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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1288565
審判番号 不服2011-22417  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-17 
確定日 2014-06-09 
事件の表示 特願2006-518352「血管新生および/または血管透過性増大に関連する疾患の処置における、プラチナ系抗腫瘍剤および任意の電離放射線と組み合わせてのキナゾリン誘導体ZD6474の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月20日国際公開、WO2005/004870、平成19年 9月20日国内公表、特表2007-526886〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年7月7日(パリ条約による優先権主張2003年7月10日、2004年3月24日、及び2004年4月6日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成22年11月11日付けで拒絶理由が通知され、平成23年5月25日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

2.平成23年10月17日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年10月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正
本件補正は、平成23年5月25日付け手続補正書に記載された請求項3、すなわち、
「【請求項3】ヒトなどの温血動物での抗腫瘍効果の創出に使用する医薬の製造における、ZD6474またはその医薬的に許容できる塩、およびプラチナ系抗腫瘍剤の使用。」を、
「【請求項3】ヒトなどの温血動物での抗腫瘍効果の創出に使用する医薬の製造における、ZD6474またはその医薬的に許容できる塩、およびプラチナ系抗腫瘍剤の使用あって、
プラチナ系抗腫瘍剤がシスプラチン及びオキサリプラチンからなる群から選択される、
前記使用。」とする補正を含むものである。

上記補正は、請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項である「プラチナ系抗腫瘍剤」を「シスプラチン及びオキサリプラチンからなる群から選択される」ものに限定するものであって、その補正の前後において、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であると認められるから、特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項3に記載した発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)引用例の主な記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな「Clinical Cancer Research, 2000年, Vol.6, p.2053-2063](以下、「引用例A」という。)には、次の事項が記載されている。

(a-1)「上皮細胞増殖因子受容体に選択的なチロシンキナーゼ阻害剤であるZD1839(イレッサ))によるヒト腫瘍細胞における抗腫瘍効果及び細胞毒性薬剤の活性の増強作用
要約:
形質転換成長因子α(TGF-α)は、ヒト腫瘍に対する自己分泌性の成長因子である。TGF-α及びその特異的受容体である上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)の過剰発現は侵襲性の疾病及び乏しい予後と関連している。このEGFRは抗腫瘍治療の標的として提案されてきた。リガンドで誘起されるEGFRの活性化を阻害する化合物類が開発されてきた。ZD-1839(イレッサ)は経口で活性な、選択的にEGFRチロシンキナーゼを阻害するキナゾリン誘導体であり、腫瘍患者における臨床試験が進展中のものである。ZD-1839単独での抗増殖活性又は作用機構の異なる細胞毒性の薬剤(例えばシスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、ドキソルビシン、エトポシド、トポテカン、及びラルチトレックスト)と併用した場合の抗増殖活性を、ヒトの卵巣(OVCAR-3)、肺(ZR-75-1、MCF-10A ras)、及び結腸腫瘍(GEO)細胞であって、EGFR及びTGF-αを共に発現しているものにおいて評価した。ZD-1839はソフト寒天におけるコロニーの形成を用量依存的にすべての腫瘍細胞系において阻害した。この抗増殖効果は主として細胞増殖抑制的なものであった。しかしながら、より高用量での処置によれば、アポトーシスが2-4倍増加した。用量依存的な成長阻害についての相加効果を超える効果が、腫瘍細胞を各細胞毒性の薬剤とZD-1839で処置した場合に観察された。この併用処置は顕著に単剤処置で誘起されるアポトーシス的な細胞死を高めた。確立されたヒトGEO結腸腫瘍異種移植片を担持するヌードマウスをZD-1839で処置すると、可逆的で用量依存的腫瘍成長の阻害を示した。この理由は、GEO腫瘍が処置の終点において対照と同様な成長速度を取り戻したからである。対照的に、細胞毒性の薬剤(例えば、トポテカン、ラルチトレックスト又はパクリタキセル)とZD-1839の併用により、すべてのマウスにおいて腫瘍成長が阻止された。処置後に腫瘍は徐々に約4-8週間の間成長し、最終的には対照と同様な成長速度を取り戻した。すべての対照マウスにおいて、GEO腫瘍はGEO細胞の注入後4-6週以内に正常な生活におけるサイズと匹敵しないサイズに達し、またすべての単剤処置されたマウスでは、6-8週内にそのようなサイズに達した。対照的に、ZD-1839とトポテカン、ラルチトレックスト、又はパクリタキセルと併用処置されたマウスの50%は、腫瘍細胞注入後それぞれ10,12及び15週でもまだ生存していた。これらの結果は、このEGFR-選択的なチロシンキナーゼ阻害剤の抗腫瘍効果を実証し、細胞毒性薬剤と併用する場合の臨床的評価に対する理論的根拠を提供するものである。」(冒頭部分)
(a-2)「図3 ZD-1839(0.01,0.05及び0.1μM)とシスプラチン(A),カルボプラチン(B),オキサリプラチン(C)、パクリタキセル(タキソール;D)又はドセタキセル(タキソテレ;E)の併用処置の、OVCAR-3細胞のソフト寒天における成長に対する成長阻害効果。細胞を示された濃度の細胞毒性薬剤で1日目に処置し、その後、示された濃度のZD-1839を2?6日目のそれぞれで処置した。10-14日後にコロニーを数えた。データは3つの異なる実験の平均である(それぞれを三つ組で行った;バーはSD)。(2056頁)

また、同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな「Clinical Cancer Research, 2003年4月,Vol.9,p.1546-1556」(以下、「引用例B」という。)には、次の事項が記載されている。

(b-1)「小分子の血管内皮細胞増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤であり、さらに上皮細胞増殖因子受容体チロシンキナーゼに対する付加的な活性を有するZD-6474の抗腫瘍活性
要約:
目的:血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は内皮細胞に対する主要な有糸分裂促進因子であり、血管透過性を亢進させる。ヒトの腫瘍において、亢進したVEGFの分泌が見出され、これは新生血管形成と関連する。ZD6474は、経口で 生物学的に利用可能なVEGF flk-1/KDR受容体(VEGFR-2)チロシンキナーゼ阻害剤であり、多くのヒト腫瘍の異種移植片において抗腫瘍活性を有し現在臨床研究のフェーズIの最中である。
実験計画:
われわれは、機能的な上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)を発現している細胞におけるZD6474のEGFRリン酸化に対する効果、及びZD6474単独又はタキサン類と組み合わせた場合の、機能的なEGFRは有するがVEGFR-2を有していないヒト腫瘍細胞系における抗増殖性及びアポトーシス促進性を試験した。この薬剤の抗腫瘍活性もまた、確立されたGEO結腸腫瘍異種移植片を有するヌードマウスで試験した。」(冒頭部分)

(b-2)「ZD6474はアニリノキナゾリンである。キナゾリンは種々の増殖因子受容体チロシンキナーゼの低分子阻害剤の最も有望なクラスの1つである。この点に関して、別のアニリノキナゾリン誘導体であるZD1839(イレッサ)は、強力でかつ選択的なEGFR-TKIであり、現在臨床開発が進められている。」(1547頁右欄下から19?13行)

(b-3)「図1Aに図示したように、ZD6474で処置後にEGFRチロシンキナーゼ活性の用量依存性の阻害が観察(IC_(50):0.25μM)された。この効果はNIH-EGFR細胞をZD1839(本実験において、積極的な対象として含まれる強力で選択的なEGFR-TKI)で処理することで観察される効果と比較しうるものであった(下線は合議体が付与)。1μMのZD6474又は1μMのZD1839で処理したNIH-EGFR細胞抽出物の抗EGFR Mabによる免疫沈殿及び引き続く抗ホスホチロシン抗体ウェスタンブロット後にEGFR自己リン酸化の阻害も検知された(図1B)。同様な用量依存性のEGFRリン酸化阻害が、等量のZD6474又はZD1839(0.1,0.5又は1μM;図2)で処置後に、ヒトのMCF-10Aのras-形質転換した哺乳類の上皮細胞においても実証された。
ZD6474が腫瘍細胞の成長に直接的抗増殖作用を示すかどうかを調べるために、7つのヒト腫瘍細胞系(肺(ZR-75-1, MCF-10A ras),卵巣(OVCAR-3、非小細胞肺(CALU-6),)直腸(GEO))、胃(AGS,MNK-28)の腫瘍細胞を含む)(これらは機能的なEGFRsを有しEGFR-特異的なリガンドである高レベルのTGF-αを分泌するものの、VEGFR-1及びVEGFR-2は有していない)(38及びわれわれの未発表のデータを参照)を異なった用量のZD6474で、足場非依存性増殖アッセイにおいて処置した。図3Aに示されるように、ZD6474で処置した結果、柔寒天において用量依存的なコロニー形成の阻害が起きた(IC_(50)は、0.5と1μMの間にわたる)。一般に、ZD1839のような選択的EGFR阻害剤又は阻害性の(blocking)抗EGFR MabCはG1相において細胞周期停止を伴う細胞増殖抑制効果を有する(35,40)。しかしながら、腫瘍細胞系によっては、EGFR阻害剤は、とくに高い用量では、アポトーシスも引き起こすかもしれない(35,41)。ZD6474での処置がなんらかの細胞サイクルの特異的な混乱を引き起こすかどうかを評価するために、異なった用量でのZD6474で処置されたGEO及びOVCAR-3細胞の分析をおこなった(表1)。対照の非処置細胞と比較すると、ZD6474での処置は両方の細胞系においてG_(0)-G_(1)相の細胞の蓄積をもたらした。例えば、GEO細胞においては、G_(0)-G_(1)細胞の百分率はZD6474、1μMで処置後に61%から84%に増加した(表1)。次に、われわれはZD6474で誘起された抗増殖効果がプログラムされた細胞死を伴うかどうかを評価した。図3B-Eは、アポトーシスの用量依存性の増加が4つのヒト腫瘍細胞系で観察されたことを示している。これらの細胞はZD6474(6倍まで、5μMのZD6474)で処置されたものである。ZD6474の処置によるアポトーシスの誘導は、断片化されたDNAを、OVCAR-3及びGEO腫瘍細胞をプロピディウムヨウ化物による染色でフローサイトメトリー評価することにより確認した(図4,A及びB)。」(1551頁右欄7行?同欄下から7行)

(b-4)「われわれ及び他の研究者らは、EGFRシグナリングの阻害は、異なる細胞毒性性薬剤の抗腫瘍活性を増強し、この効果がタキサン類についてはとくに強力であることを実証してきた(15,16,39-45)。ZD6474によるこの効果を調べるために、GEO細胞を用いた。その理由は、われわれは以前に、この腫瘍細胞系がEGFR阻害抗体、EGFRアンチセンスオリゴヌクレオチド、及びチロシンキナーゼ阻害によるEGFRシグナリングの阻害に感受性があることを示したからである(11,35,39)。図5に示したように、異なる濃度のZD6474とドセタキセル又はパクリタキセルの併用により処置されたGEO結腸腫瘍細胞において、ソフト寒天におけるコロニー形成について相加的効果を超えるような成長阻害効果が観察された。ドセタキセル又はパクリタキセルの抗増殖効果の同様な増強効果(potentiation)が、他の6個のヒト腫瘍細胞系をZD6474で処置したときにも観察された(図6及び示されないデータ)。」(1551頁右欄下から6行?1552頁左欄9行)

(b-5)「つぎに、われわれはこのタキサン類及びZD6474の共作用的な成長阻害効果がプログラムされた細胞死の誘導を包含しうるかどうかを検討した。OVCAR-3,ZR-75-1、MCF-10A ras及びGEO細胞を0.25nMのドセタキセル又は1nMのパクリタキセル単独又は0.5μMのZD6474と併用して処置した。この用量(0.5μM)は、アポトーシスのわずかな増加しか誘起しない用量である。これらの実験において、ZD6474は試験された4つの腫瘍細胞系それぞれにおいて両方のタキサン類で誘起されたアポトーシスを約2倍?3倍増強した(図7)。」(1552頁左欄10行?同欄18行)

(b-6)「GEO腫瘍成長はまたインビボでもZD6474によって阻害された。確立されたGEO腫瘍異種移植片(容量0.25cm^(3))を担持するヌードマウスをZD6474で処置(25-150mg/kg/日)したところ、用量依存性の腫瘍成長阻害を起こした(図8A)。この効果は、細胞毒性というよりもむしろ細胞増殖抑制的なものであった。実際、GEOは,処置終了後1-2週間内に対照と匹敵する成長速度を取り戻した(データ示さず)。ZD6474での処置は、マウスに急性又は遅れての毒性の徴候を全く示すことなく、充分耐性があった。GEO細胞が適度に分化した腺がん(免疫不全のマウスに皮下注射で投与した場合にEGFR及びTGF-α、bFGF及びVEGFを包含する種々の自己分泌及び傍分泌性の成長因子を発現する(11))を形成するので、われわれは、インビボでこれら成長因子の産生についてのZD6474処置の効果を評価した。処置後2週間の終わりにGEOについてなされたTGF-α、bFGF、及びVEGFの発現の免疫組織学的評価により、すべての3つの成長因子(これらはGEO腫瘍細胞の用量依存性の増殖において類似していた)に対して陽性のGEO細胞の百分率が顕著にかつ用量依存的に減少したことがわかった(表2)。これはKi67核染色によってアッセイされた。同一の腫瘍試料について、われわれはVEGFの発現をウエスタンブロット法で調べた(図9)。われわれはZD6474で処置(25mg/kg/用量又は50mg/kg/用量、図9,それぞれレーン3及び4)されたマウスから得られたGEO腫瘍についてVEGFの発現が顕著に阻害されていることを観察した。さらに、ZD6474を用いた処理による血管新生に対する直接的な効果を評価するために、腫瘍で誘起された血管新生を、免疫組織化学により、もっとも強い血管新生の領域において、抗因子VIII関連の抗原であるMAbを用いて定量化した(11,16)。ZD6474による処置によりMVCは実質的にかつ用量依存的に減少した。実際、MVCの50%の減少が最小の試験用量(25mg/kg/用量)で検知され、一方、MVCのほとんど完全な抑制が100又は150mg/kg/用量で観察された。」(1552頁左欄19行?同頁右欄下から4行)

(b-7)「われわれは、以前に、ZD1839のような抗EGFRに選択的な薬剤がGEO異種移植片を担持するヌードマウスにおいて有意に細胞毒性を有するパクリタキセルの抗腫瘍活性を高めることを実証した(39)。以前の研究によれば、少なくともいくつかのセッティングにおいて、パクリタキセルによる処置はインビボで腫瘍の血管新生に影響を与えるかもしれないことも実証した(46)。したがってわれわれはパクリタキセルとZD6474の組合わせ処置の効果を試験した。確立したGEO異種移植片(容量で0.25cm^(3))を担持しているマウスにパクリタキセルを4週の各1日目に与え、及び/又はZD6474(範囲、25-150mg/kg/用量)で4週の各1日目?5日目に与えた。図8Bに示されるように、パクリタキセルと併用されたZD6474の抗腫瘍効果は、各薬剤単独での処置よりも大きかった。ここで4週間後の時点で腫瘍成長の抑制は、両方の併用処置群で対照群と比較して又は単独薬剤で処置された群より大きかった(表3)。たとえば、パクリタキセルとZD6474(100又は150mg/kg/用量)で処置されたマウスにおけるGEO腫瘍は平均腫瘍容量が、それぞれ86(±4)又は108(±6)日で約2cm^(3)に達した。これに対して、対照の未処置マウスでは28(±3)日だった(表3)。さらに、この併用処置はまた、腫瘍を根絶する治癒に関しても高度に有効であった。なぜなら、GEO腫瘍の組織学的なエビデンスは、それぞれ、10匹のマウスのうち2匹で、及びこれら2群のマウスにおいて10匹のマウスのうち4匹において、何ら観察されなかったからである(表3)。ZD6474とパクリタキセルの併用処置は試験された用量及び計画において,マウスが充分に耐性であり、有意の体重減少又は他の急性もしくは遅れての毒性の徴候は全くなかった。パクリタキセルでの処置は、わずかにのみTGF-α、bFGF及びVEGFの発現に影響し、対照マウスと比べて18乃至15のMVC/フィールドにおいてMVCの減少を誘起した。
対照的に、ZD6474(25又は50mg/kg/用量)及びパクリタキセルの併用処置後にTGF-α、bFGF及びVEGFの最大の抑制及びMVCの最大の抑制が一般に観察された(表2)。最後に、GEO腫瘍抽出物についてのウエスタンブロット法による分析により、VEGFの発現の減少が、ZD6474とパクリタキセルの併用処置後ほとんど検知できないレベルになったことを示した(図9)。」(1552頁右欄下から3行?1553頁右欄30行)

(b-8)「さらに、われわれは、ZD-1839又は他の抗EGFR薬剤(例えばC225)(35,41)で得られた結果と同様に、パクリタキセル又はドセタキセルとZD6474の併用治療によって、プログラムされた細胞死の誘導、インビトロでの細胞毒性及びインビボでの抗腫瘍活性について有意の相乗作用(potentiation)を見出した。」(1554頁左欄10-15行)

(3)対比
上記(a-1)及び(a-2)の記載からみて、引用例Aには、上皮成長因子受容体(EGFR)の活性を阻害することが知られているキナゾリン誘導体であるZD-1839が腫瘍患者における臨床試験が進展中であること、及び、ZD-1839と、プラチナ系抗腫瘍剤であることが周知のシスプラチン又はオキサリプラチンとを併用処置した場合に、ヒトの卵巣細胞腫瘍であるOVCA-Rの成長阻害効果がそれぞれを単独使用した場合の成長阻害効果よりも優れた効果が得られたことが記載されていることから、引用例Aには、「EGFR阻害剤であるZD-1839とプラチナ系抗腫瘍剤であるシスプラチン又はオキサリプラチンとを併用することからなるヒトの腫瘍に対する抗腫瘍効果を有する医薬」の発明が記載されていると認められ、これを、本願補正発明の記載に倣って書き換えると、「ヒトの腫瘍に対する抗腫瘍効果を有する医薬の製造における、ZD-1839とプラチナ系抗腫瘍剤であるシスプラチン又はオキサリプラチンとの使用」(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、ZD-6474とZD-1839はいずれも、抗EGFR薬剤の一種であるから、両者は「ヒトでの抗腫瘍効果を創出する医薬の製造における、抗EGFR薬剤とプラチナ系抗腫瘍剤の使用であって、プラチナ系抗腫瘍剤がシスプラチン及びオキサリプラチンからなる群から選択される、前記使用」に関する点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
前者においては、抗EGFR薬剤として、ZD-6474を使用しているのに対して、後者においては、ZD-1839を使用している点。

(4)当審の判断
そこで、相違点について検討する。

上述のとおり、引用例Aには、上皮成長因子受容体(EGFR)が抗腫瘍治療の標的として提案されてきたこと(上記(a-1))、ZD-1839(イレッサ)が選択的にEGFRチロシンキナーゼを阻害するキナゾリン誘導体であること(上記(a-1))、抗腫瘍患者における臨床試験が進展中であること(上記(a-1))が記載され、さらに作用機構の異なる細胞毒性のシスプラチン、オキサリプラチンなどの薬剤と併用した場合にこれら薬剤を単独で使用した場合に比較して、腫瘍細胞を用量依存的に成長阻害し、その効果はそれぞれを単独使用した場合を超える効果が得られたことが記載されている(上記(a-1)及び(a-2))。
そして、引用例Bには、アニリノキナゾリン構造を有する点でZD-1839と化学構造が共通する ZD-6474が、EGFRチロシンキナーゼ阻害活性を有すること(上記(b-1)(b-2))及び、ZD-6474が7つのヒト腫瘍細胞系において用量依存的にコロニー形成を阻害したこと(上記(b-3))が記載され、ZD-6474がZD-1839と同様の抗腫瘍活性を有することが記載されている。そして、ZD-6474と他の抗腫瘍剤との併用についても、プラチナ系抗腫瘍剤との併用については記載はないものの、他の細胞毒性薬剤(例えばパクリタキセルなど)と併用した場合に、増強された抗腫瘍活性が得られることも記載されている(上記(b-4)?(b-8))。さらに、ZD-6474は、マウスに投与した場合に「急性又は遅延しての毒性の徴候を全く示すことなく,十分耐性があった。」と記載(上記(b-7))され、ある程度の安全性が期待できることも示されている。しかも、ZD1839とZD6474は、いずれもタンパク質キナーゼの活性を低下させる抗腫瘍剤として、本願優先日において周知のものである。(必要なら、WO2003/013541を参照。)
そうすると、引用例A,Bの記載に接した当業者であれば、ZD-1839と同じくタンパク質キナーゼの活性を低下させる抗腫瘍剤として本願優先日において周知の医薬であり、かつ、引用例Bにおいて、(シスプラチンやオキサリプラチン等のプラチナ系抗腫瘍剤との併用処置は行っていないものの)異なる作用機序を有する抗腫瘍薬剤との併用処置で好成績を収め、ZD-1839と同程度のEGFRチロシンキナーゼ活性の阻害効果を有し、なおかつある程度の安全性も予測させる記載がなされているZD-6474を、引用発明において用いられているZD-1839に代えて用いることは、当業者が容易に想到し得るものと認められる。

なお、ZD-1839はイレッサの名称で、本願優先日前に、既に、非小細胞癌を対象とする医薬品として市販されていたところ、単剤として上記市販開始後に、重篤な副作用が報告された結果、本願優先日前の2002年10月にその添付文書が改訂されその重篤な副作用(間質性肺炎)についての警告が赤色で表示された(イレッサ錠の添付文書第3版(2002年10月改訂)参照)ものであって、ZD-1839に代わるEGFRチロシンキナーゼ阻害剤を探索して選択肢を増やす、ないしはより安全なものを探索するという課題が、本願優先日当時、当業者に存在していたものと認められることを考え合わせると、なおのこと、ZD-6474を採用することは容易であったといえる。

そして、その奏する抗腫瘍効果についても、本願明細書でいう「相乗効果」とは、「併用処置の各成分のいずれかの常用量投与によって達成されるものより療法効果が優れている場合、併用処置は相乗効果を与える」と定義されており(段落【0047】)、本願明細書及び図面の記載からも、シスプラチンを併用した場合、図1に示されているとおり、それぞれを単独で使用する場合よりも抗腫瘍効果が優れている程度の効果が示されているにすぎない。そして、そのような効果は、引用例A及びBの記載から、ZD-6474とシスプラチン又はオキサリプラチンを併用することにより得られると予想される効果の範囲内のものであり、格別顕著な効果であると認めることはできない。
また、請求人が本願補正発明の効果を裏付けるものとして、参考資料1,2を提出するが、そのそも、ZD-6474とシスプラチン又はオキサリプラチンを併用することにより、いわゆる相乗効果(すなわち、相加効果を超える効果)を奏することは、本願明細書に記載のなかった事項であり、仮に、本願発明に含まれる一部の態様について、いわゆる相乗効果を奏することが示されたとしても、それが本願発明全体が奏する効果でないことは、本願明細書及び図面における上記記載からも明らかである。むしろ、参考資料2は、その相乗効果は投与順序依存性であり、特定の投与順序においてのみ優れた効果を奏するもので、それ以外の投与順序では拮抗的に作用してしまうことを記載(同資料の冒頭部分)するものであるから、投与順序を限定しない本願発明が、拮抗的に作用する態様を包含することを示しているといえる。
したがって、参考資料1,2の記載を参酌しても、本願補正発明が格別顕著な効果を奏したものとは認められない。

よって、本願補正発明は、引用例A及びBに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成23年10月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項3に係る発明は、平成23年5月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「【請求項3】ヒトなどの温血動物での抗腫瘍効果の創出に使用する医薬の製造における、ZD6474またはその医薬的に許容できる塩、およびプラチナ系抗腫瘍剤の使用。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその主な記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明における「プラチナ系抗腫瘍剤がシスプラチン及びオキサリプラチンからなる群から選択される」との限定を含まないものであるから、本願補正発明を包含するものである。
そうすると、本願発明に含まれる本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例A及び引用例Bに記載された発明、並びに周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例A及び引用例Bに記載された発明、並びに周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-16 
結審通知日 2014-01-17 
審決日 2014-01-28 
出願番号 特願2006-518352(P2006-518352)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森井 隆信松波 由美子  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 渕野 留香
増山 淳子
発明の名称 血管新生および/または血管透過性増大に関連する疾患の処置における、プラチナ系抗腫瘍剤および任意の電離放射線と組み合わせてのキナゾリン誘導体ZD6474の使用  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 富田 博行  
代理人 寺地 拓己  

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