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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01D
管理番号 1288465
審判番号 不服2011-17919  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-19 
確定日 2014-06-12 
事件の表示 特願2005-255789「オフセットされたコリオリタービュレータブレード」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月23日出願公開、特開2006- 77767〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。  
理由 1.手続の経緯及び本件発明
本件出願は、平成17年9月5日(パリ条約による優先権主張2004年9月9日、米国)の出願であって、平成22年8月24日付けの拒絶理由通知に対して、平成23年2月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けの手続補正書によって特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、同年10月26日付けの最後の拒絶理由通知に対して、平成24年4月25日付けで意見書が提出され、その後、当審において同年7月5日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、平成25年1月31日付けで回答書が提出され、同年4月1日付けの拒絶理由通知に対して、同年9月27日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものであって、その請求項1ないし4に係る発明は、平成25年9月27日付けの手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
互いに一体的に接合されたエーロフォイル(12)、プラットフォーム(14)、及びダブテール(16)を含むタービンロータブレード(10)であって、
前記エーロフォイルが、前記プラットフォーム(14)で根元(30)から先端(32)までスパンにわたって長手方向に延びる正圧及び負圧側壁(26、28)を含み、
前記側壁(26、28)が、前縁(34)と後縁(36)との間で横方向に離間して配置され、且つ前記根元(30)と前記先端(32)との間で長手方向に延びる翼弦方向で離間した隔壁(38)によって互いに接合されて、冷媒を貫流させるための複数の外向き及び内向き流れチャネル(2-7)を形成し、該半径方向外向き流れチャネルは前記冷媒を長手方向に前記根元から前記先端へ流し、該半径方向内向き流れチャネルは前記冷媒を長手方向に前記先端から前記根元へ流し、
前記外向きチャネル(2、3、5、7)の内の1つが、
前記負圧側壁(28)から延び、該負圧側壁において互いに同一の第1の傾斜タービュレータ(40)の前方列と、
前記負圧側壁(28)から延びて、前記第1の傾斜タービュレータ(40)と長手方向にオフセットし且つ翼弦方向で重なり合う互いに同一の第2の傾斜タービュレータ(42)の後方列と
を含み、
前記第1及び第2の傾斜タービュレータ(40、42)は、長手方向に前記根元及び後縁に向けて傾斜しており、
前記タービンロータブレード(10)は、前縁チャネル(1)と、後縁チャネル(8)と、をさらに含み、
該前縁チャネル(1)及び該後縁チャネル(8)の間に前記複数の外向き及び内向き流れチャネル(2-7)が設けられ、
前記複数の外向き及び内向き流れチャネル(2-7)は、前記前縁チャネル(1)と隣接する第1のチャネル(2)と、前記後縁チャネル(8)と隣接する第2のチャネル(7)と該第1及び第2のチャネル間の中央冷却回路(3-6)とからなり、
前記中央冷却回路(3-6)及び前記第2のチャネル(7)が翼弦蛇行冷却回路(3-7)を形成し、
前記第1及び第2の傾斜タービュレータ(40、42)が、前記第2のチャネル(7)に設けられている
ことを特徴とするタービンロータブレード(10)。」


2.引用文献記載の発明
(1)本件出願の優先日前に頒布され、当審の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2001-234702号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 根元部22から先端部24へ翼幅方向に長手方向へ延び、前縁および後縁26、28の間で翼弦方向へ延びる正圧側壁および負圧側壁16、18;を備え、
前記側壁は、前記前縁および後縁の間で横方向に離間して配置され、冷却媒体34を流すために流路32を形成するよう、前記根元部と先端部との間で長手方向に延びる翼弦方向に離間する隔壁30により相互に連結され;動翼は、前記通路32a、b、h、kが前記前縁26から前記後縁28に向かって横方向にオフセットするよう捩れを有し、前記通路は、長手方向に離間し、冷却媒体をタービュレータに沿って前記通路内のコリオリの流れと同一方向に指向させるために、全て前記根元部22および後縁28に向かって内側方向へ傾いている傾斜タービュレータ38の列を有する;ことを特徴とするタービン動動翼10。
【請求項2】 前記タービュレータ38は、前記隔壁30間で直線状に延びることを特徴とする請求項1に記載の動翼。
【請求項3】 前記タービュレータ38は、前記隔壁30間で連続していることを特徴とする請求項2に記載の動翼。
【請求項4】 前記通路32aは、前記冷却媒体を前記先端部24に向けて上側へ流すために、前記根元部22近傍に下部入口40を含むことを特徴とする請求項2に記載の動翼。
【請求項5】 前記通路32bは、前記冷却媒体を前記根元部22に向けて内側へ流すために、前記先端部24近傍に上部入口42を含むことを特徴とする請求項2に記載の動翼。
【請求項6】 前記タービュレータ38は、前記正圧側壁および負圧側壁16、18の両方に沿って前記通路32a、b、kの内側に配置されることを特徴とする請求項2に記載の動翼。
【請求項7】 前記通路における前記正圧側壁16の大部分が、前記通路における対向する負圧側壁18よりも前記前縁26近傍に位置するよう、前記動翼の捩れは45度より大きいことを特徴とする請求項6に記載の動翼。
・・・(中略)・・・
【請求項10】 前記オフセットした通路の前方に配置され、前記前縁26に整列された別の流路32c、d、e、gと;前記正圧側壁および負圧側壁16、18に沿って前記整列された通路内に配置され、前記正圧側シェブロンは前記先端部24に向かって外側方向へ指向し、前記負圧側シェブロンは前記根元部22に向かって内側方向へ指向するタービュレータ・シェブロン44の各々の列と;を更に含むことを特徴とする請求項6に記載の動翼。
【請求項11】 正圧側壁および負圧側壁16、18によって円周方向に、その間に延びる隔壁30によって軸方向に境界を定められる内部半径方向流路32を有し、後縁28を前縁26から円周方向にオフセットするよう捩れを有するタービン動動翼10にタービュレータ38、44を配置する方法であって、
冷却媒体流れをシェブロンに沿って整列された通路内のコリオリの流れと同一方向に指向するために、タービュレータ・シェブロン44を、前記前縁26に対して軸方向に整列された前記通路32c、d、e、gの1つに配置し;傾斜タービュレータ38を、前記前縁から前記後縁に向かって円周方向にオフセットした前記通路32a、b、h、kの1つに配置し、前記冷却媒体を前記タービュレータに沿って前記オフセットした通路内のコリオリの流れと同一方向に指向するよう、傾斜タービュレータ38全てが前記後縁28に向かって半径方向内側に傾いている;ことを特徴とする方法。
【請求項12】 前記傾斜タービュレータ38は、前記整列された通路32cにはなく、前記シェブロン44は、前記オフセットした通路32aにはないことを更に含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】 前記シェブロン44を前記整列された通路32c内部の両側壁16、18に配置し;前記傾斜タービュレータ38を前記オフセットした通路32h内部の前記側壁16の少なくとも1つに配置する;ことを更に含んでいる請求項11に記載の方法。
【請求項14】 前記負圧側シェブロン44を半径方向外側に指向し、前記正圧側シェブロンを半径方向内側に指向することを更に含んでいる請求項13に記載の方法。
【請求項15 前記傾斜タービュレータ38を前記オフセットした通路32a、b、kの内部の両側壁16、18に配置し、前記負圧側および正圧側タービュレータは共に前記後縁28に向かって半径方向内側に傾いていることを更に含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】 正圧側壁および負圧側壁16、18によって円周方向に且つその間で延びる隔壁30によって軸方向に境界が定められ、後縁28が前縁26から円周方向にオフセットするよう捩れを有する動翼に設けられる、内部半径方向流路32と;整列された通路内のコリオリの流れと同一方向にシェブロンに沿って冷却媒体流れを指向するよう、前記前縁26に対して軸方向に整列された前記通路32c、d、e、gの1つに配置されるタービュレータ・シェブロン44の列と;前記後縁に向かって前記前縁から円周方向にオフセットした前記通路32a、b、h、kの1つに配置され、冷却媒体をタービュレータに沿って前記オフセットした通路内のコリオリの流れと同一方向に指向するよう、全てが前記後縁28に向かって半径方向内側に傾いている傾斜タービュレータ38の列と;を含むことを特徴とするタービン動動翼10。
【請求項17】 前記シェブロン44は、前記整列された通路32c内部の両側壁16、18に配置され;前記タービュレータ38は、前記オフセットした通路32hの内部の前記側壁16の少なくとも1つに配置される;ことを特徴とする請求項16に記載の動翼。
【請求項18】 前記負圧側シェブロン44は、半径方向外側を指向し、前記正圧側シェブロンは、半径方向内側に指向することを特徴とする請求項17に記載の動翼。
【請求項19】 前記タービュレータ38は、前記オフセットした通路32a、b、kの内部の両前記側壁16,18に配置され、前記負圧側および正圧側タービュレータは共に、前記後縁28に向かって半径方向内側に傾いていることを特徴とする請求項18に記載の動翼。
【請求項20】 前記タービュレータ38は、直線状に延びて前記隔壁30の間で連続していることを特徴とする請求項19に記載の動翼。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項20】)

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、概してガスタービンエンジンに関し、さらに詳細には、かかるエンジンに使用されるタービン動動翼に関する。」(段落【0001】)

(ウ)「【0008】タービン動動翼は運転中に回転するので、この冷却は冷却媒体に加わる回転力に起因して更に複雑になる。例えば、コリオリの力は動翼を通って流れる冷却媒体に作用してその冷却能力に影響を与える。典型的な半径方向に延びる冷却通路において、そこを通る主冷却媒体の主要方向は、典型的な多流波状冷却回路に見られるように、動翼の根元部から先端部へ半径方向外側へ向くか、または動翼の先端部から根元部へ半径方向内側へ向くかのいずれかである。
【0009】典型的な直線状のタービュレータは、エーロフォイルの翼弦に沿って指向し、冷却媒体流の半径方向に対して略直交していてもよく、またはそれに対して傾いていてもよく、それ相応に異なる性能を果たす。しかし、どちらの場合もタービュレータは有効でありエーロフォイル内面に沿って冷却媒体を局所的に移動させて熱伝達を高める。
【0010】しかし、コリオリの力はタービュレータの冷却性能に影響を与える。コリオリの力は、各々の半径方向流路を通る外側方向または内側方向に向く冷媒流れの半径方向速度と、ロータディスクの軸方向の中心線軸周りの翼回転速度とのベクトル積に基づいて、冷却媒体に該冷媒の半径方向流れに直交する方向へ作用する。従って、冷却媒体に作用するコリオリの力は、内側方向の流路と外側方向の流路とではそれぞれ反対方向に作用する。
【0011】しかし、両方の例において、コリオリの力は一対のコリオリ渦を発生させるのに有効であり、渦は各々の半径方向流路において、半径方向に指向する冷却媒体の一次流れ場に対する二次流れ場として、逆回転している。従って、各々の通路は、対応する軸方向前方のコリオリ渦と軸方向後方のコリオリ渦とを成長させ、流路の内側通路と外側通路中とで異なる回転方向に互いに逆回転する。
【0012】Leeによる米国特許第5,797,726号において、コリオリ渦と協働してタービン動動翼内部の熱伝達冷却を高めるための、シェブロン(chevron)とも呼ばれるタービュレータ対が開示されている。シェブロンは、動動翼の正圧側壁および負圧側壁に沿って異なって指向され、各々の冷却通路における対のコリオリの渦と協働し、それと反対方向ではなく隣接するコリオリ渦と同じ方向に冷却媒体をシェブロンに沿って局所的に指向する。このようにして、シェブロン自身における局所的な三次流れの影響は二次のコリオリの渦から減じられるのではなく付加され、流れのよどみを防いで動翼内部の熱伝達冷却を高める。」(段落【0008】ないし【0012】)

(エ)「【0013】
【発明が解決しようとする課題】タービン・エーロフォイルの複雑さとコリオリの力の方向的な影響からみて、タービン動動翼タービュレータ設計の一層の改善が望まれる。
【0014】
【課題を解決するための手段】タービン動動翼にタービュレータを配置する方法は、動翼前縁から円周方向にオフセットした半径方向流路に傾斜タービュレータを配置することを含む。全ての傾斜タービュレータは、動翼の後縁に向かって半径方向内側に傾斜し、冷却媒体をタービュレータに沿ってオフセットした通路内部のコリオリ流れと同じ方向に指向する。特定の実施形態において、タービュレータ・シェブロンはまた、動翼前縁に対して軸方向に整列された半径方向流路内に配置され、その中でコリオリ流れに合致する。」(段落【0013】及び【0014】)

(オ)「【0016】図1の軸方向の側面図には複数の例示的タービン動動翼10の1つが示されており、支持用回転ディスク12から半径方向外側に延びている。ディスクは部分的に示されており、軸方向の中心線つまり回転軸14を含み、運転中ディスクと動翼とが軸周りに回転する。
【0017】動翼の外側部分は、一体のダブテール10bから半径方向外側に延びるエーロフォイルを形成し、ダブテールは動翼をディスク周囲の相補的な軸方向ダブテール・スロット内で半径方向に保持するよう従来の方法で形成されている。
【0018】図1および図2に示すように、動翼エーロフォイルは、全体的に凹形の正圧側壁16と、円周方向または横方向に対向する全体的に凸形の負圧側壁18とを含む。図1に示すように、2つの側壁は、対応する一体プラットフォームにおいてエーロフォイルの内側境界を画定する根元部22から半径方向外側の先端部24まで、放射軸20に沿って長手方向に延びる。側壁は、エーロフォイル全長に沿って半径方向に延び、対応する前縁と後縁26、28との間で軸方向に翼弦方向に延びる。
【0019】また、側壁は、前縁と後縁との間で円周方向または横方向に隔てて配置され、翼弦方向に離間して配置される複数の一体的な壁つまり隔壁30によって相互に連結されており、隔壁は、根元部と先端部との間で翼幅方向へ長手方向に延び、一般的にそこを通って流れる冷却媒体34に関する接頭記号32により識別される、対応する半径方向流路を形成する。冷却媒体は、運転中に動翼を冷却するよう従来の方法で圧縮機(図示せず)から分流される加圧空気の一部である。
【0020】流路32は、内部対流によって動翼を冷却するために冷却媒体を流すように、あらゆる従来的な方法を用いて1つまたはそれ以上の冷却回路に形成できる。図1および図2に示す例示的な実施形態において、流路32は、翼弦中央領域の5つの通路の波状冷却回路であり、半径方向流路32a-32eの順次連続する形態で従来同様に配置されている。第1通路32aにおいて、冷却媒体は動翼の根元部から先端部へ半径方向外側へ流れ、第2通路32bにおいて、冷却媒体は翼先端部の下方で反転して先端部から根元部へ半径方向内側に流れる。この順序は第3通路32c、第4通路32dおよび第5通路32eにおいて、冷却媒体の方向で外側および内側方向へ交互に繰り返される。
【0021】前縁冷却回路は、隣接の供給通路32gによる衝突冷却で供給される前縁流路32fを含む。また、後縁冷却回路は、隣接する供給チャネル32kによる衝突冷却で供給される後縁チャネル32hを含む。
【0022】種々の冷却回路は如何なる従来構造でもよく、動翼は典型的に対応する流路から正圧側壁と負圧側壁とを通って延びる数列の膜冷却孔36を含み、冷却媒体はここを通って動翼の外部表面に沿って吐出され膜冷却をもたらす。」(段落【0016】ないし【0022】)

(カ)「【0023】図2に示すように、この例示的な実施形態において、動翼は相当量の捩れを有し、後縁28は、前縁26から円周方向または横方向にオフセットしており、動翼の円周方向の回転の際に前縁に先行する。図2に示すように上から見た場合、動翼の捩れは負圧側壁18と回転軸14との間の捩れ角Aで表すことができる。動翼の捩れは、従来の方法で空気力学的な理由で設けられ、ある設計において制限してもよく、図2の実施形態のような他の設計においては極めて重要である。
【0024】動翼捩れの1つの影響は、前縁から後縁に向かって1つまたはそれ以上の流路が円周方向または横方向にオフセットされることである。図2に示す例示的な実施形態において、流路32bは僅かな部分が前縁26からオフセットし;流路32aは大部分が前縁からオフセットし;後縁チャネル32kと32hとは前縁から完全にオフセットし、この順にオフセット量が大きくなっている。
【0025】対応して、残りの5つの通路32c、32d、32e、32g、32fは、相互に且つ前縁とほぼ軸方向へ整列している。
【0026】それぞれの流路32は、正圧側壁および負圧側壁16、18によって円周方向に境界が定められ、その間を延びる隔壁30によって軸方向または翼弦方向に境界が定められているが、動翼の捩れを被る流路は、回転軸14に対して斜めの方向性をもっている。オフセットした4つの通路32a、b、h、kの斜めの方向性は、軸方向に整列された5つの通路32c、d、e、g、fとは対照的に内部対流冷却に著しく影響を及ぼす。」(段落【0023】ないし【0026】)

(キ)「【0027】図1に示すように、冷却媒体34はまず最初に、各々の流路を通って半径方向外側または半径方向内側のいずれかに流される。運転中に動翼10は回転軸14の周りを回転し、流路はそこを通る冷却媒体の一次流れの境界を定め、閉じこめるので、半径方向の流れは、冷却媒体流の半径方向速度と動翼の回転速度とのベクトル積の方向のコリオリの力を受ける。コリオリの力の方向は、冷却媒体の速度ベクトルに対して直交する。外側に向かう流路における冷却媒体速度ベクトルは、内側に向かう流路における速度ベクトルとは逆なので、対応するコリオリの力の方向も逆である。
【0028】コリオリの力の影響は、上流へ流れる流路と下流に流れる流路とでは異なる各々の流路の二次の流れ場を持ち込むことである。図2に示す実質的に閉じられた流路内のコリオリの二次流れは、一対の逆回転の渦34aとして観察される。各々の流路の対のコリオリ渦は、典型的に軸方向前方と軸方向後方の渦として互いに軸方向に整列している。
【0029】二次流れの渦は逆回転し、その回転の方向は上流への流路と下流への流路で異なる。例えば、図2に示す下流への流路32bにおいて、後方の渦は時計方向に回転し、前方の渦は反時計方向に回転する。上流への流路32cにおいて、後方の渦は反時計方向に回転し、前方の渦は時計方向に回転する。」(段落【0027】ないし【0029】)

(ク)「【0030】本発明によれば、タービュレータの性能と内部冷却とを高めてそこでの性能低下を回避するよう従来のタービュレータを別の方法で選択的に導入して、捩れた構造の動翼を補うようコリオリ渦の性質を利用できるより詳細には、図1および図2に示すタービン動動翼中にタービュレータが配置される改良された方法は、1つまたはそれ以上の対応する列の傾斜タービュレータ38を、円周方向にオフセットした通路32a、b、h、kの少なくとも1つに配置することを含み、通路内の全ての傾斜タービュレータは、根元部22および後縁28に向けて半径方向内側に傾き、つまり傾斜しており、各々のオフセットした通路内の渦34aからのコリオリの流れと同方向にタービュレータに沿って冷却媒体を導く。」(段落【0030】)

(ケ)「【0031】1つの例示的なオフセットした通路32aは、図3により詳細に示されている。例示的な流路における動翼の捩れAは、前縁近傍で軸方向に整列された通路に対して流路を時計方向に捩りまたは斜めに方向づけする。図3には対のコリオリ渦34aが示されており、それらの相対位置は軸方向に前後している。上流への流路32aで反時計方向に回転する後方コリオリ渦は、図示のように右から左への流れ方向において負圧側壁18上の傾斜タービュレータと局所的に交わることに留意されたい。同様に前方コリオリ渦は、上流への流路32aで時計方向に回転して、右から左への流れ方向において正圧側壁16上の傾斜タービュレータ38と局所的に交わる。
【0032】従って、傾斜タービュレータ38は、対応するコリオリ渦を補うよう特別に構成され傾斜されており、傾斜タービュレータはコリオリ渦の性能に直接影響を与え、一次冷却媒体流が外向きか内向きのいずれかであるオフセットした通路内の二次コリオリ流れと同じ方向であり、対応するタービュレータに沿う三次の局所的冷却媒体流34bを助長して導くようになっている。」(段落【0031】及び【0032】)

(コ)「【0033】傾斜タービュレータ38の例示的な実施形態は、負圧側壁18に関する図4と、協働する正圧側壁16に関する図5の側面図に示されている。各々のタービュレータ38は直線状であり、軸方向に対応する前方隔壁と後方隔壁30との間を延びることが好ましく、隔壁は軸方向に流路32aの境界を定める。各々のタービュレータは、鋭角な傾斜角Bで傾斜もしくは傾いており、動翼後縁に向かうタービュレータの軸方向後方端部は、前縁に向かうタービュレータの軸方向前方端部に対して半径方向内側に位置している。各々のタービュレータ38は2つの隔壁30の間で連続していることが好ましい。別の実施形態(図示せず)において、所望のタービュレータ構造と傾斜に全体的に影響を与えるよう配列しつつ、個々のタービュレータを軸方向にセグメント化してもよい。
【0034】図4は、負圧側壁18内の上流への冷却媒体34を示し、冷却媒体は反時計方向に回転する後方コリオリ渦をもたらし、渦は本質的に傾いたタービュータ38と協働して冷却媒体を乱し、局所的にタービュレータの流れ34bを負圧側に沿って後方コリオリ渦と略同一方向に指向する。
【0035】同様に図5は正圧側壁16内の上流への冷却媒体34を示し、対応するコリオリ渦は時計方向に回転する。傾斜タービュレータ38は、選択的に傾いており、タービュレータの流れ34bを正圧側壁に沿って前方コリオリ渦と同方向に局所的に乱して指向する。
【0036】図4および図5に示すように、上流への流路32a内の対向する正圧側壁および負圧側壁上の傾斜タービュレータ38の2つの列は、約30度から約60度であってもよい同じ傾斜角Bをもつことが好ましい。対向するタービュレータは、所望であれば互いに半径方向に整列していてもよく、半径方向にオフセットしていてもよい。
【0037】また、傾斜タービュレータ38は、境界を定める隔壁30の間の流路内の対応する側壁の軸方向の範囲全体に亘って同一の傾斜をもつことが重要である。流路32aでの動翼の相当大きな捩れ角Aに起因して、後方コリオリ渦は主として負圧側壁18にのみ隣接し、前方コリオリ渦は主として正圧側壁16にのみ隣接する。」(段落【0033】ないし【0037】)

(サ)「【0038】図2に示すように、捩れ角Aは流路から流路へ動翼後縁28に向かって大きくなるので、後方コリオリ渦は負圧側壁でその影響が大きくなり、正圧側壁でその影響が小さくなり、同様に前方コリオリ渦は正圧側壁でその影響が大きくなり、負圧側壁でその影響が小さくなる。
【0039】オフセットした流路内部の傾斜タービュレータ38と、その中で発達したコリオリ渦との好ましい配列の重要性は、図4を参照して更に明らかにできる。図示の傾斜タービュレータ38が、120-150度の傾斜角Bで反対に傾斜する場合、局所的なコリオリ渦の方向は、図示のように左側に向かわず図4の右側に向かう冷却媒体のタービュレータに沿った局所的な乱れと反対方向になる。その後、傾斜タービュレータによってもたらされる局所的な流れは、局所的なコリオリ渦の流れと反対になり、局所的な冷却媒体の速度が遅くなり、それに応じて局所的に熱伝達率が小さくなる。
【0040】しかし、図4に示す好適な実施形態において、傾斜タービュレータは冷却媒体を局所的にコリオリ渦と同じ方向に指向し、その速度は付加的で熱伝達率が局所的に大きくなる。」(段落【0038】ないし【0040】)

(シ)「【0043】大きな捩れを有する最初の2つの蛇行流路32a、bを形成する対応する隔壁30には孔がないことが好ましく、これにより強力なコリオリ渦が発生し、協働する傾斜タービュレータによって補われる。また、後縁供給通路32kは大きな捩れを受け、同様に傾斜タービュレータ38を含むことができる。
【0044】供給通路32kの後方隔壁は、小さな衝突ホールの列を含み冷却媒体を後縁流路32hにある正圧側壁内部に吐出する。隔壁孔は比較的小さく相当な圧力降下をもたらすので、供給通路32k内にコリオリ渦をそれでも発生させることができ、その中の熱伝達冷却を高めるために傾斜タービュレータを導入することができる。」(段落【0043】及び【0044】)

(ス)「【0051】図4および図5には、第3の蛇行通路、上流への流路32cに関する、例示的なタービュレータ・シェブロン44の列がより詳細に示されている。各々のタービュレータ・シェブロン44は、対向する障壁から、冷却媒体が流れることができる各リブの共通の尾筒部の形態の頂点へ収束しまたは向かう一対のリブを含んでいる。このタービュレータ・シェブロンは、従来と同様のものであり、Leeによる米国特許第5,797,726号に詳細に説明されており、その全ては本明細書に参照文献として組み込まれている。
【0052】シェブロン44は、正圧側壁および負圧側壁16,18に沿って、通路32c等の軸方向に整列された1つまたはそれ以上の流路内に配置され、冷却媒体をシェブロンに沿って流路内のコリオリ渦と同じ方向に局所的に指向する。
【0053】図2に示すように、タービュレータ・シェブロン44は、流路32c内で両側壁に配置され、負圧側壁18上のシェブロンは、図4に示すように先端部に向かって半径方向外側方向に向かい;正圧側壁16上のシェブロンは、図5に示すように根元部に向かって半径方向内側方向に向かう。
【0054】最初に図2に示したように、両側壁のタービュレータ・シェブロンは、流路32c中の発達した前方および後方のコリオリ渦の一方と相応に協働する。反時計方向の後方渦は、同じ方向の流れ成分を得るために負圧側シェブロンの右半分と協働し、同様に、正圧側シェブロンの右半分と協働する。同様に、時計方向前部コリオリ渦は、同じ方向の冷却媒体の流れ成分を得るために正圧側壁および負圧側壁上の左半分のシェブロンと協働する。
【0055】軸方向に整列される前方流路32c、d、e、gの方向が、横方向にオフセットした後部流路32a、b、h、kに対して異なることに照らして、そこではタービュレータ・シェブロンまたは傾斜タービュレータのいずれかが使用されるが、その逆はない。軸方向に整列した前方流路の前方および後方コリオリ渦は、動翼の正圧側壁および負圧側壁に同様に影響を及ぼすので、タービュレータ・シェブロン44は単独で、タービュレータとコリオリ渦との間で不都合な流れのよどみを生じることなく熱伝達を最大にするのに好適である。」(段落【0051】ないし【0055】)

(2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(ス)並びに図面の記載からみて、次のことが分かる。

(セ)上記(1)の(ア)、(オ)及び(カ)並びに図1及び2からみて、タービン動動翼10は、エーロフォイル、プラットフォーム及びダブテール10bを含んでおり、これらの要素は互いに一体的に接合されたものであることが分かる。
また、前記エーロフォイルが、前記プラットフォームで根元部22から先端部24まで所謂スパンにわたって長手方向に延びる正圧側壁16及び負圧側壁18を含んでおり、前記正圧側壁16及び負圧側壁18が、前縁26と後縁28との間で横方向に離間して配置され、且つ前記根元部22と前記先端部24との間で長手方向に延びる翼弦方向で離間した隔壁30によって互いに接合されて、冷却媒体34を貫流させるための複数の上側及び内側へ流す通路32g,32e,32d,32c,32b,32a,32kを形成しており、これらの内、上側へ流す通路32g,32e,32c,32a,32kは、前記冷却媒体34を長手方向に前記根元部22から前記先端部24へ流し、内側へ流す通路32d,32bは、前記冷却媒体34を長手方向に前記先端部24から前記根元部22へ流していることが分かる。

(ソ)上記(1)の(ア)、(オ)、(カ)及び(ク)ないし(シ)並びに図1及び2からみて、上記(セ)で記述した「上側へ流す通路32g,32e,32c,32a,32k」の内の1つである「通路32k」は、負圧側壁18から延びた、「傾斜タービュレータ38」の列が設けられていることが分かる。
また、当該「傾斜タービュレータ38」は、長手方向に根元部22及び後縁28に向けて傾斜していることが分かる。
なお、前記「通路32k」は、後縁28の側の領域の通路の1つであることが分かる。

(タ)上記(1)の(ア)、(オ)、(カ)、(ク)ないし(ス)及び上記(セ)並びに図1、2、4及び5からみて、タービン動動翼10は、通路として、通路32fと、通路32hと、をさらに含んでおり、タービン動動翼10には、前記通路32f及び前記通路32hの間に複数の「上側及び内側へ流す通路32g,32e,32d,32c,32b,32a,32k」(上記(セ)参照。)が設けられていることが分かる。
また、前記複数の「上側及び内側へ流す通路32g,32e,32d,32c,32b,32a,32k」は、前記「通路32f」と隣接する「通路32g」と、前記「通路32h」と隣接する「通路32k」と該「通路32g」及び「通路32k」間の、中央の領域にある通路32e,32d,32c,32b,32aからなる回路状の流路(以下、「中央の通路32e,32d,32c,32b,32aからなる回路」という。)とからなっており、前記「中央の通路32e,32d,32c,32b,32aからなる回路」が蛇行流路32e,32d,32c,32b,32aを形成していることが分かる。

(3)上記(1)及び上記(2)並びに図面の記載を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「互いに一体的に接合されたエーロフォイル、プラットフォーム、及びダブテール10bを含むタービン動動翼10であって、
前記エーロフォイルが、前記プラットフォームで根元部22から先端部24までスパンにわたって長手方向に延びる正圧側壁及び負圧側壁16,18を含み、
前記正圧側壁及び負圧側壁16,18が、前縁26と後縁28との間で横方向に離間して配置され、且つ前記根元部22と前記先端部24との間で長手方向に延びる翼弦方向で離間した隔壁30によって互いに接合されて、冷却媒体34を貫流させるための複数の上側及び内側へ流す通路32g,32e,32d,32c,32b,32a,32kを形成し、該上側へ流す通路32g,32e,32c,32a,32kは前記冷却媒体34を長手方向に前記根元部22から前記先端部24へ流し、該内側へ流す通路32d,32bは前記冷却媒体34を長手方向に前記先端部24から前記根元部22へ流し、
前記上側へ流す通路32g,32e,32c,32a,32kの内の1つが、
前記負圧側壁18から延びた、傾斜タービュレータ38の列
を含み、
前記傾斜タービュレータ38は、長手方向に前記根元部22及び後縁28に向けて傾斜しており、
前記タービン動動翼10は、通路32fと、通路32hと、をさらに含み、
該通路32f及び該通路32hの間に前記複数の上側及び内側へ流す通路32g,32e,32d,32c,32b,32a,32kが設けられ、
前記複数の上側及び内側へ流す通路32g,32e,32d,32c,32b,32a,32kは、前記通路32fと隣接する通路32gと、前記通路32hと隣接する通路32kと該通路32g及び通路32k間の中央の通路32e,32d,32c,32b,32aからなる回路とからなり、
前記中央の通路32e,32d,32c,32b,32aからなる回路が蛇行流路32e,32d,32c,32b,32aを形成し、
前記傾斜タービュレータ38が、前記通路32kに設けられている
タービン動動翼10。」


3.対比
本件発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「ダブテール10b」は、その機能、形状、構造又は技術的意義からみて、本件発明における「ダブテール」に相当し、以下同様に、「タービン動動翼10」は「タービンロータブレード」に、「根元部22」は「根元」に、「先端部24」は「先端」に、「正圧側壁16」は「正圧側壁」に、「負圧側壁18」は「負圧側壁」に、「前縁26」は「前縁」に、「後縁28」は「後縁」に、「隔壁30」は「隔壁」に、「冷却媒体34」は「冷媒」に、「上側及び内側へ流す通路32g,32e,32d,32c,32b,32a,32k」は「外向き及び内向き流れチャネル」に、「上側へ流す通路32g,32e,32c,32a,32k」は「半径方向外向き流れチャネル」及び「外向きチャネル」のそれぞれに、「内側へ流す通路32d,32b」は「半径方向内向き流れチャネル」に、「通路32f」は「前縁チャネル」に、「通路32h」は「後縁チャネル」に、「通路32g」は「第1のチャネル」に、「通路32k」は「第2のチャネル」に、「中央の通路32e,32d,32c,32b,32aからなる回路」は「中央冷却回路」に、それぞれ相当する。
また、引用文献記載の発明における「負圧側壁18から延びた、傾斜タービュレータ38の列」は、「負圧側壁から延びた、傾斜タービュレータの列」という限りにおいて、本件発明における「負圧側壁から延び、該負圧側壁において互いに同一の第1の傾斜タービュレータの前方列と、前記負圧側壁から延びて、前記第1の傾斜タービュレータと長手方向にオフセットし且つ翼弦方向で重なり合う互いに同一の第2の傾斜タービュレータの後方列と」に相当し、以下同様に、
「傾斜タービュレータ38」は、「傾斜タービュレータ」という限りにおいて、「第1及び第2の傾斜タービュレータ」に、
「中央の通路32e,32d,32c,32b,32aからなる回路が蛇行流路32e,32d,32c,32b,32aを形成し」は、「少なくとも中央冷却回路が翼弦蛇行冷却回路を形成し」という限りにおいて、「中央冷却回路及び第2のチャネルが翼弦蛇行冷却回路を形成し」に、
「傾斜タービュレータ38が、通路32kに設けられている」は、「傾斜タービュレータが、第2のチャネルに設けられている」という限りにおいて、「第1及び第2の傾斜タービュレータが、第2のチャネルに設けられている」に、
それぞれ相当する。

したがって、本件発明と引用文献記載の発明は、次の<一致点>で一致し、<相違点1>及び<相違点2>で相違する。なお、( )内に、相当する本件発明の発明特定事項を示す。

<一致点>
「互いに一体的に接合されたエーロフォイル、プラットフォーム、及びダブテールを含むタービンロータブレードであって、
前記エーロフォイルが、前記プラットフォームで根元から先端までスパンにわたって長手方向に延びる正圧及び負圧側壁を含み、
前記側壁が、前縁と後縁との間で横方向に離間して配置され、且つ前記根元と前記先端との間で長手方向に延びる翼弦方向で離間した隔壁によって互いに接合されて、冷媒を貫流させるための複数の外向き及び内向き流れチャネルを形成し、該半径方向外向き流れチャネルは前記冷媒を長手方向に前記根元から前記先端へ流し、該半径方向内向き流れチャネルは前記冷媒を長手方向に前記先端から前記根元へ流し、
前記外向きチャネルの内の1つが、
前記負圧側壁から延びた、傾斜タービュレータの列
を含み、
前記傾斜タービュレータは、長手方向に前記根元及び後縁に向けて傾斜しており、
前記タービンロータブレードは、前縁チャネルと、後縁チャネルと、をさらに含み、
該前縁チャネル及び該後縁チャネルの間に前記複数の外向き及び内向き流れチャネルが設けられ、
前記複数の外向き及び内向き流れチャネルは、前記前縁チャネルと隣接する第1のチャネルと、前記後縁チャネルと隣接する第2のチャネルと該第1及び第2のチャネル間の中央冷却回路とからなり、
前記少なくとも中央冷却回路が翼弦蛇行冷却回路を形成し、
前記傾斜タービュレータが、前記第2のチャネルに設けられている
タービンロータブレード。」

<相違点1>
外向きチャネルの内の1つ及び第2のチャネルにおける傾斜タービュレータに関し、
本件発明においては、「負圧側壁から延び、該負圧側壁において互いに同一の第1の傾斜タービュレータの前方列と、前記負圧側壁から延びて、前記第1の傾斜タービュレータと長手方向にオフセットし且つ翼弦方向で重なり合う互いに同一の第2の傾斜タービュレータの後方列と」を含むものであり、「第1及び第2の傾斜タービュレータは、長手方向に根元及び後縁に向けて傾斜して」いるのに対し、
引用文献記載の発明においては、「負圧側壁から延びた、傾斜タービュレータ38の列」であり、「傾斜タービュレータ38は、長手方向に根元部22(根元)及び後縁28(後縁)に向けて傾斜して」いる点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
翼弦蛇行冷却回路に関し、
本件発明においては、「中央冷却回路及び第2のチャネルが翼弦蛇行冷却回路を形成し」ているのに対し、
引用文献記載の発明においては、「中央の通路32e,32d,32c,32b,32aからなる回路(中央冷却回路)が蛇行流路32e,32d,32c,32b,32a(翼弦蛇行冷却回路)を形成し」ている点(以下、「相違点2」という。)。


4.当審の判断
(1)相違点1について

(ア)引用文献記載の発明における「通路32k(本件発明の「第2のチャネル」に相当。)」は、コリオリの力により発生する一対の渦の二次流れのある外向きチャネルの内の1つであり且つ後縁側領域のチャネルの1つである(上記2.(1)(ク)【0030】参照。)。また、引用文献記載の発明における、前記「通路32k(第2のチャネル)」に設けられている「傾斜タービュレータ38」は「長手方向に根元部22(本件発明の「根元」に相当。)及び後縁28(本件発明の「後縁」に相当。)に向けて傾斜して」いるものである。

(イ)また、引用文献には、上側へ流す通路32g,32e,32c,32a,32kお内の1つである通路32cにおいて、負圧側壁から延び、該負圧側壁において互いに同一の通路左半分のタービュレータ・シェブロン44(第1の傾斜タービュレータ)の列と、前記負圧側壁から延びて、互いに同一の通路右半分のタービュレータ・シェブロン44(第2の傾斜タービュレータ)の列と、を含む傾斜タービュレータの構造が記載されており(上記2.(1)(ス)【0051】ないし【0053】参照。)、当該構造により、タービュレータとコリオリ渦との間の不都合な流れのよどみを生じさせず熱伝達を最大にするのに好適であることが示唆されている(上記2.(1)(ス)【0054】及び【0055】参照。)。

(ウ)ところで、タービンロータブレードのタービュレータにおいて、テャネル内の冷媒の流れの対処や熱伝達率の向上のため、タービュレータの向き、長さ、あるいはタービュレータ同士の重なりやオフセットを選定することは、当業者が必要に応じて実験等で最適化又は好適化して適宜選定する設計上の事項である。
例えば、原査定の拒絶の理由において引用した特開平11-241602号公報の特に、段落【0050】ないし【0052】、【0065】及び【0066】並びに図1、2、4、5及び10には、熱伝達率向上 のために、コリオリの力により発生する一対の渦である二次流れのある外向きチャネルの内の1つであり後縁側領域のチャネルの傾斜タービュレータを、負圧側壁から延び、該負圧側壁において互いに同一の第1の傾斜タービュレータの前方列と、前記負圧側壁から延びて、前記第1の傾斜タービュレータと長手方向にオフセットする互いに同一の第2の傾斜タービュレータの後方列とから構成し、長手方向に根元及び後縁に向けて傾斜しているものが記載されている。
また、当審の拒絶の理由に提示した米国特許第5681144号明細書の特に、第1欄第5ないし7行、第1欄第22ないし36行、第1欄第45行ないし第2欄第24行、第2欄第27ないし36行、第3欄第19行ないし第4欄第11行、第4欄第12ないし24行及び第7欄第23ないし34行並びに図1、2及び4Cには、タービンロータブレードにおいて、熱伝達率向上のために、チャネルの内の1つが、負圧側壁から延び、該負圧側壁において互いに同一の第1の傾斜タービュレータの前方列と、前記負圧側壁から延びて、前記第1の傾斜タービュレータと長手方向にオフセットし且つ翼弦方向で重なり合う互いに同一の第2の傾斜タービュレータの後方列とを含むようにする技術(以下、「周知技術」という。)が開示されている。
さらに、上記(イ)のように、引用文献には、負圧側壁から延び、該負圧側壁において互いに同一の第1の傾斜タービュレータの列と、前記負圧側壁から延びて、互いに同一の第2の傾斜タービュレータの列と、を含む傾斜タービュレータの構造が記載されている。

(エ)そうすると、引用文献記載の発明において、熱伝達率向上 のための1つとして、コリオリの力により発生する一対の渦である二次流れを有効に対処するため、外向きチャネルの内の1つであり後縁側領域のチャネルの1つである通路32k(本件発明の「第2のチャネル」に相当。)における傾斜タービュレータとして、上記(ウ)のような互いに平行で且つ長手方向にオフセットする第1の傾斜タービュレータと第2の傾斜タービュレータからなるものを適宜選定し、その際、第1の傾斜タービュレータと第2の傾斜タービュレータとの翼弦方向の対抗部分に上記周知技術を参酌してオフセットし且つ翼弦方向で重なり合うようにし、当該相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。

(2)相違点2について
翼弦蛇行冷却回路について、本件発明も引用文献記載の発明もいずれも「中央冷却回路」を含む点で共通する。
また、タービンロータブレードにおいて、翼弦蛇行冷却回路をどのチャネルを含めて形成するかは、当業者が必要に応じて実験等で最適化又は好適化して適宜選定する設計上の事項であり、例えば、平成23年10月26日付けの最後の拒絶理由通知において引用した特開平8-260901号公報の特に、段落【0002】ないし【0005】並びに図7及び8には、タービンロータブレードにおいて、中央冷却回路及び第2のチャネルが翼弦蛇行冷却回路を形成していることが記載されている。
そうすると、引用文献記載の発明において、翼弦蛇行冷却回路を形成するチャネルを「中央の通路32e,32d,32c,32b,32aからなる回路(本件発明の「中央冷却回路」に相当。)を含めて適宜選定し、当該相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者が必要に応じて適宜選定し得る設計上の事項にすぎない。

そして、本件発明を全体として検討しても、本件発明の奏する効果は引用文献記載の発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。


5.むすび

以上のとおり、本件発明は、引用文献記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-24 
結審通知日 2014-01-08 
審決日 2014-01-24 
出願番号 特願2005-255789(P2005-255789)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 泰輔  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 藤原 直欣
柳田 利夫
発明の名称 オフセットされたコリオリタービュレータブレード  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  
代理人 荒川 聡志  

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