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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1289138
審判番号 不服2011-8540  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-21 
確定日 2014-06-25 
事件の表示 特願2006-503486「膀胱癌及びその他の癌の治療及び検出に有用な名称158P1D7の核酸及び対応タンパク質」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月26日国際公開、WO2004/072263、平成19年 8月30日国内公表、特表2007-524361〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16(2004)年2月10日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年2月10日 米国)とする出願であって、平成22年1月20日付で手続補正がなされたが、同年12月16日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成23年4月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

2.平成23年4月21日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年4月21日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の
「【請求項1】皮膚癌又は子宮頚癌の細胞において発現される158P1D7遺伝子(配列番号2)の単離された転写変異体であって、
前記転写変異体は158P1D7遺伝子から転写され、配列番号14で示したアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むタンパク質をコードすること、及び前記転写変異体は配列番号15、配列番号16又は配列番号17で示したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする転写変異体。」から、
「【請求項1】皮膚の細胞において発現される158P1D7遺伝子(配列番号2)の単離された転写変異体であって、
前記転写変異体は158P1D7遺伝子から転写され、配列番号14で示したアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むタンパク質をコードすること、及び前記転写変異体は配列番号15、配列番号16又は配列番号17で示したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする転写変異体。」へと補正された。

上記請求項1に係る補正は、平成22年1月20日付で補正された請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「皮膚癌又は子宮頚癌の細胞」について、「子宮頚癌の細胞」を削除するものであるが、「皮膚癌の細胞」については、「皮膚の細胞」という、皮膚の正常細胞と癌細胞の両方を包含する細胞に拡張するものであるから、この補正は特許請求の範囲を拡張及び変更するものである。
そして、このような特許請求の範囲を拡張及び変更しようとする補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく、また、請求項の削除、誤記の訂正、又は明瞭でない記載の釈明の何れかを目的とするものでもないので、この補正は、同法第17条の2第4項の規定に違反するものである。

(2)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成23年4月21日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成22年1月20日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】皮膚癌又は子宮頚癌の細胞において発現される158P1D7遺伝子(配列番号2)の単離された転写変異体であって、
前記転写変異体は158P1D7遺伝子から転写され、配列番号14で示したアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むタンパク質をコードすること、及び前記転写変異体は配列番号15、配列番号16又は配列番号17で示したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする転写変異体。」

4.特許法第29条第2項
(1)本願発明1について
本願発明1は、上記3.に記載のとおりの転写変異体という化学物質に係るものであり、配列番号15、配列番号16又は配列番号17で示したアミノ酸配列は、配列番号14で示したアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むタンパク質をコードするものであるから、本願発明1には、「配列番号15、配列番号16又は配列番号17で示したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする転写変異体」という3つの態様が包含されている。
以下、その3つの転写変異体(以下簡略化のため、それぞれ「配列番号15をコードする転写変異体」、「配列番号16をコードする転写変異体」、「配列番号17をコードする転写変異体」という。)に係る本願発明1について、その進歩性の有無を検討することにする。

(2)引用例
原査定で引用文献1として引用された本願優先日前の2002年2月28日に頒布された刊行物である国際公開第02/16593号(以下、「引用例1」という。)には、
(i)「実施例2:158P1D7の全長のクローニング
158P1D7 SSHcDNA配列は、膀胱癌プールcDNAから正常膀胱cDNAを差し引いたものに由来した。SSHcDNA配列(図1)は、158P1D7と名付けられた。全長158P1D7cDNAクローンであるクローンTurboScript3PX(図2)は、膀胱癌プールcDNAからクローニングされた。」(第70頁第16行?第19行)、
(ii)「II.A.4.)158P1D7-コードする核酸分子の単離
ここに記述される158P1D7cDNA配列は、158P1D7遺伝子産物ホモログ、選択的スプライスアイソフォーム、アレル変異体、158P1D7遺伝子産物の突然変異体、をコードするポリヌクレオチドの単離、及び158P1D7関連タンパク質のアナログをコードするポリヌクレオチドの単離と同様に、158P1D7遺伝子産物をコードする他のポリヌクレオチドの単離を可能にする。158P1D7遺伝子をコードする全長cDNAを単離するために用いることのできる、様々な分子クローニング法は良く知られている(Sambrook,J.et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2d edition,Cold Spring Harbor Press,New York,1989;Current Protocols in Molecular Biology.Ausubel et al.,Eds.,Wiley and Sons,1995を参照)。例えば、商業的に利用可能なクローニング系(例えば、Lambda ZAP Express,Stratagene)を使用する、ラムダファージクローニング方法論が、便利に用いられる。158P1D7遺伝子cDNAを含んでいるファージクローンは、ラベルされた158P1D7cDNA又はそのフラグメントでプローブして特定される。例えば一つの態様では、158P1D7cDNA(図2)又はその部分を合成でき、158P1D7遺伝子と重複し又はそれに対応する全長のcDNAを回収するためのプローブとして用いることができる。」(第19頁下から第8行?第20頁第5行、注:下線部は当審による。)、と記載されている。
そして、図2には、158P1D7cDNAクローンTurboScript3PXの2,555塩基からなる核酸配列(配列番号656)と、コードする841アミノ酸からなるアミノ酸配列(配列番号657)が示されている。

上記引用例1の図2に記載の2,555塩基からなる配列番号656の核酸配列は、158P1D7遺伝子のcDNAの配列であり、158P1D7遺伝子からの転写物に相当するから、引用例1には、「158P1D7遺伝子(配列番号656)の単離された転写物であって、158P1D7遺伝子から転写され、配列番号657で示したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする転写物」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比
そこで、本願発明1と引用発明を比較すると、引用発明における配列番号656の核酸配列と配列番号657のアミノ酸配列は、それぞれ、本願発明1の配列番号2と配列番号14の配列と完全に一致するから、両者は、「158P1D7遺伝子(配列番号2)の単離された転写物であって、前記転写物は158P1D7遺伝子から転写され、配列番号14で示したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする転写物」に関連するものである点で共通する。
しかしながら、本願発明1は、配列番号15、配列番号16又は配列番号17で示したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする、158P1D7遺伝子の転写変異体であって、皮膚癌又は子宮頚癌の細胞において発現されるものであるのに対して、引用発明は、配列番号14で示したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする、158P1D7遺伝子の完全長の転写物であり、その転写物が皮膚癌又は子宮頚癌の細胞で発現することは特定されていない点で、相違する。

(4)当審の判断
本願優先日前、特定の構造遺伝子の機能解析のために、その遺伝子のスプライシングバリアント(以下、「転写変異体」に統一する。)を取得しようとすることは、既に周知の技術的課題であり、しかも、上記引用例1記載事項(ii)には、158P1D7cDNA配列のフラグメントを用いて、選択的スプライスアイソフォーム、即ち、転写変異体のポリヌクレオチドを単離すること、及び、単離の際に好適に使用されるラムダファージクローニング方法等の周知の手法が記載されているから、引用例1の記載に接した当業者が、引用発明の転写物の転写変異体を単離しようとすることは、上記周知の課題からもごく自然な発想である。そしてその際、上記周知の手法を用いて、本願発明1の配列番号15、配列番号16、又は配列番号17をコードする転写変異体は、当業者であれば容易に取得し得るものである。
また、本願発明1は、転写変異体という化学物質に係るものであるから、その発現する細胞を特定しても、配列番号15、配列番号16、又は配列番号17をコードする転写変異体という化学物質としては、変わりがない。そうすると、上記発現する細胞に関する相違点は、物質発明としての実質的な相違とはいえない。
そして、下記5.で詳述するように、本願明細書には、配列番号15、配列番号16、又は配列番号17をコードする転写変異体の機能、活性等について具体的な記載はないから、本願発明1において奏せられる効果については、引用発明の転写物の単なる転写変異体を取得したことにすぎず、上記引用例1の記載から当業者が予測し得ない程の格別なものとはいえない。
したがって、本願発明1は、引用例1の記載から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)審判請求人の主張
審判請求人は、平成25年2月13日付回答書中で、「審判請求人が請求の理由で述べているように(上記事項C参照)、引用例1は、膀胱癌、前立腺癌、結腸癌、肺癌、乳癌及び卵巣癌の細胞における158P1D7遺伝子の発現について言及しているに過ぎず、「皮膚の細胞」における158P1D7遺伝子の発現を導く言及・示唆は無い。」と主張している。
しかしながら、本願発明1は、配列番号15、配列番号16、又は配列番号17をコードする転写変異体という化学物質に係るものであり、それらが膀胱癌等の細胞で発現しても、皮膚癌等の細胞で発現しても、当業者が容易に取得できる物質としては変わらないことは上記(4)で述べたとおりであるから、審判請求人の上記主張は採用できない。

5.特許法第36条第4項第1号
(1)実施可能要件
本願発明1は、配列番号15、配列番号16、又は配列番号17をコードする転写変異体という3つの態様を包含するものである。
一方、化学物質に係る発明を当業者が実施することができるよう本願明細書に記載されているとされるためには、当業者であればその物質を作ることができ、かつ、使用することができるよう、本願の発明の詳細な説明に記載されていなければならない。
すわなち、化学物質としてのポリヌクレオチド又はコードするポリペプチドに、どのような機能、活性があるかが本願明細書に記載され、あるいは、本願出願時の技術常識を考慮して明細書の記載から推認できなければ、その化学物質をどのように使用できるかについて記載されていないことになり、その発明について当業者がその実施ができる程度に、明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されていないことになる。

(2)本願明細書の記載
配列番号15、配列番号16、又は配列番号17をコードする転写変異体に関する本願明細書の記載は、段落【0636】に一般的記載として、
「[実施例45]158P1D7の転写変異体
転写変異体(バリアント)は、選択的転写(alternative transcription)又は選択的スプライシングにより生ずる同一の遺伝子からの各種の成熟mRNAである。選択的転写物は、同一遺伝子からの転写物であるが、種々の点で転写を開始する。スプライスバリアントは、同一転写物から別々にスプライスされたmRNA変異体である。真核生物においては、マルチエクソン遺伝子がゲノムDNAから転写されるとき、エクソンのみを有し、かつアミノ酸配列への翻訳のために使用される機能性RNAを生ずるよう最初のRNAはスプライスされる。したがって、与えられる遺伝子は、ゼロから多くの選択的転写物を有しうるし、各転写物は、ゼロから多くのスプライスバリアントを有しうる。各転写変異体は、特有のエキソン構造を有し、元の転写物とは異なるコード(翻訳)及び/又は非コード(5’又は3’末端)部分を有しうる。転写変異体は、同一若しくは同様の機能をもつ同様の又は異なるタンパク質についてコードすることができ、或いは異なる機能をもつタンパク質をコード化することができ、同時に同一の組織において、又は同時に異なる組織において、又は異なる時点で同一の組織において、又は異なる時点で異なる組織において発現されうる。転写変異体によりコード化されたタンパク質は、例えば、分泌対細胞内の、同様の若しくは異なる細胞又は細胞外の局在化をしうる。」(下線は当審による。以下も同様)と記載され、段落【0640】?【0642】に「ゲノム領域が癌において調節されるということが技術として知られている。遺伝子が位置するゲノム領域が特定の癌において調節されるとき、その遺伝子の選択的転写物又はスプライスバリアントもまた調節される。本願において開示されたことは、158P1D7が癌に関係がある特定の発現プロファイルを有するということである。158P1D7の選択的転写及びスプライスバリアントもまた、同一の又は異なる組織において癌に関与し、したがって、腫瘍結合マーカー/抗原(tumor-associated markers/antigens)として役立つ可能性がある。
完全長遺伝子及びESTシーケンスを用いて、4つの転写変異体を同定し、158P1D7 v.3、v.4、v.5及びv.6としてデザインした。元の転写物、158P1D7 v.1におけるエクソンの境界を表BILL-1に示した。158P1D7 v.1と比較して、転写変異体158P1D7 v.3は、図12に示すように、158P1D7 v.1から2069-2395外れて、スプライスしていた。変異体158P1D7 v.4は、158P1D7 v.1の1162-2096外で、スプライスした。変異体158P1D7 v.5は、1つのエクソンを5’末端に加え、158P1D7 v.1の5’末端まで2bp、3’末端まで288bp伸長した。理論的には、空間的なオーダーでのエクソン、例えば、v.5のエクソン1並びにv.3又はv.4のエクソン1及び2のそれぞれ異なる組み合わせは、ポテンシャルなスプライスバリアントである。
158P1D7の変異体には、膜内外モチーフを欠く変異体が含まれるが、変異体が分泌タンパク質であることを示すシグナルペプチドが含まれる(v.4及びv.6)。そのようなv.4及びv.6等の分泌タンパク質は、癌存在及び進行の生物マーカーとして役立つ。癌患者の血清中のそのような変異タンパク質のレベルは、癌、特に、表Iに列挙した癌等の癌の疾患又はその進行の予後徴候マーカーとして役立つ。さらに、そのような分泌タンパク質は、モノクローナル抗体及び関連している結合分子の標的である。したがって、これらのような分泌タンパク質は、ヒト悪性腫瘍に対する診断、予後徴候、予防及び治療のための標的として役立つ。158P1D7の分泌変異体のターゲッティングは、その分泌変異体が細胞/組織に病理関連或いは癌関連の効果を及ぼすときに、特に好ましい。」と記載されている。
また、配列番号2の完全長の158P1D7転写物については、実施例4で「乳癌サンプルに関し、158P1D7の発現が、MCF7及びCAMA-1乳癌株細胞、乳癌患者から単離された乳房腫瘍組織において観察されるが、正常な乳房組織においては観察されない(図10)。158P1D7は、メラノーマ癌において発現をする。RNAを正常な皮膚株細胞、デトロイト-551(Detroit-551)、及びメラノーマ癌株細胞A375から抽出した。10ugの全RNAを用いるノーザンブロットは、158P1D7 DNAプローブでプローブされた。結果として、メラノーマ癌株細胞において158P1D7の発現が確認されるが、その正常な株細胞においては確認されない(図20)。」と記載され、図10又は図20で、ノーザンプロットによる乳癌細胞又は皮膚癌細胞での完全長の158P1D7mRNAの発現が確認されている。
しかしながら、完全長のものより短い配列番号15、配列番号16、又は配列番号17をコードする転写変異体の、乳癌細胞又は皮膚癌細胞での発現は、実施例4では確認されていない。
さらに、配列番号15、配列番号16、又は配列番号17のアミノ酸配列からなるポリペプチドの活性だけでなく、配列番号14のアミノ酸配列を有する完全長の158P1D7タンパク質の活性についても、本願明細書には記載されていない。

(3)当審の判断
本願発明1の配列番号15、配列番号16、又は配列番号17の転写変異体がコードするポリペプチドの活性が、本願明細書に記載されていないのは、上記(2)に記載したとおりであり、また、本願出願時の技術常識を考慮しても、それらポリペプチドの活性は推認できない。
また、配列番号2の完全長の158P1D7転写物については、特定の癌のマーカーとして機能する可能性が、本願明細書で示されているものの、配列番号15、配列番号16、又は配列番号17をコードする転写変異体が、何らかの癌で発現することは、上記(2)に記載のとおり、本願明細書では確認されていない。
一方、癌細胞において完全長の転写物が発現すれば、同時にその転写変異体も発現することが、本願出願時の技術常識とはいえないから、本願明細書で皮膚癌細胞等での発現が確認されていない以上、配列番号15、配列番号16、又は配列番号17をコードする転写変異体が癌マーカーとして使用できるかは、本願出願時の技術常識を考慮しても不明である。
したがって、本願発明1の配列番号15、配列番号16、又は配列番号17をコードする転写変異体については、本願出願時の技術常識を考慮しても、これらを癌マーカーとして使用できると推認できるよう本願の発明の詳細な説明が記載されているとはいえないから、本願発明の詳細な説明には、本願発明1を当業者が実施をできる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(4)審判請求人の主張
審判請求人は、平成25年2月13日付回答書中で、
「(1)本願において開示されたことは、158P1D7が発現している特定の細胞について、これが癌細胞であると検出することができることである。この事実は、特定の癌細胞の検出のためのマーカーとして役立つということである。
(2)158P1D7のスプライスバリアントもまた、特定の癌の存在及び進行の生物マーカーとして役立つものである。
(3)遺伝子が位置するゲノム領域が特定の癌において調節されるとき、その遺伝子の選択的転写物又はスプライスバリアントもまた調節される。
つまり、本発明によれば、皮膚細胞において、158P1D7又はそのスプライスバリアントの少なくとも1つが発現していれば、その皮膚細胞を癌細胞として特定することができるということである。
<3>本願の図20に示すノーザンブロット解析によれば、正常皮膚細胞では158P1D7が発現せず、皮膚癌細胞では158P1D7が発現することは明らかである(以下に示す参考資料も参照)。図20に示されるバンドについて、配列番号14?17で示したアミノ酸配列のいずれのものであるかの特定はしていない。しかしながら、図20が癌マーカーとして有用であることを示すデータとして十分であることは言うまでもない。」と主張している。
審判請求人の上記主張中の(2)(3)は、上記(2)の本願明細書の段落【0640】の下線部の記載に基づくものである。しかしながら、同時に、上記(2)の本願明細書の段落【0636】の下線部の記載にもあるように、転写変異体は、完全長の転写物と同じ組織で同時に発現する場合もあるし、そうでない場合もあるものであり、癌細胞においても同様であることが、本願出願時の技術常識であり、審判請求人の上記主張中の(2)(3)が、本願出願時の技術常識であるとはいえない。
実際、審判請求人が上記主張中の<3>で強調する、図20で示されるバンドが1本であるということは、むしろ、「10ugの全RNAを用いるノーザンブロットは、158P1D7 DNAプローブでプローブされた。結果として、メラノーマ癌株細胞において158P1D7の発現が確認され」たのは、完全長の転写物のみであり、メラノーマ癌株細胞で全ての転写変異体は発現していないことが確認されているといえるから、審判請求人の上記主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、また、本願請求項1に記載の発明について、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-23 
結審通知日 2014-01-28 
審決日 2014-02-10 
出願番号 特願2006-503486(P2006-503486)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (C12N)
P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 千葉 直紀高山 敏充  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 田中 晴絵
冨永 みどり
発明の名称 膀胱癌及びその他の癌の治療及び検出に有用な名称158P1D7の核酸及び対応タンパク質  
代理人 内田 潔人  
代理人 加藤 朝道  

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