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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1288497
審判番号 不服2013-14037  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-22 
確定日 2014-06-12 
事件の表示 特願2009- 48222「Al合金反射膜、及び、自動車用灯具、照明具、装飾部品、ならびに、Al合金スパッタリングターゲット」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月16日出願公開、特開2010-204291〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年 3月 2日の出願であって、平成24年 9月27日付けで拒絶理由が通知され、同年11月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年 4月18日付けで拒絶査定され、これを不服として、同年 7月22日に審判請求がされるとともに手続補正がなされたものである。


第2 補正の却下の決定
平成25年 7月22日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成24年11月26日に提出された手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)明細書及び特許請求の範囲を補正するものであり、特許請求の範囲の請求項1についての補正の内容(補正事項)は、請求項1に係る発明において、
(1)「Sc、Y、La、Gd、Tb、Luの1種以上の元素:合計で2.5?20at%」との元素の含有範囲において、「但し、2.5?10at%を除く」こと、及び
(2)「Al合金反射膜」が「耐アルカリ性に優れた」ものであることを限定すること、
である。

2 補正の目的の適否及び新規事項の有無
上記補正事項(1)は、原査定の拒絶の理由で挙げられた引用文献2に記載された「Sc、Y、La、Gd、Tb、Ni等の元素のうち少なくとも1種以上を合計で2.5?10at%含有するAl合金皮膜」を、「除くクレーム」により除外することを目的としたものである。そして、当該「除くクレーム」とすることにより、除外した範囲と残した範囲において、目的、効果等の格別な相違を主張する新たな技術思想を限定するものでもない。
また、上記補正事項(2)の「耐アルカリ性に優れたAl合金反射膜」とした補正は、【0019】の「本発明に係るAl合金反射膜は、保護膜がなくても優れた耐アルカリ性(アルカリに対する耐食性)、耐酸性(酸に対する耐食性)および耐湿性(高温多湿環境での耐性)を有して、保護膜が不要となる。従って、保護膜を要することなく、反射膜として好適に用いることができ、この際、保護膜形成による生産性の低下がなく、また、耐久性向上がはかれて有用である。」との記載を根拠としたものである。
したがって、いずれも出願当初明細書に記載された事項の範囲内においてなされた補正であり、上記補正事項(1)は、選択的な数値範囲の一部を削除したものであり、また、上記補正事項(2)は、限定的減縮を目的とする補正であることは明らかである。

よって、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たし、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、以下、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定を満たすか)否かについて、請求項1に係る発明について検討する。

3 独立特許要件を満たすか否かの検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
自動車用灯具、照明具、または装飾部品に用いられるAl合金反射膜であって、
Sc、Y、La、Gd、Tb、Luの1種以上の元素:合計で2.5?20at%(但し、2.5?10at%を除く)、残部Alおよび不可避的不純物からなることを特徴とする耐アルカリ性に優れたAl合金反射膜。」

(2)原査定の拒絶の理由の概要と引用文献の表示
ア 拒絶の理由の概要
「引用文献2には、Sc、Y、La、Gd、Tb、Ni等の元素のうち少なくとも1種以上を合計で0.1?10at%含有するAl合金をスパッタリングターゲットとして反射膜を形成することが記載されている(特許請求の範囲等参照)。そうすると、本願の請求項1、2、4、6、7に係る発明は、引用文献1又は2に記載された発明であるか、或いは、引用文献1又は2の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
・・(略)・・
元素の具体的含有量をどの程度とするかは、当業者が必要に応じて適宜設定し得る事項であり、本願請求項に特定の範囲を選択した点に格別の効果は認められない。
・・(略)・・
請求項5において、反射膜を使用する物品を特定した点について、特に例示するまでもなく周知の、反射鏡を用いる物品を単に特定した点に困難性は認められない。」)

イ 引用された引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2件のうち引用文献2は、次のとおり。
・特開平7-301705号公報

なお、拒絶査定において、本願の請求項1に特定される用途に関して、広く一般的に用いられる用途であるとして、次の3件が例示された。
・特開平2-109003号公報
・特開2002-214418号公報
・特開平10-197708号公報

(3)引用刊行物の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された、本願の出願の日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平7-301705号公報(以下「刊行物1」という。)には、「Al合金薄膜およびAl合金薄膜形成用スパッタリングターゲット」(発明の名称)に関して、図1とともに、次の記載がある。
(なお、下線は、当審で付加したものである。以下同様。)
(刊1ア)「【0006】ところがAlは耐食性に劣るため、高温あるいは高湿度の環境下で長期間使用すると、Al薄膜が腐食して反射率の低下を引き起こし、レーザー光反射膜として機能しなくなるという難点がある。
【0007】本発明は前記した事情に着目して、従来製品の問題点を解消した高機能の新規Al合金薄膜およびそのAl合金薄膜形成用スパッタリングターゲット、すなわち、安価で、優れた耐食性および高反射率を有し、レーザー光反射膜として好適に使用し得るAl合金薄膜およびそのAl合金薄膜形成用スパッタリングターゲットを提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、レーザー光反射鏡としてのAl合金薄膜を形成するための素材であるスパッタリングターゲットとして、遷移元素を含むAl合金が優れた機能を発揮し、得られたAl合金薄膜よりなるレーザー光反射鏡の特性を向上させるという知見を得て、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】すなわち、上記知見に基づいた本発明は、合金成分として周期率表IIIa族(Sc、Y 、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy)、IVa 族(Ti、Zr、Hf)、Va族(V 、Nb、Ta)、VIa 族(Cr、Mo、W )、VIIa族(Mn、Tc、Re)、VIII族(Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)の遷移元素のうちの1種以上を、合計で 0.1?10at%含有するAl合金よりなることを特徴とするAl合金薄膜を要旨としており、またこの薄膜を形成する合金で構成されたスパッタリングターゲットを要旨とするものである。さらに前記合金により構成されたレーザー光反射膜も本発明の要旨である。
【0010】・・(略)・・
【0012】Alに、合金成分として周期率表IIIa族(Sc、Y 、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy)、・・(略)・・の遷移元素のうちの1種以上を含有させると、その含有量の増加にともなって耐食性が向上する。
【0013】これは次の理由によるものである。すなわち、平衡状態において、遷移元素はAlに対する固溶限は極めて小さいが、スパッタリング法で形成されるAl合金薄膜では、スパッタリング法固有の気相急冷によって固溶限以上の強制的な固溶が可能となる。これらの遷移元素は化学的に安定な不働態を形成することから耐食性が向上するのである。
【0014】かかる効果は周期率表IIIa族(Sc、Y 、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy)、・・(略)・・の遷移元素のいずれにおいても得られ、これら遷移元素から選択される1種以上の元素を同時に含有させた場合でも同様の効果が得られることが判明した。
【0015】遷移元素添加による耐食性の向上に反して、その含有量増加に伴い、Al合金反射膜の反射率は低下する。しかし、遷移元素含有量が 0.1?10at%の範囲内における反射率低下の程度は、実用上問題とならないほど小さいことも確認された。
【0016】前記遷移元素の含有量は合計で 0.1?10at%にする必要がある。その理由は、含有量の増加に伴って耐食性は向上するが、 0.1at%未満では合金における遷移元素の固溶量が少なすぎて耐食性向上効果が十分でなく、また、10at%を超えた含有量では耐食性は十分に向上するものの、固溶量が多すぎて反射率が大きく低下し、反射膜としての機能を十分果たすことができなくなるからである。
【0017】本発明に係るAl合金薄膜は、スパッタリング法により形成されることが望ましい。その理由は、真空蒸着法、化学気相蒸着法等の薄膜形成法と比較して、スパッタリング法は合金薄膜組成の安定性に優れ、また、遷移元素は平衡状態ではAlに対する固溶限が極めて小さいが、スパッタリング法で形成されたAl合金薄膜では、スパッタリング法固有の気相急冷によって固溶限以上の強制的な固溶が可能となることから、他の薄膜形成法により形成されたAl合金薄膜と比較して、より耐食性の高いものが得られるからである。」

(刊1イ)「【0019】
【実施例】本発明の実施例を説明するが、これによって本発明は何ら限定されるものではない。
実施例1
Sc、Y 、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ti、Zr、Hf、V 、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptをそれぞれ所定量含有するAl合金スパッタリングターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法により、10mm×20mmのガラス基板上に厚さ 1μm のAl合金薄膜を形成した。
【0020】・・(略)・・
【0023】酸性溶液(pH=3.2)および中性溶液(pH=8.0)のいずれの場合も、遷移元素を含有させたAl合金薄膜の不働態保持電流密度は、純Al薄膜と比較して低くなっており、純Al薄膜よりも耐食性に優れていることがわかる。
【0024】実施例2
実施例1の場合と同様のスパッタリングターゲットを用いて、同様のスパッタリング法により、厚さ1.27mmの透明ポリカーボネート樹脂基板上に、厚さ50nmのAl合金薄膜を形成したのち、この薄膜上にアクリル樹脂よりなる厚さ10μm の保護膜をスピンコートにより塗布し、硬化させて試料を得た。
【0025】この試料について、波長 780nmのレーザー光による反射率を、透明ポリカーボネート樹脂基板側から測定した。検討した遷移元素の元素含有量と反射率との関係を図1、図2および図3に示す。
【0026】図1、2、3に示すように、遷移元素をAl合金薄膜に含有させることにより、反射率(初期反射率)は低下していく傾向にあるが、含有量が 0.1?10at%の範囲においては、いずれの合金薄膜も60%以上の高い反射率を示すことがわかる。」

(刊1ウ)図1は、Al合金薄膜における元素(Sc、Y、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy)の含有量と反射率との関係を示す説明図であって、元素含有量が10at%以下では、反射率が、概ね60%程度以上であり、元素含有量が10at%を超えると、反射率は概ね50?60%の範囲内となることが示されている。

上記記載事項(刊1ア)?(刊1ウ)によれば、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「Sc、Y、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dyをそれぞれ所定量含有するAl合金スパッタリングターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法により、ガラス基板上または透明ポリカーボネート樹脂基板上に形成したAl合金薄膜であって、スパッタリング法固有の気相急冷によって固溶限以上の強制的な固溶を可能とし、合金成分としての遷移元素が化学的に安定な不働態を形成することで耐食性を向上させるが、
Al合金の合金成分の含有量が、0.1at%未満では合金における遷移元素の固溶量が少なすぎて耐食性向上効果が十分でなく、また、10at%を超えた含有量では耐食性は十分に向上するものの、固溶量が多すぎて反射率が大きく低下することから、
安価で、優れた耐食性および60%以上の高反射率を有し、レーザー光反射膜として好適に使用し得る、合金成分として、周期率表IIIa族(Sc、Y、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy)の遷移元素のうちの1種以上を、合計で 0.1?10at%含有するAl合金よりなるAl合金薄膜」

イ 原査定の拒絶の理由で周知例として引用された本願の出願の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平2-109003号公報(以下「周知例1」という。)には、「反射鏡」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(周1ア)「[産業上の利用分野]
本発明は、光の全反射を行う反射鏡に関する。
更に詳しくは、光線反射層の基体への膜付けが強固で、耐環境性に優れ、そして生産性の優れた反射鏡に関する。」(1頁右下欄5?9行)

(周1イ)「そして、これらを基体とする本発明の反射鏡は例えば、レーザービームプリンター、特にレーザー光学系における45°ミラー、ポリゴンミラー、自動車の反射ミラー、液晶デイスプレーにおける背面光源用ミラーとして有用である。」(2頁左下欄3?7行)

ウ 原査定の拒絶の理由で周知例として引用された本願の出願の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2002-214418号公報(以下「周知例2」という。)には、「反射ミラー及び中空導波路」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(周2ア)「【0002】
【従来の技術】従来、レーザ光は、医科、歯科医療その他において切開、切除、蒸散、凝固などに用いられており、例えば処置部位に所望角度でレーザ光を照射するためのレーザハンドピースは、レーザ光を出射する出射部にレーザ光反射ミラーを備えている。」

(周2イ)「【0100】また、有機被膜が形成された反射ミラーは、汚れが付着しにくく、汚れの除去も容易であるので、例えば図2の構成の反射ミラーは、レーザ光反射用に限らず、一般のミラーとして広く利用することが可能である。例えば、洗面台や浴室の化粧ミラー、自動車のバックミラー、見通しの悪い交差点や道路の湾曲部等に設けられたカーブミラー等に適用することができる。」

エ 原査定の拒絶の理由で周知例として引用された本願の出願の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-197708号公報(以下「周知例3」という。)には、「温度検査用の反射鏡装置」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(周3ア)「【0002】
【従来の技術】従来、光源を有する反射鏡は例えば舞台照明あるいは自動車のヘッドライト、また自転車や懐中電灯などに使われる反射鏡が有る。また露光装置用の反射鏡として熱を吸収する手段を有するコールドミラーが有る。またプリント配線基板の焼付ける露光装置用のランプとして、水銀ハロゲンが使用されるので、反射鏡本体も高温の状態になっている。
【0003】反射鏡は高いキロワットのランプ又はレーザー光線等により、被照明体に与える障害を低減するために、前記するように熱吸収手段として、黒色熱吸収層を施し、この吸収された熱が被照明体に当てないようにする、所謂熱吸収式のコールドミラーが有るが、・・(略)・・」

オ 本願の出願の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2008-77929号公報(以下「周知例4」という。)には、「エクステンションの着色方法および当該のエクステンションを備える車両用灯具」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(周4ア)「【背景技術】
【0002】
従来のこの種のヘッドライトの反射面90の構成の例を断面図で示すものが図5であり、この反射面90は不透明な樹脂基材90aで形成され、光源91、92からの光を反射するリフレクタ部93、94と、エクステンションと称されて光源91、92からの光を反射することのない装飾部95、96とが設けられている。
【0003】
そして、前記反射面90の照射方向前方の全面には反射率を30?65%としたクロムスパッタリングによりハーフミラー97が形成され、更にリフレクタ部93、94とする部分には、前記ハーフミラー97を覆いアルミニウム蒸着面98が形成され略100%の反射率とされる。尚、前記アルミニウム蒸着面98を覆っては必要に応じて透明樹脂層などにより保護用のトップコート99が施されている。
【0004】
このようにすることで、装飾部95、96と、リフレクタ部93、94とは、クロムとアルミニウムとの色調の差、および、反射率の差により一体の反射面90に複数のリフレクタ部93、94が設けられているときにも、観視者には装飾部95、96との区別が行えるものとなり、デザイン的なアクセントが得られるものとされている。
・・(略)・・
【0009】
尚、図6に示す車両用灯具21の構成は、図1に示した車両用灯具1に準じるものとして示してあり、符号22はリフレクタ、符号23は光源、符号24はアウターレンズ、符号25はエクステンションをそれぞれ表すものとしている。」

カ 本願の出願の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2004-122366号公報(以下「周知例5」という。)には、「樹脂部材及び車両用灯具」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(周5ア)「【請求項1】
光不透過性の樹脂基材上にスパッタリングによりハーフミラー蒸着面を形成し、該ハーフミラー蒸着面の上に、アルミニウム蒸着面を形成した反射鏡面と、アルミニウム蒸着面を形成しない非反射鏡面とを形成したことを特徴とする樹脂部材。
【請求項2】
前記ハーフミラー蒸着面をクロムスパッタリングにより形成したことを特徴とする請求項1に記載の樹脂部材。
【請求項3】
前記ハーフミラー蒸着面の反射率を30-65%としたことを特徴とする請求項2に記載の樹脂部材。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の樹脂部材からなるエクステンションを備えたことを特徴とする車両用灯具。」

(周5イ)「【0011】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、車両用灯具の樹脂部材に対して塗装することなく色彩的にデザイン性を高めることを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明では、光不透過性の樹脂基材上にスパッタリングによりハーフミラー蒸着面を形成し、前記ハーフミラー蒸着面の上に、アルミニウム蒸着面を形成した反射鏡面と、アルミニウム蒸着面を形成しない非反射鏡面とを形成したことを特徴とする。
【0013】・・(略)・・
【0033】
ところで、一般にスパッタリングの時間が長いほどハーフミラー蒸着面30の厚さが厚くなる。また、スパッタリングの時に供給する出力が大きいほどハーフミラー蒸着面30の膜厚が厚くなる。そこで、スパッタリングの出力と時間を調整することにより、ハーフミラー蒸着面30の厚さを自在に調整することができる。また、ハーフミラー蒸着面30の厚さと反射率とは、図6に示したように、厚さ15nmまでは厚さとともに反射率が高くなり、反射率65%で頭打ちとなる関係があるので、スパッタリングの出力と時間を調整することよって、ハーフミラー蒸着面30の反射率も自在に調整することができる。」

(4)対比
ア 本願補正発明と引用発明との対比
(ア)引用発明の「Al合金薄膜」は、「レーザー光反射膜として好適に使用し得る」膜、すなわち反射膜として用いるものであるから、本願補正発明の「Al合金反射膜」に相当する。
(イ)引用発明の「周期率表IIIa族(Sc、Y、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy)の遷移元素のうちの1種以上」と、本願補正発明の「Sc、Y、La、Gd、Tb、Luの1種以上の元素」とは、「Sc、Y、La、Gd、Tbの1種以上の元素」である点で一致する。
(ウ)引用発明の「優れた耐食性」と、本願補正発明の「耐アルカリ性に優れた」とは、「耐食性に優れた」点で一致する。

イ 一致点及び相違点
上記「ア(ア)」?「ア(ウ)」から、本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は、次のとおりとなる。
(ア)一致点
「Al合金反射膜であって、
Sc、Y、La、Gd、Tbの1種以上の元素と残部Alを含む耐食性に優れたAl合金反射膜」
(イ)相違点
*相違点1:「Al合金反射膜」の用途が、本願補正発明は、「自動車用灯具、照明具、または装飾部品に用いられるAl合金反射膜」であるのに対して、引用発明には、そのような用途が特定されていない点。
*相違点2:本願補正発明では、「Sc、Y、La、Gd、Tb、Luの1種以上の元素:合計で2.5?20at%(但し、2.5?10at%を除く)」であるのに対して、引用発明では、「周期率表IIIa族(Sc、Y、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy)の遷移元素のうちの1種以上を、合計で 0.1?10at%含有」している点。
*相違点3:Al以外の合金成分が、本願補正発明では、「Sc、Y、La、Gd、Tb、Luの1種以上の元素」及び「不可避的不純物」であるのに対して、引用発明では、「周期率表IIIa族(Sc、Y、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy)の遷移元素のうちの1種以上」以外の他の成分についての特定がなされていない点。
*相違点4:「耐食性に優れた」点が、本願補正発明では「耐アルカリ性に優れ」ているのに対して、引用発明ではそのような特定がなされていない点。

(5) 相違点の判断
ア 相違点3について
引用発明のAl合金薄膜は、「Sc、Y、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dyをそれぞれ所定量含有するAl合金スパッタリングターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法により、ガラス基板上または透明ポリカーボネート樹脂基板上に形成したAl合金薄膜」であり、また、引用発明を認定した刊行物1には、合金成分について、スパッタリングターゲットにAlと所定の遷移元素以外の合金成分を混在させることは説明されておらず、合金成分に含有させる遷移元素の量のみの変化に応じた耐食性を検討して、遷移元素の含有量が多ければ耐食性が向上するが反射率が低下するということを見出した旨説明されており、引用発明が他の元素を積極的に含有させることを想定していないことは明らかである。
してみると、引用発明において、「Sc、Y、La、Gd、Tbの遷移元素のうちの1種以上」を含有するAl合金において、合金成分の残部を、Alのみとし、他の金属を含有させずに結果として意図しない「不可避不純物」のみが含有されている合金とすることは、当業者ならば当然考慮すべき設計事項にすぎない。

イ 相違点1及び2について
レーザー光の反射用(反射鏡、45°ミラー、ポリゴンミラー)に用いる膜と、自動車の反射ミラー(上記記載事項(周1イ))、自動車のバックミラー(上記記載事項(周2イ))、自動車のヘッドライト、また自転車や懐中電灯などに使われる反射鏡(上記記載事項(周3ア))に用いられる膜とを、同様の材料からなる反射膜を適用する技術分野として想定していることは、上記周知例1?3に記載されているように、周知の技術事項である。
また、上記各技術分野においては、その反射の目的に応じた反射率を適宜設定することが周知であり、例えば、ヘッドライト(車両灯具)の反射面の一部において、「反射率を30?65%」程度とすることも、上記周知例4、5の記載事項(周4ア)、(周5ア)及び(周5イ)に記載されているように、周知の技術事項である。
一方、刊行物1には、その図1に、Al合金薄膜における元素(Sc、Y、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy)の元素含有量が10at%以下では、反射率が、概ね60%程度以上であり、元素含有量が10at%を超えると、反射率は概ね50?60%程度となること(上記記載事項(刊1ウ))が示されている。
してみると、60%以上の反射率を必要とするレーザー光反射膜においては、「周期率表IIIa族(Sc、Y、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy)の遷移元素のうちの1種以上を、合計で 0.1?10at%含有するAl合金よりなるAl合金薄膜」とすることが必要であるものの、刊行物1の図1によれば、上記のようにAl合金薄膜における元素(Sc、Y、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy)の元素含有量が10at%を超えると、反射率は概ね50?60%程度となること、また、レーザー用の反射膜と自動車のヘッドライト等に用いる膜を同様の膜とすること及びヘッドライト(車両灯具)の反射面において、30?65%の反射率の膜を用いることは、いずれも周知の事項であるから、引用発明におけるAl合金薄膜において、50?60%程度の反射率となるAl合金薄膜における元素(Sc、Y、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy)の元素含有量として、10at%を超えるものを採用することで、自動車のヘッドライト等に用いるAl合金薄膜とすることは、当業者ならば容易に想到し得た事項である。

ウ 相違点4について
(ア)本願の出願当初明細書には、下記の事項が記載されている。
a 「【0024】
Alに希土類元素(以下、REMともいう):2.5at%以上を添加すると、純Alの理論反射率である88%よりも反射率は低下するが、充分に優れた耐湿性が確保できると共に、耐酸性および耐アルカリ性が向上するため、保護膜無しでも劣化することなく反射膜として適用できる。
【0025】
AlにREMを含有させると、耐湿性が大きく低下することはなく、充分に優れた耐湿性が確保でき、また、酸性環境下では、浸漬電位が純Alのときよりも卑な電位となるため、Alが溶解しにくくなり、Alの溶解速度が小さくなる。また、このREMを含有させたAl合金(以下、Al-REM合金ともいう)は、アルカリ性環境下では、REMが浸漬電位を卑にすると共に、溶解中に水酸化物としてAl-REM合金の表面に析出して濃縮し、これが保護膜となって溶解速度が小さくなる。しかしながら、REMの中でも、Eu、Sm、Ybは、アルカリに浸漬されるとイオンとなって溶液中に溶解して、Al-REM合金の表面に析出しないので、溶解速度を低減する効果が少ない。このため、溶解速度を低減するのに有効なREMは、Sc,La,Ce,Nd,Pr,Gd,Dy,Tb,Ho,Er,Tm,Lu,Yである。更に、・・(略)・・
【0027】
Sc等〔Sc?Lu(Sc、Y、La、Gd、Tb、Lu)の1種以上の元素〕の添加量は合計で2.5?20at%が好ましい。Sc等:2.5at%未満だと、アルカリ溶解速度が十分低下しないため、保護膜なしで使用するとAlが溶けてしまい、反射率が低下してしまう。より好ましくは、3.0at%以上である。一方、Sc等:20at%超だと、加熱・冷却下での耐熱性が低下し、加熱・冷却過程でAl合金膜(Al-Sc等合金膜、即ち、Sc等含有Al合金膜)にシワが発生する。このシワ発生は加熱時に塑性変形していることが原因と考えられることから、Sc等の含有によって延性が低下しないものと考えられる。
【0028】
上記事項に基づき、本発明に係るAl合金反射膜は、Sc等を合計で2.5?20at%含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものとした〔第1発明〕。上記事項からわかるように、本発明に係るAl合金反射膜は、保護膜がなくても優れた耐アルカリ性、耐酸性および耐湿性を有しており、このため、保護膜が不要となる。・・(略)・・
【0030】
Sc等を6at%よりも多くAlに添加すると、反射率を84%未満にできる。Sc等以外の元素を添加した場合でも反射率を低下させることはできるが、この場合は固溶強化もしくは析出強化によりAl合金膜が硬化し、加熱・冷却下での耐熱性が低下し、加熱・冷却過程でAl合金膜にクラックが生じることがある。しかし、Sc等を含有させた場合には、このようなクラックの発生が起こらない。ただし、Sc等を多量(20at%超)に含有させた場合には、Al合金膜にシワが発生する。Sc等の含有量が20at%以下の場合、このようなシワ発生も起こらなくて優れた耐熱性を有することができ、かつ、反射率を70%程度まで低下させることができる。従って、本発明に係るAl合金反射膜においてSc等の含有量を6at%超20at%以下に特定した場合、反射率を84%未満70%程度以上と低くすることができる〔第3発明〕。よって、この場合のAl合金反射膜は、前述のような充分な耐熱性を確保した上で、前述のような優れた耐アルカリ性、耐酸性および耐湿性を有することができて保護膜が不要となると共に、反射率を84%未満70%程度以上と低くすることができるものであるといえる。反射率を84%未満70%程度以上と低くすることができると、かかる反射率を得ようとする際に、スモーク塗料を塗る必要がなく、ひいては、スモーク塗料等の塗布による生産性の低下がない。
【0031】・・(略)・・
【0052】・・(略)・・即ち、本発明の第2発明例である実施例1-1?12の場合、初期反射率:84%以上88%未満を有すると共に、保護膜なしでも上記のような優れた耐アルカリ性、耐酸性および耐湿性を有する。
【0053】・・(略)・・
【0064】・・(略)・・ 即ち、本発明の第3発明例である実施例2-1?4の場合、初期反射率を84%未満70%程度以上と低くすることが可能であるとともに、保護膜なしでも上記のような優れた耐アルカリ性、耐酸性および耐湿性を有し、また、上記のような優れた耐ヒートクラック性を有して耐熱性良好である。」
b 表1から、Al合金膜の合金成分において、Laが1.9at%の場合(比較例1-3)では、耐アルカリ試験が不合格であるが、Sc、Y、La、Gd、Tb、Luでは、少なくともGdが2.4at%(実施例1-8)以上であれば、耐アルカリ試験には合格していることが、また、表2においては、少なくともYが8.1%(実施例2-2)以上であり、Laが22.4at%(比較例2-2)であっても、耐アルカリ試験に合格していることが看取できる。

(イ)本願当初明細書の上記各記載事項の記載を整理すれば、Al合金膜の合金成分においてSc、Y、La、Gd、Tb、Luの1種以上の元素が2.5?20at%含まれており、残部がAlおよび不可避的不純物であれば、Al合金膜自体が、耐アルカリ性に優れているものであると説明していることは明らかである。
してみると、上記相違点1?3の検討のように、引用発明において、Al合金の合金成分をSc、Y、La、Gd、Tbの1種以上の元素が10%以上とし、残部がAlおよび不可避的不純物とすることが容易に想到しうるものであるから、上記本願当初明細書の説明によれば、このようなAl合金膜も「耐アルカリ性に優れた」膜となっていることは明らかである。

エ また、相違点1?4に係る各構成を採用することにより、格別顕著な効果を奏するものとは認められず、相違点1?4に係る構成に基づく相乗的な効果も見いだせない。

(6) まとめ
以上のとおり、引用発明において、上記相違点に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到できたものであり、本願補正発明は、刊行物1に記載された引用発明及び周知例1?5に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正の却下の決定の結論
したがって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明
1 上記「第2 補正の却下の決定」での検討のとおり、平成25年 7月 22日に提出された手続補正書による本件補正は却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、本件補正前の請求項1?10に記載されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
自動車用灯具、照明具、または装飾部品に用いられるAl合金反射膜であって、
Sc、Y、La、Gd、Tb、Luの1種以上の元素:合計で2.5?20at%、残部Alおよび不可避的不純物からなることを特徴とするAl合金反射膜。」

2 引用刊行物の記載事項
刊行物1の記載事項及び周知例1?5の記載事項については、前記「第2 3 (3)」のとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 1」及び「第2 2」で検討したように、本願補正発明は、補正前の請求項1に係る発明に、「(但し、2.5?10at%を除く)」、「耐アルカリ性に優れた」との各構成を追加したものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これをより限定したものである本願補正発明が、上記「第2 3」において検討したとおり、刊行物1に記載された引用発明及び周知例1?5に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知例1?5に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 結言
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知例1?5に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-01 
結審通知日 2014-04-08 
審決日 2014-04-23 
出願番号 特願2009-48222(P2009-48222)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀井 康司  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 藤原 敬士
鉄 豊郎
発明の名称 Al合金反射膜、及び、自動車用灯具、照明具、装飾部品、ならびに、Al合金スパッタリングターゲット  
代理人 坂谷 亨  
代理人 竹中 芳通  
代理人 武仲 宏典  
代理人 亀岡 誠司  

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