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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1289216
審判番号 不服2013-10212  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-04 
確定日 2014-06-26 
事件の表示 特願2007-254679「電池」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月23日出願公開、特開2009- 87655〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年9月28日の出願であって、平成24年8月21日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年2月27日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、同年6月4日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成24年11月2日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

「【請求項1】
少なくとも基材層と、金属薄層と、熱接着性樹脂層とが順に積層されたシート材で電池用発電要素を包み込み、電池用発電要素から正極及び負極を外部に引き出し、シート材の端部を気密に封止して収納する略扁平矩形状の電池体と、電池体の表面に設けられた樹脂成形部とを備えており、前記樹脂成形部が、紫外線硬化樹脂を形成後に紫外線照射により硬化させた樹脂層であり、前記シート材の端部が、電池用発電要素収納部側に折り曲げられており、前記樹脂成形部が、電池体の電池用発電要素収納部を取り囲む枠体部と、枠体部の対向する辺を電池体の扁平面に沿って結ぶリブ部とを一体成形した構造であり、前記樹脂成形部は、金型内に電池体を収納後に紫外線硬化樹脂を流し込み電池体の表面に紫外線硬化樹脂を所望の形状に形成した後、電池体の表面に所望の形状に形成された紫外線硬化樹脂に紫外線を照射することにより、電池体を高温状態に曝すことなく紫外線硬化樹脂を硬化させて成形することを特徴とする電池。」

3.引用刊行物の記載内容
(1)原査定の根拠となった平成24年8月21日付けの拒絶の理由において引用文献4として引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2006-114406号公報(以下「引用例1」という。)には、「シート材型電池の製造方法、シート材型電池及びシート材型単電池を組み合わせる組電池」(発明の名称)に関し、図面とともに次の技術事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものである。)。

ア.「【請求項4】
シート材で電池用発電要素を包み込み、電池用発電要素から両電極を外部に引き出し、シート材の端部を気密に封止して収納する略扁平矩形の電池体と、
電池体の矩形周辺に沿って気密封止端部を挟み込む枠体部と、枠体部の向かい合う辺を電池体の扁平面に沿って結ぶリブ部とを一体として樹脂成形により形成された補強材と、
を備えるシート材型電池。」

イ.「【0001】
本発明は、シート材で電池用発電要素を包み込み、電池用発電要素から両電極を外部に引き出し、シート材の端部を封止して形成されるシート材型電池の製造方法、シート材型電池及びシート材型単電池を組み合わせる組電池に関する。」

ウ.「【0020】
電池用発電要素14は、リチウムイオン電池として知られている発電構造を実現する要素で、活物質が塗布された2枚の電極体の間にセパレータをはさんで重ね合わせ、これをロール状に巻き、これに電解液を浸み込ませたものである。2枚の電極体のうち、一方の電極体はアルミニウム箔が下地材料で、その表面にコバルト酸リチウム等のリチウム含有複合化合物である活物質が塗布され、他方の電極体は銅箔が下地材料で、その上にリチウムイオンを吸蔵させた炭素材等の活物質が塗布される。セパレータは溶媒で可塑化されたポリマー電解質が用いられる。そして、電解液を注入して一方の電極体とセパレータと他方の電極体との間に浸み込ませることで、リチウムイオン電池の発電要素としての機能を発揮するようになる。電解液には、LiClO_(4)、LiPF_(6)等のリチウム塩を溶解した有機溶媒が用いられる。なお、2種類の電極体及びセパレータをロール状に巻く方法の他に、これらをシート状のまま積層する構成としてもよい。
【0021】
なお、電池用発電要素14は、一般的に熱に弱いので、以後の補強材形成工程においては、電池用発電要素14の部分に樹脂成形等の熱が余分に加わらないように配慮することが好ましい。また、耐熱セパレータ等を用いて、電池用発電要素14の耐熱性を向上させることもできる。
(・・・途中省略・・・)
【0024】
シート材ケース12は、ラミネートフィルム20を電池用発電要素14の外形に概略倣うような形状に成形したもので、具体的には1枚のラミネートフィルム20の素材を折り返して上下2つの面を有するシートのようにし、上面側のシートには電池用発電要素14の上面形状に倣うような凹面形状を成形し、下面側のシートには電池用発電要素14の下面形状に倣うような凹面形状を成形し、上面側のシートの周辺端部と下面側のシートの周辺端部とを向かい合わせ、その一対の凹面形状の間に電池用発電要素14を配置できるように合わせる。そして、合わせ目に適当な封止代を取って、外形を切断等により成形する。このようにして封止前のシート材ケース12を得ることができる。勿論、ラミネートフィルム20からなる複数のシートを適当な凹面形状と封止代を有するように成形し、それらを組み合わせて、シート材ケース12とすることもできる。
【0025】
すなわち、シート材ケース12は、その中央部に、一対の凹部を向かい合わせ、外形でいえば一対の凸部となるふくらみ部11を有し、そのふくらみ部11の周辺にラミネートフィルム20の上下シートが向かい合う鍔部13を有する外形を備える。このふくらみ部11の内部空間が電池用発電要素14の収納空間となり、鍔部13がラミネートフィルム20の上面側シートと下面側シートとを互いに接着して気密封止する部分となり、ふくらみ部11が扁平面となる。そして、鍔部13には、気密封止用の接着材28が配置される。
【0026】
ラミネートフィルム20は、図3に示すように、表面保護用のプラスチックフィルム22と、ガスバリア層として金属箔24と、内部保護用のプラスチックフィルム26を3層に積層したものである。具体的には、約30μm厚さのポリプロピレンフィルムと、約60μm厚さのアルミニウム箔と、約15μm厚さのナイロンフィルムを密着積層したものを用いることができる。ここで、ポリプロピレンフィルム層は表面保護用のプラスチックフィルム22としてシート材ケース12の外表面側となり、ナイロンフィルムは内部保護用のプラスチックフィルム26として電池用発電要素14側となるように配置される。
【0027】
ラミネートフィルム20のナイロンフィルム側には、さらに熱溶着性の接着材28の層が設けられる。具体的には、厚さ約30μmのポリプロピレンを用いることができる。この厚みのポリプロピレンは、例えば、220℃、50atmの高温高圧を印加することで、数秒程度で溶融し、2つのプラスチックの間に挟んで溶融させることで、この2つのプラスチックと一体となって強固に接着することができる。接着材28は、ラミネートフィルム20の全面に渡って設けてもよいが、少なくともシート材ケース12の周辺の端部において気密封止を行うラミネートフィルム20の合わせ目に設けられる。すなわち、シート材ケース12の鍔部13にそって、周辺ぐるりに、内部保護用プラスチックフィルム26であるナイロンフィルムの表面に、接着材28が配置される。」

エ.「【0030】
補強材30は、後述するように、いわゆるインサートモールドの技術を用い、電池用発電要素14等を含むシート材ケース12と一体となるように樹脂成形されるものである。図4は、シート材ケース12を省略して補強材30のみを抜き出し、部分斜視図で示したものである。このように、補強材30は、シート材ケース12の鍔部13に沿い、その部分を補強する枠形状の枠体部32と、枠体部32の向かい合う辺を接続し、シート材ケース12の上下のふくらみ部11、すなわち上下扁平面をそれぞれ補強する複数のリブ部34とから構成される樹脂成形部材である。補強材30の材質としては、ガラス繊維で強化されたポリプロピレン等を用いることができる。」

オ.「【0039】
再び図5に戻り、補強材30の樹脂成形と、加圧寸法成形が行われる(S20)。具体的には、凹部50の金型内壁によってふくらみ部11等が加圧され、凹部寸法で定まる外形寸法に扁平面が規制され、その状態で、金型40の樹脂注入口から溶融樹脂が注入され、加圧されて、キャビティ52に流れ込む。溶融樹脂も加圧されているので、凹部50の金型内壁によって規制されていないふくらみ部11等も、この加圧溶融樹脂により押し付けられ、余分なふくらみが規制される。そして、キャビティ内で架橋反応を進めることで、キャビティ52の枠体用キャビティ54に対応する部分は、電池体36の鍔部13を挟み込む枠体部32として樹脂成形が行われ、リブ用キャビティ56に対応する部分は、枠体部32の向かい合う辺を結ぶ上下複数のリブ部34として樹脂成形が行われる。
【0040】
この樹脂成形の樹脂注入量、加圧、温度等のシーケンスは、図示されていない射出成形装置における成形制御部の制御の下で実行される。樹脂は上記のように、ガラス繊維強化スチレン樹脂を用いることができる。その場合の成形条件は、一例を上げると、溶融樹脂温度を220℃、加圧を50atm、注入時間を5sec、注入時間も含めた加圧時間を15sec等とすることができる。」

カ.上記記載事項エ.とオ.より、補強材は、樹脂成形されたものであって電池体の表面に設けられるものであり、金型の内壁の形状にしたがって形成された後、硬化されたものであることがわかる。

(2)上記(1)のア.?カ.の記載事項を総合すれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「表面保護用のポリプロピレンフィルム22と、アルミニウム箔24と、内部保護用のナイロンフィルム26とが順に積層され、前記ナイロンフィルム26の全面に渡って熱溶着性の接着剤28の層が設けられたシート材によって電池用発電要素14を包み込み、電池用発電要素から両電極を外部に引き出し、シート材の端部を気密に封止して収納する略扁平矩形状の電池体と、該電池体の表面に設けられた樹脂成形の補強材とを備えており、前記樹脂成形の補強材が、ガラス繊維強化スチレン樹脂を形成後に硬化させた樹脂層であり、前記樹脂成形の補強材が、前記電池体の矩形周辺に沿って気密封止端部を挟み込む枠体部と、該枠体部の向かい合う辺を前記電池体の扁平面に沿って結ぶリブ部とを一体として樹脂成形により形成された構造であり、前記樹脂成形の補強材は、凹部50の金型内壁によってふくらみ部11が加圧され、凹部寸法で定まる外形寸法に扁平面が規制され、その状態で、前記金型40の樹脂注入口から溶融樹脂としての前記ガラス繊維強化スチレン樹脂が注入され、加圧されて、キャビティ52に流れ込み、樹脂成形される電池。」

4.対比
(1)本願発明と引用発明を対比する。
ア.本願明細書の段落【0018】の記載「シート材として、基材層ととアルミニウム等の金属箔からなるバリアー層と熱接着性樹脂層の3層ラミネートシート材について説明するが、基材層とバリヤー層間、バリヤー層と熱接着性樹脂層間に樹脂層を介在させることができる。」及び同段落【0025】の記載「ラミネートフィルム20は、図3に示すように、表面保護用のプラスチックフィルム22と、ガスバリア層として金属箔24と、内部保護用の熱接着性樹脂層26を3層に積層したものである。」によれば、本願発明の「基材層」とは、本願の図3に示された、表面保護用のプラスチックフィルム22に対応している。一方、引用発明の「ポリプロピレンフィルム22」も「表面保護層」として機能する層であるから、引用発明の「表面保護用のポリプロピレンフィルム22」は本願発明の「基材層」に相当する。また、引用発明の「アルミニウム箔」は本願発明の「金属箔層」に相当する。また、引用発明の「前記シート材の前記ナイロンフィルム26側の全面に渡って設けられた熱用着性の接着剤28の層」は、ポリプロピレンを用いることができるものである(段落【0027】参照)から、本願発明の「熱接着性樹脂層」に相当する。
そして、本願明細書の段落【0018】に「バリヤー層と熱接着性樹脂層間に樹脂層を介在させることができる。」と記載されていることも考慮すると、引用発明の「表面保護用のポリプロピレンフィルム22と、アルミニウム箔24と、内部保護用のナイロンフィルム26とが順に積層され、前記ナイロンフィルム26の全面に渡って熱溶着性の接着剤28の層が設けられたシート材」は、本願発明の「少なくとも基材層と、金属薄層と、熱接着性樹脂層とが順に積層されたシート材」に相当している。

イ.引用発明の「両電極」、「樹脂成形の補強材」は、それぞれ本願発明の「正極及び負極」、「樹脂成形部」に相当する。

ウ.引用発明の「前記樹脂成形の補強材が、前記電池体の矩形周辺に沿って気密封止端部を挟み込む枠体部と、該枠体部の向かい合う辺を前記電池体の扁平面に沿って結ぶリブ部とを一体として樹脂成形により形成された構造」は、本願発明の「前記樹脂成形部が、電池体の電池用発電要素収納部を取り囲む枠体部と、枠体部の対向する辺を電池体の扁平面に沿って結ぶリブ部とを一体成形した構造」に相当する。

(2)そうすると、本願発明と引用発明との一致点と相違点は次のとおりである。
《一致点》
「少なくとも基材層と、金属薄層と、熱接着性樹脂層とが順に積層された積層されたシート材で電池用発電要素を包み込み、電池用発電要素から正極及び負極を外部に引き出し、シート材の端部を気密に封止して収納する略扁平矩形状の電池体と、電池体の表面に設けられた樹脂成形部とを備えており、前記樹脂成形部が、電池体の電池用発電要素収納部を取り囲む枠体部と、枠体部の対向する辺を電池体の扁平面に沿って結ぶリブ部とを一体成形した構造である電池。」

《相違点》
《相違点1》
本願発明の「シート材」はその「端部」が「電池用発電要素収納部側に折り曲げられて」いるのに対して、引用発明の「シート材」の端部を折り曲げる点について特定されていない点。
《相違点2》
本願発明の「樹脂成形部」が、「紫外線硬化樹脂を形成後に紫外線照射により硬化させた樹脂層であり」、また、「金型内に電池体を収納後に紫外線硬化樹脂を流し込み電池体の表面に紫外線硬化樹脂を所望の形状に形成した後、電池体の表面に所望の形状に形成された紫外線硬化樹脂に紫外線を照射することにより、電池体を高温状態に曝すことなく紫外線硬化樹脂を硬化させて成形する」ものであるのに対して、引用発明の「樹脂成形の補強材」は、「ガラス繊維強化スチレン樹脂を形成後に硬化させた樹脂層であり」、また、「凹部50の金型内壁によってふくらみ部11等が加圧され、凹部寸法で定まる外形寸法に扁平面が規制され、その状態で、金型40の樹脂注入口から溶融樹脂としてのガラス繊維強化スチレン樹脂が注入され、加圧されて、キャビティ52に流れ込み、樹脂成形される」ものである点。

5.当審の判断
(1)相違点1について
引用発明のシート材は、熱溶着性の接着剤28によって、その端部を気密に封止しているのみであり、上記端部を折り曲げることについては、引用例1に記載がない。
しかしながら、リチウム電池には、その外形寸法を小さくしたり、金属容器に比べて強度に劣るラミネートフィルムの強度を向上するとう課題があり、当該課題解決のために、リチウム電池の外装部の端部を折り曲げることは、いずれも本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、次の周知例1、2に記載されているように、当業者にとって周知の事項である。

・周知例1:特開2000-48781号公報
ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、発電要素を非ガス透過性フィルム部材よりなる外被包材に収納し、周辺部を熱融着などにより封口密封した偏平薄型電池に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、各種電子機器のポータブル化に伴い、その電源として種々の新しい電池が望まれるようになってきている。この結果、ニッケル水素電池、リチウム電池等が新しく開発された。しかし、需要が大きいのは、新しい電池系の実用化だけではなく、新規で使い勝手や機能性に優れた電池の形状についての改良も強く求められている。従来の電池、特に金属ケースを使用している電池では円筒形状が標準的な形状であった。これは気密封口が可能であり、かつ、生産性に優れているからである。また近年、電子機器尚に収納した際のスペース効率を高めるために外観形状が直方体形状、もしくは各部が丸められた直方体形状であるような角型電池が実用化されてきた。しかし、この電池形状は気密封口が容易である反面、非常に生産性が低く、電池コストが高くつくという問題があった。また、ある程度以下に薄型化した容器を得ることは技術的に非常に困難であった。また、これら小型二次電池に使用される容器は負極端子を兼ねる金属容器で形成されるため、材料コスト、製造コストが割高になるのは避けられない。そこで、安価で、より薄い小型電池を提供する手段としてハードケースではなく、発電要素をポリエチレンシートやアルミシートをラミネートし非ガス透過性を持たせた軟らかいフィルム部材よりなる袋状外被包材に収納し、周辺部を熱融着などにより封口密閉したものが提案されている。このような電池としては実開昭60-162362号公報に開示されているように、平板状極板群を内側から感熱性接着層、アルミ箔および高分子フィルムからなるラミネートフィルムで封止し、ラミネートフィルムの感熱層にリード体となる金属蒸着膜を形成し、金属の蒸着膜の一端を電極棒に接触させて発電要素をラミネートフィルムで封止したものや、特開昭61-206157号公報に開示されているように、平板状極板群をチューブ状のラミネートフィルム部材に挿入した後、両端部を熱融着して密閉したものなどがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、これまで偏平薄型電池における最大の問題の一つである電子機器との端子接続をどのような方式にするかということについては、ほとんど検討されたことが無く、単に端子部を周辺部へ熱融着して外部へ導出したものを外部回路へ接続したり、外被包材に開口部を設け、この開口部内に正負極の各端子を熱融着したものが用いられていただけである。また、外被包材を用いた非水電解液偏平薄型電池においてはガス透過性が問題となる。高分子材料による融着層は完全に封止を行ったとしてもごく微量のガス透過性を有している。特に水分はリチウムもしくはリチウム化合物からなる負極に作用を及ぼし、性能劣化の原因となっている。特開昭62-61268号公報や特開平9-383101号公報では集電体と電気的に接続した導電材料からなる端子を外被包材同士の周辺部で挟み、該周辺部を熱融着によって密封する際にリード封止部からの漏れを防止する必要上、リード表面のヒートシール部に熱融着フィルムを別途設ける工夫をしている。しかし、これらは端子の導出部に関してだけの工夫であり、また、リード部上への加工が必要となりコストの上昇とタクト効率の低下をもたらすことが明らかである。また、周辺部の熱融着の幅を大きくすることによって、水分の進入が低下することは知られているが、実際には20mm、15mmというレトルト食品にも用いられるようなシール幅を用いると、電池要素とは別の部分での面積が大きくなり、電池のエネルギー密度が小さくなっていた。もう一つの偏平薄型電池の問題点は外被包材が剛性を持たず、折り曲げなどの負荷に対して非常に弱く、ショートやそれによる破裂などの事故の恐れがあるため消費者が直接電池の出し入れをしないということが原則となっている。本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、前記従来技術の問題点を解消し、周辺部から外被包材内部への水分の進入を十分に押さえ、これにより封口部の占める面積、シール幅をできるだけ小さくして電池のエネルギー密度を増加させ、さらに周辺部の強度と電池折り曲げ強度を上昇させた高信頼性偏平薄型電池を提供することを目的とする。」

イ.「【0005】
【発明の実施の形態】以下に本発明を詳細に説明する。図14は本発明の前提となる外被包材に収納された扁平薄型電池の要部斜視図であり、この偏平薄型電池は、シート状の外被包材1を用いて正極2、セパレータ3、負極4を積層した電池部材5を収納し、外被包材の周辺部6同士を熱融着もしくは接着によって密封したものである。符号9、10は該電池部材5の正負極集電体である。外被包材1は、例えば2枚のシート状包材を重ねて周辺部6同士を封止してもよいし、1枚の外被包材を2つに折って周辺部を封止したものであってもよい。また、予め袋状に構成された外被包材であってもよい。本発明者らは前述の課題について検討し、図14に示した偏平薄型電池において、図1のように重ねて密封された周辺部6を折り曲げ処理7することにより、周辺部6の封口部からの内部への水分の進入がほとんど無くなり該周辺部の面積を大幅に小さくすることができ、電池を高エネルギー密度化することができることを見出した。さらに、折れ曲がりやすく電池要素5への損傷を受けやすい偏平薄型電池を、本発明のように周辺部6を折り曲げた形状とすることによって、折り曲げ方向への外力に対する強度を増して高い信頼性を有する偏平薄型電池とすることができた。なお、本発明は図14のような周辺部から端子を導出する形態の端子を有するもの限定されるものではなく、端子の導出形態としては種々のものを適用することができる。要するに、本形態例では、熱融着等により密封されることにより広いシール面積となった周辺部6を少なくとも一回以上折り曲げることにより、密封された部分の面積を減縮するとともに、水密性を高めた点が特徴的である。」

・周知例2:特開2000-138040号公報
ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ラミネートフィルムからなる外装材に電池素子を収容してなる非水電解質電池に関するものであり、特に、外装材の熱溶着された部分が折り畳まれた非水電解質電池に関する。」

イ.「【0006】
【発明が解決しようとする課題】上述したような外装材で電池素子をパッケージングする構造の非水電解質電池は、電池素子を収納する際に外装材の周縁部分が熱溶着により密封される。この外装材を熱溶着する部分は、非水電解質電池の耐水性等との関係から必要であり、少なくとも5mm程度の幅をもって熱溶着される。
【0007】このように、非水電解質電池は、電池素子の大きさ以外に熱溶着された外装材の部分を含めた大きさが電池全体の大きさとなる。このため、非水電解質電池においては、外形サイズの小型化、特に平面方向からの電子機器内における投影面積の縮小化が困難であった。
【0008】そこで、本発明は、携帯型の電子機器等内部での投影面積の縮小化が可能な非水電解質電池を提供することを目的とするものである。」

ウ.「【0030】外装材3は、図1及び図2に示すように、予め電池素子2の厚さ分の空間部6が深絞り成形され、この空間部6の一辺近傍を谷折りすることにより二つに折り畳まれる。折り畳まれた外装材3は、空間部6が略中央に深絞り成形された収納面3aと、この収納面3aと対向するようにして配されかつ電池素子2が収納される空間部6を閉塞する底面3bとにより構成される。
【0031】外装材3は、谷折り線と平行をなす一辺及び谷折り線と垂直をなす二辺が一定幅の熱溶着代で熱溶着されて密閉される。すなわち、外装材3においては、谷折りされた一辺以外の三辺が所定の幅をもって収納面3aと底面3bとの熱溶着層同士が互いに熱溶着される熱溶着部とされる。
【0032】非水電解質電池1は、図2に示すように、収納面3aと底面3bとが熱溶着される熱溶着部のうち、谷折り線と平行をなす一辺から負極端子リード4と正極端子リード5とが外方に引き出されている。また、非水電解質電池1は、谷折り線と垂直をなす二辺における熱溶着部であるサイド部7が底面3b側に折り畳まれて固定されている。非水電解質電池1は、熱溶着されたサイド部7が底面3b側に折り畳まれることにより、電子機器内での投影面積の縮小化を図ることができ、ひいては電子機器自体の小型化をも図ることができる。また、非水電解質電池1は、収納面3aと底面3bとが熱溶着されたサイド部7が折り畳まれることにより、従来に比して耐水性が向上する。
【0033】なお、サイド部7は、断面略V字状に折り返してもよく、また外装材3の材質により断面略V字状に折り返したのでは非水電解質電池1の外装材3に損傷のおそれがある場合は折り返し部分の損傷を防ぐため一定の曲率Rを設けて折り返してもよい。」

したがって、引用例1には、電池の外形寸法を小さくしたり、ラミネートフィルムの強度を向上するという上記課題について何ら記載が無いけれども、引用発明も、ラミネート構造のシート材の端部を融着するものである以上、引用発明に上記課題が存することは、当業者であれば直ちに察知し得たことであり、引用発明において、上記課題を解決する手段として、シート材の端部を折り曲げるようにすること、すなわち、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
引用例1の段落【0020】と【0021】に、「電池用発電要素14は、リチウムイオン電池として知られている発電構造を実現する要素で、活物質が塗布された2枚の電極体の間にセパレータをはさんで重ね合わせ、これをロール状に巻き、これに電解液を浸み込ませたものである。」及び「電池用発電要素14は、一般的に熱に弱い」との記載があるように、リチウム二次電池は、熱による影響をできる限り避けるべきものである。また、このことは、前審拒絶の理由に引用文献5として引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2006-294351号公報(以下「引用例2」という。)にも、フィルム外装電池の保護部材10に関して、充放電可能な電気デバイス要素への熱影響を避けるべく、紫外線硬化型の樹脂を使用したものが記載されており(段落【0022】【0029】等参照)、拒絶査定時に挙げられた、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2005-64208号公報(以下「周知例3」という。)にも、電気二重層キャパシタの電気絶縁性の封止部30に関するものではあるが、熱による電解質溶液の蒸発や変質等のダメージを避けるべく、紫外線硬化型の樹脂を使用したものが記載されている(段落【0036】【0063】等参照)。
このように、リチウムイオン電池等のフィルム外装電池の技術分野において、熱による影響を避けるべく、樹脂使用の箇所に紫外線硬化樹脂を採用することは周知の技術であって、引用発明において、補強材を成形するにあたり紫外線硬化樹脂を採用しようとすることに格別困難を伴うということはない。
ここで、引用発明において、「補強材」は、「凹部50の金型内壁によってふくらみ部11が加圧され、凹部寸法で定まる外形寸法に扁平面が規制され、その状態で金型40の樹脂注入口から溶融樹脂としてのガラス繊維強化スチレン樹脂が注入され、加圧されて、キャビティ52に流れ込み、樹脂成形される」ものであり、このような樹脂成形の際には、キャビティ内の樹脂は上下一対の金型40により完全に覆われた状態となる。
そして、上述のように、紫外線硬化樹脂を引用発明の補強材に採用した場合、上下一対の金型40をそのまま使用したとすれば、金型内の樹脂まで紫外線が到達せず、樹脂を硬化させることができないことは明らかである。そこで、金型に完全に覆われてしまう状態で紫外線硬化樹脂を用いて成形しようとすれば、そのときは、金型として紫外線の透過を許容する材料からなる金型を用意し、紫外線が金型を透過するように構成することが当然のことと考えられる。実際、いずれも本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2000-218634号公報(以下「周知例4」という。)や特開昭59-227131号公報(以下「周知例5」という。)には、紫外線硬化樹脂を用いて金型成形する場合に、紫外線を透過する金型を使用することについて記載がある。即ち、紫外線硬化樹脂による金型成形を行おうとすれば、それに付随して、その金型も紫外線を透過するものとすることは技術常識である。
そうであれば、引用発明において、「補強材」の成形材料として、「ガラス繊維強化スチレン樹脂」に代えて、熱による影響のない「紫外線硬化樹脂」を選定するとともに、その成形に際しては、紫外線を透過する金型を採用することによって、補強材を、「紫外線硬化樹脂を形成後に紫外線により硬化させた樹脂層」からなるものとし、また、「金型内に電池体を収納後に紫外線硬化樹脂を流し込み電池体の表面に紫外線硬化樹脂を所望の形状に形成した後、電池体の表面に所望の形状に形成された紫外線硬化樹脂に紫外線を照射することにより、電池体を高温状態に曝すことなく紫外線硬化樹脂を硬化させて成形する」ようにして、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者にとって容易になし得たことであるといえる。
そして、本願発明の効果も、引用発明及び周知の技術が有する効果の総和を超えるものではなく、当業者が予測し得た範囲内のものである。

したがって、本願発明は、周知例1?5に記載された周知の技術を勘案することにより、引用発明と、引用例2の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-24 
結審通知日 2014-04-30 
審決日 2014-05-14 
出願番号 特願2007-254679(P2007-254679)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 知絵  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 池渕 立
河本 充雄
発明の名称 電池  
代理人 後藤 直樹  
代理人 伊藤 英生  
代理人 深町 圭子  
代理人 立石 英之  
代理人 藤枡 裕実  
代理人 伊藤 裕介  

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