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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1289551
審判番号 不服2013-14400  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-26 
確定日 2014-07-10 
事件の表示 特願2011-275560「物品の表面構造」拒絶査定不服審判事件〔平成25年2月7日出願公開、特開2013-28152〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年12月16日(優先権主張 平成23年6月24日)の出願であって、平成24年11月13日に手続補正書が提出され、平成25年1月30日付けで拒絶理由が通知され、同年3月29日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年6月25日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年7月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、同年11月27日付けで前置報告がなされ、それに基づいて当審で同年12月17日付けで審尋がなされ、平成26年2月20日に回答書が提出されたものである。



第2 本願発明

本願の請求項1?6に係る発明は、平成25年7月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書」という。)並びに図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「表面に凹凸を備えた樹脂からなる物品の表面構造において、物品の平滑な表面に人の肌が触れたときの肌と物品との接触面積に対する、物品の凹凸を有する表面に人の肌が触れたときの肌と物品との接触面積の割合が、35%?90%の範囲となることを特徴とする物品の表面構造。」



第3 原査定の拒絶理由の概要

原査定の拒絶理由の理由3及び4の概要は、請求項1に係る発明は、引用文献1(特開平5-92484号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、及び、請求項1に係る発明は、引用文献1(特開平5-92484号公報)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。



第4 当審の判断

1.刊行物:特開平5-92484号公報(平成25年1月30日付けの拒絶理由通知書における引用文献1。以下、単に「引用例」という。)

2.引用例の記載事項
本願優先日前に日本国内において頒布された引用例には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】 表面に、微細な凹凸層と平坦層とが混在したグロス-マット調賦型フィルムにより賦型されたことを特徴とする表面にグロス-マット調模様を有する成形体。
【請求項2】 微細な凹凸層は、凹凸の平均間隔が20?50μm、凹凸の平均表面粗さRaが0.7?2.0μm、および表面の60°グロス値が2.0以下である請求項1記載の表面にグロス-マット調模様を有する成形体。」(特許請求の範囲請求項1?2)

イ 「本発明は、表面に微細な凹凸模様と平坦面を混在させた意匠効果の高いグロス-マットを有する成形体を提供すること、さらに、成形体のグロス-マット表面の微細な凹凸部分を、しっとりとした、ヌメリ感のある、スエード調の表面とすることを目的とする。」(段落0006)

ウ 「前記した問題点を解決するために、本発明の成形体は、表面に、微細な凹凸層と平坦層とが混在したグロス-マット調賦型フィルムにより賦型された成形体とするものである。そして、前記微細な凹凸層は、凹凸の平均間隔が20?50μm、凹凸の平均表面粗さRaが0.7?2.0μm、および表面の60°グロス値が2.0以下とするものである。この凹凸層と平坦層を混在させた賦型フィルムを使用することによって、成形体の表面に付与されたグロス-マット調模様のマット部分の凹凸の触った感触は、しっとりとしたヌメリ感のある艶消し表面を得ることができる。この感触は、ツルツル、またはテカテカしたものではなく、それでいて、ザラザラした感じとは異なり、柔らかな、スエードのような滑らかさで、或種の高級感を漂わせるものである。」(段落0007)

エ 「図1に本発明で使用する賦型フィルムの断面図を示す。本発明で使用する賦型フィルムは、基材フィルム1と、基材フィルム1上に積層された微細な凹凸層2および平坦層3が混在した表面層とから形成されているものである。前記、微細な凹凸層2および平坦層3が混在した表面層は、基材フィルム1上の全面に形成された微細な凹凸層2に、部分的に樹脂を印刷することにより形成される。さらに、微細な凹凸層2および平坦層3が混在した表面層の形成の別の手段は、基材フィルム上に部分的に塗布された撥液性樹脂の塗膜上の全面に、微細な凹凸層形成樹脂組成物を塗布することにより形成される。
その基材フィルムの材質にPETフィルムを用い、積層された微細な凹凸層が基材フィルムから剥がれないようにするために、本発明で使用する基材フィルムは易接着処理が施されている。このような易接着処理には、フィルム表面にコロナ放電処理や公知の各種プライマーを塗工したり、感熱接着剤層を形成するものである。
そして、基材フィルム上に形成する微細な凹凸層は、無機系フィラーとバインダー樹脂からなる樹脂組成物を用いて形成されたものである。そのバインダー樹脂は、主としてポリイソシアネートで架橋されたアクリルポリオールを用い、フィラーとしては、炭酸カルシウムCaCO_(3) およびシリカゲルSiO_(2) を用いたものである。」(段落0010?0012)

3.引用例に記載された発明
引用例には、摘示ア?エを総合すると、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「凹凸の平均間隔が20?50μm、凹凸の平均表面粗さRaが0.7?2.0μm、および表面の60°グロス値が2.0以下である微細な凹凸層と平坦層とが混在したグロス-マット調賦型フィルムにより賦型されたグロス-マット調模様の表面を有する樹脂からなる成形体のマット部分の微細な凹凸の艶消し表面構造であって、
成形体の表面に付与されたグロス-マット調模様のマット部分の凹凸の触った感触が、柔らかな、スエードのような滑らかさで、しっとりとしたヌメリ感のある上記成形体のマット部分の微細な凹凸の艶消し表面構造。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「樹脂からなる成形体のマット部分の微細な凹凸の艶消し表面構造」は、本願発明における「表面に凹凸を備えた樹脂からなる物品の表面構造」に該当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で一応相違するといえる。

一致点
「表面に凹凸を備えた樹脂からなる物品の表面構造。」

相違点
物品の表面構造について、本願発明は、「物品の平滑な表面に人の肌が触れたときの肌と物品との接触面積に対する、物品の凹凸を有する表面に人の肌が触れたときの肌と物品との接触面積の割合が、35%?90%の範囲となる」と特定しているのに対し、引用発明は、「凹凸の平均間隔が20?50μm、凹凸の平均表面粗さRaが0.7?2.0μm、および表面の60°グロス値が2.0以下である微細な凹凸層と平坦層とが混在したグロス-マット調賦型フィルムにより賦型されたグロス-マット調模様の表面を有する」及び「成形体の表面に付与されたグロス-マット調模様のマット部分の凹凸の触った感触が、柔らかな、スエードのような滑らかさで、しっとりとしたヌメリ感のある」と特定している点。

5.相違点についての判断
本願明細書には、以下の記載がある。

a 「【発明が解決しようとする課題】
このように、樹脂成形品の表面は、人が触れたときに不快な触感となりやすいことから、例えば表皮材のような『柔らかい』、『しっとり』、『滑らか』といった心地よい触感とすることが望まれている。
そこで、本発明は、物品の表面に対する触感をより心地よいものとすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
本発明は、樹脂からなる物品の平滑な表面に人の肌が触れたときの肌と物品との接触面積に対する、物品の凹凸を有する表面に人の肌が触れたときの肌と物品との接触面積の割合が、35%?90%の範囲となることを特徴とする。
本発明によれば、樹脂からなる物品表面の凹凸形状を、人の肌の物品に接触する面積の割合が35%?90%の範囲となるようにすることで、人が物品表面に触れたときに、表皮材のような『柔らかい』、『しっとり』、『滑らか』といった心地よい触感とすることができる。」(段落0004?0008)

b 「これによれば、『しっとり感』として、標準的な評点3.0付近以上となる場合は、接触率が概ね35%?90%の範囲となっている。
したがって、接触率が35%未満及び、90%を超える範囲では、『しっとり感』を得にくく、特に接触率が35%未満では、『硬い』、『かさかさ』、『ざらざら』、『ごつごつ』といった不快な触感となってしまう。逆に、接触率が90%を超えると、より平滑な面に近づくことになるので、摩擦力が大きくなりすぎて、引っかかり感が発生し、やはり不快な触感となってしまう。」(段落0024?0025)

c 「ところで、『しっとり感』の向上のためには物品の表面の摩擦力を大きくすればよいが、摩擦力が大きすぎると引っかかり感が発生するため、適度な範囲の摩擦力が必要である。摩擦力は[圧力×摩擦係数×接触面積]で表されるが、入力(圧力)は前述のように200g重で一定とすることができ、摩擦係数も同一材料を想定することで一定となるため、摩擦力は指の物品表面に対する接触面積で予測できる。さらに、この接触面積は、指の腹の面積を一定とみなせるため、物品表面の凹凸形状部と指とが実際に接触した部位を計測し、接触率として代用することができる。
以上のように、本実施形態によれば、物品表面の凹凸形状を、指が物品に接触する面積の割合が35%?90%の範囲となるようにすることで、人が物品に触れたときに、表皮材のような『柔らかい』、『しっとり』、『滑らか』といった心地よい触感とすることができる。」(段落0029?0030)

これら記載によれば、本願発明は、物品表面を特定の凹凸形状(指が物品に接触する面積の割合が35%?90%の範囲)とすることで、人が物品表面に触れたときに、表皮材のような「柔らかい」、「しっとり」、「滑らか」といった心地よい触感とするといった課題解決を図るものであるといえる。
ところで、引用発明は、物品の平滑な表面に人の肌が触れたときの肌と物品との接触面積に対する、物品の凹凸を有する表面に人の肌が触れたときの肌と物品との接触面積の割合について特定するものではないが、引用発明(微細な凹凸の艶消し表面構造)も、凹凸の平均間隔が20?50μm、凹凸の平均表面粗さRaが0.7?2.0μm、および表面の60°グロス値が2.0以下という微細な凹凸層を持つ賦型フィルムにより賦型された特定の凹凸形状を有してなることで、触った感触が、柔らかな、スエードのような滑らかさで、しっとりとしたヌメリ感を得ることができるものである。
そうすると、本願発明も引用発明も共に、表面の凹凸を特定の形状とすることで、その触った感触が、「柔らかな」及び「しっとり」とする点で何ら変わるものではないといえるのであるから、引用発明の表面構造(凹凸形状)は本願発明と実質的に相違するものではないといえる。すなわち、引用発明においても「物品の平滑な表面に人の肌が触れたときの肌と物品との接触面積に対する、物品の凹凸を有する表面に人の肌が触れたときの肌と物品との接触面積の割合」は、35%?90%の範囲となっているというほかない。したがって、相違点は実質的な相違点ではない。

仮に、そうでないとしても、引用発明において、表面の凹凸の触った感触を規定するに際し、かかる感触は、表面と肌との接触面積に左右されることは自明であるから、「物品の平滑な表面に人の肌が触れたときの肌と物品との接触面積に対する、物品の凹凸を有する表面に人の肌が触れたときの肌と物品との接触面積の割合」で規定しようとすることは、当業者であれば、容易に想到することができる程度のことといえ、その割合を具体的に「35%?90%」と規定することも、当業者が適宜決定し得ることにすぎない。
そして、当該数値範囲内であることによる効果が格別顕著なものであるともいえない。
したがって、上記相違点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものとはいえない。

よって、本願発明は、引用発明と同一であるか、あるいは、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。



第5 むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その優先日前に頒布された特開平5-92484号公報に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。あるいは、本願の請求項1に係る発明は、その優先日前に頒布された特開平5-92484号公報に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。してみると、原査定の理由は妥当である。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-09 
結審通知日 2014-05-13 
審決日 2014-05-29 
出願番号 特願2011-275560(P2011-275560)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川端 康之  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 小野寺 務
田口 昌浩
発明の名称 物品の表面構造  
代理人 三好 秀和  

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