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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H04R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04R
管理番号 1289577
審判番号 不服2013-11044  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-12 
確定日 2014-07-09 
事件の表示 特願2009-515706「細長部材を有する補聴器」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月27日国際公開、WO2007/147416、平成21年11月26日国内公表、特表2009-542055〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【第1】経緯

[1]手続
本願は、平成19年6月22日(パリ条約による優先権主張平成18年6月23日、デンマーク)を国際出願日とする出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成24年 7月 4日(起案日)
意見書 :平成24年11月 6日
拒絶査定 :平成25年 2月 4日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成25年 6月12日
手続補正(特許請求の範囲):平成25年 6月12日
手続補正(請求理由) :平成25年 6月25日

前置審査報告 :平成25年 9月18日
審尋 :平成25年 9月27日(起案日)
回答書 :平成25年12月24日
回答書 :平成25年12月27日

[2]査定
原査定の理由は、概略、以下のとおりである。

〈査定の理由の概略〉
本願の請求項1?8,29に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願の請求項1?8,29に係る発明は、下記の刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

本願の請求項9?13,15?22,25,26,28に係る発明は、下記の刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

記(刊行物等一覧)
1.特表2000-506697号公報
2.特開2005-323363号公報
3.特表2003-511940号公報

【第2】補正の却下の決定
平成25年6月12日付けの補正(以下「本件補正」という。)について次のとおり決定する。

《結論》
平成25年6月12日付けの補正を却下する。

《理由》

【第2-1】本件補正の内容

本件補正は特許請求の範囲についてする補正であり、補正前請求項1の記載を補正後請求項1とする補正を含んでおり、本件補正前および本件補正後の請求項1の記載は下記のとおりである。

記(補正前)
ある可聴周波信号を聴力損失補償用の可聴周波信号に処理するための信号処理装置と、この信号処理装置の出力部へ接続され、処理された補償ずみ可聴周波信号を音声信号に変換するための受信機と
を収容するハウジングを有し、
前記ハウジングは、ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品へ、前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるようにして取り付けられている補聴器。

記(補正後、補正部分をアンダーラインで示す。)
ある可聴周波信号を聴力損失補償用の可聴周波信号に処理するための信号処理装置と、この信号処理装置の出力部へ接続され、処理された補償ずみ可聴周波信号を音声信号に変換するための受信機と
を収容するハウジングを有し、
前記ハウジングは、ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品へ、前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるように、かつ、前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように取り付けられている
補聴器。

〈補正内容〉
そして、その補正内容は、
補正前の特定事項である「前記ハウジングは、ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品へ、前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるようにして取り付けられている」を、
「前記ハウジングは、ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品へ、前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるように、かつ、前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように取り付けられている」とするものである。

【第2-2】本件補正の適否1(範囲、シフト、目的)

〈補正の範囲(第17条の2第3項)〉
本件補正は、当初明細書の段落【0048】,【0049】,【0088】,図5,図7の記載を根拠とするものと認められ、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする補正であるといえ、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

〈補正の目的(第17条の2第5項)、シフト(第17条の2第4項)〉
補正前請求項1記載の上記特定事項は、ハウジングが耳当て部品へ取り付けられる態様を特定するものであるところ、
本件補正は、かかる態様について、上記下線部分「かつ、前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように」を付加して限定するものであり、かつ、補正の前後において、産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号でいう特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。すなわち、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に適合する。
また、本件補正が、特許法第17条の2第4項の規定に適合することも明らかである。

【第2-3】本件補正の適否2 独立特許要件(第17条の2第7項)
そこで、独立特許要件について検討するに、補正後請求項1に記載される発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、上記「補正前請求項1の記載を補正後請求項1とする補正」を含む本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「補正後発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由の詳細は、以下のとおりである。

《理由:独立特許要件に適合しない理由の詳細》

[1]補正後発明
補正後発明(補正後の請求項1)は、上記【第2-1】の補正後の【請求項1】のとおりである。

[2]引用刊行物(刊行物1)の記載の摘示
刊行物1:特表2000-506697号公報
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である上記刊行物1には、以下の記載(下線は、注目箇所を示すために当審で施したものである。)が認められる。

(K1)〈要約〉
「補聴器10は、円筒状の殻体14の内部に装着された電子回路アセンブリ12を有し、前記殻体14が耳挿入体16の空洞内に装着されている。前記電子回路アセンブリ12は、スピーカー22と、マイクロホン18と、音を増幅する信号処理回路20を形成する電子コンポーネントとを有するプリント回路小片26を備えている。耳挿入体16は、軟らかい、耐久性のある、耳に馴染む材料からなっており、ユーザーの耳にフィットする。この補聴器10は、最小限の部品点数を有し、自動的に組み立てるのが容易である。これにより、使い捨てが可能な比較的安価な補聴器10が得られる。」(1頁)

(K2)〈特許請求の範囲〉
「1.使用者の耳に挿入される補聴器であって、
音を受けて増幅する電子回路と、前記回路を覆う殻体と、
軟質で可撓性のある材料からなり、前記殻体を覆い使用者の耳にフィットしてその形に馴染む耳挿入体とを有する補聴器。」
・・・(中略)・・・
7.補聴器を製造する方法であって、
電子コンポーネント、スピーカー、マイクロホンおよび電池を細長い柔軟な回路小片上に装着して、この柔軟なプリント回路小片上に複数の補聴器用の電子回路アセンブリを形成し、
前記柔軟なプリント回路小片を切断してプリント回路上に個々の補聴器用の電子回路アセンブリを形成し、前記個々の電子回路アセンブリを別の円筒状の殻体の中に挿入し、
個々のアセンブリを収納した殻体を、軟質で耐久性のある、耳に馴染みの良い材料からなる耳挿入体の空洞に挿入する補聴器の製造方法。
・・・(中略)・・・
11.請求項7において、前記電子コンポーネントが、限られた数の異なる音響上の形態のいずれかに含まれる固定された聴覚特性を有する個々の電子回路を形成するように組み立てられ、特定のユーザーに適合した音響上の形態を有する電子回路を備えた殻体が耳挿入体の内部に挿入される補聴器の製造方法。」(2?3頁)

(K3)〈発明の概要〉
「発明の概要
本発明は、音を受けて増幅する回路と、この回路を覆う殻体とを有している。軟質で可撓性のある材料からなる耳挿入体が、殼体を覆い、かつ、使用者の耳の中にフィットするように形成される。
本発明はまた、補聴器の製造方法を提供するものであって、複数の電子部品、スピーカー、マイクロホンおよび電池が、細長い柔軟な回路小片の上に装着されて、この小片に沿って、複数の補聴器を形成する電子回路アセンブリを形成する。この柔軟なプリント回路小片が切り離されて、プリント回路上に個々の補聴器の電子回路のアセンブリを形成する。この個々の電子回路アセンブリが円筒型の殻体の中に挿入される。電子回路アセンブリを収納した個々の殻体が、柔軟で耐久性があり、耳との馴染みがよい別体の耳挿入体の空洞に挿入される。」(4頁末行?5頁10行)

〈発明を実施するための最良の形態〉
(K4)〈図1?図3関連〉
「図1および図2において、本発明の一実施形態の補聴器は、符号10で示す。補聴器10は、電子回路アセンブリ12と、殻体14と、耳挿入体16とを有している。図3に示すように、電子回路アセンブリ12は、音を受けて電気信号に変換するマイクロホン18を有している。マイクロホン18は信号処理回路20の入力側に接続される。この信号処理回路20は、音を増幅し、不要なバックグラウンドのノイズを低減し、使用者の聴覚上の特定の要請に従って音を調整する。信号処理回路20の出力は、スピーカー22に接続されて、このスピーカー22で前記信号処理回路20の出力信号が音に変換され、この音を使用者の耳の中へ向けて発生させる。所望の形態を持つ適切な電池24が信号処理回路20に接続されて、この回路20を動作させる。
図1および図2に示すように、電子回路12は、柔軟なプリント回路体26を有している。」(5頁19行?6頁2行)

(K5)《信号処理回路20》
「信号処理回路20は、固定されたゲインおよび周波数応答で増幅を行うどのようなタイプのものでも使用できる。・・・30日間のような長い期間の使用に耐える補聴器10の場合、信号処理回路20としては、信号圧縮を行う2チャンネル増幅器を含むどのような回路を用いてもよい。その場合、一方のチャンネルが低周波領域を処理し、他方のチャンネルが高周波領域を処理する。電池の寿命を延ばすために、より効率の高いD級増幅器を使用することもできる。
どのようなタイプの信号処理回路20についても、所望の信号処理を行う集積回路を使用するのが望ましく、このような集積回路は容易に作成できる。異なった応答性を持たせるために、抵抗体およびキャパシターのような受動素子の特性値を異ならせて使用することができる。・・・(以下略)」(6頁11行?24行)

(K6)《殻体14》
「殻体14は、電子回路12を収納して保護するように作られた、柔軟な中空円筒体である。・・・殻体14は、電子回路12を湿気や機械的な損傷から保護する材料で形成されている。殻体14はまた、音の進入および放出を容易にする音響特性を有しており、耳栓16の中に殻体14を保持するのに役立つリブ17のような外形構造上の特徴も備えている。」(6頁28行?7頁5行)

(K7)《耳挿入体16》
「耳挿入体16は、軟質で耐久性があり、且つ耳と馴染みのよい材料で形成されている。・・・耳挿入体16は、内部に空洞16aを有しており、この空洞16aに電子回路12を収納した殻体14が挿入されて保持される。耳挿入体16の形状や寸法のような外形上の形態は、使用者の耳穴の中に容易に挿入できるようなものとされており、かつ、耳穴の形状に合うように柔軟に変形する。耳挿入体16は耳によく馴染む材料で出来ているので、耳穴の壁に対する耳挿入体16の圧力が、音のフィードバックを防止し、且つ耳の中に耳挿入体10を保持するのに役立つ適切な係合力を生み出す。軟質の材料からなる耳挿入体のほうが、固い材料からなる耳挿入体よりも、フィードバック音の減衰に優れていることが見いだされた。」(7頁6行?17行)

(K8)《図4関連》
「図4に、本発明の一実施形態の補聴器10の組立て方法が開示されている。・・・(中略)・・・
耳挿入体16は適切な成形型によって型成形され、密封されたパッケージ38内に包装される。耳挿入体16は、好ましくは、幾つかの異なるサイズに型成形されて、適切なサイズのものを補聴器10の使用者が選択使用できるようにされる。」(7頁18行?8頁5行)

(K9)《図5関連》
「電子回路12の信号処理回路20は、高周波領域の難聴および周波数に無関係な全体的な難聴を、僅かな幅から適度な幅にまでわたって調整する。異なる特性の電子回路12を作るために、信号処理回路20が異なる聴覚上の応答性を持つように作られる。図5aおよび5bは、本発明の一実施形態にかかる製造工程で作られる異なる特性の電子回路12が示す種々の応答を示している。図5aは、固定されたゲインおよび周波数応答生を持つ3日用の装置の応答を示し、図5bは、2チャンネル増輻器を持つ30日用の装置の応答を示している。図5aおよび5bのそれぞれにおいて、縦の欄は異なる増幅器ゲインを示し、欄Aは最も小さいゲインであり、欄Cは最も高いゲインである。横の列は、異なる周波数応答を示し、横列1は周波数によらないフラットな応答を示し、横列2は高周波数領域で僅かに応答性を高めたものを示し、横列3は高周波数領域で適度に応答性を高めたものを示している。こうして、信号処理回路20の製造にあたり、互いに異なるコンポーネントを使用して、図5aおよび5bに示すような互いに異なるゲインおよび周波数応答性を有する一定個数の回路を作成する。特性が相異なる信号処理回路20には、ゲインおよび周波数応答性に応じて、図5aおよび図5bの図表にしたがって、A1、A2、A3、B1等のように印が付される。
本発明の一実施形態の補聴器10を製造する最後の工程は、使用者の聴力テストを行い、どのタイプの聴覚上の応答性が要求されているかを判断したのち、聴覚専門家または医師によってなされる。聴覚専門家または医師は、図5aおよび図5bに示された図表をチェックして、使用者が要求する聴覚上の応答性を提供する信号処理回路20を選択する。聴覚専門家または医師はさらに、所望の電子回路を内蔵した殻体アセンブリを選択し、使用者にあった適切なサイズの耳挿入体16を選ぶ。殼体アセンブリが耳挿入体16に挿入されて、補聴器10がユーザーの耳に挿入可能な状態となる。」(8頁6行?9頁1行)

(K10)「本発明の一実施形態の補聴器10においては、信号処理回路20は固定された聴覚特性を持ち、限られた数の異なる音響上の形態、つまり聴覚上の応答性のいずれかを持つように作られている。また、音響上の形態は、電子回路の製造者においてプログラムされるので、回路を調整するためのポテンショメータは不要である。・・・こうして、本発明の一実施形態によれば、使い捨てが可能な製造費の安い補聴器10が得られる。使い捨てであるにもかかわらず、この補聴器10は使用者が必要とする聴覚上の特性を全て備えており、信頼性が高い。さらに、本発明の補聴器は、小型であり、軟らかい可撓性のある耳挿入体を有しているから、耳に入れても感じがよい。さらに、使い捨てであるから、洗浄や調整のためのサービスが必要でない。」(9頁2行?23行)

[3]刊行物1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)

ア 概要構成{前掲(K1)?(K4)}
刊行物1には、概要、
「使用者の耳に挿入される補聴器であって、
音を受けて増幅する電子回路と、前記回路を覆う殻体と、
軟質で可撓性のある材料からなり、前記殻体を覆い使用者の耳にフィットしてその形に馴染む耳挿入体とを有する補聴器。」{(K2)、請求項1}が示されている。

その要約{前掲(K1)}によれば、
「補聴器10は、円筒状の殻体14の内部に装着された電子回路アセンブリ12を有」する、
「殻体14が耳挿入体16の空洞内に装着されている」、
「電子回路アセンブリ12は、スピーカー22と、マイクロホン18と、音を増幅する信号処理回路20を形成する電子コンポーネントとを有するプリント回路小片26を備え」る、
「耳挿入体16は、軟らかい、耐久性のある、耳に馴染む材料からなっており、ユーザーの耳にフィットする」
ものであり、
前掲(K3)によれば、
「耳挿入体が、殼体を覆い、かつ、使用者の耳の中にフィットするように形成され」、
「スピーカー、マイクロホンおよび電池が、細長い柔軟な回路小片の上に装着されて、この小片に沿って、複数の補聴器を形成する電子回路アセンブリ」が「形成」され、「電子回路アセンブリが円筒型の殻体の中に挿入され」、「電子回路アセンブリを収納した」「殻体が、柔軟で耐久性があり、耳との馴染みがよい別体の耳挿入体の空洞に挿入される」{以上、前掲(K3)}。
また、「アセンブリを収納した殻体を、軟質で耐久性のある、耳に馴染みの良い材料からなる耳挿入体の空洞に挿入する」{(K2),請求項7}、
「補聴器10は、電子回路アセンブリ12と、殻体14と、耳挿入体16とを有している」{(K4)}とあり、その態様は、図2に示されている。
また、「プリント回路体26」は、「柔軟なプリント回路体26」とある{(K4)}。

以上をまとめれば、
「使用者の耳に挿入される補聴器」であって、 (→引用発明のp)
図2に示される態様で「補聴器10は、電子回路アセンブリ12と、殻体14と、耳挿入体16とを有して」おり、 (→引用発明のq)
「耳挿入体16は、軟らかい、耐久性のある、耳に馴染む材料からなっており、ユーザーの」「耳の中にフィットするように形成され」、
(→引用発明のt)
「電子回路アセンブリ12」は、「電池」と「スピーカー22と、マイクロホン18と、音を増幅する信号処理回路20を形成する電子コンポーネントとを有する」「柔軟な」「プリント回路体(小片)26を備え」、
「電子回路アセンブリ」は「円筒型の殻体の中に挿入され」、
「電子回路アセンブリを収納した殻体」は「耳挿入体の空洞に挿入」「収納」されるものである。 (→引用発明のr)

イ-1 信号処理回路、スピーカー
前掲(K4),(K5),(K9),(K10){特に(K9)図5}によれば、
「信号処理回路20」は、「マイクロホン18」が「入力側に接続され」、「音を増幅し、不要なバックグラウンドのノイズを低減し、使用者の聴覚上の特定の要請に従って音を調整」{(K4)}し、「高周波領域の難聴および周波数に無関係な全体的な難聴を、僅かな幅から適度な幅にまでわたって調整する」{(K9)}ものであって、
「異なる音響上の形態、つまり聴覚上の応答性のいずれかを持つように」{(K10)}、「図5aおよび5bに示すような互いに異なるゲインおよび周波数応答性を有する」ように「作成」されたものから、「聴覚専門家または医師」が「使用者が要求する聴覚上の応答性を提供する信号処理回路20を選択」したものであり{(K9)}、
「聴覚専門家または医師はさらに、所望の電子回路を内蔵した殻体アセンブリを選択し、使用者にあった適切なサイズの耳挿入体16を選」び、「殼体アセンブリが耳挿入体16に挿入されて、補聴器10がユーザーの耳に挿入可能な状態」とされ{(K9)}、
「信号処理回路20の出力は、スピーカー22に接続されて、このスピーカー22で前記信号処理回路20の出力信号が音に変換され、この音を使用者の耳の中へ向けて発生させる」ものである{(K4)}。
(→引用発明のs,u,v)
イ-2 殻体、耳挿入体
「殻体14は、電子回路12を収納して保護するように作られた、柔軟な中空円筒体である」{(K6)}。 (→引用発明のt)
「耳挿入体16は、内部に空洞16aを有しており、この空洞16aに電子回路12を収納した殻体14が挿入されて保持される。耳挿入体16の形状や寸法のような外形上の形態は、使用者の耳穴の中に容易に挿入できるようなものとされており、かつ、耳穴の形状に合うように柔軟に変形する」ものである{(K7)}。 (→引用発明のt)

ウ 引用発明
以上を総合すれば、補正後発明と対比する引用発明として、下記の発明を認めることができる(便宜上、p?vに分説しておく)。

記(引用発明)
p:使用者の耳に挿入される補聴器(10)であって、
q:補聴器(10)は、図2に示される態様で、電子回路アセンブリと、殻体(14)と、耳挿入体(16)とを有しており、
r:電子回路アセンブリ(12)は、電池とスピーカー(22)と、マイクロホン(18)と、音を増幅する信号処理回路(20)を形成する電子コンポーネントとを有する柔軟なプリント回路体(小片)(26)を備え、円筒型の殻体の中に挿入収納され、
s:信号処理回路(20)は、マイクロホン(18)」が入力側に接続され、音を増幅し、不要なバックグラウンドのノイズを低減し、使用者の聴覚上の特定の要請に従って音を調整し、高周波領域の難聴および周波数に無関係な全体的な難聴を、僅かな幅から適度な幅にまでわたって調整するものであって、
異なる音響上の形態、つまり聴覚上の応答性のいずれかを持つように、図5aおよび5bに示すような互いに異なるゲインおよび周波数応答性を有するように作成されたものから、聴覚専門家または医師が使用者が要求する聴覚上の応答性を提供するものを選択したものであり、
t:耳挿入体(16)は、内部に空洞(16a)を有しており、この空洞(16a)に、電子回路12を収納して保護するように作られた、柔軟な中空円筒体の殻体(14)が挿入されて保持されるものであって、
軟らかい、耐久性のある、耳に馴染む材料からなっていて、ユーザーの耳の中にフィットするように形成され、形状や寸法のような外形上の形態は、使用者の耳穴の中に容易に挿入できるようなものとされており、かつ、耳穴の形状に合うように柔軟に変形するものであり、
u:聴覚専門家または医師はさらに、所望の電子回路を内蔵した殻体アセンブリを選択し、使用者にあった適切なサイズの耳挿入体(16)を選び、殼体アセンブリが耳挿入体(16)に挿入されて、補聴器(10)がユーザーの耳に挿入可能な状態とされ、
v:信号処理回路(20)の出力は、スピーカー(22)に接続されて、このスピーカー(22)で前記信号処理回路(20)の出力信号が音に変換され、この音を使用者の耳の中へ向けて発生させるようにされる、
p:補聴器。

[4]補正後発明と引用発明との対比(対応関係)

(1)補正後発明(構成要件の分説)
検討の便宜上、補正後発明の要件を、以下のように要件A1,A2,A3,B,Cに分説しておく。

A1:ある可聴周波信号を聴力損失補償用の可聴周波信号に処理するための信号処理装置と、
A2:この信号処理装置の出力部へ接続され、処理された補償ずみ可聴周波信号を音声信号に変換するための受信機と
A3:を収容するハウジングを有し、
B :前記ハウジングは、ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品へ、前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるように、かつ、前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように取り付けられている
C :補聴器。

(2)補正後発明と引用発明との対比(対応関係)
補正後発明の各構成要件について、引用発明と対応する。

ア 要件C「補聴器」について
引用発明も、p「使用者の耳に挿入される補聴器」であるから、この点、補正後発明と相違しない。

イ 要件A1について
A1「ある可聴周波信号を聴力損失補償用の可聴周波信号に処理するための信号処理装置と、」
引用発明の「信号処理回路」は、s「マイクロホン(18)が入力側に接続され、音を増幅し、不要なバックグラウンドのノイズを低減し、使用者の聴覚上の特定の要請に従って音を調整し、高周波領域の難聴および周波数に無関係な全体的な難聴を、僅かな幅から適度な幅にまでわたって調整するものであって、
異なる音響上の形態、つまり聴覚上の応答性のいずれかを持つように、図5aおよび5bに示すような互いに異なるゲインおよび周波数応答性を有するように作成されたものから、聴覚専門家または医師が使用者が要求する聴覚上の応答性を提供するものを選択したもの」であること、
そして、その出力が、v「スピーカー(22)に接続されて、このスピーカー(22)で前記信号処理回路(20)の出力信号が音に変換され、この音を使用者の耳の中へ向けて発生させるようにされる」ものであることからみて、
また、同信号処理回路(20)は、補聴器用の信号処理回路であることからみても、
その出力信号は、「聴力損失補償用の可聴信号」といえ、
したがって、「ある可聴周波信号を聴力損失補償用の可聴周波信号に処理するための信号処理装置」ということができる。
引用発明は、要件A1において、補正後発明と相違しない。

ウ 要件A2について
A2「この信号処理装置の出力部へ接続され、処理された補償ずみ可聴周波信号を音声信号に変換するための受信機と」
補正後発明でいう「可聴周波信号を音声信号に変換するための受信機」とは、その「可聴周波信号を音声信号に変換するための」という字義、及び明細書の記載{「補聴器の受信機によって発生した音声」(段落【0003】),「補聴器の専門用語によれば、ラウドスピーカーとは、この明細書を通じて、受信機をもまた意味している。」(段落【0018】),「補聴器のラウドスピーカー(しばしば受信機を意味する)」(段落【0057】),「受信機102が補聴器処理装置103からの出力値を出力音声に変換し」(段落【0105】,図11)等}に照らせば、
「ラウドスピーカー」をいうものということができる。
引用発明の「スピーカー(22)」も、v「スピーカー(22)で前記信号処理回路(20)の出力信号が音に変換され」るものであるから、「ラウドスピーカー」といえると共に「可聴周波信号を音声信号に変換するための受信機」といい得ることは明らかであり、
「信号処理回路(20)」の出力信号は、上記イのとおり「聴力損失補償用の可聴信号」となっているのであるから、「処理された補償ずみ可聴周波信号」ともいうことができるものである。
そして、引用発明は、v「信号処理回路(20)の出力は、スピーカー(22)に接続されて、このスピーカー(22)で前記信号処理回路(20)の出力信号が音に変換され、この音を使用者の耳の中へ向けて発生させるようにされる」のであるから、当該「スピーカー」は、「この信号処理装置(「信号処理回路」)の出力部へ接続され、処理された補償ずみ可聴周波信号を音声信号に変換するための受信機」ということができる。
したがって、引用発明は、要件A2において、補正後発明と相違しない。

エ 要件A3「を収容するハウジングを有し、」について
引用発明の「殻体(14)」は、r「電子回路アセンブリ(12)は、電池とスピーカー(22)と、マイクロホン(18)と、音を増幅する信号処理回路(20)を形成する電子コンポーネントとを有する柔軟なプリント回路体(小片)(26)を備え、円筒型の殻体の中に挿入収納され」るものであって、t「電子回路12を収納して保護するように作られた、柔軟な中空円筒体の殻体(14)」であるから、
上記のとおり要件A1の「信号処理装置」といい得る「信号処理回路(20)」と、要件A2の「受信機」といい得る「スピーカー(22)」を「収容」するといえると共に「ハウジング」ともいい得るものである。
したがって、要件A3についても、補正後発明と引用発明は相違しない。

オ 要件Bについて
B「前記ハウジングは、ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品へ、前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるように、かつ、前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように取り付けられている」

オ-1 要件Bは、
要件B1 「ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品」
すなわち、
「耳当て部品」が「ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成され」るものであること
要件B2 「前記ハウジングは、耳当て部品へ、前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるように、取り付けられている」こと
すなわち、
「ハウジング」が「耳当て部品」へ「取り付けられる」その「取り付けられ」方が、「前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるように」取り付けられること、
要件B3 「前記ハウジングは、耳当て部品へ、前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように取り付けられている」こと
すなわち、
「ハウジング」が「耳当て部品」へ「取り付けられる」その「取り付けられ」方が、「前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように」取り付けられること
を特定するものと認められる。

オ-2 上記要件B1について
引用発明の「耳挿入体(16)」は、
t「軟らかい、耐久性のある、耳に馴染む材料からなっていて、ユーザーの耳の中にフィットするように形成され、形状や寸法のような外形上の形態は、使用者の耳穴の中に容易に挿入できるようなものとされており、かつ、耳穴の形状に合うように柔軟に変形するものであ」るから、「耳当て部品」といえることは明らかであるとともに、図2に示される外形も考慮すれば、上記「使用者の耳穴の中」とは「ユーザーの外耳道の中」と普通に理解され想定される。
したがって、「耳挿入体(16)」は、「ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成され」ているということができ、引用発明は上記要件B1を満たす。

オ-3 上記要件B2について
補正後発明でいう「ハウジング」といい得る引用発明の「殻体(14)」は、qで「補聴器(10)」が「図2に示される態様で、電子回路アセンブリと、殻体(14)と、耳挿入体(16)とを有して」いるものであって、t「耳挿入体(16)は、内部に空洞(16a)を有しており、この空洞(16a)に、電子回路12を収納して保護するように作られた、柔軟な中空円筒体の殻体(14)が挿入されて保持されるもの」であるから、
耳挿入体(補正後発明でいう「耳当て部品」)へ「取り付けられる」ものといえ、
その「取り付けられ」方についてみるに、それは、「耳挿入体(16)の内部の空洞(16a)に挿入されて保持される」態様であって、図2に示される態様であり、この態様は、「殻体」が「耳挿入体」の「中心部分を通って延びるように」「取り付けられている」ともいうことができる。
したがって、引用発明は、上記要件B2を満たす。

オ-4 上記要件B3について
引用発明の「殻体(14)」と「耳挿入体(16)」の(殻体(14))の)長さ方向長さについてみるに、「殻体(14)」と「耳挿入体(16)」の長さ方向長は同じとしていることが、図2から見て取れる。
すなわち、引用発明では、「ハウジング」が「耳当て部品」へ「取り付けられる」その「取り付けら」方は、「前記耳当て部品の長手方向長さ」と「前記ハウジングの長手方向長さ」は同じであって、「前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように」とはしていない。
したがって、上記要件B3を満たさず、この点、上記の相違が認められる。

オ-5 補足
要件B中の「ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品」の「配置すべく」の対象、すなわち、何を「ユーザーの外耳道の中に配置すべく」なのか、についてみるに、
上記オ-1では『「耳当て部品」を「ユーザーの外耳道の中に配置すべく」、「耳当て部品」を「構成した」』と解したが、そうではなく、
『「ハウジング」を「ユーザーの外耳道の中に配置すべく」、「耳当て部品」を「構成した」』と解することも可能であるが、
そのように解したとしても、
引用発明でも、「殻体(14)」(ハウジング)を「ユーザーの外耳道の中に配置すべく」、「耳挿入体(16)」(耳当て部品)が構成」されている、といえることから、引用発明が要件B1を満たすことに変わりは無い。

オ-5 まとめ(要件B)
引用発明も「前記ハウジングは、ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品へ、前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるように、取り付けられている」点では、補正後発明と相違しないものの、
補正後発明では、(「前記ハウジングは、耳当て部品へ、」)「前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように取り付けられている」とするのに対して、
引用発明では、(「前記ハウジング(殻体)は、耳当て部品(耳挿入体)へ、」)前記耳当て部品の長手方向長さと前記ハウジングの長手方向長さが同じであるように取り付けられていて、そのようにしていない点、で相違する。

[5]一致点、相違点
以上の対比結果によれば、補正後発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりであることが認められる。

[一致点]
A1 ある可聴周波信号を聴力損失補償用の可聴周波信号に処理するための信号処理装置と、
A2 この信号処理装置の出力部へ接続され、処理された補償ずみ可聴周波信号を音声信号に変換するための受信機と
A3 を収容するハウジングを有し、
B’ 前記ハウジングは、ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品へ、前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるように、取り付けられている
C :補聴器。

[相違点]
補正後発明では、上記B’に加え、
(「前記ハウジングは、耳当て部品へ、」)「前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように取り付けられている」とするのに対して、
引用発明では、(「前記ハウジング(殻体)は、耳当て部品(耳挿入体)へ、」)前記耳当て部品の長手方向長さと前記ハウジングの長手方向長さが同じであるように取り付けられていて、そのようにしていない点。

[6]相違点等の判断

(1)〔相違点の克服〕
引用発明を出発点とし、
引用発明の「前記耳当て部品」(「耳挿入体」)の長手方向長さを、「前記ハウジング」(「殻体」)の長手方向長さよりも短くすること(以下、〔相違点の克服〕という)で、
(「前記ハウジングは、耳当て部品へ、」)「前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように取り付けられている」こととなり、上記相違点は克服されて、補正後発明に至る。

(2)相違点についての判断(〔相違点の克服〕の容易想到性)
刊行物1には、「殻体」と「耳挿入体」の長さ方向長さは同じであるものが図2に示されている。
その理由についての明記はないものの、スピーカや回路等を収納する殻体が長尺円筒体であることからすれば、その主眼とするところは、かかる長尺円筒体である殻体を、耳穴内の所定位置に十分に保持することにあると想定され、そのため、「耳挿入体」の長さ方向を「殻体」と同じ長さとしていると想定される。
確かに、「耳挿入体」の長さ方向を「殻体」と同じ長さとすれば、「殻体」を耳穴内の所定位置に十分に保持するができると考えられるが、
であるからといって、「耳挿入体」の長さ方向を「殻体」と同じ長さ(以上)としなければ、「殻体」を耳穴内の所定位置に十分に保持するができない、という訳でもなく、回路等を収納する殻体を耳穴内の所定位置に十分に保持し得る範囲内で、「耳挿入体」の長さを「殻体」の長さより多少短く設定する等(多少短くしても、回路等を収納する殻体を耳穴内の所定位置に十分に保持し得ると普通に想定される。)、その長さの設定にはある程度の自由度があると言うべきである。
そうすると、刊行物1に接した当業者にとって、引用発明の「耳挿入体」(耳当て部品)の長手方向長さを「殻体」(ハウジング)の長手方向長さよりも、少し短く設定する程度のことは、必要に応じて適宜に設計的に設定し得る事項というべきであり、当業者が容易に想到し得る範囲内の事項というべきである。
そして、そのように「少し短く設定」したものでも「前記ハウジングは、耳当て部品へ、前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように取り付けられている」を満たすことになるから、上記〔相違点の克服〕がされて、補正後発明となる。
すなわち、上記〔相違点の克服〕は当業者の容易想到である。

また、以下にみるように、『耳穴に挿入する補聴器において、その「ハウジング」を耳穴に保持するための「耳当て部品」を、「ハウジング」の長さより短く設定すること』は、下記の刊行物a,bにもみられるように格別のことではなく普通のことにすぎない。
このことからみても、上記〔相違点の克服〕、すなわち、引用発明の「前記耳当て部品」(「耳挿入体」)の長手方向長さを、「前記ハウジング」(「殻体」)の長手方向長さよりも短くして、補正後発明に至ることは、当業者が容易に想到し得ることである。

a:特表2002-531035号公報
上記『耳穴に挿入する補聴器において、・・・短く設定すること』が示されていることは、後記[8]、特に[8](3)のオ-3に示す。

b:米国特許出願公開第2006/0050914号明細書
特に、下記摘示箇所,FIG3、FIG6Bによれば、耳穴に挿入する補聴器において、補正後発明でいう「耳当て部品」に相当する「シール100(seal 100)」を、補正後発明でいう「ハウジング」に相当する「補聴装置(補聴器)20(hearing device 20)」の長さより短く設定していることが認められる。

〈摘示〉
{}は訳文であり、対応特許公報である特開2009-540768号公報を用いている。

[0043]Referring now to FIGS. 3-4 , an embodiment of a CIC hearing aid device 20 configured for placement and use in ear canal 10 can include a receiver (speaker) assembly 25 , a microphone assembly 30 , a battery assembly 40 , a cap assembly 90 and one or more sealing retainers 100 (also called seal 100 ) that can be coaxially positioned with respect to receiver assembly 25 and/or microphone assembly 30 .
{次に、図3?4を参照すると、外耳道10内に配置され、外耳道10内で使用されるように構成されたCIC補聴装置20の一実施形態は、レシーバ(スピーカ)アセンブリ25、マイクロホン・アセンブリ30、バッテリ・アセンブリ40、キャップ・アセンブリ90、ならびにレシーバ・アセンブリ25および/またはマイクロホン・アセンブリ30と同軸に配置することができる1つまたは複数の密封保持具100(シール100とも呼ばれる)を含むことができる。}

[0044]Referring now to FIGS. 4-6 , a discussion will be presented of a retaining seal used for retaining a hearing device such as CIC hearing aid for continuous wear in the ear canal.
{次に、図4?6を参照して、外耳道内に連続装着されるCIC補聴器などの聴覚装置を保持するために使用される保持シールについて論じる。}

[0045]In various embodiments, retaining seal 100 includes a shell 110 having an opening 120 , and walls 130 defining a cavity 140 for holding hearing device 20 . In preferred embodiment, at least one seal 100 is adapted to be positioned, as shown, substantially in the bony region 13 coaxially over the receiver assembly 25 (or other device portion) of hearing device 20 . ・・・・ Seal 100 is configured to provide the primary support for the device 20 within the ear canal 10 . The seal is also configured to substantially surround portions of device 20 to protect it from contact with the walls 10 W of the ear canal and exposure to cerumen, moisture and other contaminants. To that purpose, seal 100 can be configured to substantially conform to the shape of walls 10 W of the ear canal in the bony region 13 and to maintain an acoustical seal between a seal surface and the ear canal and retain the device securely within the ear canal 10 . The seal can be configured to be mounted concentrically or non-concentrically over the hearing device. Also the seals can be configured to be mounted over or to specific assemblies or portions of the hearing device, for example, the battery assembly, receiver assembly etc.
{さまざまな実施形態では、保持シール100が、開口120と、聴覚装置20を保持する空洞140を画定する壁130とを有するシェル110を含む。好ましい実施形態では、少なくとも1つのシール100が、示されているように、実質的に骨部13に、聴覚装置20のレシーバ・アセンブリ25(または他の装置部分)を覆って同軸に配置されるように適合される。・・・・シール100は、外耳道10内で装置20を支持する主たる支持体となるように構成される。このシールはさらに、装置20が外耳道の壁10Wと接触することを防ぎ、したがって耳垢、水分および他の汚染物質に対して露出することを防ぐため、装置20の諸部分を実質的に取り囲むように構成される。そのために、骨部13の壁を含む外耳道の壁10Wの形状に実質的に従い、シールの表面と外耳道との間の音響シールを維持し、骨部13内を含む外耳道10内に装置をしっかりと保持するようにシール100を構成することができる。さらに、(頭部の運動、咀嚼などの際に起こりうる)外耳道の形状の変化に動的に従い、なおかつ外耳道内に装置をしっかりと保持するように、このシールを構成することもできる。聴覚装置を覆って同心または非同心に取り付けられるように、このシールを構成することができる。さらに、聴覚装置の特定のアセンブリまたは部分、例えばバッテリ・アセンブリ、レシーバ・アセンブリなどを覆って取り付けられ、あるいはこれらのアセンブリまたは部分に取り付けられるように、このシールを構成することもできる。}

[0051]The dimensions of the seal 100 including cavity 130 also desirably selected to accommodate the size and shape of hearing device 20 . In particular the inner diameter 140 D of cavity 140 can be selected to provide a gap G between hearing aid 20 and the shell walls 130 (see FIGS. 6A and 6B ) to provide for ventilation of the hearing aid as is discussed herein. The shell can be configured to provide a greater or lesser gap G depending upon the size and shape of the hearing aid (see FIGS. 6A and 6B ). In various embodiments, the shell can be configured to accommodate hearing aids having either a symmetrically aligned cap 90 s as shown in FIG. 6A or an asymmetrically aligned cap 90 a as shown in FIG. 6B . Also, the depth 140 L of the cavity can be configured such that shell walls 130 laterally extend past the lateral face 901 of cap 90 . Desirably, this amount of extension is no more than about 1 mm.
{空洞130を含むシール100の寸法も、聴覚装置20のサイズおよび形状に適合するように選択されることが望ましい。特定の実施形態では、空洞140の内径140Dを、本明細書で論じられる補聴器の通気のための隙間G(図6Aおよび6B参照)を補聴器20とシェル壁130の間に提供するように選択することができる。補聴器のサイズおよび形状(図6Aおよび6B参照)に応じてより大きなまたはより小さな隙間Gを提供するように、シェルを構成することができる。さまざまな実施形態では、図6Aに示された対称に整列されたキャップ90s、または図6Bに示された非対称に整列されたキャップ90aを有する補聴器に適合するように、シェルを構成することができる。また、空洞の深さ140Lは、シェル壁130が、キャップ90の外側の面90lよりも外側へ延びるように構成することができる。この延長量は約1mm以下であることが望ましい。}

(3)まとめ(相違点等の判断)
引用発明を出発点として、上記〔相違点の克服〕をして補正後発明に至ることは、刊行物1記載の発明に基づいて、または、刊行物1?刊行物3記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

[7]まとめ(理由:独立特許要件不適合(その1)
以上によれば、補正後の請求項1に係る発明は、上記刊行物1に記載された発明に基づいて、または、刊行物1?刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[8]独立特許要件不適合(その2)

補正後発明は、以下にみるように、前置審査報告で新たに引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特表2002-531035号公報(以下、「刊行物4」という。)に記載された発明である、または、同発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるということができ、このことからも、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(1)刊行物4(特表2002-531035号公報)の記載の摘示

【請求項98】 下記の(1)と(2)を有することを特徴とする、耳の開口部を通って使用者の外耳道内に完全に挿入される長期間半永久的に使用される聴覚装置:
(1)入ってきた音波を可聴音響信号に変換して使用者の鼓膜に伝える変換器手段と、動力を供給する電池とを有するコア組立体、
(2)聴覚装置を使用者の外耳道内に完全に挿入した時に外耳道の骨部に設置されて骨部を閉塞する密封リテーナであって、この密封リテーナは外耳道の骨部の縦軸線に沿ってコア組立体をしっかりと支持する手段を含み、この密封リテーナは外耳道の前記骨部に音密封性を与えてハウリングを阻止し、コア組立体は軟骨部分の所で外耳道を閉塞しない状態で外側へ延びた、外耳道の壁に最小限度の接触をするか、全く接触しない延長部分を含み、コア組立体のこの延長部分は毛および軟骨部の耳垢や壊死組織片の生成を妨げるのを実質的に避けることができる。
【請求項99】 コア組立体および密封リテーナが選択的に分離可能で、密封リテーナが使い捨て可能である請求項98に記載の聴覚装置。
【請求項100】 密封リテーナが十分に柔軟で且つ変形し易く、聴覚装置を外耳道内に完全に挿入した時に長期間外耳道内に装着できるように、密封リテーナ自体が外耳道の骨部の形状に適合する請求項98に記載の聴覚装置。
【請求項101】 密封リテーナがコア組立体を受け入れて、それをしっかり支持する空洞を含む請求項98に記載の聴覚装置。
【請求項112】 音響変換手段が音響信号を処理するための一体化された増幅手段を含むマイク組立体を有する請求項98に記載の聴覚装置。
【請求項113】 聴覚装置の少なくとも1つの電気音響パラメターを調整する手動で調整可能な手段をさらに含む請求項98に記載の聴覚装置。
【請求項114】 聴覚装置の電気音響パラメターを選択的に調整するプログラミング手段を有する請求項98に記載の聴覚装置。

【0002】
技術分野
本発明は聴覚装置(hearing device)、特に外耳道(ear canal)内に半永久的に配置されるエネルギー効率および原音忠実性に優れ、装着していることが目立たない聴覚装置(補聴器)に関するものである。
【0021】
【発明が解決しよとする課題】
本発明の第1の目的は、外耳道内に完全に装着するのに適した空間効率が高い聴覚装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、注文生産や外耳道の型取りを必要としない大量生産が可能な聴覚装置を提供することにある。
・・・(中略)・・・
半永久的な使用または長期使用とは、毎日であれそれ以外であれ、少なくとも1ヶ月間は全く取り外さずに外耳道内に装置を連続して装着して使用することを意味する。
【0022】
【課題を解決する手段】
本発明は、長期使用のために人の外耳道内に完全に装着れる半永久的な聴覚装置を提供する。本発明装置はほぼ外耳道の骨部に設置される密封リテーナと、密封リテーナの内部にそれと同軸に設置されるレシーバ組立体を有するコア組立体とで構成される。

【0026】
本発明は外耳道内に完全に配置するように改良され長期使用可能な半永久的な聴覚装置を提供する。
以下、本発明のカナル型聴覚装置30を図4?16を参照して説明する。
これらの図では共通する対象部品に対して同じ参照番号が用いられている。
本発明の聴覚装置30は一般に外耳道の骨部13内に実質的に配置されるコア組立体35と、密封リテーナ(固定具)70とを有している。コア組立体35はレシーバ(スピーカー)組立体60を含み、このレシーバ組立体60は密封リテーナ70内に同軸状に配置されている。
【0028】
図4?7の好ましい実施例では、密封リテーナ70は図示した通りレシーバ組立体60の周りに同軸状または同心状に実質的に骨部13に配置されるようになっている。密封リテーナ70は外耳道10内での本発明装置30の主支持体となるような形状を有している。そのため、密封リテーナ70は外耳道の骨部の壁14の形状に実質的に一致した形状を有し、本発明装置を外耳道10内に確実に保持する。マイクを収容したマイク組立体40は外耳道の壁にわずかに接触するか、全く接触せずに軟骨部11に非閉塞状態で配置されて、図4、図6(a)および6(b)に示すように、外耳道の壁との間に実質的な空隙49ができる。マイク組立体40の接触が最小になることによって軟骨部11で耳垢、その他の壊死組織片を自然に生じさせて、外部へ移動させることができる。一方、レシーバ組立体60は図7に示すように密封リテーナ70と組み合わされて外耳道の骨部13を閉塞する。
【0029】
マイク組立体40、電池組立体50およびレシーバ組立体60はそれぞれ別個のカプセル(encapsulation)45(図6(a)、6(b))、52(図11)および62(図7(a)、7(b))を有していしている。各カプセルはシリコン、パラレン(paralene)またはアクリル等の耐湿性材料または被覆を有するのが好ましい。この薄いカプセルは軟質シリコンで柔らかく作っても、硬質アクリル等で硬く作ってもよい。・・・(以下略)
【0034】
図4?6の好ましい実施例のマイク組立体40はマイク43、制御部品41(図5に示すボリュームトリマー)およびスイッチ組立体44を有する。・・・マイク43は信号処理増幅器と一体化されたマイクロフォン変換器(例ええばイリノイ州ItascaのKnoweles Electronics社のFI-33XX)からなる。一体化することによってマイク組立体のサイズが小さくなり、それによって外耳道の軟骨部内の閉塞効果がさらに減少する。また、図12の実施例の28に示すように信号処理増幅器を独立部品にしてもよい。
【0035】
図8は図4?7の実施例の電気音響回路の概念図である。マイクロフォン変換器および信号処理増幅器が内部に組み込まれたマイクMが外耳道に入る音響信号SMを拾い、増幅された電気信号をマイクMの端子OUTから出力する。次に、電気信号は一対のコンデンサC1とC2を介してレシーバRの入力(IN)端子へ伝達される。レシーバRは増幅された音響信号SRを出力し、鼓膜18(図4)へ伝達する。マイクMの出力(OUT)端子とハウリング(FB)端子を接続するボリュームトリマーRGを調整して電気音響回路のゲイン(ボリューム)を設定する。ジャンパーJ1(図5)を外して(例えば切断して)カップリング容量を減らして、電子工学の当業者に公知の方法で聴覚装置の周波数応答を変えることができる。他のジャンパー(図示せず)を組み込んで聴覚装置の調整可能なパラメター範囲を増加してもよい。コンデンサCRを用いてレシーバRの供給端子(+と-)の電源電圧(V+)を安定化する。
【0036】
図9は図8の電気音響回路を有する図4?7の実施例の装置の音響反応を耐湿ガードを用いて(または用いずに)測定したグラフである。詳細は実験Cで説明する。

【0044】
例えば図15に示す本発明の他の実施例では、円筒形電池51を実質的に外耳道10の骨部13に配置した聴覚装置130で用いている。コア組立体35のマイク端部132は軟骨部11を閉塞しないで外側へ延びている。レシーバ端部133は骨部13を音響的に密閉し、これに適合した密封リテーナ70内に同軸状に配置されている。0.3mm以下の薄いカプセル131は内部にマイク43、電池51およびレシーバ64を有するコア組立体35全体を保護している。・・・(以下略)
【0048】
密封リテーナは使い捨て可能で、外耳道内に安全に長時間装着するために生体適合性のある、低アレルゲン性のものでなくてはならない。・・・(以下略)

【0049】
本発明の半永久的聴覚装置は使い捨て電池、使い捨て電池容器または電池と容器が組み合わされた使い捨て電池組立体を有するが、電池、回路および変換器技術のエネルギー効率の改良は改善し続けているので、好ましい実施例では上記実施例のように分類された密封リテーナを有する使い捨てコア組立体にすることができる。
【0057】
実験C
図4?10の実施例の半永久的聴覚装置の原型を作成し、耳鼻科医(耳-鼻-咽喉の医者)が中レベルの高周波聴覚損失を患っている55歳の男性被験者の左外耳道に配置した。

(2)刊行物4に記載された発明(以下、「引用発明4」という。)

ア 概要
刊行物4には、「外耳道内に完全に装着するのに適した空間効率が高い聴覚装置」(段落【0021】)であって、「装着していることが目立たない聴覚装置(補聴器)(段落【0002】)を提供するもので、
(→引用発明4のh)
請求項98?101,112によれば、
基本、「聴覚装置」は、
「入ってきた音波を可聴音響信号に変換して使用者の鼓膜に伝える変換器手段と、動力を供給する電池とを有するコア組立体」と
「聴覚装置を使用者の外耳道内に完全に挿入した時に外耳道の骨部に設置されて骨部を閉塞する密封リテーナ」であって、「外耳道の骨部の縦軸線に沿ってコア組立体をしっかりと支持する手段を含む」ものである(請求項98)。
そして、「密封リテーナ」は「コア組立体を受け入れて、それをしっかり支持する空洞を含む」(請求項101)、「十分に柔軟で且つ変形し易く、聴覚装置を外耳道内に完全に挿入した時に長期間外耳道内に装着できるように、密封リテーナ自体が外耳道の骨部の形状に適合する」(請求項100)とされ、
「コア組立体および密封リテーナが選択的に分離可能で、密封リテーナが使い捨て可能」(請求項99)とされ、 (→引用発明4のi)
「音響変換手段が音響信号を処理するための一体化された増幅手段を含むマイク組立体を有する」(請求項112)とされる。

イ 実施例
実施例として図4?図16を参照する「カナル型聴覚装置」が示されていて、共通する対象部品に対して同じ参照番号を用いるとしている(段落【0026】)ところ、
図4?7、図10?13の実施例は、「マイク組立体40、電池組立体50およびレシーバ組立体60」が「それぞれ別個のカプセル」である45,52,62で構成されたものである(段落【0029】,該当図)のに対して、 図15の実施例(段落【0044】)では、1つの「カプセル131」を用い、「カプセル131は内部にマイク43、電池51およびレシーバ64を有するコア組立体35全体を保護している」(段落【0044】)ものが示されており、
上記ア、及び、図15の実施例に基づいて引用発明4を認定する。

ウ 図15の実施例(段落【0044】等)
ウ-1 段落【0044】には、図15に示される「聴覚装置130」であって、「円筒形電池51を外耳道10の骨部13に配置した」もので、「密封リテーナ70」と「密封リテーナ70内に同軸状に配置」されている「コア組立体35」を含み(図15)、
「カプセル131」は、「内部にマイク43、電池51およびレシーバ64を有するコア組立体35全体を保護」するものである。
すなわち、図15に示される聴覚装置130であって、円筒形電池51を外耳道10の骨部13に配置し、密封リテーナ70と密封リテーナ70内に同軸状に配置されているコア組立体35を含み(図15)、
コア組立体35は、マイク43、電池51およびレシーバ64を有するもので、その全体がカプセル131で保護されているものが認められる。
(→引用発明4のj)
ウ-2 信号処理
段落【0044】にはマイク43についての詳細な説明はないが、段落【0034】に「マイク43は信号処理増幅器と一体化されたマイクロフォン変換器(例ええば・・・)からなる。)」と記載されていて、図15の実施例もこれと同じマイク43と想定され(段落【0026】)、
段落【0035】によれば、その「信号処理増幅器」は「マイクM」で「拾」った「外耳道に入る音響信号SMを」「増幅」して端子OUTから出力するものであり、図8に示されるように、端子OUTから出力された「電気信号は一対のコンデンサC1とC2を介してレシーバRの入力(IN)端子へ伝達され」、「レシーバRは増幅された音響信号SRを出力し、鼓膜18(図4)へ伝達する」ようにされる。
また、「ジャンパーJ1(図5)を外して(例えば切断して)カップリング容量を減らして、電子工学の当業者に公知の方法で聴覚装置の周波数応答を変えることができる」とあり、その周波数応答特性は、例えば、図9に示される(段落【0036】)。

まとめれば、マイク43は、マイクMで拾った外耳道に入る音響信号SMを増幅して出力する信号処理増幅器と一体化されており、図8に示されるように、当該出力電気信号は一対のコンデンサC1とC2を介してレシーバRの入力(IN)端子へ伝達され、レシーバーRは音響信号SRを出力し鼓膜18へ伝達するようにされており、聴覚装置の周波数応答は図9に示されるようであって、ジャンパーJ1によりその周波数応答特性は可変とされている。 (→引用発明4のk)

ウ 引用発明4
以上を総合すれば、引用発明4として、下記の発明を認めることができる(便宜上、h?kに分説しておく)。
記(引用発明4)
h:外耳道内に完全に装着するのに適した空間効率が高く、装着していることが目立たないカナル型聴覚装置(補聴器)であって、
i:聴覚装置は、
入ってきた音波を可聴音響信号に変換して使用者の鼓膜に伝える変換器手段と、動力を供給する電池とを有するコア組立体と、
聴覚装置を使用者の外耳道内に完全に挿入した時に外耳道の骨部に設置されて骨部を閉塞する密封リテーナを有し、
密封リテーナは、コア組立体を受け入れて、それをしっかり支持する空洞を含み、十分に柔軟で且つ変形し易く、聴覚装置を外耳道内に完全に挿入した時に長期間外耳道内に装着できるように、密封リテーナ自体が外耳道の骨部の形状に適合するものであり、
コア組立体および密封リテーナが選択的に分離可能で、密封リテーナが使い捨て可能であり、
j:図15に示される聴覚装置130であって、円筒形電池51を外耳道10の骨部13に配置し、密封リテーナ70と密封リテーナ70内に同軸状に配置されているコア組立体35を含み、
コア組立体35は、マイク43、電池51およびレシーバ64を有するもので、その全体がカプセル131で保護されており、
k:マイク43は、マイクMで拾った外耳道に入る音響信号SMを増幅して出力する信号処理増幅器と一体化されており、図8に示されるように、当該出力電気信号は一対のコンデンサC1とC2を介してレシーバRの入力(IN)端子へ伝達され、レシーバーRは音響信号SRを出力し鼓膜18へ伝達するようにされており、聴覚装置の周波数応答は、例えば、図9に示されるようであって、ジャンパーJ1によりその周波数応答特性は可変とされている、
h:カナル型聴覚装置(補聴器)。

(3)補正後発明と引用発明4との対比,判断
補正後発明は、前記のとおりの要件A1,A2,A3,B,Cに分説され、要件Bはさらに、前記の要件B1?B3に分説される、

ア 要件C「補聴器」について
引用発明4も、h「外耳道内に完全に装着するのに適した空間効率が高く、装着していることが目立たないカナル型聴覚装置(補聴器)」であるから、この点、補正後発明と相違しない。

イ 要件A1につて
A1「ある可聴周波信号を聴力損失補償用の可聴周波信号に処理するための信号処理装置と、」
引用発明4の、マイク43における「マイクM」で「拾った外耳道に入る音響信号SM」(これが、「ある可聴周波信号」といえることは明らかである)は、マイクと一体化された「信号処理増幅器」と「一対のコンデンサC1とC2を介してレシーバRの入力(IN)端子」に至り、「レシーバーRは音響信号SRを出力し鼓膜18へ伝達する」ところ、
「信号処理増幅器」から「レシーバRの入力(IN)端子」に至るまで回路部分は、例えば、図9に示される周波数応答特性を有するものである。かかる周波数応答特性は、補聴器であることから、聴力損失を補償するための応答特性であることは自明であるから、レシーバRの入力(IN)端子においては、聴力損失を補償した可聴周波信号となっていることは明らかである。 したがって、引用発明4の、「信号処理増幅器」から「レシーバRの入力(IN)端子」に至るまで回路部分は、補正後発明でいう「ある可聴周波信号を聴力損失補償用の可聴周波信号に処理するための信号処理装置」ということができ、引用発明4は、要件A1において補正後発明と相違しない。

ウ 要件A2について
A2「この信号処理装置の出力部へ接続され、処理された補償ずみ可聴周波信号を音声信号に変換するための受信機と」
引用発明4の、レシーバーR(図15における64)が、「この信号処理装置の出力部へ接続され、処理された補償ずみ可聴周波信号を音声信号に変換するための受信機」といい得ることは、上記イ及び引用発明4の構成kから明らかである。
引用発明4は、要件A2において補正後発明と相違しない。

エ 要件A3「を収容するハウジングを有し、」について
引用発明4のjの「カプセル131」は、「マイク43、電池51およびレシーバ64を有する」「コア組立体35」全体を保護するものであり、図15からみても、上記イで検討した「信号処理増幅器からレシーバRの入力(IN)端子に至るまで回路部分」及び「レシーバ64(R)」を収容しているといえと共に「ハウジング」ともいい得るものである。
したがって、要件A3についても、補正後発明と引用発明4は相違しない。

オ 要件Bについて

オ-1 上記要件B1について
要件B1 「ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品」(「耳当て部品」が「ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成され」るものであること)
引用発明4の「密封リテーナ」は、
i「聴覚装置を使用者の外耳道内に完全に挿入した時に外耳道の骨部に設置されて骨部を閉塞する」ものであって、「コア組立体を受け入れて、それをしっかり支持する空洞を含み、十分に柔軟で且つ変形し易く、聴覚装置を外耳道内に完全に挿入した時に長期間外耳道内に装着できるように、密封リテーナ自体が外耳道の骨部の形状に適合するもの」であり、
j「図15に示される聴覚装置130であって、円筒形電池51を外耳道10の骨部13に配置し、密封リテーナ70と密封リテーナ70内に同軸状に配置されているコア組立体35を含み」とする、図15に示される「密封リテーナ70」であるから、補正後発明でいう「ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品」といえる。

オ-2 上記要件B2について
要件B2 「「ハウジング」が「耳当て部品」へ「取り付けられる」その「取り付けられ」方が、「前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるように」取り付けられること」

引用発明4は、i「密封リテーナは、コア組立体を受け入れて、それをしっかり支持する空洞を含み」とし、j「図15に示される聴覚装置130であって、・・・密封リテーナ70と密封リテーナ70内に同軸状に配置されているコア組立体35を含」むとするものであること、及び、
図15に示される態様、すなわち、「マイク43、電池51およびレシーバ64を有する」「コア組立体35」全体を保護する「カプセル131」(補正後発明でいう「ハウジング」)が、密封リテーナ70内に同軸状に配置されている、その態様、
からすれば、
「カプセル131」(ハウジング)は「密封リテーナ70」(耳当て部品)へ「取り付けられている」、といえると共に、その「取り付けられ」方が、「前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるように」取り付けられている、ともいうことができる。
したがって、引用発明4は、上記要件B2を満たす。

オ-3 上記要件B3について
要件B3 「「ハウジング」が「耳当て部品」へ「取り付けられる」その「取り付けられ」方が、「前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように」取り付けられること」

引用発明4の「カプセル131」(ハウジング)と「密封リテーナ70」(耳当て部品)の(ハウジングの)長さ方向長さについてみるに、図15には、「密封リテーナ70」の長手方向長さは、「カプセル131」の長手方向長さよりも短くしていること、が示されている。
すなわち、引用発明4は、上記要件B3を満たす。

オ-4(まとめ)
引用発明4も、「前記ハウジングは、ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品へ、前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるように、かつ、前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように取り付けられている」といえ、要件Bについても、補正後発明と相違しない。

カ まとめ(対比・判断)
以上の対比結果によれば、引用発明4は、要件A1、A2,A3,B,Cの全てを備えているといえ、補正後発明の全ての要件を備えている。
したがって、補正後発明は、刊行物4に記載された発明である。

また、仮に、補正後発明と引用発明4とに相違があったとしても、それは当業者が容易に克服し得る程度の微差にすぎず、補正後発明は、引用発明4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)まとめ(独立特許要件)
以上によれば、補正後の請求項1に係る発明は、上記刊行物4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
または、補正後の請求項1に係る発明は、上記刊行物4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

【第3】査定の当否(当審の判断)

[1]本願発明
平成25年6月12日付けの補正は上記のとおり却下する。
本願の請求項1?29に係る各発明は、本願特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?29に記載した事項により特定されるとおりのものと認められるところ、
その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記【第2-1】の補正前の【請求項1】のとおりであり、補正却下した補正後発明と同様に分説すれば、下記の通りであり、要件BBのみ補正後発明と異なる。

記(本願発明(請求項1))
A1:ある可聴周波信号を聴力損失補償用の可聴周波信号に処理するための信号処理装置と,
A2:この信号処理装置の出力部へ接続され,処理された補償ずみ可聴周波信号を音声信号に変換するための受信機と
A3:を収容するハウジングを有し,
BB:前記ハウジングは,ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品へ,前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるようにして取り付けられている
C :補聴器。

[2]引用発明,対比,判断
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表2000-506697号公報(上記刊行物1に同じ)には,前記「【第2-3】[3]」で認定したとおりの引用発明が認められ,
本願発明と引用発明との対応については,前記「【第2-3】[4]補正後発明と引用発明との対比」を援用する。

本願発明は,前記補正後発明における
要件B「前記ハウジングは,ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品へ,前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるように,かつ,前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように取り付けられている」が,
要件BB「前記ハウジングは,ユーザーの外耳道の中に配置すべく構成された耳当て部品へ,前記ハウジングが耳当て部品の中心部分を通って延びるようにして取り付けられている」であり(その他の要件は補正後発明と同じである),
補正前請求項1記載の特定事項について,
実質的に,前記「【第2-3】[4](2)」に示した要件B3である「前記ハウジングは,耳当て部品へ,前記耳当て部品の長手方向長さが前記ハウジングの長手方向長さよりも短くなるように取り付けられている」を削除したものであるところ,
当該要件B3は,補正後発明と引用発明の唯一の相違点である(前記「【第2-3】[5])から,
引用発明は,本願発明の全ての要件を備えているということができ,本願発明と引用発明には相違がない。
したがって,本願発明は,刊行物4に記載された発明である。

また,仮に,本願発明と引用発明とに相違があったとしても,それは当業者が容易に克服し得る程度の微差にすぎず,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


[3]まとめ
本願発明は,上記刊行物1に記載された発明である。
または,本願発明は,上記刊行物1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

【第4】むすび
以上のとおりであるから,
本願の請求項1に係る発明は,上記刊行物1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
または,本願の請求項1に係る発明は,上記刊行物1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願の他の請求項について特に検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-06 
結審通知日 2014-02-12 
審決日 2014-02-26 
出願番号 特願2009-515706(P2009-515706)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04R)
P 1 8・ 113- Z (H04R)
P 1 8・ 121- Z (H04R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴垣 俊男▲吉▼澤 雅博  
特許庁審判長 乾 雅浩
特許庁審判官 酒井 伸芳
石井 研一
発明の名称 細長部材を有する補聴器  
代理人 冨田 雅己  
代理人 野河 信太郎  
代理人 金子 裕輔  
代理人 稲本 潔  
代理人 甲斐 伸二  

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