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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12Q
管理番号 1290138
審判番号 不服2012-21334  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-29 
確定日 2014-07-23 
事件の表示 特願2007-541344「容器内のサンプル量を決定するためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月18日国際公開、WO2006/053208、平成20年 6月12日国内公表、特表2008-519604〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年11月9日(パリ条約による優先権主張 平成16年11月10日 米国,平成17年11月8日 米国)を国際出願日とする出願であって,以降の主な経緯は次のとおりである。
平成20年11月10日 手続補正書
平成23年 6月14日付け 拒絶理由通知書
平成23年12月19日 意見書・手続補正書
平成24年 6月21日付け 拒絶査定
平成24年10月29日 審判請求書
平成24年12月27日 手続補正書(方式)

第2 本願発明
本願請求項1?23に係る発明は,平成20年11月10日付け手続補正及び平成23年12月19日付け手続補正により補正された特許請求の範囲からみて,その請求項1?23に記載の事項により特定される発明であると認める。
その内,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次の事項により特定される発明である。

「【請求項1】
体液のサンプル内の病原体を検出するための方法であって,
前記サンプルおよび増殖培地を含むサンプル容器内の前記サンプルの量を決定するステップと,
前記サンプルを培養するステップと,
前記病原体の増殖を示す,前記培養されたサンプルにおける1以上のパラメータをモニタするステップと,
を具えたことを特徴とする方法。」

第3 引用刊行物記載の事項
原査定の拒絶理由で引用され,本願優先権主張日前に頒布された刊行物である
刊行物1:特開2003-130827号公報(以下,「刊行物1」という。原査定の引用文献1。)
刊行物2:特開2002-323503号公報(以下,「刊行物2」という。原査定の引用文献3。)
には,次の事項が記載されている。
なお,下線は当審にて付記したものである。

1 刊行物1記載の事項
(刊1-1)「【請求項6】 少なくとも1つの容器内の媒体の濃度をモニタリングする方法であって,
第1のエネルギー信号を前記容器内の場所に向けて放出し,前記第1のエネルギー信号は,前記媒体が前記第1のエネルギー信号を吸収し,前記第1のエネルギー信号の吸収が前記媒体または隣接する媒体の一部の屈折率を変化させるような波長にほぼ等しい波長を有し,
前記媒体の前記一部の前記屈折率が前記第1のエネルギー信号によって変化するときに,第2のエネルギー信号を,前記媒体または隣接する媒体の前記一部に向けて放出し,また,
前記媒体または隣接する媒体の前記一部を通過する前記第2のエネルギー信号の一部を検出することを含み,必要に応じてさらに,
前記容器内の前記媒体の濃度に基づいて,前記容器のサンプルの量を決定するために,前記第2のエネルギー信号の前記検出された一部を分析することを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】 前記媒体は,気体,液体または固体を含み,前記第1のエネルギー信号は,前記気体が前記第1のエネルギー信号を吸収する前記波長で放出されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】 前記媒体は,O_(2),CO_(2),NH_(3),H_(2)S,CH_(4)またはSO_(2)のうちの1つを含み,前記第1のエネルギー信号は,前記O_(2),CO_(2),NH_(3),H_(2)S,CH_(4)またはSO_(2)のうちの1つが前記第1のエネルギー信号を吸収する前記波長で放出されることを特徴とする請求項6に記載の方法。」

(刊1-2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,サンプルの増殖の有無を検出するために,光熱分光学(photothermal spectroscopy)を用いて,サンプルバイアル内の気体濃度を光学的にモニターするためのシステムおよび方法に関する。より詳細には,本発明は,二酸化炭素などの気体を,サンプルバイアル内で励起して,サンプルバイアル内に気体レンズを生成するために使用されるダイオードレーザなどの励起源,および光が気体レンズによって屈折する程度を計測する検出器に気体レンズを通して光を放射し,サンプルバイアル内の微生物の増加を表わすサンプルバイアル内の気体濃度を判定する,別のダイオードレーザなどのインタロゲーション源(interrogation source)とを使用するシステムおよび方法に関する。」

(刊1-3)「【0002】
【従来の技術】多くの医療診断は,血液サンプルなどの体液サンプルが,患者から採取され,増殖培地で培養され,その後,患者の病気の原因であると考えられている病原体の存在が調べられることを必要とする。増殖培地は,細菌,ウィルス,マイコバクテリア,哺乳類の細胞または同様なものなどの病原体が,その存在が検出できるような十分な数に増殖可能な栄養を提供する。」

(刊1-4)「【0025】モニターアセンブリ116の動作は,以下に図3?9を参照して説明する。これまでに簡潔に説明したように,中央制御器104(図1を参照)またはモジュール102内の制御器(図示せず)は,センサアセンブリ120の延伸と同様にセンサヘッドハウジング118および垂直軸128の動きを制御できるため,一対のレーザ122と124および1つの検出器126は,図9に概念的に示すように,棚110の1つの開孔112内に装填された,関心のあるサンプルバイアル114の首部の両側に配置される。この例では,レーザ122は,二酸化炭素の吸収波長帯域である2004nm,または約2004nmの波長を有する光子を発するダイオードレーザ(励起レーザビーム)である。レーザ122は,例えば,中央制御器104またはモジュール102内の制御器の制御下で,図示のように,基準電圧源132および交流電圧源134によって励起される。
【0026】レーザ122から放出される光子が二酸化炭素分子に当たり,二酸化炭素分子によって吸収される時,熱エネルギーがバイアル114の周囲の雰囲気へ放出される。熱エネルギーは,二酸化炭素分子の付近の気体分子を加熱し,局所空気密度が減少する。この密度が減少すると,結果として,バイアル114内の大気の屈折率n_(D)が減少する。バイアル114の首部の大気の屈折率n_(D)のこの局所的な減少によって,光を屈折させることができる気体レンズ136が生成される。
【0027】レーザ122が励起されて,バイアル114の首部に気体レンズ136を形成する一方,第2のレーザ124が,例えば,中央制御器104またはモジュール102内の制御器の制御下で,電圧源138によって励起される。この実施例において,レーザ124は,650nm,または約650nmの波長で光子(インタロゲーションレーザビーム:an interrogation laserbeam)を放出するダイオードレーザである。光子は,図示のように,励起レーザ122から放出された励起レーザビームとバイアル114の首部に含まれる気体の交点に向けられる。レーザ124から放出されるインタロゲーションレーザビームは,上述した光熱作用によって形成された気体レンズ136に当たるため,インタロゲーションレーザビームは,気体レンズ136によって焦点がぼけるか,または,屈折する。気体混合物内の二酸化炭素濃度が増加すると,形成された気体レンズ136は,インタロゲーションレーザビームに対してより大きな屈折作用を及ぼすであろうことに留意されたい。すなわち,低い濃度の二酸化炭素は,より小さな屈折作用を有するレンズ136を形成する。したがって,インタロゲーションレーザビームは,より小さく屈折する。しかし,高い濃度の二酸化炭素は,より大きな屈折作用を有するレンズ136を形成する。したがって,インタロゲーションレーザビームは,より大きく屈折する。光学レンズまたは空間フィルタリングなどの,図示しないインタロゲーションビーム経路に対する改良は,気体レンズの屈折作用の大きさを増すために適用されてもよい。」

(刊1-5)「【0041】上述した技術は,サンプルバイアルの特定のタイプについての使用に限定されないことにさらに留意されたい。むしろ,サンプルバイアル114は,増殖培地を含むことができる種々のタイプの培養容器とすることができる。サンプルバイアル114はまた,種々のタイプの増殖培地を使用して,哺乳類の細胞,昆虫の細胞,バクテリア,ウィルス,マイコバクテリア,菌,およびその増殖およびライフサイクルの一部として気体を生成または消費する他の有機体の増殖の検出および観察を可能にする。サンプルバイアル114は,気体透過性膜,スラグ,部分標本,または気体信号の光学的インタロゲーション(optical interrogation)を可能にし,液体または固体への介入を排除するターゲット(target)を含む。」

(刊1-6)「【0047】図14?17にさらに示されるように,装置200は,回転式コンベヤ台214に取り付けられ,上述したのと同じ方法でサンプルバイアル114内のサンプルをモニターするのに使用される,固定したモニターアセンブリ220を含む。しかし,サンプルバイアル114に関してモニターアセンブリ220が動く代わりに,回転式コンベヤ212がレーザ122および124および検出器126の各セットを通過してサンプルバイヤル114を回転させるため,レーザ122および124が,サンプルバイアル114の各首部を通して上述したようにレーザ光を放出できる。レーザ122,124および検出器126は,例えば,図9で示し,また,上述したタイプの回路に結合される。したがって,回転式コンベヤ212が,各レーザ122および124および検出器126を通過してサンプルバイアル114を移動させるよう回転すると,上述した光熱分光学技術が実施され,サンプルバイアル内の酸素や二酸化炭素などの気体の濃度,あるいは液体または固体の濃度がモニターされ,したがって,モニターされた濃度に基づいてサンプルバイアル内の微生物の増殖が検出される。」

2 刊行物2記載の事項
(刊2-1)「【要約】
【課題】 試料容器内の液面感知を容易にするように,試料架内に試料容器を保持するアダプタを提供することにある。
【解決手段】 アダプタ10のテーパ付き本体部分36は,主本体部分30の直径より小さい直径を持つ口開口12を備える。口開口は,液体試料を保持する試料容器20を直接支持できるように寸法を定めてある。液面感知中には,超音波検出器100からの超音波を試料容器20の唇状部フランジ24からと前記試料容器20内の液面110からとのエコーとして超音波検出器に反射して戻す。アダプタのテーパ付き表面は,超音波検出器から遠ざかる向きに音響エコーをそらせる。すなわちアダプタは超音波検出器に不可視である。」

(刊2-2)「【0002】
【従来の技術】超音波液面感知は米国特許第3,268,167号及び同第5,399,497号の各明細書に記載してある形式の自動試料分析システムに使われることが多い。自動化した試料分析中に血清のような液体試料は種種の試験を実施する。試験用の原料物質として使う血清試料は,マイクロテナ(Microtainer^(TM))管のような一定直径の比較的小さい容器に入れるのが普通である。その理由は,比較的少量の希釈試料で所望の試験を行うことができるからである。血清についての各別の試験で選定した量の希釈試料を試料容器から吸引し所定量の試薬と配合してこの試料についての各別の試験に対応する化学反応を生じさせる。」

(刊2-3)「【0004】各試薬試験に使われる試料の量は,所定量の試料を所定量の試薬と配合する期待値に試験判断が基づくから,適正に制御しなければならない。試薬試験が選定した各量の試料及び試薬に基づくことを確実にする公知の一方法では,試料の吸引ごとにその前後に試料容器内の液面を測定し試薬容器内の試薬に対し対応する測定を行うようにする。
【0005】液面測定情報により,特定の試験に実際上所期の量の試料の使われたことが確認できる。すなわち試料容器内の試料液面の逐次の測定により,試料容器から各試験のために所要量の液体の取出されることを確認する。又各試験に対する試料液面測定により,試料容器中に留まる液体量の測定続行ができる。」

第4 刊行物1記載の発明
刊行物1記載の請求項6には,
「少なくとも1つの容器内の媒体の濃度をモニタリングする方法であって,
第1のエネルギー信号を前記容器内の場所に向けて放出し,前記第1のエネルギー信号は,前記媒体が前記第1のエネルギー信号を吸収し,前記第1のエネルギー信号の吸収が前記媒体または隣接する媒体の一部の屈折率を変化させるような波長にほぼ等しい波長を有し,
前記媒体の前記一部の前記屈折率が前記第1のエネルギー信号によって変化するときに,第2のエネルギー信号を,前記媒体または隣接する媒体の前記一部に向けて放出し,また,
前記媒体または隣接する媒体の前記一部を通過する前記第2のエネルギー信号の一部を検出することを含み,必要に応じてさらに,
前記容器内の前記媒体の濃度に基づいて,前記容器のサンプルの量を決定するために,前記第2のエネルギー信号の前記検出された一部を分析することを含むことを特徴とする方法。」(刊1-1)
と記載されている。

請求項6の「容器のサンプルの量」とは,
「サンプルの増殖の有無」(刊1-2)
「サンプルバイアル内の酸素や二酸化炭素などの気体の濃度,あるいは液体または固体の濃度がモニターされ,したがって,モニターされた濃度に基づいてサンプルバイアル内の微生物の増殖が検出される。」(刊1-6)
との記載からみて,増殖するサンプル,すなわち,「微生物」(刊1-6)の量を分析対象とするものである。

そして,請求項6の「容器のサンプルの量」の「容器」は,「サンプルバイアル114は,増殖培地を含むことができる種々のタイプの培養容器とすることができる。」(刊1-5)との記載からみて,微生物の増殖培地を入れられた培養用容器をいうものと解される。
さらに,前記「培養容器」には,「多くの医療診断は,血液サンプルなどの体液サンプルが,患者から採取され,増殖培地で培養され,その後,患者の病気の原因であると考えられている病原体の存在が調べられることを必要とする。」(刊1-3)との記載から,体液サンプルは増殖培地と共に培養容器に入れられていると解される。

以上のことを整理すると,次の発明(以下,「引用発明」という。)が刊行物1に記載されていると認められる。

「少なくとも1つの容器内の媒体の濃度をモニタリングする方法であって,
第1のエネルギー信号を前記容器内の場所に向けて放出し,前記第1のエネルギー信号は,前記媒体が前記第1のエネルギー信号を吸収し,前記第1のエネルギー信号の吸収が前記媒体または隣接する媒体の一部の屈折率を変化させるような波長にほぼ等しい波長を有し,
前記媒体の前記一部の前記屈折率が前記第1のエネルギー信号によって変化するときに,第2のエネルギー信号を,前記媒体または隣接する媒体の前記一部に向けて放出し,また,
前記媒体または隣接する媒体の前記一部を通過する前記第2のエネルギー信号の一部を検出することを含み,必要に応じてさらに,
前記容器内の前記媒体の濃度に基づいて,前記容器内のサンプルの量を決定するために,前記第2のエネルギー信号の前記検出された一部を分析することを含むことを特徴とする方法であって,
前記”容器”とは,体液サンプル及び微生物の増殖培地を入れられた培養容器であり,
前記”前記容器内のサンプル量”における”サンプル量”とは,微生物の量である。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 体液のサンプル内の病原体を検出するための方法について
引用発明の「”容器”」である「培養容器」に入れられている「体液サンプル」は,本願発明の「体液サンプル」に相当する。
引用発明の「サンプル量」に含まれる「微生物」は,刊行物1の「【従来の技術】多くの医療診断は,血液サンプルなどの体液サンプルが,患者から採取され,増殖培地で培養され,その後,患者の病気の原因であると考えられている病原体の存在が調べられることを必要とする。」(刊1-3)との記載に照らし,病原体を含むことは明白であり,本願発明の「病原体」に相当する。
そうすると,引用発明の「前記”前記容器内のサンプル量”における”サンプル量”とは,微生物の量」であり,「前記容器のサンプルの量を決定するために・・・・分析することを含むことを特徴とする方法」は,本願発明の「体液のサンプル内の病原体を検出するための方法」に相当する。

2 サンプル量を決定するステップについて
本願発明の「サンプル量」とは,本願明細書の
「【0022】 図4はシステムの一実施形態を示す模式図であり,ビン114内のサンプル高さを検出することによってサンプル量を決定するためのものである。具体的には,図4のシステムは,培養ビン114または他のサンプル容器内の液体高さを,超音波反射測定装置(すなわち超音波インパルスソナー)を用いて測定し,これによりユーザが導入または接種(inoculate)したサンプルの量を計算するものである。」
との記載に照らし,液体高さで測定できるような量,すなわち,体積のような量を意味するものと解される。

他方,引用発明は,培養容器に入れられた「体液サンプル」の体積を決定するステップは有していない。

そうすると,引用発明の「体液サンプル及び微生物の増殖培地を入れられた培養容器」と,本願発明の「前記サンプルおよび増殖培地を含むサンプル容器内の前記サンプルの量を決定するステップ」とは,前記「サンプルおよび増殖培地を含むサンプル容器を有する」点で共通する。

3 サンプルを培養するステップについて
引用発明の「体液サンプル及び微生物の増殖培地を入れられた培養容器」は,培養容器であるから,そこで培養するステップを含むことは自明なことであり,本願発明の「サンプルを培養するステップ」に相当する。

4 パラメータをモニタするステップについて
引用発明の「媒体」は,引用発明の下位発明を規定している請求項8によると「前記媒体は,O_(2),CO_(2),NH_(3),H_(2)S,CH_(4)またはSO_(2)のうちの1つを含み,前記第1のエネルギー信号は,前記O_(2),CO_(2),NH_(3),H_(2)S,CH_(4)またはSO_(2)のうちの1つが前記第1のエネルギー信号を吸収する前記波長で放出される」(刊1-1)ものである。
そして,引用発明の「第1のエネルギー信号」は,その実施の態様によれば「二酸化炭素の吸収波長帯域である2004nm」(刊1-4)の光であり,「二酸化炭素分子に当たり,二酸化炭素分子によって吸収される時,熱エネルギーがバイアル114の周囲の雰囲気へ放出される。熱エネルギーは,二酸化炭素分子の付近の気体分子を加熱し,局所空気密度が減少」(刊1-4)し,「光を屈折させることができる気体レンズ136が生成される」(刊1-4)ものである。

さらに,引用発明の「第2のエネルギー信号」は,「この実施例において,レーザ124は,650nm,または約650nmの波長で光子(インタロゲーションレーザビーム)」(刊1-4)であり,「気体レンズ136に当たるため,インタロゲーションレーザビームは,気体レンズ136によって焦点がぼけるか,または,屈折」(刊1-4)し,その程度を測定することで,「サンプルバイアル内の酸素や二酸化炭素などの気体の濃度,あるいは液体または固体の濃度がモニターされ,したがって,モニターされた濃度に基づいてサンプルバイアル内の微生物の増殖が検出される。」(刊1-6)こととなる。

そうすると,引用発明の「前記媒体または隣接する媒体の前記一部を通過する前記第2のエネルギー信号の一部を検出する」ことにより,微生物の増殖に関連する二酸化炭素などの気体濃度のデータ,すなわち,微生物の増殖を示すパラメーターが得られたものといえる。

よって,引用発明の「少なくとも1つの容器内の媒体の濃度をモニタリングする方法」において,「前記容器内の前記媒体の濃度に基づいて,前記容器のサンプルの量を決定するために,前記第2のエネルギー信号の前記検出された一部を分析すること」は,本願発明の「前記病原体の増殖を示す,前記培養されたサンプルにおける1以上のパラメータをモニタするステップ」に相当する。

5 小括
以上のことをまとめると,両発明の間には,次の(一致点)及び(相違点)がある。

(一致点)
「体液のサンプル内の病原体を検出するための方法であって,
前記サンプルおよび増殖培地を含むサンプル容器を有し,
前記サンプルを培養するステップと,
前記病原体の増殖を示す,前記培養されたサンプルにおける1以上のパラメータをモニタするステップと,
を具えたことを特徴とする方法。」

(相違点)
前記サンプルおよび増殖培地を含むサンプル容器について,本願発明が,該容器内の「前記サンプルの量を決定するステップ」を具備するのに対して,引用発明は係るステップを具備していない点。

第6 検討・判断
1 相違点について
本願発明の「サンプル容器」は,本願明細書の段落【0011】によると,
「他の実施形態では,本発明はサンプル内の病原体を検出する方法に関連し,該方法は,サンプルおよび増殖培地を含んだサンプル容器内の体液サンプルの量を決定するステップと,当該サンプル量をサンプル量規格と比較するステップと,前記サンプル量が前記サンプル量の規格(specification)から外れていた場合には,対応するメッセージを提供するステップと,前記サンプルに関連した何らかのユーザ入力に応答するステップと,続いて前記サンプルを培養するステップと,培養されたサンプル内の病原体の増殖を示す1以上のパラメータをモニタするステップと,を含んでいる。」
とされている。
サンプル容器内で病原菌が培養されるとともに,培養前の時点で,サンプル容器内のサンプル量が規格から外れる場合は,対応するメッセージが提供されることになる。

培養が行われるサンプル容器に規格量のサンプルが投入されていないと,正しい測定ができないから,ユーザーにメッセージを提供するものと解される。

他方,引用発明の「”容器”とは,体液サンプル及び微生物の増殖培地を入れられた培養容器」であり,培養容器に体液サンプルが適正量投入されていないと正しい分析が行えないことは自明な事項である。そして,引用発明の分析対象とする微生物には「病原体」(刊1-3)が含まれており,体液サンプルが適正量,引用発明の「”容器”」に投入されていない場合は,誤った分析結果となることがあり得,誤診につながることは明白である。特に,体液サンプルが微生物に汚染されていて,体液サンプルが全く引用発明の”容器”に送られていないような場合,微生物が存在しないとの分析結果となり,重大な誤診が生じることとなる。
したがって,体液サンプルが適正量投入されているかどうかを確かめることは,刊行物1に記載されていないものの,引用発明の技術分野の分析を行う者にとって当たり前のことであるといえる。

例えば,刊行物2においては,「試料の吸引ごとにその前後に試料容器内の液面を測定し試薬容器内の試薬に対し対応する測定を行うように」し,「試料容器内の試料液面の逐次の測定により,試料容器から各試験のために所要量の液体の取出されることを確認する。」(刊2-3)と記載され,試料が入れられた試料容器から適正量吸引され液面が減ることを確認することで,間接的に,分析装置に適正量の試料が送られたことを調べていることからも,サンプル量が適正量か否かを確かめることが技術常識となっていることがわかる。

そうすると,引用発明において,”容器”へ体液サンプルが送られたか否かを確認するため,”容器”の体液サンプル量を決定し,本願発明のごとく構成することは,誤診を防ぐために当業者が当然確認することを敢えて規定したものに過ぎないといえ,容易に発明できたものである。

仮に,刊行物1のみから体液サンプルが容器に適正に送られたか否かを確認することが自明なことではないとしても,下記刊行物A?Cに記載のようにサンプルが適正量送られたか否かをサンプル送り先の容器の液位等を検出することで直接確認することは,引用発明の属する分析分野で周知の事項であるから,引用発明において,本願発明のごとく構成することは特段の創作性を要することなくできたものといえる。

刊行物A:特開2002-323506号公報
(刊A-1)「【0019】
【発明の実施の形態】以下,発明の実施の形態を通じて本発明を説明する。
【0020】図1は,本発明の実施形態に係る分注装置10の全体構成を示すブロック図である。分注装置は10は,たとえば病院の検査室に設置され,検査前の検体前処理装置として機能する。例えば試験管や採血管などからなる親検体容器12には,たとえば採血で採取された血液などの親検体14が収容されている。ここで,親検体14は,たとえば血清である。親検体14(親検体容器12)は,例えばラック(図示せず)単位で搬送される。」

(刊A-2)「【0002】
【従来の技術】従来の分注装置においては,親検体から子検体を分注により作成する際に,所定の液量が分注されないなどの分注不良が発生した場合には,例えば,一連の分注処理の完了時点であるいは所定の時点で,プリンタによってその事実が紙面上に印字される。作業者は分注作業が終わった後にプリンタによる印字結果を読み取り,読み取った情報に基づいて,多数の子検体の中から分注不良子検体を探し出している。作業者(ユーザ)は,探し出した分注不良子検体について,例えば,実際に目視による判断をし,キーボード入力などにより,その判断結果(及びそれに基づく処置)についての入力を行っている。具体的には,例えば,許容できない分注不良の子検体については再分注の指示が入力され,一方,許容できる分注不良の子検体について適正分注とみなす所定の入力がなされる。」

(刊A-3)「【0025】本実施形態では,各分注ごとに分注不良(分注異常)を検出して分注良否を判定する分注判定部26が設けられている。この場合,分注不良は,配管系内の圧力検出結果,ノズル20のジャミングセンサの出力,などの1又は複数の情報から判断可能であるが,子検体容器16に吐出された子検体18の液面を測定する液面センサ,または,子検体18の液量を測定する液量センサなどの分注結果を直接的に測定するものであってもよい。分注判定部26から出力される個々の子検体18の分注良否の情報は分注管理部40に送信される。」

刊行物B:特開2003-4753号公報
(刊B-1)「【要約】
【課題】 分注処理における分注ミスの発生を迅速に検出し,後段の処理に影響を与えることを確実に防止することのできる分注良否判定装置を提供する。
【解決手段】 自動分注装置16は,第1容器12に収納された親検体である血清14を複数の第2容器18に小分けして子検体を作成する。作成された子検体は,分析装置20に投入される前に分注良否判定装置10により,血清14中のビリルビンの吸収波長での吸光度測定が実施され,その結果に基づき第2容器18に血清14が正しく分注されたか否かの判断を行い,正しく分注されたと判断された第2容器18のみが分析装置20に供給され,分析処理が実施される。」

(刊B-2)「【0032】まず,第1測定工程40では,上述した方法と同様に,親検体が収納された第1容器12に対して分注良否判定装置42の第1吸光度測定部(第1吸光度測定手段)42aを用いて,光源から光を照射し,その透過光に基づいて,吸光度を測定し,親検体に関するデータ1の取得を行い(S100),データ1を分注良否判定装置42の判定手段としてのCPU42bに提供する。この時のデータ1は,親検体の量に基づき補正された単位量あたりの吸光度である。続いて,分注工程44で,親検体は,所定の量に小分けされ第2容器18に分配され子検体が形成される(S101)。さらに,第2測定工程46では,図3(a)等で示したように各第2容器18に対して,分注良否判定装置42の第2吸光度測定部(第2吸光度測定手段)42cを用いて光を照射し吸光度を測定し,子検体に関するデータ2の取得を行い(S102),データ2を分注良否判定装置42のCPU42bに提供する。この時のデータ2も子検体の量に基づき補正された単位量あたりの吸光度である。」

刊行物C:特開平2-40562号公報
(刊C-1)「2.特許請求の範囲
(1)反応容器内に液体を分注し,その液体分注後に,分注された液面の位置を検出することを特徴とする液体分注方法。」(1頁左下欄3?6行))

(刊C-2)「(ハ)発明が解決しようとする問題点
しかし,このように,試料分注装置及び試薬分注装置等の液体分注装置に精度の高い移動装置を設けて,試料分注ノズル及び試薬分注ノズル等の液体分注ノズルの移動距離を正確に制御しても,洗浄液の排出不良又は脱水不良,或は,分注ポンプの動作不良又は分注ノズルの詰まり等の,分注ノズル液体試料分注器及び試薬分注器の吸引吐出流路系統における故障などにより,液体試料及び試薬の分注は不正確になり,延いては,分析値が不正確となり,貴重な検体又は高価な試薬を無駄にして問題であった。」(2頁左下欄7?18行)

(刊C-3)「(ニ)問題点を解決するための手段
本発明は,洗浄液の排出不良及び脱水不良,液体分注装置の流路系統の故障等による液体分注の不良を監視して,分析不良を未然に防止できる液体分注方法及び装置を提供することを目的としている。
即ち,本発明は,反応容器内に液体を分注し,その液体分注後に,分注された液面の位置を検出することを特徴とする液体分注方法にあり,また,本発明は,反応容器内の液面を検出後に,液体を分注し,その液体分注量に,分注された液面の位置を検出することを特徴とする液体分注方法にあり,さらにまた,本発明は,水平方向移動部及び上下方向移動部に連結している支持部材に,液体分注用のポンプに接続する液体分注ノズルが支持されている分析用液体分注装置において,液体分注ノズルが支持されている支持部材が,液体分注位置より下方に液面検出用の停止位置を有していることを特徴とする分析用液体分注装置にある。」(2頁右下欄12行?3頁左上欄10行)

(刊C-4)「本発明において,少なくとも一つの液面の検出は,液体分注後に行われる。この場合,液体分注位置を液面より高い位置で行うときは,液体分注ノズルは,液体分注位置よりも下方に移動して,目的の液面の検出を行う,また,これとは異なって,液体分注位置が液面より下方に位置するときは,液体分注ノズルは,液中において,液体の分注を行い,続いて上昇して液面の検出を行う。このような液面の検出は,液体分注ノズルの移動中に行うことができ,また,検体分注ノズルを検体分注量に見合った所定位置に停止させて行うこともできる。何れの方法においても,液面の検出により,液体分注された分注量が所定量にあるか否かを求めて,液体分注量の適否を検出することができる。」(3頁左上欄19行?同頁右上欄13行)

(刊C-5)「本例においては,第一試薬分注器に本発明を適用した例を説明したが,試料分注器及び第二試薬分注器等のその他の分注器に適用して,同様に分注量の監視を行うことができる。」(5頁左下欄6?9行)

2 効果について
本願発明の効果は,刊行物1及び上記周知の事項から予測し得る程度のものであって,格別顕著なものとはいえない。

第7 結語
以上のとおり,本願発明は,刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか,又は,刊行物1記載の発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-19 
結審通知日 2014-02-25 
審決日 2014-03-12 
出願番号 特願2007-541344(P2007-541344)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福間 信子引地 進  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 安藤 倫世
田村 明照
発明の名称 容器内のサンプル量を決定するためのシステムおよび方法  
復代理人 佐野 泰彦  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
復代理人 伊藤 勝久  

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