• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1289980
審判番号 不服2013-10474  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-05 
確定日 2014-07-17 
事件の表示 特願2008-276375「ハードコートフィルムおよびそれを用いた反射防止フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月13日出願公開、特開2010-107542〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)手続の経緯
本願は、平成20年10月28日の出願であって、平成24年11月21日付けで手続補正がなされ、平成25年2月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月5日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において、平成26年2月25日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年4月28日付けで手続補正がなされたものである。
なお、請求人は、当審拒絶理由に対して平成26年4月28日付けで意見書を提出している。

(2)本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成26年4月28日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載の事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、平成26年4月28日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものであると認める。

「透光性基材の一方の面に、ハードコート層を有するハードコートフィルムであって、
前記透光性基材と前記ハードコート層の間にプライマー層を有し、
前記プライマー層の光学膜厚が130nm?160nmであり、
前記ハードコート層の膜厚が0.9μm?2.0μmであり、
波長300nm?800nmにおける前記ハードコート層面に対する反射率の振幅の各山を結んだ線を山線、前記反射率の振幅の各谷を結んだ線を谷線、前記山線と前記谷線との差が最小となるときの波長をリップル節とし、
前記ハードコート層が形成されていない面を紙やすりで削り、さらに、黒の油性フェルトペンで黒く塗りつぶした後、分光反射率測定装置“MCPD-3000”(大塚電子株式会社製)により、波長300nm?800nmの範囲について測定した、前記ハードコート層面に対する反射率のリップル節が波長500nm?650nmに存在し、かつ、前記リップル節における前記反射率の振幅の大きさが0.5%以下であり、
前記透光性基材の屈折率をn_(B)、前記ハードコート層の屈折率をn_(F)、前記プライマー層の屈折率をn_(P)としたとき、n_(F)≦n_(P)≦n_(B)またはn_(F)≧n_(P)≧n_(B)を満たすハードコートフィルム。」(以下「本願発明」という。)

2 刊行物の記載事項
当審拒絶理由で引用した「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2007-253512号公報(以下「引用例」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている(下線は審決で付した。)。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルムに関し、詳しくはハードコート積層時の干渉色むらを低減し、ハードコートとの耐湿密着性を煮沸試験に耐えうるレベルまで向上させ、かつハードコートを設置しない状態での加熱時析出するオリゴマーの大きさを小さく抑えることのできる光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルムに関し、更に詳しくは、ハードコートフィルムとしてタッチパネルや反射防止フィルムに好適に使用できるようにするための光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル(PET、PENなど)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、トリアセチルセルロース(TAC)、非晶性ポリオレフィン(非晶PO)などの透明プラスティックフィルムは、ガラスと比べて、軽量・割れにくい・曲げられるといった好適な性質を持つため、液晶ディスプイ(LCD)やプラズマディスプレイ(PDP)などのフラットパネルディスプレイ(FPD)用部材や、銘板、窓貼りフィルムの基材として用いられている。中でも、二軸延伸ポリエステルフィルムは、機械的性質、電気的性質、寸法安定性、耐熱性、透明性、耐薬品性などに優れた性質を有する上に、他の透明プラスティックフィルムに比べて、汎用性が高く、コストメリットに大きな優位性があるため、かかる用途に好適に用いられている。
【0003】
しかし、二軸延伸ポリエステルフィルム単体では達成できない物性を要求する用途もある。例えば、二軸延伸ポリエステルフィルムは表面硬度が低く、また、耐摩耗性も不足しているため、フラットパネルディスプレイの保護フィルムや反射防止フィルム、タッチパネル、表示板、銘板、窓貼りフィルムなど、物品の表面に貼られる用途の場合、鋭利な物体との接触や摩擦などによって表面に損傷を受けやすい。このため、二軸延伸ポリエステルフィルムの表面にハードコート層を設け、耐スクラッチ性、耐摩耗性を向上させることが知られている(例えば、特許文献1など)。このハードコート層としては、硬度や耐久性、生産性の点でアクリル系ハードコートが好適に用いられているが、反射防止フィルム、タッチパネル、銘板、窓貼りフィルムなどの基材として用いられる場合、ハードコート層にも透明性が要求される。かかる構成を有する従来のフィルムとして、例えば、特許文献2のフィルムが挙げられる。これは、実質的に外部粒子を含まない高透明な二軸延伸ポリエステルフィルムに積層膜を施してハードコート層との接着性を向上させた、耐久性に優れた高透明表面保護フィルムに関する発明である。他には、二軸延伸ポリエステルフィルムは耐候性がなく、窓貼りフィルム、農業用フィルムといった屋外での物品の表面に長期使用される場合、アクリル系バインダーに紫外線吸収剤を含んだ層を二軸延伸ポリエステルフィルム上に積層することが検討されている(特許文献3参照)。
【0004】
しかし、前述した従来の技術をタッチパネル用途や反射防止フィルム用途に用いる場合には次の3点の問題点がある。
【0005】
1つ目は干渉色むらに関してである。二軸延伸ポリエステルフィルムの面方向屈折率は一般的に1.66程度あり、アクリル系樹脂層の屈折率は一般的に1.5程度である。この屈折率差のため、二軸延伸ポリエステルフィルムとアクリル系樹脂層の界面で干渉が生じ、積層フィルム表面に色斑感が発生する。この色斑感は、積層フィルムが透明なほど、そして、太陽光や白熱灯より三波長蛍光灯という特殊な蛍光灯下で感知される。一方、屈折率が1.5程度あるトリアセチルセルロースフィルムの場合、アクリル系樹脂層を設けても屈折率差がないため、色斑は生じないが、コストが高く、取り扱い性も悪い。現在では、コストの安い二軸延伸ポリエステルフィルムを使用したハードコートフィルムにおいて、この干渉色むらに関しては強い改良要望がある。
【0006】
2つ目には耐湿性に関してである。具体的には積層ポリエステルフィルムとハードコートの接着の耐湿性に関してであり、特に携帯用機器に用いられるハードコートフィルムに強く求められる。携帯用機器は浴室、高温多湿地域、寒冷地での結露等にも耐えうる耐湿性が要求される。これまでは250時間?500時間にも及ぶ耐湿性検査が実施されていたが、検査工数の短縮及び究極の耐湿性を求めるため、昨今では煮沸試験が課されるようになってきている。公知例としては、積層膜に水分散性ポリエステル樹脂を使用しながら高温耐湿性の改良を施した例が開示されているが(特許文献4参照)、煮沸試験に耐えうるものではなかった。
【0007】
3つ目には加熱時に積層フィルムの表面にオリゴマーが析出する事である。特にタッチパネル用途に用いられる場合には、電極となるITO導電膜を形成する際に100?200℃の温度がかけられる。その場合にポリエステルフィルムから発生するオリゴマーによって、ITO導電膜の導電不良になったり、オリゴマーが輝点欠点となってディスプレイ上で見える、ヘイズが上がるといった不具合が生じる。反射防止フィルムの場合はそれほど強い加熱を一度に受けるわけではないが、高温地域でのオリゴマー析出、長期保管時の経時オリゴマー析出で、同様な不具合を生じる場合がある。オリゴマーに関する公知例としては多数あり光学フィルム用途としても、積層膜を施すことでオリゴマー析出を防止できるとする特許が存在するが(特許文献5参照)、積層膜についての詳細記載はなく、積層膜の構成についての鋭意検討無しには本用途には適用できなかった。

・・・略・・・

【0008】
本発明の目的は、二軸延伸ポリエステルフィルムを用いた透明積層フィルム従来の利点を有したまま、ハードコート加工時の干渉色むらの軽減と接着性の煮沸試験耐性の向上、加熱時の加熱析出オリゴマーの低減を実現する光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルムを提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、
屈折率が1.55?1.62かつ膜厚が50?150nmの積層膜(A)を有し、積層膜(A)上に屈折率が1.45?1.55のハードコートを積層した後の該面の450?600nmにおける分光反射率のリップルの振幅が2.0%以下、かつ1時間煮沸後のハードコート密着力が90%以上、積層膜(A)上にハードコートを積層しない状態での150℃60分加熱後の積層膜(A)上に析出するオリゴマー粒1つ当たりのサイズが面積換算で30μm2以下であることを特徴とする光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルム、
(2)積層膜(A)が2種類のポリエステル樹脂(a)と(b)を含み、それぞれのガラス転移点Tg(a),Tg(b)が下記範囲であることを特徴とする請求項1に記載の光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルム、
105℃≦Tg(a)≦135℃
65℃≦Tg(b)≦95℃
(3)積層膜(A)が、積層膜(A)全体を100wt%として、ポリエステル樹脂(a)と(b)を合わせて50wt%以上83wt%以下含み、メラミン系架橋剤を15wt%以上48wt%以下、オキサゾリン系架橋剤を2wt%以上35wt%以下含むことを特徴とする請求項1または2に記載の光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルム、
(4)積層膜(A)に含まれるポリエステル樹脂(a)と(b)が下記構成であることを特徴とする請求項1?3いずれかに記載の光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルム、
ポリエステル樹脂(a)
酸成分に2,6-ナフタレンジカルボン酸とSSIA(ソディウム・スルホネート・イソフタル酸)を含み、ジオール成分にエチレングリコールを含み、酸性分中のSSIAの含有モル比率が、酸性分全体を50として、2/50?15/50の範囲内とする。
【0010】
ポリエステル樹脂(b)
酸成分にテレフタル酸とトリメリット酸を含み、ジオール成分にエチレングリコールを含み、酸性分中のトリメリット酸の含有モル比率が、酸性分全体を50として、2/50?20/50の範囲内とする。
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、二軸延伸ポリエステルフィルムを用いた透明積層フィルム従来の利点を有したまま、ハードコート加工時の干渉色むらの軽減と接着性の煮沸試験耐性の向上、
加熱時の加熱析出オリゴマーの低減を実現する光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルムを提供することができた。」

(2)「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルムとは、ポリエステルの基材フィルムの上に積層膜(A)が片面もしくは両面に設けられたものである。以下に本発明における積層膜(A)について述べる。
【0013】
ハードコート後の干渉色ムラを低減するためには、積層膜(A)上に屈折率が1.45?1.55のハードコートを積層した後の450?600nmにおける分光反射率のリップルの振幅が2.0%以下であることが必要であり、更に好ましくは1.5%以下である。この範囲であれば、色むらの差が小さく目立たなくなり、ディスプレイ上で人間の目で検知されないレベルとなる。二軸延伸ポリエステルフィルム上に数μm程度のアクリル系樹脂からなるハードコート層を設けた場合、ハードコート層表面の分光反射率にリップルと呼ばれるうねりが生じる(図2)。二軸延伸ポリエステルフィルムの面方向平均屈折率は1.66程度であり、アクリル系ハードコート層の屈折率は1.50程度であるため、両者の屈折率差は0.16程度と大きく、リップルの振幅が大きく、結果、反射率のムラすなわち色斑が顕著になる。特に、ある特定の狭い波長範囲で発光する三波長蛍光灯の場合、かかる狭い発光波長範囲では、ハードコート層の膜厚変動により生じるリップルの変動と発光波長領域のズレが大きくなり、色斑が助長される。そこで、かかる二軸延伸ポリエステルフィルムとハードコート層の間に、両者の屈折率の中間程度の屈折率を有する積層膜(A)を設けることでリップルの振幅を軽減することを可能とするものである。
すなわち、積層膜(A)の屈折率は1.55?1.62が好ましく、より好ましくは、1.57?1.61である。1.55より小さい場合は、アクリル系ハードコート層の屈折率に近くなり、二軸延伸ポリエステルフィルムとの屈折率差が大きくなるため、リップルの振幅は大きくなり色斑は顕著になる。逆に、1.62より大きい場合は、二軸延伸ポリエステルフィルムの屈折率に近くなり、アクリル系ハードコート層との屈折率差が大きくなるため、リップルの振幅は大きくなり色斑は顕著になる。また、かかる積層膜(A)の厚みは、リップルの大きな節を可視光領域(380?780nm)に存在せしめるために、50nm?150nmが好ましく、より好ましくは、70?120nmである。50nmより小さい場合は、リップルの大きな節が紫外領域にシフトするため、可視光領域でのリップルの振幅が大きくなり、150nmより大きい場合は、リップルの大きな節が赤外領域にシフトするため可視光領域でのリップルの振幅が大きくなり、好ましくない。なお、リップルの大きな節とは、積層膜(A)の存在により二軸延伸ポリエステルフィルムとハードコート層のリップルの振幅が波長依存性を持ち、リップルの振幅が極小となる節のことを言う(図3)。
【0014】
干渉色むら対策として、積層膜(A)の屈折率を1.55?1.62にするためには、積層膜(A)の主剤の樹脂をポリエステルにすることが好ましい。もちろん補助的にアクリル樹脂やウレタン樹脂を併用しても良いが、あくまでも主剤はポリエステル樹脂が好ましく、積層膜(A)構成要素全体に対して50部以上であることが好ましい。高屈折率を実現するためのポリエステル樹脂(a)はガラス転移点の高い樹脂が好ましい。ガラス転移点Tg(a)は105℃以上135℃未満が好ましく、更に好ましくは110℃以上130℃未満である。ガラス転移点Tg(a)が105℃未満では屈折率を高くすることができず、また135℃以上では横延伸時の熱量がそれに比べ低いため塗膜亀裂が発生することになり好ましくない。例としては酸性分に2,6-ナフタレンジカルボン酸を用いたものが好ましい。
また、ポリエステル樹脂(a)は水分散が非常に難しいものであるため、接着性、また後述する耐湿性や加熱析出オリゴマーの観点で考えれば、別種のポリエステル樹脂(b)を併用する事が好ましく、このポリエステル樹脂(b)のガラス転移点Tg(b)は65℃以上95℃未満が好ましく、更に好ましくは70℃以上90℃未満である。例としてはこのポリエステル樹脂(b)には酸性分としてテレフタル酸を使用することが好ましい。積層膜(A)の屈折率はポリエステル(a)の(b)に対する混合重量比率によって左右されるが、屈折率、接着性、耐湿性、加熱オリゴマーを考慮した場合2:8?5:5が好ましい。

・・・略・・・

【0030】
最後に積層膜(A)上に設置されるハードコートについて述べる。本発明におけるハードコート層はアクリル樹脂を主成分とし、厚みは3μm?20μmである必要があり、5μm?15μmが好ましい。3μmを下回ると、硬度が不足したり、紫外線吸収剤を添加しても優れた耐候性が発現しないという問題が生じ、20μmを越えると、積層ポリエステルフィルムがカールしたりハードコートにクラック生じる可能性が高くなるためである。ハードコートの屈折率は、主成分がアクリル系であるため、1.47?1.53程度が普通である。金属粒子などを添加することで屈折率を1.53より大きくすることは可能であるが、ハードコートがヘイジーになったり、屈折率が1程度である空気との屈折率差が大きくなるため、ハードコート表面の反射率が上昇するため好ましくない。また、基材である積層二軸延伸ポリエステルフィルムとの接着力が高い方が好ましく、更に、表面硬度は3H以上であることが好ましい。」

(3)「【実施例】
【0033】
本発明における評価基準は次の通りである。
(1)積層膜(A)及びハードコートの屈折率
用いる樹脂を乾燥固化または活性線硬化させた膜厚1mm程度の膜について、アタゴ社製アッベ屈折計を用い、JIS-K-7105に従って測定した。すなわち、光源をナトリウムランプ(Na-D線)として、マウント液はヨウ化メチレンを用い、23℃、相対湿度65%下で、直交する2つの方向の複屈折率を測定し、その平均値を屈折率とした。
【0034】
また積層膜(A)の屈折率を測定する他の方法として、積層二軸延伸ポリエステルフィルムの分光反射率を下記(3)の方法で測定し、積層膜の厚みを下記(2)の方法で測定し、下式1にフィッティングすることでも求めることができる。
式1
R=1-4n_(1)^(2)n_(0)/{n_(1)^(2)(1+n_(0))^(2)+(1-n_(1)^(2))(n_(0)^(2)-n_(1)^(2))sin^(2)(2πn_(1)d_(1)/λ)}
ただし、n_(0):二軸延伸ポリエステルフィルムの面方向平均屈折率
n_(1):積層膜(A)の屈折率
d_(1):積層膜(A)の膜厚
λ:波長(入射角は0度と近似)
R:λにおける積層ポリエステルフィルムの分光反射率
またハードコートの屈折率を測定する他の方法として、ハードコートの表面の分光反射率を下記(3)の方法で測定し、ハードコートの厚みを下記(8)の方法で測定し、下式2にフィッティングすることでも求めることができる。
【0035】
式2
d=Δm/{2(n-sin^(2)θ)^(1/2)(λ_(2)-1-λ_(1)-1)}
ただし、λ_(1)、λ_(2):リップルの2つの山または谷の波長
Δm:λ_(1)、λ_(2)の間の干渉次数(リップルの数)
θ:入射角
d:ハードコートの膜厚
n:ハードコートの屈折率
(2)積層膜(A)の厚み
積層二軸延伸ポリエステルフィルムの断面を凍結超薄切片法にて切り出し、RuO_(4)染色による染色超薄切片法により、日立製作所製透過型電子顕微鏡H-7100FA型を用い、加速電圧100kVにて積層膜部の観察、写真撮影を行った。その断面写真から任意の5箇所の積層膜の厚みを拡大倍率から計算し平均化したものである。
(3)ハードコート後の450?600nmにおける分光反射率のリップルの振幅
ハードコートとは反対の面に、ヤマト社製黒ビニールテープ200-38を貼り付けてサンプルを調整した。JIS-Z8722に従って、島津製作所製分光光度計「UV-2450PC」(受光部に積分球使用)を用いて前述で調整したサンプルのハードコート側の入射角5度の絶対反射率を測定し、図2、図3のようにリップルの振幅を測定した。このとき、光源はF10、視野角は2度にて計算した。
(4)1時間煮沸後のハードコート密着力
積層二軸延伸ポリエステルフィルムの積層膜(A)上にハードコートを積層させたハードコートフィルムを100mm×100mmの大きさに切りだし、純水からなる沸騰した湯(100℃)の中に該フィルム切片を1時間入れた。その後該フィルム片を取り出し乾燥させた後、ハードコート上に1mm2のクロスカットを100個入れ、ニチバン社製セロハンテープ(登録商標)をその上に貼り付け、指で強く押し付けた後、90°方向に剥離し、ハードコートが残存した個数により評価を行った。
(5)150℃60分間加熱後の積層膜(A)上の析出オリゴマー粒の1つ当たりのサイズ
積層ポリエステルフィルムを100mm×100mmの大きさに切り取り、150℃に設定したオーブンの中で60分加熱した後、オーブンから取り出して冷却し、そのフィルム小片の表面を1000倍に設定した顕微鏡で観察した。100μm×100μmの面積の視野を5視野観察し、そこで見えた全てのオリゴマー粒の幅と長さと形状を記録し平均面積を計算して、それを1つ当たりのサイズとした。視野の面積、及びオリゴマー粒の平均サイズの測定は、接眼レンズに目盛りをつけ、目盛りと実長さの校正をしながら実施した。
(6)ガラス転移点
セイコー電子工業(株)製ロボットDSC(示差走査熱量計)RDC220にセイコー電子工業(株)製SSC5200ディスクステーションを接続して測定した。DSCの測定条件は次の通りである。すなわち、試料10mgをアルミニウムパンに調整後、DSC装置にセットし(リファレンス:試料を入れていない同タイプのアルミニウムパン)、300℃の温度で5分間加熱した後、液体窒素中を用いて急冷処理をした。この試料を10℃/分で昇温し、そのDSCチャートからガラス転移点を検知した。
(7)干渉色むら
ハードコートフィルムを暗室中で三波長蛍光灯を光源とし、ハードコート面を反射光で観察し、色むら感を次の基準で評価した。(◎)、(○)を色斑感が良好とした。
【0036】
◎: ギラツキ、色斑が目立たない
○: ギラツキ、色斑が見えるが気にならない
△: 部分的に緑や、紫の色斑が目立つ
×: 全体に緑や紫の色斑、ギラツキが目立つ。
(8)ハードコードの厚み
積層フィルムの断面を切片に切り出し、断面にPt-Pdをイオンスパッタしてサンプルを調整し、日立製作所製社製走査電子顕微鏡S-800を用い、積層フィルム断面の観察、写真撮影を行った。その写真から積層膜(B)の厚みを測定した。
(9)二軸延伸ポリエステルフィルムの面方向平均屈折率
アタゴ社製アッベ屈折計を用い、JIS-K-7105に従って測定した。すなわち、光源をナトリウムランプ(Na-D線)として、マウント液はヨウ化メチレンを用い、2
3℃、相対湿度65%下で、長手方向と幅方向の複屈折率を測定し、長手方向と幅方向の屈折率の平均値を面方向平均屈折率とした。なお、積層膜(A)は100nm程度と薄いため、該測定では二軸延伸ポリエステルフィルムのみの屈折率が判明する。
(10)ハードコート密着力(初期接着力)
積層二軸延伸ポリエステルフィルムの積層膜(A)上にハードコートを積層させたハードコートフィルムにおいて、ハードコート上に1mm2のクロスカットを100個入れ、ニチバン社製セロハンテープをその上に貼り付け、指で強く押し付けた後、90°方向に剥離し、ハードコートが残存した個数により評価を行った。
(11)ヘイズと全光線透過率
スガ試験機株式会社製全自動直読ヘイズコンピューター「HGM-2DP」を用いて、JIS-K-7105に従って行った。
(12)積層二軸延伸ポリエステルフィルムの厚み
ソニー社製、デジタルマイクロメーターを使用し、JIS-C-2151に従って測定した。
【0037】
以下に実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
【0038】
実施例1
フィラーを含まないポリエチレンテレフタレートを280℃で溶融押出し、静電印可された20℃のキャストドラム上にキャストし無延伸シートとした後、これを100℃で予熱し、この温度にてロール延伸で長手方向に3.0倍延伸した。この後、易滑剤(粒径150nmのコロイダルシリカ、)を固形分比2.0wt%で添加した濃度4.5%の水系塗料を上記のフィルム両面に塗布した。その後、120℃で幅方向に3.5倍延伸し、220℃で熱処理した。これにより、総膜厚100nmの積層膜(A)が両面に形成されたポリエチレンテレフタレートフィルムを基材とする125μm厚さの積層フィルムを得た。積層膜(A)の内訳は、Tg(a)が120℃、SSIAモル比率7/50のポリエステル樹脂(a)が19wt%、Tg(b)が80℃、トリメリット酸モル比率12/50のポリエステル樹脂(b)が45wt%、メラミン添加量が27wt%、オキサゾリン添加量が7wt%であり、その結果積層膜(A)の屈折率は1.59であった。
【0039】
この積層フィルムの150℃60分間での加熱析出オリゴマー1つ当たりの平均サイズは15μm2、また屈折率1.50膜厚7μmのハードコートを片面に積層した場合、ハードコート面反射率のリップル振幅は1.5%、干渉色むら評価は◎、1h煮沸後のハードコート密着性は100/100、初期接着性は100/100であり、ハードコート用の光学用ベースフィルムとして好適な物であった。
【0040】
実施例2
積層膜(A)の内訳は、Tg(a)が110℃、SSIAモル比率12/50のポリエステル樹脂(a)が15wt%、Tg(b)が70℃、トリメリット酸モル比率16/50のポリエステル樹脂(b)が62wt%、メラミン添加量が18wt%、オキサゾリン添加量が3wt%であり、その結果積層膜(A)の屈折率は1.56であった。また積層膜(A)の膜厚は60nmに調整した。それ以外はすべて実施例1と同様の方法にて125μm厚さの積層フィルムを得た。
【0041】
この積層フィルムの150℃60分間での加熱析出オリゴマー1つ当たりの平均サイズは10μm^(2)、また屈折率1.50膜厚7μmのハードコートを片面に積層した場合、ハードコート面反射率のリップル振幅は1.9%、干渉色むら評価は○、1h煮沸後のハードコート密着性は92/100、初期接着性は95/100であり、ハードコート用の光学用ベースフィルムとして好適な物であった。
【0042】
実施例3
積層膜(A)の内訳は、Tg(a)が130℃、SSIAモル比率3/50のポリエステル樹脂(a)が35wt%、Tg(b)が90℃、トリメリット酸モル比率5/50のポリエステル樹脂(b)が37wt%、メラミン添加量が18wt%、オキサゾリン添加量が7wt%であり、その結果積層膜(A)の屈折率は1.61であった。また積層膜(A)の膜厚は130nmに調整した。それ以外はすべて実施例1と同様の方法にて125μm厚さの積層フィルムを得た。
【0043】
この積層フィルムの150℃60分間での加熱析出オリゴマー1つ当たりの平均サイズは25μm^(2)、また屈折率1.50膜厚7μmのハードコートを片面に積層した場合、ハードコート面反射率のリップル振幅は1.7%、干渉色むら評価は○、1h煮沸後のハードコート密着性は100/100、初期接着性は92/100であり、ハードコート用の光学用ベースフィルムとして好適な物であった。」

(4)「【0061】
本発明は光学用途のなかでも、ハードコートを積層させて使用する用途に特に好適に用いられる。例えばITO導電膜を更に設置して、メンブレンスイッチ、タッチパネル、電子ペーパーなどに使用したり、反射防止膜を更に設置して、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどあらゆるディスプレイの表面に貼り付けたり、などに使用できる。
しかし本発明の利用可能性は上記に限定されるものではなく、高透明、低ヘイズを要求するあらゆる部材に対して好適に使用可能である。」

(5)上記(1)の【0009】には「屈折率が1.55?1.62かつ膜厚が50?150nmの積層膜(A)」と記載されており、当該記載より、積層膜(A)の物理膜厚dと屈折率nを掛け合わせたn×dの値である光学膜厚を計算すると、積層膜(A)の光学膜厚は77.5?243である。

(6)積層膜(A)を積層させた積層二軸延伸ポリエステルフィルムにハードコートフィルムを積層させたハードコートフィルムの分光反射率を示した図3の記載より、前記ハードコートフィルムの380?780nmの分光反射率を示す「10」の線の450?600nmにおけるリップルの振幅は0.02程度以下、すなわち2%程度以下であり、リップルの振幅が極小となるリップルの大きな節は570?580nmの範囲内であり、前記リップルの大きな節の振幅は0.005以下、すなわち0.5%以下であることが見て取れる。

(7)上記(1)ないし(6)から、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。
「表面にハードコート層を設けた光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルムにおいて、
従来、ハードコート層としては、硬度や耐久性、生産性の点でアクリル系ハードコートが好適に用いられているが、二軸延伸ポリエステルフィルムの面方向屈折率は一般的に1.66程度あり、アクリル系樹脂層の屈折率は一般的に1.5程度であり、この屈折率差のため、二軸延伸ポリエステルフィルムとアクリル系樹脂層の界面で干渉が生じ、積層フィルム表面に色斑感、すなわち干渉色むらが発生していたが、この干渉色むらの軽減を実現するために、
二軸延伸ポリエステルフィルムとハードコート層の間に、両者の屈折率の中間程度の屈折率を有する積層膜(A)を設けることでリップルの振幅を軽減し、干渉色むらを軽減したものであり、屈折率が1.55?1.62、膜厚が50?150nm、光学膜厚が77.5?243の積層膜(A)を有し、積層膜(A)上に屈折率が1.45?1.55、厚みが3μm?20μmのハードコートを積層した後の該面の450?600nmにおける分光反射率のリップルの振幅が2.0%以下、好ましくは1.5%以下としたことによって、色むらの差が小さく目立たなくし、ディスプレイ上で人間の目で検知されないレベルとした光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルムであって、
ハードコートとは反対の面に、ヤマト社製黒ビニールテープ200-38を貼り付けてサンプルを調整し、JIS-Z8722に従って、島津製作所製分光光度計「UV-2450PC」(受光部に積分球使用)を用いて前記サンプルのハードコート側の入射角5度の380?780nmの分光反射率を測定し、リップルの振幅を測定したところ、450?600nmにおけるリップルの振幅は0.02程度以下、すなわち2%程度以下であり、リップルの振幅が極小となるリップルの大きな節は570?580nmの範囲内であり、前記リップルの大きな節の振幅は0.005以下、すなわち0.5%以下である光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルム。」(以下「引用発明」という。)

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「二軸延伸ポリエステルフィルム」、「『ハードコート層』、『ハードコート』」、「光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルム」、「積層膜」、「『分光反射率』、『反射率』」、「振幅」、「リップル」、「『リップルの振幅が極小となるリップルの大きな節』、『リップルの大きな節』」及び「屈折率」は、それぞれ、本願発明の「透光性基材」、「ハードコート層」、「ハードコートフィルム」、「プライマー層」、「反射率」、「振幅」、「リップル」、「リップル節」及び「屈折率」に相当する。

(2)引用発明において、「ハードコートフィルム(光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルム)」は、「透光性基材(二軸延伸ポリエステルフィルム)」と「ハードコート層(ハードコート層)」の間に、両者の「屈折率」の中間程度の「屈折率」を有する「プライマー層(積層膜)」を設けているから、引用発明の「ハードコートフィルム」と本願発明の「ハードコートフィルム」とは、「透光性基材の一方の面に、ハードコート層を有」し、「前記透光性基材と前記ハードコート層の間にプライマー層を有」し、「透光性基材の屈折率をn_(B)、前記ハードコート層の屈折率をn_(F)、前記プライマー層の屈折率をn_(P)としたとき、n_(F)≦n_(P)≦n_(B)またはn_(F)≧n_(P)≧n_(B)を満たす」点で一致する。

(3)引用発明において、「ハードコート層(ハードコート)」側の380?780nmの「反射率(分光反射率)」を測定し、「リップル(リップル)」の振幅を測定したところ、「リップル」の振幅が極小となる箇所が「リップル節(リップルの大きな節)」であり、「リップル節」の想定される箇所が可視光領域であり、前記測定に際して可視光領域である380?780nmの範囲を測定するために、それよりも幅広い範囲を測定することは明らかであるところ、その測定範囲の多少の広狭は「リップル節」には関係のない事項であるから、引用発明の「リップル節(リップルの大きな節)」と本願発明の「リップル節」とは、「波長300nm?800nmにおける前記ハードコート層面に対する反射率の振幅の各山を結んだ線を山線、前記反射率の振幅の各谷を結んだ線を谷線、前記山線と前記谷線との差が最小となるときの波長」である点で一致する。

(4)引用発明において、「ハードコートフィルム(光学用積層二軸延伸ポリエステルフィルム)」の「ハードコート層(ハードコート)」とは反対の面に、ヤマト社製黒ビニールテープ200-38を貼り付けているが、該黒ビニールテープの貼着は、「ハードコートフィルム」の裏側界面での反射を防止することを目的としているものであるところ、本願発明の「ハードコート層が形成されていない面を紙やすりで削り、さらに、黒の油性フェルトペンで黒く塗りつぶした」ことと相違ない。
そして、引用発明は、JIS-Z8722に従って、島津製作所製分光光度計「UV-2450PC」(受光部に積分球使用)を用いて、「ハードコートフィルム」の「ハードコート(ハードコート層)」側の入射角5度の「反射率(分光反射率)」を測定しており、本願発明ではJIS-Z8722で規定する第一種分光測定器としての「分光反射率測定装置“MCPD-3000”(大塚電子株式会社製)」(例.特開2006-91649号公報(【0075】、【0076】参照。)、特開2001-322834号公報(【0017】参照。))を用いた測定をしている。両者の測定においては、用いる測定機器が違ってはいるものの、いずれも「ハードコートフィルム」の「ハードコート層」側での分光反射率を測定している点に差異はない。そして、本願発明は、「測定方法」に関する発明ではなく「ハードコートフィルム」という「物」に関する発明であり、「反射率」という「物」自体の物性に関して引用発明と本願発明とに相違がない。
なお、測定方法の違いにより、反射率がどの程度相違するのかについての具体的な証拠は提示されていない。
このように、引用発明の「ハードコートフィルム」の380?780nmの「反射率」を測定し、「リップル(リップル)」の振幅を測定したところ、「リップル節(リップルの大きな節)」は570?580nmの範囲内であり、「リップル節」の振幅は0.005、すなわち0.5%以下であり、上記(3)のように、「反射率」の測定範囲の多少の広狭は実質的な事項ではない。
してみると、引用発明の「ハードコートフィルム」と本願発明の「ハードコートフィルム」とは、「前記ハードコート層が形成されていない面を紙やすりで削り、さらに、黒の油性フェルトペンで黒く塗りつぶした後、分光反射率測定装置“MCPD-3000”(大塚電子株式会社製)により、波長300nm?800nmの範囲について測定した、前記ハードコート層面に対する反射率のリップル節が波長500nm?650nmに存在し、かつ、前記リップル節における前記反射率の振幅の大きさが0.5%以下」である点で一致する。

(5)上記(1)ないし(4)からみて、本願発明と引用発明とは、
「透光性基材の一方の面に、ハードコート層を有するハードコートフィルムであって、
前記透光性基材と前記ハードコート層の間にプライマー層を有し、
波長300nm?800nmにおける前記ハードコート層面に対する反射率の振幅の各山を結んだ線を山線、前記反射率の振幅の各谷を結んだ線を谷線、前記山線と前記谷線との差が最小となるときの波長をリップル節とし、
前記ハードコート層が形成されていない面を紙やすりで削り、さらに、黒の油性フェルトペンで黒く塗りつぶした後、分光反射率測定装置“MCPD-3000”(大塚電子株式会社製)により、波長300nm?800nmの範囲について測定した、前記ハードコート層面に対する反射率のリップル節が波長500nm?650nmに存在し、かつ、前記リップル節における前記反射率の振幅の大きさが0.5%以下であり、
前記透光性基材の屈折率をn_(B)、前記ハードコート層の屈折率をn_(F)、前記プライマー層の屈折率をn_(P)としたとき、n_(F)≦n_(P)≦n_(B)またはn_(F)≧n_(P)≧n_(B)を満たすハードコートフィルム。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:前記「プライマー層の光学膜厚」が
本願発明では、「130nm?160nm」であるのに対し、
引用発明では、77.5nm?243nmである点。

相違点2:前記「ハードコート層の膜厚」が、
本願発明では、「0.9μm?2.0μm」であるのに対し、
引用発明では、3μm?20μmである点。

4 判断
(1)上記相違点1について検討する。
ア 干渉縞防止のために用いられる干渉層であって、光学膜厚が130nm?155nmの範囲内にある干渉層は本願の出願前に周知である(以下「周知技術1」という。例.当審拒絶理由で引用した特開2006-116754号公報(【0059】の実施例1の「干渉層用塗液を光学膜厚が145?155nmとなるように層の厚さを調整して塗布したこと」参照。)、当審拒絶理由で引用した特開2007-233392号公報(【0053】の「第1易接着層が厚さ88nmであること」及び【0073】【表1】の実施例1?7の「第1易接着層の屈折率が1.52、1.55、1.60、1.67」の記載より、光学膜厚をそれぞれ計算すると「133.8」、「136.4」、「140.8」、「147.0」であること参照。)、当審拒絶理由で引用した特開2007-58178号公報(【0053】の「第1易接着層が厚さ88nmであること」及び【0075】【表1】の「第1易接着層の屈折率が1.52、1.55、1.60、1.67」の記載より、光学膜厚をそれぞれ計算すると「133.76」、「136.4」、「140.8」、「147.0」であることを参照。)、当審拒絶理由で引用した特開2007-334134号公報(【0051】の「易接着層が厚さ0.09μmで屈折率1.58」であることから光学膜厚を計算すると「142.2」であることを参照。))。

イ 引用発明のハードコートフィルムは、干渉縞防止のために用いられるプライマー層の光学膜厚が77.5nm?243nmであり、上記アからみて、干渉縞防止が可能なようにプライマー層の光学膜厚は所定の範囲内で適宜設定可能であるから、引用発明のプライマー層の光学膜厚を77.5nm?243nmの範囲のうち、130nm?160nmとなすこと、すなわち、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術1に基づいて適宜なし得た程度のことである。

(2)上記相違点2について検討する。
ア ハードコート層の膜厚が2μm以下であるフィルムは周知である(以下「周知技術2」という。例.当審拒絶理由で引用した特開平7-287102号公報(【0020】の「ハードコート層の厚みが0.5μm以上」であることを参照。)、当審拒絶理由で引用した特開2008-116597号公報(【0060】【表1】の「実施例2のハードコート層の厚さが1.5μm」であることを参照。)、上記特開2007-334134号公報(【0058】【表1】の実施例7の「ハードコート層の厚さが1.5μm」であることを参照。))。

イ 引用発明のハードコートフィルムは、ハードコート層の厚みが3μm?20μmであり、引用発明を認定した引用例の上記2(2)の【0030】に記載されているように、3μmを下回ると硬度が不足したり、紫外線吸収剤を添加しても優れた耐光性が発現しないという問題が生ずるものであるが、上記アからみて、ハードコート層の膜厚が2μm以下のハードコートフィルムであっても特段支障なく利用されており、ハードコート層の厚さに応じて、ハードコートフィルムのハードコート層側の反射率も制御されているのは明らかであるから、引用発明において、反射率の性能を維持したまま、ハードコート層の厚みを0.9μm?2.0μmとなすこと、すなわち、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術2に基づいて適宜なし得た程度のことである。

(3)仮に、請求項1に係る発明と引用発明とが、
前記リップル節が、
本願発明では、振幅の大きさが0.5%以下であるの対し、
引用発明では、振幅の大きさが0.5%以下であるかどうかが明らかでない点(以下「相違点3」という。)
で相違するとして、以下、当該相違点について検討する。

ア 干渉むらあるいは干渉縞を抑制するために反射率の振幅の差を0.5%以下にした光学フィルムは周知である(以下「周知技術3」という。例.上記特開2006-116754号公報(【0020】の「振幅の差の最大値は、更に好ましくは0.5%以下」、【0063】【表1】の実施例1?8の反射率差の最大値が「0.1?0.3」であることを参照。)、当審拒絶理由で引用した特開2003-177209号公報(【0087】、【表1】の干渉の強度(500?650nmにおける反射率の振幅の差の最大値)が「0.3%、0.5%」であり、減反射層を有さない比較例4の干渉の強度が「0.5%」であることを参照。)、上記特開2007-233392号公報(【0071】ないし【0073】のうち、特に【表1】の実施例1と実施例3が「リップルの大きさが0.5%未満」の「◎」であること参照。)、上記特開2007-58178号公報(【0071】ないし【0075】のうち、特に【表1】の実施例1と実施例3が「リップルの大きさが0.5%未満」の「◎」であること参照。)、当審拒絶理由で引用した特開2004-287392号公報(【請求項2】の「透明基材の表面にハードコート層を積層してなる光学フィルムにおいて、波長が360nm?800nmの可視光線領域における反射率と波長の関係を示した反射スペクトルの振幅が、可視光線領域全域において0.5以下である」の記載を参照。)、当審拒絶理由で引用した特開2006-51781号公報(【請求項3】の「波長が360nm?800nmの可視光線領域における反射率と波長の関係を示した反射スペクトルの振幅が、可視光線領域全域において0.5以下であるハードコートフィルム」の記載を参照。)、上記特開2008-116597号公報(図1の「反射率のうねり振幅(545nm)が0.36%」であることを参照。)、当審拒絶理由で引用した特開2007-334134号公報(図1の「反射率のうねり振幅(545nm)が0.33%」であることを参照。))。

イ 引用発明は、干渉色むらを軽減するために、ハードコート層を積層した後の該面の400nm?600nmにおける分光反射率のリップルの振幅を2.0%以下とし、好ましくは1.5%以下とするものであるところ、上記アに示された周知例が反射防止層を有するとしても、光学フィルムにおいて、干渉色むらを軽減するためには前記振幅はより低いことが好ましいものである。
してみると、引用発明において、前記振幅のうち、振幅が一番小さいリップル節における振幅を0.5%以下となすこと、すなわち、前記相違点3に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術3に基づいて適宜なし得た設計事項にすぎない。

(4)本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術1?周知技術3の奏する効果から当業者が予測することができた程度のことである。

(5)したがって、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術1?3に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術1?3に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-20 
結審通知日 2014-05-22 
審決日 2014-06-03 
出願番号 特願2008-276375(P2008-276375)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 博之  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 鉄 豊郎
清水 康司
発明の名称 ハードコートフィルムおよびそれを用いた反射防止フィルム  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ