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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1289062
審判番号 不服2013-2576  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-12 
確定日 2014-06-18 
事件の表示 特願2010-506117「鳴き防止シム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月 6日国際公開、WO2008/133556、平成22年 8月 5日国内公表、特表2010-526970〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2007年4月25日を国際出願日とする出願であって、平成24年10月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年2月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

2.平成25年2月12日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年2月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲(請求項1?14)が補正されたが、そのうち、請求項1は次のとおりに補正された。
「【請求項1】
繊維強化された主に防振の層(110)と、主に吸振の層(120)とを有し、前記繊維強化された主に防振の層が、強化繊維、充填材及びバインダ材を含む鳴き防止シム(100)であって、前記シムがパッド側部及び外側部を有し、前記繊維強化された主に防振の層が前記外側部に、前記主に吸振の層が前記パッド側部に配置され、前記繊維強化された主に防振の層の繊維含有量が、重量で50%未満である鳴き防止シム(100)。」
上記補正は、請求項1についてみると、実質的に、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記繊維強化された主に防振の層の繊維含有量が、重量で80%以下である」を「前記繊維強化された主に防振の層の繊維含有量が、重量で50%未満である」に限定するものであって、これは、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開2004-286210号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に使用されているディスクブレーキにおいて、ブレーキパッドをディスクロータに押圧する押圧部材とブレーキパッドの裏金との間に介在されるディスクブレーキの鳴き防止用シムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等において広く使用されているディスクブレーキは、車輪と一体に回転するディスクロータの両側に配設されたブレーキパッドを押圧部材により押すことにより、ディスクロータをブレーキパッドにより両側から押圧する構造となっている。ところが、ブレーキパッドがディスクロータに押圧されたとき、ブレーキパッドの裏金と押圧部材とが相対移動したり、ブレーキパッドとディスクロータとの間に生じる摩擦振動等によりブレーキ各部が加振され、一般に「鳴き」と称せられている異音が発生することがある。
【0003】
そのため、このような「鳴き」の発生を防止するために、図7に示すように、冷間圧延板のような薄い鉄板等からなる芯金1aの両面にゴム層2を固着した構造の鳴き防止用シムを、ブレーキパッドと押圧部材との間に介装して静音化することが広く行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平6-94057号公報」
(い)「【0009】
以下、本発明に関して図面を参照して詳細に説明する。
(第1の鳴き防止用シム)
図1は、本発明に係る第1の鳴き防止用シムを示す断面図である。図示されるように、鳴き防止用シムは、メッキ鋼板1の両面に、ゴム層2を固着して構成される。…(略)…
【0010】
ゴム層2を形成するゴム材には制限がなく、従来より鳴き防止用シムに使用されているゴム材を使用することができる。例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(H-NBR)、スチレンーブタジエンゴム(SBR)、エチレンープロピレンゴム(EPDM)等に加硫を施して得られたゴム、あるいはフッ素ゴム、シリコーンゴム等を好適に使用できる。中でも、一般的なブレーキシステムに適したゴム材としては、汎用性、耐油性、耐熱性等を考えるとNBRが最も適している。また、加硫には、加硫促進剤を併用すると加硫状態が安定する。加硫促進剤としては、ジチオカルバミン酸塩系またはジチオカルバメート系の加硫促進剤が好ましい。また、耐熱性や耐クリープ性等の機械特性を高めるために、補強材を配合してもよい。例えば、ロックウール、アラミド繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、セラミック繊維、バーミキュライト繊維等の繊維材料や、カーボンブラック、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、黒鉛等の充填剤を単独もしくは混合して配合することができる。
【0011】
メッキ鋼板1とゴム層2との固着方法には制限が無く、耐熱性の接着剤を使用して行ってもよく、焼付であってもよい。例えば、フェノール系接着剤またはエポキシ系接着剤を使用するのが好ましく、耐熱性が要求される場合にはポリアミドイミド等の樹脂を接着剤として使用することもできる。また、メッキ鋼板1にゴム材を直接コーティングすることも可能である。
【0012】
また、第1の鳴き防止用シムは、図示される構成の他に、ゴム層2をメッキ鋼板1の片面のみに固着してもよい。
【0013】
(第2の鳴き防止用シム)
図2は第2の鳴き防止用シムを示す断面図であるが、メッキ鋼板1の片面にゴム層2を固着し、他方の面に接着層20を設けたものである。メッキ鋼板1及びゴム層2は第1の鳴き防止用シムと同様である。
【0014】
接着層20は、ディスクパッドの裏金(図示せず)への接着部となる。接着層20は粘着剤や接着剤からなり、例えばアクリル系、ウレタン系、シリコーン系の各粘着剤や、熱硬化性樹脂系、熱可塑性樹脂系、エラストマー系、ホットメルト系の各接着剤を使用することができる。例えば、粘着剤には、コストパフォーマンスや接着性に優れるアクリル系粘着剤が好ましく、接着剤には、コストパフォーマンスや耐熱性、接着性に優れるフェノール系樹脂が好ましい。また、接着層20の表面には、保管時の保護のために剥離シートを添着させてもよい。
【0015】
(第3の鳴き防止用シム)
図3は第3の鳴き防止用シムを示す断面図であるが、図1に示した第1の鳴き防止用シムの一方のゴム層2に、接着層20を設けたものである。接着層20は第2の鳴き防止用シムの接着層20と同様であり、この接着層20を介してブレーキパッドの裏金に接着される。
【0016】
上記したように、第2及び第3の鳴き防止用シムは、それぞれ接着層20によりブレーキパッドの裏金に接着される。また、第1の鳴き防止用シムについては、図4に示すように、接着剤や粘着剤(図示せず)を別途用いてブレーキパッドの裏金10に取り付けてもよいし、あるいは接着剤や粘着剤を用いることなくブレーキパッドの裏金10に直接取り付けることもできる。後者の場合は、例えば、図示は省略するが、ブレーキパッドの裏金10の周縁で鳴き防止用シムの周縁を把持する構成とすることができる。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「メッキ鋼板1の片面にゴム層2を固着し、他方の面に接着層20を設けた鳴き防止用シムであって、
ゴム層2には、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(H-NBR)、スチレンーブタジエンゴム(SBR)、エチレンープロピレンゴム(EPDM)等に加硫を施して得られたゴム、あるいはフッ素ゴム、シリコーンゴム等が使用されており、
ゴム層2には、補強材として、ロックウール、アラミド繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、セラミック繊維、バーミキュライト繊維等の繊維材料や、カーボンブラック、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、黒鉛等の充填剤を単独もしくは混合して配合されており、
ディスクパッドの裏金への接着部となる接着層20は、粘着剤や接着剤からなり、例えばアクリル系、ウレタン系、シリコーン系の各粘着剤や、熱硬化性樹脂系、熱可塑性樹脂系、エラストマー系、ホットメルト系の各接着剤が使用されている鳴き防止シム。」
(2-2)引用例2
特開平6-94057号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「0001】
【産業上の利用分野】本発明はブレーキの鳴き防止材に関し、更に詳細にはブレーキ操作の際に、ディスクロータ面に当接するライニング材が固着されて成るパッド裏板と、前記パッド裏板を把持し且つ押圧するキャリパを構成するパッド押圧部材との間に、ブレーキ操作時に発生する鳴きを防止すべく挿入されるブレーキの鳴き防止材に関する。」
(き)「【0007】
【発明の構成】本発明において採用するゴム材は、従来使用されてきたゴム材を採用できるが、NBR、スチレンーブタジエンゴム(SBR)、エチレンープロピレンゴム(EPDM)等のゴムに加硫を施して得られたゴム材が好ましい。かかる加硫は、ゴムとイオウ等の加硫剤とを混練しながら行うことができ、酸化亜鉛等の加硫促進剤を添加することによって加硫速度を向上できる。また、ゴム材に配合される補強繊維としては、耐熱性を有する短繊維を採用でき、ロックウール、アラミド繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、セラミック繊維、バーミキュライト繊維等を好適に採用できる。かかる短繊維は、単独又は複数で使用することができ、繊維長2?3mm、繊維径8?15μm程度のものが好適である。
【0008】更に、本発明では酸化マグネシウム等の充填剤が併用される。この充填剤としては、酸化マグネシウムの他に硫酸バリウム、黒鉛等を好ましく使用でき、これら充填剤は単独又は複数で使用できる。これら補強繊維及び充填剤は、ゴム材の加硫を行う混練の際に、添加混練することによってゴム材中に分散配合することができる。かかる配合材の好適な配合量は、最終的に得られるゴム材に対して、ゴム15?25重量%、補強繊維50?60重量%、充填剤15?25重量%、加硫剤1.5?3重量%、加硫促進剤3.5?7重量%である。かかる範囲を外れると、最終的に得られるゴム材が、その耐久性向上が不十分となったり、或いは鳴き防止効果が不十分となったりし易い傾向がある。」
(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、
後者の「補強材」として配合される「繊維材料」は前者の「強化繊維」に相当し、同様に、「充填剤」は「充填材」に、「ゴム層2」に使用される「ゴム」は「バインダ材」に、それぞれ相当し、したがって、後者の「繊維材料」及び「充填剤」を配合された「ゴム層2」は「強化繊維、充填材及びバインダ材」を含んでいるとともに、前者の「繊維強化された主に防振の層」に相当する。
後者の「接着層20」は前者の「主に吸振の層」に相当する。
後者の「接着層20」はシムのパッド側部に配置されており、したがって、「ゴム層2」はシムの外側部に配置されている。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「繊維強化された主に防振の層と、主に吸振の層とを有し、前記繊維強化された主に防振の層が、強化繊維、充填材及びバインダ材を含む鳴き防止シムであって、前記シムがパッド側部及び外側部を有し、前記繊維強化された主に防振の層が前記外側部に、前記主に吸振の層が前記パッド側部に配置されている鳴き防止シム。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願補正発明は、「前記繊維強化された主に防振の層の繊維含有量が、重量で50%未満である」のに対し、
引用例1発明は、ゴム層2がそのような事項を備えるかどうか、明確でない点。
(4)判断
(4-1)相違点について
引用例1発明のゴム層2に含まれる繊維材料、充填剤、及びゴムの含有割合は、鳴き防止シムとしての所要特性・耐久性等の観点から、適宜設定・設計すべき事項である。引用例2には、補強繊維及び充填剤が混合されて成る鳴き防止材であるゴム材において、その補強繊維の含有割合を50?60重量%としたものが示されている。引用例1発明のゴム層2に含まれる強化繊維の含有割合を設定・設計するにあたって、関連・類似する事項が記載されている引用例2を参照することはごく自然な発想であり、それをもとに、引用例2のゴム材との構造・材質の差異やその他の各種材質の選択、所要特性等に応じて実験等によって個別具体的に最適化を図ることは、普通に行われる手法にすぎない。
ただ、引用例2には、「【0008】…(略)…かかる範囲を外れると、最終的に得られるゴム材が、その耐久性向上が不十分となったり、或いは鳴き防止効果が不十分となったりし易い傾向がある。」と記載されている。しかし、(a)本願明細書及び図面をみても、また、引用例2をみても、繊維の含有割合が重量で50%以上の場合と50%未満の場合とでどの程度の効果の差異があるのか、特に説明がなく、また、実証的・定量的根拠も特に示されていない。一方、本願明細書には、「【0017】…(略)…一実施例によると、この繊維強化防振層中の繊維含有量は、重量で10%又は14%を超え、23%又は30%未満である。ただし、いくつかの応用例では、繊維含有量が30%より多く、最大で50%又は80%にまでなり得る。」と記載されており、50%以上の例があると記載されていることを合わせ考えると、50%という数値に格別顕著な技術的意義があるとは認められないこと、(b)引用例2の上記記載は、当該発明者のその当時の知見に基づいた一つの見解であって、「…不十分となったりし易い傾向がある」という記載からもうかがわれるように、補強繊維の含有割合を50?60重量%の範囲以外とすることが技術的にみて絶対に選択し得ない事項であるということまで意味する趣旨ではないこと、(c)鳴き防止シムにおける繊維の含有割合が50%未満である例は、例えば、特開平11-223230号公報(特に【0026】のコンパウンドの組成)、特開2000-35066号公報(特に第4ページ第34?42行のコンパウンドの組成)に示されているように広く知れており、特別なものではないこと、以上を総合すると、引用例1発明のゴム層2に含まれる強化繊維の含有割合を設定・設計するにあたって引用例2の上記記載を参照して、50%未満の数値(少なくとも50%に近い数値)に想到することに格別の創作性・困難性があるとは認められない。
(4-2)効果について
本願補正発明の効果についても、それは、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が予測し得たものであって、格別のものではない。
(4-3)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成25年2月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?25に係る発明は、平成24年6月21日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?25に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
繊維強化された主に防振の層(110)と、主に吸振の層(120)とを有し、前記繊維強化された主に防振の層が、強化繊維、充填材及びバインダ材を含む鳴き防止シム(100)であって、前記シムがパッド側部及び外側部を有し、前記繊維強化された主に防振の層が前記外側部に、前記主に吸振の層が前記パッド側部に配置され、前記繊維強化された主に防振の層の繊維含有量が、重量で80%以下である鳴き防止シム(100)。」

3-1.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」にという。)について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1、及び、その記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明の「前記繊維強化された主に防振の層の繊維含有量が、重量で50%未満である」を「前記繊維強化された主に防振の層の繊維含有量が、重量で80%以下である」に拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1は、実質的に同様の理由により、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
したがって、本願発明1は引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結語
以上のとおり、本願発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-17 
結審通知日 2014-01-21 
審決日 2014-02-04 
出願番号 特願2010-506117(P2010-506117)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16D)
P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河内 誠  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 森川 元嗣
島田 信一
発明の名称 鳴き防止シム  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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