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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25B
管理番号 1289392
審判番号 不服2013-14463  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-26 
確定日 2014-07-02 
事件の表示 特願2010-515298号「液体冷却装置におけるR-1233の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月17日国際公開、WO2009/114398、平成22年 9月30日国内公表、特表2010-531970号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2009年3月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年3月7日、米国)を国際出願日とする特許出願であって、平成25年3月19日付け(発送:3月26日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年7月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年9月13日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
高い地球温暖化係数の冷媒および潤滑剤を含む種類の冷却装置システムに充填する方法であって、前記システム中に前記潤滑剤の実質的な部分を残しながら、前記冷却システム中の前記高い地球温暖化係数の冷媒の全てまたは一部を、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含むハロゲン化オレフィン組成物で置き換える工程を含む方法。」

3.引用刊行物とその記載事項
(1)原査定の拒絶理由において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特表2004-514107号公報(以下「刊行物1」という。)には、次の記載がある。(下線は当審にて付加、以下同じ。)

ア.「背景
クロロフルオロカーボン類(“CFC類”)、ヒドロクロロフルオロカーボン類(“HCFC類”)等のような塩素含有冷媒の空調装置および冷却装置中における冷媒としての使用は、このような化合物に関連したオゾン層破壊性のために嫌われるようになった。その結果、ヒドロフルオロカーボン類(“HFC類”)のようなオゾン層を破壊しない非塩素含有冷媒で塩素含有冷媒を置き換えることによって、塩素含有冷却システムを更新することが望ましくなった。」(段落【0001】)

イ.「【0006】
ある特定の態様によれば、本発明の方法は塩素含有冷媒および潤滑剤を含んでいる冷媒系を再装填することを含むもので、(a)冷却システムから塩素含有冷媒を、そのシステム中に潤滑剤の実質的部分を保持しながら除去し;そして(b)そのシステムに(i)冷媒;(ii)界面活性剤;および(iii)可溶化剤を含む組成物を導入する工程を含む。本発明で使用される用語「実質的な部分」とは、一般に、塩素含有冷媒の除去前に冷却システム中に含まれている潤滑剤の量の少なくとも約50%(重量)である潤滑剤量を意味する。本発明による冷却システム中の潤滑剤の実質的な部分は、冷却システム中に元々含まれる潤滑剤の少なくとも約60%の量であるのが好ましく、少なくとも約70%の量であるのがさらに好ましい。」(段落【0006】)

ウ.「【0026】
クロロジフルオロメタン(“R-22”)および鉱油を含む空調システムから、R-22を除去する。R-407C、Mobil EAL 22(37℃において32センチストークスの粘度を有するエステル系潤滑剤)およびBrij 97(C_(18)H_(35)(OCH_(2)CH_(2))_(n)OH;ここでnは約2である)の混合物を調製する。この混合物を上記空調システムに加える。このシステムは満足のいく様式で作動する。このシステムの容量は、R-407Cとエステル系潤滑剤との混合物を含むシステムの容量の10%以内である。これは、油の戻り問題がないことを示している。」(段落【0026】)

以上を総合すると、オゾン層破壊を防止するための発明として、刊行物1には次の発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

R-22および潤滑剤を含む種類の冷却システムに冷媒系を再装填する方法であって、前記システム中に前記潤滑剤の実質的な部分を保持しながら、前記冷却システム中のR-22を除去し、R-407Cを加える工程を含む方法。

(2)原査定の拒絶理由において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特表2001-500882号公報(以下「刊行物2」という。)には、次の記載がある。

エ.「 近年、一定のクロロフルオロカーボンが地球のオゾン層に有害であるという懸念が広がっている。その結果、より少ない塩素置換しか含有しないハロカーボンを用いるために世界的規模の努力がなされている。かくして、ハイドロフルオロカーボン、即ち、炭素、水素及びフッ素だけを含有する化合物の製造が、フルオロカーボン工業界では、益々大きな興味の対象となっており、溶剤、発泡剤、冷媒、清浄化剤、エアゾール噴射剤、熱伝達媒体、誘電体、消火剤組成物、及びパワー循環流体のような用途のための環境的に望ましい物質の開発に注目が集まっている。これに関して、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)はオゾン破壊の可能性を有さないハイドロフルオロカーボンなので、多くの上記用途におけるクロロフルオロカーボンの代替物と考えられている。1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233)は、冷媒、発泡剤として、並びにHFC-245fa及び他のフッ素化物質の製造における中間体として有用であるもう1つのハイドロカーボン代替物である。」(第4頁第12行?第24行、審決注:HCFC-1233の記載はHCFO-1233の誤記であることが明らかであるため「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233)」と認定した。)

オ.表1には生成される(使用される)冷媒が「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのトランス異性体」を主成分として含んでいることが記載されている(実施例1?4)。

(3)本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2007/109748号(以下「刊行物3」という。)には、次の記載がある。

カ.「Fluorocarbon based fluids have found widespread use in many commercial and industrial applications, including as aerosol propellants and as blowing agents. Because of certain suspected environmental problems, including the relatively high global warming potentials, associated with the use of some of the compositions that have heretofore been used in these applications, it has become increasingly desirable to use fluids having low or even zero ozone depletion potential, such as hydrofluorocarbons (HFCs). Thus, the use of fluids that do not contain substantial amounts of chlorofluorocarbons (CFCs) or hydrochlorofluorocarbons (HCFCs) is desirable. Furthermore, some HFC fluids may have relatively high global warming potentials associated therewith, and it is desirable to use hydrofluorocarbon or other fluorinated fluids having as low global warming potentials as possible while maintaining the desired performance in use properties. As suggested above, concern has been increasing in recent years about potential damage to the earth's atmosphere and climate, and certain chlorine-based compounds have been identified as particularly problematic in this regard. The use of chlorine-containing compositions (such as chlorofluorocarbons (CFCs), hydrochlorofluorocarbons (HCF's) and the like) in many applications has become disfavored because of the ozone-depleting properties associated with many of such compounds. There has thus been an increasing need for new fluorocarbon and hydrofluorocarbon compounds and compositions that are attractive alternatives to the compositions heretofore used in these and other applications. For example, it has become desirable to retrofit chlorine-containing systems, such as blowing agent systems or refrigeration systems, by replacing chlorine-containing compounds with non-chlorine-containing compounds that will not deplete the ozone layer, such as hydrofluorocarbons (HFC's). Industry in general is continually seeking new fluorocarbon based mixtures that offer alternatives to, and are considered environmentally safer substitutes for, CFCs and HCFCs. It is considered important in many cases, however, that any potential substitute must also possess those properties present in many of the most widely used fluids, such as imparting excellent thermal insulating properties and other desirable foam characteristics when used as blowing agents, such as appropriate chemical stability, low- or no- toxicity, low or no-flammability, among others.」(第1頁第17行?第2頁第22行)

当審訳:フルオロカーボン系流体は、エアロゾル噴射剤および発泡剤としての用途を含む多くの商業および工業の用途における広範な使用が見い出されている。これまでこれらの用途で使用されてきたいくつかの組成物の使用に付随する、比較的高い地球温暖化係数を含む、ある特定の懸念される環境問題の理由から、ヒドロフルオロカーボン類(「HFC類」)などの、低いかまたはまさに0のオゾン層破壊係数を有する流体を使用することがますます望ましくなっている。したがって、実質的な量のクロロフルオロカーボン類(「CFC類」)またはヒドロクロロフルオロカーボン類(「HCFC類」)を含まない流体を使用することが望ましい。さらに、一部のHFC流体は、それらに付随して比較的高い地球温暖化係数を有することがあり、使用時の特性において所望の性能を保持しながら、可能な限り低い地球温暖化係数を有するヒドロフルオロカーボンまたは他のフッ素化流体を使用することが望ましい。上記で示唆されたように、最近、地球の大気および気候に損害を与える可能性について関心が増大しており、ある種の塩素系化合物が、これに関して特に問題であると特定されている。多くの用途に塩素含有組成物(例えば、クロロフルオロカーボン類(CFC類)、ヒドロクロロフルオロカーボン類(HCFC類)等)を使用することは、多くのこのような化合物に付随するオゾン層破壊特性の理由で不利になっている。したがって、上記およびその他の用途にこれまで使用された組成物の魅力的な代替物である、新規なフルオロカーボンおよびヒドロフルオロカーボン化合物および組成物の増大する必要性が存在する。例えば、塩素含有化合物をヒドロフルオロカーボン類(HFC類)などの、オゾン層を激減させることのない塩素非含有化合物に置き換えることによって、発泡剤系または冷却系などの塩素含有系を改良することが望ましくなっている。産業界は、一般に、CFC類およびHCFC類に対する代替物を提供し、これらに代わって環境的に安全な代替物と考えられる新規なフルオロカーボン系混合物を継続的に探求している。しかし、多くの場合重要であると考えられることは、どんな潜在的代替物もまた、広範に使用されている大部分の流体に存在する、優れた断熱性、および発泡剤として使用される場合は、とりわけ適切な化学的安定性、低または無毒性、低または非燃焼性などの他の望ましい発泡体特性を付与するような特性を持たなければならないことである。

キ.「Among the propenes, tetrafluoropropenes (HFO-1234) and fluorochloroporpenes (such as trifluoro.monochloropropenes (HFCO-1233)), and even more preferably CF_( 3) CCI=CH_( 2 ) (HFO-1233xf) and CF_( 3 )CH=CHCI (HFO-1233zd)) are especially preferred in certain embodiments. 」(第8頁第25行?29行)

ある特定の実施形態では、テトラフルオロプロペン類(HFO-1234)およびフルオロクロロプロペン類(例えば、トリフルオロ、モノクロロプロペン類(HFCO-1233))、さらにより好ましくはCF_(3)CCl=CH_(2)(HFO-1233xf)およびCF_(3)CH=CHCl(HFO-1233zd))が特に好ましい。

ク.「In certain preferred embodiments, the compound of the present invention comprises a C3 or C4 HFCO, preferably a C3 HFCO, and more preferably a compound in accordance with Formula Il in which Y is CF _(3) , n is 0, at least one R on the unsaturated terminal carbon is H, and at least one of the remaining Rs is Cl. HFCO-1233 is an example of such a preferred compound.」(第13頁第7行?第12行)

ある特定の好ましい実施形態では、本発明の化合物は、C3またはC4のHFCO、好ましくはC3のHFCO、より好ましくは式IIに従う化合物(ここで、YはCF_(3)であり、nは0であり、不飽和末端炭素上の少なくとも1つのRはHであり、残りのRの少なくとも1つはClである)を含む。HFCO-1233はそのような好ましい化合物の一例である。

4.対比
本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると、刊行物1記載の発明の「冷却システム」は本願発明の「冷却装置システム」に相当し、以下同様に、「冷媒系を再装填する」は「充填する」、「保持しながら」は「残しながら」に、「除去し」「加える」は「置き換える」に、各々、相当する。

また、刊行物1記載の発明における「R-22」も本願発明における「高い地球温暖化係数の冷媒」も、ともに「被交換冷媒」といえ、同様に「R-407C」も「トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン」も「交換冷媒」といえる。

したがって、本願発明と刊行物1記載の発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
被交換冷媒および潤滑剤を含む種類の冷却装置システムに充填する方法であって、前記システム中に前記潤滑剤の実質的な部分を残しながら、前記冷却システム中の前記被交換冷媒の全てまたは一部を、交換冷媒で置き換える工程を含む方法。

(相違点1)
被交換冷媒が、本願発明では「高い地球温暖化係数の冷媒」であるのに対し、刊行物1記載の発明では「R-22」である点。

(相違点2)
交換冷媒が、本願発明では「トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン」であるのに対し、刊行物1記載の発明では「R-407C」である点。

5.判断

まず、各相違点の検討に先だって、本願優先日前の、冷媒規制の変遷についてみると、1)オゾン層破壊防止のためモントリオール議定書(1987年)で「先進国で、1996年までにCFC(R-11等)を全廃、2020年までにHCFC(R-22等)を全廃」する規制が、その後、2)地球温暖化回避のため京都議定書(1997年)で「CFC(R-11等)やHCFC(R-22等)の代替冷媒として開発された、オゾン破壊作用を持たないが、高い地球温暖化係数を持つ冷媒であるHFC(R-407C、HFC-245fa等)を削減」する規制が採決されている。

よって、本願優先日(2008年3月7日)前には、冷却装置システムに使用される冷媒として「オゾン破壊作用を持たず、かつ低い地球温暖化係数を持つ冷媒」が望ましいことは、当業者の技術常識であったものと認められる(例えば、摘記事項カ参照)。

(相違点1について)
HCFCの1種である「R-22」が、「オゾン層破壊係数(ODP)0.055、地球温暖化係数(GWP)1810」の冷媒」であることは、本願優先日前、当業者に周知の事項であり、「R-22」には、例えば、特開2000-146270号公報に記載されているように「現在主に使用されている冷媒のフレオン(R-22)は大気中のオゾン層を破壊する因子である塩素成分を含んでいるため、さらに、地球温暖化指数も大きいために大気中に放出できなくなっている。」(段落【0005】)との認識があった。

よって、本願優先日前の当業者の技術水準からみても、刊行物1記載の「R-22」は、「高い地球温暖化係数の冷媒」と言え、相違点1は実質的相違点ではない。

(相違点2について)
「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン」が、「オゾン破壊作用を持たず、かつ低い地球温暖化係数を持つ冷媒」であることは、例えば、刊行物3に好ましい実施例として記載されている(摘記事項キ、ク参照)ように、本願優先日前、当業者に周知の事項である。

よって、刊行物2に有用な代替物として記載された2種の冷媒の比較においても、HFCに属し「オゾン破壊作用を持たないが、高い地球温暖化係数を持つ冷媒」である「1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa:ODP 0、GWP1030)」と比べ、「オゾン破壊作用を持たず、かつ低い地球温暖化係数を持つ冷媒」である「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233)」が、より好ましい冷媒であることは、当業者が容易に理解できることである。

したがって、「オゾン破壊作用を持たず、かつ低い地球温暖化係数有する冷媒」が望ましいことを認識している当業者であれば、刊行物1記載の発明における「高い地球温暖化係数の冷媒」である「R-22」と置き換える冷媒として、オゾン破壊作用を持たないが、高い地球温暖化係数を持つ冷媒であるHFCに属する「R-407C」に代えて、オゾン破壊作用を持たず、かつ低い地球温暖化係数を持つ「トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン」を採用することは、刊行物2記載の技術手段に倣って、容易になし得た事項である。

そして、本願発明により得られる効果も、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術手段から、当業者であれば、予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。

6.結び
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-24 
結審通知日 2014-01-28 
審決日 2014-02-14 
出願番号 特願2010-515298(P2010-515298)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田々井 正吾  
特許庁審判長 竹之内 秀明
特許庁審判官 山崎 勝司
前田 仁
発明の名称 液体冷却装置におけるR-1233の使用  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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