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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07D
管理番号 1289181
審判番号 不服2012-10888  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-12 
確定日 2014-06-24 
事件の表示 特願2007-512567「アトルバスタチンの塩形態」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月10日国際公開、WO2005/105738、平成19年12月13日国内公表、特表2007-536373〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2005年4月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年5月5日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年4月22日に手続補正書が提出され、平成23年6月15日付けで拒絶理由が通知され、同年9月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年2月3日付けで拒絶査定がされ、同年6月12日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、同年7月23日に審判請求書を補正する手続補正書が提出され、同年12月19日付けで審尋がされ、回答書が提出されず、その後、平成25年9月30日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年12月24日に意見書が提出されたものである。
なお、平成23年9月15日に、特願2011-201894号及び特願2011-201895号が分割出願されている。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成24年6月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「CuK_(α) 放射線を用いて測定した以下の2θピーク:7.8、8.8、9.3、9.9、10.6、12.4、および19.5を含むX線粉末回析パターンを有する、アトルバスタチンアンモニウムの結晶」
(以下「本願発明」という。)

第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が通知した拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1(特開平3-58967号公報)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第4 当審の判断
当審は、当審が通知した拒絶の理由のとおり、本願発明は、上記刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 刊行物
刊行物1:特開平3-58967号公報

2 刊行物に記載された事項
(1a)「1)〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸または(2R-トランス)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドおよびその薬学的に許容しうる塩。
・・・・・・・・・・・・・・・
11)血中コレステロールを低下させるのに有効な量の請求項1記載の化合物および薬学的に許容しうる担体を含有する高コレステロール血症治療用の医薬組成物。」(1?2頁、特許請求の範囲の請求項1及び11)
(1b)「コレステロール生合成の抑制剤として有用である・・・化合物の中にはトランス-(±)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドがある。・・・
本発明によれば、予想外なことに、トランス-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドの開環した酸のR型の対掌体、すなわち〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸がコレステロール生合成の驚くべき抑制をもたらすということが見出された。」(2頁左上欄17行?左下欄2行)
(1c)「本発明の薬学的に許容しうる塩は、遊離酸またはラクトン好ましくはラクトンを適当な塩基とともに水性もしくは水性アルコール溶媒またはその他の適当な溶媒中に溶解しついで溶液を蒸発させて塩を単離することにより、または塩を直接分離させるかまたは塩を溶液の濃縮によって得ることができる有機溶媒中において遊離酸またはラクトン好ましくはラクトンおよび塩基を反応させることにより一般的に誘導される塩である。
実際には、塩形態の使用は酸またはラクトン形態の使用に等しい。本発明の範囲内にある薬学的に許容しうる適当な塩は、塩基例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、1-デオキシ-2-(メチルアミノ)-D-グルシトール、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化第一鉄もしくは水酸化第二鉄、水酸化アンモニウムまたは有機アミン例えばN-メチルグルカミン、コリン、アルギニン等から誘導される塩である。好ましくは、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムおよび第一鉄もしくは第二鉄の各塩は、そのナトリウム塩またはカリウム塩から該塩の溶液に適当な試薬を加えることによって製造される。すなわち、式Iの化合物のナトリウム塩またはカリウム塩の溶液に塩化カルシウムを加えるとそれのカルシウム塩が得られる。
遊離酸は式IIのラクトン体の加水分解によりまたは塩を陽イオン交換樹脂(H^(+) 樹脂)に通しついで水を蒸発させることによって製造され得る。
本発明の最も好ましい態様は〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸、ヘミカルシウム塩である。」(3頁左下欄1行?4頁左上欄2行)
(1d)「一般に、本発明の化合物IおよびIIは(1)参考までに本明細書中に組込まれる米国特許第4,681,893号明細書に記載の方法で製造されるラセミ体を分割することによりまたは(2)知られているかまたは知られた手法に類似の手法を使用して容易に製造される出発物質から始めて所望のキラル形態を合成することにより製造できる。
詳しく言えば、ラセミ体の分割は下記のスキーム1(ここでPhはフェニルである)に示すようにして達成され得る。

スキーム1の“トランスラセミ混合物”は下記:

の混合物を意味する。
スキーム1の工程1および工程2の条件は一般的に後記実施例6および7に見出されるとおりである。
キラル合成は下記のスキーム2(ここでPhはフェニルである)に示すとおりである。

一般に、スキーム2での条件は後記実施例1?5に示すとおりである。」(4頁左上欄3行?6頁左上欄2行)
(1e)「実施例 1
・・・・・・・・・・・・・・・
生成物1Fは下記のデータを示す。
元素分析値:・・・
融点229?230℃
・・・・・・・・・・・・・・・
実施例 2
・・・・・・・・・・・・・・・
これらの結晶は下記のデータを示す。
融点125?126℃・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
実施例 3
・・・生成物を酸/塩基抽出により抽出する。有機相を真空中で乾燥しそして濃縮して73gを得る。NMRおよびTLCは・・・
実施例 4
・・・シリカゲル上クロマトグラフィーによって13.2gが得られる。
・・・・・・・・・・・・・・・
実施例 5
2R-トランス-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドの製造
・・・再結晶しそして4Cの母液からは2.0gが得られる。・・・
実施例 6
ジアステレオマーのα-メチルベンジルアミド類の製造
・・・有機抽出物を・・・濃縮してジアステレオマーのα-メチルベンジルアミド類28.2gを白色固形物として得る。融点174.0?177°。これらのα-メチルベンジルアミドは・・・分離される。各フラクションUVモニターによって集めた。ジアステレオマー1は41分で溶離する。・・・分析用HPLCにより各々を試験したところジアステレオマー1は99.84%純粋でありそしてジアステレオマー2は96.53%純粋であることが示される。各異性体は別個に以下の実施例でとりあげる。
実施例 7
2R-トランス-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドの製造
・・・0.1gを白色の泡状物として得る。HPLCは該物質が94.6%化学的に純粋であることを示す。・・・
実施例 8
2S-トランス-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミド(実施例5で製造された化合物のS,S光学対掌体)の製造
・・・0.46gを白色の泡状物として得た。HPLCは該物質が97.83%化学的に純粋であることを示した。・・・
実施例 9
式IIのラクトンの加水分解
THF中に溶解したラクトンの室温溶液に、水中に溶解した水酸化ナトリウムの溶液を加える。混合物を2時間撹拌する。HPLC99.65%(生成物),0.34%(出発ラクトン)。混合物を水3L(注:小文字の筆記体のエルであるが、大文字の活字体で表す。以下も同じ。)で希釈し、酢酸エチル1Lずつで2回抽出し、次に5N塩酸37mLを加えてpH4の酸性にする。水性層を酢酸エチル1.5Lずつで2回抽出する。合一した酢酸エチル抽出物を水1Lずつで2回次にブラインで洗浄し、乾燥しついで濾過(注:濾は略字で記載されているが正字で表す。以下も同じ。)して必要とされる遊離酸の酢酸エチル溶液を得る。この溶液はN-メチルグルカミン塩のフラクション中で直接用いられる。ブライン-水からの酢酸エチル抽出物を濃縮して灰色がかった白色固形物15.5gが得られる。
実施例 10
ナトリウム塩および(または)ラクトンからのカルシウム塩
ラクトン1モル(540.6g)をMeOH5L中に溶解しついで溶解後にH_(2)O 1Lを加える。撹拌下に1当量のNaOHを加え、HPLCにより追跡するとラクトン並びにジオール酸のメチルエステル2%以下が残留している(過剰のNaOHは使用不可。Ca(OH)_(2) が生成し、CaCl_(2) の添加を必要とするため)。NaOHは苛性ソーダ(51.3mL、0.98eq.)またはペレット(39.1g、0.98eq.)として仕込むことができる。この手法は下記のように示される。

加水分解の完了と同時にH_(2)O 10Lを加えついでEtOAc/ヘキサンの1:1混合物で少なくとも2回洗浄する。各洗浄液はそれぞれEtOAc/ヘキサン10Lを含有すべきである。ナトリウム塩が純粋である場合にはMeOH15Lを加える。それが不純でありそして(または)着色物を含有する場合にはG-60木炭100gを加え、2時間撹拌しついでスーパーセル上で濾過する。MeOH15Lで洗浄する。反応混合物について重量/容量%をHPLCにより算定して溶液中における塩の正確な量を測定する。
1当量または僅かに過剰のCaCl_(2)・2H_(2)O(73.5g)をH_(2)O 20L中に溶解する。反応混合物およびCaCl_(2) 溶液の両方を60℃に加熱する。激しい振とう下にCaCl_(2) 溶液を徐々に加える。添加終了後、徐々に15℃に冷却しついで濾過する。フィルターケークをH_(2)O 5Lで洗浄する。真空オーブン中50℃で乾燥する。EtOAc 4L中に溶解し(50℃)、スーパーセル上で濾過し、EtOAc 1Lで洗浄しついで50℃rxn溶液にヘキサン3Lを仕込むことによって再結晶を行うことができる。この手法は下記のように示される。

」(6頁左下欄9行?12頁左上欄化学反応式)

3 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、その特許請求の範囲の請求項1に、
「〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸または(2R-トランス)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドおよびその薬学的に許容しうる塩」
の発明が記載されている。前半の「・・・ヘプタン酸」と記載される化合物は、以下の式I

で表され、後半の「・・・カルボキサミド」と記載される化合物は、以下の式II

で表され、後者は、前者のラクトン体に相当している。そして、前者のカルシウム塩は、「アトルバスタチンカルシウム」として知られていて、カルシウム塩を「アトルバスタチン」ということもあるが、ここでは、以下、前者の遊離酸の形の化合物を「アトルバスタチン」又は「アトルバスタチン遊離酸」といい、後者の化合物を単に「ラクトン」という。
刊行物1には、上記「薬学的に許容しうる塩」について、「本発明の薬学的に許容しうる塩は、遊離酸またはラクトン好ましくはラクトンを適当な塩基とともに水性もしくは水性アルコール溶媒またはその他の適当な溶媒中に溶解しついで溶液を蒸発させて塩を単離することにより、または塩を直接分離させるかまたは塩を溶液の濃縮によって得ることができる有機溶媒中において遊離酸またはラクトン好ましくはラクトンおよび塩基を反応させることにより一般的に誘導される塩である。・・・本発明の範囲内にある薬学的に許容しうる適当な塩は、塩基例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、1-デオキシ-2-(メチルアミノ)-D-グルシトール、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化第一鉄もしくは水酸化第二鉄、水酸化アンモニウムまたは有機アミン例えばN-メチルグルカミン、コリン、アルギニン等から誘導される塩である。好ましくは、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムおよび第一鉄もしくは第二鉄の各塩は、そのナトリウム塩またはカリウム塩から該塩の溶液に適当な試薬を加えることによって製造される。すなわち、式Iの化合物のナトリウム塩またはカリウム塩の溶液に塩化カルシウムを加えるとそれのカルシウム塩が得られる。 遊離酸は式IIのラクトン体の加水分解によりまたは塩を陽イオン交換樹脂(H^(+) 樹脂)に通しついで水を蒸発させることによって製造され得る。本発明の最も好ましい態様は〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸、ヘミカルシウム塩である」と記載されている(摘示(1c))。
さらに、刊行物1には、アトルバスタチン遊離酸又はラクトンの製造に関して、文献の提示と共に、光学分割のスキーム1及び合成のスキーム2が示され(摘示(1d))、実施例には、実施例1?5にラクトンの合成が、実施例6?8にラクトンの光学分割が、実施例9にラクトンの加水分解によるアトルバスタチン遊離酸の製造が、実施例10にラクトンをアトルバスタチンのナトリウム塩(以下「アトルバスタチンナトリウム」という。)とし次いでカルシウム塩(以下「アトルバスタチンカルシウム」という。)とするアトルバスタチンのヘミカルシウム塩(同左)の製造が、それぞれ、具体的に記載されている(摘示(1e))。
してみると、刊行物1には、その請求項1の前半に記載された化合物の、薬学的に許容し得る塩についての、以下の、
「〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸の薬学的に許容し得る塩」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。

4 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
本願発明の「アトルバスタチンアンモニウム」は、アトルバスタチンのアンモニウム塩を意味し、平成20年4月22日付けの手続補正により補正されたこの出願の明細書(以下「本願明細書」という。)の段落【0014】に「我々は今回・・・所望の特性を有する、アンモニウム・・・の塩を含む、新規なアトルバスタチンの塩形態を発見した。・・・これらの塩形態は製薬的に受容可能であり、そして医薬製剤を製造するために使用できる」と記載されていることからも明らかなように、アトルバスタチンの薬学的に許容しうる塩である。一方、引用発明の「〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸」は「アトルバスタチン」である。
したがって、両者は、
「アトルバスタチンの薬学的に許容し得る塩」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本願発明においては、アトルバスタチンの薬学的に許容し得る塩が、特定の2θピークの組を含むX線粉末回折パターンを有するアトルバスタチンアンモニウムの結晶であると特定されているのに対し、引用発明においてそのように特定されていない点

5 相違点についての検討

(1)アンモニウム塩とすることについて
刊行物1には、「本発明の範囲内にある薬学的に許容しうる適当な塩は、塩基例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、1-デオキシ-2-(メチルアミノ)-D-グルシトール、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化第一鉄もしくは水酸化第二鉄、水酸化アンモニウムまたは有機アミン例えばN-メチルグルカミン、コリン、アルギニン等から誘導される塩である」と記載されているから(摘示(1c))、引用発明において、その薬学的に許容し得る塩として、水酸化アンモニウムから誘導される、アンモニウム塩を選択することは、当業者が容易に想到し得る。
なお、請求人は、平成25年12月24日付けの意見書において、刊行物1に開示された14種類の塩からアンモニウム塩を選択する動機付けは存在しない旨、主張している。
しかしながら、その14種類の塩は、薬学的に許容し得る「適当な」塩として刊行物1に明示されたものであり、何れも、採用できるものであることは明らかであり、選択する動機付けが存在しないといえるものに該当するものではないから、請求人の主張は採用できない。

(2)アンモニウム塩を特定の2θピークの組を含むX線粉末回折パターンを有する結晶とすることについて
この出願の優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、その物質を結晶化することについては強い動機付けがあり、医薬化合物が結晶で得られる条件を検討することは、文献を示すまでもなく、当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。
そうすると、アンモニウム塩とする場合についても、当業者が結晶が得られる条件を検討したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。そして、塩が形成されるときには、塩形性と同時に固体の析出が起こることがあり得るから、結晶が得られるようにその条件を検討することに、十分な動機付けを認めることができる。
そして、本願明細書には、本願発明のアトルバスタチンアンモニウムの結晶を製造するための方法については、アンモニウム塩に限らずベネタミン塩、ベンザチン塩、ジベンジルアミン塩その他、本願明細書の段落【0127】?【0128】の表44に示される12個の塩に関するものとして、段落【0126】に、
「本発明は、アトルバスタチンの遊離酸(米国特許5,213,995(注:誤記であり正しくは米国特許5,273,995と認める。))の以下の溶媒の1つ:アセトン、アセトニトリル、THF、1:1アセトン/水(v/v)、イソプロパノール(IPA)、またはクロロホルム:の溶液の調製を含む、アトルバスタチンの塩形態の製造方法を提供する。カチオン性対イオン溶液を同一の溶媒中で0.5または1.0当量のいずれかを用いて製造した。水をいくつかの対イオンにその溶解性を増加させるために加えた。アトルバスタチン遊離酸溶液を攪拌しながらこの対イオン溶液に加えた。反応液を少なくとも48時間、周囲温度で攪拌した。固体を含む溶液を減圧濾過し、反応溶媒で洗浄し、そして周囲条件下で終夜、空気乾燥した。2週間後に至っても沈殿が生じていない場合は、溶液をゆっくりと蒸発させた。全ての試料は周囲温度で保存し、そして・・・特性分析された。」
と記載され、段落【0143】の実施例1に、
「アトルバスタチンのアンモニウム塩はアセトニトリル(ACN)中のアトルバスタチン遊離酸(米国特許5,273,995)の保存溶液(25mLのACN中に0.634g)を調製して合成した。溶液は、水酸化アンモニウム(1.0当量)の12.04mgをアセトニトリル(0.5mL)に溶解して調製した。アトルバスタチン遊離酸の保存溶液(2.24mL)を攪拌しながら対イオン溶液中に加えた。ゲルが形成された場合は、追加のアセトニトリルおよび水を必要に応じて加えた。周囲温度で2日間の攪拌の後、0.45μm ナイロン66メンブレンフィルターを用いた減圧濾過により、固形物を分離した。この固形物をアセトニトリルで洗浄し、次に周囲環境で空気乾燥してアトルバスタチンアンモニウムを得た。」
と記載されているが、溶媒の選択にしても、アセトニトリルやアセトン、イソプロパノールのような、ありふれた、アトルバスタチンの製造に際しても当業者が通常選択する溶媒が用いられ、塩を形成させる条件及び操作も、さしたる工夫もなく、当業者が通常行う操作の範囲のことであると認められる。
してみると、本願発明のアトルバスタチンアンモニウムの結晶は、引用発明において、当業者が、刊行物1の記載に従いアンモニウム塩とすることとした場合に、通常行う塩形成の操作により得られるもか、必要に応じて引き続き行う通常の再結晶の操作により得られるものであると認められる。
そして、相違点に係る、特定の2θピークの組を含むX線粉末回折パターンを有する結晶である点は、当業者が、結晶性が期待される医薬化合物の分析において通常用いるX線回折を行った場合に得られる結果を、提示しただけのことに過ぎない。
なお、請求人は、平成25年12月24日付けの意見書と同時に添付資料1?3を提出して、医薬品として結晶がアモルファスより常に好ましいわけではないから、物質を結晶化することについては強い動機付けがあるとはいえず、また、アセトニトリルは毒性を有するため医薬品中の残留量を規制すべきであるから、当業者がアセトニトリルを溶媒として選択する動機付けがあるとは必ずしもいえない旨、主張している。
しかしながら、ある種の医薬化合物においてアモルファス形態が結晶に比べて溶解性や吸収性に優れるとしても、結晶が一般に安定性、純度、扱いやすさに優れることはよく知られているから、医薬化合物を結晶化することについて強い動機付けがあることは否定されない。また、アセトニトリルは、医薬化合物の製造に際してよく用いられる溶媒であって、毒性のために使用できない溶媒ではなく、残留量に注意して使用できる溶媒なのであるから、当業者がアセトニトリルを溶媒として選択する動機付けがないとはいえない。よって、請求人の主張は採用できない。

(3)以上によれば、引用発明において、その薬学的に許容し得る塩として、水酸化アンモニウムから誘導される、アンモニウム塩を選択すると共に、結晶化条件や、塩が形成されるときの条件を、検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

6 効果について
本願明細書の段落【0001】には、「本発明は・・・アトルバスタチンの新規な塩形態・・・に関する」と記載され、段落【0014】には、「我々は今回・・・所望の特性を有する、アンモニウム、ベネタミン(benethamine)、ベンザチン、ジベンジルアミン、ジエチルアミン、L-リシン、モルフォリン、オールアミン(olamine)、ピペラジンおよび2-アミノ-2-メチルプロパン-1-オールの塩を含む、新規なアトルバスタチンの塩形態を発見した。我々はさらに・・・所望の特性を有する、エルブミン(erbumine)およびナトリウムとの塩を含むアトルバスタチンの新規な結晶形を発見した。それにより、これらの塩形態は製薬的に受容可能であり、そして医薬製剤を製造するために使用できる。したがって、本発明は、純粋で良好な安定性を有し、そして、従来のアトルバスタチンの塩形態に比べて有利な製剤化特性を有するアトルバスタチンの塩基性塩を提供する」と記載されているが、段落【0125】には、「本発明で記載されたアトルバスタチンの新規な塩形態は有利な特性を有する。例えば、ベネタミン塩、ベンザチン塩、ジベンジルアミン塩、ジエチルアミン塩、エルブミン塩およびモルホリン塩は、無水性、高融点で、同時に非吸湿性化合物であると考えられることが判明した。オールアミン塩および2-アミノ-2-メチルプロパン-1-オール塩は、同様に無水性で高融点であることが判明した。また、アトルバスタチンのジエチルアミン塩、エルブミン塩、モルホリン塩、オールアミン塩および2-アミノ-2-メチルプロパン-1-オール塩は、フォームIのアトルバスタチンカルシウム(米国特許番号5,969,156で開示された)に比べてより高い水溶性を示した」と、上記の12個の塩のうちの8個について、無水性、高融点、非吸湿性、水溶性の1又は2の利点が示されているが、アンモニウム塩、L-リシン塩、ナトリウム塩及びピペラジン塩の4個については、言及がない。また、本願明細書には、他に、本願発明の効果に関する記載はない。
そうすると、本願発明はアトルバスタチンアンモニウムに関するものであるから、本願発明の効果は、アトルバスタチンの新規な塩形態を提供した、ということを超えるものではない。
しかし、引用発明において、相違点に係る本願発明の構成を備えた、アトルバスタチンアンモニウムとすることは、当業者が容易に想到し得ることは、上記5で述べたとおりであるから、上記の本願発明の効果は、格別のものであるとすることはできない。

7 まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-20 
結審通知日 2014-01-27 
審決日 2014-02-12 
出願番号 特願2007-512567(P2007-512567)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨永 保  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 村守 宏文
齋藤 恵
発明の名称 アトルバスタチンの塩形態  
代理人 四本 能尚  
代理人 宮澤 純子  
代理人 龍田 美幸  
代理人 佐藤 眞紀  

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