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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1290085
審判番号 不服2013-14023  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-22 
確定日 2014-07-24 
事件の表示 特願2011-191544「ガスレーザ用光学素子及びそれを用いたガスレーザ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月24日出願公開、特開2011-238976〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 本願発明
本願は、平成19年9月27日に出願した特願2007-250865号(以下「原出願」という。)の一部を平成23年9月2日に新たな特許出願としたものであって、その請求項に係る発明は、平成25年1月15日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「レーザチャンバと、
レーザチャンバの一方の側とその反対側に設置された光共振器と、
レーザチャンバ内部に封入されたレーザガスと、
前記レーザガスを励起する励起部と、
前記レーザチャンバに設けられ、
入射平面がフッ化カルシウム結晶の(111)結晶面に平行であり、
励起された前記レーザガスから発生するレーザ光の入射平面への入射角度は、24.9°から68.73°の角度範囲内であり、
前記入射平面から入射した前記レーザ光が
[111]軸と[001]軸を含む面内で、[111]軸と[001]軸との間、
[111]軸と[010]軸を含む面内で、[111]軸と[010]軸との間、
又は、[111]軸と[100]軸を含む面内で、[111]軸と[100]軸との間、
を通過し、射出平面から射出される2つのウィンドウと、
を備える
ことを特徴とするガスレーザ装置。」

2 先願明細書の記載
これに対して、原査定の拒絶理由に引用された、原出願の出願日前の2006年10月23日をパリ条約による優先権主張日とする特願2007-275280号(以下「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「先願明細書」という。特開2008-116940号公報参照。)には、次の記載がある。

(1)「【請求項1】
{111}または{100}結晶面及び<111>または<100>結晶軸をもつ結晶中への光の透過中における直線偏光の解消を引き起こしかつ防止あるいは減ずるための配置であって、前記結晶の表面は前記直線偏光が45?75℃の角度で衝突する前記{111}または{100}面によって形成され、及び前記結晶が、該結晶中へ入った後の光が前記<100>または<111>結晶軸に対して可能な限り平行に伝搬されるように、及びまたは前記結晶中に温度勾配が形成されることを防止する系に調節装置が含まれるように配置されることを特徴とする前記配置。
【請求項2】
前記光がブルースター角度で衝突することを特徴とする請求項1項記載の配置。
【請求項3】
レーザ活性媒体を含みかつレーザ光を外で繋ぐ少なくとも1個の窓を有する光共振器空洞と前記活性媒体及びレーザ光によって照射される任意の他の光学素子中にレーザ移動領域を生成するエネルギーポンプから成る、誘導放出を用いてコヒーレントで明暗度の高い光を発生させる装置を含む配置であって、かつレーザ光によって照射される前記共振器及びまたは他の素子の出口窓が、レーザ光が衝突する面が{111}または{100}面によって形成されかつレーザ光が<100>または<111>結晶軸に対して可能な限り平行に結晶内を伝搬されるように配置される結晶材料から成ることを特徴とする直線偏光を生ずるための請求項1項記載の配置。
【請求項4】
前記光あるいはレーザ光が固体レーザあるいはガスレーザであることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項記載の配置。」

(2)「【請求項12】
前記結晶材料がCaF_(2)、SrF_(2)、BaF_(2)、Y_(2)O_(3)、Y_(3)Al_(5)O_(12)(YAG)、Lu_(3)Al_(5)O_(12)(LuAG)、MgAl_(2)O_(4)(スピネル)及び/またはZrO_(2):Y_(2)O_(3)(Y=立方晶位相中で安定化されたZrO_(2))またはNaClであることを特徴とする請求項1?11のいずれか1項記載の配置。」

(3)「【0001】
本発明は、光媒体、特に結晶中を光が透過する際に起こる直線偏光の解消を防止し、あるいは減ずるための配置及び方法に関する。本発明はさらに、このような配置の利用にも関する。」

(4)「【0021】
以下に記載する実施例及び添付図面を用いて本発明について詳細に説明する。
【0022】
長さ100mmのCaF_(2)結晶サンプルを5つ作製し、さらに[111]面方位をもち厚さが7mmである市販のCaF_(2)レーザ窓を用いた。表1に個々のサンプルについて示す。」

(5)「【0031】
本発明者は、ビーム方向に対する温度勾配の方位が偏光解消にどのような影響を与えるか、また特に温度勾配がビーム方向に対して平行な部分と垂直な部分から成る入射角度(例えば45?75℃、特にブルースター角度)についても検討を行ってきた。この目的のため、図8a及び8bに示した配置が用いられた。図8に示すように、レーザビームは{111}前面へ56.3°のブルースター角度で向けられる。ここでβ_(1)によって支持体中の窓方位あるいは結晶方位が与えられる。次いで異なる温度勾配が結晶照射方向に沿って異なるβ_(1)角度で与えられる。その結果を図9a?dに示す。
【0032】
この配置により、ペルティエ素子を用いて、結晶厚(d=7mm)全体に対して2つの異なる温度勾配、すなわち20℃/7mm及び45℃/7mmが与えられる。図9から分かるように、偏光解消はβ_(1)角度の変化に伴って著しく変化する。270°のβ_(1)角度(結晶中の<100>軸に沿った照射にほぼ相当する角度)での温度勾配の設定では、無視できる程度の小さな偏光解消か、あるいは実験誤差範囲内の偏向解消しかないことが理解される。
【0033】
図8に示した支持体中の窓をβ_(1)だけ旋回させて結晶方位をビーム方向へ変えた。その結果を図10に示す。この図では、<111>方位のレーザ窓を通して垂線に対してブルースター角度で伝搬されるレーザ放射の偏光解消は、温度勾配が(<111>結晶軸に沿った)前面に対して垂直に与えられる時の角度β_(1)の関数として示されている。図11は、ブルースター角度での照射におけるレーザ窓中のレーザビーム方向の計算上の投影とβ_(1)角度の変化を示した図である。30°、150°、及び270°において、<100>結晶軸にほぼ沿って照射が起こっている。これは、図10における偏光解消の最小値に対応するものである。」

3 先願発明
(1)先願明細書の【0001】によれば、同明細書には、結晶中を光が透過する際に起こる直線偏光の解消を防止するための配置に関する発明が記載されており、【請求項1】及び【請求項2】によれば、「{111}結晶面及び<111>結晶軸をもつ結晶中への光の透過中における直線偏光の解消を防止するための配置であって、前記結晶の表面は前記直線偏光がブルースター角度で衝突する前記{111}面によって形成され、前記結晶が、該結晶中へ入った後の光が前記<100>結晶軸に対して可能な限り平行に伝搬されるように配置される配置。」が記載されているものと認められる。

(2)そして、先願明細書の【請求項3】及び【請求項4】の記載によれば、上記(1)の配置は、「レーザ活性媒体を含みかつレーザ光を外で繋ぐ少なくとも1個の窓を有する光共振器空洞と前記活性媒体及びレーザ光によって照射される任意の他の光学素子中にレーザ移動領域を生成するエネルギーポンプから成る、誘導放出を用いてコヒーレントで明暗度の高い光を発生させるガスレーザ装置を含む配置」であって、該ガスレーザ装置の光共振器空洞が有する窓の配置であるものと理解できる。すなわち、先願明細書には、かかる窓を有するガスレーザ装置が記載されているものと認められる。

(3)また、先願明細書の【請求項12】、【0022】によれば、上記(2)の窓は、例えば、[111]面方位をもつCaF_(2) 結晶によるレーザ窓であるものと認められる。

(4)しかるところ、先願明細書の【0031】には、「図8に示すように、レーザビームは{111}前面へ56.3°のブルースター角度で向けられる。ここでβ_(1)によって支持体中の窓方位あるいは結晶方位が与えられる。」と記載され、また、【0033】には、「図8に示した支持体中の窓をβ_(1)だけ旋回させて結晶方位をビーム方向へ変えた。その結果を図10に示す。この図では、<111>方位のレーザ窓を通して垂線に対してブルースター角度で伝搬されるレーザ放射の偏光解消は、温度勾配が(<111>結晶軸に沿った)前面に対して垂直に与えられる時の角度β_(1)の関数として示されている。図11は、ブルースター角度での照射におけるレーザ窓中のレーザビーム方向の計算上の投影とβ_(1)角度の変化を示した図である。30°、150°、及び270°において、<100>結晶軸にほぼ沿って照射が起こっている。これは、図10における偏光解消の最小値に対応するものである。」と記載されている。
上記【0031】及び【0033】の記載によれば、上記(1)の配置における「結晶中へ入った後の光が前記<100>結晶軸に対して可能な限り平行に伝搬される」とは、結晶中へ入った後の光の光線方向を{111}面へ投影したものと<100>結晶軸を{111}面へ投影したものがほぼ沿っているということ、すなわち、結晶中の光線方向と<100>結晶軸と<111>結晶軸がほぼ同一平面にあるとの意味であると認められる。

(5)以上によれば、先願明細書には、
「レーザ活性媒体を含みかつレーザ光を外で繋ぐ少なくとも1個の窓であって、結晶中を光が透過する際に起こる直線偏光の解消を防止するための配置を備える窓を有する光共振器空洞と前記活性媒体及びレーザ光によって照射される任意の他の光学素子中にレーザ移動領域を生成するエネルギーポンプから成る、誘導放出を用いてコヒーレントで明暗度の高い光を発生させるガスレーザ装置において、前記窓は、[111]面方位をもつCaF_(2) 結晶によるものであり、前記結晶の表面は前記直線偏光がブルースター角度で衝突する前記{111}面によって形成され、前記結晶中の光線方向と<100>結晶軸と<111>結晶軸がほぼ同一平面にあるガスレーザ装置。」(以下「先願発明」という。)
が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と先願発明とを対比する。

(1)先願発明は、「レーザ活性媒体を含みかつレーザ光を外で繋ぐ少なくとも1個の窓」を有する「光共振器空洞と前記活性媒体及びレーザ光によって照射される任意の他の光学素子中にレーザ移動領域を生成するエネルギーポンプから成る、誘導放出を用いてコヒーレントで明暗度の高い光を発生させるガスレーザ装置」であるから、「レーザチャンバと、光共振器と、レーザチャンバ内部に封入されたレーザガスと、前記レーザガスを励起する励起部と、前記レーザチャンバに設けられた、ウィンドウと備えるガスレーザ装置」であるといえ、この点において、本願発明と一致する。

(2)先願発明の窓は、「[111]面方位をもつCaF_(2) 結晶によるものであり、前記結晶の表面は前記直線偏光がブルースター角度で衝突する前記{111}面によって形成」されるものであるから、先願発明は、本願発明の「入射平面がフッ化カルシウム結晶の(111)結晶面に平行であり」との構成を備える。

(3)ア 本願明細書には、以下の記載がある。
「【0023】
図3は、本実施形態によるCaF_(2) (フッ化カルシウム)を用いたウィンドウ1の断面を示す。
【0024】
ウィンドウ1は、光学素子への入射角度が0よりも大きい角度で入射され、CaF_(2) の結晶内で屈折する光軸が[111]軸と[110]軸を含む面内で、且つ、[111]軸と[001]軸とのなす角の間を透過するようにCaF_(2) 結晶を配置したものである。
【0025】
CaF_(2) 結晶からなるウィンドウ1は、(111)面に対して、平行な面で表面2及び2‘で研磨されている。そして、例えばブリュースタ角度56.34°の入射角度αでCaF_(2) 結晶基板に対してP偏光でレーザビームが入射すると、表面2において、光がスネルの法則にしたがって、33.65°の屈折角度βで屈折する。この時、CaF_(2) 内部の屈折光軸がCaF_(2) 結晶の[111]軸と[110]軸を含む面内で、且つ、[111]軸と[001]軸のなす角度の間(0°<β<54.74°)を透過するように、CaF_(2) 結晶を配置する。そして、CaF_(2) 結晶内を透過して、面2’で再び、面2と同様にスネルの法則にしたがって、レーザ光は屈折して、再びガス中に光が伝播する。」
ここで、図3は次のものである。


イ 上記アのとおり、(111)面に対して、平行な面である表面2にブリュースタ角度56.34°の入射角度αでCaF_(2) 結晶基板に対してP偏光でレーザビームが入射すると、表面2において、光がスネルの法則にしたがって、33.65°の屈折角度βで屈折する(先願の図8にも同様の状況が示されている。)。そして、本願の図1に照らして、面心立方格子で構成されるCaF_(2) 結晶の[111]軸と[100]軸のなす角度は、[111]軸と[001]軸のなす角度と等しく54.74°である。
ここで、図1は次のものである。


ウ しかるところ、先願発明は、「前記結晶の表面は前記直線偏光がブルースター角度で衝突する前記{111}面によって形成され、前記結晶中の光線方向と<100>結晶軸と<111>結晶軸がほぼ同一平面にある」ものであるから、上記イのとおり、表面において、光がスネルの法則にしたがって、33.65°の屈折角度βで屈折し、[111]軸と[100]軸の間(0°<β<54.74°)を透過することになるものと認められる。

エ 上記ウによれば、先願発明は、本願発明の
「入射平面がフッ化カルシウム結晶の(111)結晶面に平行であり、
励起された前記レーザガスから発生するレーザ光の入射平面への入射角度は、24.9°から68.73°の角度範囲内であり、
前記入射平面から入射した前記レーザ光が
[111]軸と[001]軸を含む面内で、[111]軸と[001]軸との間、
[111]軸と[010]軸を含む面内で、[111]軸と[010]軸との間、
又は、[111]軸と[100]軸を含む面内で、[111]軸と[100]軸との間、
を通過し、」
との構成を備えるものと認められる。

(4)以上によれば、両者は、
「レーザチャンバと、
レーザチャンバの一方の側とその反対側に設置された光共振器と、
レーザチャンバ内部に封入されたレーザガスと、
前記レーザガスを励起する励起部と、
前記レーザチャンバに設けられ、
入射平面がフッ化カルシウム結晶の(111)結晶面に平行であり、
励起された前記レーザガスから発生するレーザ光の入射平面への入射角度は、24.9°から68.73°の角度範囲内であり、
前記入射平面から入射した前記レーザ光が
[111]軸と[001]軸を含む面内で、[111]軸と[001]軸との間、
[111]軸と[010]軸を含む面内で、[111]軸と[010]軸との間、
又は、[111]軸と[100]軸を含む面内で、[111]軸と[100]軸との間、
を通過し、射出平面から射出されるウィンドウと、
を備えるガスレーザ装置。」
である点で一致し、
「ウィンドウ」が、本願発明では「2つ」と特定されるのに対して、先願発明は、「少なくとも1個」である点で一応相違するものと認められる。

5 判断
ガスレーザ装置において、二つのウインドウが設けられたレーザチャンバを備えるものは、特開2003-347627号公報の図1や特開2006-73921号公報の図8にみられるとおり、先願の優先日において周知のものであるから、少なくとも1個の窓を有するガスレーザ装置である先願発明を開示する先願明細書の記載に接した当業者は、二つのウインドウが配置されるものについても、把握できるというべきである。
したがって、上記4(4)の相違点は、実質的な相違とは認められず、本願発明は、先願発明と実質的に同一である。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者が上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-21 
結審通知日 2014-05-27 
審決日 2014-06-09 
出願番号 特願2011-191544(P2011-191544)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉山 輝和  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 服部 秀男
鈴木 肇
発明の名称 ガスレーザ用光学素子及びそれを用いたガスレーザ装置  
代理人 特許業務法人 エビス国際特許事務所  

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