• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1289985
審判番号 不服2013-15234  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-07 
確定日 2014-07-17 
事件の表示 特願2009-519191「薄膜太陽電池」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月18日国際公開、WO2008/152865〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年4月25日(優先権主張2007年6月12日)を国際出願日とする出願であって、平成24年12月26日付けで手続補正がなされたが、平成25年5月13日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、これを不服として、同年8月7日に請求された拒絶査定不服審判であって、請求と同時に補正がなされ、当審において、同年11月11日付けで審尋を行ったが審判請求人からの回答はなかった。

第2 平成25年8月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年8月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲及び明細書を補正するものであって、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項3を、特許請求の範囲の限定的減縮を目的として下記の通りに補正したものである。
「【請求項1】
透光性絶縁基板と、前記透光性絶縁基板上に設けられた透明導電膜、光電変換層および裏面電極層と、前記裏面電極層上に設けられたバスバーと、を少なくとも備え、
前記バスバーが、導電性テープを介して前記裏面電極層と電気的に接続されていることにより、前記裏面電極層が取り出し電極として使用され、
前記導電性テープが、熱硬化性樹脂と導電性粒子とを含み、
前記熱硬化性樹脂は、硬化温度が150?250℃である樹脂であり、エポキシ樹脂またはアクリル樹脂であり、
前記導電性テープの厚みが20?40μmであり、
前記導電性テープが点状に配置される、薄膜太陽電池。」

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。

2 本件補正発明
本件補正発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された上記のとおりのものである。(「第2」[理由]「1」参照。)

3 引用刊行物
(1)引用刊行物1
これに対して、原査定における拒絶の理由で引用した、本願の優先日前である平成16年7月8日に頒布された「特開2004-193317号公報 」(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。ただし、下線は当審で付した。
a 記載事項ア
「【0038】
図6に示した太陽電池モジュールは、光起電力素子60の受光面側及び非受光面側が被覆材61で封止された構成になっている。受光面側の被覆材は、表面保護フィルム61a及び充填材61bで、非受光面側の被覆材は充填材61b及び絶縁フィルム61cでそれぞれ構成されている。
【0039】
前記光起電力素子の受光面側及び非受光面側には電極62が設けられており、前記電極には取り出し電極63が電気接続されている。前記取り出し電極の光起電力素子外部に延びる延在部には突起部64が設けられており、光起電力素子を封止している被覆材の端部は、前記突起部よりも光起電力素子側に存在している。
【0040】
以下に、太陽電池モジュール及びそれを構成する構成要件を更に詳しく記載する。
【0041】
(太陽電池モジュール)
本発明において、太陽電池モジュールとは、光起電力素子単体あるいは2枚以上の光起電力素子の直列接続体又は並列接続体、取り出し電極、及び被覆材によって構成されている。
【0042】
本発明の太陽電池モジュールを構成する光起電力素子は、少なくとも基材、光電変換層、透明電極層、裏面反射層、裏面電極層、集電電極、及び取り出し電極を有する。
【0043】
(光電変換層)
光電変換層は光を電気に変える機能を有する。この光電変換層の材料としてはSi、C、Ge等のV族元素、SiGe、SiC等のIV族元素合金、GaAs、InSb、GaP、GaSb、InP、InAs等のIII-V族化合物、ZnSe、CdTe、ZnS、CdS、CdSe等のII-VI族化合物、CuInSe等のI-III-VI族化合物が挙げられるがこれに限られるものではない。
【0044】
光電変換層は、少なくとも一組のpn接合、pin接合、ヘテロ接合あるいはショットキー障壁を形成する。また、光電変換層の好適な形成方法としては、マイクロ波プラズマCVD法、VHFプラズマCVD法、RFプラズマCVD法等の各種化学気相成長法が挙げられる。
【0045】
(透明電極層)
透明電極層は、光を透過する光入射側の電極であると共に、その膜厚を最適化することによって反射防止膜としての役割も果たす。
【0046】
透明電極層は、光電変換層の吸収可能な波長領域において高い透過率を有すること、電気抵抗が低いことが必要とされ、その材料として、In_(2)O_(3)、SnO_(2)、ITO(In_(2)O_(3)+SnO_(2))、ZnO、CdO、Cd_(2)SnO_(4)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)、Bi_(2)O_(3)、MoO_(3)、Na_(x)WO_(3)等の導電性酸化物あるいはこれらを混合したものが好適に用いられる。
【0047】
透明電極層の形成方法として、微量の酸素を含有するスパッタ用ガスによりスパッタ形成する方法が好適に用いられる。
【0048】
(裏面反射層)
裏面反射層は、光電変換層で吸収しきれなかった光を再度光電変換層に反射する光反射層としての機能を有する。
【0049】
裏面反射層の材料としては、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Fe、Cr、Mo、W、Ti、Co、Ta、Nb、Zr等の金属又はステンレス等の合金が挙げられるが、中でもAl、Cu、Ag、Au等の反射率の高い金属が特に好ましい。
【0050】
(裏面電極層)
裏面電極層は、光電変換層の非受光面側で発生した電荷を集電する集電電極としての機能を有する。具体的な材料として、Al、Au、Ag、Cu、Ti、Ta、W等の金属が挙げられるがこれに限られるものではない。裏面電極層を形成する方法として、化学気相成長法、スパッタ法等が好適に用いられる。また、裏面電極層として、外部から加えられた力によって各層が破損しないように支持する支持基板としての機能を有する導電性基板が好適に用いられる。導電性基板の具体的な材料としては、Fe、Ni、Cr、Al、Mo、Au、Nb、Ta、V、Ti、Pt、Pb等の金属又はこれらの合金の薄膜およびその複合体が挙げられるがこれに限られるものではない。
【0051】
(基材)
基材は、外部から加えられた機械的な力によって光起電力素子を構成する各層が破損しないように支持する支持基板としての機能を有する。基材の具体的な材料としては、Fe、Ni、Cr、Al、Mo、Au、Nb、Ta、V、Ti、Pt、Pb等の金属又はこれらの合金の薄膜およびその複合体、ガラス等が挙げられるがこれに限られるものではない。
【0052】
(電極)
電極は、光起電力素子の光電変換層の受光面側及び非受光面側で発生した電荷を取り出す機能を有する。この電極は光起電力素子の透明電極層の受光面、及び裏面電極層又は基材の非受光面と電気的に接続されている。その接続方法として、銀ペースト、導電性テープ、スポット溶接、半田などが挙げられる。
【0053】
前記電極は、光起電力素子上に配置されるため、光起電力素子を封止する被覆材の厚みを薄くするためにはできるだけ薄い箔体であることが好ましい。具体的な材料としては、銅箔、すずメッキ銅箔、銀メッキ銅箔、ニッケルメッキ銅箔などが挙げられる。また、銅箔としては、無酸素銅、タフピッチ銅、りん脱酸銅のいずれかからなり、厚みが0.1mm以上0.3mm以下であるものが好適である。
【0054】
(取り出し電極)
取り出し電極は、光起電力素子で発生した電力を太陽電池モジュールの外部に取り出すための配線材であり、前記光起電力素子に設けた電極をそのまま使用することもできる。しかし、電極が箔体である場合、機械的強度が弱く断線する可能性があるため、線状の金属体を前記電極に電気接続するのが一般的である。その接続方法として銀ペースト、半田、スポット溶接等が好適に用いられる。また、取り出し電極の具体的な材料としては、絶縁被覆されていない裸の単線が好適に用いられるがこれに限定されるものではない。」
b 記載事項イ
「【0058】
〔実施例1〕
本実施例の太陽電池モジュールを図7に示す。
【0059】
本例の太陽電池モジュールを構成する光起電力素子70は受光面側より、樹脂層71、透明電極層72、光電変換層73、裏面反射層74、裏面電極層75という構成になっており、樹脂層はアクリルウレタン系の樹脂、透明電極層はITO、光電変換層はP-I-N型の非晶質シリコン、裏面反射層はZnO及びAl、裏面電極層はステンレスによってそれぞれ構成されている。また、透明電極層の受光面には銀メッキ銅箔からなる電極76a、裏面電極層の非受光面には銅箔からなる電極76bが設けられている。
【0060】
前記太陽電池モジュールは、光起電力素子を二枚直列接続した直列接続体を有しており、前記直列接続体の電極には取り出し電極77が電気接続されている。ここで、前記取り出し電極は、絶縁被覆されていないφ0.8mm、長さ45mmの銅線からなり、電極に半田で電気接続されている。
【0061】
前記取り出し電極は、電極端部から光起電力素子外部に向かって35mm突出しており、電極端部から10mm離れた位置に突起部78が設けられている。前記突起部は弾性を有するシリコーン樹脂からなる。」
c 記載事項ウ
「【図7】



d 引用例1記載の発明
上記記載事項ア乃至上記記載事項ウからすると、引用例1の【0052】に記載された「電極」は、同【0042】に記載された「光起電力素子」が有するものであることは明らかであるから、上記記載事項ア乃至上記記載事項ウによると、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ガラスからなる基材、光電変換層73、透明電極層72、裏面電極層75、電極76a、76b、及び取り出し電極77を有する、太陽電池モジュールを構成する光起電力素子70であって、
光起電力素子70は受光面側より、樹脂層71、透明電極層72、光電変換層73、裏面反射層74、裏面電極層75という構成になっており、
裏面電極層75の非受光面には銅箔からなる電極76bが設けられ、その接続方法として、導電性テープを用い、
裏面電極層75は、光電変換層73の非受光面側で発生した電荷を集電する集電電極としての機能を有し、
電極76bは、光起電力素子の光電変換層の非受光面側で発生した電荷を取り出す機能を有する
太陽電池モジュールを構成する光起電力素子。」

(2)引用刊行物2
また、原査定における拒絶の理由で引用した、本願の優先日前である平成17年4月14日に頒布された「特開2005-101519号公報 」(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
a 記載事項エ
「【0001】
本発明は、太陽電池ユニット及び太陽電池モジュールに関するものである。なお、本明細書では、太陽電池ユニットをフレームに組み込んだものを太陽電池モジュールという。」
b 記載事項オ
「【0031】
第4の発明で用いる高分子樹脂及び導電粒子を含んで異方導電性を有するフィルム状接着剤(導通材)の高分子樹脂としては、好ましくは、アクリル系ポリマー及び熱硬化性樹脂を含有する樹脂である。また、上記導電粒子は、好ましくは、接続端子1cm^(2)(平面視の面積)あたり10?1,000,000個を分散させる。
このようなフィルム状接着剤は、半田の場合に比べ低い150℃程度以下の温度で熱圧着することで導通性が得られるため、半田付けの際によく見られるセル受光面上での部材の黄変を避けるとともに、作業効率を高め、製造コストを低減することができる。また、部材の選択の幅を広げることができる。」
c 記載事項カ
「【0039】
(4)第4の発明によれば、導通材5として、高分子樹脂及び導電粒子を含んで異方導電性を有するフィルム状接着剤を用いるので、半田又は鉛フリー半田を用いた場合のような高温度(260℃程度以上)の加熱は不要であり、そのため導通材周辺材料も高温度に耐える必要は無い。導通材周辺材料の選択における制限が少ない。また、半田を用いた場合の半田の溶けすぎ(流れすぎ)で生じる太陽光受光面積の減少も生じにくい。また、半田を用いる場合に比べ、作業も容易である。」
d 記載事項キ
「【0049】
次に、図4を用いて、本発明に係る第一実施例の太陽電池ユニットの製造法と、それに続く太陽電池モジュールの製造法を説明する。
二つの太陽電池セル4の表面に導通材5が配され、その二つの太陽電池セル4どうしは、導通材5及び接続部材6を介して電気的に接続されている。また、太陽電池セル4の表面には多数の配線14が走っており、導通材5は配線14の上に配されている(図4(a2))。
【0050】
導通材5が存在しない太陽電池セル4上面の部分に、光透過性樹脂フィルム10をラミネートし、太陽電池セル4の裏面側にセル裏面支持フィルム11をラミネートする(図4(b1/b2))。
【0051】
太陽電池セル4の受光面側の光透過性樹脂フィルム10の上に、充填材層3aを形成する(図4(c))。なお、先に説明したように、充填材層は太陽電池セルに対して両面に同じ充填材(表面充填材3aと裏面充填材3b)を用意し、最終的には一つの充填材層3としてセル全体を保護するように設けてもよい。
【0052】
このような方法をとれば、充填材層3aを有機フィルム材料のように薄膜化することが可能となり、充填材層による光吸収を低減できるので、入光効率も向上する。なお、充填材層3aの薄膜化のみでは厚みを均一にできなくても、セル裏面支持フィルム11の下側に(充填材3bの代わりに)発泡体層13を用いて凹凸を吸収させることで、薄膜化と表面平坦化の両立が可能となる(図4(d))。
【0053】
すでに説明した方法の通りに、充填材層3aの上側に、あらかじめ準備した光透過性表面部材2及び反射防止膜1を形成させ、その後、成形樹脂製フレーム15に収容し、隙間を封止樹脂16によって封止することにより太陽電池ユニットが完成する(図4(e))。」
e 記載事項ク
「【0055】
<太陽電池モジュールの製造例>
(i)PETフィルム(基材)に感光性樹脂組成物の溶液を厚さ10μmとなるように塗工し、炉内で溶剤を乾燥させたのち、保護フィルム(PP)をラミネートし、UV硬化型フィルムとした。縦横150(mm)×150(mm)で、厚さ0.3mmの多結晶シリコン太陽電池セルの受光面及び裏面にある電極に合わせて、上記UV硬化型フィルムを打ち抜きにより穴開け加工した後、保護フィルム(PP)を剥がして位置合わせをしながら、これをセル表面上に、感光性樹脂層がセルに接するように載せ、さらに離型フィルムを載せ、真空ラミネータを用い、ラミネートした。そのあと、PETフィルムを剥がし、その上に凹凸のある透明なエンボス型フィルムを載せ、再度真空ラミネータを用い、エンボス構造の転写をした。さらに、露光装置を用い、このUV硬化型フィルムを硬化させた。
穴開け加工したUV硬化型フィルムのPP保護フィルムを剥がして位置合わせをしながら、感光性樹脂層がセルに接するようにこれをセル裏面上に載せ、さらに離型フィルムを載せ、真空ラミネータを用い、ラミネートした。露光装置を用い、このUV硬化型フィルムを硬化させ、PETフィルムを剥がし、表面にエンボス模様の付いた支持フィルム付きセルを作製した。
【0056】
(ii)熱硬化型樹脂組成物に導電性粒子を分散させた溶液をPETフィルム(基材)に厚さ10μmとなるように塗工し、炉内で溶剤を乾燥させ、PPの保護フィルムをラミネートし、異方導電性フィルムとした。次いで、上記(i)の支持フィルム付きセルと、半田メッキ銅リボンとを異方導電性フィルムを介して熱圧着し、各セルを直列に接続した。
【0057】
(iii)PPフィルム上に、不飽和ポリエステル樹脂組成物を塗工し、この上にガラス繊維を分散させ、さらに同様の塗工フィルムとサンドイッチ構造とし、半硬化状態を作った(SMCと呼ぶ)。このSMCから金型プレス成形により、断面構造が図4(e)15のような盆状の成形フレームを作製した。アルミニウムの真空蒸着によりPET基材上に膜厚み500nmの反射膜を形成した。厚み3mmのポリエチレン製のフォームにウレタン系接着剤を介して、反射膜をAl面が接着層に接するようにラミネートした(Alラミネートフォームと呼ぶ)。成形フレーム上にAlラミネートフォームを、ウレタン系接着剤を介してラミネートし、FRP支持体を得た。
【0058】
(iv)このFRP支持体上に、上記(ii)で作製した接続済みの支持フィルム付きセルを並べ、高透明接着フィルムを介してその上にガラス基板を載せた。この状態で、ガラス基板とFRP支持体の間をクランプで挟み、周囲にシリカ充填されたエポキシ樹脂封止剤を注入した。このまま、150℃の炉に20分間入れ、エポキシ樹脂を半硬化させ、クランプを外した。その上にフッ素含有でかつシロキサン含有アクリル樹脂とその硬化剤を酢酸ブチル(溶媒)に希釈し、硬化後80nm程度の膜厚となるようにスプレー塗布し、再び150℃の炉に60分入れ、反射防止膜、および周囲の充填材層を硬化させ、太陽電池モジュールを完成させた。」
f 記載事項ケ
「【図4】



(3)引用刊行物3
また、原査定における拒絶の理由で引用した、本願の優先日前である平成14年10月25日に頒布された「特開2002-314104号公報 」(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
a 記載事項コ
「【0017】
【発明の実施の形態】本発明による薄膜太陽電池は、典型的に図1に示すような構造を有し、そこにおいて、透光性で電気絶縁性の基板1上には、透明導電膜2、光電変換層3および裏面電極層4が積層されている。基板1の材料には、典型的にガラスが使用される。透明導電膜2には、ZnO、ITOあるいはSnO_(2)等の光透過性を有する導電性酸化物が典型的に使用される。光電変換層3は、典型的に、半導体薄膜からなるp層、i層およびn層が順次積層された構造を有する。半導体薄膜には、典型的に、アモルファスシリコン薄膜、結晶性シリコン薄膜、あるいはそれらの組合わせを使用することができる。裏面電極層4は、典型的に、ZnO等の導電性酸化物からなる層と、金属からなる層とを有する。当該金属には、典型的に銀あるいは銀合金が使用される。裏面電極層4の好ましい構造の一つは、ZnO層/Ag層である。銀等の金属からなる層の厚みは200nm以上であることが、薄膜太陽電池の特性の点から好ましい。透明導電膜、光電変換層および裏面電極層からなる積層体を、直列、並列あるいは直並列に接続して集積型薄膜太陽電池を構成することができる。
【0018】本発明の特に重要な特徴は、上記構造において、裏面電極層4に導電性ペースト5を介してバスバー8が結合されていることである。典型的には、裏面電極層4を構成する金属からなる層に、導電性ペースト5を介してバスバー8が結合されている。導電性ペーストには、典型的に、金属(たとえば、銀、銀合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、金、金合金、モリブデン等)、固体炭素(たとえば黒鉛)などの導電性材料の粉末に結合剤を添加してペースト状にしたものを使用することができる。結合剤には、樹脂、粘着剤、有機溶媒などが含まれ得る。導電性材料の粉末(導電粒子)の粒径は、用途、結合すべきバスバーのサイズなどに応じて適宜設定することができる。典型的に、バスバー8は、はんだメッキ7が施された導電体6からなる。」
b 記載事項サ
「【0030】図2は、図1に示す構造の薄膜太陽電池を薄膜側(ガラス面の反対側)からみた様子を示している。薄膜太陽電池10の両サイドに、細長いバスバー8がそれぞれ配置されている。本実施例において、基板1のサイズは、650mm×450mmであり、その長辺に沿ってバスバー8が導電性ペーストを介して裏面電極層の表面に接着されている。塗布された導電性ペーストの部分は、バスバー8に沿って、約8cmのピッチで複数形成される。塗布された各導電性ペーストの長さは約1cmである。塗布された導電性ペーストの様子を図3に拡大して示す。塗布された導電性ペースト5が、所定の間隔で、バスバー8に沿って、裏面電極層4上に配置されているのがわかる。配置をわかりやすくするため、導電性ペースト5がバスバー8からはみだすように描いたが、導電性ペースト5はバスバー8からはみだしていなくともよい。導電性ペースト5は、裏面電極層4上において、等間隔に配置された複数の箇所に付与することができる。図3に示すように、ガラスからなる基板1上には、透明導電膜2、光電変換層4および裏面電極層4が順に積層され、集積化されている。バスバー8は、集積方向に平行に配置される。」
c 記載事項シ
「【図3】



4 本件補正発明と引用発明の対比
ここで、本件補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「ガラスからなる基材」、「光電変換層73」、「透明電極層72」、「裏面電極層75」、「銅箔からなる電極76b」及び「導電性テープ」は、それぞれ本件補正発明の「透光性絶縁基板」、「光電変換層」、「透明導電膜」、「裏面電極層」、「バスバー」及び「導電性テープ」に相当する。
(2)引用発明は、「ガラスからなる基材、光電変換層73、透明電極層72、裏面電極層75、電極76a、76b、及び取り出し電極77を有する、太陽電池モジュールを構成する光起電力素子70であ」ることから、「ガラスからなる基材」上に「光電変換層73、透明電極層72、裏面電極層75、電極76a、76b、及び取り出し電極77」を有することは自明である。
そうすると、引用発明の「ガラスからなる基材、光電変換層73、透明電極層72、裏面電極層75、電極76a、76b、及び取り出し電極77を有する、太陽電池モジュールを構成する光起電力素子70であって、光起電力素子70は受光面側より、樹脂層71、透明電極層72、光電変換層73、裏面反射層74、裏面電極層75という構成になって」いる構成は、本件補正発明の「透光性絶縁基板と、前記透光性絶縁基板上に設けられた透明導電膜、光電変換層および裏面電極層と」「を少なくとも備え」る構成に相当する。
(3)引用発明の「裏面電極層75は、光電変換層73の非受光面側で発生した電荷を集電する集電電極としての機能を有」するものであるが、「裏面電極層75の非受光面に」設けられた「電極76b」が、「光起電力素子の光電変換層の非受光面側で発生した電荷を取り出す機能を有する」ものであるから、結局引用発明の「裏面電極層75」は「電極76b」を介して取り出し電極として使用されるものであるといえる。
したがって、引用発明の「裏面電極層75の非受光面には銅箔からなる電極76bが設けられ、その接続方法として、導電性テープを用い」る構成は、本件補正発明の「裏面電極層上に設けられたバスバー」「を少なくとも備え、前記バスバーが、導電性テープを介して前記裏面電極層と電気的に接続されていることにより、前記裏面電極層が取り出し電極として使用され」る構成に相当する。
(4)引用発明の「太陽電池モジュールを構成する光起電力素子」は、本件補正発明の「薄膜太陽電池」に相当する。

上記(1)乃至(4)の対比から、本件補正発明と引用発明は、
「透光性絶縁基板と、前記透光性絶縁基板上に設けられた透明導電膜、光電変換層および裏面電極層と、前記裏面電極層上に設けられたバスバーと、を少なくとも備え、
前記バスバーが、導電性テープを介して前記裏面電極層と電気的に接続されていることにより、前記裏面電極層が取り出し電極として使用される、薄膜太陽電池。」
で一致し、以下A乃至Cの点で相違する。

(相違点)
A 導電性テープが、本件補正発明は、「熱硬化性樹脂と導電性粒子とを含み、前記熱硬化性樹脂は、硬化温度が150?250℃である樹脂であり、エポキシ樹脂またはアクリル樹脂であ」るのに対し、引用発明は、そのような構成を有するか不明である点。
B 導電性テープの厚みが、本件補正発明が、20?40μmであるのに対し、引用発明は、如何なる厚さであるか不明である点。
C 本件補正発明は、導電性テープが点状に配置されるのに対し、引用発明は、そのような構成を有するか不明である点。

5 当審の判断
以下、上記A乃至Cの相違点について検討する。
(Aの相違点について)
太陽電池セル4と接続部材6接続する導通材5として、高分子樹脂及び導電粒子を含み、高分子樹脂はアクリル系ポリマー及び熱硬化性樹脂を含有する樹脂(本件補正発明の「アクリル樹脂」である「熱硬化性樹脂」に相当。)であり、150℃程度以下の温度で熱圧着することで導通性が得られる異方導電性を有するフィルム状接着剤(本件補正発明の「導電性テープ」に相当。)を用いる点が、引用例2(上記記載事項オ、記載事項キ及び記載事項ケ参照。)に記載されている。
そして、引用発明の導電性テープも引用例2記載の異方導電性を有するフィルム状接着剤もいずれも、太陽電池に用いる導電性テープである点で共通するものであるから、引用発明の導電性テープとして、引用例2記載の異方導電性を有するフィルム状接着剤を採用することは、当業者が容易になし得たことであり、その際に、フィルム状接着剤のアクリル系ポリマーとして、フィルム状接着剤の接着箇所の環境(接着箇所周辺の部材への影響、受光面か裏面か、部材の黄変を避けるべき箇所か否か等)や接着強度等を考慮しながら、硬化温度が150?250℃である樹脂を採用することは、当業者が適宜なし得た設計的事項にすぎない。
よって、上記Aの相違点に係る本件補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
(Bの相違点について)
導電性テープの厚みは、接着強度等を考慮しながら当業者が適宜設計できたことであり、その厚みを20?40μmとすることに格別の創作性は認められない。
(Cの相違点について)
バスバー8が導電性ペースト5を介して裏面電極層4の表面に接着された薄膜太陽電池において、導電性ペースト5を所定の間隔でバスバー8に沿って裏面電極層4上に配置することが、引用例3(上記記載事項サ参照。)に記載されている。
そして、引用発明の導電性テープも引用例3記載の導電性ペースト5もいずれも、薄膜太陽電池の裏面電極層にバスバーを接着するものである点で共通するから、引用発明の導電性テープに対し、引用例3記載の事項を採用し、導電性テープを点状に配置するようにして、上記Cの相違点に係る本件補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

上記A乃至Cの相違点については上記のとおりであり、本件補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び引用例2、3記載の事項から当業者が予測できる範囲内のものと認められる。
よって、本件補正発明は、引用発明及び引用例2、3記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 本件補正についての補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成25年8月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年12月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの以下のものである。
「【請求項1】
透光性絶縁基板と、前記透光性絶縁基板上に設けられた透明導電膜、光電変換層および裏面電極層と、前記裏面電極層上に設けられたバスバーと、を少なくとも備え、
前記バスバーが、導電性テープを介して前記裏面電極層と電気的に接続されていることにより、前記裏面電極層が取り出し電極として使用され、
前記導電性テープが、熱硬化性樹脂と導電性粒子とを含み、
前記熱硬化性樹脂は、硬化温度が150?250℃である樹脂であり、エポキシ樹脂またはアクリル樹脂である、薄膜太陽電池。」

2 引用刊行物及び引用発明
原査定における拒絶の理由で引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物及びその記載事項、ならびに引用発明は、上記「第2」[理由]「3」に記載したとおりである。

3 本願発明と引用発明との対比及び判断
本願発明は、本件補正発明から、その構成要素である「導電性テープ」に関し「厚みが20?40μmであり、」「点状に配置される」構成を省いたものである。
ここで、本願発明の発明特定事項を全て含み、上記構成要素を限定した本件補正発明が、上記「第2」[理由]「5」に記載した通り、引用発明及び引用例2、3記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び引用例2、3記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2、3記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-15 
結審通知日 2014-05-20 
審決日 2014-06-02 
出願番号 特願2009-519191(P2009-519191)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡田 吉美  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 北川 清伸
土屋 知久
発明の名称 薄膜太陽電池  
代理人 水方 勝哉  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ