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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1288486
審判番号 不服2013-3340  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-21 
確定日 2014-06-12 
事件の表示 特願2007-537712「芳香族化合物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年4月5日国際公開、WO2007/037388〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2006年9月29日(優先権主張2005年9月30日(JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、平成24年5月10日付けで拒絶理由が通知され、同年7月17日に意見書,手続補足書及び手続補正書が提出されたところ、同年11月20日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年2月21日に審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、同年10月22日付けで審尋がされ、同年12月27日に回答書が提出されたものである。

第2 平成25年2月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年2月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正
平成25年2月21日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1である
「エタンまたはエタンを含有する原料ガスを触媒の存在下で反応させて芳香族化合物を生成する芳香族化合物の製造方法において、
前記触媒は、4.5?6.5オングストローム径の細孔を有するシリカおよびアルミナから成るメタロシリケートにモリブデンを担持又はモリブデンに加えて第2金属としてロジウム、白金の何れかを担持して成り、
前記触媒存在下で反応させる際の反応温度は、550℃より高温で750℃未満であること
を特徴とする芳香族化合物の製造方法。」
を、
「メタンとエタンとを含有する原料ガスを触媒の存在下で反応させて芳香族化合物を生成する芳香族化合物の製造方法において、
前記触媒は、4.5?6.5オングストローム径の細孔を有するシリカおよびアルミナから成るメタロシリケートにモリブデンを担持又はモリブデンに加えて第2金属としてロジウム、白金の何れかを担持して成り、
前記触媒存在下で反応させる際の反応温度は、550℃より高温で750℃未満であること
を特徴とする芳香族化合物の製造方法。」
とする補正を含んでいる(審決注:補正箇所に下線を付した。)。

2 補正の適否

(1)補正の目的の適否
この補正は、請求項1に係る発明について、触媒反応を受けさせる原料ガスを、「エタンまたはエタンを含有する原料ガス」から「メタンとエタンとを含有する原料ガス」に補正するものであり、原料ガスの範囲を、必ずメタンとエタンを含有するものに限定するものであるから、上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に記載された特許を受けようとする発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて、以下に検討する。

ア 刊行物
刊行物1:Chinese Chemical Letters,15(5),2004,p.591-593(原審における引用文献5)
刊行物2:特開2005-255605号公報(原審における引用文献9;この出願の優先日におけるゼオライトについての技術常識を示すために引用するものである。)

イ 刊行物の記載事項

(ア)刊行物1
訳文で示す。
(1a)「ベンゼンをより高収率で生成するための少量のエタン共存下でのメタンの脱水素芳香族化」(581頁、タイトル)
(1b)「要約:メタンの脱水素芳香族化を少量のエタンを添加して調べた.より高い空間速度でより高いベンゼン収率が達成された.CO_(2) の添加が安定性を改善した.」(591頁5?7行)
(1c)「近年,メタンの脱水素芳香族化(methane dehydroaromatization;MDA)が,メタンの酸化的カップリング(methane oxidative coupling;MOC)^(1-6) よりも,天然ガスの化学的変換のための効率的なアプローチを探ることに関して,より注意を引くようになってきた.ゼオライトの担体効果又はFe,Co及びCuのような遷移金属促進剤の効果に関する研究が報告されている^(7).XRD,NMR,温度プログラム酸化(temperature programmed oxidation;TOP),TG-DTAなどを用いた触媒構造決定及び活性サイトの同定も報告されている^(4,6,8).
活性を改善し芳香族化合物のより高い収率を得るために、いくつかのアプローチがされている^(2,3).我々の以前の研究では,メタン供給物に少量のエタンを加えることにより,ベンゼン生成の顕著な促進が達成された^(3).本研究は,より高い空間速度で,メタンの脱水素芳香族化反応において少量のエタンを加えることに関する.反応中の炭素の堆積はTPO試験及びN_(2) 吸着分析により調べた.」(591頁9?21行)
(1d)「結果と考察
ゼオライトZSM-5に担持されたMo触媒を含浸法により作成し,その含浸した試料は105℃で2時間乾燥し,500℃で6時間焼成し,その寸法は20-40メッシュとした.MDA試験は石英製のフローマイクロリアクターで行った.触媒試料はHe中で前処理し,次に反応供給物中で試験し,反応生成物を2つのオンラインのガスクロマトグラフで分析した.反応後の触媒は,TPO及びN_(2) 吸着試験で測定した.MDAは725℃及び3気圧で行われ,空間速度2700mL/g-catal./hrにおいて,メタン転化率7.8%、ベンゼン収量は1140nmol-C/g-catal./sec(単位は炭素基準.例えば,1分子のベンゼンC_(6)H_(6) には6個の炭素原子があり,1分子のエタンC_(2)H_(6) には2個の炭素原子がある.)だった.少量のエタンの添加は,ベンゼンの生成速度と芳香族化合物の収量を改善させることができた.触媒作用への空間速度の効果は,CH_(4) への6.3%のC_(2)H_(6) の共供給物を用いて調べ,メタンの空間速度は1000mL/g/hrから5400mL/g/hrとし,結果を図1に示した.ベンゼンの生成速度は,SVm=1000mL/g/hrでは僅か550nmol-C/g-catal./secだったが,空間速度の増加と共に線形に増加し,SVm=5400mL/g/hrでは4510nmol-C/g-catal./secに達した.ナフタレンの生成速度は空間速度の増加に伴い同様の増加傾向を示し,水素の生成速度も同様であった.」(591頁22行?592頁12行)
(1e)「

」(592頁、「空間速度SVmの触媒作用への影響」と題する図1。横軸はSVm。縦軸左は生成速度。縦軸右はH_(2) 生成速度。図の下の説明は「T=725℃,P=3気圧,触媒=6%Mo/HZSM-5,CH_(4)+6.3(V)%C_(2)H_(6)」)
(1f)「触媒作用は空間速度1000,1800,2700mL/g/hrで7時間の試験中,安定だった.」(592頁下から5?下から4行)

(イ)刊行物2
(2a)「【請求項1】低級炭化水素を含んだガスをモリブデンと白金族系の金属成分を担持した低級炭化水素直接改質触媒と反応させて低級炭化水素を転化する低級炭化水素の転化方法であって、前記ガスを前記低級炭化水素直接改質触媒と反応させる際、前記ガス中に水素を添加することを特徴とする触媒を用いた低級炭化水素の転化方法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1)
(2b)「【0009】前記低級炭化水素直接改質触媒は還元性ガス供給のもとモリブデンと白金族系の金属成分を担持したメタロシリケートを炭化処理することで生成される。この触媒において担持される前記白金族元素としてはルテニウムやロジウム等がある。・・・
【0010】また、前記メタロシリケートとしては、例えばアルミノシリケートの場合、シリカおよびアルミナから成る4.5?6.5オングストローム径の細孔を有する多孔質体であり、モレキュラーシーブ5A,フォジャサイト(NaYおよびNaX),ZSM-5,MCM-22等が例示される。・・・」

ウ 刊行物に記載された発明
上記イ(ア)の摘示(1a)?(1f)によれば、刊行物1には、
「メタンに6.3%のエタンを添加した供給物を、ゼオライトZSM-5にMoを6%担持した触媒の存在下、725℃、3気圧で脱水素芳香族化反応させて、ベンゼン、ナフタレン及び水素を生成させる方法」
の発明(以下「引用発明」という。)が、記載されているといえる。

エ 対比・判断

(ア)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「メタンに6.3%のエタンを添加した供給物」は、本願補正発明の「メタンとエタンとを含有する原料ガス」に相当し、
引用発明の「ゼオライトZSM-5にMoを6%担持した触媒の存在下・・・脱水素芳香族化反応させて、ベンゼン、ナフタレン・・・を生成させる方法」は、本願補正発明の「触媒の存在下で反応させて芳香族化合物を生成する芳香族化合物の製造方法」に相当し、
引用発明の反応温度の「725℃」は、本願補正発明における反応温度の「550℃より高温で750℃未満である」の範囲内にある。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、
「メタンとエタンとを含有する原料ガスを触媒の存在下で反応させて芳香族化合物を生成する芳香族化合物の製造方法において、前記触媒存在下で反応させる際の反応温度は725℃である、芳香族化合物の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。
(相違点1)
触媒が、本願補正発明においては「4.5?6.5オングストローム径の細孔を有するシリカおよびアルミナから成るメタロシリケートにモリブデンを担持又はモリブデンに加えて第2金属としてロジウム、白金の何れかを担持して成り」と特定されているのに対し、引用発明においては「ゼオライトZSM-5にMoを6%担持した触媒」であり、担体にモリブデンを担持してなるものであるものの、担体であるゼオライトZSM-5が「4.5?6.5オングストローム径の細孔を有するシリカおよびアルミナから成るメタロシリケート」であるか明らかでない点

(イ)判断
相違点1について検討する。
ゼオライトZSM-5が「4.5?6.5オングストローム径の細孔を有するシリカおよびアルミナから成るメタロシリケート」に該当するものであることは、技術常識であって、例えば請求人の出願に係る公開特許公報である刊行物2にも示されている(摘示(2b))。また、この出願の明細書においても、本願補正発明で用いる「4.5?6.5オングストローム径の細孔を有するシリカおよびアルミナから成るメタロシリケート」を説明するものとして、「ZSM-5」が例示されている(段落【0060】)。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点でない。

オ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
したがって、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、その余について検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明
平成25年2月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、この出願の発明は、平成24年7月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「エタンまたはエタンを含有する原料ガスを触媒の存在下で反応させて芳香族化合物を生成する芳香族化合物の製造方法において、
前記触媒は、4.5?6.5オングストローム径の細孔を有するシリカおよびアルミナから成るメタロシリケートにモリブデンを担持又はモリブデンに加えて第2金属としてロジウム、白金の何れかを担持して成り、
前記触媒存在下で反応させる際の反応温度は、550℃より高温で750℃未満であること
を特徴とする芳香族化合物の製造方法。」

第4 原査定の理由
原査定の理由である平成24年5月10日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由は、その理由1及び理由2であり、その理由1は「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に・・・頒布された下記の刊行物に記載された発明・・・であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない」というものであり、その「下記の刊行物」には、引用文献5としてChinese Chemical Letters,15(5),2004,p.591-593(上記第2の2(2)アの刊行物1と同じ。以下「刊行物1」という。)が含まれる。その「下記の請求項」には、上記刊行物1との関係で請求項1が含まれる。
そして、拒絶査定は、本願発明が、刊行物1に記載された発明であることを、その理由に含むものである。

第5 当審の判断

1 刊行物、刊行物の記載事項、刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、その記載事項及び刊行物1に記載された発明は、上記第2の2(2)ア、イ(ア)及びウに記載したとおりである。
また、この出願の優先日におけるゼオライトについての技術常識を示すために引用した刊行物2及びその記載事項は、上記第2の2(2)ア及びイ(イ)に記載したとおりである。

2 対比・判断

(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「メタンに6.3%のエタンを添加した供給物」は、本願発明の「エタンまたはメタンを含有する原料ガス」に相当し、
引用発明の「ゼオライトZSM-5にMoを6%担持した触媒の存在下・・・脱水素芳香族化反応させて、ベンゼン、ナフタレン・・・を生成させる方法」は、本願発明の「触媒の存在下で反応させて芳香族化合物を生成する芳香族化合物の製造方法」に相当し、
引用発明の反応温度の「725℃」は、本願発明における反応温度の「550℃より高温で750℃未満である」の範囲内にある。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「エタンまたはエタンを含有する原料ガスを触媒の存在下で反応させて芳香族化合物を生成する芳香族化合物の製造方法において、前記触媒存在下で反応させる際の反応温度は725℃である、芳香族化合物の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。
(相違点2)
触媒が、本願発明においては「4.5?6.5オングストローム径の細孔を有するシリカおよびアルミナから成るメタロシリケートにモリブデンを担持又はモリブデンに加えて第2金属としてロジウム、白金の何れかを担持して成り」と特定されているのに対し、引用発明においては「ゼオライトZSM-5にMoを6%担持した触媒」であり、担体にモリブデンを担持してなるものであるものの、担体であるゼオライトZSM-5が「4.5?6.5オングストローム径の細孔を有するシリカおよびアルミナから成るメタロシリケート」であるか明らかでない点

(2)判断
相違点2について検討すると、上記第2の2(2)エ(イ)で検討したのと同様であって、上記相違点2は実質的な相違点でない。

3 まとめ
したがって、本願発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-10 
結審通知日 2014-04-15 
審決日 2014-04-30 
出願番号 特願2007-537712(P2007-537712)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 品川 陽子  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 齋藤 恵
木村 敏康
発明の名称 芳香族化合物の製造方法  
代理人 鵜澤 英久  
代理人 橋本 剛  
代理人 鵜澤 英久  
代理人 橋本 剛  
代理人 小林 博通  
代理人 小林 博通  

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