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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07C
審判 全部無効 2項進歩性  C07C
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07C
管理番号 1288893
審判番号 無効2012-800158  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-10-02 
確定日 2013-09-02 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4969575号発明「緑色発光化合物及びこれを発光材料として採用している光発光素子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は,2006年8月14日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2005年8月16日,2006年8月8日 韓国(KR))を国際出願日とし,名称を「緑色発光化合物及びこれを発光材料として採用している光発光素子」とする発明について特許出願(特願2008-526873号)されたものであって,平成24年4月13日に,特許第4969575号として設定登録がなされた(請求項の数3。以下,その特許を「本件特許」といい,その明細書を「本件明細書」といい,特許請求の範囲を「本件特許請求の範囲」といい,特許権者であるグレイセル ディスプレイ インクを「被請求人」という。)。
本件特許について,出光興産株式会社(以下,「請求人」という。)から,本件無効審判の請求がなされた。その手続の経緯は以下のとおりである。

平成24年10月 2日 審判請求書・甲第1?11号証提出(請求人)
同年11月 2日 手続補正書(請求人)
平成25年 2月 8日 答弁書・乙第1号証提出(被請求人)
同日 訂正請求書(被請求人)
同年 3月29日 審判事件弁駁書・甲第12,13号証提出
(請求人)
同年 4月24日 審理事項通知書
同年 5月23日 口頭審理陳述要領書・甲第14?19号証提出
(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書・乙第2号証提出
(被請求人)
同年 6月 6日 第1回口頭審理
同年 6月13日 上申書・甲第20?22号証提出(請求人)
同日 上申書・乙第2号証再提出(被請求人)
同年 6月20日 上申書(請求人)
同日 上申書(被請求人)
同年 7月 3日 補正許否の決定
同年 7月10日 審理終結通知

第2 訂正の可否についての当審の判断
1 訂正の内容
被請求人は,審判長が審判請求書の副本を送達し,被請求人が答弁書を提出するために指定した期間内である平成25年2月8日に訂正請求書を提出して,本件明細書及び本件特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求めた(以下,「本件訂正」という。)。
訂正の内容は,以下のとおりである。

(1)訂正事項1
本件特許請求の範囲の請求項1に,
「上記化学式1及び化学式2から選択される一つ以上の有機発光化合物をドーパント物質として含み」とあるのを,
「上記化学式1から選択される一つ以上の有機発光化合物をドーパント物質として含み」に訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許請求の範囲の請求項1に,
「上記化学式1または化学式2のR_(1)及びR_(2)は、各々独立に2つ以上の芳香族環が縮合された縮合多環芳香族環であり」とあるのを,
「上記化学式1のR_(1)及びR_(2)は、各々独立に2-フルオレニルまたは4-ビフェニルであり」に訂正する。

(3)訂正事項3
本件特許請求の範囲の請求項1に,
「上記化学式3または化学式4のR_(11)及びR_(12)は、各々独立にC_(6)?C_(20)の芳香族環または縮合多環芳香族環であり」とあるのを,
「上記化学式3または化学式4のR_(11)及びR_(12)は、各々独立に2-ナフチル、2-フレオレニル、または4-ビフェニルであり」に訂正する。

(4)訂正事項4
本件特許請求の範囲の請求項1に,
「R_(13)は、水素、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基、ハロゲン基、C_(5)?C_(7)のシクロアルキル基、またはC_(6)?C_(20)の芳香族環または縮合多環芳香族環であって」とあるのを,
「R_(13)は、フェニル、2-ナフチル、2-フレオニル、または4-ビフェニルであって」に訂正する。

(4)訂正事項5
本件特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(5)訂正事項6
本件特許請求の範囲の請求項3の化学式(16),(17),(20),(21),(22),(26),(27),(28),(29),(30),(31),(32),(33),(36),(39),(42),(43),(44)で表される化合物を削除する。

3 判断
上記訂正事項の適否について検討する。

(1)訂正事項1
訂正事項1は,請求項1において,「上記化学式1及び化学式2から選択される一つ以上の有機発光化合物」を「上記化学式1から選択される一つ以上の有機発光化合物」と,並列的に記載された発明特定事項の一部である「化学式2」の選択肢を削除して,特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また,訂正事項1は,上記のように,請求項1において,訂正前の請求項1の発明特定事項の選択肢の一部を削除するものであるから,願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであって,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではなく,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は,請求項1において,「化学式1のR_(1)及びR_(2)」は「2つ以上の芳香族環が縮合された縮合多環芳香族環」であることを「2-フルオレニルまたは4-ビフェニル」であることに訂正するものであるが,訂正前の請求項1の「2つ以上の芳香族環が縮合された縮合多環芳香族環」との記載は,請求人が主張するように,「環の原子を2個以上共有している」「縮合環」の意味であると解すると,以下のとおり,本件明細書の記載全般と整合せず,この意味で一義的に明確であるとはいえない。
そこで,本件明細書の発明の詳細な記載を参酌すると,「従って、本発明による化合物である化学式1または化学式2の化合物は、・・・R_(1)及びR_(2)に2つ以上の芳香族環が縮合された縮合多環芳香族環が置換されたことを特徴とし、前記縮合多環芳香族環は、各々独立に、ナフチル、アントリル、フルオランテニル、ピレニル、フルオレニル、ビフェニル及びペリレニル基であることが好ましい。」と記載され(【0025】参照),好ましい化学式1の化合物として「化学式1のR_(1)及びR_(2)」が「2-フレオニル」である化合物(12),「4-ビフェニル」である化合物(13)が記載され(【0028】,【0029】参照),さらに,実施例ではドーパント物質(化学式1)として,化合物(12),(13)が用いられている(【表1】,【表2】参照)から,これらの記載全般と整合するように理解すれば,訂正前の請求項1の「2つ以上の芳香族環が縮合された縮合多環芳香族環」には,「2-フルオレニル」,「4-ビフェニル」が含まれるものの意味として記載されていたと理解するのが相当である。
そうすると,訂正事項2は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」又は同条同項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
また,訂正事項2は,上記のように,請求項1において,訂正前の「2つ以上の芳香族環が縮合された縮合多環芳香族環」に含まれていた「2-フルオレニルまたは4-ビフェニル」に限定し,上記の本件明細書の記載(【0025】)は願書に最初に添付した明細書にも記載されていたから,願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであって,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではなく,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3
訂正事項3は,請求項1において,「化学式3または化学式4のR_(11)及びR_(12)」は「C_(6)?C_(20)の芳香族環または縮合多環芳香族環」であることを「2-ナフチル、2-フルオレニルまたは4-ビフェニル」であることと訂正するものであるが,訂正前の請求項1の「C_(6)?C_(20)の」「縮合多環芳香族環」との記載は,請求人の主張のように「環の原子を2個以上共有している」「縮合環」の意味であると解すると,以下のとおり,本件特許請求の範囲,本件明細書の記載全般と整合せず,この意味で一義的に明確であるとはいえない。
そこで,訂正前の請求項1を間接的に引用する訂正前の請求項3をみると,化学式3または化学式4として,化合物(18),(19),(24),(25),(29),(30),(32),(33),(40),(41)など,「化学式3または化学式4のR_(11)及びR_(12)」が「2-フルオレニル」,「4-ビフェニル」の化合物が含まれるように記載され,また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,「前記化学式3または化学式4の範囲は、具体的には、R_(11)乃至R_(13)が各々独立に、フェニル、2-ナフチル、2-アントリル、2-フルオランテニル、1-ピレニル、2-フルオレニル、4-ビフェニル及び3-ペリレニル基で例示できる。」と記載され(【0037】参照),また,「化学式3」に含まれる化合物として,「R_(11)及びR_(12)」が「2-フレオニル」,「4-ビフェニル」である化合物(18),(19),(24),(25),(29),(30),(32),(33),(40),(41)が記載され(【0038】,【0039】参照),さらに,実施例としてホスト物質(化学式3)として,化合物(18),(19),(24),(25)が用いられている(【表2】参照)から,これらの記載と整合するように理解すれば,訂正前の請求項1の「R_(11),R_(12)」が「C_(6)?C_(20)の・・・縮合多環芳香族環」であるときには,「2-フルオレニル」,「4-ビフェニル」が含まれるものの意味として記載されていたと理解するのが相当である。
そうすると,訂正事項3は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」又は同条同項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
また,訂正事項3は,上記のように,請求項1において,訂正前の「C_(6)?C_(20)の芳香族環または縮合多環芳香族環」に含まれていた「2-ナフチル、2-フルオレニルまたは4-ビフェニル」に限定し,上記の本件明細書の記載(【0037】)は願書に最初に添付した明細書にも記載されていたから,願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであって,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではなく,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4
訂正事項4は,請求項1において,「化学式3または化学式4のR_(13)」において,「水素、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基、ハロゲン基、C_(5)?C_(7)のシクロアルキル基」を削除するとともに,「C_(6)?C_(20)の芳香族環または縮合多環芳香族環」を「フェニル、2-ナフチル、2-フルオレニル、または4-ビフェニル」に訂正するものであるが,訂正前の請求項1の「C_(6)?C_(20)の」「縮合多環芳香族環」との記載は,請求人の主張のように「環の原子を2個以上共有している」「縮合環」の意味であると解すると,以下のとおり,本件特許請求の範囲,本件明細書の記載全般と整合せず,この意味で一義的に明確であるとはいえない。
そこで,訂正前の請求項1を間接的に引用する訂正前の請求項3をみると,化学式3または化学式4として,化合物(22),(23),(24),(25),(26),(27)など,「化学式3の「R_(13)」が「2-フルオレニル」の化合物が含まれるように記載され,本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,「前記化学式3または化学式4の範囲は、具体的には、R_(11)乃至R_(13)が各々独立に、フェニル、2-ナフチル、2-アントリル、2-フルオランテニル、1-ピレニル、2-フルオレニル、4-ビフェニル及び3-ペリレニル基で例示できる。」と記載され(【0037】参照),また,「化学式3」に含まれる化合物として,「R_(13)」が「2-フレオニル」である化合物(22),(23),(24),(25),(26),(27)が記載され(【0038】,【0039】参照),さらに,実施例としてホスト物質(化学式3)として,化合物(23),(24),(25)が用いられている(【表2】参照)から,これらの記載と整合するように理解すれば,訂正前の請求項1の「R_(13)」が「C_(6)?C_(20)の・・・縮合多環芳香族環」であるときには,「2-フルオレニル」,「4-ビフェニル」が含まれるものの意味として記載されていたと理解するのが相当である。
そうすると,訂正事項4は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」又は同条同項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
また,訂正事項4は,上記のように,請求項1において,訂正前の「C_(6)?C_(20)の芳香族環または縮合多環芳香族環」に含まれていた「フェニル、2-ナフチル、2-フルオレニルまたは4-ビフェニル」に限定し,上記の本件明細書の記載(【0037】)は願書に最初に添付した明細書にも記載されていたから,願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであって,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではなく,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項5
訂正事項5は,訂正前の請求項2を削除するものであるから,明らかに,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また,訂正事項5は,上記のように,訂正前の請求項2の削除であるから,明らかに,願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであって,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではなく,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(6)訂正事項6
訂正事項6は,訂正前の請求項3の選択肢である化学式(16)、(17)、(20)、(21)、(22)、(26)、(27)、(28)、(29)、(30)、(31)、(32)、(33)、(36)、(39)、(42)、(43)及び(44)で表される化合物を削除して,特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また,訂正事項6は,上記のように,請求項3において,訂正前の請求項3の発明特定事項の選択肢の一部を削除するものであるから,願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであって,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではなく,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(7)一群の請求項であるかについて
本件請求は,二以上の請求項が記載された特許請求の範囲の訂正を請求するものであるので,本件請求が,特許法第134条の2第3項に規定する要件を満たすものであるかを検討する。
訂正事項6に係る訂正後の請求項3は,訂正事項1?4に係る訂正後の請求項1の記載を引用して記載されているから,請求項1と請求項3の間の関係は,特許法施行規則第46条の2第2号に掲げる関係に該当する。
なお,訂正事項5によって訂正後の請求項2は削除されている。
よって,本件請求は,上記の一群の請求項がある特許請求の範囲について,当該一群の請求項ごとに訂正を請求するものであるから,特許法第134条の2第3項に適合するものである。

4 請求人の主張の検討
(1)訂正事項2,3について
請求人は,「縮合環」とは,「長倉三郎ら編,岩波 理化学辞典 第5版」(甲第12号証,「第3」でも述べる。)によれば,「種々の環式化合物において2つまたはそれ以上の環がそれぞれ2個(ときにはそれ以上)の原子を共有した形で一体となっているとき、その環を縮合環または縮合核という。」と定義されており,この定義に当てはめれば,訂正前の請求項1の「2つ以上の芳香族環が縮合された縮合多環芳香族環」又は「C_(6)?C_(20)の縮合多環芳香族環」には,芳香族環の環の原子を共有する形で一体となっていない「2-フルオレニル」,「4-ビフェニル」は包含されないから,訂正前の請求項1の「2つ以上の芳香族環が縮合された縮合多環芳香族環」又は「C_(6)?C_(20)の縮合多環芳香族環」を「2-フルオレニルまたは4-ビフェニル」に訂正する訂正事項2及び訂正事項3は,実質上特許請求の範囲を変更するものであると主張している(弁駁書第3頁第24行?第5頁第23行,口頭審理陳述要領書第2頁第5?13行)。
しかしながら,上記3(2),(3)で述べたとおり,訂正前の「2つ以上の芳香族環が縮合された縮合多環芳香族環」又は「C_(6)?C_(20)の縮合多環芳香族環」との記載を,請求人の主張どおりに解すると,その他の本件特許請求の範囲,本件明細書の記載と整合せず,請求人の主張する「縮合環」の意味であるとして一義的に解することができない。
そうすると,訂正前の「2つ以上の芳香族環が縮合された縮合多環芳香族環」又は「C_(6)?C_(20)の縮合多環芳香族環」との記載は,その他の本件特許請求の範囲,本件明細書の発明の詳細な説明の記載も参酌して理解すべきであって,そうすれば,「2-フルオレニル」,「4-ビフェニル」を含むものの意味として記載されていたと理解するのが相当であることは,上記3(2),(3)で述べたとおりである。
よって,請求人の主張は採用できない。

(2)訂正事項6について
請求人は,訂正後の請求項1の「前記R_(11)乃至R_(13)の各芳香族環は、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基がさらに置換され得る。」と記載され,訂正後の請求項3に含まれる化合物(15),(18),(23),(24)及び(25)は,R_(11)乃至R_(13)のいずれかが「2-フルオレニル基」であり,その9位の炭素にメチル基が置換するものであるが,9位の炭素は芳香族環を構成しないから,訂正後の請求項1の化学式3,4で定義されたものから外れるので,訂正事項6は,実質上特許請求の範囲を変更するものであると主張している(弁駁書第5頁第24行?第6頁第9行,口頭審理陳述要領書第2頁第5?13行)。
しかしながら,請求人の主張には矛盾がある。
すなわち,請求項1には,訂正前も訂正後も「前記R_(11)乃至R_(13)の各芳香族環は、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基がさらに置換され得る。」と記載されており,仮に,請求人の主張どおり,請求項1の化学式3,4には,2-フルオレニル基の9位にメチル基が置換された化合物が含まれないとしても,それは訂正前の請求項1の化学式3,4においても同様であり,訂正前の請求項3にも含まれる化合物(15),(18),(23),(24)及び(25)も同様に間接的に引用する請求項1の対象外となるから,訂正の前後で,特許請求の範囲に変更は生じない。
また,訂正前の請求項1には,「化学式3または化学式4のR_(11)及びR_(12)は、・・・芳香族環または縮合多環芳香族環であり、R_(13)は、・・・の芳香族環または縮合多環芳香族環であって、前記R_(11)乃至R_(13)の各芳香族環は・・・さらに置換され得る。」と記載され,「各」には「それぞれ」との意味があるところ,「各芳香族環」とは,「芳香族環」と「縮合多環芳香族環」のそれぞれを指すものと解し得るところ,「縮合多環芳香族環」には,「2-フルオレニル」が含まれていると解せることは,上述のとおりである。
そうすると,訂正前の請求項1の「各芳香族環」には,「2-フルオレニル基」が含まれていたといえるから,2-フルオレニル基の9位の炭素にメチル基が置換された化合物(15),(18),(23)?(25)が化学式3に含まれている訂正後の請求項3が実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものと認めることはできない。
よって,請求人の主張は採用できない。

5 まとめ
以上のとおりであるから,本件訂正は,特許法第134条の2第1項,第3項の規定に適合し,特許法第134条の2第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項,第6項の規定に適合するので,訂正を認める。

第3 本件発明
上記「第2」で述べたとおり,本件訂正が認められたので,本件特許の請求項1,3に係る発明(以下,「本件発明1」,「本件発明3」といい,合わせて「本件発明」という。)は,訂正後の特許請求の範囲の請求項1,3に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
アノードと、カソードと、前記アノードとカソードとの間に介在される発光領域と、を含む有機電界EL素子において、
前記発光領域が、下記化学式1から選択される一つ以上の有機発光化合物をドーパント物質として含み、下記化学式3及び化学式4から選択される一つ以上の化合物をホスト物質としてさらに含むことを特徴とする、有機電界EL素子。
[化学式1]


(上記化学式1のR_(1)及びR_(2)は、各々独立に2-フルオレニルまたは4-ビフェニルであり、R_(3)乃至R_(6)は、各々独立に芳香族環であって、前記R_(1)乃至R_(6)の各芳香族環は、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基がさらに置換され得る。)
[化学式3]

[化学式4]

(上記化学式3または化学式4のR_(11)及びR_(12)は、各々独立に2-ナフチル、2-フルオレニル、または4-ビフェニルであり、R_(13)は、フェニル、2-ナフチル、2-フルオレニル、または4-ビフェニルであって、前記R_(11)乃至R_(13)の各芳香族環は、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基がさらに置換され得る。)

【請求項3】
化学式3または化学式4のアントラセン誘導体は、下記化学式の化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の有機電界EL素子。


























第4 請求の趣旨並びにその主張の概要及び請求人が提出した証拠方法
1 審判請求書,審判事件弁駁書,口頭審理陳述要領書,平成25年6月13日付けの上申書及び平成25年6月20日付けの上申書に記載した無効理由の概要
請求人が主張する請求の趣旨は,
「特許第4969575号の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明についての特許を無効にする。審判請求費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める(第1回口頭審理調書「請求人 1」参照)。
そして,請求人が主張する無効理由1?5は,概略以下のとおりである(審理事項通知書,第1回口頭審理調書「請求人 2」,平成25年6月13日付け上申書,補正許否の決定参照)。

(1)無効理由1
本件発明1,3は,本件の第2優先日(2006年8月8日)前に頒布された甲第1号証(主引用発明)及び甲第2?5号証に記載された発明に基いて,前記第2優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,
よって,本件発明1,3の特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

(2)無効理由2
本件の特許請求の範囲の記載は,訂正前の請求項1における「2つ以上の芳香族環が縮合された縮合多環芳香族環」がどのようなものか明確でなく,訂正前の請求項1?3の特許を受けようとする発明が明確といえないから,特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく,
よって,本件の特許が同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであって,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

(3)無効理由3
本件明細書の発明の詳細な説明には,以下ア,イの点で,本件発明1,3を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから,
本件の特許が同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであって,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

ア 本件発明1,3における化学式1のR_(1)及びR_(2)が4-ビフェニルである場合でも,R_(1)及びR_(2)がフェニルである場合より高い効果が得られないことがあるから,発明の詳細な説明には,本件発明1,3における化学式1のR_(1)及びR_(2)が4-ビフェニルである場合でも,本件発明1,3のすべての範囲について,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

イ 本件発明1,3における化学式1のR_(1)及びR_(2)が2-フルオレニルである場合でも,R_(1)及びR_(2)がフェニルである場合より高い効果が得られないことがあるから,発明の詳細な説明には,本件発明1,3における化学式1のR_(1)及びR_(2)が2-フルオレニルである場合でも,本件発明1,3のすべての範囲について,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(4)無効理由4
本件の特許請求の範囲の記載は,以下ア?ウの点で,本件発明1,3の特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものといえないから,特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく,
よって,本件の特許が同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであって,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

ア 本件発明1,3における化学式1のR_(1)及びR_(2)が4-ビフェニルである場合でも,R_(1)及びR_(2)がフェニルである場合より高い効果が得られないことがあるから,発明の詳細な説明には,本件発明1,3における化学式1のR_(1)及びR_(2)が4-ビフェニルである場合でも,本件発明1,3のすべての範囲についてまで,記載されているとはいえない。

イ 本件発明1,3における化学式1のR_(1)及びR_(2)が2-フルオレニルである場合でも,上記アと同様に,化学式1のR_(1)及びR_(2)がフェニルである場合より高い効果が得られないことがあるから,発明の詳細な説明には,本件発明1,3における化学式1のR_(1)及びR_(2)が2-フルオレニルである場合でも,本件発明1,3のすべての範囲についてまで,記載されているとはいえない。

ウ 発明の詳細な説明の実施例1のNo.12で使用されている化合物12は,フルオレニル基の9位にメチルが置換されたものであるから,本件発明1,3に含まれるものではなく,化学式1のR_(1)及びR_(2)が2-フルオレニルである場合の実施例が存在しないから,発明の詳細な説明には,本件発明1,3における化学式1のR_(1)及びR_(2)が2-フルオレニルである場合についてまで,記載されているとはいえない。なお,当該理由については,補正許否の決定により,請求の理由の補正を許可した。

(5)無効理由5
本件の特許請求の範囲の記載において,訂正後の請求項1には「前記R_(11)乃至R_(13)の各芳香族環は、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基がさらに置換され得る。」と記載されているが,訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項3には,「化学式3」として「化合物(15),(18),(23)?(25)」が記載されており,これらの化合物はフルオレニル基の9位にメチル基が2つ置換されたものであって,フルオレニル基の9位の炭素原子は芳香族環の炭素原子でないから,これらの化合物は化学式3に含まれない化合物であり,発明の範囲を不明確とするものであって,訂正後の請求項3の特許を受けようとする発明が明確といえないから,特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく,
よって,本件の特許が同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであって,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。
なお,当該理由については,補正許否の決定により,請求の理由の補正を許可した。

2 請求人の提出した証拠方法
請求人の提出した証拠方法は,以下のとおりである。

(1)審判請求書で提出した証拠方法
甲第1号証 国際公開2004/18588号明細書
甲第2号証 特開2001-131541号公報
甲第3号証 中国特許出願公開号CN1583691A
甲第3号証の2 中国特許出願公開号CN1583691Aの翻訳文
甲第4号証 特開2005-170911号公報
甲第5号証 国際公開2005/100506号明細書
甲第6号証 城戸淳二著,有機ELのすべて,2003年2月20日,
株式会社日本実業出版,第168?175頁
甲第7号証 森竜雄著,有機EL材料とディスプレイ 第26章「実験
室レベルでの素子作成方法および評価方法」,2001年
2月28日,株式会社 シーエムシー,第373?393

甲第8号証 実験報告書,舟橋正和,2012年6月25日作成
甲第9号証 欧州特許出願公開第1775334号明細書
甲第10号証 特開2004-59535号公報
甲第11号証 韓国特許出願10-2005-74983号明細書
甲第11号証の2 韓国特許出願10-2005-74983号明細書の翻
訳文

(2)弁駁書で提出した証拠方法
甲第12号証 長倉三郎ら編,岩波 理化学辞典 第5版,1998年4
月24日,株式会社岩波書店,第685頁
甲第13号証 特開2009-185024号公報

(3)口頭審理陳述要領書で提出した証拠方法
甲第14号証 時任静士ら著,有機ELディスプレイ,平成16年8月
20日,株式会社オーム社,第71?72頁
甲第15号証 特開2002-93581号公報
甲第16号証 細川地潮著,有機EL材料と材料開発 第6章 発光材料 ,2004年5月31日,株式会社 シーエムシー出版,
第178?197頁
甲第17号証 特開2001-176665号公報
甲第18号証 特開2002-124384号公報
甲第19号証 特開2006-76969号公報

(4)平成25年6月13日付けの上申書で提出した証拠方法
甲第20号証 国際公開2005/117500号明細書
甲第21号証 特開2005-302667号公報
甲第22号証 鞆津典夫作成の陳述書,2013年6月11日

第5 答弁の趣旨並びにその主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法
1 審判事件答弁書,口頭審理陳述要領書,平成25年6月13日付けの上申書及び平成25年6月20日付けの上申書でした答弁の趣旨並びにその主張の概要
被請求人が主張する答弁の趣旨は,「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める(第1回口頭審理調書「被請求人 1」参照)。
そして,被請求人は請求人が主張する上記無効理由1?5は,いずれも理由がない旨の主張をしていると認める。

2 被請求人が提出した証拠方法
被請求人が提出した証拠方法は,以下のとおりである。

(1)答弁書で提出した証拠方法
乙第1号証 特開2003-146951号公報

(2)口頭審理陳述要領書で提出した証拠方法
乙第2号証 実験成績証明書(作成者が不明のため,請求人は成立を否
認した(第1回口頭審理調書「請求人 5」参照)。)

(3)平成25年6月13日付けの上申書で提出した証拠方法
乙第2号証 Cho,Young-Jun作成,実験成績証明書,
2013年6月11日

第6 無効理由についての当審の判断
本件は事案にかんがみ,無効理由2,5について判断してから,無効理由1,3,4について判断する。

1 無効理由2,5について
(1)無効理由2について
訂正後の請求項1は,訂正前の「2つ以上の芳香族環が縮合された縮合多環芳香族環」は「2-フルオレニルまたは4-ビフェニル」と訂正された。
そして,訂正後の「2-フルオレニルまたは4-ビフェニル」の意味は明確であるから,訂正前の請求項1の「2つ以上の芳香族環が縮合された縮合多環芳香族環」が明確でないから,訂正前の請求項1?3の特許を受けようとする発明が明確といえないとの無効理由は解消した。
よって,この理由によっては,訂正後の請求項1,3の記載が,特許法第36条第6項第2号に適合するものではないとはいえず,本件特許は特許法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものということはできない。

(2)無効理由5について
訂正後の請求項1には「前記R_(11)乃至R_(13)の各芳香族環は、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基がさらに置換され得る」と記載され,訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項3には,「化学式3」として「化合物(15),(18),(23)?(25)」が記載されている。
一般に,芳香族環とは,ベンゼン環のような構造を意味し,フルオレニル基には,2つのベンゼン環が2個所で結合した構造をしているから,フルオレニル基の9位の炭素は,通常の芳香族環の定義からすれば,必ずしも芳香族環に含まれるとはいえないものである。
しかしながら,特許請求の範囲の請求項3には,訂正前からR_(11)?R_(13)がフルオレニル基でその9位の炭素にメチル基が置換された化合物15,18,22?27,30,33の化合物が記載されていたこと,さらに,本件明細書の発明の詳細な説明においても,「化学式3のアントラセン誘導体は、下記化学式の化合物を含む。」と記載され,R_(11)?R_(13)がフルオレニル基でその9位の炭素にメチル基が置換された化合物15,18,22?27,33が記載されている(【0039】参照)。
一方,訂正後の請求項1には,「化学式3または化学式4のR_(11)及びR_(12)は、・・・2-ナフチル、2-フルオレニル、または4-ビフェニルであり、R_(13)は、フェニル、2-ナフチル、2-フルオレニル、または4-ビフェニルであって、前記R_(11)乃至R_(13)の各芳香族環は・・・さらに置換され得る。」と記載され,「各」には「それぞれ」との意味があるところ,「芳香族環」とは,「フェニル」,「2-ナフチル」そのものや「2-フルオレニル」,「4-ビフェニル」の部分構造としての「芳香族環」以外に,「2-フルオレニル」,「4-ビフェニル」が本件明細書の発明の詳細な説明に記載される「縮合多環芳香族環」であって,これも「芳香族環」を意味する,すなわち,「2-フルオレニル」そのものを「芳香族環」と解することも可能である。
そして,そのような解釈であれば,化学式3の「芳香族環」には,「フルオレニル基」が含まれ,その9位の炭素にメチル基が置換された化合物(15),(18),(23)?(25)が化学式3に含まれている訂正後の請求項3や本件明細書の発明の詳細な説明の記載とも整合する。
そうすると,フルオレニル基の9位の炭素は,芳香族環の一般的な定義に照らせば,「芳香族環」には当たらないものではあるが,その他の本件特許請求の範囲の記載や本件明細書の発明の詳細な説明の記載をも参酌すれば,訂正後の請求項1に記載される前記R_(11)乃至R_(13)の「2-フルオレニル」は,その全体構造が「芳香族環」であって,フルオレニル基の9位の炭素も「芳香族環」であると理解できるから,訂正後の請求項3に化学式3の化合物として,「化合物(15),(18),(23)?(25)」を含むことが不明確であるとはいえない。
よって,この理由によっては,訂正後の請求項1,3の記載が,特許法第36条第6項第2号に適合するものではないとはいえず,本件特許は特許法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものということはできない。

なお,無効理由1,3,4の判断にあたっては,本件発明1の「各芳香族環」は上述の意味に解して判断する。

2 無効理由1について
(1)本件特許出願の優先権主張について
本件特許出願は,以下の2つのパリ条約による優先権主張を伴うものである。
a.韓国特許出願10-2005-74983号(優先日 2005年8月16日(以下,「第1優先日」という。))
b.韓国特許出願10-2006-74910号(優先日 2006年8月8日(以下,「第2優先日」という。))
そして,第1優先日の優先権主張の基礎となる韓国特許出願10-2005-74983号の明細書(以下,「基礎出願明細書1」という。甲第11号証である。)には,
ドーパント物質として,化学式1のR_(1)及びR_(2)が,各々独立に2-フルオレニルまたは4-ビフェニルである化合物,及び,ホスト物質として,7,12-di(2-naphthyl)-10-phenyl-benz(a)anthracence(以下,「DNPBA」と略する。)以外の化合物を用いた有機EL素子は記載されていない(特に実施例参照)。
よって,本件発明1,3について,第1優先日の優先権主張の効果は認められないので,第2優先日を基準に無効理由1について判断する。

(2)刊行物の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項
本件の第2優先日前に頒布された甲第1号証には,以下の事項が記載されている。
(1a)「1.一対の電極と、これらの電極間に挟持された有機発光媒体層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機発光媒体層が、
(A)置換もしくは無置換の炭素数10?100のアリールアミン化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物と、
(B)下記一般式(I)
A^(1)-L-A^(2) ・・・(I)
(式中、A^(1)及びA^(2)は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のモノフェニルアントリル基又は置換もしくは無置換のジフェニルアントリル基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、Lは単結合又は2価の連結基を示す。)
で表されるアントラセン誘導体、
下記一般式(II)
A^(3)-An-A^(4) ・・・(II)
(式中、Anは置換もしくは無置換の2価のアントラセン残基を示し、A^(3)及びA^(4)は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の炭素数6?40のアリール基であり、A^(3)及びA^(4)の少なくとも一方は、置換もしくは無置換の1価の縮合芳香族環基又は置換もしくは無置換の炭素数10以上のアリール基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。)
で表されるアントラセン誘導体、
下記一般式(III)

(式中、Ar^(1)は、置換もしくは無置換のスピロフルオレン残基を示し、A^(5)?A^(8)は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の炭素数6?40のアリール基である。)
で表されるスピロフルオレン誘導体、
一般式(IV)

(式中、Ar^(2)は、置換もしくは無置換の炭素数6?40の芳香族環基を示し、A^(9)?A^(11)は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の炭素数6?40のアリーレン基を表し、A^(12)?A^(14)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基、炭素数1?6のアルコキシル基、炭素数5?18のアリールオキシ基、炭素数7?18のアラルキルオキシ基、炭素数5?16のアリールアミノ基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1?6のエステル基又はハロゲン原子を示し、A^(9)?A^(14)のうち少なくとも1つは縮合芳香族環を有する基である。)
で表される縮合環含有化合物、
及び金属錯体化合物の中から選ばれた少なくとも一種の化合物とを含む有機エレクトロルミネッセンス素子。」(請求の範囲請求項1)
(1b)「4.(B)成分の一般式(II)で表されるアントラセン誘導体が、下記一般式(II-a)
X^(1)-An-X^(2) ・・・(II)
(式中、Anは置換もしくは無置換の2価のアントラセン残基を示し、X^(1)及びX^(2)は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のナフタレン、フェナントレン、フルオロランテン、アントラセン、ピレン、ペリレン、コロネン、クリセン、ピセン、ジフェニルアントラセン、カルバゾール、トリフェニレン、ルビセン、ベンゾアントラセン、ジアントラセニルベンゼン又はジベンゾアントラセンの1価の残基を示す。)
で表されるアントラセン誘導体である請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。」(請求の範囲請求項4)
(1c)「8.前記(A)成分が、一般式(V)

(式中、X^(3)は、核炭素数10?40の置換もしくは無置換の縮合芳香族環基を示し、Ar^(5)及びAr^(6)は、それぞれ独立に炭素数6?40の置換もしくは無置換の1価の芳香族基を示し、pは1?4の整数を示す。)
で表されるアリールアミン化合物から選ばれたの少なくとも一種である請求項1又は2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。」(請求の範囲請求項8)
(1d)「前記一般式(V)、(V-a)又は(V-b)で表されるアリールアミン化合物の具体例を以下に示す。
EM57(化学式は省略する。)
・・・

EM144
・・・

EM183
・・・

・・・
EM232(化学式は省略する。)」(第30頁下から2行?第44頁末行)
(1e)「(A)成分と(B)成分の好ましい割合は重量比1;99?20;80の範囲であり、この範囲で特に高い効率が得られる。
・・・
このように、(A)成分と(B)成分を組み合わせて有機発光媒体層に用いることにより、(B)成分単独使用の場合に比べて、効率が3?5倍程度高くなると共に、寿命も少なくとも3倍以上、最適化すれば10倍以上に長くすることができる。」(第45頁第7?15行)
(1f)「また、(A)成分として前記一般式(V)で表されるようなアリールアミン化合物を用いることにより、アリールアミン化合物同士の立体障害が大きく、分子会合による濃度消光を防止できると共にさらなる長寿命化が可能となり、さらに、アミノ置換基又は縮合芳香族環に分岐アルキル基を導入することにより縮合芳香族環とアミノ置換基との立体反発を大きくできるため、色純度を示す指標ともなる発光スペクトルの半値幅が狭くなり、発光スペクトルがシャープになるため、フルカラー用ディスプレイに適している。」(第45頁第16?22行)
(1g)「表2

表1及び表2に示したように、緑色、青色、及びさらに達成が難しい純青色素子において、実施例1?41に記載したように、優れた効率、寿命を達成している。これは、比較例の素子に比べ、発光スペクトルの半値幅が小さくなり、高色純度の発光が可能となったからである。
特に、(A)成分として、緑色発光のジアミノアントラセン誘導体、青色発光のジアミノピレン誘導体、純青色のジアミノクリセリン誘導体の有機EL素子は、比較例のいずれの素子に対しても、発光効率、寿命ともに優れている。
さらには(B)成分としてアントラセン誘導体、(A)成分としてジアミノアントラセン誘導体、ジアミノピレン誘導体、又はジアミノクリセン誘導体を用いることで、それぞれ、緑色発光、青色発光、純青色発光素子において、最も発光効率、寿命ともに優れている。」(第56頁)

イ 甲第2号証の記載事項
本件の第2優先日前に頒布された甲第2号証には,以下の事項が記載されている。
(2a)「【請求項8】 下記一般式〔9〕で示される有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
一般式〔9〕
【化11】

〔式中、Eはアリール基置換もしくは未置換のアントラセン核からなる2価の基を表す。X^(5 )?X^(8 )は、それぞれ独立に、置換もしくは未置換の炭素原子数6?20のアリーレン基を表し、X^(5) とX^(6 )、X^(7 )とX^(8 )は互いに連結していても良い。Y^(1 )?Y^(4 )は、それぞれ独立に、下記一般式〔2〕で示される有機基を表す。a?dは0?2の整数を表す。ただし、Eが未置換の
【化12】

である時は、X^(5 )?X^(8 )の少なくとも2つは置換もしくは未置換の
【化13】

を含む。
一般式〔2〕
【化14】

(式中、R^(1 )?R^(4 )は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは未置換の炭素原子数1?20のアルキル基、置換もしくは未置換の炭素原子数6?20のアリール基、シアノ基を表すか、R^(1 )とR^(2 )またはR^(3 )とR^(4 )が結合した三重結合を表す。Zは置換もしくは未置換の炭素原子数6?20のアリール基を表す。nは0もしくは1を表す。)〕」
(2b)「【0024】
このように、本発明における一般式〔9〕で示される化合物は、ジアミン構造を有することによりイオン化エネルギーが5.6eV以下となり正孔が注入しやすく、正孔移動度が10^(-4)m^(2)/V・s以上となり、正孔注入材料、正孔輸送材料として優れている。また、中心に置換もしくは未置換のアントラセン核を有することにより、電子が注入がしやすい。
さらに、中心のアントラセン核Eが未置換である場合には、ガラス転移温度が100℃以下と低くなるので、上記したように少なくとも2つのアリール基置換、好ましくは2?4置換を行うことによりガラス転移温度が向上する。また、このような特定のビフェニル構造は、一般式〔9〕で示される化合物の可溶度を上げ、精製を容易にする。上記構造以外のパラ位にフェニル基がある場合には精製が困難で不純物が増加し、得られる有機EL素子の特性が悪化する。また、このようなアリール基置換により、分子同士の会合対形成が抑制され、蛍光量子効率が向上し、有機EL素子の発光効率が向上する。」
(2c)「【0030】
以下に、本発明の一般式〔1〕の化合物の代表例(1)?(28)、一般式〔3〕?〔6〕の化合物の代表例(29)?(56)、一般式〔7〕の化合物の代表例(57)?(74)、一般式〔8〕の化合物の代表例(75)?(86)、一般式〔9〕の化合物の代表例(87)?(104)、一般式〔10〕の化合物の代表例(105)?(126)を例示するが、本発明はこの代表例に限定されるものではない。」
(2d)「【0061】
【化63】
・・・

・・・

(2e)「【0135】
実施例53?62
実施例52において、化合物(100)の代わりに、発光材料として第4表に示した化合物を使用した以外は同様にして有機EL素子を作製し、評価した。それらの結果を第4表に示す。
・・・
【0137】
【表4】

【0138】第4表に示したように、本発明の一般式〔9〕及び〔10〕の化合物を発光材料又は正孔輸送材料として使用した実施例52?62の有機EL素子は、上記比較例8のジアミン化合物を使用した有機EL素子に比べ発光輝度、発光効率及び寿命共に優れていた。」

ウ 甲第3号証の記載事項
本件の第2優先日前に頒布された甲第3号証には,日本語にして以下の事項が記載されている。なお,翻訳は請求人が提出した甲第3号証の2によった。
(3a)「6.対向電極及びこの対向電極の間に配置された有機発光媒質層を含む有機エレクトロルミネッセンスデバイスであって、前記の有機発光媒質層が、化学式(I)又は(II)を有するアントラセン化合物を含む。

但し、各R_(1)、R_(2)、R_(3)、R_(4)、R_(5)及びR_(6)は、それぞれ独立に炭素数6?20の無置換或いは置換のアリール基、炭素数2?20の無置換或いは置換のヘテロアリール基、又は炭素数1?12の無置換或いは置換のアルキル基であり、置換基を有する場合の当該置換基はC_(1-10)アルキル基、C_(1-10)アルコキシ基又はハロゲン基である。」(請求の範囲請求項6)
(3b)「前記有機発光媒質層が、化学式(I)又は(II)を有するアントラセン化合物を含有する発光層を含む請求項6に記載された有機エレクトロルミネッセンスデバイス。」(請求の範囲請求項9)
(3c)「アントラセン化合物(anthracene)は、すでに正孔輸送層及び発光層の材料として使われてきた。例えば、米国特許6465115には、正孔輸送層として以下の化学式を有する有機アントラセン材料が記載されている:

但し、Arは独立に、炭素数5?20の置換或いは無置換のアリール基を表している。
また、米国特許5759444には、発光する、以下の化学式を有するアントラセン化合物が記載されている。

但し、A_(1)?A_(4)は、炭素数6?16の置換或いは無置換のアリール基を表している。このアントラセン化合物においては、ジアリールアミノ基(diarylamino group)がアントラセン環の9位と10位に導入されている。ジアリールアミノ基の導入によって、アントラセン発光材料が正孔輸送性質を有するようになる。そして、一般には、ジアリールアミノ基の導入によって、発光層と正孔輸送層のインターフェースの安定性が向上して、デバイス寿命が延長されるようになる。」(第6頁第20行?第7頁第6行)
(3d)「本発明は更に、前記のアントラセン化合物を含む有機エレクトロルミネセンスデバイスを提供することを目的とする。前記アントラセン化合物は、有機エレクトロルミネセンスデバイスにおける発光層又は正孔輸送層として使用できる。」(第7頁第12?14行)
(3e)「化学式(I)と(II)の化合物における各R_(1)?R_(6)について、無置換或いは置換のアリール基の具体例としては、フェニル、2-トリル、3-トリル、4-トリル、4-エチルフェニル、ビフェニル(biphenyl)、4-メチルビフェニル、4-エチルビフェニル、4-シクロヘキシルビフェニル、テルフェニル(terphenyl)、3,5-ジクロロフェニル、ナフチル(naphthyl)、5-メチルナフチル、アントリル(anthryl)及びピレニル(pyrenyl)が挙げられる。」(第5頁第25行?第6頁第3行)
(3f)「アントラセン環の2位に一つのジアリールアミノ基(又はジヘテロアリールアミノ基又はジアルキルアミノ基)が導入され、アントラセン環の6位に一つのジアリールアミノ基(又はジヘテロアリールアミノ基又はジアルキルアミノ基)が導入された場合には、本発明のアントラセン化合物は、化学式(IV)で表される。

但し、各R_(1)、R_(2)、R_(3)、R_(4)、R_(5)及びR_(6)は上記と同じ定義である。
R_(1)?R_(4)は無置換或いは置換のアリール基である場合に、化学式(IV)の具体例としては、以下の構造式が挙げられる。
(化合物の式は省略する。)」(第10頁第1行?第10行)
(3g)「[実施例1]
合成スキームは以下の通りである。
・・・

化合物(2)
」(第11頁第1?3行)
(3h)「図1は異なる波長における化合物(2)と(3)のフォトルミネセンス(photoluminescent)(PL)強度のグラフを示す。化合物(2)が波長504nmで最大強度を示し、化合物(2)が緑色に発光することを示している。
なお、化合物(2)のHOMOエネルギー準位は5.40eVで、NPB(正孔輸送層としての一般材料)のHOMOエネルギー準位(5.5eV)に非常に近い。従って、本発明の化合物(2)は正孔輸送層に適している。」(第12頁第21行?第13頁第1行)
(3i)「[実施例3]
合成スキームは以下の通りである。
・・・

化合物(5)」(第12頁第2?5行)

エ 甲第6号証の記載事項
本件の第2優先日前に頒布された甲第6号証には,以下の事項が記載されている。
(6a)「◆ホストとドーパントで役割分担
ところで、ひとくちに「発光材料」というが、
1○(審決注:○文字の中に数字を表す。以下同じである。)それ自身は発光能力は低いが、成膜性が高く、発光能力の高い他のものを混合して用いる材料(ホスト材料)
2○それ自身は発光能力が高いが、単独では成膜できない発光材料(ゲスト材料)
の2つがある。
・・・このような2○のような発光材料は、別の発光材料(ホスト)に極微量混合して使うため、ドーパント色素と呼ばれている。」(第168頁第1?10行)
(6b)「通常、発光層は、共蒸着によってホスト材料となる色素に発光中心となるゲスト色素を微量ドーピングする。これは蛍光量子効率の高い発光色素を濃度消光の起こらない低濃度で使用するためである。」(第170頁末行?第171頁第2行)

オ 甲第7号証の記載事項
本件の第2優先日前に頒布された甲第7号証には,以下の事項が記載されている。
(7a)「図1に試料の作成と特性評価のフローチャートを示す。
1.新規材料を有機EL素子に利用することを考える場合には,合成された色素の溶液状態のPLと吸収スペクトルを調べる。その際濃度を変えて測定すると濃度消光が著しい材料かどうかが判定できる。この時点で良好なPLが得られない場合には別の材料を探索した方がよい。分子構造をコンピュータでシミュレートできるならば,PLスペクトルや吸収をシミュレーションにより検討してみる。その結果でも納得できない場合には不純物の存在を疑ってみた方がよい。
2.溶液状態でもかなり良好なPLを示した材料は単独で薄膜成形を行う。そして薄膜が多結晶化せずに形成できるか,経時的にも安定であるかを確認する。ガラス転位点の高い材料が好ましいので,多結晶化が著しい材料はガラス転位点を測定するとよい。またバルキーな置換基を導入することでガラス転位点を上昇させることもできる。
3.安定な薄膜を形成できるのであれば,そのPLと吸収スペクトルを調べる。特に溶液状態とどのように違うのかチェックする。濃度消光が強い材料はPLスペクトルの高エネルギー成分が失われピークがレッドシフトする。分子間力の増加により濃度消光が強く作用する材料は,分子間を離すような大きな置換基を導入することで濃度消光を弱くすることも可能である。またPL強度は発色団に種々の置換基を導入することにより増減させることができる。またPLピーク波長も同様に電子供与性・吸引性の置換基の導入により,レッドシフト・ブルーシフトさせることができる。」(第375頁下から第3行?第377頁第6行)

カ 甲第14号証の記載事項
本件の第2優先日前に頒布された甲第14号証には,以下の事項が記載されている。
(14a)「ホスト分子とゲスト分子の分子間距離が短いことも共通して重要である.分子間距離を短くするためには高濃度にゲスト分子を添加することになるが,あまり濃度を上げるとゲスト分子の相互作用が強くなり,蛍光量子収率が低下する現象(濃度消光)が生じるので注意が必要である.」(第72頁第3?6行)

キ 甲第15号証の記載事項
本件の第2優先日前に頒布された甲第15号証には,以下の事項が記載されている。
(15a)「【請求項1】 下記化1?化4の少なくともいずれか一つの一般化学式で示される化合物を発光材料として含有する発光層を有することを特徴とする有機EL素子。
(化学式は省略する。)」
(15b)「【0007】また,請求項3のように,請求項1の一般化学式で示された化合物をホスト材料にドープするドーパントとして用いた場合、濃度消光が抑制でき、より発光効率の高い有機EL素子が得られる。」

ク 甲第16号証の記載事項
本件の第2優先日前に頒布された甲第16号証には,以下の事項が記載されている。
(16a)「そこで、蛍光の量子効率の高い縮合芳香族環系の化合物を活用し,立体的にかさ高い置換基を利用して濃度消光を抑制するという考えで開発を進めた結果,高濃度添加が可能な新しい赤色ドーパント「RD-001」を見いだした。」(第184頁第25?27行)
(16b)「これはもともとDMQdが顔料に分類される物質であり,高い凝集性を示す物質であるために濃度消光を起こし,発光効率の低下を起こしたためと考えられる。このことは比較的濃度消光を起こしにくいクマリンにさらに色素同士の会合を阻害する構造にするため,特にかさ高い置換基を導入したNKX-2450が最も良い特性を示していることからも推察できる。」(第192頁第24行?第193頁第1行)

ケ 甲第17号証の記載事項
本件の第2優先日前に頒布された甲第17号証には,以下の事項が記載されている。
(17a)「【請求項1】 陰極と陽極の間に発光層を含む一層または複数層の有機薄膜層を有する有機エレクトロルミネッセント素子において、前記有機薄膜層の少なくとも一層に、一般式(1):
(化学式は省略する。)
(式中、R^(1)?R^(14)は・・・置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基・・・を表す。・・・ただし、R^(1)?R^(14)の少なくとも一つは、分子間の会合状態形成を抑制する立体障害基である。)で示されるベンゾペリレン化合物を、単独もしくは混合物で含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子。」
(17b)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前記事項に鑑みてなされたものであり、濃度消光を抑制した化合物を用いることにより、高輝度発光の有機EL素子を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のベンゾペリレン誘導体に、会合状態の形成を抑制する立体障害基を導入した化合物を、発光材料として用いて作製した有機EL素子は、従来よりも高輝度発光することを見いだした。」
(17c)「【0025】
置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-ナフタセニル基、2-ナフタセニル基、9-ナフタセニル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、2-ビフェニルイル基、3-ビフェニルイル基、4-ビフェニルイル基、p-ターフェニル-4-イル基、p-ターフェニル-3-イル基、p-ターフェニル-2-イル基、m-ターフェニル-4-イル基、m-ターフェニル-3-イル基、m-ターフェニル-2-イル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、p-t-ブチルフェニル基、p-(2-フェニルプロピル)フェニル基、3-メチル-2-ナフチル基、4-メチル-1-ナフチル基、4-メチル-1-アントリル基、4'-メチルビフェニルイル基、4''-t-ブチル-p-ターフェニル-4-イル基等が挙げられる。」
(17d)「【0033】
会合状態の形成を抑制する立体障害基としては、分子同士の接近を阻害するのに十分な大きさのかさ高さを有していれば、どのような置換基でも用いることができる。例えば前述の置換若しくは無置換のアルキル基、前述の置換又は無置換のシクロアルキル基、前述の置換若しくは無置換のアルコキシ基、前述の置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、前述の置換若しくは無置換の芳香族複素環基、前述の置換若しくは無置換のアラルキル基、前述の置換若しくは無置換のアリールオキシ基が挙げられるが、中でも好適な例として、・・・t-ブチル基、・・・フェニル基、トリル基、9-フルオレニル基・・・などが挙げられる。」

コ 甲第18号証の記載事項
本件の第2優先日前に頒布された甲第18号証には,以下の事項が記載されている。
(18a)「【0045】
また、例えばアリール基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基などの立体障害をもつ置換基を5,12-ジアザペンタセンに導入した場合には、分子構造が立体的となる。このため、発光層の膜中において隣接分子との距離が増大して分子間相互作用が減少し、蛍光の濃度消光(隣接分子の影響により蛍光発光強度が減少すること)が起こりにくくなり、結果として高効率のEL発光が可能となる。
【0046】
さらに、上述のような置換基は、5,12-ジアザペンタセンの7-位及び14-位に導入されていることが好ましく、これらの置換位置に同一の置換基が導入されていることがさらに好ましい。本発明の実施に適当な7,14-ジ置換5,12-ジアザペンタセンの例を一般式で示すと、次の通りである。」
(18b)「【0049】
(化学式は省略する。)
7,14-ジナフチル-5,12-ジアザペンタセン」

サ 甲第19号証の記載事項
本件の第2優先日前に頒布された甲第19号証には,以下の事項が記載されている。
(19a)「【0398】
以下に、本発明の有機EL素子材料として用いられる白金錯体化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。尚、以下に示す具体例において、自由回転できないアリール基または自由回転できない芳香族複素環基の周囲を各々点線で表示した。
【0399】
《自由回転できないアリール基、自由回転できない芳香族複素環基》
本発明において、「自由回転できないアリール基、自由回転出来ない芳香族複素環基」とは、立体障害により結合の自由回転ができない置換基を表す。」
(19b)「【0403】
自由回転出来ないアリール基として用いることの可能なアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。」

(3)甲第1号証に記載された発明(引用発明)
甲第1号証には,請求項1の「有機エレクトロルミネッセンス素子」(摘記1a参照)において,「(A)」成分として請求項8の「一般式(V)」の化合物(摘記1c参照)を,また,「(B)」成分として請求項4の「一般式(II-a)」の化合物(摘記1b参照)を選択した,以下の発明(以下,「引用発明」」という。)が記載されているといえる。
「一対の電極と、これらの電極間に挟持された有機発光媒体層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機発光媒体層が、
(A)一般式(V)

(式中、X^(3)は、核炭素数10?40の置換もしくは無置換の縮合芳香族環基を示し、Ar^(5)及びAr^(6)は、それぞれ独立に炭素数6?40の置換もしくは無置換の1価の芳香族基を示し、pは1?4の整数を示す。)
で表されるアリールアミン化合物から選ばれたの少なくとも一種の化合物と、
(B)下記一般式(II-a)
X^(1)-An-X^(2) ・・・(II-a)
(式中、Anは置換もしくは無置換の2価のアントラセン残基を示し、X^(1)及びX^(2)は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のナフタレン、フェナントレン、フルオランテン、アントラセン、ピレン、ペリレン、コロネン、クリセン、ピセン、ジフェニルアントラセン、カルバゾール、トリフェニレン、ルビセン、ベンゾアントラセン、フェニルアントラセン、ビスアントラセン、ジアントラセニルベンゼン又はジベンゾアントラセンの1価の残基を示す。)で表されるアントラセン誘導体である有機エレクトロルミネッセンス素子。」

(4)対比・判断
(4-1)本件発明1に対して
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「一対の電極」,「これらの電極間に挟持された有機発光媒体層」,「有機エレクトロルミネッセンス素子」は,それぞれ,本件発明1の「アノードとカソード」,「前記アノードとカソードとの間に介在される発光領域」,「有機電界EL素子」に相当する。
そして,甲第1号証には,「(A)成分と(B)成分を組み合わせて有機発光媒体層に用いることにより、(B)成分単独使用の場合に比べて、効率が3?5倍程度高くなる」(摘記1e参照)との記載があり,甲第6号証の「それ自身は発光能力は低いが、成膜性が高く発光能力の高い他のものを混合して用いる材料(ホスト材料)」,「それ自身は発光能力が高いが、単独では成膜できない発光材料(ゲスト材料)」,すなわち,「ドーパント色素」との記載(摘記6a参照)に照らして,(A)成分がドーパント色素,(B)成分がホスト材料であると認められるから,引用発明の「一般式(V)で表されるアリールアミン化合物」,「一般式(II-a)で表されるアントラセン誘導体」は,それぞれ,本件発明1の「有機発光化合物」の「ドーパント物質」,「ホスト物質」に相当する。

そうすると,本件発明1と引用発明とは,
「アノードと、カソードと、前記アノードとカソードとの間に介在される発光領域と、を含む有機電界EL素子において、
前記発光領域が、一つ以上の有機発光化合物をドーパント物質として含み、一つ以上の化合物をホスト物質としてさらに含むことを特徴とする、有機電界EL素子。」である点で一致し,以下の2点で相違している。
(i)ドーパント物質が,本件発明1では,
「下記化学式1から選択される一つ以上の有機発光化合物
[化学式1]

(上記化学式1のR^(1)及びR^(2)は、各々独立に2-フルオレニルまたは4-ビフェニルであり、R^(3)乃至R^(6)は、各々独立に芳香族環であって、前記R^(1)乃至R^(6)の各芳香族環は、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基がさらに置換され得る。)」であるのに対して,引用発明では,
「一般式(V)
【化1】

(式中、X^(3)は、核炭素数10?40の置換もしくは無置換の縮合芳香族環基を示し、Ar^(5)及びAr^(6)は、それぞれ独立に炭素数6?40の置換もしくは無置換の1価の芳香族基を示し、pは1?4の整数を示す。)
で表されるアリールアミン化合物」である点(以下,「相違点(i)」という。)
(ii)ホスト物質が,本件発明1では,
「下記化学式3及び化学式4から選択される一つ以上の化合物
[化学式3]

[化学式4]

(上記化学式3または化学式4のR_(11)及びR_(12)は、各々独立に2-ナフチル、2-フルオレニル、または4-ビフェニルであり、R_(13)は、フェニル、2-ナフチル、2-フルオレニル、または4-ビフェニルであって、前記R_(11)乃至R_(13)の各芳香族環は、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基がさらに置換され得る。)」であるのに対して,引用発明では,
「一般式(II-a)
X^(1)-An-X^(2) ・・・(II-a)
(式中、Anは置換もしくは無置換の2価のアントラセン残基を示し、X^(1)及びX^(2)は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のナフタレン、フェナントレン、フルオランテン、アントラセン、ピレン、ペリレン、コロネン、クリセン、ピセン、ジフェニルアントラセン、カルバゾール、トリフェニレン、ルビセン、ベンゾアントラセン、フェニルアントラセン、ビスアントラセン、ジアントラセニルベンゼン又はジベンゾアントラセンの1価の残基を示す。)で表されるアントラセン誘導体」である点(以下,「相違点(ii)」という。)

イ 相違点の検討
(ア)相違点(i)について
引用発明における一般式(V)のX^(3)の縮合芳香族環には,アントラセンは含まれているものの、アントラセン以外にも多数の選択肢があり,また,X^(3)の縮合芳香族環としてアントラセン環を選択したとしてもジアリールアミノ基の置換位置もいくつも考えられる。さらに,X^(3)の縮合芳香族環がジアリールアミノ基以外の置換基の種類や置換基の縮合芳香族環における置換位置など,きわめて多数の選択肢を含むものであるから,甲第1号証に,一般式(V)の定義に含まれる化合物がすべて記載されているとは認めることはできない。
そこで,引用発明の一般式(V)の化合物として,具体的にどのような化合物が含まれているのか甲第1号証の記載をみると,EM57?EM232の化合物が例示されている(摘記1d参照)。これらの化合物には,X^(3)がアントラセンで,それぞれジアリールアミノ基が2つ置換された化合物がいくつか記載されている。しかしながら,ジアリールアミノ基がアントラセン環の2,6位に置換されている化合物,ジアリールアミノ基以外の置換基が9,10位に置換した化合物,2-フルオレニル基,4-ビフェニル基を置換基とする化合物については,そのいずれも存在しない。
そうすると,引用発明の「一般式(V)」の定義には,アントラセン環の2,6位にジアリールアミノ基が置換され,9,10位に2-フルオレニル基,4-ビフェニル基が置換される化合物が形式的に含まれ得るものであるとしても,甲第1号証に,一般式(V)の化合物として,そのような化合物を含むとして記載されていたとは認められない。

次に,甲第1号証には,一般式(V)のX^(3)がアントラセンで,ジアリールアミノ基が2つ置換された化合物として,具体的に有機EL素子に使用されているEM144の化合物が実施例30に記載されている(摘記1d,1g参照)ので,このEM144の化合物を,アントラセン環の2,6位にジアリールアミノ基が,9,10位に2-フルオレニル基又は4-ビフェニル基が置換された化合物とすることが当業者にとって容易かどうか検討する。
まず,化合物EM144は,ジアリールアミノ基が9,10位で,t-ブチル基が2,6位置で置換された化合物(摘記1d参照)であって,2,6位にはすでにt-ブチル基が置換しているから,たとえ,8,10位にジアリールアミノ基が置換されたEM183の化合物,4,8位にジアリールアミノ基が置換されたEM185が例示されていた(摘記1d参照)としても,2,6位にジアリールアミノ基を置換した化合物に変換することは通常想到しにくいものと認められる。

一方,甲第3号証には,9,10位にジアリールアミノ基が置換された,


」が従来から発光材料として使用されていたことが記載され(摘記3c参照),また,甲第3号証には,以下の化学式(I)又は(II)に含まれる


」を有機エレクトロルミネセンスデバイスの発光層として使用することが一応記載されている(摘記3a,3b,3d参照)ので,従来用いられていた9,10位にジアリールアミノ基が置換されたアントラセン化合物と同様の特性を有する発光材料として,化学式(I)又は(II)の化合物が開発されたものと理解できる。
そして,この化学式(II)には,以下の化学式(IV)


」が含まれることも記載されており(摘記3f参照),その際のR^(5),R^(6)は,「炭素数6?20の無置換或いは置換のアリール基、炭素数2?20の無置換或いは置換のヘテロアリール基、又は炭素数1?12の無置換或いは置換のアルキル基」から選択され,さらに無置換或いは置換のアリール基としては,「フェニル、2-トリル、3-トリル、4-トリル、4-エチルフェニル、ビフェニル、4-メチルビフェニル、4-エチルビフェニル、4-シクロキシビフェニル、テルフェニル、3,5-ジクロロフェニル、ナフチル、5-メチルナフチル、アントリル及びピレニル」が記載されている(摘記3e参照)が,化学式(IV)として具体的な化学式の例示があるのは,R^(5),R^(6)が2-ナフチル,フェニル,4-トリルのみであって,さらに,実際に製造されているのは,化合物(5)のように2-ナフチルの化合物のみ(摘記3i参照)であって,当該化合物の発光特性については記載されていない。
そうすると,甲第3号証には,化学式(IV)のアントラセン環の9,10位に置換され得る置換基R^(5),R^(6)の定義にビフェニルも形式的に記載されているとしても,実際に製造もされておらず,かつ具体的な化学構造式の例示もない,置換基R^(5),R^(6)が4-ビフェニル,2-フルオレニルである化合物についてまで記載されていたとは認めることができない。
なお,甲第3号証には,化学式(I)に含まれる以下の化合物(2)


」の化合物が記載され(摘記3g参照),化合物(2)については緑色発光することが記載されている(摘記3h参照)ものの,これはドーパント物質として有効であることまで記載されているものではなく,化合物(2)が緑色発光の特性を有するとしても化合物(5)も緑色発光材料となるとともに,引用発明のホスト物質と組み合わせて同様にドーパント物質として有効であることが記載されているとはいえない。また,甲第20号証には,緑色ドーパントとして,ジアリールアミノ基が2個置換した化合物(1-1)?(1-6)とジアリールアミノ基が1個置換した化合物(1-7)が記載されている(請求項1,段落[0035]参照)ものの,これらは,ジアリールアミノ基の置換位置が2,6位ではなく,また,化合物(1-7)について緑色ドーパントとしての特性を実施例で確認したものでもないから,ジアリールアミノ置換基の個数によらず緑色ドーパントとしての特性が変わらないことを裏付けているとはいえず,甲第20号証の記載から,甲第3号証の化学式(IV)の化合物が,化合物(2)と同様に緑色ドーパントとしての特性を示すと直ちに推認することはできない。
さらに,甲第2号証には,有機EL素子に用いる物質として,一般式〔9〕に含まれる以下の化合物(101)


」が記載され(摘記2a,2c,2d参照)ているが,請求人が化合物(101)の実施例を記載したものと主張する表4には,化合物(101)が使用されたことが明記されておらず(摘記2e参照),この記載から,甲第3号証の化学式(IV)の化合物が引用発明のホスト物質との組み合わせにおいて緑色発光のドーパント物質として有効であることを直ちに推認できるものとはいえない。
そうすると,引用発明におけるEM144のようなアントラセン環の9,10位にジアリールアミノ基が置換された化合物が,甲第3号証の化学式(IV)の化合物と同等の特定のホスト材料に対して有効な緑色ドーパント物質の特性を有することが,甲第2,20号証の記載を参酌しても,甲第3号証に記載されているとはいえないから,引用発明のEM144に換えて,化学式(V)の化合物として,甲第3号証の化学式(IV)の化合物とすることが当業者にとって,容易になし得たということはできない。

仮に,甲第3号証に記載された化学式(IV)の化合物が,緑色ドーパント物質として使用し得ることが当業者に理解し得るものであったとしても,上述のように,甲第3号証には,化学式(IV)の置換基R^(5),R^(6)が,2-フルオレニルや4-ビフェニルである化合物まで具体的に開示するものではないから,化学式(IV)において,置換基R^(5),R^(6)が2-フルオレニル基,4-ビフェニル基を選択することが容易か否かについて,さらに検討を要する。
甲第1号証には,成分(A)のジアミノアリール化合物において,ジアリールアミノ基が立体障害が大きく,濃度消光を防止できること,分岐アルキル基をさらに置換基とすることで立体反発を強めることが記載され(摘記1f参照),また,甲第7号証には,分子間力の増加により濃度消光が強く作用する材料は,分子間を離すような大きな置換基を導入することで濃度消光を弱くすることも記載され(摘記7a参照),さらに,甲第15号証にも,蛍光の量子効率の高い縮合芳香族環系の化合物を活用し,立体的にかさ高い置換基を利用して濃度消光を抑制するという考えで開発を進めたことが記載されている(摘記16a参照)ので,本件の第2優先日の時点で,有機EL素子に用いる発光材料となる分子に,分子間を離すような嵩高い置換基(立体障害基)を導入して濃度消光を抑制しようとする課題とその解決手段が当業者に周知技術として認識されていたことは理解できる。
しかしながら,引用発明のEM144のような化合物や甲第3号証の化学式(IV)のような化合物において,濃度消光を抑制するとの課題があり,その解決手段として,2-フルオレニル基,4-ビフェニル基を選択することが容易であったとは認めることができない。
まず,甲第1号証に,ジアリールアミノ基が立体障害基であること,t-ブチル基がその立体反発を強めることが記載されており(摘記1f参照),すでに,濃度消光を抑制するとの課題が解決しているので,このうえ,2-フルオレニル基,4-ビフェニル基に置換基を換える動機付けが存在しない。
また,甲第17号証には,分子の会合を抑制する立体障害基として,「芳香族炭化水素基」が記載され(摘記17d参照),その中には,確かにフェニル基,2-ナフチル基と並んで,4-ビフェニル基も例示されている(摘記17c参照)が,これらは特定のベンゾペリレンの立体障害基として記載されたもの(摘記17a,b参照)であって,アントラセンの立体障害基ではなく,さらに,ここに例示される立体障害基は,きわめて多数の選択肢があり,4-ビフェニル基が実際に立体障害基として他のものと同等の効果を奏することの具体的な裏付けが記載されているわけでもなく,特に好適とされる立体障害基には4-ビフェニル基は挙げられていないし,2-フルオレニル基は立体障害基として例示すらされていない(例示があるのは9-フルオレニル基である)。
甲第18,19号証にも,アリール基が立体障害基となることが記載されている(摘記18a,18b,19a,19b参照)ものの,4-ビフェニル基,2-フルオレニル基については記載がない。
そして,甲第2号証には,アントラセンに置換するジアリールアミンの構造において,そのアリール基が4-ビフェニルか2-,3-ビフェニルかで有機EL素子の特性が変わることが示唆されている(摘記2b参照)ことからすれば,甲第17?19号証で示されるアリール基の立体障害基として例示されるすべてのものが同等の作用を示すと直ちに認めることはできない。
そうすると,引用発明のEM144のような化合物に換えて甲第3号証の化学式(IV)を仮に採用し得るとしても,さらに,化学式(IV)の置換基R^(5),R^(6)として,ドーパント物質として具体的な裏付けのない2-フルオレニル基や4-ビフェニル基の化合物を選択することが当業者に容易であったとは認めることができない。

(イ)相違点(ii)について
上記(ア)で述べたとおり,引用発明において相違点(i)の構成を採用することが当業者にとって容易でない以上,甲第4号証,甲第5号証に記載された発明に基づく相違点(ii)の容易想到性を検討するまでもなく,本件発明1は甲第1?5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。

ウ 本件発明1の効果について
上記イ(ア)で述べたとおり,本件発明1の効果について検討するまでもなく,本件発明1は,甲第1?5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえないが,念のため,本件発明1の効果について検討する。

本件発明1の効果については,本件明細書に,「本発明の目的は、色純度と発光効率に優れて、素子の寿命が非常に良好な有機発光化合物を提供することであり、上記の新規な有機発光化合物を含有したOLED素子を提供することである。」と記載され(【0014】参照),実施例において,本件発明1に含まれる実施例(No.12,No.13等)が比較例1,2よりも高い発光効率を得ることが具体的に記載されているので,本件発明1の効果としては,少なくとも,比較例1,2の素子よりも発光効率が改善するとの効果を奏するものと認められる。
甲第3号証には,化学式(IV)において,置換基R^(5),R^(6)がフェニルやナフチルの例示はあるが,その発光特性のデータについては記載されていない。そして,甲第3号証の化学式(IV)のR^(5),R^(6)がフェニルの化合物は,比較例2の化合物Gであって,本件明細書の記載によれば,化合物Gより本件発明1のドーパント物質である化合物12(R^(5),R^(6)が2-フルオレニル),化合物13(R^(5),R^(6)が4-ビフェニル)を使用した素子は発光効率が改善されているから,このような本件発明1の効果は,甲2,20号証の記載を参酌しても甲第3号証の記載から予測することができない。
また,甲第6,7,甲第14?19号証を参酌しても,フェニル基に比べて,2-フルオレニル基,4-ビフェニル基を使用した場合の立体障害基としての効果の改善を示唆する記載は認められない。
よって,本件発明1の効果は,甲第1?7号証,甲第14?20号証の記載から当業者が予測し得るものとは認められない。

エ まとめ
上記イ(ア)で検討したとおり,引用発明において,甲第1?5号証の記載,さらに甲第6,7,14?19号証の記載を参酌しても相違点(i)の構成を採用することが当業者にとって容易であるとはいえず,さらに,上記ウで述べたとおり,本件発明1には当業者が予測し得ない効果も認められるから,本件発明1は,甲第1?5号証に記載された発明に基いて,本件第2優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4-2)本件発明3に対して
本件発明3は,本件発明1において,ホスト物質である化学式3,化学式4のアントラセン誘導体を,さらに特定の化合物に限定したものであるから,本件発明3も本件発明1と同様に,甲第1?5号証に記載された発明に基いて,本件第2優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)請求人及び被請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は,以下のような主張をしている。
(ア)容易想到性について
(a)甲第1号証に記載の化合物EM144,EM183,EM185から,アントラセン環へのジアリールアミノ基の置換位置は種々変更可能であり,甲第2号証の化合物(101)の記載や,甲第3号証の9,10位にジアリールアミノ基が導入されたアントラセン発光材料を従来技術とし,当該従来技術を前提として,2,6位にジアリールアミノ基が置換されたアントラセン化合物を採用しているから,甲第1号証の化合物EM144の2,6位をジアリールアミノ基とする示唆がある(口頭審理陳述要領書第2頁第20?30行)。
(b)甲第3号証には,アントラセンの9,10位に置換される置換基として,炭素数6?20の無置換の或いは置換のアリール基が挙げられ,具体的にビフェニルも記載され,バルキーな置換基の1つとしてビフェニルやフルオレニルのような置換基を選択することは当業者が容易になし得ることにすぎない(口頭審理陳述要領書第2頁第30行?第3頁第4行)。
(c)バルキーな置換基を導入して立体障害を持たせることで濃度消光を弱くすることは,発光効率を改良するために考慮されるべき基本的な事項で技術常識であり,甲第14?17号証の記載からも理解できる。そして,甲第17?19号証の記載から,立体障害を持たせる置換基として,ビフェニル基やフルオレニル基を含むアリール基が開示されていることが理解できる。濃度消光を抑制することで発光効率の向上や長寿命化につながることは技術常識であり,それを達成するための手段として立体障害を大きくすることや大きな置換基を導入することは甲第1号証にも記載されている(口頭審理陳述要領書第3頁第13行?第5頁末行)。

(イ)本件発明の効果について
(d)本件発明1の効果が認められるには,本件発明1の全体にわたって,その構成を採用したことによる効果が認められなければならない。しかしながら,そのような効果の顕著性は甲第8,9,13号証に記載されるデータからも確認できないものである(審判請求書第34頁下から第5行?第37頁下から第10行,審判事件弁駁書第11頁第8行?第11行,口頭審理陳述要領書第11頁第6行?第15頁第2行)。

イ 請求人の主張の検討
(ア)容易想到性について
上記主張(a)について検討する。
上記(4)(4-1)イ(ア)で述べたように,EM144の化合物は,2,6位がアルキル基で置換されたものであり,甲第1号証に,2,6位にジアリールアミノ基を置換させることを示唆する記載はなく,2,6位にジアリールアミノ基を置換する化合物を想到することはそもそも困難である。
また,上記(4)(4-1)イ(ア)で述べたように,甲第2号証に記載される化合物(101)や,甲第3号証に記載されたアントラセン環の9,10位にジアリールアミノ基が導入されたアントラセン化合物が従来技術として認識できるものであったとしても,甲第3号証の化学式(IV)の化合物が引用発明におけるEM144と同等の緑色ドーパント物質の特性を有することが,甲第2,20号証の記載を参酌しても,甲第3号証に記載されているとはいえず,EM144を甲第3号証の化学式(IV)の化合物に置換する動機付けが認められない。

上記主張(b)について検討する。
上記(4)(4-1)イ(ア)で述べたように,甲第3号証には,化学式(IV)のR^(5),R^(6)として「フェニル、・・・・ビフェニル、4-メチルビフェニル・・・」との記載はあるものの,ヘテロアリールやアルキル基とアルキル基などのきわめて多数の選択肢のうちの1つであって,実際に製造もされておらず,かつ具体的な化学構造式の例示もない,4-ビフェニル基や2-フルオレニル基について,記載されていたとは認めることができない。

上記主張(c)について検討する。
上記(4)(4-1)イ(ア)で述べたように,すでに立体障害基であるジアリールアミノ基,t-ブチル基を有する引用発明の化合物において,さらに,2-フルオレニル基や4-ビフェニル基を置換基として導入する動機付けがあるとはいえないし,バルキーな置換基を導入して立体障害を持たせることで濃度消光を弱くすることが技術常識であるとしても,甲第17?19号証には,アントラセン環の立体障害基として,4-ビフェニル,2-フルオレニルを用いることの効果が具体的に記載されているものではない。

(イ)効果について
上記主張(d)は,本件発明の効果が,本件発明のすべての範囲で得られるものではないことを甲第8,9,13号証から示そうとするものと解されるが,本件発明の効果は,引用発明を基準とし,甲第1?5号証の記載及び甲第6,7号証,甲第14?20号証の記載から認められる本願第2優先日における技術常識に基いて当業者が予測し得るか否かとの観点で判断されるべきものであって,本件第2優先日より後に作成又は頒布された甲第8,9,13号証の記載事項によって,本件発明の効果の顕著性を否定することはできないから,主張(d)はそもそも失当である。
また,甲第8,9,13号証で示されたデータは,いずれも,本件発明に含まれる実施態様が,本件発明に含まれない実施態様に比べて効果がないことをいうだけであって,比較例2である化合物Gをドーパント物質として用いた場合よりも本件発明のドーパント物質を用いることによって素子の発光効率が向上するとの効果を奏することを否定するものではない。
よって,請求人の主張は採用できない。

ウ 被請求人の主張及びその検討
被請求人は,本件発明の効果は,比較例1を基準とするものであって、比較例2よりも高い効果がある必要はないと主張している(第1回口頭審理調書別紙2の3(3)参照)。
しかしながら,本件明細書の実施例が,比較例1,2を基準としてその効果の優位性を記載している(【0071】,【0072】参照)ことからすれば,本件発明は比較例2よりも高い効果を得ることも目的としていることは明らかであるから,被請求人の上記主張は採用できない。

(6)小括
以上のとおり,本件発明1,3は,甲第1?5号証に記載された発明に基いて,当業者が本件の第2優先日前に容易に発明をすることができたものと認めることができず,上記理由及び証拠によっては,本件発明1,3についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。

3 無効理由3について
(1)特許法第36条第4項の解釈
特許法第36条第4項は,「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その第1号で,「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。特許法第36条第4項第1号は,明細書のいわゆる実施可能要件を規定したものであって,物の発明では,その物を作り,かつ,その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか,そのような記載がない場合には,明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき,当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく,その物を製造することができ,かつ,使用できなければならないと解される。
よって,この観点に立って,本件の実施可能要件の判断をする。

(2)発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明に,以下の事項が記載されている。
(a)「【0013】
本発明の発明者らは、単にアントラセンの9番と10番位置にナフタレンなどの縮合多環芳香族環を導入する場合、上記のアントラセン環の2番と6番位置にそれぞれジアリールアミノ基が直接置換されているにもかかわらず、従来の正孔輸送物質の問題点、即ち、発光効率の低下、素子の駆動寿命の短縮、イオン化ポテンシャルの上昇などの問題点を克服することができることを見出し、これを発光材料として適用できる構造を導入することにより、本発明を完成するに至り、これは、特開2003-146951号または特開2004-91334号などの従来の発明では認識できなかったことである。また、本発明は、上記の化合物の一つ以上と共に、アントラセン誘導体、ベンズ[a]アントラセン誘導体及びナフタセン誘導体から選択される一つ以上の化合物を発光ホストとして発光領域に使用する場合、色純度の改善を通じての色再現率の増加及び発光効率の著しい増加と共に、素子寿命が増加されることを見出した。
【0014】
本発明の目的は、アントラセンの9番と10番位置にナフタレン、アントラセン、フルオランテンなどの縮合多環芳香族環が置換されて、アントラセン環の2番と6番位置にそれぞれジアリールアミノ基が直接置換された、新規な有機発光化合物を提供することであり、本発明のまた他の目的は、上記の化合物の一つ以上と共に、アントラセン誘導体、ベンズ[a]アントラセン誘導体及びナフタセン誘導体から選択される一つ以上の化合物を発光ホストとして使用する発光領域を有した有機電界EL素子を提供することである。また、本発明の目的は、色純度と発光効率に優れて、素子の寿命が非常に良好な有機発光化合物を提供することであり、上記の新規な有機発光化合物を含有したOLED素子を提供することである。」
(b)「【0022】
前述したように、特開2003-146951号に例示された化合物として、本発明による化学式1に類似した構造の化合物である化合物Gと化合物Hのように、2番と6番位置にそれぞれジアリールアミノ基が直接置換されており、且つアントラセンの9番と10番がフェニルの場合、発光効率が低下される問題点が指摘されており、本発明の発明者らは、このような問題点は、ホストとのエネルギー伝達に非常に不利な構造を有していることに起因し、従来の発明で提案された上記の化合物は、ホストの特性がいくら良くても、ドーパントの特性を全く改善させることができない限界を有するしかない。」
(c)「【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲がこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
製造例1:化合物1(化学式1 R_(1)=R_(2)=2-ナフチル、R_(3)=R_(4)=R_(5)=R_(6)=フェニル)の製造
2,6-ジクロロアントラキノン1.0g(3.6mmol)とジフェニルアミン1.3g(7.7mmol)を無水トルエン50mLに溶かした後、パラジウムアセテート(Pd(OAc)_(2))2.4g(24.4mmol)、トリフェニルホスフィン0.2mL(1.9mmol)とナトリウムt-ブトキシド(t-BuONa)0.93g(9.7mmol)を添加して、110℃で3日間還流させた。反応終了後、蒸留水10mLを添加して30分間攪拌した。生成された固体をろ過して、アセトン及びTHFなどで洗浄した後乾燥させて、塩化メチレンで再結晶し、ビス(2,6-ジフェニルアミノ)アントラキノン1.1g(2.0mmol、収率56%)を収得した。
【0043】
ジフェニルアミン0.74g(4.4mmol)とn-ブチルリチウム(n-BuLi)1.8mL(4.5mmol、2.5M in hexane)を利用して作られた2-ナフチルリチウムのジエチルエーテル溶液5mLを、上記製造されたビス(2,6-ジフェニルアミノ)アントラキノン1.1g(2.0mmol)の無水THF 30mL溶液に-78℃、窒素下で徐々に添加した。添加された反応混合溶液を同一温度で2時間攪拌した後、常温まで温度を上昇させ、12時間以上攪拌した。30mLの飽和塩化アンモニウム水溶液を添加し、2時間攪拌して反応を終了させた後、生成された固体をろ過し、アセトンで洗浄、乾燥させて2,6-ビス(ジフェニルアミノ)-9,10-[ジ-(2-ナフチル)]-9,10-ジヒドロ-9,10-アントラセンジオール1.3g(1.7mmol、収率85%)を収得した。
【0044】
このようにして得られたジオール化合物1.3g(1.71mmol)をアセトン30mLに入れた後、ヨウ化カリウム1.6g(7.8mmol)と、リン酸二水素ナトリウム一水和物(sodium dihydrogen phosphate monohydrate)2.0g(14.5mmol)を添加して、12時間還流した。反応が完了した後、同一容量の蒸留水を入れて形成された沈殿をろ過、水とアセトンで洗浄して得られた固体を、THFを利用して再結晶し、精製された標題化合物1 0.68g(0.89mmol、収率52%)を収得した。」
(d)「【0051】
製造例8:化合物8(化学式1 R_(1)=R_(2)=1-フルオランテニル、R_(3)=R_(5)=フェニル、R_(4)=R_(6)=2-ナフチル)の製造
製造例2で得られたビス(2,6-ジフェニルアミノ)アントラキノン1.16g(1.8mmol)に1-ブロモフルオランテン1.1g(3.9mmol)を利用して、製造例1と同一な方法により化合物8 0.77g(0.76mmol、収率21%)を収得した。」
(e)「【実施例1】
【0055】
本発明による化合物を利用したOLED素子の製造
本発明の発光材料を利用した構造のOLED素子を製作した。
・・・
【0060】
正孔注入層、正孔伝達層を形成させた後、その上に発光層を、以下のようにして蒸着させた。真空蒸着装備内の一方のセルに、ホストとして下記構造の7,12-di(2-naphthyl)-10-phenyl-benz(a)anthracence(DNPBA、化合物34)を入れて、他のセルには、ドーパントとして本発明による化合物(例えば、化合物4)をそれぞれ入れた後、二つの物質を異なる速度で蒸発させて2?5mol%でドーピングすることにより、前記正孔伝達層上に30nm厚の発光層(4)を蒸着した。
【0061】


(f)「【実施例2】
【0070】
製造されたOLED素子の発光特性
実施例1と比較例1で製造された本発明による有機発光化合物と従来の発光化合物を含有するOLED素子の発光効率をそれぞれ5,000cd/m2(審決注:「m^(2)」の誤記と認められる。以下同じである。)及び20,000cd/m2で測定し、表1に示した。特に、緑色発光材料の場合、高輝度領域における発光特性が非常に重要であるため、これを反映するために、20,000cd/m2程度の高輝度データを添付した。
【0071】
【表1】

【0072】
上記表1から分かるように、化合物34(DNPBA)と3.0%ドーピングをする場合、最も高い発光効率を示した。特に、化合物4、化合物5及び化合物8などは、従来のAlq:C545T(比較例1)または化合物G(比較例2)に比べ、2倍に達する発光効率を示した。」
(g)「【0075】
特に、本発明の材料特性のうち、図9は、輝度10,000cd/m2における寿命曲線であって、材料寿命特性が、従来の発光材料に比べ、著しく優れていることが確認でき、特に、本発明の材料が、従来の材料のような初期輝度の急激な低下特性を有していないことが分かる。800時間駆動後の相対輝度は、C545T、化合物G、実施例1の順に、それぞれ63%、73%、88%程度を示しており、これは、実際1/2輝度寿命側面で2?5倍の寿命改善を意味する。これは、従来の発光材料の場合、電子電導性に優れる特性を有している材料特性と反対の概念の、本発明材料が有する最高の長所であることを示している。」
(h)「【実施例3】
【0076】
本発明よる化合物と化学式3の化合物を採択したOLED素子の製造
実施例1と同一な方法により正孔注入層、正孔伝達層を形成させた後、前記真空蒸着装備内の他のセルに発光ホスト材料である化合物18(または、化合物19、または化合物23、または化合物24、または化合物25)を入れて、また他のセルには化合物1(または化合物5、または化合物13)をそれぞれ入れた後、二つの物質を異なる速度で蒸発させてドーピングすることにより、前記正孔伝達層上に30nm厚の発光層を蒸着した。この時のドーピング濃度は、発光ホスト材料基準に2?5mol%が好ましい。
【0077】
【表2】

【0078】
上記の表2から分かるように、本発明による多様な発光ホスト材料に対する改善された特性を確認することができた。」

(3)判断
本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1,3の「化学式1」においてR_(1),R_(2)が2-フルオレニル,4-ビフェニルである化合物の製造方法は具体的に記載されていないが,化学式1において,R_(1),R_(2)が1-フルオランテニルである化合物8を実際に製造したことは具体的に記載されている(摘記c,d参照)。そして,この製造例によれば,アントラセンへの置換位置がハロゲン化されたフルオランテニルのハロゲン化物と,(2,6-ジフェニルアミノ)アントラキノンを用いて,アントラキノンの9,10位にフルオランテニル基を置換させる反応が実施できることが理解でき,同様に,フルオレニル,ビフェニルもアントラセンへの置換位置をハロゲン化した化合物を用いることにより,「化学式1」においてR_(1),R_(2)が2-フルオレニル,4-ビフェニルである化合物を製造できると当業者に理解できる程度に記載されているといえる。
そして,本件発明1,3の「有機電界EL素子」の製造方法についても,実施例1,3に具体的に記載されており(摘記e,h参照),本件発明1,3の化学式1のR_(1),R_(2)が2-フルオレニル,4-ビフェニルをドーパント物質として使用し,化合物3,4の化合物をホスト物質として使用して発光層を形成し,有機電界EL素子を製造できることは当業者に理解できる程度に記載されているといえる。
さらに,本件発明1,3の「有機電界EL素子」に含まれる複数のOLED素子が,実施例2,3において,具体的に有機電界EL素子として使用されること(発光すること)が記載されている(摘記f,h参照)から,本件発明1,3の「有機電界EL素子」を使用できると当業者が理解できる程度に記載されているといえる。

(4)請求人の主張について
ア 請求人の主張
甲第8号証や項第13号証のデータから,本件特許が効果を奏しない態様を含んでいるということは,発明が解決しようとする課題を達成できない化合物をもその範囲に含んでいることになり,当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとは認められない(口頭審理陳述要領書第15頁第9?12行)。

イ 検討
甲第8号証の実験1と実験4の対比結果,及び甲第13号証の番号29,30と番号52,57の対比結果は,本件発明1,3の実施態様の一部が,本件特許1,3以外の実施態様に比べて,高い効果を奏さないこともあることを示すだけであって,このことは本件発明1,3を当業者が実施できないことを意味しない。
すなわち,本件特許1,3に含まれる実施態様の一部が,本件発明以外の実施態様より効果の劣る部分を含むとしても,それが本件発明の課題を解決しないというわけではないし,仮に,本件発明1,3が課題を解決し得ない部分を含むのであったとしても,それはサポート要件の問題であって,実施可能要件の問題ではない。
実施可能要件は,当業者がその発明を実施できることが理解できる程度に発明の詳細な説明に記載されていれば足り,そのことによって,当然,発明の技術上の意義も理解できるものである。

(5)小括
以上のとおりであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとすることはできないから,本件明細書の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第4項第1号に適合しないとはいえず,本件特許が特許法第36条第4項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものということはできない。

4 無効理由4について
(1)特許法第36条第6項第1号の解釈
特許法第36条第6項は,「第二項の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は,明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人又は特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である。
以下,この観点に立って検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
本件の特許請求の範囲の記載は,上記「第3」に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件の発明の詳細な説明の記載は,上記3(2)に記載したとおりである。

(4)本件発明の課題について
発明の詳細な説明の「発明が解決しようとする課題」には,
「単にアントラセンの9番と10番位置にナフタレンなどの縮合多環芳香族環を導入する場合、上記のアントラセン環の2番と6番位置にそれぞれジアリールアミノ基が直接置換されているにもかかわらず、従来の正孔輸送物質の問題点、即ち、発光効率の低下、素子の駆動寿命の短縮、イオン化ポテンシャルの上昇などの問題点を克服することができることを見出し、これを発光材料として適用できる構造を導入することにより、本発明を完成するに至り」と記載されている(摘記a参照)ので,従来例とされるアントラセンの9番と10番位置にフェニルが置換された化合物Hのような正孔輸送物質の問題点を解決することを意図するものと理解でき,その解決手段は,化合物Hから,アントラセンの9番と10番位置にナフタレンなどの縮合多環芳香族環を導入し,アントラセン環の2番と6番位置にそれぞれジアリールアミノ基が直接置換された化合物(本件発明の化学式1の化合物)とし,これを正孔輸送物質ではなく,発光材料として使用することにより解決することを意図して記載されているものと認める。
さらに,「本発明は、上記の化合物の一つ以上と共に、アントラセン誘導体、ベンズ[a]アントラセン誘導体及びナフタセン誘導体から選択される一つ以上の化合物を発光ホストとして発光領域に使用する場合、色純度の改善を通じての色再現率の増加及び発光効率の著しい増加と共に、素子寿命が増加されることを見出した。」と記載されている(摘記a参照)ので,本件発明の化学式1のドーパント物質と,本件発明の化学式3,4のホスト物質を使用して,色純度の改善,色再現率の増加及び発光効率の増加,素子寿命の増加との課題を解決することを意図したものといえる。
そして,「また、本発明の目的は、色純度と発光効率に優れて、素子の寿命が非常に良好な有機発光化合物を提供することであり、上記の新規な有機発光化合物を含有したOLED素子を提供することである。」と記載されている(摘記a参照)ので,本件発明の化学式1のドーパント物質及び化学式3,4のホスト物質を使用した素子を提供して,「色純度と発光効率に優れて、素子の寿命が非常に良好な素子」を得ることが本件発明の課題であると認められる。
ただし,「色純度と発光効率に優れて,素子の寿命が非常に良好」とは何を基準にしているかについては,「発明が解決しようとする課題」の段落には記載されていないので,それ以外の発明の詳細な説明の記載を参酌して判断せざるを得ない。
発明の詳細な説明には,「本発明による化学式1に類似した構造の化合物である化合物Gと化合物Hのように、2番と6番位置にそれぞれジアリールアミノ基が直接置換されており、且つアントラセンの9番と10番がフェニルの場合、発光効率が低下される問題点が指摘されており、本発明の発明者らは、このような問題点は、ホストとのエネルギー伝達に非常に不利な構造を有していることに起因し、従来の発明で提案された上記の化合物は、ホストの特性がいくら良くても、ドーパントの特性を全く改善させることができない限界を有するしかない。」と記載され(摘記b参照),従来公知の化合物G,Hは発光効率の低下という問題点があり,そのドーパントとしての特性を改善できないとの課題があったことが理解できる。
また,発明の詳細な説明には,実施例に対応する比較例として,ホスト物質としてAlq,ドーパント物質としてC545Tを用いた比較例1及びホスト物質として化合物34(化合物37の誤記と認める。),ドーパント物質として化合物Gを用いた比較例2が記載されている(摘記f参照)。そして,「特に、化合物4、化合物5及び化合物8などは、従来のAlq:C545T(比較例1)または化合物G(比較例2)に比べ、2倍に達する発光効率を示した。」との記載(摘記f参照),「800時間駆動後の相対輝度は、C545T、化合物G、実施例1の順に、それぞれ63%、73%、88%程度を示しており、これは、実際1/2輝度寿命側面で2?5倍の寿命改善を意味する。」との記載(摘記g参照)をみれば,比較例1のみを基準として発光効率や素子の寿命の改善を考慮していたのではなく,比較例2をも,本件発明の「色純度と発光効率に優れて,素子の寿命が非常に良好」との基準としていたことが理解できるから,本件発明の課題である「色純度と発光効率に優れて、素子の寿命が非常に良好な素子」とは,ドーパント物質として公知の化合物Gを用いた比較例2よりも「色純度と発光効率に優れて、素子の寿命が非常に良好な素子」を提供することもその課題として含まれていたものと認める。

(5)対比・判断
発明の詳細な説明には,
実施例2のNo.12に,ホスト物質として本件発明の化学式4のR_(11),R_(12)が2-ナフチル,R_(13)がフェニルである化合物37(DNPBAの化学式(摘記e参照)及び基礎出願明細書1の記載(上記2(1)参照)からみて,表1の「化合物34」はすべて「化合物37」の誤記と認める。)を,ドーパント物質として本件発明の化学式1のR_(1),R_(2)が2-フルオレニルである化合物12を用いた素子が,
実施例2のNo.13に,ホスト物質として同じく化合物37を,ドーパント物質として本件発明の化学式1のR_(1),R_(2)が2-ビフェニルである化合物13を用いた素子が,それぞれ記載されている(摘記f参照)。
なお,化合物12は,フルオレニル基の9位にメチルが置換されたものであるが,これは,上記1(2)で検討したとおり,本件発明1,3に含まれる実施態様であるといえる。
そして,ホスト物質としてAlq,ドーパント物質としてC545Tを用いた比較例1の素子及びホスト物質として化合物37,ドーパント物質として化合物Gを用いた比較例2の素子より,No.12,No13の素子はともに発光効率の改善があることがデータによって具体的に記載されている(摘記f参照)。
また,発明の詳細な説明には,実施例3において,
No.22に,ホスト物質として化学式3のR_(11),R_(12)が2-フルオレニル,R_(13)が2-ナフチルである化合物18,ドーパント物質として本件発明の化合物13を用いた素子が,
No.23に,ホスト物質として化学式3のR_(11),R_(12)が4-ビフェニル,R_(13)が2-ナフチルである化合物19,ドーパント物質として本件発明の化合物13を用いた素子が,
No.24に,ホスト物質として化学式3のR_(11),R_(12)が2-ナフチル,R_(13)が2-フルオレニルである化合物23,ドーパント物質として本件発明の化合物13を用いた素子が,
No.25に,ホスト物質として化学式3のR_(11),R_(12)が2-フルオレニル,R_(13)が2-フルオレニルである化合物25,ドーパント物質として本件発明の化合物13を用いた素子が,それぞれ記載されている(摘記h参照)。
そして,実施例3のNo.22,23,24,25の素子はいずれも比較例1,2の素子よりも発光効率の改善があることがデータによって具体的に記載されている(摘記h参照)。
そうすると,本件発明のドーパント物質である化学式1において,R_(1)及びR_(2)が,2-フルオレニル,4-ビフェニルである化合物のいずれもが発明の詳細な説明に具体的に記載され,また,本件発明のホスト物質である化学式3において,R_(11)及びR_(12)が2-ナフチル,2-フルオレニル,4-ビフェニル,R_(13)が2-ナフチル,2-フルオレニルの化合物も発明の詳細な説明に具体的に記載され,かつ,化学式4において,R_(11),R_(12)が2-ナフチル,R_(13)がフェニルである化合物も具体的に記載され,これらを使用した素子が,公知の化合物であるC545T,化合物Gをドーパント物質として使用した比較例1,2よりも発光効率が改善することが理解できる。
なお,本件発明において,化学式1のR_(1)及びR_(2)が,2-フルオレニルの場合において,化学式3のホスト物質とともに使用した素子については,実施例として記載されていないが,化学式1のR_(1)及びR_(2)が,4-ビフェニルの場合において,化学式3のホスト物質とともに使用した素子は,化学式4のホスト物質とともに使用した素子よりもすべて高い発光効率が得られていることからして,化学式1のR_(1)及びR_(2)が2-フルオレニルの場合においても化学式3のホスト物質を使用すれば,化学式4の化合物をホスト物質として使用したものよりも高い発光効率が得られるであろうと推認できる。
また,化学式3,化学式4のホスト物質においては,R_(11),R_(12),R_(13)の選択肢の一部について実施例が存在しないものもあるが,実施例のある置換基と類似しているものであるから,実施例があるものと同等の発光効率の改善効果が得られるものと推認できる。

次に,実施例2のNo.12は,ドーパント物質である化合物12をホスト物質に対して5モル%用いているのに対し,比較例1のドーパント物質であるC545Tは2モル%,比較例2のドーパント物質である化合物Gは3モル%用いている素子を対比している点でドーパント物質の違いに基づく効果が適切に対比できているか否かについて検討する。
甲第6号証には,「通常、発光層は、共蒸着によってホスト材料となる色素に発光中心となるゲスト色素を微量ドーピングする。これは蛍光量子効率の高い発光色素を濃度消光の起こらない低濃度で使用するためである。」と記載(摘記6b参照)され,また,甲第14号証にも,「分子間距離を短くするためには高濃度にゲスト分子を添加することになるが,あまり濃度を上げるとゲスト分子の相互作用が強くなり,蛍光量子収率が低下する現象(濃度消光)が生じるので注意が必要である.」と記載されている(摘記14a参照)ことからみて,ドーパントの濃度は高すぎるとむしろ発光効率が低下することがあることが理解できる。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明に「上記表1から分かるように、化合物34(DNPBA)(審決注:化合物37の誤記である。)と3.0%ドーピングをする場合、最も高い発光効率を示した。」と記載される(摘記f参照)ように,実施例は,最も高い発光効率が得られるドーパント濃度で,発光効率を測定した結果が記載されているといえ,比較例も同様に,最も高い発光効率が得られるドーパント濃度で測定した結果を対比していると解するのが自然である。
そうすると,実施例2の表1の実験結果は,最も高い発光効率が得られるドーパント濃度に合わせて対比したものと解されるから,実施例と比較例とでドーパント濃度が異なったものを対比しているとしても効果の対比として不適切ということはできない。

よって,本件発明については,発明の詳細な説明に記載された実施例によって,本件発明の範囲全般わたって,その課題が解決できると当業者が理解できる程度に記載されているといえるから,本件発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではないとすることはできない。

(6)請求人及び被請求人の主張
ア 請求人の主張
請求人は以下の主張をしている。
(a)甲第8号証,甲第9号証から明らかなように,ドーパント物質として化学式1である化合物のうちR_(1),R_(2)がビフェニルであるものは,化学式1においてR_(1),R_(2)がフェニルであるものよりも効果が低いかあるいはほとんど変わらず,実施例のような効果を奏し得ない(審判請求書第39頁第20?28行)。
(b)甲13号証から明らかなように,ドーパント物質として化学式1である化合物のうちR_(1),R_(2)がビフェニル,2-フルオレニルであるものは,化学式1においてR_(1),R_(2)がフェニルであるものと効果が変わらず,本件発明の効果を奏し得ない。また,本件明細書の記載を参酌するに,化学式1のR_(1),R_(2)がフェニルである化合物に対してこれらが2-ナフチルである化合物は性能が逆転する場合があるにもかかわらず,4-ビフェニルと2-フルオレニルで逆転し得ないとはいいえない(口頭審理陳述要領書第11頁第9行?第12頁第11行,第15頁下から第3行?第16頁第4行)。
(c)本件明細書の発明の詳細な説明には,化学式3の化合物をホスト物質として使用し,化学式1のうち,R_(1),R_(2)に2-フルオレニルを用いた実施例は存在しないことになるから,サポート要件を満たさない(審判事件弁駁書第16頁下から第9行?末行)。
(d)本件明細書の発明の詳細な説明には,本件明細書の発明の詳細な説明には,化学式4の化合物をホスト物質として使用し,化学式1のうち,R_(1),R_(2)に2-フルオレニルをドーパント物質として用いた実施例1のNo.12は,ドーピング濃度が他の実施例が3.0mol%であるのに対して,5.0mol%となっており,5.0mol%の濃度でないと効果が発現されないから,サポート要件を満たさない(審判請求書第39頁第29行?第40頁第11行)。
また,本件明細書の比較例1では,C545Tのドーピング濃度はAlq基準で2?5mol%が好ましいと記載されているが,被請求人が出願した甲第13号証では,C545Tのドーピング濃度はAlq基準で1?3mol%が好ましいと記載されており(【0541】参照),本来同じになる好適なドーピング濃度が異なっているから,ドーピング濃度がある程度(2モル%)以上となると,発光効率はプラトー状態に近くなり,発光効率は2?5mol%でドーピング濃度の影響を受けないとする被請求人の主張は認められるべきでない(平成25年6月20日付け上申書第2頁第2行?第3頁第11行)。

イ 請求人の主張の検討
上記主張(a)について検討する。
甲第8号証においては,本件発明の化学式1においてR_(1),R_(2)が4-ビフェニルのドーパント物質,本件発明の化学式3のホスト物質を用いた実験1と,本件発明の化学式1においてR_(1),R_(2)がフェニルのドーパント物質,本件発明の化学式3のホスト物質を用いた実験1とを対比して,発光効率がほぼ同じであることを示す対比結果が示されているが,実験4で用いられたドーパント物質はジアリールアミノ基の構造が,実験1で用いられるドーパント物質と異なるのでそもそも単純な比較ができるものでもなく,公知の化合物Gとも異なるものであるから,本件発明1のようなドーパント物質を使用したことによる,化合物Gをドーパント物質として使用した場合よりも発光効率が改善するとの効果(比較例2と実施例No.12,13との対比)を否定するものではない。
また,実験1と,本件発明の化学式1のドーパント物質,本件発明以外のホスト物質を用いた実験2,3との対比は,発光効率にほとんど差がないことを示しているものの,このことも,本件発明1のようなドーパント物質を使用したことによる,化合物Gをドーパント物質として使用した場合よりも発光効率が改善するとの効果を否定するものではない。
甲第9号証には,本件発明の化学式1においてR_(1),R_(2)がビフェニルのドーパント物質を用いた実施例48と,本件発明の化学式1においてR_(1),R_(2)がフェニルのドーパント物質を用いた実施例38とを対比して,発光効率がほぼ同じであることを示す対比結果が示されているが,実施例48のジアリールアミノ基の芳香族に置換する置換基はトリメチルシリル基であって本件発明の芳香族の置換基には含まれないから対象外であって,甲第9号証の結果が,本件発明1のようなドーパント物質を使用したことによる,化合物Gをドーパント物質として使用した場合よりも発光効率が改善するとの効果を否定するものではない。

上記主張(b)について検討する。
甲第13号証においては,ドーパント物質として本件発明の化学式1においてR_(1),R_(2)が4-ビフェニルのドーパント物質を用いた実施例52と,R_(1),R_(2)が2-フルオレニルのドーパント物質を用いた実施例57は,本件発明の化学式1においてR_(1),R_(2)がフェニルのドーパント物質を用いた実施例29,30と比べて発光効率が改善してないことが示されている。
しかしながら,実施例29,30で用いられたドーパント物質は対比する実施例52,57で使用されるドーパント物質とR_(1),R_(2)以外の構造も異なるもので,そもそも単純な比較ができるものではなく,公知の化合物Gとも異なるものであるから,本件発明1のようなドーパント物質を使用したことによる,化合物Gをドーパント物質として使用した場合よりも発光効率が改善するとの効果を否定するものではない。
また,甲第13号証には,ドーパント物質として本件発明の化学式1においてR_(1),R_(2)が2-ナフチルのドーパント物質を用いた実施例47は,本件発明の化学式1においてR_(1),R_(2)がフェニルのドーパント物質を用いた実施例29と比べて発光効率が改善してないことが示されているが,そもそも,化学式1においてR_(1),R_(2)が2-ナフチルのドーパント物質の対象外であり,いずれにしても本件発明1のようなドーパント物質を使用したことによる,化合物Gをドーパント物質として使用した場合よりも発光効率が改善するとの効果を否定するものではない。

上記主張(c)について検討する。
上記(5)で述べたとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,化学式3の化合物をホスト物質として使用し,化学式1のうち,R_(1),R_(2)に2-フルオレニルをドーパント物質として用いた実施例は記載されていないが,化学式4の化合物をホスト物質として使用し,R_(1),R_(2)に2-フルオレニルをドーパント物質として用いた実施例は記載されており,また,化学式3,4の化合物をホスト物質として使用し,化学式1でR_(1),R_(2)に4-ビフェニルをドーパント物質として用いた実施例は両方記載され,ホスト物質として化学式3の化合物を使用した場合のほうが,化学式4の化合物を用いた場合よりも高い発光効率が得られることからすれば,化学式3のホスト物質として使用し,化学式1のうち,R_(1),R_(2)に2-フルオレニルである化合物をドーパント物質として用いた場合にも同等以上の発光効率,すなわち,比較例2の化合物Gをドーパント物質として使用した場合よりも発光効率が改善されると当業者に理解し得るといえる。

上記主張(d)について検討する。
上記(5)で述べたように,実施例,比較例は,対比する素子が最も高い発光効率が得られるドーパント濃度の範囲で対比したと解されるから,たとえ,実施例1のNo.12の素子のドーパント物質の濃度が比較例1,2よりも高いものであったとしても,そのことが,No.12で使用される本件発明のドーパント物質を使用した場合に,公知のC545T,化合物Gを使用したものよりも発光効率の改善効果を得られるとの効果を否定するものとはいえない。
甲第13号証の比較例1においては,本件明細書の比較例1と同じAlqをホスト物質とし,同じC545Tをドーパント物質として,Alq基準で1.0mol%使用した比較例1が記載されているが,発光効率をみると,ともに,5000cd/m^(2)において10.3cd/A,20000cd/m^(2)において9.1cd/Aと同じ値になっている。
そうすると,本件明細書の比較例1におけるドーパント濃度が2.0mol%の発光効率も,ドーパント濃度が1.0molの発光効率も同じ値となるということは,2モル%以上において濃度消光が起き,むしろ発光効率が低下する可能性もあることからすれば,本件明細書の比較例1は,最も高い発光効率が得られるドーパント濃度の範囲内で選択されたことを裏付けているといえる。

ウ 被請求人の主張及びその検討
被請求人は,本件発明の課題について,本件明細書の段落0014の記載にかかわらず,比較例1よりも高い発光効率を得られる有機EL素子を得ることである旨述べている(口頭審理陳述要領書第9頁第13行?第10頁第17行,第1回口頭審理調書別紙2の5(2))。
しかしながら,上記(4)で述べたとおり,本件明細書の記載からみて,比較例1のみが比較すべき従来技術として記載されていたとは認められず,比較例2に示される公知化合物Gをドーパント物質で用いた場合よりも本件発明のドーパント物質を使用することで発光効率の改善が得られることも,その課題として記載していたことは,明らかである。
よって,被請求人の主張は採用できない。

(6)小括
以上のとおり,本件発明1,3は,発明の詳細な説明に記載されたものといえるから,本件特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえず,本件特許は特許法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものということはできない。

第7 むすび
以上のとおり,請求人が示した理由及び証拠によっては,本件発明1,3は第2優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものといえず,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできないから,本件発明1,3の特許は同法第123条第1項第2号に該当せず,無効とすることはできない。
また,請求人が示した理由及び証拠によっては,本件特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項2号に適合しないとはいえず,本件の特許が同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものといえないから,同法第123条第1項第4号に該当せず,無効とすることはできない。
また,請求人が示した理由及び証拠によっては,本件特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第4項1号に適合しないとはいえず,本件の特許が同法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものといえないから,同法第123条第1項第4号に該当せず,無効とすることはできない。
さらに,請求人が示した理由及び証拠によっては,本件特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項1号に適合しないとはいえず,本件の特許が同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものといえないから,同法第123条第1項第4号に該当せず,無効とすることはできない。

審判費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
緑色発光化合物及びこれを発光材料として採用している光発光素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記の化学式1または化学式2で表される有機発光化合物とその製造方法、及びアノードとカソードに介在される発光領域として、前記化学式1及び化学式2の化合物から選択される一つ以上と、アントラセン誘導体、ベンズ[a]アントラセン誘導体、及びナフタセン誘導体から選択される一つ以上とを含むことを特徴とする有機電界EL素子に関するものである。
[化学式1]
【化1】

[化学式2]
【化2】

【背景技術】
【0002】
高効率、長寿命有機EL素子の開発において最も重要な要素は、高性能の発光材料の開発と言える。現在、発光材料開発の側面からみると、緑色発光材料は、赤色、青色発光材料に比べ、著しい発光特性を示している。しかしながら、従来の緑色発光材料としては、パネルの大型化及び低消費電力を達成するには、まだ多い問題点を抱えている。実際、効率及び寿命の側面で、緑色の場合、今まで様々な種類の材料が報告されているが、これらは、赤色や青色発光材料に比べ、2?5倍以上の特性を示してはいるが、赤色や青色発光材料の特性改善による緑色発光材料の負担が増大されている一方、寿命改善の問題が依然として残っており、より長寿命の緑色発光材料に対する要求は、深刻な状況に至っている。
【0003】
緑色蛍光材料としては、クマリン誘導体(化合物D)、キナクリドン誘導体(化合物E)、DPT(化合物F)などが知られている。化合物Dは、クマリン誘導体のうち、現在最も広く使われるC545Tの構造である。これらの材料は、Alqをホストとして、数?十数%程度の濃度でドーピングして光発光素子を構成する。
【化3】

【0004】
一方、特開2001-131541号には、下記化合物Gで代表されるアントラセンの2番と6番位置の各々にジアリールアミノ基が直接置換されたビス(2,6-ジアリールアミノ)-9,10-ジフェニルアトラセン誘導体が公知されている。
【化4】

【0005】
正孔輸送層のための化合物を公知している特開2003-146951号では、アントラセンの9番と10番位置にフェニル基が置換された場合を除いては、2番と6番位置にジアリールアミノ基が直接置換されたことを開示していないだけではなく、特開2003-146951号において、アントラセン環の2番と6番位置にそれぞれジアリールアミノ基が直接置換されている化合物である化合物Hの場合、発光効率が低下される問題点を指摘した点からみると、前記特開2003-146951号発明が、アントラセンの9番と10番位置にフェニル基が置換された範囲以外の化合物を認識していないことが分かる。特開2003-146951号の発明は、前記の問題点を克服するために、一つのジアリールアミノ基のみがアントラセンの2番位置に置換されて、6番位置にはアリールアミノフェニル基が置換される場合に発光効率が向上するという認識に基づいて、発光効率が2倍程度向上された下記化合物Iで代表される発光化合物を提案した。
【0006】
【化5】

【0007】
しかしながら、上記提案された化合物の場合も、発光効率は増加したが、正孔輸送層が低下する短所と発光輝度が十分ではないという問題点がある。また、これらの材料を発光材料として使用していない点と、化合物Iの場合は、明るい青色発光をして、発光効率が低下されるという点で、実際発光材料に適用するには限界がある。
【0008】
一方、特開第2004-91334号では、アントラセンにジアリールアミノ基が直接置換されている上に、前記ジアリールアミノ基のアリール基がジアリールアミノ基でさらに置換されるようにすることにより、従来の発光効率の低下を克服し、イオン化ポテンシャルが低く且つ正孔輸送性に優れた特性を有する、下記の化合物Jで代表される有機発光化合物を提案した。
【化6】

【0009】
しかしながら、前記特開第2004-91334号で提案された化合物は、正孔輸送層として適用したもので、アミン作用基が多くイオン化ポテンシャルを低めて、正孔輸送性を増大させる点を克服したが、アミン作用基の過多により、正孔輸送層としての駆動寿命が短縮される問題を有しており、これは、たとえ前記特開第2004-91334号の詳細な説明に、アントラセンの9番と10番位置に1-ナフチル、9-フェナントリル基が置換された化合物を一部記載してはいるが、アントラセンの9番と10番位置にα-タイプの多環が縮合された構造では、青方偏移現象を伴う特性により誘発された発光効率の低下を示し、実際にアントラセンの9番と10番位置に縮合多重芳香族環が置換される時の発光特性を認識していないと言えて、また、そのような化合物を具体的に実施しなかったことを意味する。
【0010】
一方、米国特許公報第6465115号には、陽極と陰極との間に、下記有機化合物を含む正孔輸送層(Hole transport layer)を特徴とする有機多層電子発光装置が公知されている。
【化7】

【0011】
しかしながら、米国特許公報第6465115号には、化合物Kと化合物Lが発光領域に使用されておらず、このような材料の発光領域における特性を確認することができなかった。特に、単にアントラセンの9,10-位置が芳香族置換基で置換された誘導体を適用する場合より、2-位置に本発明における置換基が置換された誘導体が、電気的特性がより一層改善されるということを認識できなかった。
【0012】
本発明では、9,10-ジアリールアントラセンの2-位置が置換された誘導体が、化学式1または化学式2の化合物の発光特性を著しく改善させることを確認し、本発明を完成した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の発明者らは、単にアントラセンの9番と10番位置にナフタレンなどの縮合多環芳香族環を導入する場合、上記のアントラセン環の2番と6番位置にそれぞれジアリールアミノ基が直接置換されているにもかかわらず、従来の正孔輸送物質の問題点、即ち、発光効率の低下、素子の駆動寿命の短縮、イオン化ポテンシャルの上昇などの問題点を克服することができることを見出し、これを発光材料として適用できる構造を導入することにより、本発明を完成するに至り、これは、特開2003-146951号または特開2004-91334号などの従来の発明では認識できなかったことである。また、本発明は、上記の化合物の一つ以上と共に、アントラセン誘導体、ベンズ[a]アントラセン誘導体及びナフタセン誘導体から選択される一つ以上の化合物を発光ホストとして発光領域に使用する場合、色純度の改善を通じての色再現率の増加及び発光効率の著しい増加と共に、素子寿命が増加されることを見出した。
【0014】
本発明の目的は、アントラセンの9番と10番位置にナフタレン、アントラセン、フルオランテンなどの縮合多環芳香族環が置換されて、アントラセン環の2番と6番位置にそれぞれジアリールアミノ基が直接置換された、新規な有機発光化合物を提供することであり、本発明のまた他の目的は、上記の化合物の一つ以上と共に、アントラセン誘導体、ベンズ[a]アントラセン誘導体及びナフタセン誘導体から選択される一つ以上の化合物を発光ホストとして使用する発光領域を有した有機電界EL素子を提供することである。また、本発明の目的は、色純度と発光効率に優れて、素子の寿命が非常に良好な有機発光化合物を提供することであり、上記の新規な有機発光化合物を含有したOLED素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、下記の化学式1または化学式2で表される有機発光化合物、その製造方法に関するものである。
[化学式1]
【化8】

[化学式2]
【化9】

上記化学式1または化学式2のR_(1)及びR_(2)は、各々独立に2つ以上の芳香族環が縮合された縮合多環芳香族環であり、R_(3)乃至R_(6)は、各々独立に芳香族環であって、前記R_(1)乃至R_(6)の各芳香族環は、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基、ハロゲン基、C_(5)?C_(7)のシクロアルキル基がさらに置換され得る。
【0016】
また、本発明は、第1電極、1層以上からなる有機物層、及び第2電極を、順に積層した形態として含む有機EL素子において、前記有機物層の1層以上が上記化学式1または化学式2の化合物を含むことを特徴とする有機電界EL素子(OLED、Organic Light Emitting Diode)に関するものであって、また、本発明は、アノードと、カソードと、前記アノードとカソードとの間に介在される発光領域とを含む有機電界EL素子において、前記発光領域が上記化学式1または化学式2の有機発光化合物の一つ以上と、アントラセン誘導体、ベンズ[a]アントラセン誘導体、及びナフタセン誘導体から選択される一つ以上とを含むことを特徴とする有機電界EL素子に関するものである。
【0017】
本発明による化学式1及び化学式2の化合物は、従来の発明で予測できなかった緑色光発光素子の発光効率及び素子寿命を極大化させた、新しい概念の構造を有する化合物であることに特徴がある。
【0018】
本発明による化学式1及び化学式2の化合物は、効率的なホスト-ドーパント間のエネルギー伝達メカニズムを示す構造を選択したもので、電子密度分布の改善効果に基づいて、確実な高効率の発光特性を発現できる構造である。本発明による新規な化合物の構造は、単純に緑色発光だけではなく、青色から赤色に至る領域で高効率の発光特性をチューニングできる骨格を提供することができて、また、Alqのような電子電導性の大きいホスト材料を使用する概念から脱し、正孔電導性と電子電導性が適切に均衡をなすホストを適用することにより、既存の材料が有していた初期効率低下特性及び低寿命特性などを克服、各カラーにおいて高効率及び長寿命を有する高性能の発光特性を確保することができる。
【0019】
アントラセンの2番と6番位置にアミン基を導入して、9番と10番位置に縮合多環芳香族である2-ナフチル基が置換された本発明による化合物の電子密度分布図とアントラセンの2番と6番位置に芳香族環を導入した場合、電子密度分布図を示している図1と図2から分かるように、アミン基がアントラセンのβ位置(2番と6番または7番位置)に置換された場合、中心骨格の枝まで均一な電子分布により高効率の発光特性を示すが、中心骨格に直接芳香族環が位置する場合、枝の電子密度が著しく低下することが分かり、これは、高効率の発光特性を得るためには、中心骨格に直接アミン基を導入しなければならないという概念を説明している。
【0020】
このような結果は、従来の発明の発光材料のように、単に発光波長をチューニングする目的で芳香族環をスペーサ(spacer)として利用する場合、発光効率を改善させるには限界があるしかない点を示している。
【0021】
本発明による化学式1乃至化学式2の構造のように、上記の問題点を克服するために、アミン基をβ位置に直接導入する方法と、中心アントラセンの9、10位置に多環芳香族環を導入する概念を使用することにより、本発明では、従来に比べ、2倍以上の高効率の発光材料を開発することができた。
【0022】
前述したように、特開2003-146951号に例示された化合物として、本発明による化学式1に類似した構造の化合物である化合物Gと化合物Hのように、2番と6番位置にそれぞれジアリールアミノ基が直接置換されており、且つアントラセンの9番と10番がフェニルの場合、発光効率が低下される問題点が指摘されており、本発明の発明者らは、このような問題点は、ホストとのエネルギー伝達に非常に不利な構造を有していることに起因し、従来の発明で提案された上記の化合物は、ホストの特性がいくら良くても、ドーパントの特性を全く改善させることができない限界を有するしかない。
【0023】
【化10】

【0024】
本発明の発明者らは、このような研究結果に基づいて、従来の発明で例示されたアントラセンの2番と6番位置にそれぞれジアリールアミノ基が直接置換されており、且つフェニル基が9番と10番位置に置換される場合、フェニル程度の大きさ及び立体構造的特性では分子間の単純重なりによる長波長偏移特性を克服することができないが、本発明による化学式1及び化学式2の化合物は、アントラセンのβ位置にそれぞれジアリールアミノ基が直接置換されているとしても、アントラセンの9番と10番位置にナフタレン以上の縮合多環芳香族環を導入することにより、パイ(π)電子の他の分子との重なりが非常に効率的になされ、エネルギー伝達特性が非常によくなる特性が現れることを見出し、これに基づいて本発明を完成するに至った。
【0025】
従って、本発明による化合物である化学式1または化学式2の化合物は、アントラセンのβ位置に芳香族環が置換されたジアリールアミン基が直接置換されて、9番と10番位置であるR_(1)及びR_(2)に2つ以上の芳香族環が縮合された縮合多環芳香族環が置換されたことを特徴とし、前記縮合多環芳香族環は、各々独立に、ナフチル、アントリル、フルオランテニル、ピレニル、フルオレニル、ビフェニル及びペリレニル基であることが好ましく、アントラセンのβ位置に置換されるアミンに置換されるR_(3)乃至R_(6)は、各々独立に、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、フルオレニル、フルオランテニル、ピレニル、ペリレニル、ナフタセニル及びビフェニル基であることが好ましい。
【0026】
前記化学式1または化学式2のR_(1)及びR_(2)の縮合多環芳香族環としてさらに好ましくは、各々独立に、2-ナフチル、2-アントリル、2-フルオランテニル、1-ピレニル、2-フルオレニル、4-ビフェニル及び3-ペリレニル基から選択されることであり、これは、前記縮合多環芳香族環の特定位置への置換により、縮合多環芳香族環のパイ(π)電子と他の分子との重なりが最適になされる点に起因し、このような縮合多環芳香族環化合物の置換位置を選択することも、本発明の重要な特徴である。
【0027】
また、本発明による化合物は、発光特性を向上させるために、本発明によるR_(3)乃至R_(6)の芳香族環は、各々独立に、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基、ハロゲン基、C_(5)?C_(7)のシクロアルキル基がさらに置換され得て、特に、R_(1)乃至R_(6)の各芳香族環は、メチル、t-ブチルまたはメトキシ基が置換されることが好ましい。
【0028】
本発明による化学式1及び化学式2の化合物のうち、好ましい化合物としては、下記構造の化合物が挙げられる。
【0029】
【化11】




【0030】
本発明による化学式1及び化学式2の化合物は、下記の反応式1に示されたように、2,6-ジハロアントラキノン(2,6-DHAQ)または2,7-ジハロアントラキノンにジアリールアミンを反応して、ビス(ジアリールアミノ)アントラキノン(BDAAQ)を製造した後、縮合多環芳香族化合物のリチウム化合物を加えて製造されたジヒドロアントラセンジオール化合物(DHAD)を、脱水反応によりアントラセン骨格を完成する段階を経ることにより製造することができる。
【0031】
[反応式1]
【化12】

【0032】
また、本発明は、第1電極、1層以上からなる有機物層、及び第2電極を、順に積層した形態として含む有機EL素子において、前記有機物層の1層以上が上記化学式1または化学式2の化合物を含む有機電界EL素子(OLED、Organic Light Emitting Diode)を特徴とし、また、本発明は、アノードと、カソードと、前記アノードとカソードとの間に介在される発光領域とを含む有機電界EL素子において、前記発光領域が上記化学式1または化学式2の有機発光化合物の一つ以上と、アントラセン誘導体、ベンズ[a]アントラセン誘導体、及びナフタセン誘導体から選択される一つ以上とを含む有機電界EL素子を特徴とする。
【0033】
前記発光領域の意味は、発光がなされる層であって、単層でも、2つ以上の層が積層された複数の層でもよい。本発明の構成におけるホスト-ドーパントを混合して使用する場合、単に化学式1または化学式2のみを使用する場合とは異なり、本発明の発光ホストによる発光効率の著しい改善を確認することができた。これは、2?5%のドーピング濃度で構成することができるが、既存のホスト材料に比べ、正孔、電子に対する電導性、及び物質安定性に非常に優れており、発光効率だけではなく、寿命も著しく改善させる特性を示している。
【0034】
従って、アントラセン誘導体、ベンズ[a]アントラセン誘導体及びナフタセン誘導体から選択される化合物を発光ホストとして採択する場合、本発明の化学式1または化学式2の化合物の電気的短所を非常に補完する役割をすることができると言える。
【0035】
前記発光領域に前記化学式1または化学式2の有機発光化合物の一つ以上と共に含まれるアントラセン誘導体またはベンズ[a]アントラセン誘導体は、下記化学式3または化学式4で表される化合物を含む。
[化学式3]
【化13】

[化学式4]
【化14】

【0036】
上記化学式3または化学式4のR_(11)及びR_(12)は、各々独立にC_(6)?C_(20)の芳香族環または縮合多環芳香族環であり、R_(13)は、水素、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基、ハロゲン基、C_(5)?C_(7)のシクロアルキル基、またはC_(6)?C_(20)の芳香族環または縮合多環芳香族環であって、前記R_(11)乃至R_(13)の各芳香族環は、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基、ハロゲン基、C_(5)?C_(7)のシクロアルキル基がさらに置換され得る。
【0037】
前記化学式3または化学式4の範囲は、具体的には、R_(11)乃至R_(13)が各々独立に、フェニル、2-ナフチル、2-アントリル、2-フルオランテニル、1-ピレニル、2-フルオレニル、4-ビフェニル及び3-ペリレニル基で例示できる。
【0038】
化学式3のアントラセン誘導体は、下記化学式の化合物を含む。
【0039】
【化15】









【発明の効果】
【0040】
本発明による有機発光化合物は、発光効率がよく、材料の寿命特性に優れており、素子の駆動寿命が非常に良好なOLED素子を製造することができる長所がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲がこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
製造例1:化合物1(化学式1 R_(1)=R_(2)=2-ナフチル、R_(3)=R_(4)=R_(5)=R_(6)=フェニル)の製造
2,6-ジクロロアントラキノン1.0g(3.6mmol)とジフェニルアミン1.3g(7.7mmol)を無水トルエン50mLに溶かした後、パラジウムアセテート(Pd(OAc)2)2.4g(24.4mmol)、トリフェニルホスフィン0.2mL(1.9mmol)とナトリウムt-ブトキシド(t-BuONa)0.93g(9.7mmol)を添加して、110℃で3日間還流させた。反応終了後、蒸留水10mLを添加して30分間攪拌した。生成された固体をろ過して、アセトン及びTHFなどで洗浄した後乾燥させて、塩化メチレンで再結晶し、ビス(2,6-ジフェニルアミノ)アントラキノン1.1g(2.0mmol、収率56%)を収得した。
【0043】
ジフェニルアミン0.74g(4.4mmol)とn-ブチルリチウム(n-BuLi)1.8mL(4.5mmol、2.5M in hexane)を利用して作られた2-ナフチルリチウムのジエチルエーテル溶液5mLを、上記製造されたビス(2,6-ジフェニルアミノ)アントラキノン1.1g(2.0mmol)の無水THF 30mL溶液に-78℃、窒素下で徐々に添加した。添加された反応混合溶液を同一温度で2時間攪拌した後、常温まで温度を上昇させ、12時間以上攪拌した。30mLの飽和塩化アンモニウム水溶液を添加し、2時間攪拌して反応を終了させた後、生成された固体をろ過し、アセトンで洗浄、乾燥させて2,6-ビス(ジフェニルアミノ)-9,10-[ジ-(2-ナフチル)]-9,10-ジヒドロ-9,10-アントラセンジオール1.3g(1.7mmol、収率85%)を収得した。
【0044】
このようにして得られたジオール化合物1.3g(1.71mmol)をアセトン30mLに入れた後、ヨウ化カリウム1.6g(7.8mmol)と、リン酸二水素ナトリウム一水和物(sodium dihydrogen phosphate monohydrate)2.0g(14.5mmol)を添加して、12時間還流した。反応が完了した後、同一容量の蒸留水を入れて形成された沈殿をろ過、水とアセトンで洗浄して得られた固体を、THFを利用して再結晶し、精製された標題化合物1 0.68g(0.89mmol、収率52%)を収得した。
1H NMR(200MHz,CDCl3):δ 6.46(d,8H),6.65-6.75(m,8H),7.0(m,8H),7.3(m,4H),7.5-7.6(m,4H),7.65-7.8(m,6H),7.9(s,2H)
MS/FAB:764(found),764.98(calculated)
【0045】
製造例2:化合物2(化学式1 R_(1)=R_(2)=R_(3)=R_(5)=2-ナフチル、R_(4)=R_(6)=フェニル)の製造
N-フェニル-2-ナフチルアミン1.7g(7.8mmol)を利用して、製造例1と同一な方法により化合物2 0.53g(0.61mmol、収率17%)を収得した。
1H NMR(200MHz,CDCl3):δ 6.45(d,4H),6.6(t,2H),6.75-6.8(m,8H),7.0-7.15(m,6H),7.2-7.3(m,6H),7.45-7.6(m,10H),7.65-7.8(m,6H),7.9(s,2H)
MS/FAB:864(found),865.10(calculated)
【0046】
製造例3:化合物3(R_(1)=R_(2)=2-ナフチル、R_(3)=R_(5)=1-ナフチル、R_(4)=R_(6)=フェニル)の製造
N-フェニル-1-ナフチルアミン1.7g(7.8mmol)を利用して、製造例1と同一な方法により化合物3 0.41g(0.47mmol、収率13%)を収得した。
1H NMR(200MHz,CDCl3):δ 6.45(d,4H),6.5(d,2H),6.6(t,2H),6.75-6.8(m,4H),7.0-7.05(m,4H),7.15-7.2(m,4H),7.3-7.35(m,8H),7.55-7.8(m,14H),7.9(s,2H)
MS/FAB:864(found),865.10(calculated)
【0047】
製造例4:化合物4(化学式1 R_(1)=R_(2)=R_(3)=R_(5)=R_(6)=2-ナフチル)の製造
ジ(2-ナフチル)アミン2.1g(7.8mmol)を利用して、製造例1と同一な方法により化合物4 0.52g(0.54mmol、収率15%)を収得した。
1H NMR(200MHz,CDCl3):δ 6.75-6.8(m,12H),7.0-7.1(m,4H),7.2-7.35(m,8H),7.45-7.6(m,16H),7.65-7.8(m,6H),7.9(s,2H)
MS/FAB:964(found),965.22(calculated)
【0048】
製造例5:化合物5(化学式1 R_(1)=R_(2)=2-ナフチル、R_(3)=R_(5)=フェニル、R_(4)=R_(6)=3-メトキシフェニル)の製造
3-メトキシフェニルアミン1.53g(7.7mmol)を利用して、製造例1と同一な方法により化合物5 1.0g(1.21mmol、収率34%)を収得した。
1H NMR(200MHz,CDCl3):δ 3.75(s,6H),5.95-6.05(m,4H),6.15(d,2H),6.45(d,4H),6.6(t,2H),6.75-7.05(m,10H),7.3(m,4H),7.5-7.55(m,4H),7.65-7.8(m,6H),7.9(s,2H)
MS/FAB:824(found),825.03(calculated)
【0049】
製造例6:化合物6(化学式1 R_(1)=R_(2)=R_(3)=R_(5)=2-ナフチル、フェニル、R_(4)=R_(6)=3-メチルフェニル)の製造
N-m-トリル-2-ナフチルアミン1.8g(7.7mmol)を利用して、製造例1と同一な方法により化合物6 0.61g(0.68mmol、収率19%)を収得した。
1H NMR(200MHz,CDCl3):δ 2.3(s,6H),6.25-6.30(t,4H),6.4(d,2H),6.75-6.9(m,10H),7.1(m,2H),7.2-7.3(m,6H),7.4-7.55(m,10H),7.65-7.8(m,6H),7.9(s,2H)
MS/FAB:892(found),893.15(calculated)
【0050】
製造例7:化合物7(化学式1 R_(1)=R_(2)=2-ナフチル、R_(3)=R_(5)=1-ナフチル、フェニル、R_(4)=R_(6)=3-メチルフェニル)の製造
N-m-トリル-1-ナフチルアミン1.8g(7.7mmol)を利用して、製造例1と同一な方法により化合物7 0.38g(0.43mmol、収率12%)を収得した。
1H NMR(200MHz,CDCl3):δ 2.3(s,6H),6.25-6.3(t,4H),6.4-6.5(m,4H),6.75-6.9(m,6H),7.15(t,4H),7.3(m,8H),7.5-7.8(m,14H),7.9(s,2H)
MS/FAB:892(found),893.15(calculated)
【0051】
製造例8:化合物8(化学式1 R_(1)=R_(2)=1-フルオランテニル、R_(3)=R_(5)=フェニル、R_(4)=R_(6)=2-ナフチル)の製造
製造例2で得られたビス(2,6-ジフェニルアミノ)アントラキノン1.16g(1.8mmol)に1-ブロモフルオランテン1.1g(3.9mmol)を利用して、製造例1と同一な方法により化合物8 0.77g(0.76mmol、収率21%)を収得した。
1H NMR(200MHz,CDCl3):δ 6.4(d,4H),6.6(t,2H),6.75-6.8(m,8H),7.0-7.1(m,6H),7.2-7.3(m,10H),7.45-7.6(m,10H),7.7-7.8(m,4H),7.9-7.95(m,4H)
MS:1012(found),1013.27(calculated)
【0052】
製造例9:化合物9(化学式2 R_(1)=R_(2)=2-ナフチル、R_(3)=R_(4)=R_(5)=R_(6)=フェニル)の製造
2,7-ジクロロアントラキノン0.5g(1.8mmol)とジフェニルアミン0.65g(3.9mmol)を利用して、製造例1と同一な方法によりビス(2,7-ジフェニル)アントラキノン0.60g(1.1mmol、収率61%)を収得した。このように得られたビス(2,7-ジフェニル)アントラキノン0.60g(1.1mmol)を利用して、製造例1と同一な方法により化合物9 0.40g(0.52mmol、収率29%)を収得した。
1H NMR(200MHz,CDCl3):δ 6.4(d,8H),6.6(t,4H),6.75-6.8(m,4H),7.0(m,8H),7.3(m,4H),7.5-7.55(m,4H),7.65-7.8(m,6H),7.9(s,2H)
MS:764(found),764.98(calculated)
【0053】
製造例10:化合物10(化学式2 R_(1)=R_(2)=R_(3)=R_(5)=2-ナフチル、R_(4)=R_(6)=フェニル)の製造
N-フェニル-2-ナフチルアミン0.85g(3.9mmol)を利用して、製造例9と同一な方法により化合物10 0.29g(0.34mmol、収率19%)を収得した。
1H NMR(200MHz,CDCl3):δ 6.4(d,4H),6.6(t,2H),6.75-6.8(m,8H),7.0-7.1(m,6H),7.2-7.3(m,6H),7.45-7.6(m,10H),7.65-7.8(m,6H),7.9(s,2H)
MS:864(found),865.10(calculated)
【0054】
製造例11:化合物11(化学式1 R_(1)=R_(2)=2-ナフチル、R_(3)=R_(4)=R_(5)=R_(6)=2-アントリル)の製造
ジ(2-アントリル)アミン2.8g(7.6mmol)を利用して、製造例1と同一な方法により化合物11 0.29g(0.25mmol、収率7%)を収得した。
1H NMR(200MHz,CDCl3):δ 6.75-6.8(m,12H),7.25-7.3(m,12H),7.45-7.6(m,16H),7.65-7.8(m,14H),7.9(s,2H)
MS/FAB:1164(found),1165.46(calculated)
【実施例1】
【0055】
本発明による化合物を利用したOLED素子の製造
本発明の発光材料を利用した構造のOLED素子を製作した。
まず、OLED用ガラス(三星-コーニング社製)から得られた透明電極ITO薄膜(15Ω/□)を、トリクロロエチレン、アセトン、エタノール、蒸留水を順に使用して超音波洗浄を施した後、イソプロパノールに入れて保管した後使用した。
【0056】
次に、真空蒸着装備の基板フォルダーにITO基板を設けて、真空蒸着装備内のセルに下記構造の4,4’,4’’-tris(N,N-(2-naphthyl)-phenylamino)triphenylamine(2-TNATA)を入れて、チャンバー内の真空度が10-6torrに到達するまで排気させた後、セルに電流を印加して2-TNATAを蒸発させ、ITO基板上に60nm厚の正孔注入層を蒸着した。
【0057】
【化16】

【0058】
次いで、真空蒸着装備内の他のセルに下記構造N,N’-bis(a-naphthyl)-N,N’-diphenyl-4,4’-diamine(NPB)を入れて、セルに電流を印加してNPBを蒸発させ、正孔注入層上に20nm厚の正孔伝達層を蒸着した。
【0059】
【化17】

【0060】
正孔注入層、正孔伝達層を形成させた後、その上に発光層を、以下のようにして蒸着させた。真空蒸着装備内の一方のセルに、ホストとして下記構造の7,12-di(2-naphthyl)-10-phenyl-benz(a)anthracence(DNPBA、化合物34)を入れて、他のセルには、ドーパントとして本発明による化合物(例えば、化合物4)をそれぞれ入れた後、二つの物質を異なる速度で蒸発させて2?5mol%でドーピングすることにより、前記正孔伝達層上に30nm厚の発光層(4)を蒸着した。
【0061】
【化18】

【化19】

【0062】
次いで、電子伝達層として下記構造のAlqを20nm厚で蒸着した後、電子注入層に下記構造の化合物lithium quinolate(Liq)を1?2nm厚で蒸着した後、他の真空蒸着装備を利用してAl陰極を150nm厚で蒸着し、OLEDを製作した。
【化20】

【化21】

【0063】
材料別に、各化合物は10-6torr下で真空昇華精製してOLED発光材料として使用した。
【0064】
比較例1:従来の発光材料を利用したOLED素子を製造
実施例1と同一な方法により正孔注入層、正孔伝達層を形成させた後、前記真空蒸着装備内の他のセルに発光ホスト材料であるtris(8-hydroxyquinoline)-aluminum(III)(Alq)を入れて、また他のセルには下記構造のクマリン 545T(C545T)をそれぞれ入れた後、二つの物質を異なる速度で蒸発させてドーピングすることにより、前記正孔伝達層上に30nm厚の発光層を蒸着した。この時のドーピング濃度は、Alq基準2?5mol%が好ましい。
【0065】
【化22】

【0066】
次いで、実施例1と同一な方法により、電子伝達層と電子注入層を蒸着した後、他の真空蒸着装備を利用してAl陰極を150nm厚で蒸着し、OLEDを製作した。
【0067】
比較例2:従来の発光材料を利用したOLED素子を製造
実施例1と同一な方法により正孔注入層、正孔伝達層を形成させた後、前記真空蒸着装備内の他のセルに発光ホスト材料であるDNPBAを入れて、また他のセルには化合物Gをそれぞれ入れた後、二つの物質を異なる速度で蒸発させてDNPBA基準2?5mol%でドーピングすることにより、前記正孔伝達層上に30nm厚の発光層を蒸着した。
【0068】
【化23】

【0069】
次いで、実施例1と同一な方法により、電子伝達層と電子注入層を蒸着した後、他の真空蒸着装備を利用してAl陰極を150nm厚で蒸着し、OLEDを製作した。
【実施例2】
【0070】
製造されたOLED素子の発光特性
実施例1と比較例1で製造された本発明による有機発光化合物と従来の発光化合物を含有するOLED素子の発光効率をそれぞれ5,000cd/m2及び20,000cd/m2で測定し、表1に示した。特に、緑色発光材料の場合、高輝度領域における発光特性が非常に重要であるため、これを反映するために、20,000cd/m2程度の高輝度データを添付した。
【0071】
【表1】

【0072】
上記表1から分かるように、化合物34(DNPBA)と3.0%ドーピングをする場合、最も高い発光効率を示した。特に、化合物4、化合物5及び化合物8などは、従来のAlq:C545T(比較例1)または化合物G(比較例2)に比べ、2倍に達する発光効率を示した。
【0073】
図3は、従来の発光材料であるAlq:C545Tの発光効率曲線であり、図4は、化合物Gを発光材料として採択した時の発光効率曲線である。図5及び図6は、本発明による化合物4の輝度-電圧及び発光効率-輝度曲線である。特に、本発明の高性能発光材料は、20,000cd/m2程度の高輝度でも効率の低下が3cd/A以内であって、これは、本発明の発光材料が、低輝度でのみならず、高輝度でも良い特性を維持できるといった、優れた材料特性を有することを意味する。
【0074】
表1の結果から、C545Tも良好な発光色特性を示しているが、化合物Gは、短波長シフトされた発光色を示し、本発明の材料に比べ、発光色特性が多少劣ることが分かる。図6は、本発明の発光材料のELスペクトルであり、図7は、本発明による化合物4と比較例1の発光色を比較した曲線であって、従来の純緑色発光材料と比べ大きい差を示さないことから、発光色特性が良いことが分かる。520nmの典型的な緑色発光ピークを示して、発光効率の増加による色純度特性の低下は、本発明の材料ではほとんど見られなかった。
【0075】
特に、本発明の材料特性のうち、図9は、輝度10,000cd/m2における寿命曲線であって、材料寿命特性が、従来の発光材料に比べ、著しく優れていることが確認でき、特に、本発明の材料が、従来の材料のような初期輝度の急激な低下特性を有していないことが分かる。800時間駆動後の相対輝度は、C545T、化合物G、実施例1の順に、それぞれ63%、73%、88%程度を示しており、これは、実際1/2輝度寿命側面で2?5倍の寿命改善を意味する。これは、従来の発光材料の場合、電子電導性に優れる特性を有している材料特性と反対の概念の、本発明材料が有する最高の長所であることを示している。
【実施例3】
【0076】
本発明よる化合物と化学式3の化合物を採択したOLED素子の製造
実施例1と同一な方法により正孔注入層、正孔伝達層を形成させた後、前記真空蒸着装備内の他のセルに発光ホスト材料である化合物18(または、化合物19、または化合物23、または化合物24、または化合物25)を入れて、また他のセルには化合物1(または化合物5、または化合物13)をそれぞれ入れた後、二つの物質を異なる速度で蒸発させてドーピングすることにより、前記正孔伝達層上に30nm厚の発光層を蒸着した。この時のドーピング濃度は、発光ホスト材料基準に2?5mol%が好ましい。
【0077】
【表2】

【0078】
上記の表2から分かるように、本発明による多様な発光ホスト材料に対する改善された特性を確認することができた。
【0079】
特に、本発明で提案された2-位置に芳香族環が置換された9,10-ジアリールアントラセン誘導体を発光ホスト材料として採択する場合、色純度では既存のホストに比べ大きい差を示さないが、発光効率側面では、改善効果が大きいことを確認することができた。即ち、低輝度及び高輝度の両方共で発光効率が改善される特性を示し、これは、受動型及び能動型有機電界EL素子の両方共で有利な特性を有することができることを示している。実際に、このような特性は、既存の9,10-ジアリールアントラセンを発光ホスト材料として採択する場合に比べ、消費電力側面で有利な長所を有しており、これは、商用化により一層容易な発明であることを照明している。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明による化合物の電子密度分布図である。
【図2】アントラセンの2番と6番位置に芳香族環を導入した場合の電子密度分布図である。
【図3】AlqとC545Tを発光材料として使用したOLEDの輝度に対する発光効率変化を示したグラフである。
【図4】比較例2のOLEDの輝度に対する発光効率変化を示したグラフである。
【図5】本発明による化合物4とDNPBAを発光材料として使用したOLEDの駆動電圧に対する輝度変化を示したグラフである。
【図6】本発明による化合物4とDNPBAを発光材料として使用したOLEDの輝度に対する発光効率変化を示したグラフである。
【図7】本発明による化合物4とDNPBAを発光材料として使用したOLEDのELスペクトルである。
【図8】本発明による化合物4とDNPBAを発光材料として使用したOLEDと、比較例1?比較例2のOLEDの輝度による色純度変化を示したグラフである。
【図9】本発明による実施例1と比較例1?2のOLEDの寿命曲線である。
【図10】本発明の化合物23と化合物1を発光材料として使用したOLEDの輝度による発光効率変化を示したグラフである。
【図11】本発明の化合物23と化合物1を発光材料として使用したOLEDの輝度による色純度変化を示したグラフである。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、前記アノードとカソードとの間に介在される発光領域と、を含む有機電界EL素子において、
前記発光領域が、下記化学式1から選択される一つ以上の有機発光化合物をドーパント物質として含み、下記化学式3及び化学式4から選択される一つ以上の化合物をホスト物質としてさらに含むことを特徴とする、有機電界EL素子。
[化学式1]

(上記化学式1のR_(1)及びR_(2)は、各々独立に2-フルオレニルまたは4-ビフェニルであり、R_(3)乃至R_(6)は、各々独立に芳香族環であって、前記R_(1)乃至R_(6)の各芳香族環は、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基がさらに置換され得る。)
[化学式3]

[化学式4]

(上記化学式3または化学式4のR_(11)及びR_(12)は、各々独立に2-ナフチル、2-フルオレニル、または4-ビフェニルであり、R_(13)は、フェニル、2-ナフチル、2-フルオレニル、または4-ビフェニルであって、前記R_(11)乃至R_(13)の各芳香族環は、C_(1)?C_(20)のアルキル基、C_(1)?C_(20)のアルコキシ基がさらに置換され得る。)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
化学式3または化学式4のアントラセン誘導体は、下記化学式の化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の有機電界EL素子。




 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-07-10 
結審通知日 2013-07-12 
審決日 2013-07-23 
出願番号 特願2008-526873(P2008-526873)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (C07C)
P 1 113・ 536- YAA (C07C)
P 1 113・ 537- YAA (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 憲彦  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 木村 敏康
門前 浩一
登録日 2012-04-13 
登録番号 特許第4969575号(P4969575)
発明の名称 緑色発光化合物及びこれを発光材料として採用している光発光素子  
代理人 山下 耕一郎  
代理人 特許業務法人センダ国際特許事務所  
代理人 大谷 保  
代理人 東平 正道  
代理人 石原 俊秀  
代理人 特許業務法人センダ国際特許事務所  
代理人 伊藤 高志  

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