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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C22C 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C22C 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 C22C |
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管理番号 | 1289621 |
審判番号 | 不服2013-14690 |
総通号数 | 176 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-08-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-07-31 |
確定日 | 2014-07-29 |
事件の表示 | 特願2008-168978「熱間型鍛造用の生体用Co基合金素材及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 3月 5日出願公開、特開2009- 46760、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年6月27日(優先権主張、平成19年7月24日)の出願であって、平成24年10月3日付けで拒絶理由が通知され、同年11月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成25年2月14日付けで拒絶理由が通知され、同年4月5日付けで意見書が提出され、同年5月27日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年7月31日に拒絶査定不服審判の請求がされ、その後、当審において、平成26年5月16日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年6月6日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明について 本願の請求項1?8に係る発明は、平成26年6月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものと認められる。 本願の請求項1?8に係る発明(以下、「本願発明1?8」という。)は以下のとおりである。 「【請求項1】 熱間での型鍛造に供される生体用Co基合金素材であって、Cr:26?30質量%、Mo:5?8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05?0.25質量%、O:100質量ppm以下(0質量ppmを含まず)を含有し、残部がCo及び不可避的不純物からなると共に、結晶粒径の平均値が50?1000μmであることを特徴とする熱間型鍛造用の生体用Co基合金素材。 【請求項2】 熱間での型鍛造に供される生体用Co基合金素材であって、Cr:26?30質量%、Mo:5?8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05?0.25質量%、O:100質量ppm以下(0質量ppmを含まず)、Si:0.5?1.0質量%、Mn:0.5?1.0質量%を含有し、残部がCo及び不可避的不純物からなると共に、結晶粒径の平均値が50?1000μmであることを特徴とする熱間型鍛造用の生体用Co基合金素材。 【請求項3】 Cr:26?30質量%、Mo:5?8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05?0.25質量%、O:100質量ppm以下(0質量ppmを含まず)を含有し、残部がCo及び不可避的不純物からなるCo基合金の鋳塊を得、これを1000?1250℃に加熱することを特徴とする熱間型鍛造用の生体用Co基合金素材の製造方法。 【請求項4】 Cr:26?30質量%、Mo:5?8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05?0.25質量%、O:100質量ppm以下(0質量ppmを含まず)を含有し、残部がCo及び不可避的不純物からなるCo基合金の鋳塊を得、これを1000?1250℃に加熱し、熱間加工して熱間型鍛造用の形状にすることを特徴とする熱間型鍛造用の生体用Co基合金素材の製造方法。 【請求項5】 Cr:26?30質量%、Mo:5?8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05?0.25質量%、O:100質量ppm以下(0質量ppmを含まず)を含有し、残部がCo及び不可避的不純物からなるCo基合金の鋳塊を得、これを1000?1250℃に加熱し、熱間加工して熱間型鍛造用の形状にした後、1000?1250℃に加熱することを特徴とする熱間型鍛造用の生体用Co基合金素材の製造方法。 【請求項6】 Cr:26?30質量%、Mo:5?8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05?0.25質量%、O:100質量ppm以下(0質量ppmを含まず)、Si:0.5?1.0質量%、Mn:0.5?1.0質量%を含有し、残部がCo及び不可避的不純物からなるCo基合金の鋳塊を得、これを1000?1250℃に加熱することを特徴とする熱間型鍛造用の生体用Co基合金素材の製造方法。 【請求項7】 Cr:26?30質量%、Mo:5?8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05?0.25質量%、O:100質量ppm以下(0質量ppmを含まず)、Si:0.5?1.0質量%、Mn:0.5?1.0質量%を含有し、残部がCo及び不可避的不純物からなるCo基合金の鋳塊を得、これを1000?1250℃に加熱し、熱間加工して熱間型鍛造用の形状にすることを特徴とする熱間型鍛造用の生体用Co基合金素材の製造方法。 【請求項8】 Cr:26?30質量%、Mo:5?8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05?0.25質量%、O:100質量ppm以下(0質量ppmを含まず)、Si:0.5?1.0質量%、Mn:0.5?1.0質量%を含有し、残部がCo及び不可避的不純物からなるCo基合金の鋳塊を得、これを1000?1250℃に加熱し、熱間加工して熱間型鍛造用の形状にした後、1000?1250℃に加熱することを特徴とする熱間型鍛造用の生体用Co基合金素材の製造方法。」 第3 原査定の拒絶の理由について 1.原査定の拒絶の理由の概要 本願発明1、3、4は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1、2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 本願発明2、6は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1、2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物1 Hsang-Chung Hsu、Shuang-Shii Lian,Wear properties of Co-Cr-Mo-N plasma-melted surgical implant alloys,Journal of Materials Processing Technology,2003年7月20日,Vol.138 ,Page.231-235 刊行物2 特開2003-49249号公報 2.刊行物の記載事項 (1)刊行物1の記載事項 本願の優先権主張日前に外国において頒布され、原査定の根拠となった刊行物1には、次の記載がある(翻訳は、当合議体が作成したものである。)。 1-1 表題には、「Wear properties of Co-Cr-Mo-N plasma-melted surgical implant alloys」(Co-Cr-Mo-Nプラズマ溶解外科用インプラント合金の摩耗特性)と記載されている。 1-2 第232頁の「2.Experimental procedure」(2.実験方法)には、 「(f)Gleeble testing: Samples・・・were heated to different teperatures (900,1000,1100,1200,1300℃) to determine the optimum forging teperature.」 ((f)グリーブルテスト:サンプルは、・・・最適鍛造温度を決定するために異なる温度(900、1000、1100、1200、1300℃)に加熱される。) 「(g)Forging: The melting ingots were then subjected to forging, with a forging ratio of 25%.」((g)鍛造:それから溶解インゴットは、25%の鍛造比で鍛造に供される。)と記載されている。 1-3 第233頁のTable3に、HPPMC0N1として下記の組成が記載されている。 1-4 第234頁のTable5に、HPPMC0N1として下記の結晶粒サイズが記載されている。 (2)刊行物2の記載事項 本願の優先権主張日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった刊行物2には、次の記載がある。 2-1 「【請求項1】 質量%でC:0.2 %以下、Si:0.1?2.0 %、Mn:0.1?3.0 %以下、Co:30 ?76%、Ni:10 ?40%、Cr:10 ?30%、Mo:3?20%、不純物であるOは0.01%以下、S:0.02%以下、Be:0.03 %未満(0% を含む) 、残部は実質的にFeからなることを特徴とするガイドワイヤ用材料。」 2-2 「【0017】・・・Oは溶製時に材料内に不可避に混入する不純物元素であり、材料を脆化させる元素である。そのため脱酸効果を有するSi及びMnの複合添加により極力低減する必要がある。Oが0.01%より多いと酸化物系の介在物が多く形成され、冷間加工時や使用時に破断する可能性があることからOは0.01%以下とする。」 3.刊行物1に記載された発明 刊行物1には、「Cr29.3wt%、Mo6.02wt%、Ni0.122wt%、Fe0.109wt%、C0.033wt%、Si0.073wt%、Mn0.034wt%、O0.013wt%、N0.096wt%、残部CoのCo-Cr-Mo合金」が記載され(1-3)、当該合金の結晶粒サイズは、「50μm、82μm、136μm」のいずれかであり(1-4)、当該合金は、「900、1000、1100、1200、1300℃」のいずれかの温度で鍛造される(1-2)「外科用インプラント合金」(1-1)が記載されている。 これらの記載事項から、刊行物1には、「Cr29.3wt%、Mo6.02wt%、Ni0.122wt%、Fe0.109wt%、C0.033wt%、Si0.073wt%、Mn0.034wt%、O0.013wt%、N0.096wt%、残部CoのCo-Cr-Mo合金であり、当該合金の結晶粒サイズは、50μm、82μm、136μmのいずれかであり、当該合金は、900、1000、1100、1200、1300℃のいずれかの温度で鍛造される外科用インプラント合金」(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 4.対比・判断 (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「Cr29.3wt%、Mo6.02wt%、C0.033wt%、N0.096wt%」は、本願発明1の「Cr:26?30質量%、Mo:5?8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05?0.25質量%」の組成範囲に含まれ、引用発明の「当該合金の結晶粒サイズは、50μm、82μm、136μmのいずれか」は、本願発明1の「結晶粒径の平均値が50?1000μm」の範囲内にあり、引用発明の「当該合金は、900、1000、1100、1200、1300℃のいずれかの温度で鍛造される」、「外科用インプラント合金」は、それぞれ本願発明1の「熱間型鍛造用」、「生体用合金」に相当する。 さらに、引用発明にも何らかの不可避的不純物が含まれることは明らかである。 よって、本願発明1と引用発明は、熱間での型鍛造に供される生体用Co基合金素材であって、Cr:26?30質量%、Mo:5?8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05?0.25質量%、を含有し、残部がCo及び不可避的不純物を含むと共に、結晶粒径の平均値が50?1000μmである熱間型鍛造用の生体用Co基合金素材の点で一致している。 他方、本願発明1は、「O:100質量ppm以下(0質量ppmを含まず)」を含有するのに対して、引用発明は、「O0.013wt%」、すなわち130ppmのOを含有する点(以下、「相違点1」という。)、本願発明1に不可避的不純物として含有されるNi、Fe、Si、Mnが、引用発明において不可避的不純物であるのか不明な点(以下、「相違点2」という。)で相違している。 (2)判断 ア.上記相違点1について検討する。 刊行物2に記載された技術的事項を考慮しつつ、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項が導出できるかについて検討するに、引用発明に刊行物2に記載された技術的事項を適用することはできない。 確かに、刊行物2には、Coを30?76%含有するガイドワイヤ用材料において(2-1)、Oを100ppm以下に限定すること(2-2)が記載されており、ガイドワイヤ用材料は、生体用材料の一種といえるから、引用発明に刊行物2に記載されたOを100ppm以下に限定するという技術的事項を適用すれば、上記相違点が解消するとも思える。 しかし、以下に述べるように、このような考えを採用することはできない。 まず、Niが人体に対し発がん性等を有する危険な金属であることは周知である(特開平3-199441号公報第1頁右欄第11?13行、特開平5-137739号公報【0006】、特開平8-164195号公報【0005】、特開2002-52078号公報【0004】)。 次に、引用発明は、人体に常時使用する「外科用インプラント合金」であるが(1-1)、刊行物2に記載されたガイドワイヤ用材料は、「医療用器具であるカテーテルを血管、心臓、消化管、気管、その他体腔内の所定部位まで導入するため」のものであり(【0002】)、人体への一時的な使用にとどまり、人体に常時使用しておくものではない。そこで、刊行物2に記載されたガイドワイヤ用材料では、Niが10?40%含まれていても、Niの有害性が顕在化しないものと解される。 とすれば、Niが10?40%も含まれる(2-1)人体への一時的な使用を前提とした刊行物2に記載されたガイドワイヤ用材料を、Niをわずか0.122%しか含まない(1-3)人体に常時使用するインプラント合金である引用発明に適用することについて、当該適用の動機付けを阻害する要因があるというべきである。 したがって、引用発明に刊行物2に記載された技術的事項を適用できないので、上記相違点1を解消することはできない。 イ.上記相違点2について検討する。 引用発明に含有されるNi、Fe、Si、Mnが引用発明において不可避的不純物であるとの根拠はないから、上記相違点2を解消することはできない。。 (3)小括 したがって、本願発明1は、引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 また、本願発明2?8は、それぞれ本願発明1に係る発明特定事項である「O:100質量ppm以下(0質量ppmを含まず)」を含んでいるところ、上記で検討した理由により、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 第4 当審拒絶理由について 1.当審拒絶理由の概要 (1)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 請求項1、3?5には、「不可避的不純物」と記載されているところ、不可避的不純物は、有意な作用をしない成分と解するのが自然である。 そして、本願発明において、「不可避的不純物」とは、「Ni、Fe、Si、Mn、O」(【0034】【表1】)乃至「Ni、Fe、Si、Mn、V、W、O等」であって「これらの含有量が、それぞれ1%未満の場合」(【0029】)と解するのが相当である。 しかるに、請求項2、6には、「生体用Co基合金を固溶強化し、強度を上げるととともに、熱間加工時およびその直後の空冷において、粒成長を幾分抑制する効果がある」(【0031】)という有意な作用をする成分として、Si、Mnが規定されており、請求項1、3?5に記載される「不可避的不純物」の記載と矛盾している。 (2)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 「この不可避的不純物には、Ni、Fe、Si、Mn、V、W、O等がある。」(【0029】)及び「上記Co基合金(合金1?4)は、Ni、Fe、Si、Mn、Oを含有するが、これらはいずれも不可避的不純物である。」(【0034】【表1】)は、「SiおよびMnは生体用Co基合金を固溶強化し、強度を上げるととともに、熱間加工時およびその直後の空冷において、粒成長を幾分抑制する効果がある。」(【0031】)の記載と矛盾しており、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 2.当審の判断 (1)平成26年6月6日付け手続補正によって、引用形式で記載されていた請求項2が独立形式で記載され、補正前の請求項3?5を引用する形式で記載された補正前の請求項6が引用形式から独立形式で記載されると共に、補正前の明細書の【0029】および【0034】からSi、Mnを削除する補正がされた。 当該補正により、不可避不純物と有意な成分の両面を有するようにも解されたSi、Mnが有意な成分であることが明らかになったから、全ての請求項に係る発明は明確となった。 よって、当審拒絶理由(1)は解消した。 (2)上記補正により、不可避不純物と有意な成分の両面を有するようにも解されたSi、Mnが有意な成分であることが明らかになったから、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が全ての請求項に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されるものになった。 よって、当審拒絶理由(2)は解消した。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-07-10 |
出願番号 | 特願2008-168978(P2008-168978) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C22C)
P 1 8・ 536- WY (C22C) P 1 8・ 537- WY (C22C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 本多 仁 |
特許庁審判長 |
鈴木 正紀 |
特許庁審判官 |
池渕 立 小柳 健悟 |
発明の名称 | 熱間型鍛造用の生体用Co基合金素材及びその製造方法 |
代理人 | 坂谷 亨 |
代理人 | 竹中 芳通 |
代理人 | 武仲 宏典 |
代理人 | 亀岡 誠司 |