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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B01J
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B01J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 B01J
管理番号 1288356
審判番号 不服2013-3612  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-25 
確定日 2014-06-24 
事件の表示 特願2007-228233「可視光応答性光触媒とその触媒活性促進剤並びに環境汚染有機物質の光分解法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月 3日出願公開、特開2008-149312、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年9月3日(優先権主張 平成18年11月20日)を国際出願日とする出願であって、平成24年2月10日付けで拒絶理由が通知され、同年4月23日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年11月21日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年2月25日に拒絶査定不服審判が請求され、同年7月8日付けで当審より前置報告書を利用した審尋がされ、同年9月6日付けで回答書が提出され、同年10月23日付けで当審により拒絶理由が通知され、同年12月27日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、平成26年2月27日付けで当審により拒絶理由が通知され、同年4月23日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願発明は、平成26年4月23日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明6」といい、まとめて「本願発明」という。)。
「【請求項1】
環境汚染有機物質の光分解反応に用いられる酸化タングステンからなる可視光応答性光触媒に、混合ないし担持されてなり、該可視光応答性光触媒による、アルデヒド類、カルボン酸類、アルコール類、脂肪族炭化水素類、エステル類及びケトン類から選ばれる少なくとも一種の化合物の光分解反応に対して、その光分解触媒活性を促進することを特徴とする、銅化合物からなる触媒活性促進剤。
【請求項2】
前記銅化合物が、酸化銅、硝酸銅及び硫酸銅から選ばれた少なくとも一種の化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の触媒活性促進剤。
【請求項3】
前記光分解触媒活性が、アルデヒド類又はカルボン酸類を二酸化炭素まで分解する触媒活性であることを特徴とする、請求項1または2に記載の銅化合物からなる触媒活性促進剤。
【請求項4】
請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の銅化合物からなる触媒活性促進剤が混合ないし担持されてなる、環境汚染有機物質の光分解反応に用いられる酸化タングステンからなる可視光応答性光触媒。
【請求項5】
粉末状又は薄膜状であることを特徴とする、請求項4に記載の可視光応答性光触媒。
【請求項6】
請求項4または5に記載の酸化タングステンからなる可視光応答性光触媒を使用することを特徴とするアルデヒド類、カルボン酸類、アルコール類、脂肪族炭化水素類、エステル類及びケトン類から選ばれる少なくとも一種の化合物の光分解法。」

第3 拒絶理由の概要
1.原査定の拒絶理由の概要
(1)本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開2004-330047号公報
刊行物2:特開2005-179618号公報
刊行物3:ASHOKKUMAR, M. et al,Preparation and characterization of doped WO_(3) photocatalyst powders,Journal of Materials Science,1989年 6月,Vol.24, No.6,p.2135-2139

刊行物3に記載された硫酸銅は、「タングステン化合物からなる可視光応答性光触媒に」「担持」され光触媒活性を促進する「銅化合物からなる触媒活性促進剤」であり、請求項1?4に係る発明と刊行物3に記載の発明との間に差異はない。

(2)この出願は、下記の点で特許法第37条に規定する要件を満たしていない。



請求項1に係る発明と補正前の請求項5-10に係る発明とは、発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当しないから、この出願は特許法第37条に規定する要件を満たさない。

第4 当審の判断
1.原査定の拒絶理由(1)について
(1)刊行物3の記載事項
刊行物3には、「Preparation and characterization of doped WO_(3) photocatalyst powders(当審訳:ドープされたWO_(3)光触媒粉末の製造と特性評価)」(タイトル)について、次の記載がある。
ア 「WO_(3) semiconductor particles, useful in solar energy conversion processes, were doped with transition metal ions, Ti(III), V(IV), Cr(III), Mn(II), Fe(III), Co(II), Ni(II), Cu(II), Zn(II) and Ru(III) by a high-temperature sintering technique. The method of preparation of these photocatalysts is described in detail. The structural changes effected during sintering were investigated by X-ray powder diffraction (XRD) and scanning electron microscopy (SEM). The XRD analysis indicated that the monoclinic crystal structure of WO_(3) was not altered during sintering. SEM studies showed that the sizes of the particles ranged from 1 to 10 μm and the crystallinity was increased due to doping. The dopants were found to be mostly distributed on the surface of WO_(3) particles.(当審訳:太陽エネルギーを用いた物質変換プロセスに有用なWO_(3)半導体粒子に、高温焼結技術を用いて、遷移金属イオン、すなわち、Ti(III), V(IV), Cr(III), Mn(II), Fe(III), Co(II), Ni(II), Cu(II), Zn(II)及びRu(III)がドープされた。これらの光触媒の製造方法が、詳細に述べられている。焼結によってもたらされた構造変化は、X線粉末解析(XRD)及び走査電子顕微鏡(SEM)によって分析された。XRDによる分析では、WO_(3)の単斜晶系の結晶構造は、焼結により変化しないことがわかった。SEMによる分析では、1?10μmの範囲の粒子サイズ及び結晶性は、ドーピングによって、増加することがわかった。多くのドーパントは、WO_(3)粒子の表面に分布することが見出された。」(2135頁上欄)

イ 「1. Introduction
WO_(3) semiconductor powders have been used for solar energy conversion process by many researchers. Oxygen generation [1,2] from water, synthesis of amino acid [3,4] and water photolysis into hydrogen and oxygen [5] are some of the works reported using this semiconductor. The absorbance in the visible region [6] and photocatalytic activities [7] of WO_(3) powders were found to be increased by doping with transition metal ions. Doping is usually done by sintering at high temperatures. ・・・
In this paper, we report for the first time, the preparation and characterization of doped WO_(3) powders. Doping with transition metal ions was done by sintering at high temperature. The photocatalysts prepared were characterized using powder X-ray diffraction and scanning electron microscopy. This study was carried out to determine (i) the change in the crystal structure, (ii) the surface modifications, (iii) the change in the particle sizes, and (iv) the change in the surface area, effected due to doping by a high-temperature sintering technique, because these properties play very important roles in the photocatalytic efficiencies of these semiconductor powders solar energy conversion.(当審訳:1. 前書き
WO_(3)半導体粒子は、多くの研究者によって太陽エネルギーを用いた物質変換プロセスに用いられてきた。水から酸素の生成[1,2]、アミノ酸の合成[3,4]及び水素と酸素に変える水の光分解[5]について、この半導体を用いて行われたことが報告されている。WO_(3)粒子の可視光領域の吸収率及び触媒活性は、遷移金属イオンをドープすることで、増加することが見出された。ドーピングは、通常、高温によって焼結することで行われる。・・・
この論文において、ドープされたWO_(3)粉末の製造と特性評価が初めて明らかにされる。遷移金属のドーピングは、高温での焼結によって行われた。製造された光触媒は、X線回折及び電子顕微鏡を用いて特性評価された。この研究では、高温焼結技術を用いたドーピングによって、(i)結晶構造の変化(ii)表面の修飾(iii)粒子サイズの変化(iv)表面の変化がどのようにもたらされたかを検証した。これらの特性について検証した理由は、太陽エネルギーを用いた物質変換プロセスに用いられる半導体粉末の、光触媒としての効率性に重要な役割を果たすからである。)」(2135頁左欄1?34行「1. Introduction 欄」)

ウ 「Moreover, it is also very clear from Figs 3g to n that the crystallinity is increased due to doping, which is indicated by the increase in particle (crystal) sizes with well-developed faces.(さらに、図3g?nから、ドーピングにより結晶性は増加した。これは、発達した面を有する粒子(結晶)サイズが増加していることからわかる。)」(2139頁左欄3?7行)

(2)刊行物3に記載された発明の認定
上記アから、刊行物3には、太陽エネルギーを用いた物質変換プロセスに有用なWO_(3)半導体粒子に、高温焼結技術を用いて、遷移金属イオン、すなわち、Ti(III), V(IV), Cr(III), Mn(II), Fe(III), Co(II), Ni(II), Cu(II), Zn(II)及びRu(III)をドープした光触媒が記載されている。
上記イから、該WO_(3)半導体粒子に、遷移金属イオンをドープすることで、可視光領域の吸収率及び触媒活性は増加する。
また、上記イには、太陽エネルギーを用いた物質変換プロセスとして、水から酸素の生成、アミノ酸の合成、水を水素と酸素に変える光分解が例示されている。

そうすると、刊行物3には、
「水から酸素の生成、アミノ酸の合成、水を水素と酸素に変える光分解等の太陽エネルギーを用いた物質変換プロセスに有用なWO_(3)半導体粒子に、高温焼結技術を用いて、遷移金属イオン、すなわち、Ti(III),V(IV),Cr(III),Mn(II),Fe(III),Co(II),Ni(II),Cu(II),Zn(II)及びRu(III)をドープして得られた、WO_(3)半導体粒子の可視光領域の吸収率及び触媒活性を増加させた光触媒」が記載されているということができる。

そして、WO_(3)半導体粒子にドープされた「遷移金属イオンのTi(III),V(IV),Cr(III),Mn(II),Fe(III),Co(II),Ni(II),Cu(II),Zn(II)及びRu(III)」に着目すると、これらの遷移金属イオンは、WO_(3)半導体粒子の可視光領域の吸収率及び触媒活性を増加させることから、「触媒活性促進物質」ということができる。

そうすると、刊行物3には、
「水から酸素の生成、アミノ酸の合成、水を水素と酸素に変える光分解等の太陽エネルギーを用いた物質変換プロセスに有用なWO_(3)半導体粒子に、ドープされてなり、
該WO_(3)半導体粒子の可視光領域の吸収率及び触媒活性を増加させる、
Ti(III),V(IV),Cr(III),Mn(II),Fe(III),Co(II),Ni(II),Cu(II),Zn(II)及びRu(III)の遷移金属イオンである触媒活性促進物質」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「WO_(3)」は、「酸化タングステン」とも表記されることは技術常識であるから、引用発明の、「水から酸素の生成、アミノ酸の合成、水を水素と酸素に変える光分解等の太陽エネルギーを用いた物質変換プロセスに有用なWO_(3)半導体粒子」は、本願発明1の「光分解反応に用いられる酸化タングステンからなる可視光応答性光触媒」に相当する。
また、本願発明1の「銅化合物」と、引用発明の「WO_(3)半導体粒子」にドープされた「触媒活性促進物質」の「Cu(II)」とは、光分解触媒活性を促進する物質である点で共通する。

そうすると、本願発明1と引用発明とは、「光分解反応に用いられる酸化タングステンからなる可視光応答性光触媒に対して、その光分解触媒活性を促進する触媒活性促進物質。」である点で一致し、次の相違点1、2で相違する。
(相違点1)
可視光応答性光触媒について、本願発明1は、「環境汚染有機物質の光分解反応に用いられる」ものであるのに対し、引用発明の「光触媒」は、「水から酸素の生成、アミノ酸の合成、水を水素と酸素に変える光分解等の太陽エネルギーを用いた物質変換プロセス」に用いられる点。
(相違点2)
触媒活性促進物質について、
(a)本願発明1は、触媒活性促進物質である「銅化合物」が、「可視光応答性光触媒」に、「混合ないし担持されて」いるのに対し、引用発明では、触媒活性促進物質の遷移金属イオンである「Cu(II)」が、光触媒である「WO_(3)半導体粒子」に、「ドープされて」いる点。
(b)本願発明1は、「アルデヒド類、カルボン酸類、アルコール類、脂肪族炭化水素類、エステル類及びケトン類から選ばれる少なくとも一種の化合物の光分解反応に対して、その光分解触媒活性を促進する」のに対し、引用発明は、水から酸素の生成、アミノ酸の合成、水を水素と酸素に変える光分解等の太陽エネルギーを用いた物質変換プロセスにおいて、可視光領域の吸収率及び触媒活性を増加するものである点。

(4)相違点についての判断
事案にかんがみ、まず、相違点2(a)について検討する。
(刊行物1について)
拒絶理由で引用された刊行物1には、「内分泌撹乱物質光分解用金属又は金属酸化物担持型BiVO_(4)光触媒」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】
銀Ag微粒子または酸化銅CuO微粒子を担持させたバナジン酸ビスマスBiVO_(4)粉末からなる可視光応答性の内分泌撹乱物質光分解用光触媒。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、基本的には可視光応答性のBiVO_(4)微粉末にAgまたはCuOを担持させた光触媒活性を改善した光触媒に関する。また、前記光触媒を内分泌撹乱物質の光分解、特にCO_(2)までの完全酸化分解性を改善した内分泌撹乱物質分解用光触媒および前記触媒を用いた浄化方法に関する。」

これらの記載によれば、刊行物1には、可視光応答性のBiVO_(4)微粉末にAgまたはCuOを担持させることで、光触媒活性を改善することが記載されていると認められる。

(刊行物2について)
拒絶理由で引用された刊行物2には、「防汚膜およびこれを備えた部材または機器」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】
酸化チタンと、W、VまたはYを少なくとも1つを含む金属酸化物と、V、TiまたはCuを少なくとも1つを含むポリフィリナ-ト化合物の少なくとも3種を含むことを特徴とする防汚膜。」
「【0008】
酸化チタンは、300nm以下の紫外領域しか動作しないので分解能力に限界があるため、本発明は図2に示すように酸化チタンに可視光波長範囲の青紫から赤色までの個々に吸収波長を有する物質n_(1)、n_(2)、n_(3)・・・n_(x)を適宜混合し、これにより吸収する波長の多重化をはかることによって高効率・高フォトン化の膜を実現するものである。本発明の防汚膜に含有される金属酸化物およびポリフィリナ-ト化合物(本明細書においてはこれらの化合物を「可視光吸収アシスト剤」と言うこともある)は、可視光領域に最大の吸収度を有しており、それぞれ固有の特定波長を吸収して、酸化チタンに電子を伝導し、バンドギャップエネルギ-準位に変化をもたらす。吸収波長の異なるいくつかの材料を使用すると、可視光領域で波長多重の吸収が得られ効果的である。」

これらの記載によれば、刊行物2には、「酸化チタンは、300nm以下の紫外領域しか動作しないので分解能力に限界があるため、酸化チタンと、W、VまたはYを少なくとも1つを含む金属酸化物と、V、TiまたはCuを少なくとも1つを含むポリフィリナ-ト化合物の少なくとも3種を含むことで、吸収する波長の多重化をはかって高効率・高フォトン化を図った防汚膜」について記載されている認められる。

そうすると、刊行物1、2には、酸化タングステンに、触媒活性を促進させるように銅化合物を混合ないし担持させることについては、開示されているとはいえない。

そして、上記(1)ウの記載事項からも明らかなように、引用発明では、焼結による「Cu(II)」のドープの結果、「Cu(II)」が「ドープされたWO_(3)光触媒」は、「ドープされないWO_(3)光触媒」とは、結晶性、粒子(結晶)サイズの点において異なるようになったことにより、光触媒としての効率性に変化がもたらされたものである。
そうすると、引用発明において、光触媒としての効率性に変化をもたらすためには、「WO_(3)光触媒」に「Cu(II)」を「ドープ」して、結晶性、粒子(結晶)サイズの点において異なるようにすることが必要であり、「Cu(II)」を「WO_(3)光触媒」に混合ないし担持させるだけでは、結晶性、粒子(結晶)サイズに変化させることはできないことは技術常識であって、引用発明においては、「WO_(3)光触媒」に「Cu(II)」を「ドープ」ことに代えて、本願発明1のように、銅化合物を「混合ないし担持」させることは想定されていないことから、相違点2(a)に係る本願発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到することができたとすることはできない。

したがって、相違点1、相違点2(b)について検討するまでもなく、本願発明1は、刊行物3に記載された発明ではないし、引用発明及び刊行物1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

(7)本願発明2?6について
本願発明2?6は、本願発明1を引用し、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様な理由から、刊行物3に記載された発明ではないし、引用発明及び刊行物1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

2.拒絶理由(2)について
上記「1.」に述べたことから明らかなように、本願発明1に、特別な技術的特徴が認められたので、本願発明1と本願発明2?6は、発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当し、特許法第37条に規定する要件を満たす。

第5 当審拒絶理由について
1.当審の平成25年10月23日付けの拒絶理由の概要
(1)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


補正前の「可視光応答性光触媒に、離間して添加されてなり」という記載は明確ではない。

(2)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



ア 本願の明細書において、本願発明に係る可視光応答性触媒によって二酸化炭素への分解が確認されたものは、「アセトアルデヒド」、「ホルムアルデヒド」、「酢酸」、「蟻酸」、「メタノール」、「ヘキサン」、「エチルアセテート」及び「アセトン」のみであり、これらの物質から「環境汚染有機物質」とまで、拡張ないし一般化できるとはいえない。

イ 銅化合物からなる触媒活性促進剤を「可視光応答性光触媒に、離間して添加されてな」るものについては、発明の詳細な説明において、アセトアルデヒド等の環境汚染物質を分解することについては確認されておらず、「可視光応答性光触媒に、離間して添加されてなり」という態様を含む補正前の請求項1の発明まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(3)本願発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物A:特開2000-218161号公報
刊行物B:特開2000-246114号公報

2.当審の平成26年2月27日付けの拒絶理由の概要
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



環境汚染有機物質の光分解反応に用いられる可視光応答性光触媒として、発明の詳細な説明には、具体例として、「酸化タングステン」が記載されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても、補正前の請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

3.当審の平成25年10月23日付けの拒絶理由に対する判断
(1)特許法第36条第6項第2号について
「可視光応答性光触媒に、離間して添加されてなり」という記載は削除されたので、拒絶理由は解消した。

(2)特許法第36条第6項第1号について
ア 本願発明の触媒活性促進剤によって光分解触媒特性を促進させる光触媒反応が、「アルデヒド類、カルボン酸類、アルコール類、脂肪族炭化水素類、エステル類及びケトン類から選ばれる少なくとも一種の化合物の光分解反応」と特定されたので、拒絶理由は解消した。

イ 「可視光応答性光触媒に、離間して添加されてなり」という態様は削除されたので、拒絶理由は解消した。

(3)特許法第29条第2項について
刊行物Aには、「光触媒体として酸化タングステン粉を使用する光触媒体であって、可視光によってアセトアルデヒドを分解する光触媒体」が記載され、刊行物Bには、可視光によって作用する光触媒である酸化銅(I)を用いることが記載されているものの、酸化タングステンに、触媒活性を促進させるようなに銅化合物を混合ないし担持させることについては、開示されているとはいえない。

したがって、本願発明1は、刊行物A、Bに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、本願発明2?6は、本願発明1を引用し、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、刊行物A、Bに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

2.当審の平成26年2月27日付けの拒絶理由に対する判断
可視光応答性光触媒が、「酸化タングステン」に特定されたので、拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-06-10 
出願番号 特願2007-228233(P2007-228233)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (B01J)
P 1 8・ 536- WY (B01J)
P 1 8・ 121- WY (B01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大城 公孝  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 中澤 登
吉水 純子
発明の名称 可視光応答性光触媒とその触媒活性促進剤並びに環境汚染有機物質の光分解法  
代理人 西澤 利夫  
代理人 西澤 利夫  

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