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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03G
管理番号 1289201
審判番号 不服2011-22602  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-19 
確定日 2014-07-17 
事件の表示 特願2006-209933「加速推進装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月21日出願公開、特開2008- 38617〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件出願は、平成18年8月1日の出願であって、平成23年2月1日付けで拒絶理由が通知され、同年4月5日付けで意見書が提出されたが、同年7月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月19日に拒絶査定に対する審判が請求されるとともに同時に同日付けで手続補正書が提出されて明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、同年11月16日付けで手続補正書(方式)が提出されて審判請求における請求の理由を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成24年5月14日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、同年7月23日付けで回答書が提出され、同年8月6日付けで上申書が提出され、その後当審において同年10月22日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月28日付けで意見書(以下、「本件意見書」という。)が提出されるとともに明細書、特許請求の範囲及び図面を補正する手続補正(後記平成25年1月18日付け手続補正書(方式)により補正された当該手続補正を以下、「本件補正」という。)がなされ、平成25年1月18日付けで平成24年12月28日付けの手続補正書の一部を補正する手続補正書(方式)が提出されたものである。


第2 当審拒絶理由

平成24年10月22日付けで通知した当審拒絶理由は、
「[理由1]
この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

[理由2]
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」
として、下記の点を拒絶の理由として挙げたことを含んている。

【1】[理由1]について(特許法第36条第4項第1号)

「明細書及び図面全般の記載からすると、本件発明の加速推進装置は、中央回転軸方向への並進加速度を生成し、加速、速度、移動方向又は移動範囲の制約を受けることなく、排気による大気汚染や運転騒音の被害を引き起こすことのない移動手段として機能することが可能となるものと認められるところ、どのような動力源により、どのような動力伝達経路を経て、加速推進装置全体がどのような動きをして、中央回転軸方向への並進加速度を生成し、加速、速度、移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく、移動手段として連続して機能するようになるのか不明又は不明確であり、明細書において本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。」

「以上のことを詳細に区分して記載すると次のとおりである。」

「1.中央回転軸方向への並進加速度を生成し、加速、速度、移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく、移動手段として連続して機能する動力伝達経路について
明細書の段落【0051】には、「このように、各人転球110a?110cには時間差で自身をあおり上げる力が周回的に繰り返しはたらくので、天地軸134,135方向に並進加速度が発生する。この結果、加速推進装置100全体が天地軸134,135方向に浮揚しながら進行又は後退するようになる。」と記載されており、また、図2及び3には、モータ等の動力源150,151,153が記載されているが、それぞれの動力源150,151,153による動力は、どのような部材を駆動し、最終的に、加速推進装置100全体を天地軸134,135方向に浮揚しながら進行又は後退するようになるのか不明又は不明確である。
仮に、天地軸134,135方向(中央回転軸方向)に浮揚する方向の力が発生したとしても、加速推進装置100自体の重量や前記浮揚する方向の力に対する反力等が生じることは物理学上明らかであることから、どうして加速推進装置100全体が、中央回転軸方向への並進加速度を生成し、加速、速度、移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく、移動手段として連続して機能するのか不明又は不明確である。」

「2.加速推進装置に入力されるエネルギー源について
図2及び3には、モータ等の動力源150,151,153が記載されているが、これら動力源150,151,153がいずれもモータであるとすると、これらモータに入力される電気エネルギーが必要となるのは明らかであるが、エネルギー源はどこに設置されどのようにエネルギーを入力しているのか不明である。
各モータに電気エネルギーを入力する場合、(a)バッテリーを加速推進装置の内部に設置する方法、及び(b)外部の電源から加速推進装置へ有線で接続する方法、が考えられる。上記(a)の方法では、加速推進装置を移動手段として連続して機能する程度の電気エネルギーを充電可能なバッテリーの重量はかなり重くなる上に、内部の各部で回転駆動される加速推進装置のバランスも大幅に悪化するものと推察される。上記(b)の方法では、加速推進装置と電源とが有線で接続されることになるので、移動手段として連続して機能するのに大幅な制約を受けることになる。
以上のように、上記(a)及び(b)のいずれの方法であっても、加速推進装置全体が、中央回転軸方向への並進加速度を生成し、加速、速度、移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく、移動手段として連続して機能するためのの加速推進装置に入力されるエネルギーのあるエネルギー源かどこに設置されどのようにエネルギーを入力しているのか不明である。」

「3.「加速推進装置」の「加速」の意味について
明細書の段落【0051】には、「加速推進装置100全体が天地軸134,135方向に浮揚しながら進行又は後退するようになる。」と記載されているように、加速推進装置100は、物理学上の意味での「加速」のみならず、「減速」、「定速度」、「ホバリング」若しくは「停止」も含まれているものと解釈できるが、「加速推進装置」の「加速」の意味は不明確である。」

「4.各軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連について
「天地軸134,135」、「因果軸106」(斜軸106)3つ(球体3つの場合)、「回転軸115」3つ(球体3つの場合)の3種の軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連が、どのように加速推進装置100全体に影響して、当該加速推進装置100全体が、中央回転軸方向への並進加速度を生成し、加速、速度、移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく、移動手段として連続して機能するのか不明又は不明確である。」


【2】[理由2]について(特許法第36条第6項第2号)

「2.請求項1において、上記【1】に記載されているように、本件発明の課題を達成するためには、上記【1】の4.に記載したように、各軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連についての事項も必要であると思われるが、請求項1にはこのような事項は記載されていない。例えば、「第1の回転(公転)」と「第3の回転(球内捻転)」との回転方向及び回転速度の関係が不明である。」

「4.請求項1において、上記【1】に記載されているように、本件発明の課題を達成するためには、上記【1】の1.及び2.に記載したように、加速推進装置を機動する動力源及びエネルギー源についての事項も必要であると思われるが、請求項1にはこのような事項は記載されていない。
(例えば、モータ等の動力源150,151,153及びこれらの動力源により駆動される部材の動力経路の事項並びに電源等のエネルギー源も必要ではないのか。)」


第3 本件補正

本件補正(平成25年1月18日付け手続補正書(方式)により補正された平成24年12月28日付け手続補正書により補正された当該手続補正)は、特許請求の範囲、明細書の一部及び図面を補正するものであるが、具体的には特許請求の範囲、明細書及び図面についてそれぞれ、以下のことを補正するものである。
なお、下線部は審判請求人が補正箇所を示したものである。

1.特許請求の範囲について
「【請求項1】
自装置の重心を貫く中央回転軸と、
前記中央回転軸の周囲に配置された3以上の複数の回転子と、
前記回転子を支持し、前記中央回転軸の周囲を回転する公転盤と、
前記中央回転軸上の一点と各回転子の中心とを結んで構成される斜軸と、
前記回転子の回転軸であって、前記中央回転軸に向かって直交する向きから平行になる向きに沿って旋回される各回転子軸と、
前記回転子の外殻であって、前記斜軸まわりに回転する外殻体と、
前記外殻体に固定され、前記回転子軸と前記斜軸とが所定の角度をなすように、前記回転子軸を支持する回転子軸支持枠と、
前記中央回転軸、前記斜軸及び前記回転子軸をそれぞれ回転駆動させる動力源と、
を有し、
前記複数の回転子は、前記回転子軸まわりにそれぞれ同速度で回転し(第3の回転)、
前記公転盤は、前記中央回転軸まわりに回転し(第1の回転)、
前記各外殻体及び回転子軸支持枠は、前記中央回転軸と所定の角度をなす前記斜軸まわりにそれぞれ同速度で回転し(第2の回転)、
前記第2の回転は、前記中央回転軸まわりに互いに隣り合う各外殻体及び回転子軸支持枠の回転の周期に等しい位相差が割り当てられることを特徴とする加速推進装置。
【請求項2】
前記公転盤は、前記第1の回転により発生させた回転ベクトルを、前記第3の回転により前記回転子に発生した回転ベクトルに対して作用させて、前記各回転子に歳差能を発生させ、
前記第2の回転は、前記中央回転軸まわりに互いに隣り合う各外殻体及び回転子軸支持枠の回転の周期に等しい位相差が割り当てられ、前記各回転子に発生した歳差能に対して前記第2の回転による位相循環を付与することで作用点を周回させて、前記歳差能を加速力として前記自装置の重心に順次適宜に作用させることにより、位置移動を行うことを特徴とする請求項1記載の加速推進装置。
【請求項3】
前記公転盤の回転速度を調整することによって、前記中央回転軸に沿った加速力を調整でき、
前記公転盤の回転方向を逆転させることによって、前記中央回転軸に沿った加速力の方向を逆側に変更できることを特徴とする請求項1又は2記載の加速推進装置。
【請求項4】
前記中央回転軸と前記回転子軸のなす角度を調整して、前記回転子に発生する歳差能を制御することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の加速推進装置。
【請求項5】
前記公転盤上に、前記中央回転軸を囲んで略点対称様に3以上複数の別途単独駆動する小回転子をさらに有し、
前記各小回転子は、円盤状の前記公転盤の径方向を回転軸として、該回転軸まわりにそれぞれ回転し、該小回転子の回転による回転ベクトルを前記公転盤による前記中央回転軸まわりの回転による回転ベクトルに作用させて、前記中央回転軸の軸線方向を制御することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の加速推進装置。」

2.明細書について
明細書における段落【0011】ないし【0015】及び【0068】を、それぞれ以下のように補正し、段落【0016】ないし【0018】及び【0062】ないし【0066】を削除するものである。
(ア)「【0011】
かかる目的を達成するため、本発明における加速推進装置は、自装置(100)の重心を貫く中央回転軸(1)と、中央回転軸(1)の周囲に配置された3以上の複数の回転子(101)と、回転子(101)を支持し、中央回転軸(1)の周囲を回転する公転盤(地動輪13,120)と、中央回転軸(1)上の一点と各回転子の中心とを結んで構成される斜軸(9,21,22)と、回転子(101)の回転軸であって、中央回転軸に向かって直交する向きから平行になる向きに旋回される各回転子軸(115)と、回転子(101)の外殻であって、斜軸まわりに回転する外殻体(112)と、外殻体(112)に固定され、回転子軸(115)と斜軸(9,21,22)とが所定の角度をなすように、回転子軸(115)を支持する回転子軸支持枠(腰掛けジンバル105)と、中央回転軸(1)、斜軸(9,21,22)及び回転子軸(115)をそれぞれ回転駆動させる動力源(150,151,153)と、を有し、複数の回転子(101)は、回転子軸(115)まわりにそれぞれ同速度で回転し(第3の回転)、公転盤(地動輪13,120)は、中央回転軸(1)まわりに回転し(第1の回転)、各外殻体(112)及び回転子軸支持枠(105)は、中央回転軸(1)と所定の角度をなす斜軸(9,21,22)まわりにそれぞれ同速度で回転し(第2の回転)、第2の回転は、中央回転軸(1)まわりに互いに隣り合う各外殻体(112)及び回転子軸支持枠(105)の回転の周期に等しい位相差が割り当てられることを特徴とする。」

(イ)「【0012】
また、本発明における加速推進装置によれば、公転盤(地動輪13,120)は、第1の回転により発生させた回転ベクトルを、第3の回転により回転子(101)に発生した回転ベクトルに対して作用させて、各回転子(101)に歳差能を発生させ、
第2の回転は、中央回転軸(1)まわりに互いに隣り合う各外殻体(112)及び回転子軸支持枠(105)の回転の周期に等しい位相差が割り当てられ、各回転子(101)に発生した歳差能に対して第2の回転による位相循環を付与することで作用点を周回させて、歳差能を加速力として自装置の重心に順次適宜に作用させることにより、位置移動を行うことを特徴とする。」

(ウ)「【0013】
また、本発明における加速推進装置によれば、公転盤(地動輪13,120)の回転速度を調整することによって、中央回転軸(1)に沿った加速力を調整でき、公転盤(地動輪13,120)の回転方向を逆転させることによって、中央回転軸(1)に沿った加速力の方向を逆側に変更できることを特徴とする。」

(エ)「【0014】
また、本発明における加速推進装置によれば、中央回転軸(1)と各回転子軸(115)のなす角度を調整することによって、回転子(101)に発生する歳差能を制御することを特徴とする。」

(オ)「【0015】
また、本発明における加速推進装置によれば、公転盤(地動輪13,120)上に、中央回転軸(1)を囲んで略点対称様に3以上複数の別途単独駆動する小回転子(101)をさらに有し、各小回転子(101)は、円盤状の公転盤(地動輪13,120)の径方向を回転軸として、回転軸まわりにそれぞれ回転し、小回転子(101)の回転による回転ベクトルを公転盤(地動輪13,120)による中央回転軸(1)まわりの回転による回転ベクトルに作用させて、中央回転軸(1)の軸線方向を制御することを特徴とする。」

(カ)「【0068】
【図1】本発明の加速推進装置に作用する力を説明するための図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における加速推進装置の平面断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における加速推進装置の側面断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態において、輪廻軸回りの回転を各人転球に伝達するための構造を示す斜視図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態における因果軸及び位相配分スリブの構造を示す側面断面図である。
【図6】(a)は、本発明の第1の実施の形態における因果軸及び位相配分スリブの構造を示す底面断面図であり、(b)は、その構造を示す斜視図である。
【図7】(a)?(c)は、本発明の第1の実施の形態において、位相配分スリブが各人転球の回転の位相を調整する機構を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態における人転球内に備えられた動力源の駆動方向を説明するための図である。
【図9】(a)は、本発明の第2の実施の形態における因果軸及び位相配分スリブの構造を示す底面断面図であり、(b)は、その構造を示す斜視図である。
【図10】本発明に実施の形態おける最小正順位相差を説明するための図である。
【図11】本発明の実施の形態におけるn_(S)=5の場合のスキップ位相差を説明するための図である。」

3.図面について
全図を補正するものである。

上記1.及び2.において、下線部は請求人が補正箇所として示したものである。以上の本件補正により、本件出願についての審理の対象は、平成23年10月19日付け手続補正書における段落【0069】及び本件補正における上記手続補正により補正された明細書並びに本件補正により補正された特許請求の範囲及び図面となる。


第4 本件意見書

本件意見書の概要はつぎのとおりである。

【1】[理由1]について(特許法第36条第4項第1号)

「以下、本意見書に添付した参考図2?5を用いて、本願明細書において本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていることを申し述べます。

(3-1)動力源及び動力の伝達系統について
(イ)動力源について
まず、動力源には、本願明細書の段落0031に記載されているように、汎用されている電動回転機(駆動モーター)等を使用します。
この駆動モーターを駆動させるエネルギー源は、特に明細書中で特定していませんが、駆動モーターを駆動する一般的な電源が考えられます。その電源としては、例えば、蓄電池、水素発電機又は太陽光発電機等を使用できます。
駆動モーターを駆動させるために何らかの電源が必要であることは、当業者の技術常識のみならず一般常識として明らかであることから、特に明細書中に明記しなくても、本願発明を実施する上で特に障害にはならないと思料します。

(ロ)動力の伝達系統その1
参考図2は、本願の図3に示された本願発明の概念をよりわかりやすく視覚化した図です。
以下、参考図2を用いて、本願発明における加速推進装置のシステム概念と、動力伝達の経路、推進力発生の方法を簡明に説明します(なお、図中符号は、本願の図面と共通)。
参考図2では、本願発明の作用をわかりやすく説明するために構成を簡易化し、人転球(110)を構成している腰掛けジンバル(105)内に保持される回転子(101)と、斜軸(9)等の数がそれぞれ4個の場合において、本願発明の作動原理と動力伝達の系統について説明します。
参考図2-1に示すように、回転子(101)付の回転子軸(115)の両端が、腰掛けジンバル(105)によって保持されており、回転子軸(115)は略π/4の交叉角で接する斜めギヤを介して駆動モーター(150)の回転に従い回転子(101)に第3の回転を与えます。
また、交点(8)(回転子の中心軸と斜軸(9)の交叉する点であり、かつ回転子の重心)にある回転子(101)が、中央回転軸(1)に直交して、かつ中央回転軸(1)の外側に向かって右ネジ方向に第3の回転を行っています(図右側、点(8)における回転子(101)を指している)。
公転盤(地動輪)(123,120,13)が天開輪(130)の中に内包されて、天地軸(134)(135)を介して、駆動モーター(153)(153’)により、第1の回転が中央回転軸(1)のまわりに与えられます。
図の上方に向かって、右ネジ方向に第1の回転が行われます。
公転盤(120)が回転することにより、その公転盤(120)が支持する回転子(101)の回転子軸(4)の周囲に位置を遷移させた第1の回転が発生し、回転子(101)の第3の回転に作用します。
従って、歳差運動が点(8)を貫く水平軸(6)(本願の図1)のまわりに発生する。
この歳差能は、水平軸(6)を固定軸とした回転によるものであり、水平軸(6)を回転軸にして、構成体(100)の重心(中心、10)を回転させて動かします。
その移動距離hは、点(8)と点(10)の距離RGと、発生した角運動量(7)が持つに至るモーメントの角速度ω8によって(微小時間内であれば)次にように決定されます。

h≒R・sinω_(8) ・・・(式2)

(ハ)動力伝達系統その2
上記参考図2-1の点(8)にある回転子の位相が、極大歳差能(7)を発生するので
、各水平軸(6)(41)(6’)(41’)に同量の歳差能を同時に発生させる場合は、作用する力が相殺されることにより、外力として取り出すことができません。
従って、点(8)、点(15)、点(8’)、点(15’)に順番に極大歳差能を発生するよう回転子(101)の傾きを与えれば(つまり、回転子(101)にその個数に見合う位相差が割り振られれば)、半径RGの円周上を周回する1個の作用点から重心(10)が上方に少しずつ持ち上げられます。
この位相差を割り振るための補助入力を斜軸に回転(第2の回転)を入力させることによって、支持枠(105)とともに、第3の回転をしている回転子(101)に、捻じれて振れる「捻転」を与えています。
参考図2-1において、駆動モーター(151)を駆動回転させて、中央回転軸(1)と一致する輪廻軸(119)を回転させて、主内動分配ギヤ(118)、斜交ギヤ(116)を介して斜軸(9,21,9’,21’)を同速度で回転させます。
そうすることにより、点(8)に示す回転子の位相は順に、点(15)、点(8’)、点(15’)に示す位相をとります。
位相を斜軸の1回転により1周回するように割り振れば、第2の回転の回転速度が速ければ速いほど、(式2)のh(重心の移動距離)は細分化されてなめらかとなり、直線に近い螺旋状の軌跡を描いて移動することになります。
このように、歳差能の作用を巧妙に組み合わせて、構成体内部で駆動による反力を処理することにより、加速推進装置本体に略並進加速力与えることに成功しています。

(3-2)反力は如何に処理しているかについて
(駆動による反力、伝達力による反力の処理方法)

(イ)第1の回転の反力
公転用駆動モーター(153)ないし(153’)が作動して、天地軸(137)(138)を回転させるとき、一体化した全体質量Mjの地動輪(120)(123)を回転させるので、反動力により地動輪(120)(123)の包含体(天開輪)(130)は公転と逆向きに回転します。
これは、天開輪(130)全体の質量MtをMjより比率で大きい重量を分配しあうことと、天開輪(130)の慣性モーメントItを大きくする(≒回転半径を大きくする)ことにより、構成体の反公転速度を相対的に小さくすることができます。
すなわち、公転(第1の回転)の駆動反力は同芯の天開輪(130)の反転によってつり合っています。

(ロ)第3の回転の反力の処理
回転子(101’)の駆動モーター(150)が回転すると、支持枠(105)と人転球補強仕切り板が材の強度で回転反力を吸収しています。
本願の図3に表示した如く、駆動モーターの芯は斜軸(9等)と直交しており、人転球(110a)に係る第3の回転の反力は、斜軸(9等)に直交する回転力として、斜軸(9等)を保持している軸受の剪断力となって作用します。よって、斜軸(9等)と軸受け部及び人転球を構成する材料の強度によって第3の回転の反力を支えています。

(ハ)第2の回転の反力の処理
駆動モーター(151)が作動すると、輪廻軸(119)が回転し、略π/4の交叉角をもつ伝達ギヤを介して斜軸(9)(21)(22)と、斜軸(9)(21)(22)に連結している人転球(110a)(110b)(110c)複数個を動かすので、その質量と慣性モーメントに応じた反力(反回転)が地動輪(120)(123)に生じます。
この反力(反回転)が、(イ)で述べた第1の回転に対して増幅又は減衰の影響を与えます。
この反力を予め想定して第1の回転の駆動をさせるか、あるいは輪廻軸(119)又は斜軸(9)(21)(22)を横(公転面と平行かつ中央回転軸(1)に直交)方向から別の斜交ギヤを介すなど複数の駆動モーターを中央回転軸(1)に関して対称に配置する方法を選択すれば、地動輪(120)(123)の中心に対称な捻じれが発生することによって、駆動の反力を地動輪(120)(123)を構成する部材の応力に託する方法を選んだことになり、公転の角運動量に影響を与えないようにすることができます。
このとき、地動輪(120)(123)の応力は、地動輪(120)(123)と天開輪(130)をつなぐ共通軸である天地軸(134)(135)とその軸受に作用します。
天地軸(134)(135)とその軸受については、その応力に耐えうる強度をもつ部材を選定して第2の回転の駆動反力を吸収します。
次いで、斜軸(9)(21)(22)の回転によって、人転球(110a)(110b)(110c)内の回転子(101)と回転子軸(115)に捻じれ回転による遠心力によって、回転子軸(115)に直交する捻じれが生じます。
前述と同様にして、回転子軸(115)とその軸受、人転球(110a)(110b)(110c)を構成する部材と、斜軸(9)(21)(22)と、その軸受の材料が、内部応力として、第2の回転の反力を支えています。
このように、歳差能は、原理的に逆方向に反力回転を生じないため、力学的観点から外界に反力を及ぼさない、つまり媒介物を必要としない推進方式を実現することができます。

(ニ)動力の伝達方式について
また、上記参考図2-1の他に、参考図2-2に示されるように、回転子(101)を駆動するのに駆動モーター(150)を省略する方式も考えられます。
この場合、動力の電源につなぐ導線を人転球(110a)(110b)(110c)に配ることが不要となるので、因果軸通電端子(111)の経由を必要としなくなります。
前述の参考図2-1の場合では、第2の回転は、斜軸(9)(21)(22)が両端回転することにより行われます。
それに対して参考図2-2の場合では、駆動側の斜軸(9)のみが第2の回転をして、他端の斜軸は固定しています。
人転球は、固定軸のまわりに回転することにより、固定ギヤの周囲を第2の回転によって、点(8)を中心に旋回する回転子軸(115)に固定されて周回する斜めギヤによって回転子が回転しながら捻転を行います。
固定ギヤのまわりを摺動する斜めギヤのギヤ比を変えることで、第2の回転に対する第3の回転の回転比率を変えることもできます。
この参考図2-2に示す構成のごとく、動力の伝達経路と、第3の回転の回転比率を変えることもできます。
以上のように参考図2-2を用いて説明した如く、拒絶理由通知書において問われている本願発明における動力の伝達経路、反力の処理の方式、精密度、蓄電池の場所、導線の有無、又は重量の大小などは、当業者であれば技術常識上様々な方式を選択できると考えられるので、それらを特定する必要はないと思料します。

(3-3)推進加速力がどのように発生するか。
(イ)視覚的説明
上記参考図2-1を用いて説明した通り、歳差能が回転子(101)に発生するしくみと、その効果によって、重心(10)が、回転子(101)を中心に軸(6)まわりに振り回される現象を了解した上で、参考図3,4によって、中央回転軸(1)に沿って推力(加速、減速力)が発生する様子を視覚化して説明します。
参考図5は、構成体(100)の斜視図です。
参考図4(イ)は、参考図3の示す水平断面図を真横から見た断面であり、水平に静止した状態を示す図です。
この参考図4(イ)の状態においては、参考図3の点(8)に描かれた位相にある回転子(101)が高速で第3の回転をしています。
このときの参考図3に示す回転子の位相を0(=2π)とし、点(8)における第2の回転の回転の基準点とします。
参考図4(ロ)は、(イ)での第3の回転に第1の回転を作用させた結果、水平軸(6)に歳差能が発生し、重心(10)がhだけ持ち上がったところを示しています。
そのとき、すでに第2の回転はπ/2進行しているので、回転子の点(8)に示す位相は、点(15)に遷移しており、第1の回転と作用して、水平軸(41)に歳差能が発生しています。
参考図4(ハ)は、(ロ)において、水平軸(41)に発生した歳差能が重心をさらにhだけ持ち上げたところを象徴しています。
このとき、すでに第2の回転はπ進行しているので、回転子の点(8)に示す位相は、点(8’)に遷移しており、第1の回転と作用して、水平軸(8’)に歳差能が発生しています。
参考図4(ニ)は、(ハ)において水平軸(8’)に発生した歳差能が重心をさらにhだけ持ち上がったところを示しています。
このとき、すでに第2の回転は3π/2進行しているので、回転子の点(8)に示す位相は、点(15’)に遷移しており、第1の回転と作用して、水平軸(41’)に歳差能が発生しています。
参考図4(ホ)は、(ニ)において水平軸(41’)に発生した歳差能が重心をさらにhだけ持ち上がったところを示しています。
このとき、すでに第2の回転は2π進行しているので、回転子の点(8)に示す位相は、再度点(8)に周回遷移しており、第1の回転と作用して、水平軸(6)に歳差能が発生しています。
以上のように、第2の回転に同期して、発生する歳差能は、重心の回りを周回しながら加速推進装置の重心を絶え間なく持ち上げていく方向に作用します。

(3-4)入力と出力の基本的関係
次に、数式を用いて、本願発明における加速推進装置がどのようにして移動するかについて説明します。

(イ)参考図4に示す(イ)?(ホ)の行程について
重心の移動距離 :L
第2の回転の回転数 :n_(2) 単位時間の重心の速度 :h
時間 :t
とすれば、
L=4h・n_(2)・t ・・・・・(式3)
となります。

地上での物体の落下距離:l
地上の重力加速度 :g
とすれば、
l=(1/2)・gt^(2) ・・・・・(式4)
となります。

従って、(式3),(式4)より下記の条件を満たせば地上での飛翔可能となります。
4h・n_(2)>(1/2)・gt ・・・・・(式5)
仮に、(式5)の条件を満たさない出力状態であっても、宇宙空間等、極小重力空間内では、加速推進の機能は有効的に発揮できて利用可能であることを示しています。

(ロ)回転子(101)の中心(8)を通る水平軸(6)に発生する歳差モーメント(角運動量)の大きさ

歳差運動によって発生する角運動量(ベクトル)をJ_(rR)、
第3の回転による回転子(101)の角運動量(ベクトル)をJ_(r)、
第1の回転による回転子(101)の角運動量(ベクトル)をJ_(R)
とおくと、上申書中、「3.運動量保存則について」により、
J_(rR)=J_(r)×J_(R)
J_(r)=mrv
J_(R)=rR・vV
∴J_(rR)=rR/vV
=mr^(2)R^(2)ωΩ ・・・・・(式6)
となります。

J_(rR)で表す角運動量が【図2-1】の点(8)に発生して水平軸(6)を固定軸とし
た、歳差モーメントがωGの角速度で重心(10)を回転させます。
よって、
∴J_(rR)=(I_(G)+MR_(G)^(2))×ω_(G) ・・・・・(式7)
となり、上記(式7)の意味は、点(8)で軸(6)に発生する歳差モーメント(7)が、構成体(100)の重心(10)を角速度ωGで回転させることが示されています。
(式7)においてのIGは、構成体(100)のもつ固有の慣性モーメント(回転質量)であり、重心G(10)を通る水平軸(24)を芯にして回転する場合に求められる固有量です。このIGは、現実の形状寸法と構成体の総質量Mとの積等から決定されます。
本願の図2,3の形状の場合
I_(G)≒(2/10)・MR_(G)^(2) を推定値にとれば、(式7)は、
J_(rR)=1.2MR_(G)^(2)・ω_(G) ・・・・・(式7’)
となり、(式6)に代入すると、
mr^(2)R^(2)ωΩ=(12/10)・MR_(G)^(2)・ω_(G) ・・・・・(式8)
となります。

∴ω_(G)=(10/12)・(m/M)・(r^(2)R^(2)/R^(G))・ωΩ ・・・・・(式9)

上記(式9)は、重心(10)の回転する角速度ω_(G)は第3の回転の角速度と第1の回転の角速度との積ω×Ωに比例することを示しています。
(Ω:第1の回転の角速度)
すなわち、構成体(100)に与えられる並進加速力G10は、重心G(10)を回転させる点(8)に発生する歳差能の一要素である角速度ω_(G)の大きさに比例します。

次に、参考図4におけるhについて説明します。
微小時間に重心の移動する距離hを4n回繰り返すことが並進加速度G_(10)に等しくなるとみなすと、
G_(10)=h_(1)+h_(2)+h_(3)+・・・+h_(n)
が単位時間での並進加速力となります。よって、
G_(10)=4n_(2)・h
この式に(式2)を適用すると、
∴G_(10)=4n_(2)R_(G)・sinω_(G) ・・・・・(式10)

上記(式10)は、中央回転軸(1)に沿って発生する並進加速力G_(10)は回転子(101)に発生する歳差能(7)の角速度ω_(G)と斜軸による第2の回転数n2に比例することを示しています。
しかるに、n_(2)とsinω_(G)との積は、原理上、一定となっているので、n_(2)を変動させても並進加速力G_(10)は一定不変となっています。

(ハ)まとめ
第1の回転の回転数と第3の回転の回転数との積に比例して、構成体の重心回転の回転速度が速くなり、重心が回転することにより描かれる円弧の軌跡も長くなります。
(式6)より、第2の回転によって、重心の描く円弧(移動長さ=R・ω_(G))が微分されながら中央回転軸に沿って、同時に積分していくことにより、並進加速力に変化させていきます。
この点が、本願発明における加速推進装置の主な技術的特徴の1つとなっています。」


【2】[理由2]について(特許法第36条第6項第2号)

「拒絶理由通知書の「理由2」の項では、具体的に次の4点について指摘されています。
(理由2.1) 「第2の回転」及び「第2の回転において互いに位相差を有している」ことが必要。
(理由2.2) 「第1の回転」と「第3の回転」との回転方向及び回転速度の関係を明確にすべき。
(理由2.3) 「第1の回転」、「第3の回転」、「第2の回転」及び第2の回転の「位相差」の相互の回転方向及び回転速度の関係を明確にすべき。
(理由2.4) 動力原及びエネルギー源についての事項の記載が必要。
本意見書と同時に提出した手続補正書にて本願の特許請求の範囲の補正をしたことにより、上記理由2の各点は解消したものと思料致します。
具体的には、補正後の請求項1に係る加速推進装置おいては、第1,第3の回転に加え、第2の回転の作用及び位相差を記載するとともに、第1?第3の各回転の回転軸である中央回転軸、斜軸、回転子軸の方向を明確に記載しました。
また、第1?第3の各回転速度のうち、本願発明の課題を解決するために必要なものは明確に記載しました。反対に、当業者が実施するうえで技術常識上明らかであって、特に課題解決に不要なものは、特に記載しませんでした。
その他、動力源及びエネルギー源についても、前述の3-1.(イ)で申し述べたように、当業者が実施するうえで技術常識上明らかであるので、本願発明における加速推進装置が動力源を有するという点のみを記載しました。
なお、手続補正書における補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内において、特許請求の範囲を補正し、対応する明細書の記載も併せて補正致しました。
例えば、請求項1の「前記回転子の回転軸であって、前記中央回転軸に向かって直交する向きから平行になる向きに沿って構成される各回転子軸と、」は、図8及び本願明細書の段落0026の「因果軸106,109回りの人転球110a?110cの回転によって、回転子101の回転軸(回転子軸115)が強制旋回させられる・・・」等に基づいて補正をしました。
また、本願発明の技術的特徴が誤って判断されるおそれのある記載を削除しました。
その箇所は、本願明細書の段落0062?0066及び図11?13です。
以上の通り、特許請求の範囲について補正をしたので、特許請求の範囲における記載内容は明確になり、理由2(特許法第36条第6項第2号)は解消したものと思料致します。」


第5 当審の判断

そこで、本件補正により補正された明細書及び特許請求の範囲の記載に基づいて、当審拒絶理由で通知した拒絶の理由が解消しているかどうかについて以下に判断する。

1.当審拒絶理由の[理由1]について(特許法第36条第4項第1号)

(1)拒絶理由【1】「1.」について

(ア)上記第3の1.及び2.のとおり、本件補正により明細書及び特許請求の範囲は補正された。また、審判請求人は、本件意見書において上記第4の【1】の「(3-1)」のとおり、動力源及び動力の伝達系統について説明している。
しかしながら、モータ等のそれぞれの動力源150,151,153による動力は、どのような各種の部材を駆動し、最終的に、加速推進装置100全体を天地軸134,135(中央回転軸)方向に浮揚しながら進行又は後退するようになるのか、依然として、不明又は不明確である。

(イ)また、本件補正には、「反力」対策に関する事項についての格別の補正はなされていない。また、審判請求人は、本件意見書において上記第4の【1】の「(3-2)」のとおり、反力は如何に処理しているかについて説明しているが、第1の回転の反力((3-2)の(イ))、第3の回転の反力の処理((3-2)の(ロ))及び第2の回転の反力の処理((3-2)の(ハ))であり、加速推進装置100自体の重量や前記浮揚する方向の力、すなわち、鉛直方向に対する反力及び当該装置100自体の重量と当該装置100により発生する浮揚方向の加速推進力との関係で、当該加速推進力の方が勝ることとなる旨の説明はない。
このため、仮に、天地軸134,135方向(中央回転軸方向)に浮揚する方向の力が発生したとしても、加速推進装置100自体の重量や各種反力に打ち勝って、加速推進装置100全体が、中央回転軸方向への並進加速度を生成できることになるのか、依然として、不明又は不明確である。

(ウ)したがって、中央回転軸方向への並進加速度を生成し、加速、速度、移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく、移動手段として連続して機能する動力伝達経路は、依然として、不明又は不明確である。

(2)当審拒絶理由【1】「2.」について

(ア)本件補正には、加速推進装置100のモータ等のそれぞれの動力源150,151,153に、どのようなエネルギー源からどのような経路を経て入力されるのかの補正はなされていない。
また、審判請求人は、本件意見書において上記第4の【1】の「(3-1)(イ)」において、
「この駆動モーターを駆動させるエネルギー源は、特に明細書中で特定していませんが、駆動モーターを駆動する一般的な電源が考えられます。その電源としては、例えば、蓄電池、水素発電機又は太陽光発電機等を使用できます。
駆動モーターを駆動させるために何らかの電源が必要であることは、当業者の技術常識のみならず一般常識として明らかであることから、特に明細書中に明記しなくても、本願発明を実施する上で特に障害にはならないと思料します。」
と述べている。

(イ)しかしながら、加速推進装置100全体を天地軸134,135(中央回転軸)方向に浮揚しながら進行又は後退させるのには、本件出願時における技術では、エネルギー源はかなりのエネルギー容量が必要と考えられるので、その重量も当然のことながら大きくなるものと考えられる。
そうすると、「例えば、蓄電池、水素発電機又は太陽光発電機等」(上記第4の【1】の「(3-1)(イ)参照。)のようなエネルギー源を加速推進装置100に搭載した場合、加速推進装置100全体の重量がかなり大きくなり、加速推進装置100全体を天地軸134,135(中央回転軸)方向に浮揚しながら進行又は後退するようにできるのか、依然として、不明又は不明確となる。

(ウ)したがって、加速推進装置全体が、中央回転軸方向への並進加速度を生成し、加速、速度、移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく、移動手段として連続して機能するためのの加速推進装置に入力されるエネルギーのあるエネルギー源かどこに設置されどのようにエネルギーを入力しているのか、依然として、不明である。

(3)当審拒絶理由【1】「3.」について

(ア)本件補正には、「加速推進装置」の「加速」の意味が分かるような補正はなされていない。
また、審判請求人は、本件意見書において上記第4の【1】の「(3-3)(イ)」において、「加速推進装置」の意味の旨を説明している。

(イ)しかしながら、前記「加速」は、「加速」だけでなく「減速」も含むことは分かったが、物理学上の意味での「加速」のみならず、他の「定速度」、「ホバリング」若しくは「停止」も含まれているものなのか、依然として、「加速推進装置」の「加速」の意味が不明確である。

(4)当審拒絶理由【1】「4.」について

(ア)本件補正には、各軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連について理解できるような補正はなされていない。
また、審判請求人は、本件意見書において上記第4の【1】の「(3-3)(イ)」において、各軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連の旨について一応説明している。

(イ)しかしながら、天地軸134,135」(中央回転軸)、「因果軸106」(斜軸106)3つ(球体3つの場合)、「回転軸115」3つ(球体3つの場合)の3種の軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連が、どのように加速推進装置100全体に影響して、当該加速推進装置100全体が、中央回転軸方向への並進加速度を生成し、加速、速度、移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく、移動手段として連続して機能するのか、依然として、不明又は不明確である。

(5)まとめ(上記(1)ないし(4)の全体を通して)について

上記(1)ないし(4)を総合すると、本件補正により補正された明細書及び図面全般の記載からすると、本件発明の加速推進装置は、中央回転軸方向への並進加速度を生成し、加速、速度、移動方向又は移動範囲の制約を受けることなく、排気による大気汚染や運転騒音の被害を引き起こすことのない移動手段として機能することが可能となるものと認められるところ、どのような動力源により、どのような動力伝達経路を経て、加速推進装置全体がどのような動きをして、中央回転軸方向への並進加速度を生成し、加速、速度、移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく、移動手段として連続して機能するようになるのか、依然として、不明又は不明確であり、明細書において本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。


2.当審拒絶理由の[理由2]について(特許法第36条第6項第2号)

(1)当審拒絶理由【2】「2.」について

上記1.(4)のとおりであるので、請求項1において、本件発明の課題を達成するためには、各軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連についての事項は必要であると思われるが、依然として、請求項1にはこのような事項は記載されていない。
よって、請求項1の記載は明確でない。

(2)当審拒絶理由【2】「4.」について

上記1.(1)のとおりであるので、請求項1において、本件発明の課題を達成するためには、加速推進装置を駆動する動力源及びエネルギー源についての事項も必要であると思われるが、依然として、請求項1には、動力源の記載はあるもののその配置は不明であり、また、エネルギー源の記載はなく、このため、動力源と当該エネルギー源との相互の関連等の事項は記載されていない。
よって、請求項1の記載は明確でない。


3.提出資料について

審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書(方式)、回答書、上申書及び平成24年12月28日付け意見書のそれぞれに添付された資料を参酌しても、依然として上記各当審拒絶理由で指摘した点が解消するものではない。


第6 むすび

以上のとおり、本件意見書等における主張、及び技術常識を参酌しても、本件出願の明細書、特許請求の範囲及び図面は、本願請求項1ないし5に係る発明について、当業者が実施ができる程度に明確に記載されているものとはいえないので、本願は特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしてはいない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-19 
結審通知日 2013-05-07 
審決日 2013-05-21 
出願番号 特願2006-209933(P2006-209933)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (F03G)
P 1 8・ 536- WZ (F03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 茂夫  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 中川 隆司
柳田 利夫
発明の名称 加速推進装置  
代理人 橘 哲男  
代理人 藤本 正紀  

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