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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C30B
管理番号 1289054
審判番号 不服2012-20264  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-15 
確定日 2014-06-18 
事件の表示 特願2009-518424「軸オフの種結晶上での100ミリメートル炭化ケイ素結晶の成長」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月10日国際公開、WO2008/005636、平成21年12月 3日国内公表、特表2009-542571〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年5月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年7月6日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成23年11月15日付けで拒絶理由が通知され、平成24年3月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月13日付けで拒絶査定がされ、同年10月15日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、平成25年1月15日付けで前置報告を利用した審尋がされ、同年4月18日に回答書が提出され、さらに、同年7月26日に審尋を兼ねた拒絶理由が通知されるとともに平成24年10月15日付けの手続補正が却下され、平成25年10月30日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の特許を受けようとする発明は、平成24年3月19日付けの手続補正により補正されたとおりのものであるところ、その請求項1に記載された発明は、以下のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「半導体結晶であって、
種結晶部分と、
該種結晶部分上の単結晶の成長部分と、
実質的に直立した円筒形の炭化ケイ素の単結晶を形成する前記種結晶部分および前記成長部分と、
前記成長部分と前記種結晶部分との間の界面を規定する種結晶面であって、前記種結晶面は、前記直立した円筒形の結晶の基部に実質的に平行であり、前記単結晶の基底平面に関して軸オフである、種結晶面と、
前記種結晶部分のポリタイプを複製する前記成長部分と、
少なくとも100mmの直径を有し、2個未満のエッジチップを有するウェーハへ切断が可能な前記成長部分と
を含む、半導体結晶。」

第3 当審で通知した拒絶の理由の概要
当審で通知した拒絶の理由の概要は、
「この出願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、この出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」
というものである。

第4 当審の判断
当審は、当審で通知した拒絶の理由は妥当であり、本願の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号(以下、「実施可能要件」という。)に適合するものではない、と判断する。
以下、詳述する。

1 本願発明
本願発明は、上記第3に示すとおり、「種結晶部分」と「成長部分」と、両者の界面を規定する「種結晶面」とを有する炭化ケイ素の「単結晶」よりなる「半導体結晶」に係るものであって、以下の特定事項を有するものである。
a 前記種結晶面が種結晶の基底平面に関して軸オフである。
b 前記単結晶が直立した円筒形である。
c 前記成長部分が前記種結晶のポリタイプを複製したものである。
d 前記成長部分が少なくとも100mmの直径を有する。
e 前記成長部分が2個未満のエッジチップを有するウェーハへ切断が可能である。

そして、物(半導体結晶)の発明である本願発明の実施とは、当該物の生産等をいうものであるから、本願発明について実施可能要件を満たすというためには、発明の詳細な説明の記載が、本願発明を生産することができる程度のものでなければならない。

2 発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には、上記の特定事項に関連して以下の記載がされている。

【背景技術】
【0008】
炭化ケイ素の技術において、炭化ケイ素基板上のエピ層成長は、「軸オフ(off-axis)」方向にエピ層を成長させることによって増強され得る。用語「軸オフ」は、「軸オン(on-axis)」の成長との比較によって最もよく理解される。軸オンの成長は、炭化ケイ素結晶の規定された面の1つに対して直角に進行する方向に起こる結晶の成長を示す。…

【0014】
用語の軸オフは、結晶面とまさに直角な方向と異なる方向における成長を示し、一般に、結晶のc面に垂直なc軸に関してわずかに斜めである。これらの軸オフの方向は、基本的な方向または平面からわずかに逸脱している方向であって、微斜面(vicinal)と考えられる。軸オフの成長は、ランダムな核形成を低減し、従って炭化ケイ素のエピ層が、より高い格子精度(accuracy)を有して成長することを促進し得る。これは、軸オンの面と比較して軸オフの面上で露出される、より数多くの「ステップ(step)」からもたらされると理解されている。…

【0021】
炭化ケイ素の使用を促進することにおける今日までの制限の1つは、サイズ因子である。比較として、シリコン(Si)およびヒ化ガリウム(GaAs)などの他の半導体材料において、直径6インチのウェーハが一般的であり、いくつかのシリコンウェーハは、300ミリメートル(mm)の直径が利用可能である。
【0022】
対照的に、炭化ケイ素によって提供される物理的成長の努力目標は、2インチおよび3インチのウェーハ(50.8mmおよび76.2mm)が、商業的に代表的であると考えられるけれども、一方で100mmまたはより大きいウェーハは、広く利用可能ではない。炭化ケイ素の成長における最近の研究は、これらの典型的なサイズを追認している。例えば、非特許文献1は、直径25ミリメートルおよび45ミリメートルの結晶成長を報告している。非特許文献2は、基板ウェーハそれ自身の成長またはサイズを拡大するのではなく、商業的に利用可能なウェーハ上のエピタキシャル成長を実施した。非特許文献3は、同様に35mmの単結晶を示している。非特許文献4は、直径30ミリメートルの結晶を報告している。非特許文献5は、2インチおよび3インチの炭化ケイ素基板の使用を報告している。
【0023】
円形(典型的な半導体ウェーハは、標準化およびアラインメント目的のために規定された「扁平な(flat)」エッジ部分を有する円形である)の面積は、当然、その半径の二乗に正比例する。従って、適切なSiC種結晶、種結晶上で成長したバルク結晶、およびバルク結晶から切断されたウェーハの直径を増大させることは、適切な最小の欠陥密度(すなわち、高い品質)が保たれ得るとすれば、単に二義的でない幾何学的な利点を潜在的に提供する。例えば、直径45mmのウェーハは、約1590mm^(2)の面積を有し、一方90mmウェーハ(すなわち、2倍の直径)は、約6360mm^(2)の面積を有する。

【課題を解決するための手段】
【0030】
また別の局面において、本発明は、高品質で大きな直径の炭化ケイ素の単結晶を成長させるための方法である。該方法は、炭化ケイ素のバルク単結晶から該バルク結晶のc軸に関してある角度で炭化ケイ素の種結晶を切断して、該バルク結晶のc面に関して軸オフである面を有する種結晶を産生することと、該種結晶の種結晶面に垂直で、該c面に関して垂直でない方向の顕著な温度勾配を、シードされた成長システムにおける該軸オフの種結晶に対して、所望されたサイズのバルク結晶が得られるまで適用することと、該種結晶の原初の面に平行に該バルク結晶を切断することによって、該バルク結晶から軸オフのウェーハを切断して、該種結晶ウェーハのc軸に関して軸オフである面を有する種結晶ウェーハを産生することとを包含する。」

【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明によると図2は、20で広く示された結晶の第1の実施形態の概略図である。結晶20は、種結晶部分21と、種結晶部分21上の成長部分22とを含む。種結晶部分21および成長部分22は共に、実質的に直立した円筒形の炭化ケイ素の単結晶を形成する。種結晶面23は、成長部分22と種結晶部分21との間の界面を規定する。実際の実施において、そして当業者によって認識されるように、成長した結晶において、種結晶面23は、観察可能ではなく史実的(historical)であり得る。種結晶面23は、直立した円筒形の結晶20の基部24および25に実質的に平行であり、単結晶20のc面に関して約0.5度と12度との間の軸オフである。(0001)c面は、もちろん{0001}平面のファミリーの一部分である。成長部分22は、種結晶部分21のポリタイプを複製し、成長部分22は、少なくとも約100ミリメートルの直径を有する。

【0038】
図2はまた、結晶20のc軸27を例示し、同様に、昇華の間に結晶の成長方向を駆動する温度勾配30を例示する。当該分野においてよく理解されているように、温度勾配は、物理的な距離にわたる所望される温度差を表し、例えば、1センチメートルあたりの摂氏温度で表す。一般的に言えば、温度勾配があると、昇華された(および他のガス状の)種結晶はより暖かい位置から(相対的に)より冷たい位置に移動する。従って、結晶成長システムにおいて温度勾配を制御することは、結晶成長の性質および方向を制御することにおいて重要な因子である。本願明細書の図において、それぞれの矢印(16、30、60)は、軸方向の温度勾配を図式的に表す。
【0039】
従って、図2は、図1に例示された結晶とは対照的に、成長は、c面26に垂直に起こらず、その代わり種結晶面23に垂直に起こることを示している。対応するように、温度勾配30およびc軸27は、もはや互いに平行ではなく、また互いに平行であるように意図されない。
【0040】
種結晶部分21および成長部分22は、一般に炭化ケイ素の3C、4H、6Hおよび15Rポリタイプからなる群から選択されたポリタイプを有し、4Hのポリタイプが特に(しかし排他的ではなく)高周波、高出力用デバイスに対して有益である。同様に、4Hおよび6Hポリタイプの両方は、特に高温用デバイス、光電子工学用デバイスおよびIII族窒化物材料の堆積に対して有益である。これらが互いに関して相対的な意味において好都合であり、本発明が単結晶のポリタイプを問わず利点をもたらすことが理解されるであろう。

【0055】
エッジチップ(edge chip)」は、半径方向の深さまたは幅のいずれかにおける1.5ミリメートル以上のあらゆるエッジの異常(ウェーハ鋸の出口マークを含む)を示す。拡散照明下で見られるように、エッジチップは、ウェーハのエッジから意図的でなく落とされた材料として決定される。

【0065】
背景としてのこれらの基準によって、本発明に従うウェーハは、エッジチップが1つのウェーハあたり2未満の密度を示す。

【0069】
別の局面において、本発明は、高品質で大きな直径の炭化ケイ素の単結晶を成長させるための方法である。この局面において、本発明は、炭化ケイ素のバルク単結晶から該バルク結晶のc軸に関してある角度で炭化ケイ素の種結晶を切断して、該バルク結晶のc面に関して軸オフである面を有する種結晶を産生することと、該種結晶の種結晶面に垂直で、該c面に関して垂直でない方向の顕著な温度勾配を、シードされた成長システムにおける該軸オフの種結晶に対して、所望されたサイズのバルク結晶が得られるまで適用することと、該種結晶の原初の面に平行に該バルク結晶を切断することによって、該バルク結晶から軸オフのウェーハを切断して、該種結晶ウェーハのc軸に関して軸オフである面を有する種結晶ウェーハを産生することとを包含する。

【0073】
図7は、本発明に従い形成された炭化ケイ素ウェーハの3つの写真の組である。図7(A)および図7(B)は、わずかに垂直でない角度で撮られ、従ってウェーハは、写真の中で長円形に見える。しかしながら、図7(C)の正面写真によって例示されるように、ウェーハは円形である。これらの写真は、本発明に従い産生された100mmのウェーハを示す。

3 実施可能要件の検討
(1)発明の詳細な説明の記載の検討
ア 上記本願の発明の詳細な説明の【0030】、【0036】、【0038】?【0040】の記載からは、軸オフの種結晶面を有する種結晶を用意し、結晶の成長方向を駆動する温度勾配を種結晶面と垂直に制御することにより、種結晶のポリタイプを複製した結晶がエピタキシャル成長し、種結晶部分とエピタキシャル成長した部分とが直立した円筒形の単結晶が得られる、すなわち特定事項「a」?「c」を満たす半導体結晶が生産できることが理解できる。
また、【0021】?【0023】の記載からは、当該技術分野におけるウェーハの大口径化への指向が理解でき、【0073】には、この発明に従い算出された直径100mmのウェーハの写真について記載されている。
そして、口径100mmの炭化ケイ素単結晶インゴットは公知であって(原査定における引用文献2(特開2006-111478号公報 【0046】)参照)、これを軸オフに切断した種結晶を用いてエピタキシャル成長を行えば、成長部分も口径100mm以上となることは、当業者が容易に理解できる事項である。
したがって、本願発明の特定事項のうち、「a」?「d」を満たす発明については、その実施可能要件が満たされているといえる。

イ 次に、特定事項「e」について検討すると、【0055】、【0065】には、本願発明に従うウェーハは、2未満のエッジチップを有することが記載されている。
また、【0008】、【0014】には、軸オフ方向へのエピタキシャル成長は、軸オン方向への成長よりも、高い格子精度を有する成長を促進し得る、すなわち、軸オフでの成長により高品質、低欠陥の結晶を生産することができる旨が記載されているから、発明の詳細な説明から、本願発明の半導体結晶は、軸オン成長のものより高品質、低欠陥であると認められる。

ウ しかし、本願の発明の詳細な説明には、特定事項「a」?「d」に加えて特定事項「e」を備えた本願発明の半導体結晶を生産するための条件について、【0038】、【0039】、【0069】に記載の軸オフの種結晶を用いること、及び種結晶面に垂直な方向(c面に関して垂直でない方向)に温度勾配を制御すること以外について、具体的に記載されていない。

(2)技術常識の検討
ア そこで、発明の詳細な説明に上記以外の具体的な生産条件が記載されていなくても、技術常識を参酌して、本願発明を生産することが当業者にとって可能であるかについて、以下、検討する。

イ すると、炭化ケイ素の単結晶成長の技術分野において、結晶口径の大型化に伴って結晶品質が劣化する傾向が見られ、口径の拡大に伴って、高品質単結晶成長の難易度は急激に増加し、多くの技術的困難が顕在化していることは、例えば、以下の周知文献に記載されるように、当業者にとっての技術常識といえる。
周知文献:大谷 昇他「<0001>c軸に平行並びに垂直な方向へのSiCバルク単結晶成長」FEDジャーナル vol.11 No.2(2000) p16-23 特にp17右欄3-5,8-9行

ウ しかも、請求人は、審判請求書において、「欠陥密度の少ない高品質な軸オフのウェーハを得ることは、ウェーハの直径が大きくなればなるほど困難になることは同業者には周知の事項です」(第6頁第5?7行)と主張し、また、回答書において、「SiC単結晶ウェファの直径を大きくするだけでなく、欠陥密度の少ない高品質な軸オフのウェーハを得ることは、それにも増して非常に困難な事項です。…中心部だけでなく周辺部まで欠陥がなく高品質にすることは達成することが非常に困難な事項です。」(第2頁第28行?第3頁第6行)、「上記引用例1には、直径50mmのウェファのマイクロパイプ密度が50?200cm^(-2)であることが第[0006]欄に記載されていますが、上述のように、ウェファの直径が大きくなると低欠陥密度を達成することが非常に困難になることを考えると、本願の直径100mmのウェファで100cm^(-2)未満のマイクロパイプ密度は、これに比べて達成が困難な値であると考えられます。」(第3頁第27行?第4頁第3行)と主張している。
この引用例1(原査定で引用した引用文献1と同じ)は、本願発明と同様、軸オフの種結晶面を有する種結晶から種結晶面に垂直な方向に炭化ケイ素単結晶を成長させる技術であるから、軸オフ技術を採用したとしても、直径を50mmから100mmと大きくする場合に、中心部だけでなく周辺部まで欠陥密度の少ない高品質なウェーハを得ることが困難であるという技術常識は、請求人も熟知している事項と認められる。

エ そうすると、直径100mm以上の軸オフの種結晶から成長した特定事項「a」?「d」を有する半導体結晶が、軸オンの種結晶から成長したものに比較すると、より低欠陥密度であり、高品質の炭化ケイ素ウェハが得られることは、【0008】、【0014】の記載から理解できるとしても、結晶口径の拡大に伴って高品質な成長が非常に困難であるという技術常識の基づけば、「成長部分が少なくとも100mm以上の直径を有する」(特定事項「d」)ことと、その成長部分が「2個未満のエッジチップを有するウェーハへ切断が可能である」(特定事項「e」)という低欠陥密度であることを両立する生産条件を見出すことは、当業者にとって困難であり、過度の試行錯誤を要するものと認められる。
そして、本願の発明の詳細な説明は、上記(1)で検討のとおり、特定事項「a」?「e」すべてを備えた本願発明の半導体結晶を生産するための具体的な生産条件又は指針について、軸オフの種結晶を用いること、及び種結晶面に垂直な方向(c面に関して垂直でない方向)に温度勾配を制御すること以外について、記載も示唆もされていないし、記載や示唆がなくても技術常識を参酌して、当該生産条件又は指針を当業者が格別の困難なく見出せるものとも認められない。

(3)小括
したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、本願の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に適合するものでない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、当審の拒絶理由は妥当であり、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-21 
結審通知日 2014-01-24 
審決日 2014-02-05 
出願番号 特願2009-518424(P2009-518424)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 若土 雅之松本 要  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 川端 修
真々田 忠博
発明の名称 軸オフの種結晶上での100ミリメートル炭化ケイ素結晶の成長  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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