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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K
管理番号 1289988
審判番号 不服2013-23420  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-29 
確定日 2014-08-05 
事件の表示 特願2010-139106「車両の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月 5日出願公開、特開2012- 1137、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年6月18日の出願であって、平成25年6月5日付けで拒絶理由が通知され、同年7月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月7日付けで拒絶査定がされ、同年11月29日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし9に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明9」という。)は、平成25年7月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
蓄電装置と前記蓄電装置が出力する電力で駆動する第1回転電機とを備え前記第1回転電機の動力を用いて走行可能な車両の制御装置であって、
ユーザによるアクセル操作量を検出するセンサと、
前記蓄電装置と前記第1回転電機との間で授受される電力を制御する電力制御器と、
前記電力制御器を制御することで前記蓄電装置の出力を制御する出力制御装置とを備え、
前記出力制御装置は、
前記センサの出力に基づいて前記車両の緊急的な加速が不要な通常時であるのか前記緊急的な加速が必要な緊急時であるのかを判定し、
前記通常時は前記蓄電装置の出力を制限する第1制限制御を実行し、
前記緊急時は前記蓄電装置の出力の制限を解除する解除制御を実行し、
前記解除制御の実行中に前記蓄電装置の劣化の程度を表わす指標を算出し、前記指標が許容値を超えた時以降は前記解除制御の実行を停止して前記蓄電装置の出力を再び制限する第2制限制御を実行し、
前記出力制御装置は、前記第2制限制御の実行中は、前記第1制限制御の実行時よりも前記蓄電装置の出力を強く制限する、車両の制御装置。
【請求項2】
前記出力制御装置は、
前記第1制限制御の実行中は前記蓄電装置の蓄電量が第1量よりも少ない場合に前記蓄電装置の出力を制限し、前記第2制限制御の実行中は前記蓄電装置の蓄電量が第2量よりも少ない場合に前記蓄電装置の出力を制限し、
前記第2量は、前記第1量よりも多い値に設定される、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記出力制御装置は、
前記第1制限制御を実行する場合、前記蓄電装置の蓄電量が第1量よりも多いときに前記蓄電装置の出力を所定値に制限し、前記蓄電装置の蓄電量が前記第1量よりも少ないときに前記蓄電装置の出力を前記所定値よりも小さい値に制限し、
前記第2制限制御を実行する場合、前記蓄電装置の蓄電量が第2量よりも多い場合に前記蓄電装置の出力を前記所定値に制限し、前記蓄電装置の蓄電量が前記第2量よりも少ない場合に前記蓄電装置の出力を前記所定値よりも小さい値に制限し、
前記第2量は、前記第1量よりも多い値に設定される、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記指標は、前記蓄電装置の電圧が目標下限値を下回った時間の累積値である、請求項1?3のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記指標は、前記解除制御の実行回数または前記解除制御の実行時間である、請求項1?3のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御装置は、ユーザが前記車両を緊急的に加速させる指令を入力するためのスイッチをさらに備え、
前記出力制御装置は、前記センサの出力に加えてさらに前記スイッチの出力に基づいて前記通常時であるのか前記緊急時であるのかを判定する、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記出力制御装置は、前記アクセル操作量が所定量よりも大きくかつ前記車両を緊急的に加速させる指令が前記スイッチに入力された場合に前記緊急時であると判定する、請求項6に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記車両は、内燃機関をさらに備え、前記第1回転電機と前記内燃機関との少なくともいずれかの動力を用いて走行するハイブリッド車両である、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項9】
前記車両は、第2回転電機と遊星歯車装置とをさらに備え、
前記遊星歯車装置は、前記第1回転電機に連結されるリングギヤと、前記第2回転電機に連結されるサンギヤと、前記サンギヤおよび前記リングギヤと係合するピニオンギヤと、前記内燃機関に連結され、前記ピニオンギヤを自転可能に支持するキャリアとを含み、
前記第2回転電機は、前記遊星歯車装置を経由して伝達された前記内燃機関の動力で、前記第1回転電機を駆動するための電力および前記蓄電装置を充電するための電力を発電する、請求項8に記載の車両の制御装置。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要
1 平成25年6月5日付けで通知した拒絶理由の概要
平成25年6月5日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1-10
・引用文献等 1,2
・備考
引用文献1,2には、蓄電装置の出力を制限するとともに、大きな出力が要求されたときに、所定の状態(指標)になるまで蓄電装置の出力の制限を解除することが開示若しくは示唆されている(引用文献1については例えば請求項1,段落【0053】-【0059】,【0065】,図7等、引用文献2については例えば請求項4,第6頁第42-47行等参照)。また蓄電装置の容量が許容値を超える場合、蓄電装置の出力を制限することは、一般的に実施されている事項である。
よって、請求項1-10に係る発明は、上記の、引用文献1,2に記載の技術思想等から当業者が容易になし得たものである。
なお、上記指標として経過時間等を用いることは、当業者が適宜選択し得る事項である。また大きな出力が要求されたときを何で判定するかも、当業者が必要に応じて適宜設定し得る事項である。
・・・(略)・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2010-006296号公報
2.特開2006-009588号公報
・・・(略)・・・
・先行技術文献
特開2007-282375号公報(請求項5,段落【0005】-【0007】,【0032】,図6に記載の、放電電流制限解除手段に関連する構成を参照)
・・・(略)・・・」

2 平成25年10月7日付けでした拒絶査定の概要
平成25年10月7日付けでした拒絶査定の概要は、次のとおりである。

「この出願については、平成25年 6月 5日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
請求項1-9について;
出願人は、上記意見書において、上記拒絶理由通知書で通知した引用文献1,2には、「本願発明の技術的特徴のように、制限解除後にアシスト電力制限を再開する際に制限解除前よりも強く制限することについては何ら示されて」いないから、請求項1-9に係る発明は、引用文献1,2に記載のものから容易に想到し得ない旨主張している。
しかしながらハイブリッド車両の技術分野において、蓄電装置の劣化を防止するため、電力制限解除後に電力制限を再開する際に制限解除前よりも強く制限することは、従来より周知である(必要ならば、新たに追加する周知例1の図4,段落【0008】-【0010】,【0037】,【0038】,【0061】,【0062】等参照)。さらに言えば、蓄電装置が劣化するということは、電力供給能力が劣化することである(必要ならば、上記拒絶理由通知書の先行技術文献として通知した特開2007-282375号公報の段落【0029】等参照)から、蓄電装置が劣化すれば、その劣化具合に応じて電力供給量がより制限されるのは、当業者であれば容易に理解できる事項であるともいえる。そうしてみると、本願発明の「制限解除後にアシスト電力制限を再開する際に制限解除前よりも強く制限する」という発明特定事項にいわゆる進歩性があるとは認められない。
よって、出願人の上記意見書による主張は採用できない。
以上。
周知例;
1.特開2009-254223号公報
・・・(略)・・・」

第4 当審の判断
1 引用文献1及び2、周知例並びに先行技術文献の記載等
(1)引用文献1の記載、引用文献1の記載事項及び引用発明
ア 引用文献1の記載
特開2010-6296号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「ハイブリッド車両」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(以下、順に、「記載1a」ないし「記載1d」といい、まとめて、「引用文献1の記載」という。)。

1a 「【0010】
本発明は、エンジンと、エンジンからの動力を受けて発電可能な発電機と、発電機により発電された電力を蓄えるバッテリと、バッテリ及び発電機から供給される電力を受けて走行用の動力を出力可能な電動機とを備えるハイブリッド車両であって、バッテリの電圧を昇圧して電動機へ供給する電圧変換器と、電圧変換器の昇圧動作に関して第1のモードと第2のモードとを選択するための選択手段と、選択手段によって第2のモードが選択されたときに電圧変換器による昇圧後の電圧上限値を第1のモードにおける第1の上限値から該第1の上限値よりも低い第2の上限値に変更すると共に、バッテリの残容量が閾値以下になったときに電圧変換器による昇圧後の電圧上限値を第2の上限値から第1の上限値へ切り換える制御手段とを更に備えることを特徴とする。」(段落【0010】)

1b 「【0016】
図1は、本発明の一実施形態であるハイブリッド車両10の概略構成図である。図1において、動力伝達系は実線で、電力ラインは一点鎖線で、信号ラインは点線でそれぞれ示されている。ハイブリッド車両10は、走行用の動力を出力可能なエンジン12と、2つの3相交流同期型モータジェネレータ(以下、単に「モータ」という。)MG1,MG2と、動力分配統合機構14とを備える。
【0017】
エンジン12は、ガソリンや軽油等を燃料として動力を発生する内燃機関である。エンジン12は、エンジン制御用ECU(Electronic Control Unit)(以下、「エンジンECU」という。)16と電気的に接続されており、エンジンECU16からの制御信号を受けて燃料噴射、点火、スロットル等が調節されることで作動制御されるようになっている。エンジン12の回転数Neは、エンジン12の出力軸13に近接して設けられた回転位置センサ11から出力される検出値を受けてエンジンECU16において算出される。
・・・(略)・・・
【0020】
モータMG2のロータ36に接続される回転軸38もまた減速機34に接続されており、モータMG2が電動機として機能するときにはモータMG2からの動力が減速機34へ入力されるようになっている。
・・・(略)・・・
【0022】
モータMG1,MG2は、それぞれ対応するインバータ44,46に電気的に接続されている。各インバータ44,46は、共通の電圧変換器であるコンバータ48に電気的に並列に接続されると共に、コンバータ48を介してバッテリ50に電気的に接続されている。バッテリ50には、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池等の充放電可能な二次電池が好適に用いられるが、これに限定されず、例えばキャパシタが用いられてもよい。
【0023】
モータMG1,MG2が電動機として機能するとき、バッテリ50から平滑コンデンサ52を介して供給される直流電圧Vbをコンバータ48で出力電圧Vcに昇圧してから、平滑コンデンサ54を介してインバータ44,46へ入力し(コンバータ出力電圧Vcはインバータ入力電圧であるシステム電圧VHに相当する。以下に同じ。)、インバータ44,46で交流変換してモータMG1,MG2に印加される。
【0024】
逆に、モータMG1,MG2が発電機として機能するとき、MG1,MG2から出力される交流電圧をインバータ44,46で直流変換した後、コンバータ48で降圧してバッテリ50に充電する。また、インバータ44,46は、コンバータ48に接続される電力ライン56および接地ライン58を共通にしていることから、モータMG1,MG2のうち一方のモータで発電した電力をコンバータを介することなく他方のモータに供給して回転駆動させることもできる。
【0025】
インバータ44,46は、モータ用ECU(以下、「モータECU」という。)60にそれぞれ電気的に接続されており、モータECU60から送信される制御信号に基づいて作動制御される。また、モータMG1,MG2には、ロータ29,36の回転角を検出する回転角センサ31,37が設けられている。各回転角センサ31,37による検出値は、モータECU60に入力されて各モータ回転数Nm1,Nm2を算出するために用いられる。さらに、モータECU60には、各モータMG1,MG2用にそれぞれ設けられる図示しない電流センサによって検出されるモータ電流が入力される。
【0026】
バッテリ50には、電流センサ、電圧センサ、温度センサ等のバッテリ状態検出センサ62が設置され、このセンサ62による各検出値すなわちバッテリ電流Ib、バッテリ電圧Vb、バッテリ温度Tb等がバッテリ用ECU(以下、「バッテリECU」という。)64に入力される。バッテリECU64は、これらの検出値に基づいてバッテリ50の残容量(SOC)を推定し、バッテリ残容量が適正範囲、例えば定格容量の60%を中心とする40%?80%の範囲に維持されるように監視しており、適正範囲上限近傍では入力制限信号を、適正範囲下限近傍では出力制限および充電要求の信号を後述するハイブリッド用ECUへ出力する。
【0027】
エンジンECU16、モータECU60およびバッテリECU64は、ハイブリッドECU(制御手段)66に電気的に接続されている。ハイブリッドECU66は、制御プログラムを実行するCPU、制御プログラムや制御用マップ等を格納するROM、各種検出値を一時的に記憶して随時に読み出し可能なRAM等から構成されており、エンジン12およびモータMG1,MG2を統括的に作動制御すると共にバッテリ50を管理する機能を有する。
【0028】
ハイブリッドECU66は、エンジンECU16との間で、必要に応じてエンジン制御信号を送信し、必要に応じてエンジン作動状態に関するデータ(例えばエンジン回転数Ne等)を受信する。また、ハイブリッドECU66は、モータECU60との間で、必要に応じてモータ制御信号を送信し、必要に応じてモータ作動状態に関するデータ(例えばモータ回転数Nm1,Nm2、モータ電流等)を受信する。さらに、ハイブリッドECU66は、バッテリECU64からバッテリ残容量、バッテリ電圧、バッテリ温度、入出力制限信号等のバッテリ管理に必要なデータを受信する。
【0029】
ハイブリッドECU66には、また、車速センサ68およびアクセル開度センサ70が電気的に接続されており、ハイブリッド車両10の走行速度である車速Svと、図示しないアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Acとがそれぞれ入力される。
【0030】
さらに、ハイブリッドECU66には、エコスイッチ(選択手段)72が電気的に接続されている。エコスイッチ72は、ユーザである運転者が操作しやすい位置に設けられており、押圧操作、回転操作または軽くタッチ操作等することで、エコスイッチ・オン信号EonがハイブリッドECU66へ入力される。エコスイッチ72がオン操作されると、エコスイッチオフ時の通常モード(第1のモード)から通常モードよりも低燃費走行が可能なエコモード(第2のモード)への移行が選択されるようになっている。」(段落【0016】ないし【0030】)

1c 「【0052】
次に、図6および図7を参照して、上記ハイブリッド車両10におけるエコモード制御について説明する。図6は、エコスイッチ72(図1参照)がオンされていない状態のときの通常モードと、エコスイッチ72がオン操作されることで選択されるエコモードとについて、車速Svと車両パワーとの関係をそれぞれ示すマップである。図6に示される実線は、通常モードおよびエコモードで出力可能な最大車両パワーをそれぞれ表している。また、図7は、エコスイッチ72がオン操作されたときにハイブリッドECU66において実行される処理ルーチンを示すフローチャートである。
【0053】
運転者が車両の動力性能よりも燃費を優先させた走行を希望するとき、運転者はエコスイッチ72をオン操作することでエコモードが選択される。これにより、図6に示すように、車両が出力可能な最大パワーは、通常モードに比較して低減される。
【0054】
より詳細には、エコスイッチ72がオン操作されると、ハイブリッドECU66にエコスイッチオン信号Eonが入力される。これを受けてハイブリッドECU66は、図7のステップS10のエコモード制御を実行する。このエコモード制御には、エンジン12の上限回転数の低減によるエンジン動作点の変更、コンバータ48の昇圧上限値を第1の上限値である例えば650ボルトから第2の上限値である例えば500ボルトに低減して昇圧制限をかける、インバータ46においてモータ入力電圧生成のために電圧指令との対比に用いる搬送波の周波数を低減させる、エアコン等の補機類をエコモード作動(例えばエアコン用コンプレッサの間欠運転)させる等の制御を実行する。
【0055】
このようなエコモード制御では、エンジン上限回転数の低減により燃料消費が抑えられ、コンバータ48の昇圧上限値を低く抑えることでコンバータ48におけるスイッチング損失が低下し、上記搬送波の周波数低減によってインバータ46におけるスイッチング損失が低下し、補機類のエコモード作動によって消費電力が抑えられる。その結果、通常モードに比べて低燃費走行が可能になり、エネルギー効率が向上する。
【0056】
しかし、上記エコモードでは走行用モータMG2および発電用モータMG1の回転数が制限され、特に発電用モータMG1の回転数制限は発電量の低下を招き、バッテリ50の残容量やユーザ操作による車両の運転状態によっては、バッテリ充電のためのエンジン間欠運転の頻度が高くなることで却って燃費が悪化したりバッテリ50の残容量が適正範囲の下限である40%を大きく割り込んでしまうことが考えられる。
【0057】
具体的には、ユーザである運転者がアクセルペダルを大きく踏み込むことによって、図6においてエコモードで出力可能な最大車両パワーを上回る車両パワーが継続的に要求されると、発電用モータMG1による発電量以上の電力がモータMG2駆動のためにバッテリ50から引き出されてバッテリ残容量が大きく低下し、バッテリ容量の適正範囲下限を大きく割れてしまう場合がある。バッテリ50の残容量が適正範囲下限よりも大きく低下すると、バッテリ50がダメージを受けて短寿命化することになる。
【0058】
そこで、このような事態を防止すべく、図7に示すエコモード処理ルーチンにおいて次のような処理を実行する。ステップS12において、残容量SOCが閾値である例えば40%を上回っているか否かを判定する。そして、残容量SOCが40%以下であると判定されると(ステップS12でNO)、コンバータ48における昇圧上限値500ボルトを通常モード時と同様の650ボルトに切り換えて昇圧制限を解除する(ステップS18)。これにより、発電機であるモータMG1の回転数制限も解除されるので十分な発電量を確保でき、その結果、バッテリ50への充電が可能になってバッテリ残容量を適正範囲に復帰させることができる。
【0059】
一方、バッテリ残容量SOCが40%を上回っていると判定されると(ステップS12でYES)、続いて、車両要求パワーPv*が車両出力可能パワーPvよりも大きい状態が所定時間継続しているか否かを判定する(ステップS14)。ここでの「所定時間」は例えば数秒間程度であることが好ましく、運転者によるアクセルペダルの瞬間的な踏み込みを排除することを意図したものである。
【0060】
上記車両要求パワーPv*は、予めROMに記憶されているマップを参照してアクセル開度Acおよび車速Svに基づいて設定される。この車両要求パワーPv*が図6に示すエコモードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続していると判定されると(ステップS14でYES)、上記と同様にコンバータ48の昇圧制限を解除する(ステップS18)。一方、車両要求パワーPv*がエコモードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続していると判定されない場合(ステップS14でNO)、コンバータ48の昇圧制限が維持される(ステップS16)。
【0061】
そして、エコスイッチ72がオフ操作されたか否かを判定し(ステップS20)、オフされていなければ上記ステップS12へ戻り(ステップS20でNO)、一方、オフされていれば(ステップS20でYES)エコモード制御終了、すなわち通常モードに復帰させて(ステップS22)、処理を終了する。
【0062】
このように本実施形態のハイブリッド車両10では、エコモードの選択により燃費向上を図ると共に、バッテリ残量が適正範囲の下限40%以下になると直ちにコンバータ48の昇圧制限を解除することで、バッテリ残容量が適正範囲の下限を大きく割れしてしまう事態を回避できる。」(段落【0052】ないし【0062】)

1d 「【0065】
さらに、上記ハイブリッド車両10では、エコスイッチ72が選択手段であって通常モードが第1のモード、エコモードが第2のモードであるとして説明したが、これに限定されるものではない。例えば、燃費よりも車両駆動性能を優先させたいときにオン操作するパワースイッチを選択手段とし、パワースイッチがオフ状態のとき第2のモードとしての通常モードが選択され、パワースイッチがオンされると第1のモードとしてのパワーモードが選択されるようにして、本発明を適用することも可能である。」(段落【0065】)

イ 引用文献1の記載事項
記載1aないし1d及び図面の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていると認める(以下、順に、「記載事項2a」ないし「記載事項2e」という。)。

2a 記載1a、記載1bの「図1は、本発明の一実施形態であるハイブリッド車両10の概略構成図である。」(段落【0016】)、「モータMG2のロータ36に接続される回転軸38もまた減速機34に接続されており、モータMG2が電動機として機能するときにはモータMG2からの動力が減速機34へ入力されるようになっている。」(段落【0020】)及び「モータMG1,MG2は、それぞれ対応するインバータ44,46に電気的に接続されている。各インバータ44,46は、共通の電圧変換器であるコンバータ48に電気的に並列に接続されると共に、コンバータ48を介してバッテリ50に電気的に接続されている。」(段落【0022】)並びに図面によると、引用文献1には、バッテリ50と前記バッテリ50が出力する電力で駆動するモータMG2とを備え前記モータMG2の動力を用いて走行可能なハイブリッド車両10の制御装置が記載されている。

2b 記載1a、記載1bの「ハイブリッドECU66には、また、車速センサ68およびアクセル開度センサ70が電気的に接続されており、ハイブリッド車両10の走行速度である車速Svと、図示しないアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Acとがそれぞれ入力される。」(段落【0029】)、記載1cの「具体的には、ユーザである運転者がアクセルペダルを大きく踏み込むことによって」(段落【0057】)及び図面によると、引用文献1には、ユーザによるアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ70が記載されている。

2c 記載1a、記載1bの「【0022】
モータMG1,MG2は、それぞれ対応するインバータ44,46に電気的に接続されている。各インバータ44,46は、共通の電圧変換器であるコンバータ48に電気的に並列に接続されると共に、コンバータ48を介してバッテリ50に電気的に接続されている。バッテリ50には、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池等の充放電可能な二次電池が好適に用いられるが、これに限定されず、例えばキャパシタが用いられてもよい。
【0023】
モータMG1,MG2が電動機として機能するとき、バッテリ50から平滑コンデンサ52を介して供給される直流電圧Vbをコンバータ48で出力電圧Vcに昇圧してから、平滑コンデンサ54を介してインバータ44,46へ入力し(コンバータ出力電圧Vcはインバータ入力電圧であるシステム電圧VHに相当する。以下に同じ。)、インバータ44,46で交流変換してモータMG1,MG2に印加される。
【0024】
逆に、モータMG1,MG2が発電機として機能するとき、MG1,MG2から出力される交流電圧をインバータ44,46で直流変換した後、コンバータ48で降圧してバッテリ50に充電する。また、インバータ44,46は、コンバータ48に接続される電力ライン56および接地ライン58を共通にしていることから、モータMG1,MG2のうち一方のモータで発電した電力をコンバータを介することなく他方のモータに供給して回転駆動させることもできる。
【0025】
インバータ44,46は、モータ用ECU(以下、「モータECU」という。)60にそれぞれ電気的に接続されており、モータECU60から送信される制御信号に基づいて作動制御される。また、モータMG1,MG2には、ロータ29,36の回転角を検出する回転角センサ31,37が設けられている。各回転角センサ31,37による検出値は、モータECU60に入力されて各モータ回転数Nm1,Nm2を算出するために用いられる。さらに、モータECU60には、各モータMG1,MG2用にそれぞれ設けられる図示しない電流センサによって検出されるモータ電流が入力される。」(段落【0022】ないし【0025】)及び図面によると、引用文献1には、バッテリ50とモータMG2との間で授受される電力を制御するインバータ44,46及びコンバータ48が記載されている。

2d 記載事項2aないし2c、記載1bの「エンジンECU16、モータECU60およびバッテリECU64は、ハイブリッドECU(制御手段)66に電気的に接続されている。ハイブリッドECU66は、制御プログラムを実行するCPU、制御プログラムや制御用マップ等を格納するROM、各種検出値を一時的に記憶して随時に読み出し可能なRAM等から構成されており、エンジン12およびモータMG1,MG2を統括的に作動制御すると共にバッテリ50を管理する機能を有する。」(段落【0027】)及び図面によると、引用文献1には、インバータ44,46及びコンバータ48を制御することでバッテリ50の出力を制御するハイブリッドECU66が記載されている。

2e 記載事項2aないし2d、記載1cの「【0059】
一方、バッテリ残容量SOCが40%を上回っていると判定されると(ステップS12でYES)、続いて、車両要求パワーPv*が車両出力可能パワーPvよりも大きい状態が所定時間継続しているか否かを判定する(ステップS14)。ここでの「所定時間」は例えば数秒間程度であることが好ましく、運転者によるアクセルペダルの瞬間的な踏み込みを排除することを意図したものである。
【0060】
上記車両要求パワーPv*は、予めROMに記憶されているマップを参照してアクセル開度Acおよび車速Svに基づいて設定される。この車両要求パワーPv*が図6に示すエコモードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続していると判定されると(ステップS14でYES)、上記と同様にコンバータ48の昇圧制限を解除する(ステップS18)。一方、車両要求パワーPv*がエコモードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続していると判定されない場合(ステップS14でNO)、コンバータ48の昇圧制限が維持される(ステップS16)。」(段落【0059】及び【0060】)、記載1d及び図面によると、引用文献1には、ハイブリッドECU66は、アクセル開度センサ70の出力に基づいてハイブリッド車両10の車両要求パワーPv*が通常モードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続していない場合であるのか車両要求パワーPv*が通常モードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続している場合であるのかを判定することが記載されている。

2f 記載事項2aないし2e、記載1cの「上記車両要求パワーPv*は、予めROMに記憶されているマップを参照してアクセル開度Acおよび車速Svに基づいて設定される。この車両要求パワーPv*が図6に示すエコモードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続していると判定されると(ステップS14でYES)、上記と同様にコンバータ48の昇圧制限を解除する(ステップS18)。一方、車両要求パワーPv*がエコモードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続していると判定されない場合(ステップS14でNO)、コンバータ48の昇圧制限が維持される(ステップS16)。」(段落【0060】)及び図面によると、引用文献1には、車両要求パワーPv*が通常モードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続していない場合はコンバータ48の昇圧制限を維持し、車両要求パワーPv*が通常モードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続している場合はコンバータ48の昇圧制限を解除することが記載されている。

ウ 引用発明
記載1aないし1d、記載事項2aないし2f及び図面の記載を整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「バッテリ50と前記バッテリ50が出力する電力で駆動するモータMG2とを備え前記モータMG2の動力を用いて走行可能なハイブリッド車両10の制御装置であって、
ユーザによるアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ70と、
前記バッテリ50と前記モータMG2との間で授受される電力を制御するインバータ44,46及びコンバータ48と、
インバータ44,46及びコンバータ48を制御することでバッテリ50の出力を制御するハイブリッドECU66とを備え、
前記ハイブリッドECU66は、
前記アクセル開度センサ70の出力に基づいてハイブリッド車両10の車両要求パワーPv*が通常モードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続していない場合であるのか車両要求パワーPv*が通常モードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続している場合であるのかを判定し、
前記車両要求パワーPv*が通常モードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続していない場合はコンバータ48の昇圧制限を維持し、
前記車両要求パワーPv*が通常モードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続している場合はコンバータ48の昇圧制限を解除する、ハイブリッド車両10の制御装置。」

(2)引用文献2の記載
特開2006-9588号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「ハイブリット車両の駆動力制御装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(以下、まとめて、「引用文献2の記載」という。)。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に直接、または間接的に駆動力を与えるエンジンと、
電力を蓄える蓄電装置と、
前記蓄電装置と電気的に接続し、車両に駆動力を与えるモータと、を備え、
前記エンジンと前記モータから出力を供給し駆動するハイブリット車両において、
前記蓄電装置の蓄電状態を検出する蓄電状態検出手段と、
前記モータと前記エンジンからの出力により前記車両を駆動して加速する場合に、前記蓄電装置から供給する電力と電力供給時間を推定する蓄電装置電力供給推定手段と、
前記蓄電装置の蓄電状態と前記蓄電装置から供給する電力と電力供給時間に応じて、前記蓄電装置からの電力供給開始時に前記蓄電装置からの上限電力を算出する蓄電装置出力制限手段と、
前記蓄電装置出力制限手段によって算出された前記上限電力に応じて、前記エンジンの出力を制御するエンジン出力制限手段と、を備えたことを特徴とするハイブリット車両の駆動力制御装置。
・・・(略)・・・
【請求項4】
前記エンジンの出力が高くなる場合に、前記蓄電装置出力制限手段は、前記蓄電装置からの電力供給開始直後、前記エンジンが所定出力に達するまでは前記上限電力を解除することを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のハイブリット車両の駆動力制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項4】)

・「【0030】
ステップS200のアシスト電力制限の具体的な例について図4から図7を用いて説明する。なお、この例では蓄電装置6としてエネルギー容量150whのキャパシタを用いたハイブリット車両で80km/hから120km/hまで加速したものである。図4は本発明を用いない場合の経過時間に対するエンジン1の出力と回転数である。図5は本発明を用いない場合の経過時間に対する要求アシスト電力、SOC、蓄電装置6の出力可能電力、蓄電装置6のアシスト電力、車両の車速の変化を表したものである。図6は本発明を用いた場合の経過時間に対するエンジン1の出力と回転数である。図7は本発明を用いた場合の経過時間に対する要求アシスト電力、SOC、蓄電装置6の出力可能電力、蓄電装置6のアシスト電力、車両の車速の変化を表したものである。なお、20秒で加速を開始し、アシスト電力制限値Pastlmtは11kwである。
【0031】
図5と図7を比較すると図5では加速開始時に要求アシスト電力に100%追従した電力供給を行っている(図中、破線がアシスト電力を示し、二点差線が要求アシスト電力を示す)が、その結果22.5秒経過あたりから蓄電装置6の出力可能電力が減少し、出力可能電力の減少に応じてアシスト電力が要求アシスト電力に対して低下している。アシスト電力は22.5秒経過までは、要求アシスト電力と同一の変化を示し、22.5秒経過後は出力可能電力と同一の変化を示す。そして約30秒経過後は要求アシスト電力と同一の変化となる。
【0032】
一方、図7では要求アシスト電力に対して、アシスト電力制限値Pastlmtを11kwと設定した電力供給を行っており、蓄電装置6のアシスト出力は常に一定である。
【0033】
これにより本発明を用いない場合では図4に示すように、低下したアシスト電力の不足分はエンジン1によって補われるのでエンジン1の出力が加速中に増加する、すなわち、加速中に急にエンジン音、振動が大きくなる。しかし、本発明を用いた場合には、図6に示すようにエンジン1の出力は常に一定であるのでエンジン音、振動は、ほぼ一定である。このため、本発明では運転者は車両の加速中でも違和感なく運転することができる。
【0034】
ステップS200で設定されるアシスト電力制限値Pastlmtは、要求アシスト電力と継続時間、つまりは蓄電装置6から供給する電力量に応じて設定され、要求アシスト電力が多い程、また継続時間が長い程アシスト電力制限値は小さくなる。なお、加速開始時にはエンジン1の回転数がエンジン1の慣性の影響により所定の回転数となるまで時間がかかる場合がある。そのような場合には加速開始時にはアシスト電力制限値を緩和または解除しても良い。このような場合に全体の駆動力が不足してしまうので、エンジン1の回転数が所定の回転数(所定出力)となるまで蓄電装置6からアシスト電力を増加させ、不足分を補い、全体の駆動力を確保する。」(段落【0030】ないし【0034】)

(3)周知例の記載
特開2009-254223号公報(以下、「周知例」という。)には、「車両の電子制御装置、ハイブリッド車両、及び、車両の制御方法」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(以下、まとめて、「周知例の記載」という。)。

・「【0008】
しかし、車両の運転者が、後方からの別の車両の追突の可能性といった自車両に対する危険を察知した場合に、アクセルを踏み込む等の回避運転を行なう場合であっても、上述のように蓄電器劣化防止のために使用許可電力Woutが制限されていると、当該制限の分だけ電動機のトルクが小さくなるために、アクセルを踏み込んでも運転者の思うような加速性能が得られないといった不都合が生じる虞がある。
【0009】
特に、発電機を内燃機関のスタータモータに用いるハイブリッド車両では、電動機への供給電力が制限され、迅速な回避操作ができないばかりでなく、内燃機関起動のための発電機への給電が阻害されることにより内燃機関の始動が遅れる虞もある。
【0010】
本発明の目的は、上述の問題点に鑑み、通常時には蓄電器の劣化を防止しつつも、自車両の危険回避等の運転者の要求どおりの走行制御を確実に行なう必要のある異常時には、蓄電器の劣化状態にかかわらず走行制御を確実に行なうことのできる車両の電子制御装置、ハイブリッド車両、及び、車両の制御方法を提供する点にある。」(段落【0008】ないし【0010】)

・「【0037】
以下に詳述する。ハイブリッド制御装置84は、図4(a)に実線で示すように、蓄電器制御装置81から入力されるSOCに対応して規定される使用許可電力Woutの範囲内で蓄電器3の出力電力を制御している。図4(a)では、SOCが小さいために蓄電器3の出力電力を制限する必要のある場合には、使用許可電力Woutを小さくしていき、SOCが所定値以下の場合には使用許可電力Woutを零としているが、SOCが大きいために蓄電器3の出力電力を制限する必要のない場合には、使用許可電力Woutを一定値である30kwとしている。
【0038】
ハイブリッド制御装置84は、車両1の加速時、例えば加速度が所定値より大きい場合には、図4(a)に破線で示すように、使用許可電力Woutの最大値を車両の非加速時、つまり上述した30kwよりも大きい値(例えば35kw)に設定する。
【0039】
使用許可電力Woutが大きい値に設定されることで、車両1へ通常より多く供給される電力は、発電機MG1や電動機MG2のトルク増加のために使用される。発電機MG1は内燃機関2を起動させるためのスタータモータとして使用され、起動した内燃機関2及びトルク増加した電動機MG2によって車両1の加速性能が向上する。尚、このような使用許可電力Woutを大きくする設定は、例えば、内燃機関2が起動するまでの間だけ行なえばよく、通常、所定時間(例えば1秒)だけ行われる。」(段落【0037】ないし【0039】)

・「【0061】
ハイブリッド制御装置84は、現在の使用許可電力Woutの制限値に制限値緩和率を乗算し、乗算結果を制限される前の使用許可電力Woutから減算することで、緩和された使用許可電力Woutの制限値を算出する。例えば、ハイブリッド制御装置84は、制限される前の使用許可電力Woutが35kw、使用許可電力制限量WoutRが3kw、制限された後の使用許可電力Woutが32kwの場合であって、自車両1と検出された物体との相対速度及び距離に基づいて制限値緩和率が33%と決定された場合、以下の数1及び数2に示す演算で、使用許可電力Woutの制限値を32kwから34kwに緩和する。
・・・(略)・・・
【0062】
上述の構成によれば、後方車両との距離や相対速度によって、緩和される使用許可電力Woutが異なる。例えば、後方車両との距離が短く相対速度が大きい場合、危険度が大きいとして使用許可電力Woutの制限値は緩和され、制限値が大きく緩和される程、使用許可電力Woutが大きくなるので、運転者は危険回避走行をより適切に行なうことができる。つまり、上述の構成によれば、後方車両との衝突の危険度に応じて、蓄電器3の劣化防止(使用許可電力Woutの制限値を大きくする。)と危険回避(使用許可電力Woutの制限値を小さくする。)との比重を可変に設定することができる。」(段落【0061】及び【0062】)

(4)先行技術文献の記載
特開2007-282375号公報(以下、「先行技術文献」という。)には、「ハイブリッド車両制御システム及びハイブリッド車両制御方法」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(以下、まとめて、「先行技術文献の記載」という。)。

・「【請求項5】
請求項3において、前記充放電制御手段は、モータによりエンジンをアシストする必要性を予知又は判断したとき、前記放電電流の制限を解除する放電電流制限解除手段を備えたことを特徴とするハイブリッド車両制御システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項5】)

・「【0005】
【特許文献1】特開2004-6138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、蓄電池が異常となった場合、モータ出力を常に制限するため、ハイブリッド車両の性能を著しく低下させてしまう。
【0007】
本発明の目的は、一部の蓄電池の異常時にも、性能の低下を抑制できるハイブリッド車両の蓄電池制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】」(段落【0005】ないし【0007】)

・「【0028】
図4は、本発明の実施例1による状態検知及び異常処理手段106の処理内容を説明する処理フローチャートであり、蓄電池101又は102の異常状態を検知した場合に行う処理を説明する。状態検知及び異常処理手段106は、並列接続された各蓄電池101,102を常時、監視している。そして、ステップ401で故障など異常の発生した蓄電池を検知すると、ステップ402において異常状態の蓄電池101又は102に対応するスイッチ109又は110をオフし、異常蓄電池を切離す。図1で示した2つの蓄電池101,102を並列接続している場合、蓄電池101,102のいずれか1つが異常となった後は、健全な蓄電池は1つだけとなる。
【0029】
次に、状態検知及び異常処理手段106は、ステップ403において、現在電池が入出力可能な許容電流の制限を行う。許容電流の制限方法としては、例えば、2つの蓄電池101,102を並列接続しており、1つの蓄電池が異常となった場合は、許容電流を半分とする。また、初期に3つ接続している構成の場合に1つの蓄電池が異常になった場合には、許容電流を2/3に、さらに、2つの蓄電池が異常になった場合は許容電流を1/3に制限して上位システムに送信する。このような処理によって、健全な蓄電池の数に応じて、上位システムは蓄電池101,102の充放電制御を行うことができる。
【0030】
本実施例では、一部に異常が発生した蓄電池101,102の許容充放電電流は、上記の制御を行うほかに、ステップ404において、許容放電電流について、さらに小さくする制限を行う。これによって、健全な蓄電池数が少なくなっても、大電力必要時に対応できるように、高SOCを保つようにしたことが特徴である。
【0031】
ここでの許容放電電流の制限方法は、前述した異常蓄電池の数に応じて決定した許容充放電電流のさらに1/2、或いは1/3にするなど、任意に制限でき、または、システムを成立させるために最低限必要な放電電流を許容放電電流として決定しても良い。この結果、上位システムは、許容充電電流に比べさらに小さい許容放電電流を受信するので、充電に比べて放電を控えるよう蓄電池101,102の充放電制御を行うこととなる。したがって、充放電の関係が、充電>放電となるので、残りの健全な蓄電池101又は102を、高SOCへと導くことが可能である。
【0032】
さて、状態検知及び異常処理手段106は、車両の情報、例えば現在の車両の車速に代表されるような、車両走行或いは燃費に係る情報を取得する。前述した車両走行或いは燃費に係る車両情報を取得して、ステップ405において、モータ130によるエンジンアシストの必要性があるか否かを判断する。ここで、車両が停車し、次の発車時にアシストの必要性が生じた場合や、登坂中であると判断した場合など、言い換えれば、燃費が悪い状態であると検知した場合は、ステップ406に進んで、ステップ404で強く制限した許容放電電流の制限を解除する。すなわち、状態検知及び異常処理手段106が、燃費が悪い状態の代表的な例である発車の前触れを、車両が停止したことで検知すれば、許容放電電流の制限を解除する。」(段落【0028】ないし【0032】)

2 対比・判断
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比する。

引用発明における「バッテリ50」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明1における「蓄電装置」に相当し、以下、同様に、「モータMG2」は「第1回転電機」に、「ハイブリッド車両10」は「車両」に、「アクセルペダルの踏み込み量」は「アクセル操作量」に、「アクセル開度センサ70」は「センサ」に、「インバータ44,46及びコンバータ48」は「電力制御器」に、「ハイブリッドECU66」は「出力制御装置」に、「車両要求パワーPv*が通常モードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続していない場合」は「緊急的な加速が不要な通常時」に、「車両要求パワーPv*が通常モードで出力可能な最大車両パワーを超える状態が所定時間継続している場合」は「緊急的な加速が必要な緊急時」に、それぞれ、相当する。
また、引用発明における「コンバータ48の昇圧制限を維持し」は本願発明1における「蓄電装置の出力を制限する第1制限制御を実行し」と、「制限制御を実行し」という限りにおいて、一致する。
さらに、引用発明における「コンバータ48の昇圧制限を解除する」は本願発明1における「蓄電装置の出力の制限を解除する解除制御を実行し」と、「解除制御を実行し」という限りにおいて、一致する。

したがって、両者は、
「蓄電装置と前記蓄電装置が出力する電力で駆動する第1回転電機とを備え前記第1回転電機の動力を用いて走行可能な車両の制御装置であって、
ユーザによるアクセル操作量を検出するセンサと、
前記蓄電装置と前記第1回転電機との間で授受される電力を制御する電力制御器と、
前記電力制御器を制御することで前記蓄電装置の出力を制御する出力制御装置とを備え、
前記出力制御装置は、
前記センサの出力に基づいて前記車両の緊急的な加速が不要な通常時であるのか前記緊急的な加速が必要な緊急時であるのかを判定し、
前記通常時は制限制御を実行し、
前記緊急時は解除制御を実行する、車両の制御装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
「制限制御を実行し」及び「解除制御を実行し」に関して、本願発明1においては、それぞれ、「蓄電装置の出力を制限する第1制限制御を実行し」及び「蓄電装置の出力の制限を解除する解除制御を実行し」であって、しかも、「前記解除制御の実行中に前記蓄電装置の劣化の程度を表わす指標を算出し、前記指標が許容値を超えた時以降は前記解除制御の実行を停止して前記蓄電装置の出力を再び制限する第2制限制御を実行し、
前記出力制御装置は、前記第2制限制御の実行中は、前記第1制限制御の実行時よりも前記蓄電装置の出力を強く制限する」ものであるのに対し、引用発明においては、それぞれ、「コンバータ48の昇圧制限を維持し」及び「コンバータ48の昇圧制限を解除する」である点(以下、「相違点」という。)。

(2)相違点についての判断
ア 引用文献1には、引用文献1の記載からみて、蓄電装置の出力を制限することや蓄電装置の出力の制限を解除することは記載されておらず、それを示唆する記載もない。また、蓄電装置の出力の制限を解除する解除制御の実行中に前記蓄電装置の劣化の程度を算出し、前記指標が許容値を超えた時以降は前記解除制御の実行を停止して前記蓄電装置の出力を再び制限する第2制限制御を実行すること及び第2制限制御の実行中は、第1制限制御の実行時よりも前記蓄電装置の出力を強く制限することも記載されておらず、それを示唆する記載もない。

イ 引用文献2には、引用文献2の記載からみて、加速開始時にエンジンの回転数が所定の回転数になるまで蓄電装置の出力の制限を解除すること(本願発明1における「蓄電装置の出力の制限を解除する解除制御を実行」に相当する。以下、「引用文献2記載の技術」という。)は記載されているが、蓄電装置の出力の制限を解除する解除制御の実行中に前記蓄電装置の劣化の程度を算出し、前記指標が許容値を超えた時以降は前記解除制御の実行を停止して前記蓄電装置の出力を再び制限する第2制限制御を実行すること及び第2制限制御の実行中は、第1制限制御の実行時よりも前記蓄電装置の出力を強く制限することは記載されておらず、それを示唆する記載もない。

ウ 周知例には、周知例の記載からみて、自車両の危険回避等の運転者の要求どおりの走行制御を確実に行なう必要のある異常時に蓄電装置の出力の制限を緩和すること(本願発明1における「蓄電装置の出力の制限を解除する解除制御を実行」に相当する。以下、「周知例記載の技術」という。)は記載されているが、蓄電装置の出力の制限を解除する解除制御の実行中に前記蓄電装置の劣化の程度を算出し、前記指標が許容値を超えた時以降は前記解除制御の実行を停止して前記蓄電装置の出力を再び制限する第2制限制御を実行すること及び第2制限制御の実行中は、第1制限制御の実行時よりも前記蓄電装置の出力を強く制限することは記載されておらず、それを示唆する記載もない。
また、周知例の記載では、「ハイブリッド車両の技術分野において、蓄電装置の劣化を防止するため、電力制限解除後に電力制限を再開する際に制限解除前よりも強く制限することは、従来より周知である」とはいえない。

エ 先行技術文献には、先行技術文献の記載からみて、蓄電池の異常状態を検知した場合に現在電池が入出力可能な許容電流の制限を行うこと及び燃費が悪い状態であると検知した場合は強く制限した許容放電電流の制限を解除すること(本願発明1における「蓄電装置の出力を制限する第一制限制御を実行」及び「蓄電装置の出力の制限を解除する解除制御を実行」に相当する。以下、「先行技術文献記載の技術」という。)は記載されているが、蓄電装置の出力の制限を解除する解除制御の実行中に前記蓄電装置の劣化の程度を算出し、前記指標が許容値を超えた時以降は前記解除制御の実行を停止して前記蓄電装置の出力を再び制限する第2制限制御を実行すること及び第2制限制御の実行中は、第1制限制御の実行時よりも前記蓄電装置の出力を強く制限することは記載されておらず、それを示唆する記載もない。
また、先行技術文献の記載では、「蓄電装置が劣化すれば、その劣化具合に応じて電力供給量がより制限されるのは、当業者であれば容易に理解できる事項である」とはいえない。

オ したがって、引用発明において、引用文献2、周知例及び先行技術文献記載の技術を適用して、相違点に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明並びに引用文献2、周知例及び先行技術文献記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本願発明2ないし9は、請求項1を引用するものであり、本願発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本願発明1と同様に、引用発明並びに引用文献2、周知例及び先行技術文献記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし9は、引用発明並びに引用文献2、周知例及び先行技術文献記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
したがって、本願については、原査定の拒絶の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-07-24 
出願番号 特願2010-139106(P2010-139106)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
加藤 友也
発明の名称 車両の制御装置  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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