• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1290005
審判番号 不服2013-8917  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-15 
確定日 2014-07-16 
事件の表示 特願2009-507928「複雑さの低減されたビームステアードMIMO OFDMシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月 8日国際公開、WO2007/127744、平成21年 9月24日国内公表、特表2009-534995〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2007年4月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年4月24日 米国、2006年7月5日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年7月10日付けの最後の拒絶理由通知に対して、平成24年8月20日付けで手続補正がなされたが、平成25年1月4日付けで上記手続補正について補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年5月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の平成24年2月27日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項10に記載された、

「【請求項10】
データ送信のために使用される複数のサブキャリアのサブセットである少なくとも1つのサブキャリアについてのチャネル情報を受信することと、
前記チャネル情報に基づいて前記少なくとも1つのサブキャリアについての少なくとも1つの送信ステアリング行列を取得し、他の複数のサブキャリアのおのおのの送信ステアリング行列を、前記送信ステアリング行列が取得された少なくとも1つのサブキャリアのうちの最も近いサブキャリアの前記取得された送信ステアリング行列に等しく設定することにより、前記少なくとも1つのサブキャリアについての前記チャネル情報に基づいて前記複数のサブキャリアについての複数の送信ステアリング行列を取得することと、
複数の送信アンテナから複数の受信アンテナへとデータを送信するために前記送信ステアリング行列を用いて前記複数のサブキャリアについての前記データを処理することと、
を備える方法。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、平成25年5月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項9に記載された、

「【請求項9】
データ送信のために使用される複数のサブキャリアの指定された少なくとも1つのサブキャリアについてのチャネル情報を受信することと、なお、前記少なくとも1つのサブキャリアの指定は、チャネル状態に基づいて、複数の時間間隔にわたって変化し、
前記チャネル情報に基づいて前記少なくとも1つのサブキャリアについての少なくとも1つの送信ステアリング行列を取得し、他の複数のサブキャリアのおのおのの送信ステアリング行列を、前記送信ステアリング行列が取得された少なくとも1つのサブキャリアのうちの最も近いサブキャリアの前記取得された送信ステアリング行列に等しく設定することにより、前記少なくとも1つのサブキャリアについての前記チャネル情報に基づいて前記複数のサブキャリアについての複数の送信ステアリング行列を取得することと、
複数の送信アンテナから複数の受信アンテナへとデータを送信するために前記送信ステアリング行列を用いて前記複数のサブキャリアについての前記データを処理することと、
を備える方法。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、本願発明に記載された「データ送信のために使用される複数のサブキャリアのサブセットである少なくとも1つのサブキャリア」に関し、「サブセットである少なくとも1つのサブキャリア」を、「指定された少なくとも1つのサブキャリア」と限定するものであり、さらに、当該「少なくとも1つのサブキャリア」の「指定」に関し、「なお、前記少なくとも1つのサブキャリアの指定は、チャネル状態に基づいて、複数の時間間隔にわたって変化し、」という構成を付加して限定することにより、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)、同第4項(シフト補正でないこと)及び同第5項(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明
原審の拒絶理由に引用された、米国特許出願公開第2006/0056531号明細書(以下、「引用例」という。)には「INTERPOLATION IN CHANNEL STATE FEEDBACK」(当審仮訳:「チャネル状態フィードバックにおける補間」)として図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「[0011] Stations 102 and 104 may include any number of antennas. In the example of FIG. 1 , station 102 includes four antennas, and station 104 includes three antennas. The "channel" through which stations 102 and 104 communicate may include many possible signal paths. For example, when stations 102 and 104 are in an environment with many "reflectors" (e.g. walls, doors, or other obstructions), many signals may arrive from different paths. This condition is known as "multipath". In some embodiments, stations 102 and 104 utilize multiple antennas to take advantage of the multipath and to increase the communications bandwidth. For example, in some embodiments, stations 102 and 104 may communicate using Multiple-Input-Multiple-Output (MIMO) techniques. In general, MIMO systems offer higher capacities by utilizing multiple spatial channels made possible by multipath. The channel between stations 102 and 104 is described by the channel state matrix, H, that includes entries describing the complex channel gains between each transmit and receive antenna pair.
[0012] In some embodiments, stations 102 and 104 may communicate using orthogonal frequency division multiplexing (OFDM) in each spatial channel. Multipath may introduce frequency selective fading which may cause impairments like inter-symbol interference (ISI). OFDM is effective at combating frequency selective fading in part because OFDM breaks each spatial channel into small subchannels such that each subchannel exhibits a more flat channel characteristic. Scaling appropriate for each subchannel may be implemented to correct any attenuation caused by the subchannel. Further, the data carrying capacity of each subchannel may be controlled dynamically depending on the fading characteristics of the subchannel.」(1頁右欄15行?右欄46行)

(当審仮訳)
「[0011] 局102および104は、任意の数のアンテナを含んでいる。図1の例では、局102は4つのアンテナを備え、基地局104は3つのアンテナを含んでいる。局102及び104が通信する「チャネル」は、多くの可能な信号経路を含んでいる。例えば、局102および104が多くの「反射体」(例えば壁、ドア、又は他の障害物)が存在する環境下にある場合、多数の信号が異なる経路から到着する。この状況は、「マルチパス」として知られている。いくつかの実施形態では、基地局102および104はマルチパスを利用して通信帯域幅を増加させるために複数のアンテナを利用する。例えば、いくつかの実施形態において、局102および104は多入力多出力(MIMO)技術を使用して通信することができる。一般に、MIMOシステムは、マルチパスによって可能になる複数の空間チャネルを利用して高容量を提供する。局102および104の間のチャネルは、各々の送信及び受信アンテナペア間の複素チャネル利得を表すエントリを含むチャネル状態行列Hにより表される。
[0012] いくつかの実施形態では、基地局102および104は、各空間チャネルで直交周波数分割多重(OFDM)を使用して通信する。マルチパスは、シンボル間干渉(ISI)のような障害を引き起こす周波数選択性フェージングをもたらす。OFDMでは、各空間チャネルを各サブチャネルが平坦なチャネル特性を示すような小さなサブチャネルに分割しているため、OFDMは、周波数選択性フェージングに対抗するのに部分的に有効である。各サブチャネルのための適切なスケーリングが、サブチャネルに発生する減衰を補正するために実施される。また、各サブチャネルのデータ搬送容量は、サブチャネルのフェージング特性に応じて動的に制御される。」

ロ.「[0013] MIMO systems may operate either "open loop" or "closed loop". In open loop MIMO systems, a station doesn't explicitly transmit channel state information to another station for the second station to acquire channel state information. In closed loop systems, communications bandwidth is utilized to transmit current channel state information between stations, thereby reducing reducing overall throughput. The communications bandwidth used for this purpose is referred to herein as "feedback bandwidth". When feedback bandwidth is reduced in closed loop MIMO systems, more bandwidth is available for data communications.
[0014] Various embodiments of the present invention provide for closed loop MIMO with a compact feedback scheme, thereby saving feedback bandwidth. In some embodiments, feedback bandwidth is saved by feeding back transmit beamforming vectors instead of the channel matrix H. Further, in some embodiments, the elements of each beamforming vector are jointly quantized by vector quantization using codebooks. In some of these embodiments, different size codebooks are used different ones of the transmit beamforming vectors. For example, in some embodiments, three beamforming vectors are quantized using three small codebooks of sizes 16, 32 and 64 respectively. Further, in some embodiments, beamforming vectors are only fed back for the active spatial channels. This provides a significant overhead reduction in the case of spatial channel puncture, where the spatial channel corresponding to the weakest eigenmode is usually punctured.
[0015] FIG. 2 shows frequency down-sampling in accordance with various embodiments of the present invention. The frequency response 210 is a hypothetical channel response as a function of frequency. The horizontal axis is labeled with carrier frequencies that correspond to subcarriers in an OFDM system. Various embodiments of the present invention may down-sample in the frequency domain and send back channel state information for less than all of the OFDM subcarriers. For example, because there is strong correlation between adjacent subcarriers, a station may determine beamforming vectors for a subset of all OFDM carriers and feed back quantized parameters for those vectors. In some embodiments, a fixed sampling rate is used, and in other embodiments, a variable sampling rate is used. In some embodiments, a station may only compute beamforming matrices for a few subcarriers and then feed back their quantization indexes without interpolation. In other embodiments, a station may interpolate the computed matrices and feed back the interpolated indexes to meet a constant feedback rate. In other embodiments, the station may transmit down-sampled channel information to a second station, and the second station may interpolate. Various interpolation embodiments are discussed in more detail below.
[0016] (省略)
[0017] A transmit beamforming matrix may be found using singular value decomposition (SVD) of the channel state matrix H as follows:
H_(m×n)=U_(m×m)D_(m×n)V'_(n×n) (1)
x_(n×1)=V_(m×n)d_(n×1) (2)
[0018] where d is the n-vector of data symbols containing k non-zero elements, where k is the number of active spatial channels (see next paragraph); x is the beamformed, transmitted signal vector on n transmit antennas; H is the channel matrix; H's singular value decomposition is H=UDV'; U and V are unitary; D is a diagonal matrix with H's eigenvalues; V is n by n. Equation (2) is the beamforming step at the transmitter, which utilizes the beamforming matrix V fed back from the receiver to the transmitter.
[0019] (省略)
[0020] In some embodiments, an access point may send training signals to a station and the station may compute and feedback the beamforming matrix V in (1).
(以下、省略) 」(1頁右欄47行?2頁右欄28行)

(当審仮訳)
「[0013] MIMOシステムは、「開ループ」または「閉ループ」のいずれかで動作する。開ループMIMOシステムでは、チャネル状態情報を取得しようとする第2局のために、一方の局から他の局へ明示的にチャネル状態情報を送信しない。閉ループシステムでは、通信帯域幅が局間で現在のチャネル状態情報を送信するために利用されるので、全体的なスループットが低下してしまう。この目的のために使用される通信帯域幅をここでは「フィードバック帯域幅」と呼ぶ。閉ループMIMOシステムにおいてフィードバック帯域幅が減少すれば、より多くの帯域幅がデータ通信のために利用可能となる。
[0014] 本発明の様々な実施形態では、閉ループMIMOのためのコンパクトなフィードバック方式を提供するので、フィードバック帯域幅が節約される。いくつかの実施形態では、チャネル行列Hの代わりに送信ビーム形成ベクトルをフィードバックすることによってフィードバック帯域幅が節約される。さらに、いくつかの実施形態では、各ビームフォーミングベクトルの要素は、コードブックを用いたベクトル量子化によって共通に量子化される。これらの実施形態のいくつかにおいて、異なる大きさのコードブックが異なる送信ビームフォーミングベクトルに対して使用される。例えば、いくつかの実施形態では、3つのビームフォーミングベクトルは、それぞれ16、32および64の大きさの3つの小さなコードブックを用いて量子化される。さらに、いくつかの実施形態では、ビームフォーミングベクトルは、アクティブな空間チャネルについてのみフィードバックされる。これは空間チャネルパンクチャ(最も弱い固有モードに対応する空間チャネルは通常パンクチャされる。)のケースにおいて大幅なオーバーヘッド削減をもたらす。
[0015] 図2には、本発明の様々な実施形態における周波数ダウンサンプリングが示される。周波数応答210は、周波数の関数としての仮想的なチャネル応答である。横軸は、OFDMシステムにおけるサブキャリアに対応するキャリア周波数で標識されている。本発明の様々な実施形態では、周波数領域でダウンサンプリングされ、そして、すべてのOFDMサブキャリアよりも少ないサブキャリアのチャネル状態情報を返信している。例えば、隣接するサブキャリアの間に強い相関関係があるので、局はすべてのOFDMキャリアうちのサブセットのビームフォーミングベクトルを決定し、それらのベクトルの量子化パラメータをフィードバックしてもよい。いくつかの実施形態では固定のサンプリングレートが使用され、他の実施形態では可変サンプリングレートが使用される。いくつかの実施形態では、局はわずか数個のサブキャリアのためのビームフォーミング行列を計算し、補間なしに量子化インデックスをフィードバックしてもよい。他の実施形態では、局は計算された行列を補間し、一定のフィードバックレートを満たすために補間されたインデックスをフィードバックしてもよい。他の実施形態では、局は第2局にダウンサンプリングされたチャネル情報を送信して、第2局が補間してもよい。種々の補間の実施形態は、以下でより詳細に議論される。
[0016] (省略)
[0017] 送信ビームフォーミング行列は以下のようにチャネル状態行列Hの特異値分解(SVD)を用いて見出すことができる:
H_(m×n)=U_(m×m)D_(m×n)V'_(n×n) (1)
x_(n×1)=V_(m×n)d_(n×1) (2)
[0018] dはk個の非ゼロ要素を含むデータシンボルのnベクトルであり、ここでkはアクティブな空間チャネルの数である(次の段落を参照);xはn個の送信アンテナでビームフォーミングされて送信される信号ベクトルである;Hはチャネル行列である;Hの特異値分解がH=UDV’である;UとVはユニタリである;Dは、Hの固有値を持つ対角行列である;Vはn行n列である。式(2)は受信機から送信機にフィードバックされたビームフォーミング行列Vを利用した送信機におけるビームフォーミング行程である。
[0019] (省略)
[0020] いくつかの実施形態では、アクセスポイントが局にトレーニング信号を送信し、局は、(1)式におけるビームフォーミング行列Vを計算し、フィードバックしてもよい。
(以下、省略)」

ハ.「[0065] (省略)
Down Sampling and Interpolation of Beamforming Matrix
[0066] Since the beamforming matrixes for adjacent subcarriers are highly correlated, some embodiments of the present invention feed back channel state information for less than all of the OFDM subcarriers, as described above with reference to FIG. 2 . For example, some embodiments down-sample in the frequency domain, and feed back channel state information for every n_(ds) subcarriers, and interpolation is utilized to obtain the skipped beamforming matrixes. Three example embodiments of interpolation schemes are as follows.
Interpolation Scheme 1.
[0067] 1) Reconstruct beamforming matrices for feedback subcarriers using operations described above with reference to equations (12)-(16) and the paragraph labeled "Reconstruction Algorithm of V".
[0068] 2) For each entry of the beamforming matrix, conduct interpolation across subcarriers. The interpolation methods can be such as linear and spline, and the method can also be Wiener-Kolmogorov filtering if the second order statistics of channel variation across frequency is known.
[0069] 3) Orthogonalize the interpolated matrixes because they are not necessarily unitary.」(5頁左欄10行?38行)

(当審仮訳)
「[0065] (省略)
ダウンサンプリング及びビームフォーミング行列の補間
[0066] 隣接するサブキャリアのビームフォーミング行列は非常に相関しているので、本発明のいくつかの実施形態では、図2を参照して上述したように、すべてのOFDMサブキャリアよりも少ないサブキャリアのためのチャネル状態情報をフィードバックしている。例えば、いくつかの実施形態では、周波数領域においてダウンサンプリングし、n_(ds)サブキャリア毎にチャネル状態情報をフィードバックし、そして、スキップされたビームフォーミング行列を得るために補間が利用される。補間方式の3つの例示的実施形態が以下に示される。
補間法1.
[0067] 1)等式(12)-(16)と「Vの再構成アルゴリズム」と記された段落を参照して上述されている操作を使用してフィードバックサブキャリアのためのビーム形成行列を再構成する。
[0068] 2)ビームフォーミング行列の各エントリに対して、サブキャリア間で補間を行う。補間方式は、線形やスプライン等であり、周波数方向のチャネル変動の二次統計が知られているなら補間方式は、ウィーナー・コルモゴロフ・フィルタリングとすることができる。
[0069] 3)それらは必ずしもユニタリではないので補間行列を直交化する。」

上記イ.?ハ.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、
(a) 引用例には、上記イ.及び図1に記載されるように、複数のアンテナを備えた局102と複数のアンテナを備えた局104間でのデータ通信について記載があり、データ通信には、MIMO(多入力多出力)及びOFDM(直交周波数分割多重)が使用されている。ここで、局102から局104へ送信する際、局102のアンテナは送信アンテナであり、局104のアンテナは受信アンテナといえる。

(b) 上記ロ.の段落[0013]?[0014]には、閉ループMIMOシステムにおけるフィードバック帯域幅の削減の必要性について記載されており、そして、段落[0015]には、フィードバック帯域幅の削減のための「周波数ダウンサンプリング」について記載があり、種々の実施形態が記載されている。
列記される種々の実施形態には、隣接するサブキャリアの間に強い相関関係があることから、すべてのOFDMサブキャリアよりも少ないサブキャリアのチャネル状態情報に基づき、ビームフォーミング行列を計算し、補間によりすべてのOFDMサブキャリアそれぞれのビームフォーミング行列を計算することが記載されているといえる。それぞれの実施形態では、局からどのような情報をフィードバックするかが異なっているが、「他の実施形態では、局は第2局にダウンサンプリングされたチャネル情報を送信して、第2局が補間してもよい。」と記載された実施形態も記載されている。そして、上記ハ.には、「すべてのOFDMサブキャリアよりも少ないサブキャリアのためのチャネル状態情報をフィードバックしている。例えば、いくつかの実施形態では、周波数領域においてダウンサンプリングし、n_(ds)サブキャリア毎にチャネル状態情報をフィードバックし、そして、補間がスキップされたビームフォーミング行列を得るために利用される。」と記載されている。
これらの記載から、引用例には、すべてのOFDMサブキャリアよりも少ない、所定のサブキャリア間隔のサブキャリアのためのチャネル状態情報を送信局にフィードバック送信し、送信局において、補間することによりすべてのサブキャリアについてのそれぞれのビームフォーミング行列を計算することが記載されているといえる。

(c) 上記ハ.には、スキップされたビームフォーミング行列を得るために補間が利用されると記載されており、段落[0068]には、補間方式として「線形」補間方式や「スプライン」補間方式を利用することが記載されている。

(d) 上記ロ.の段落[0017]?[0018]には、ビームフォーミング行列Vが、チャネル状態行列Hの特異値分解に基づいて得られる行列であること、データdにビームフォーミング行列Vを積算することで複数の送信アンテナからそれぞれ送信される信号xが得られることが記載されている。

したがって、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「データ送信のために使用されるすべてのOFDMサブキャリアよりも少ない、所定のサブキャリア間隔のサブキャリアのためのチャネル状態情報がフィードバックされ、
前記チャネル状態情報に基づいてすべてのOFDMサブキャリアよりも少ないサブキャリアのためのビームフォーミング行列を計算し、前記計算されたビームフォーミング行列に基づいて線形補間やスプライン補間等の補間を行うことにより、前記すべてのOFDMサブキャリアよりも少ないサブキャリアのための前記チャネル状態情報に基づいて前記すべてのOFDMサブキャリアについてのすべてのビームフォーミング行列を計算し、
複数の送信アンテナから複数の受信アンテナへとデータを送信するために前記ビームフォーミング行列を用いて前記すべてのOFDMサブキャリアについての前記データを処理する、
方法。」

(3)対比・判断
引用発明の「すべてのOFDMサブキャリア」は、データ送信のために使用されるサブキャリアであり、また、複数のサブキャリアであることは自明であるから、補正後の発明の「複数のサブキャリア」に相当する。
引用発明の、すべてのOFDMサブキャリアよりも「少ない、所定のサブキャリア間隔のサブキャリア」は、補正後の発明の「少なくとも1つのサブキャリア」に相当するものであり、また、引用発明の「少ない、所定のサブキャリア間隔のサブキャリア」は、n_(ds)サブキャリア毎のような所定間隔で「指定」されたサブキャリアである。
引用発明の「チャネル状態情報」、「ビームフォーミング行列」は、明らかに、それぞれ補正後の発明の「チャネル状態」、「送信ステアリング行列」に相当する。
引用発明の「計算」は、計算により計算値を取得するものであるから補正後の発明の「取得」に相当する。
引用発明の「前記計算されたビームフォーミング行列に基づいて線形補間やスプライン補間等の補間を行うことにより、前記すべてのOFDMサブキャリアよりも少ないサブキャリアのための前記チャネル状態情報に基づいて前記すべてのOFDMサブキャリアについてのすべてのビームフォーミング行列を計算」することと、補正後の発明の「他の複数のサブキャリアのおのおのの送信ステアリング行列を、前記送信ステアリング行列が取得された少なくとも1つのサブキャリアのうちの最も近いサブキャリアの前記取得された送信ステアリング行列に等しく設定することにより、前記少なくとも1つのサブキャリアについての前記チャネル情報に基づいて前記複数のサブキャリアについての複数の送信ステアリング行列を取得」することとは、後記する相違点(1)にかかる相違は別にして、「特定の手法により、前記少なくとも1つのサブキャリアについての前記チャネル情報に基づいて前記複数のサブキャリアについての複数の送信ステアリング行列を取得」することで共通する。

したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「データ送信のために使用される複数のサブキャリアの指定された少なくとも1つのサブキャリアについてのチャネル情報を受信することと、
前記チャネル情報に基づいて前記少なくとも1つのサブキャリアについての少なくとも1つの送信ステアリング行列を取得し、特定の手法により、前記少なくとも1つのサブキャリアについての前記チャネル情報に基づいて前記複数のサブキャリアについての複数の送信ステアリング行列を取得することと、
複数の送信アンテナから複数の受信アンテナへとデータを送信するために前記送信ステアリング行列を用いて前記複数のサブキャリアについての前記データを処理することと、
を備える方法。」

(相違点)
(1)「特定の手法」に関し、補正後の発明では、「他の複数のサブキャリアのおのおのの送信ステアリング行列を、前記送信ステアリング行列が取得された少なくとも1つのサブキャリアのうちの最も近いサブキャリアの前記取得された送信ステアリング行列に等しく設定する」手法であるのに対し、引用発明では、「他のサブキャリアのおのおののビームフォーミング行列を、前記ビームフォーミング行列が計算されたサブキャリアに基づいた線形補間やスプライン補間等の補間」手法である点。
(2)補正後の発明では、「前記少なくとも1つのサブキャリアの指定は、チャネル状態に基づいて、複数の時間間隔にわたって変化」するものであるのに対し、引用発明では、「すべてのサブキャリアよりも少ないサブキャリア」がどのように指定されるのか明らかではない点。

そこで、上記各相違点について検討する。
まず、上記相違点(1)について検討する。
「少なくとも1つのサブキャリアについてのチャネル情報に基づいて、複数のサブキャリアについての複数の送信ステアリング行列を取得」するにあたり、引用発明では「特定の手法」として、「線形補間やスプライン補間等の補間」を用いている。
ここで、補間とは、既知のデータ列に基づいて、データ列の各区間の範囲内を埋める数値を求めることであり、線形補間が、隣り合う既知の2点に挟まれた各区間に対し、該既知の2点間を一次関数(直線)でむすび、未知の値を該1次関数上の値とする補間手法であり、スプライン補間が、隣り合う既知の2点に挟まれた各区間に対し個別の多項式を用い、境界条件としてそれぞれの多項式の導関数が連続するようにし、未知の値を該個別の多項式上の値とする補間手法であることは、周知の技術事項である。
そして、これらの補間手法の他に、未知の点に最も近い既知の点の値を該未知の点の値とする、単純な補間手法もステップ補間(0次補間、最近傍点補間とも呼ばれる。)として周知(以下、「周知技術1」という。)であり、原審の拒絶理由通知で引用文献4として示された特開平11-163822号公報(段落【0017】?【0018】、図19(c)の記載参照。以下、「周知例1」という。)には、このようなステップ補間手法について記載がある。
当業者であれば、引用発明の「線形補間やスプライン補間等の補間」に替えて、上記周知例1に記載されたような周知技術1の「ステップ補間」を採用し、「他の複数のサブキャリアのおのおのの送信ステアリング行列を、前記送信ステアリング行列が取得された少なくとも1つのサブキャリアのうちの最も近いサブキャリアの前記取得された送信ステアリング行列に等しく設定する」ように補間して、「複数のサブキャリアについての複数の送信ステアリング行列を取得」することは容易に為し得ることである。
よって、相違点(1)は格別なものでない。

ついで、上記相違点(2)について検討する。
補正後の発明の「前記少なくとも1つのサブキャリアの指定は、チャネル状態に基づいて、複数の時間間隔にわたって変化」するとの構成は、本件補正によるものであるが、この構成について、審判請求人は、審判請求書において本願明細書の段落【0081】?【0087】、図3および図4の記載に基づくものであるとしている。
そこで、上記本願明細書の記載箇所についてみれば、段落【0086】に、「一実施形態においては、Lは、構成可能であり、チャネル状態に基づいて決定される。指定サブキャリアは、チャネル状態における変化が検出されるときはいつでも、かつ/または他の時において、呼出しセットアップ中に選択されることができる。」の記載があり、すなわち、これは、L(指定サブキャリアのサブキャリア間隔)の値をチャネル状態に基づいて選択することについての記載である。
このように、本願明細書の当該記載箇所には、図4に示されるようなLの異なる指定サブキャリア構成を、チャネル状態に基づいて複数の時間間隔にわたって変化(選択)させることについての記載があると認められるので、上記相違点(2)にかかる構成はそのような構成を含むものとして以下に判断する。
(図3に示されるようなLが固定で複数の時間間隔にわたってその指定キャリアの位置が循環的に変化する構成に対し、その循環を「チャネル状態に基づいて」変化させることについての記載もしくは示唆は本願明細書にない。また、図3と図4に記載の構成を組み合わせるようなことについても、記載もしくは示唆がない。なお、そのような組み合わせが自明であったとしても、補正後の発明の構成の上記相違点(2)にかかる記載が、図3と図4を組み合わせた『指定キャリアの位置が循環しつつLの間隔が変化するような構成』に限定されているわけではない。)

引用例の段落[0020]には、「いくつかの実施形態では、アクセスポイントが局にトレーニング信号を送信し、局は、(1)式におけるビームフォーミング行列Vを計算し、フィードバックしてもよい」との記載がある。すなわち、トレーニング信号に基づきチャネル状態情報を得て、ビームフォーミング行列Vを計算することが引用例には記載されているといえる。
一方、OFDMによる通信システムにおいて、送信局から受信局に送信するパイロット信号(引用例の「トレーニング信号」に相当)に基づき、受信局で当該パイロット信号が存在するサブキャリアのチャネル状態を計算し、該サブキャリアのチャネル情報を送信局にフィードバックするにあたり、時間とともに変化するチャネル状態に基づいて前記パイロット信号のサブキャリア間隔の指定を変化させる技術は周知(以下、「周知技術2」という。)である(例えば、特表2005-519567号公報(以下、「周知例2」という。)の段落【0025】?【0027】、【0038】?【0040】の記載を参照されたい)。ここで、周知例2の段落【0027】には、「その後の通信のため」のパイロットの最適なサブキャリア位置の割当てを行うことが記載されているから、「複数の時間間隔にわたって」パイロットの最適なサブキャリア位置の割当てが行われることになる。
当業者であれば、引用発明に周知技術2を適用して、受信したチャネル状態情報に基づいてトレーニング信号の割当てを行うことで、すべてのOFDMサブキャリアよりも少ない、サブキャリア間隔の変化するサブキャリアを指定すること、すなわち、補正後の発明のように「少なくとも1つのサブキャリアの指定」を「チャネル状態に基づいて、複数の時間間隔にわたって変化」させることを容易に為し得るものである。
したがって、相違点(2)も格別なものでない。

このように各相違点は格別なものでなく、そして、補正後の発明に関する作用・効果も、引用発明及び周知技術1、2から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、補正後の発明は引用発明及び周知技術1、2に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明及び周知技術
引用発明及び周知技術1、2は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の「(2)引用発明」及び「(3)対比・判断」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は補正後の発明から、本件補正に係る構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術1、2に基いて容易に発明をすることができたものであるから、補正後の発明から本件補正に係る限定を省いた本願発明も、同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術1、2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-05 
結審通知日 2014-02-12 
審決日 2014-02-28 
出願番号 特願2009-507928(P2009-507928)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04J)
P 1 8・ 121- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高野 洋太田 龍一  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 矢島 伸一
菅原 道晴
発明の名称 複雑さの低減されたビームステアードMIMO OFDMシステム  
代理人 河野 直樹  
代理人 白根 俊郎  
代理人 井上 正  
代理人 中村 誠  
代理人 峰 隆司  
代理人 竹内 将訓  
代理人 福原 淑弘  
代理人 井関 守三  
代理人 砂川 克  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 野河 信久  
代理人 堀内 美保子  
代理人 佐藤 立志  
代理人 赤穂 隆雄  
代理人 岡田 貴志  
代理人 蔵田 昌俊  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ