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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B29C
管理番号 1289005
審判番号 不服2013-17814  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-13 
確定日 2014-07-08 
事件の表示 特願2011- 74840「ポリマーペレットの気力輸送方法およびポリマーペレットの貯蔵方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月25日出願公開、特開2011-161925、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成20年3月19日に出願した特願2008-72526号(優先権主張 平成19年3月20日 以下、「原出願」という。)の一部を平成23年3月30日に新たな特許出願としたものであって、平成23年7月8日に上申書が提出され、平成24年11月29日付けで拒絶理由が通知され、平成25年2月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月13日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年10月21日付けで前置報告がなされ、当審において同年11月14日付けで審尋がなされ、平成26年1月16日に回答書が提出されたものである。

第2.本願発明の認定
本願の請求項1?9に係る発明は、平成25年9月13日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲、平成25年2月1日提出の手続補正書により補正された明細書並びに図面(以下、「本願明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載されたとおりのものと認められ、そのうちの請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「露点が0℃以下の気体を使用し、吸湿性の粘度平均分子量(Mv)が10,000?17,000で、熱安定剤としてリン酸エステル及び/又は亜リン酸エステルからなるリン系安定剤をリン原子の量(重量換算)として0.5ppm?5ppmの範囲で含有するポリカーボネートのペレットを圧縮された圧力気体を用いて気力輸送することを特徴とするポリマーペレットの気力輸送方法。」

第3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由である平成24年11月29日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶の理由3は以下のとおりである。

「3.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・・・
・理由3
・請求項2、3
・引用文献等1、2
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開昭50-043160号公報
2.特開2003-200421号公報」

第4.当審の判断
(1)刊行物及び刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭50-43160号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア.「貯蔵タンクに一定の水分率に保存したまま貯蔵している縮重合体チツプを該貯蔵タンクに直結された輸送配管を通じて真空輸送方法によつて取り出すに当り、少なくとも取り出すチツプの体積量と該貯蔵タンク内から吸引される気体量との和以上の体積の調整された該チツプに不活性の気体を該貯蔵タンク内に流入せしめることを特徴とする縮重合体チツプの取り出し方法。」(特許請求の範囲)

イ.「本発明は貯蔵タンクに一定の水分率に保持したまま貯蔵している縮重合体チツプ(以下単にチツプと略称する)を外気と遮断しながら該タンクから取り出す方法に関するものである。
通常、縮重合体は溶融重合によつて得られ、重合釜から溶融重合物を押し出し冷却しながら適当な大きさに切断して細片状のチツプにされ・・・
・・・
つまりバンカーからチツプの自然落下によつてチツプを取り出す場合はベント配管を通じてバンカー内に流入する外気量は取り出したチツプの体積量にほぼ等しいと考えられ、外気の該バンカー内への流入は問題とならない。
一方バンカー下部に真空輸送管を直結し、真空輸送によつて該チツプを取り出す場合真空輸送系の能力に応じてバンカー内から気体が吸引され、この真空吸引量が取り出すチツプ量に比較して著しく大きいため、ベント配管からバンカー内へ流入する外気量は著しく多くなる。従つてこの湿つた外気のためバンカー内の残存チツプが吸湿し、続いて実施される熱風乾燥処理、溶融成形時に熱劣化をうけ商品品質悪化等のトラブルの発生原因になつている。」(1頁左欄14行?2頁右上欄6行)

ウ.「即ち本発明は貯蔵タンクに一定の水分率に保持したまま貯蔵している縮重合体チツプを該貯蔵タンクに直結された輸送配管を通じて真空輸送方法によつて取り出すに当り、少なくとも抜き出すチツプの体積量と該貯蔵タンク内から吸引される気体量との和以上の体積の調湿された該チツプに不活性の気体を該貯蔵タンク内に流入せしめることにより該貯蔵タンク内のチツプの経時的水分率アツプとそれに伴う熱風乾燥処理溶融成形時の該縮重合体の熱劣化を防止し又乾燥工程でのチツプ乾燥時間の一定化等の合理化を図るようにしたものである。
本発明で使用される縮重合体としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、等凡そ成形可能な縮重合体を云う。
又、本発明で使用する調湿された気体はチツプに対して不活性なものであり、空気窒素ガスヘリウム等があげられるのが経済的観点から空気で充分である。
本発明で使用する気体の湿度(水分率)は貯蔵しているチツプの水分率と関係がある。使用気体の湿度がチツプ平衡水分率と等しくなる湿度Xはそれ以下であればよい。」(2頁右上欄16行?左下欄18行)

エ.「実施例
・・・ポリエチレンテレフタレートチツプ10トンを貯蔵した。・・・
・・・ノズルから露点-10℃の減湿空気(水分率2.36g/m^(3))を毎時20m^(3)で流入させベント配管を通じて流出せしめベント配管からの外気の流入を防止してバンカー内のチツプを水分率0.05^(wt)%に保持した。」(3頁左上欄10行?右上欄12行)

原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-200421号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

オ.「【請求項1】 ポリカーボネート樹脂ペレットを製造する方法において、溶融押出機のダイから押し出されたストランドを冷却した後切断してペレットを得、ペレットと水との混合物を濾過してペレットと水及びミスカットとを分離し、得られたペレットを乾燥することを特徴とするポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。
【請求項6】 前記ポリカーボネート樹脂ペレットと水及びミスカットとを分離して得られたペレットを、さらに湾曲部を2ヶ所以上設け、その湾曲部の外側に目開き0.1mm以上ペレット短径の98%以下のスリットを設けた配管内を気体で移送する請求項1記載のポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。
【請求項8】 請求項7記載のポリカーボネート樹脂ペレットより形成された光ディスク基板。」(特許請求の範囲の請求項1、6、8)

カ.「【発明の属する技術分野】本発明は、成形品中の気泡の発生が抑制されるミスカット量の極めて少ないポリカーボネート樹脂ペレット及びそのポリカーボネート樹脂ペレットを安定して且つ効率よく製造する方法に関するものである。」(段落 【0001】)

キ.「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、成形時に成形品中の気泡の発生が抑制され、特にエラーの少ない光ディスクを得るために使用されるポリカーボネート樹脂ペレット及びかかるポリカーボネート樹脂ペレットを安定して効率よく製造する方法を提供することである。」(段落 【0012】)

ク.「本発明におけるポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量(M)で10,000?100,000が好ましく、12,000?45,000がより好ましく、12,000?40,000がさらに好ましく、12,000?30,000が特に好ましい。かかる粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂は、十分な強度が得られ、また、成形時の溶融流動性も良好であり成形歪みが発生せず好ましい。」(段落 【0032】)

ケ.「水及びミスカットを分離したペレットは水分を付着しており、次いでこのペレットを乾燥させる。ペレットの乾燥は、ペレットの折損、破砕、接触傷等が極めて少なく、効率良く乾燥する方法を採用することが望ましく、例えば、材料静置型の乾燥方法、材料移送型の乾燥方法、気体移送型の乾燥方法等が挙げられる。材料攪拌型の乾燥方法はペレットの折損、破砕、接触傷等が起こり易く、本発明においては不利となる場合がある。本発明においては気体移送型乾燥がもっとも好ましい。好ましい態様としては、湾曲部を2ヶ所以上設け、その湾曲部に目開き0.1mm以上ペレット短径の98%以下のスリットを設けた配管内を気体でペレットを移送しながら乾燥する方法が好ましい。湾曲部のスリットは湾曲部の配管全体に、または一部分に付設しても差し支えなく、湾曲部の外側に付設することが特に好ましい。また、湾曲部に設けたスリットの目開きを調整することによって、移送乾燥中にミスカットの除去もあわせて行うこともできる。
また、移送されるペレットの温度は30?130℃が好ましく、40?110℃が更に好ましい。30℃以上の場合はスリットを設けた湾曲部を多数付設しなくてもペレットの乾燥が十分にでき好ましい。130℃以下の場合は移送乾燥時ペレットの融着現象が発生し難く好ましい。
本発明のペレットの移送に用いる気体は、空気、窒素ガス、炭酸ガス等の気体が挙げられ、空気が工業的及びコスト的に好ましい。これらの気体を用いる場合は100μm以下のフィルターで濾過した気体を用いることが望ましい。」(段落 【0043】?【0045】)

コ.「本発明のポリカーボネート樹脂は、難燃剤、熱安定剤(リン酸エステル、亜リン酸エステル等)、離型剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、染顔料等の着色剤、抗菌剤、ガラス繊維、炭素繊維等の強化剤、他の樹脂等を適宜添加して用いることができる。」(段落 【0052】)

サ.「[実施例1]ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製パンライトAD-5000W;粘度平均分子量15000)にトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト0.02重量%、ステアリン酸モノグリセリドを0.2重量%加えて混合した。
このパウダーを濾過精度20μmのSUS304フィルターを付設したダイを有するベント付き二軸押出機に供給し、シリンダー温度270℃、真空度0.67kPa(5mmHg)でベントガスを脱気しながら溶融混練押出した。溶融押出したストランドは、70℃にコントロールされたイオン交換水を張った冷却バスで冷却し、冷却されたストランドは切断機で切断して、500kg/Hrの量で断面直径3mm、長さ3mm、温度110℃の円柱状ペレットを連続的に得た。
次いで、配管を用い配管の上流側で連続的にペレット1重量部に対し濾過精度0.5μmのSUS304製のフィルターで濾過した80℃のイオン交換水10重量部の割合で両者を十分に混合した後、配管の下流側で目開き2.5mmのSUS304製スリットを付設した濾過器で濾過して温度85℃のペレットを得た。
次に、このペレットは、湾曲部を2ヶ所設け、それぞれの湾曲部の外側に目開き2.0mmのスリットを設けた配管内を、濾過精度0.5μmのSUS304製のフィルターで濾過した25℃の空気により流速30m/秒で連続して移送し、乾燥させ、サイクロンにて移送されたペレットと空気を分離して乾燥ペレットを得た。得られたペレットの評価結果を表1に示した。」(段落 【0054】?【0057】)

(2)引用文献に記載された発明
引用文献1には、特に上記摘示アからみて、

「縮重合体チップを貯蔵タンクに直結された輸送配管を通じて真空輸送方法によつて取り出すに当り、該チップに不活性の気体を貯蔵タンクに流入せしめる縮重合体チップの取り出し方法。」(以下、「引用発明1」という。)に係る発明が記載されている。

引用文献2には、「ポリカーボネート樹脂ペレットを製造する方法において、溶融押出機のダイから押し出されたストランドを冷却した後切断してペレットを得、ペレットと水との混合物を濾過してペレットと水及びミスカットとを分離し、得られたペレットを、さらに湾曲部を2ヶ所以上設け、その湾曲部の外側に目開き0.1mm以上ペレット短径の98%以下のスリットを設けた配管内を気体で移送し、乾燥することを特徴とするポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。」(摘示オの請求項1を引用する請求項6)、また、ポリカーボネート樹脂の分子量として「本発明におけるポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量(M)で10,000?100,000が好ましく、12,000?45,000がより好ましく、12,000?40,000がさらに好ましく、12,000?30,000が特に好ましい。」(摘示ク)と記載があり、具体的に実施例1として、粘度平均分子量15000のポリカーボネート樹脂にトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.02重量%加えて、押出成形して得られたペレットを、「ペレット1重量部に対し濾過精度0.5μmのSUS304製のフィルターで濾過した80℃のイオン交換水10重量部の割合で両者を十分に混合した後、配管の下流側で目開き2.5mmのSUS304製スリットを付設した濾過器で濾過して温度85℃のペレットを得」、「このペレットは、湾曲部を2ヶ所設け、それぞれの湾曲部の外側に目開き2.0mmのスリットを設けた配管内を、濾過精度0.5μmのSUS304製のフィルターで濾過した25℃の空気により流速30m/秒で連続して移送し、乾燥させ、サイクロンにて移送されたペレットと空気を分離して乾燥ペレット」(摘示サ)を得たことが記載されているから、

「トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.02重量%加えた粘度平均分子量15000のポリカーボネート樹脂のペレットを、湾曲部を2ヶ所設け、その湾曲部の外側に目開き2.0mmのスリットを設けた配管内を濾過精度0.5μmのSUS304製のフィルターで濾過した25℃の空気により移送する方法。」(以下、「引用発明2」という。)に係る発明が記載されている。

(3)本願発明との引用発明1との対比・判断
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「縮重合体チップ」は、引用文献1の「通常、縮重合体は溶融重合によって得られ、重合釜から溶融重合物を押し出し冷却しながら適当な大きさに切断して細片状のチップにされ」(摘示イ)及び「本発明で使用される縮重合体としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、等凡そ成形可能な縮重合体を云う。」(摘示ウ)の記載から、本願発明の「吸湿性のポリカーボネートのペレット」に相当する。
引用発明1における「貯蔵タンクに直結された輸送配管を通じ」た「真空輸送方法」である「縮重合体チップの取り出し方法」は、本願発明1の「気体を用いて気力輸送するポリマーペレットの気力輸送方法」に相当する。

そうすると、引用発明1と本願発明とは、

「吸湿性のポリカーボネートのペレットを気体を用いて気力輸送するポリマーペレットの気力輸送方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
使用する気体について、本願発明は、「露点が0℃以下」と特定されているのに対して、引用発明1においては、露点について特定されていない点。

<相違点2>
輸送されるペレット(縮重合チツプ)を構成するポリマーについて、本願発明は、「粘度平均分子量(Mv)が10,000?17,000で、熱安定剤としてリン酸エステル及び/又は亜リン酸エステルからなるリン系安定剤をリン原子の量(重量換算)として0.5ppm?5ppmの範囲で含有するポリカーボネート」と特定されているのに対して、引用発明1においてはそのような特定はない点。

<相違点3>
気力輸送の方法に関し、本願発明1においては「圧縮された圧力」気体を用いたものであるのに対して、引用発明1においては、「真空輸送方式」である点。

以下、相違点について検討する。
事案に鑑み、まず相違点3について検討する。
この発明の技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)において、チップ等の気力輸送方法として、吸引式空気輸送方法と圧送式空気輸送方法(圧縮した圧力気体による輸送)は共に周知な輸送方法であること、また、これら2つのタイプの輸送方式が、プラスチック成形工場において、もっともよく利用されているものであることは、よく知られていた事項である。
しかしながら、引用発明1は、「一方バンカー下部に真空輸送配管を直結し、真空輸送によって該チップを取り出す場合真空輸送系の能力に応じてバンカー内から気体が吸引され、この真空吸引量が取り出すチップ量に比較して著しく大きいため、ベント配管からバンカー内へ流入する外気は著しく多くなる。従ってこの湿った外気のためバンカー内の残存チップが吸湿し、続いて実施される熱風乾燥処理、溶融成形時に熱劣化をうけ商品品質悪化等のトラブルの発生原因になっている。」(摘示ウ)との記載からみて、気力輸送方法が真空輸送系であることを前提とした課題に対してなされた発明といえる。
そうすると、引用発明1の前提となっている「真空輸送方法」を、圧縮した圧力気体による輸送に代えることには阻害要因があり、相違点3に係る構成を想到するのは容易ではない。よって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明1から容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本願発明との引用発明2との対比・判断
引用発明2と本願発明とを対比する。
引用発明2における「粘度平均分子量15000のポリカーボネート樹脂のペレット」は、本願発明の「吸湿性の粘度平均分子量(Mv)が10,000?17,000のポリカーボネートのペレット」に相当する。
引用発明2における「トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト」は、引用文献2の「本発明のポリカーボネート樹脂は、・・・熱安定剤(リン酸エステル、亜リン酸エステル等・・適宜添加して用いることができる」(摘示)の記載からみて、本願発明の「熱安定剤としてリン酸エステル及び/又は亜リン酸エステルからなるリン系安定剤」に相当する。
引用発明2の亜リン酸エステル(トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト)の分子量は647であり、1分子中にリン原子は1つ存在する化合物であるから、引用発明2の「トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトが0.02重量%」を本願発明の「リン原子の量」に換算すると、0.02×(31/647)=0.000958(%)=9.58ppmとなるので、本願発明のリン原子の量(重量換算)として0.5ppm?5ppmの範囲外である。
また、引用発明2における「湾曲部を2ヶ所設け、その湾曲部の外側に目開き2.0mmのスリットを設けた配管内を濾過精度0.5μmのSUS304製のフィルターで濾過した25℃の空気により移送する方法」は、本願発明の「圧縮された圧力気体を用いて気力輸送するポリマーペレットの気力輸送方法」に相当することは明らかである。

そうすると、引用発明2と本願発明とは、

「気体を使用し、吸湿性の粘度平均分子量(Mv)が10,000?17,000で、熱安定剤としてリン酸エステル及び/又は亜リン酸エステルからなるリン系安定剤を含有するポリカーボネートのペレットを圧縮された圧力気体を用いて気力輸送するポリマーペレットの気力輸送方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点4>
使用する気体について、本願発明は、「露点が0℃以下」と特定されているのに対して、引用発明2においては、露点について特定されていない点。

<相違点5>
ポリカーボネートに配合される熱安定剤の配合量について、本願発明は「リン原子の量(重量換算)として0.5ppm?5ppmの範囲」と特定されているのに対して、引用発明2は、この範囲内でない点。

まず、相違点に係る本願発明の技術的意義について確認する。
本願明細書等の【0056】には、熱安定剤として添加するリン系安定剤が過度に少ないと色相が悪化し、逆に入れすぎるとシルバーストリークが生じる問題があることが記載され、また、実施例には、リン系熱安定剤を所定量(リン原子の量(重量換算)として2.4ppm)含有する粘度平均分子量15300のポリカーボネートを所定の露点の圧縮空気で搬送したときには、シルバーストリークが少なく、かつ、加熱後色相が良いものが得られることが示されると共に、リン系熱安定剤が所定量より少ない(リン原子の量(重量換算)として0.4ppm)ポリカーボネートでは、所定の露点の圧縮空気で搬送しても、シルバーストリークはないものの加熱後色相が悪いものとなること、リン系熱安定剤が所定量より多い(リン原子の量(重量換算)として13ppm)ものを所定の露点の圧縮空気で搬送しても、シルバーストリークが多く、加熱後色相も悪いものとなることが示されている。
これらを勘案すれば、「粘度平均分子量(Mv)が10,000?17,000で、熱安定剤としてリン酸エステル及び/又は亜リン酸エステルからなるリン系安定剤をリン原子の量(重量換算)として0.5ppm?5ppmの範囲で含有する」ポリカーボネートのペレットを、「露点が0℃以下の気体を使用した」圧力気体を用いて気力輸送することで、シルバーストリークが少なく、加熱後の色相が良いものが得られるという効果が達成されていると認められる。

上記を踏まえて、相違点4及び5について検討する。
空気の露点は、利用する空気の相対湿度により変化し、20%の相対湿度で露点は0.5℃程度、30%の相対湿度で露点は6.2℃程度、50%の相対湿度で露点は13.9℃程度であることが技術常識であるところ(露点・湿度の専門ページ>技術情報>湿度のあれこれ>8:湿度の計算 http://www.daiichi-kagaku.co.jp/situdo/notes/note108.html参照)、引用発明2における「濾過精度0.5μmのSUS304製のフィルターで濾過した25℃の」空気の露点は、相対湿度が19%未満の時、露点は0℃以下となるが、それ以上の相対湿度であるとこの条件は満足しない。そうすると、使用する気体の「露点が0℃以下」は、通常の操業条件において採用される値とはいえない。
また、当業者において、乾燥させたポリカーボネートを成形に利用することで成形性が向上すること(例えば、松金幹夫、田原省吾、加藤修士「プラスチック材料講座5 ポリカーボネート樹脂」日刊工業新聞社、昭和44年9月30日 初版 163頁?166頁参照)、及び、光ディスクを得るために使用されるポリカーボネート樹脂ペレットとして、熱安定剤として亜リン酸エステルを所定量配合すること(特開2003-231801号公報の【0025】、特開2004-155926号公報の【0120】、特開平9-183895号公報の【0089】、特開平11-49945号公報の【0015】参照)は周知であるが、引用発明2の輸送されるペレットを構成するポリカーボネート及び使用する気体の露点に関して、リン系の熱安定剤を特定量含有したポリカーボネートとするとともに、特定の露点の気体を利用しようとする動機はない。
そして、この出願の優先日前には、ポリカーボネートにリン系の熱安定剤を配合することで、熱安定性を向上させる(変色性が向上する)こと、乾燥させたポリカーボネートを成形に利用することで成形性が向上すること(シルバーストリークスが減少すること)が当業者において周知であるといえるからといって、所定量のリン系の熱安定剤配合時におけるシルバーストリークス発生の課題について、特定の露点の気力搬送手段を利用することで解決されることが、当業者において予測可能とはいえない。

以上のことを総合して勘案すれば、本願発明は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

第5.むすび
本願については、原査定の拒絶の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2014-06-26 
出願番号 特願2011-74840(P2011-74840)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B29C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 奥野 剛規岩本 昌大長谷山 健  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 田口 昌浩
大島 祥吾
発明の名称 ポリマーペレットの気力輸送方法およびポリマーペレットの貯蔵方法  
代理人 高梨 桜子  
代理人 山脇 浩  
代理人 古部 次郎  

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