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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04M
管理番号 1289100
審判番号 不服2013-15230  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-07 
確定日 2014-06-20 
事件の表示 特願2012-179516「通信端末装置用記録装置、及び、これらを用いた通信端末装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月27日出願公開、特開2014- 39114〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年 8月13日の出願であって、同年 9月24日付けで拒絶理由が通知され、同年11月22日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年12月12日に最後の拒絶理由が通知され、これに対して平成25年 2月15日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、当該手続補正は同年 4月26日付けで却下されるとともに拒絶査定がなされ、これに対して同年 8月 7日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに手続補正がなされ、同年10月21日付けで審尋がなされたところ、回答書は提出されなかったものである。


第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年 8月 7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
平成25年 8月 7日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成24年11月22日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「 記録装置と、機器本体部とを含む通信端末装置であって、
前記記録装置は、読み出し専用の電話番号データを有し、前記機器本体部に分離可能に取り付けられており、
前記機器本体部は、情報入力部と、送受信部と、信号処理部とを有しており、
前記信号処理部は、前記情報入力部の入力操作に基づいて、前記電話番号データから、発信するべき電話番号を選択し、前記選択した電話番号を前記送受信部から直接発信させる、
通信端末装置。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、

「 記録装置と、機器本体部とを含む通信端末装置であって、
前記記録装置は、読み出し専用の電話番号データを有し、前記機器本体部に分離可能に取り付けられており、
前記機器本体部は、情報入力部と、送受信部と、信号処理部とを有しており、
前記信号処理部は、前記情報入力部の入力操作に基づいて、前記電話番号データから、発信するべき電話番号を選択し、前記選択した電話番号を前記送受信部から直接発信させ、
さらに、前記記録装置は、前記電話番号データを予め記録した状態で製造されるマスクROMであり、
前記電話番号データは、公共機関に開設されている相談窓口の専用電話番号、公共機関による高齢者生活支援サービスの電話番号、又は、民間企業による高齢者生活支援サービスの電話番号の何れかを含む、
通信端末装置。」(下線は、請求人が手続補正書において補正箇所を示すものとして付加したものを援用したものである。)

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正するものである。


2.補正の適否
(1)新規事項の有無、補正の目的要件
本件補正は上記のものであって、その内容は、「記録装置」に関して、「電話番号データを予め記録した状態で製造されるマスクROM」であることを特定し、「電話番号データ」に関して、「公共機関に開設されている相談窓口の専用電話番号、公共機関による高齢者生活支援サービスの電話番号、又は、民間企業による高齢者生活支援サービスの電話番号の何れかを含む」ものであることを特定するものである。
以上のように、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲に記載された発明の構成をさらに特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)、及び同法第17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反するところはなく、同法第17条の2第5項(補正の目的)の規定に適合している。

(2)独立特許要件
本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、補正後の発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて、以下に検討する。

[補正後の発明]
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項において、「補正後の発明」として認定したとおりである。

[引用発明]
原査定の拒絶理由に引用された特開2003-173322号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0015】初めに、本発明に係る携帯情報端末を利用したプログラム処理システムの第一の実施形態についてその概略の構成を説明する。本発明に係る携帯情報端末を利用したプログラム処理システム1は、図1に示すように、一般的な携帯情報端末の一つである携帯電話3と、携帯電話3の底面に設けられたスロット35に装着され、検索プログラム及び電話番号データが記録されたワンチップマイクロコンピュータ2が組み込まれたカートリッジ5とにより構成されている。本発明に係る携帯情報端末は携帯電話以外にもノート型のパーソナルコンピュータ、モバイル端末、等の機器が使用できる。尚、無線を介して接続される携帯情報端末だけでなく、有線電話やデスクトップ型のパーソナルコンピュータでも実現可能である。
【0016】携帯電話3は、図3に示すように、液晶表示部31と、入力ボタン33と、スロット35及びアンテナ37を有すると共に、その内部には、図1に示すように、処理回路30と、端末メモリ34と、通信制御部38含んで構成されている。入力ボタン33は、携帯電話3の正面側に複数配置され、主として電話番号である数字や平仮名、カタカナ又はローマ字等の文字を入力するために使用される。また、液晶表示部31は、入力ボタン33から入力された数字や文字又は携帯電話3に送られてきた情報を数字や文字として表示す部分であり、一般に液晶が用いられている。尚、液晶表示部31にはカラー液晶又は白黒液晶のいずれも採用可能である。
【0017】処理回路30は、通話音声や電子データ等の送信情報及び受信情報を発信又は受信したり、その結果を液晶表示部31に表示させると共に、必要な電子データを端末メモリ34に記録させたりするものである。例えば、入力ボタン33から入力された電話番号データである送信情報に基づいて相手側の電話機と接続させて通話可能とすると共に、他の電話から送られてきた受信情報を取得して通話可能とする。その際、受信情報に含まれる必要なデータを端末メモリ34や液晶表示部31に送り必要な情報を表示させ、あるいは端末メモリ34に記録することもできる。アンテナ37は送られてきた電波を受信し、又はこちらから発声した音声信号を外部へ送信するものである。尚、アンテナ37の近傍には着信を光で知らせる着信表示部39が設けられている
【0018】携帯電話3の底面にはカートリッジ5が挿入されるスロット35が設けられている。スロット35の開口部にはカートリッジ5が挿入されていないときは開口部を閉ざし、スロット35が挿入されるときには開口部の長手方向の一端部側を軸として開口する蓋板が設けられている。底部には、また、携帯電話3の内部に収納された電池を充電するために図示しない充電器の端子と接触する端子35a、35aが設けられている。本実施形態においてスロット35は、携帯電話3の底面に設けられているが、スロット35を設ける場所は底面に限られるものではなく、例えば、携帯電話3の左右の側面又はアンテナ37付近の上面等のいずれに設けることも可能である。また、スロット35はカートリッジ5専用とすることもできる。
【0019】カートリッジ5は、上面が開放されたケース50aとその開放面を覆う蓋材50bとにより構成され、ケース50aに蓋材50bが嵌め込まれるようにして固定されている。カートリッジ5の内部には、種々のデータ処理を実行する中央処理装置21と、データベース処理や情報検索のためのアプリケーションプログラムが記録されたチップメモリ23と、電話番号データが記録されたチップメモリ25とが一つのチップ上に内蔵されたワンチップマイクロコンピュータ2が収納されている。ワンチップマイクロコンピュータは、周辺LSIの機能やメモリを1つのプロセッサ内に搭載したもので、洗濯機等の家電製品をはじめとする様々な製品に制御用のコントローラとしても利用されている。」(3頁4欄ないし4頁5欄)

ロ.「【0021】また、ワンチップマイクロコンピュータ2は、携帯電話3を操作することによって中央処理装置21に検索処理を行なわせるための命令を転送すると共に、中央処理装置21で処理された電話番号データを携帯電話3側へ転送するためのコネクタ27を有している。そして、コネクタ27は、カートリッジ5の短手方向の一端面から突出して処理回路30と電気的に接続されるようになっている。中央処理装置21は、携帯電話3を操作することにより、予めチップメモリ23に記録された検索プログラムを読み込んで、予めチップメモリ25に記録された電話番号データの中から指定された電話番号の検索処理を行なう。尚、カートリッジカートリッジ5の形状はこれに限るものではなく、種々の形態が採用可能である。
【0022】チップメモリ23、25は、集積回路を利用した読み出し専用の記憶装置であり、不揮発性のメモリ(ROM)である。ワンチップマイクロコンピュータ2の製造時にプログラムや電話番号データが焼き付けられるマスクROMが採用される。また、自由に情報を書き込めるPROM等を採用すれば電話番号データの更新やアプリケーションの変更を行なうことが可能となる。本実施形態においては電話番号データとして役所、図書館、病院等の公共施設の電話番号データが記録されている。電話番号データ及びアプリケーションプログラムの更新は以下のように行なわれる。図4に示すように、チップメモリ23、25に記録されたプログラム及び電話番号データの最新データは通信回線に接続されたサーバ7に保存されており、携帯電話3からインターネット9を介してサーバ7に保存されたプログラム及び電話番号データダウンロードすることにより書き換えることにより行なわれる。これにより、プログラム及び電話番号データを常に最新状態に保つことが可能となる。」(4頁6欄)

ハ.「【0024】次に、本発明に係る携帯情報端末を利用したプログラム処理システムの第一の実施携帯についての動作を説明する。図5は、処理の流れを示すフローチャートである。まず、携帯電話3のスロット35にカートリッジ5を装着してワンチップマイクロコンピュータ2のコネクタ27を処理回路30と接続する(ステップS1)。そして、携帯電話3の入力ボタン33を操作してカートリッジ5に記録されている検索プログラムを起動させる(ステップ2)。検索プログラムが起動すると、図6(a)に示すように、液晶表示部31に検索メニュー表示されるので(ステップS3)、入力ボタン33により知りたい項目の番号を選択する(ステップS4)。
【0025】すると、図6(b)に示すように、その項目に含まれる電話番号データがさらに細分化された形で表示される(ステップS5)。ここで、「1」を選択すると液晶表示部31には「足立区役所」の電話番号が表示されると共に、その電話番号が端末メモリ34に記録される(ステップS6)。「足立区役所」の電話番号データは端末メモリ34に記録されているのでその電話番号データに基づいて発信操作を行なうことができ、改めて入力ボタン33から電話番号を入力する手間が不要となる(ステップS7)。また、示された項目の中から複数のデータを端末メモリ34に取り込み、携帯電話3に予め装備されている公知の電話番号検索機能によって所望の電話番号を検索することもできる。」(5頁7欄)

上記摘記事項の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、
a.上記摘記事項イ.及び図3によれば、引用例に記載のものは「カートリッジ5」と「携帯電話3」とから構成された携帯情報端末である。

b.上記摘記事項イ.【0019】、及びロ.【0022】の記載によると「カートリッジ5」は、その内部にマスクROMに焼き付けられた電話番号データを有しているといえる。また、上記摘記事項イ.の特に【0018】の記載からみて、「カートリッジ5」は「携帯電話3」に取り外し可能に取り付けられているといえる。

c.上記摘記事項イ.【0016】【0017】によれば、「携帯電話3」は「入力ボタン33」を有し、当該「入力ボタン33」は、上記摘記事項ハ.の記載によると、その入力操作によって電話番号が選択されるものである。また、「携帯電話3」は「通信制御部38」及び「処理回路30」を有している。

d.上記摘記事項ハ.によれば、「携帯電話3」の「入力ボタン33」の操作により検索プログラムが起動し、「入力ボタン33」による項目の選択によって検索が行われるが、これは上記摘記事項ロ.【0021】を参照すれば、「カートリッジ5」内の「中央処理装置21」が「入力ボタン33」により項目を選択していくことで、求める電話番号データを選択することといえる。そして、上記摘記事項ハ.【0025】には「ここで、「1」を選択すると・・・その電話番号が端末メモリ34に記録される(ステップS6)。・・・電話番号データは端末メモリ34に記録されているのでその電話番号データに基づいて発信操作を行なうことができ」と記載されていることから、選択された電話番号データは携帯電話3側の「端末メモリ34」に一旦記録され、携帯電話3側で当該電話番号データに基づいた発信操作により発信が行われると考えるのが自然である。そして、上記摘記事項イ.【0017】も併せて参照すれば、電話番号データに基づいた発信は「処理回路30」が通信制御回路を介して行っていることは明らかである。

e.上記摘記事項ロ.【0022】によれば、「カートリッジ5」内において電話番号データが記録されるのはマスクROMであって、製造時に電話番号データが焼き付けられるものである。

f.上記摘記事項ロ.【0022】によれば、記録される電話番号データは、役所、図書館、病院等の公共施設の電話番号データである。

したがって、摘記した引用例の記載を総合すると、引用例には以下のような発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明)
「 カートリッジ5と、携帯電話3とから構成された携帯情報端末であって、
前記カートリッジ5は、マスクROMに焼き付けられた電話番号データを有し、前記携帯電話3に取り外し可能に取り付けられており、
前記携帯電話3は、入力ボタン33、通信制御部38、及び処理回路30を有しており、
前記カートリッジ5内の中央処理装置21が、前記入力ボタン33の操作に応じて、前記電話番号データから発信する電話番号データを選択し、選択された前記電話番号データが携帯電話3側の端末メモリ34に一旦記録され、前記処理回路30が当該電話番号データに基づいて発信操作により前記通信制御回路を介して発信させ、
カートリッジ5は、前記電話番号データを製造時に焼き付けて記録されたマスクROMを有しており、
前記電話番号データは、役所、図書館、病院等の公共施設の電話番号データである、
携帯情報端末。」


[周知技術]
原査定の拒絶理由に周知例として引用された特開2000-32169号公報(以下、「周知例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ニ.「【0021】つぎに本発明に係わるオートダイアル機能について説明する。即ち、メモリカード2に電話番号が記録されていて、このメモリカード2を他の電話機に装着して目的の番号にオートダイアルするものである。
【0022】図4に示すように電話番号が記録されたメモリカード2はコネクター18を介して携帯電話1に装着されている。ここで操作キー13、またはジョグダイアル15等で指示入力し、その指示に従ってシステム制御部21がメモリカード2にアクセスして該当する番号を読み出し、表示装置16に表示させて目的とする電話番号を選択する。選択過程、選択番号はシステム制御部21を介して常に表示装置16に表示され、番号選択が容易に行える。目的とする電話番号が表示装置16に表示されると、操作キー13、またはジョグダイアル15からの指示入力で、その番号はシステム制御部21を介して送受信部22に送られ発呼動作が開始される。」(3頁4欄)

原査定の拒絶理由に周知例として引用された特開平5-63780号公報(以下、「周知例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ホ.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、不揮発のメモリカードを着脱できるようにした電話機に関するものである。」(2頁1欄)

ヘ.「【0008】次に、オートダイアル機能を実行する際は、メモリカード10をコネクタ9に装填してから、選択キー4を押下する。この選択キー4の押下毎にメモリカード10に書き込まれた氏名と電話番号の組が順次読み出されて、図3に示すように、液晶表示パネル2に順次切り換え表示される。よって、この選択キー4の1回乃至複数回の押下により所望の氏名と電話番号が表示された時点で、オートキー5を押下すると、そこに表示されている電話番号が自動的にダイアルされる。」(2頁2欄)

ト.図4には、制御部がメモリカード側にはなく、電話機側に存在するものが記載されている。

したがって、例えば周知例1、2に開示されているように、

(周知技術)
「電話番号が記録されたメモリカードを電話機に着脱可能に構成したものにおいて、電話機が有するキーを操作し、電話機の制御部によりメモリカードに記録された電話番号から目的の電話番号を選択する技術。」

は周知技術であると認められる。


[対比・判断]
補正後の発明を引用発明と対比すると、
あ.引用発明の「カートリッジ5」は、後述する点では相違するものの、電話番号データを有し携帯電話に取り外し可能に取り付けられていることからみて、補正後の発明の「記録装置」に対応する。

い.引用発明の「携帯電話3」は、補正後の発明の「機器本体部」に相当する。

う.引用発明の「カートリッジ5」と「携帯電話3」からなる携帯情報端末は、通信を行う電話機として動作することから「通信端末装置」と称することは任意である。

え.引用発明の「マスクROMに焼き付けられた電話番号データ」は、マスクROMが読み出し専用のROMであることから、補正後の発明の「読み出し専用の電話番号データ」に相当する。

お.引用発明の「入力ボタン33」は、携帯電話3が有する構成であって、電話番号データの選択の際に操作されるものであるから、補正後の発明の「情報入力部」に相当する。

か.引用発明の「通信制御部38」は、携帯電話3が有する構成であって、送受信に使われることは明らかであるから、補正後の発明の「送受信部」に相当する。

き.引用発明の「処理回路30」は、後述する点では相違するものの、携帯電話3が有する構成であって、電話を発信させていることからみて、補正後の発明の「信号処理部」に対応する。

く.引用発明では「入力ボタン33の操作に応じて、前記電話番号データから発信する電話番号データを選択」する動作は「カートリッジ5内の中央処理装置21」が行っているのに対して、補正後の発明では同様の動作を「機器本体部」内の「信号処理部」が行っているという点で相違するものの、いずれもこのような選択動作を行う選択手段を有するという点では両者は共通する。

け.引用発明では、選択された電話番号データを携帯電話3側の端末メモリ34に一旦記録させ、これに基づいて発信操作により前記通信制御回路を介して発信しているのに対して、補正後の発明では選択した電話番号を前記送受信部から直接発信させている点で相違するものの、選択されたデータに基づいて送受信部から発信させている点では両者は共通する。

こ.引用発明では「カートリッジ5」は、「電話番号データを製造時に焼き付けて記録されたマスクROM」と、「入力ボタン33の操作に応じて、前記電話番号データから発信する電話番号データを選択」する「中央処理装置21」を有するのに対して、補正後の発明の「記録装置」は、「前記電話番号データを予め記録した状態で製造されるマスクROM」そのものである点で相違するものの、両者は、マスクROMに電話番号データを予め記録しているものであるという点では共通する。

したがって、両者は以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「 記録装置と、機器本体部とを含む通信端末装置であって、
前記記録装置は、読み出し専用の電話番号データを有し、前記機器本体部に分離可能に取り付けられており、
前記機器本体部は、情報入力部と、送受信部と、信号処理部とを有しており、
選択手段が、前記情報入力部の入力操作に基づいて、前記電話番号データから、発信するべき電話番号を選択し、
前記信号処理部は、前記選択した電話番号を前記送受信部から発信させ、
さらに、前記記録装置は、予め記録した状態で製造されるマスクROMに前記電話番号データを記録したものである、
通信端末装置。」

(相違点1)
選択手段が行う、発信するべき電話番号を選択する動作に関し、補正後の発明では機器本体部内の信号処理部が行っているのに対して、引用発明ではカートリッジ5内の中央処理装置21がこれを行っている点。

(相違点2)
信号処理部に関し、補正後の発明では、選択された電話番号を送受信部から直接発信させるのに対して、引用発明では選択された電話番号データが携帯電話3側の端末メモリ34に一旦記録され、処理回路30が当該電話番号データに基づいて発信操作により通信制御回路を介して発信させるから、「直接発信」させるものとはいえない点。

(相違点3)
記録装置に関し、補正後の発明では、電話番号データを予め記録した状態で製造されるマスクROMそのものであるのに対して、引用発明において記録装置に対応するカートリッジ5には、電話番号データを記録したマスクROMに加え、入力ボタン33の操作に応じて電話番号データから発信する電話番号データを選択する中央処理装置21も構成要素として有している点。

(相違点4)
記録されている電話番号データに関し、補正後の発明では「公共機関に開設されている相談窓口の専用電話番号、公共機関による高齢者生活支援サービスの電話番号、又は、民間企業による高齢者生活支援サービスの電話番号の何れかを含む」ものであるのに対して、引用発明では「役所、図書館、病院等の公共施設の電話番号データ」である点。


まず、上記相違点1及び3について検討する。
引用発明においては、カートリッジ5内に電話番号データを記録したマスクROMに加え、中央処理装置21が存在し、当該中央処理装置21が、前記入力ボタン33の操作に応じて、発信する電話番号データを選択している。ここで、[周知技術]の項で認定したように、電話番号が記録されたメモリカードを電話機に着脱可能に構成したものにおいて、電話機が有するキーを操作し、電話機の制御部によりメモリカードに記録された電話番号から目的の電話番号を選択する技術は周知の技術にすぎない。そうしてみると、引用発明においてもカートリッジ5側ではなく、携帯電話3側の処理回路30において検索プログラムを起動し、目的の電話番号を選択する構成とすることは、システムを設計する際にカートリッジ5側と携帯電話3側の演算装置(中央処理装置や処理回路)の負荷の配分を考慮して適宜設計できる程度の事項にすぎない。そして、携帯電話3側の処理回路において検索プログラムなどを実行させる構成とすれば、カートリッジ5から中央処理装置21を除きマスクROMだけからなる構成とすることも格別の事項ではない。
したがって、上記相違点1及び3とした補正後の発明の構成は、引用発明及び周知技術から当業者が容易に想到できた事項にすぎない。

次に上記相違点2について検討する。
上述したように、引用発明において携帯電話3側の処理回路30が目的の電話番号を選択する構成とすることは格別の事項ではない。そうすると、電話番号の発信を制御する処理回路30が電話番号の選択も行うことになり、電話番号の受け渡しをする必要がなくなるから、処理回路30が選択した電話番号から直接発信する構成とすることも格別の発明力を要することなく、当業者が容易になし得た事項である。

相違点4について検討する。
引用発明において、電話番号データは役所、図書館、病院等の公共施設の電話番号データであり、補正後の発明のように、そこに開設されている相談窓口の専用電話番号や高齢者生活支援サービスの電話番号であるという特定はない。しかしながら、予め記録する電話番号データはユーザのニーズに応じて適宜決定されるものであるから、補正後の発明のように開設されている相談窓口の専用電話番号や高齢者生活支援サービスの電話番号とすることも、必要により適宜なし得る事項であって格別なものとはいえない。

そして、補正後の発明が奏する効果も引用発明及び周知技術から到達した構成から容易に予測できる範囲内のものである。

よって、補正後の発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定によって特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成25年 8月 7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は上記「第2 補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりのものである。

2.引用発明
引用発明及び周知技術は、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で引用発明及び周知技術として認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-21 
結審通知日 2014-04-23 
審決日 2014-05-08 
出願番号 特願2012-179516(P2012-179516)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04M)
P 1 8・ 575- Z (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 角張 亜希子白川 瑞樹  
特許庁審判長 田中 庸介
特許庁審判官 山中 実
山本 章裕
発明の名称 通信端末装置用記録装置、及び、これらを用いた通信端末装置  
代理人 阿部 美次郎  

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