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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C03C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C03C
管理番号 1288402
審判番号 不服2013-3744  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-27 
確定日 2014-06-24 
事件の表示 特願2010-548676「ケイ酸塩ガラス用の清澄剤」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月 3日国際公開、WO2009/108285、平成23年 4月28日国内公表、特表2011-513171、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年2月18日(優先権主張 2008年2月26日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成24年3月15日付けで拒絶理由が通知され、同年7月19日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年10月18日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年2月27日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、手続補正がされ、同年8月19日付けで前置報告書を利用した審尋がされ、同年11月20日付けで回答書が提出され、平成26年5月7日付けで当審により拒絶理由が通知され、同年5月20日付けで意見書が提出されるとともに、手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願発明は、平成26年5月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明12」といい、まとめて「本願発明」という。)。
「【請求項1】
1シード/cm^(3)未満のシード濃度を有するケイ酸塩ガラスであって、
該ケイ酸塩ガラスが、60?70mol%のSiO_(2);6?14mol%のAl_(2)O_(3);0?15mol%のB_(2)O_(3);8?18mol%のNa_(2)O;0?10mol%のK_(2)O;0?8mol%のMgO;0?2.5mol%のCaO;0?5mol%のZrO_(2);0?1mol%のSnO_(2);0?1mol%のCeO_(2);50ppm未満のAs_(2)O_(3);および50ppm未満のSb_(2)O_(3)を含み;Li_(2)Oを実質的に含まず;ここで、12mol%≦Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O≦20mol%および0mol%≦MgO+CaO≦10mol%であり、
前記ケイ酸塩ガラスが少なくとも1種類の清澄剤を含む原材料バッチから形成され、
前記清澄剤が、酸素源として作用する少なくとも1種類の多価金属酸化物を含み、さらに、水源として作用する少なくとも1種類の無機化合物および/または酸化剤を含み、アンチモンおよびヒ素を実質的に含まない、
ケイ酸塩ガラス。
【請求項2】
前記ケイ酸塩ガラスがダウンドロー可能かつイオン交換可能であることを特徴とする請求項1記載のケイ酸塩ガラス。
【請求項3】
前記ケイ酸塩ガラスが、イオン交換する際に、少なくとも200MPaの表面圧縮応力および、少なくとも30μmの深さの表面圧縮層を有することを特徴とする請求項2記載のケイ酸塩ガラス。
【請求項4】
前記ケイ酸塩ガラスが、モバイル電子機器のためのカバープレートを形成することを特徴とする請求項1記載のケイ酸塩ガラス。
【請求項5】
前記ケイ酸塩ガラスが、シードを実質的に有しないことを特徴とする請求項1記載のケイ酸塩ガラス。
【請求項6】
前記ケイ酸塩ガラスが、少なくとも10kPa・s(100キロポアズ)の液相線粘度を有することを特徴とする請求項1記載のケイ酸塩ガラス。
【請求項7】
前記ケイ酸塩ガラスが、少なくとも22kPa・s(220キロポアズ)の液相線粘度を有することを特徴とする請求項6記載のケイ酸塩ガラス。
【請求項8】
前記表面圧縮応力が、少なくとも600MPaであることを特徴とする請求項3記載のケイ酸塩ガラス。
【請求項9】
前記ケイ酸塩ガラスが、酸化剤を含むことを特徴とする請求項1記載のケイ酸塩ガラス。
【請求項10】
前記ケイ酸塩ガラスが、0.05?0.25mol%のSnO_(2)を含むことを特徴とする請求項1記載のケイ酸塩ガラス。
【請求項11】
前記ケイ酸塩ガラスが、0.05?0.5mol%のCeO_(2)を含むことを特徴とする請求項1記載のケイ酸塩ガラス。
【請求項12】
前記ケイ酸塩ガラスが、1?7mol%のMgOを含むことを特徴とする請求項1記載のケイ酸塩ガラス。」

第3 拒絶理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開昭63-230536号公報
刊行物2:特開平11-029339号公報
刊行物3:特開平10-114529号公報
刊行物4:特開2005-089259号公報

本願発明のケイ酸塩ガラスと刊行物2に記載された発明のアルミノ珪酸塩ガラスとは、成分組成の点で重複することから、本願発明の液相線粘度の規定を満たすものと認められる。
また、本願発明と刊行物2に記載の発明とは、ガラス組成、清澄剤の点で重複するものであるから、刊行物2に記載の発明は、本願発明の「約1シード/cm^(3)未満のシード濃度」の規定を満たすものと認められる。

2.当審の拒絶理由の概要
(1)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項1の「清澄剤が、少なくとも1種類の無機化合物を含み」という記載は、明確ではない。


(2)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



請求項1の「清澄剤」について、発明の詳細な説明の本願発明の実施例では、「酸素源として作用する少なくとも1種類の多価金属酸化物」は、必ず含まれており、該多価金属酸化物を含まないサンプル19は、「本明細書に記載の上記清澄剤を含まず、よって、対照サンプルとしての役割をする」(【0053】)ところ、請求項1の記載では、該多価金属酸化物を含まない態様を包含することになり、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

第4 当審の判断
1.原査定の拒絶理由について
(1)刊行物2の記載事項
刊行物2には、「フラットディスプレー機器用アルミノ珪酸塩ガラス」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、ディスプレー技術において用いるのに適したアルミノ珪酸塩ガラスに関する。」
イ 「【0041】本発明の更なる好ましい実施態様において、良好なガラス品質はアルカリ金属ハライド(好ましくはNaCl又はKCl)を調整(精製、精錬)剤として0.1?2重量%の含有量で添加することにより得られる。調整後のガラス内に残留する量は、これ等の調整剤の作用様式により、ずっと少ない。
【0042】本発明による新規なガラスは次の有利な特性を有する:
-8.1?9.0x10^(-6)/Kの熱膨張α_(20/300)(通常の燐蛍光物質に合う)
-650℃より大きい遷移温度(熱処理後の寸法安定性の改善)
-比較的低い密度(ρ<2,800g/cm^(3))
-良好な失透安定性
-良好な化学的耐性,特に良好な耐酸性
-極めて良好なソラリゼーション安定性(solarization stability)
更に好ましい実施態様においては、フロートユニットでシートにコンバートすることができる。」

ウ 「【0044】
【実施例】ガラスを通常の素材から、1550℃に誘導加熱したプラチナるつぼに精製剤として0.3重量%のNaCl又はKClを添加して製作した。溶融物はこの温度で1.5時間をかけて精製され、次いで均質化のため30分撹拌された。温度は1580℃に上昇され、30分保持され、次いで1550℃に低下され、この温度に30分保たれた。用いられた塩化物の中、約0.02重量%はガラス内に残留し、これは以下の表には示されていない。
【0045】以下の表は、例1から5の新規なガラスの組成(表1)と特性(表2)を示す。例6はTiO_(2)を含まない比較例であり、特に本発明に必須な特性の一つであるソラリゼーション安定性に対するTiO_(2)成分の重要性を例示している。
【0046】
【表1】



(2)刊行物2に記載された発明の認定
上記アには、アルミノ珪酸塩ガラスが記載されている。
上記イによると、該アルミノ珪酸ガラスの良好なガラス品質は、アルカリ金属ハライド(好ましくはNaCl又はKCl)を調整(精製、精錬)剤として0.1?2重量%の含有量で添加することにより得られる。
上記ウの表1には、該アルミノ珪酸ガラスの実施例が示され、重量%で表された各成分の量をmol%に変更すると、次のように表せる。
「ガラスの組成(酸化物に基づくmol%)


そして、表1の例4に着目すると、刊行物2には、
「アルミノ珪酸ガラスであって、
アルカリ金属ハライド(好ましくはNaCl又はKCl)を調整(精製、精錬)剤として0.1?2重量%の含有量で添加して得られ、
該アルミノ珪酸ガラスが、
66.3mol%のSiO_(2);
8.0mol%のAl_(2)O_(3);
3.6mol%のNa_(2)O;
8.5mol%のK_(2)O;
8.0mol%のSrO;
2.2mol%のBaO;
2.7mol%のZrO_(2);
0.7mol%TiO_(2);からなるアルミノ珪酸ガラス」(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

(3)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「アルミノ珪酸ガラス」は、本願発明1の「ケイ酸塩ガラス」に相当し、その組成から、Li_(2)O、アンチモン、ヒ素、B_(2)O_(3)、MgO、CaO、SnO_(2)及びCeO_(2)を実質的に含まない。
また、引用発明の「Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O」及び「MgO+CaO」の割合を求めると、それぞれ、12.1mol%及び0mol%である。

そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「ケイ酸塩ガラスであって、
該ケイ酸塩ガラスが、60?70mol%のSiO_(2);6?14mol%のAl_(2)O_(3);0?15mol%のB_(2)O_(3);8?18mol%のNa_(2)O;0?10mol%のK_(2)O;0?8mol%のMgO;0?2.5mol%のCaO;0?5mol%のZrO_(2);0?1mol%のSnO_(2);0?1mol%のCeO_(2);Li_(2)Oを実質的に含まず;ここで、12mol%≦Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O≦20mol%および0mol%≦MgO+CaO≦10mol%であり、
アンチモンおよびヒ素を実質的に含まない、ケイ酸塩ガラス。」である点で一致し、次の相違点1、2で相違する。

(相違点1)
シード濃度について、本願発明1は、「1シード/cm^(3)未満」であるのに対し、引用発明のシード濃度は不明な点。
(相違点2)
原材料バッチの清澄剤について、本願発明では、酸素源として作用する少なくとも1種類の多価金属酸化物を含み、さらに、水源として作用する少なくとも1種類の無機化合物および/または酸化剤を含むのに対し、引用発明では、アルカリ金属ハライド(好ましくはNaCl又はKCl)が調整(精製、精錬)剤として0.1?2重量%の含有量で添加されているものの、原材料バッチに清澄剤を含んでいるかどうかは明らかではない点。

(4)相違点についての判断
拒絶理由で引用された、刊行物1、3、4に記載された事項について検討する。
(刊行物1について)
刊行物1には、「タリウム含有光学ガラス」(発明の名称)について記載され、シード濃度についての記載は見当たらず、清澄剤については、「以上の成分の他に、本発明の主旨を害なわない範囲で清澄剤(例えばSbO_(3),As_(2)O_(3)等)を含有しても良い。」(4頁左下欄6?8行)という記載があり、SbO_(3),As_(2)O_(3)等の清澄剤が示されている。

(刊行物3について)
刊行物3には、「ガラス溶融炉からの毒性放出物を減少させるための水富化式清澄法」(発明の名称)について記載され、シード濃度についての記載は見当たらず、清澄剤については、次の記載がある。
「【0004】慣用の清澄剤の例は硫酸ナトリウムであって、これは、次の反応に従って解離してSO_(2)及びO_(2)を形成する。・・・他の硫酸塩化合物としては硫酸カルシウム及び硫酸バリウム、並びにフィルターダストのような硫酸塩含有物質が挙げられるが、ガラス中に硫酸塩を提供するためにバッチ物質中にスラグも使用される。」
「【0017】好ましい具体例では、バッチ清澄剤は、硫酸塩化合物、酸化ひ素、酸化アンチモン及び塩化ナトリウムよりなる群から選択される。」
そうすると、刊行物3には、硫酸塩化合物、酸化ひ素、酸化アンチモン及び塩化ナトリウムよりなる群から選択されるバッチ清澄剤が記載されている。

(刊行物4について)
刊行物4には、「ガラス基板」(発明の名称)について記載され、シード濃度についての記載は見当たらず、清澄剤については、次の記載がある。
「【0049】
さらに本発明のガラス基板は、As_(2)O_(3)、Sb_(2)O_(3)、F_(2)、Cl_(2)、SO_(3)、C、CeO_(2)、SnO_(2)、Fe_(2)O_(3)、或いはAl、Si等の金属粉末を清澄剤として5%まで含有させることができる。」
そうすると、刊行物4には、As_(2)O_(3)、Sb_(2)O_(3)、F_(2)、Cl_(2)、SO_(3)、C、CeO_(2)、SnO_(2)、Fe_(2)O_(3)、或いはAl、Si等の金属粉末の清澄剤が示されているということができる。

してみると、引用発明は、アンチモン及びヒ素を実質的に含まないのに対し、刊行物1、3には、アンチモン及びヒ素を含まない多価金属酸化物の清澄剤は示されていない。
また、刊行物4には、CeO_(2)、SnO_(2)、Fe_(2)O_(3)といったアンチモン及びヒ素を含まない多価金属酸化物は示されているものの、酸素源として作用する1種類の多価金属酸化物と、アンチモン及びヒ素を含まない多価金属酸化物に、水源として作用する少なくとも1種類の無機化合物および/または酸化剤とを含むものを用いることは記載も示唆もされていない。
また、アンチモン及びヒ素を含まない多価金属酸化物に、水源として作用する少なくとも1種類の無機化合物および/または酸化剤を組合せた清澄剤が技術常識ないし周知技術であるという根拠も見出せない。

そして、本願発明1では、上記相違点2に係る本願発明1の清澄剤を用いることによって、【0051】に記載されるように、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項である、「1シード/cm^(3)未満」のシード濃度を有するケイ酸塩ガラスが得られるという、刊行物1?4の記載事項からは当業者が予測し得ない格別な作用効果を奏するものである。
したがって、上記相違点1、2に係る本願発明1の発明特定事項は、刊行物1、3、4の記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たということはできず、本願発明1は、引用発明及び刊行物1、3、4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(7)本願発明2?12について
本願発明2?12は、本願発明1を引用し、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様な理由から、引用発明及び刊行物1、3、4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

2.当審拒絶理由について
平成26年50月20日付けの手続補正により、清澄剤について、「前記清澄剤が、酸素源として作用する少なくとも1種類の多価金属酸化物を含み、さらに、水源として作用する少なくとも1種類の無機化合物および/または酸化剤を含み」と特定されたので、当審拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-06-10 
出願番号 特願2010-548676(P2010-548676)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C03C)
P 1 8・ 537- WY (C03C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大工原 大二  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 吉水 純子
中澤 登
発明の名称 ケイ酸塩ガラス用の清澄剤  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  

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