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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1289041
審判番号 不服2010-20369  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-10 
確定日 2014-06-18 
事件の表示 特願2003-583114「動物のオスおよびメス、およびヒトにおける受精能の健康状態を改善するための方法および組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月23日国際公開、WO03/86080、平成17年 7月28日国内公表、特表2005-522486〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明

本願は、平成14年4月8日を国際出願日とする出願であって、平成20年12月11日付けで拒絶理由が通知され、平成21年6月24日に意見書、手続補正書が提出されたが、平成22年4月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたのち、同年同月29日に審判請求書の請求の理由について手続補正書が提出された。その後、当審において、平成25年4月22日付けで拒絶理由が通知され、同年10月23日に意見書、手続補正書が提出されたものである。

本願の請求項1、2に係る発明は、平成25年10月23日に提出された手続補正書記載の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、本願発明という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
女性の受精能促進活性を持つ薬学的組成物であって、各成分が、重量で:
2から20%のセイヨウニンジンボク(チェストベリー)、
5から50%の緑茶、ビタミンE、セレンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される酸化防止剤、
10から80%のL-アルギニン、
0.001から1%の葉酸、
0.001から1%のビタミンB6およびビタミンB12、
0.1から10%の鉄、
0.1から10%の亜鉛、および
5から50%のマグネシウム
の割合であることを特徴とする薬学的組成物。」

2.引用文献

平成25年4月22日付けで通知した、当審による拒絶の理由には、
「4.Herbal Fertility Boost、[online]、Richters HerbLetterの2001/02/28、カナダ、2001年2月28日掲載、p1,5」(以下、「引用例1」という。)が引用されている。

引用例1が、本願出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったことは、以下のとおり明らかである。
引用例1は、Richters社のWebサイト上に掲載されているRichters HerbLetterのDate:2001/02/28 Contentsの項目4.に当たるものである(参考:[online]、Richters HerbLetterのDate:2001/02/28 Contentsの頁、および、項目4.が掲載されている頁、[2013年4月3日検索]、インターネット))。
そして、Richters HerbLetterは、毎月一回、Webに掲示、蓄積されたものである(たとえば、Richters HerbLetter、[online]、Richters HerbLetterのトップページ、カナダ、2013年4月10日検索、p1(参考:[online]、Richters HerbLetterのDate:2002/04/30の頁、[2013年4月10日検索]、インターネット) や、Subscribe to HerbLetter、[online]、Richters HerbLetterのSubscription Form、カナダ、2013年4月10日検索(参考:Richters Subscribe to HerbLetterが掲載されている頁[2013年4月10日検索]、インターネット)、参照)と認められるから、引用例1は、上記の日付にWeb上に掲載されたものであるといえる。

そして、引用例1には、以下の事項が記載されている。なお、原文は外国語であるため、その記載事項については、翻訳で示す。括弧内には、原文の記載箇所を記載する。

(1)「4.薬草の受精能促進剤
MOUNTAIN VIEW、カリフォルニア、2月20日、BW HealthWire--現在妊娠を望んでいるカップルは天然の素材だけで作られた促進剤を入手することができる:その促進剤、すなわち、女性用FertilityBlend(登録商標)、男性用FertilityBlendは、性と生殖に関する健康を改善することにより、受精能を促進する、新規で画期的な栄養補助食品である。」(第1パラグラフ)

(2)「それぞれの処方は、個々の有効性を決定するために科学的に評価されている成分を含んでおり、それら処方の相乗的な価値はスタンフォード大学医学部と共同で実施される画期的研究によって評価されている。医薬品を用いた不妊治療に対する特有の天然素材の代替治療であることに加えて、FertilityBlendは、これらの二重盲検、プラセボ対照臨床試験を実施するという歴史的な偉業を為し遂げつつある。」(第2パラグラフ)

(3)「「FertilityBlendは、全体的な健康的なライフスタイルの不可欠な部分として、性と生殖に関する健康を増進する可能性があります。」と、Mary Lake Polan医師、医学博士、兼スタンフォード大学の産婦人科学科教授は述べた。医療専門家は、今や、喫煙、ストレス、そしてカフェイン、薬物やアルコールの消費は、全て、男女ともに生殖器官への酸化的損傷を引き起こす可能性があることを知っている。 FertilityBlendは、これらの酸化的損傷に抵抗し、受精率を促進するのに役立つ。」(第3パラグラフ)

(4)「「女性用FertilityBlend(登録商標)は、排卵周期を調整するとともに妊娠を妨げるホルモンバランスを自然に回復させることによって、受精能を促進する。」と、The Daily Wellness CompanyのR&D部長であるAileen Trant博士は説明した。」(第5パラグラフ)

(5)成分は、排卵頻度を促進する薬草であるチェストベリー(Vitex agnus-castus);性と生殖に関する健康に必須の酸化防止剤である緑茶、ビタミンE、セレン;循環を改善し、生殖器官を刺激するアミノ酸であるL-アルギニン;並びに、性と生殖に関する健康に直接関係する栄養素である、ビタミンB6、B12、葉酸、鉄、マグネシウム、及び亜鉛を含む。」(第5パラグラフ)

(6)「医薬品療法とは異なり、FertilityBlendは、徐々に、穏やかに、自然に働いて、妊娠に適した環境をつくる。・・・」(第7パラグラフ)

上記摘記事項(1)、(4)から、女性用FertilityBlend(登録商標)が、排卵周期を調整するとともに妊娠を妨げるホルモンバランスを自然に回復させることによって、受精能を促進する作用を有すること、また、同摘記事項(5)から、同女性用FertilityBlend(登録商標)が、その成分として、排卵頻度を促進する薬草であるチェストベリー(Vitex agnus-castus);性と生殖に関する健康に必須の酸化防止剤である緑茶、ビタミンE、セレン;循環を改善し、生殖器官を刺激するアミノ酸であるL-アルギニン;並びに、性と生殖に関する健康に直接関係する栄養素である、ビタミンB6、B12、葉酸、鉄、マグネシウム、及び亜鉛を含むことが理解できる。
そうすると、引用例1には、次の発明が記載されているものと認める。

「チェストベリー;性と生殖に関する健康に必須の酸化防止剤である緑茶、ビタミンE、セレン;L-アルギニン;ビタミンB6、B12;葉酸;鉄;マグネシウム及び亜鉛を含む、女性の受精能促進剤。」の発明(以下、「引用発明」という。)

3.対比・判断

本願発明と引用発明を対比する。

引用発明の「女性の受精能促進剤」とは、受精能を促進するという薬理学的作用を有し、複数の成分を含有する剤であることから、本願発明の「女性の受精能促進活性を持つ薬学的組成物」と実質的に同義であると認められる。また、本願請求項1に記載されるように、セイヨウニンジンボクとチェストベリーとは同じ薬草を意味するものである。
そして、本願発明のうち、酸化防止剤が、緑茶、ビタミンE、及びセレンの組み合わせからなるものである場合には、両発明は、「セイヨウニンジンボク(チェストベリー)、緑茶、ビタミンE、セレンの組み合わせからなる酸化防止剤、L-アルギニン、葉酸、ビタミンB6およびビタミンB12、鉄、亜鉛、およびマグネシウムをその成分とする、女性の受精能促進活性を持つ薬学的組成物。」である点で一致し、次の点、すなわち、
本願発明は、「各成分が、重量で:
2から20%のセイヨウニンジンボク(チェストベリー)、
5から50%の緑茶、ビタミンE、セレンの組み合わせからなる酸化防止剤、
10から80%のL-アルギニン、
0.001から1%の葉酸、
0.001から1%のビタミンB6およびビタミンB12、
0.1から10%の鉄、
0.1から10%の亜鉛、および
5から50%のマグネシウム
の割合である」と規定しているのに対して、引用発明は、各成分の配合割合を規定していない点で相違する。

そこで、上記相違点について、以下、検討する。

引用発明は上記成分を含む「女性の受精能促進剤」に係る発明であり、引用例1には、各成分の薬理作用が記載されている。そして、該薬理作用は、チェストベリーが、排卵頻度を促進する薬草であること、緑茶、ビタミンE、セレンが性と生殖に関する健康に必須の酸化防止剤であること、L-アルギニンが循環を改善し、生殖器官を刺激するアミノ酸であること、並びに、ビタミンB6、B12、葉酸、鉄、マグネシウム、及び亜鉛が性と生殖に関する健康に直接関係する栄養素であること、というものであって、女性の受精能促進に関連する作用であると理解することができる。
そうすると、引用例1記載の各成分の薬理作用や該薬理作用を発揮する有効量などを考慮の上、それら成分を含有する「女性の受精能促進剤」として期待される効果の達成に適した各成分の配合割合を検討することは、当業者が通常の創作能力の発揮によりなし得たところである。
なお、引用例1には、引用発明の各成分の配合割合についてなんらの記載もなされていない。しかし、引用例1の記載によれば、引用発明が、女性用FertilityBlendという登録商標が付された製品であることが理解できるから、該商品を入手したならば、各成分に適した周知慣用の分離、分析方法に従い、その配合割合をより一層容易に知りえたし、その数値を参考にすることができたものといえる。

そして、本願明細書記載の本願発明の目的、効果についてみても、以下に記載するとおりであって、本願発明が、各成分の配合割合を請求項規定のものとすることにより、引用発明からは予測し得ない格別顕著な効果を奏し得たものともいえない。すなわち、本願明細書の段落0010(平成21年6月24日付け手続補正書参照)に、「薬草である、セイヨウニンジンボク(チェストベリー)は、黄体形成ホルモンおよびプロゲステロン放出を増大させ、それにより排卵頻度を増加させることにより女性のホルモンバランスを強化する。酸化防止剤、緑茶、ビタミンEおよびセレンは、性と生殖に関する健康全体を改善する。アミノ酸であるL-アルギニンは、血液の循環を改善することで生殖器官を刺激する。葉酸、ビタミンB6およびB12、鉄、亜鉛およびマグネシウムは、女性の受精能の促進に役立つ。」と記載されている各成分の薬理作用は、引用例1記載の作用と同じである(摘記事項(5))。また、「本発明は、女性の受精能を促進するための有益な生物学的に効果のある化合物の組み合わせを提供する。本発明は、薬物治療に関連する多胎妊娠の可能性の増大を伴わずに、月経周期の調節とホルモン不安定(黄体機能不全)の修正に寄与することにより不妊を改善する、女性用の科学的に有効な薬草/栄養混合物を提供する。アミノ酸、薬草、ビタミンおよび無機物の組み合わせは、健康全般を改善し、受精能を減退させる欠乏症の多くに役立つ。」(段落0009)との記載は、本願発明が、女性の受精能を促進し、不妊を改善するために有効な薬草/栄養混合物の提供を目的とするものであるというものであって、引用発明の目的と同じである(摘記事項(3)、(4))。もっとも、引用例1には、薬物治療に関連する多胎妊娠の可能性の増大を伴わない点についての記載はないが、本願明細書には、本願発明が該効果を奏すること、とりわけ、各成分の配合割合を本願発明における範囲に調整したことによってはじめて奏せられた効果であることは確認されていないから、上記明細書の記載をもって、本願発明の特定事項に基づく効果であると認めることはできない。

請求人は、平成22年9月29日に提出した審判請求書の請求の理由についての手続補正書(3)(a)において、「請求項1に係る本願発明の薬学的組成物は、こうした構成成分を特定の割合で含むことにより、女性の受精能促進活性を奏するものであります。こうした本願発明の組成物の効果は、二重盲検のプラセボ対照試験によって確認されており、本願発明の組成物は、とりわけ、かかる各種成分の効果のバランスにより女性の受精能を高める薬学的組成物であります。」と主張する。
しかし、同じ成分からなる薬学的組成物が、その配合割合を特定することなく同じ作用を有することが引用例1に記載されており、また、本願発明が、配合割合を特定したことにより引用発明から予測し得ないほど顕著な効果を奏し得たと認めうるものでないこともすでに上記検討のとおりであるから、上記請求人の主張は採用し得ない。

また、請求人は、平成25年10月23日付け意見書のC.(4)において、本発明者が、多数の試行を行い、成分の複合作用の影響と女性におけるその結果について検討した結果、スタンフォード大学の教授とともに行った二重盲検試験において、特定の組成物が、プロゲステロン値、基礎体温、月経周期、妊娠率、及び副作用において、女性に良好な結果をもたらすことを見出したのであって、当業者であれば組成比を決めることができるといったことは産婦人科の分野における当業者の経験ではない旨主張する。
そこで、上記試験が記述されていると請求人が主張する平成21年6月24日提出の意見書の添付資料として提出されている資料をみると、該資料には、FertilityBlend(チェストベリー、緑茶抽出物、アルギニン、ビタミン(葉酸含む)、ミネラル類を含むサプリメント)を用いたことが記載されているが、請求人のいう成分割合を特定した組成物を使用したことは記載されていない。仮に、該資料記載の試験が請求人が主張するとおりの組成物であるとしても、本願発明の一実施態様が、プラセボ群と比べて良好な結果をもたらしたというにすぎず、それをもって、本願発明に包含されるすべての配合割合の発明について同様の結果がもたらされるということはできないし、また、各成分の配合割合が本願発明とは異なる組成物に比べて優れた効果を奏したことが示されているわけでもないから、該記載をもって、本願発明が引用発明から予測し得ないほど顕著な効果を奏し得たものであるとは認められない。

請求人は、平成25年10月23日付け意見書のC.(4)において、さらに、本発明者以外の当業者は、特定の組成比の組成物(40?50%のL-アルギニン、20?50%の茶又はセレンの酸化防止剤、4?20%のセイヨウニンジンボク、20?50%のマグネシウム、0.3?1%のビタミン6とビタミン12、0.1?5%の鉄、及び0.2%の葉酸。)を見出していない、と主張する。しかし、該意見書に記載された組成物は、亜鉛をその成分とするものではない点で本願発明の組成物ではないし、また、仮に亜鉛を含む組成物であったとしても、本願発明の一実施態様にすぎず、優れた性質を有することは何ら明らかにされていない。よって、上記請求人の主張は、本願発明の規定に基づくものでも、本願の組成物全体についての顕著な効果を主張するものでもないから、上記一致点、相違点に関する認定、判断をなんら左右しない。

同意見書のC.(4)において、請求人は、本願発明について、処方の相乗効果がStanford University School of Medicine との共同で行われた画期的研究によって評価されている旨主張している。同意見書中に上記の共同研究を特定する明示の記載はないが、おそらく、平成21年6月24日提出の意見書の添付資料に記載されている研究を指すものと認められる。しかし、該資料の記載内容についてはすでに上記検討のとおりであって、予想外に格別の効果に関する記載はないから、請求人が主張するような相乗効果を認めることはできない。請求人の主張する相乗効果について、本願明細書をみると、段落0004に、「本発明は、男性及び女性の受精能を促進するための、生物学的に効果のある化合物の組み合わせを提供する。・・・本発明は、女性及び男性用の処方において、これらの成分を相助的に組み合わせるための最初の生成物を提供する。」(審決注:「相助的」は「相乗的」の誤記と認める。)との記載が、また段落0012に、「本発明は、前記組み合わせの相乗作用を提供する。」との記載がある。段落0012の「前記組み合わせ」とは、それに先立つ段落0009?0012に記載された、女性、及び男性の受精能促進効果のある化合物の組み合わせをいうものと認められるから、上記した本願明細書の記載は、本願発明組成物が相乗作用を示すことを表わすことを意図したものと一応認めることができる。しかし、本願明細書には、上記記載のほか、本願発明が相乗効果を奏することについて何らの記載もなく、また、審査、審判の手続きを通じて、該効果を確認しうるに足るいかなる証拠も提出されていない。そして、上記明細書の一般的記載によっては、本願発明が相乗効果と呼びうる効果を奏することを知ることはできないし、また、具体的な効果に関する記載がなくとも本願発明が相乗効果を奏することが技術常識から明らかであると認めることもできない以上、上記相乗効果に関する請求人の主張は採用しえない。

したがって、本願発明は、本願出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(引用発明)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-20 
結審通知日 2013-12-24 
審決日 2014-02-03 
出願番号 特願2003-583114(P2003-583114)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 秀次  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 岩下 直人
穴吹 智子
発明の名称 動物のオスおよびメス、およびヒトにおける受精能の健康状態を改善するための方法および組成物  
代理人 丹羽 宏之  

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