著な効果を奏するものとは必ずしもいえない。 次に,図1Bを検討すると,図1Bはクエン酸ナトリウムを含む各種賦形剤を添加したバッファー組成物のイオン強度とAAV2-FIX粒子の凝集の関係を示しているが,この図1B中,クエン酸ナトリウムの結果はどれなのか何ら示されておらず,クエン酸ナトリウムが他の各種賦形剤と比較し顕著な効果を奏するものか確認できない。 また,「クエン酸イオンを含む1種類以上の賦形剤」という特定では,2種類以上の賦形剤を含む場合,クエン酸イオンをほんの僅かしか含まず該モル濃度が極めて小さい場合もあり得,その場合,イオン強度(μ=1/2Σc_(i)z_(i)^(2);c_(i)=モル濃度,z_(i)=電荷)が大きいとはいえないことから,顕著な効果が奏されるとは必ずしもいえない。 したがって,補正案の請求項1に係る発明は,依然として,刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものといえる。 以上のとおり,補正案においても,刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものといえ,原査定の拒絶理由を解消するものとはいえないから,請求人の上記主張を採用することはできない。 4 まとめ したがって,本願発明は,その優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第6 むすび 以上のとおり,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余について言及するまでもなく,この出願は,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-12-26 |
結審通知日 | 2014-01-07 |
審決日 | 2014-01-20 |
出願番号 | 特願2007-515525(P2007-515525) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤井 美穂 |
特許庁審判長 |
田村 明照 |
特許庁審判官 |
小川 慶子 齊藤 真由美 |
発明の名称 | AAVベクターの凝集を防ぐための組成物およびその方法 |
代理人 | 田中 光雄 |
代理人 | 鮫島 睦 |
代理人 | 冨田 憲史 |
代理人 | 志賀 美苗 |